ハイスクールD×Dー機械仕掛けの少年と紫髪の歌姫ー   作:ホスパッチ

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第五十七話『アザゼルVSアイシェル①』

「おいおい、あの結界を力押しで破りやがった……マジで何なんだアイツは?」

 

 機械の龍と化したアルヴェムが飛び出した後、アザゼルは素直に疑問を口にしていた。

 すでに外では幾多もの爆発が巻き起こるも戦闘としては一方的な蹂躙だ。アルヴェムに誰も傷つけることはできず、その進行を阻むことすらできない。

 

 大袈裟な武装など見せずとも目を輝かせるだけで魔術師達が次々と消え去る。

 アザゼルですら何度見ても原理はわからないが、心の内に高揚感が芽生えるのは確かだった。

 だが、研究するよりも今は現状打破が先決。アザゼルはヴァーリへと目を向けると、

 

「ヴァーリ、外の連中の相手をしてやれ。アイツはすぐ旧校舎の方に行くだろ。これからのために恩は売っておけ」

「……了解」

 

 言って、ヴァーリは一度息を吐くと背に光の翼を展開する。

 そして「――禁手化」と唱えれば、眩い光と共にヴァーリの全身を白い鎧が纏われ、外に飛び出せば飛び交う軌跡と共に爆発が起こり、次々と魔術師を討っていく。

 

「木場裕斗くん、ゼノヴィアくん。我々はこの校舎及び学園全体を覆う結界を作り出し、外への被害を軽減するために籠城態勢に入る。その間にグレイフィアが魔術師を転送している転移魔法陣に対するカウンターを用意する。キミたちには白龍皇同様に外へ出て魔術師達の迎撃を頼みたい」

「はい!」

 

 深々と頭を下げた木場はゼノヴィアを連れ、アルヴェムが開けた壁の大穴から飛び出していく。

 グレイフィアも早速作業を始める中、サーゼクスの視線はエイミィーへと向けられた。

 

「エイミィーくん、キミは――」

「私はここに残り、あなた様たちの護衛をします。それが今、私にできることだと思いますので」

「……そうか、ありがとう」

 

 サーゼクスが礼を言い、そしてミカエル、アザゼルと共に結界を展開しようとした瞬間――パチパチと拍手する音が響く。

 職員会議室に残っていた面々の視線が音が鳴る方へ向けられると、そこに立っていたのは一条の杖を持った幼女だった。

 どこから入ってきたのか、そんな問いをする暇もなく幼女は話し始める。

 

「まずは三大勢力の和平成立おめでとう……と言っておこうかしら」

 

 暗色の強い銀の髪をボブほどに伸ばし、ウサギの耳を模したフードの付いた羽織。そして、黒を基調としたワンピース……何より身に纏った常軌を逸する魔力。

 エイミィーはすでにその幼女の正体を知っている――堂々とグレモリー家の管轄下である駒王学園に侵入して圧倒的な実力差を見せ、トップ陣全員を閉じ込める結界まで作り上げたアイシェルだ。

 その姿を見て、アザゼルは思わず笑みを浮かべる。

 

「俺ら全員を閉じ込めた結界……ありゃオーフィスの力を利用した結界か。あんな大層な魔法、カテレア達には創れるわけねぇと思っていたが、お前が一枚噛んでいやがったか――アイシェル・ルシファー」

「っ! そうか、この魔力……キミが前ルシファーの――」

 

 サーゼクスがそこまで言ったところで、アイシェルはスカートの裾を抓み、軽くお辞儀をして見せる。

 

「ごきげんよう、現魔王サーゼクス・ルシファー。私の自信作が効いたようで何より……って言いたいところだったけど、やっぱりアルヴェム・オーヅァに突破されてしまったわね。あなた達だけだと数百年以上は閉じ込めておける計算だったんだけど」

「その様子だとキミも『禍の団』に属しているんだな」

「ええ、そうよ。でも、革命なんてどうでもいいわ。何をしたって、この世界は私の嫌いなままだもの――だから、掻き乱して嗤ってあげるの」

 

 不敵な笑みを浮かべるアイシェル。対して、アザゼルは相手が相手なのか、珍しく鋭い目を向ける。

 

「今、姿を現したのはどういうつもりだ? その様子だとカテレアの援護をしにきたって魂胆じゃねえだろ」

「閉じ込めた後は観戦のつもりだったけど、これだけ強い人がいるんだから戦うのも楽しいんじゃないかと思ってね。アジーもそろそろ戦いたいってゴネだしたから」

『グックックッ、魔王二人に堕天使の総督、天使長までいやがるんだ。これでそそらねぇなんて、それこそ勿体ねぇ話だっての』

 

 アイシェルが手に持つ杖の先端、龍を模した三つの頭部に咥えられた宝玉が妖しく輝く。

 それを聞いて、アザゼルは苦笑する。

 

「『禁じられし魔源の龍宝杖(ドラゴニック・ディアボリア・ワンド)』……アジ・ダハーカか。まったく、兄妹揃ってバトルマニアなんざ世も末だな」

「我々の神ではない、異質の何かが創り出したとされる災厄の象徴――『魔神器(ディザスト・ギア)』。その一つを見る時が来るとは……」

 

 ――『魔神器』。

 その聞き慣れない言葉にエイミィーは怪訝げにするが、三大勢力のトップは皆共通の認識があるらしく納得の意を示していた。

 

 一方、サーゼクスは憂いを帯びた目をアイシェルに向け、

 

「……アイシェル、本当に戦うしか道はないのか? キミも魔王の血を引く者、無為に争ったところで意味はないはずだ」

「私は損得勘定で生きてないの。今が楽しければいいから――さあ、誰が相手をしてくれるの? 全員っていうのもアリよ?」

 

 これほどまでの面々を前にしての余裕、それに裏付けされた魔力量。

 手の内がまるでわからないアイシェルに対し、誰よりも一歩前に出たのは――アザゼルだった。

 

「お前ら、手を出すなよ。このガキンチョの相手は俺がしてやる」

「しかし――」

「――『悪光魔耀』、初代ルシファーが魔王のトップに君臨した最大の理由であり悪魔最強の能力。アイシェルは間違いなくそれに目覚めているだろうな。現にグレモリー眷属が喰らったそうじゃねえか」

「報告は受けている。元は神をも屠る悪逆の光だったはずだが――」

「さっきアルヴェムとエイミィーには教えてあげたけど、あなたたちには教えてあげないわ」

 

 悪戯っぽい笑みを浮かべるアイシェルに、今度はトップ陣から視線を受けるエイミィー。

 繋がっていると勘繰られることはないようだが、エイミィーにとってはどちらの味方をするつもりもない。死にそうになれば手を貸す程度であり、今はあくまで静観を貫く。

 それを感じて、アザゼルは一度ため息を吐くと視線をアイシェルへと戻した。

 

「大方、エイミィー・アスモデウスの『星与刻』みたいに変質しているんだろ。だから、悪魔と天使は黙って見てな。こういう研究者肌の相手には、同じ研究者をぶつけんのが一番なんだよ」

「あら、賢明な判断ね。でも、一つ忘れてるんじゃないかしら? 私の武器は『悪光魔耀』だけじゃないわ。大体、あれは使わないつもりよ。すぐに終わってしまうし」

 

 パチン、と鳴らせば周囲の光景がいきなり変貌する。

 今までの職員会議室だった室内は、ぐにゃりと曲がっていき、一瞬の暗転を迎えると室内から風景は開けた外のものとなっていた。

 どこまでも広大な、近代的な街の光景――

 

「これは私が作った戦闘空間よ。あのまま外に出たらお兄ちゃんに会うことになるし、余計な横槍も入れられると迷惑だから」

「何だ、ヴァーリには会いたくねえってか? 意外と恥ずかしがり屋なんだな。お前の情報を聞いた時、アイツは会いたそうにしていたぜ?」

「嫌でもどうせ会うわよ。だって、お兄ちゃんも『禍の団』に入ったんだから」

「チッ、やけにここの情報が漏れてるとは思ったが……まさか身内がそんなことになってたとはな。アイツが入った目的はなんだ?」

「さあ、本人に聞いたら? 私もまともに喋ったこともないし、向こうも私に気付いてないし。話したいとも思わないわ」

 

 今まで自ら敵意を示すことがなかったアイシェルだが、ヴァーリに対しては明確な敵意を見せる。

 見ていたエイミィーも怪訝に思うも、それ以上の言及は許さないアイシェルは手を軽く振って、

 

「お兄ちゃんの話はこれまで。始めましょ」

「ああ、そうだな。ルシファーの末裔が相手なら不足はねぇ。派手なハルマゲドンと洒落込もうぜ!」

 

 十二もの翼を広げて高らかに叫ぶアザゼルに、アイシェルも自らの翼を広げることで応える。

 その翼は一般的な悪魔の翼ではなかった。堕天使とも違った漆黒の翼が十二枚現れ、大きく羽ばたくと周囲に烈風を散らして飛び立った――

 

 ―○●○―

 

 近代的な街の風景を目にしながら、アザゼルとアイシェル、両者の速度はさらに上がっていく。

 先手を打ったのはアザゼル。自らの手、そして周りに幾本もの光の槍を出現させると、それを一斉に放つ。

 アザゼルは堕天使の総督。その実力も確かなものであり、光の槍一本にしたところで、かつて駒王町を襲ったコカビエルなど比べることすらおこがましいほどの威力を誇っている。

 

 対するアイシェルは、いつの間にか翼を閉じて自らの手に持った杖に座り込んで足をぷらぷらさせながら前を突き進んでいる。光の槍がいくら迫ろうとも動じることもなく、手を翳すと防護魔法陣が幾重にも飛び出す。

 

 どの光の槍も防護魔法陣を貫通することは叶わず、霧散して光が辺りへと散っていく。

 そして返す刀で魔法陣が次々と出現。空に浮かんだ大量の魔法陣からは、地、水、火、風、四大属性の魔法が一斉に降り注ぐ。

 

 岩の塊、水の弾丸、火の放射、風の刃、嵐の如き連撃。

 空中でアザゼルは翼を羽ばたかせて身を翻し、躱し、または光の槍を振るって迎撃していく。

 それだけでは終わらない。魔法陣からいくらでも発射される魔法は空中で合わさると派生した属性、雷、氷、新たに現れた光と闇の属性が高速で動き続けるアザゼルを追尾する。

 

 光と闇、聖と邪が交わったことでより禍々しい変容を遂げた魔法弾は複雑に蛇行しながら迫る。対し、アザゼルは自らを中心に光の槍を幾重にも繰り出す。その長さは一本につき二メートルほどで、それを複雑に交差させて一種の盾を作り出す。

 

 しかし、完全には威力を殺すことができない。

 交差させた光の槍の隙間から溢れた光と闇の粒子がアザゼルの身を擦り、血飛沫が舞う。

 

 ――流石に強いな。

 並大抵の相手ならば、アザゼルに擦り傷すら負わせることは出来ない。さらに光の槍の出力、濃度も堕天使の中では比類なきもの。まだ全力ではないにせよ、軽く防がれるあたり総督の自信も少し欠けるだろう。

 

 そして、止まる気配がまるでない圧倒的な魔法の雨にアザゼルは率直な感想を抱いた。

 それもそうだ。アイシェルが持つ力は『悪光魔耀』だけではない。あの漆黒の翼はルシファーの魔力に完全に目覚めた証拠であり、かつて神々すら恐れた『魔源の禁龍』アジ・ダハーカの膨大な魔法力を、あの齢にして全てを使いこなしているのだから強いのは当たり前のこと。

 

 空に浮かぶ魔法陣は未だ顕在。アザゼルは光の槍による防護壁を維持しながら、今度は周囲に光の槍を出現させ続けて放つ。

 

 アイシェル自身を狙ったものではない。彼女よりも先、空に浮かぶ魔法陣だ。数にして、百を少し超えたほど。全ての魔法は当然それぞれの魔法陣の中心から放たれているため、破壊できずとも光の槍で狙い続ける限り魔法弾は防げる。

 

 今まで雨の如く降り注いでいた魔法の数々は光の槍とぶつかり合うことで消滅、または威力を半減され、アザゼルの光の防護壁を突破することもなくなっていた。

 

 これで攻勢に出れる。アザゼルは一度光の防護壁を解除すると翼を大きく羽ばたかせて加速した。

 魔法を得意とする者は中、遠距離戦を得意とすることが多い。今も遠ざかろうとするアイシェルもそうなのだろう。だからこそ、肉薄して近距離戦に持ち込む。そうすることで魔法を封じようとアザゼルは考えていた。

 

「そんな必死に女性のお尻を追ってくるなんて変態さんね」

「バカ野郎、最近のヤツらは大人しすぎるだけだっての。男は肉食であれってな!!」

 

 アイシェルの背後を光の槍で塞ぎ、自らもまた手に携えた二メートルほどの光の槍を振るって強襲する。

 光の槍が迫った刹那、アザゼルは不意に下側からの突き抜ける衝撃を受けた。見ると、地上から地面が盛り上がり、アイシェルやアザゼルの足場となっていたのだ。

 

 体勢を崩して転がるアザゼルに、アイシェルはゆっくりと着地して笑みを浮かべ、

 

「お忘れかしら? この空間は私が作ったの。地形を変えるなんて容易いことよ」

「ハッ、そうだよな!」

 

 幸い距離はまだ離されていない。

 再び光の槍を構えたアザゼルが飛び出し、連続する攻撃に対してアイシェルは杖でいなす。それも最小限の動きで、少しでも油断をすればカウンターを受けるほど洗練されたものだ。

 

 それに幼女とは思えない動きの速さ。アイシェルは身体強化魔法にも長けているのか、考えるよりも早く彼女の身体は動いているように見えた。

 

『おっと、俺のことを忘れてもらっちゃ困るぜ?』

『ある程度、自立して攻撃できるってね!』

石化の眼光(ゴルゴーン・アイズ)っ!!』

 

 光の槍と杖が鍔迫り合いになった瞬間、杖の彫刻である三頭の龍が妖しく眼を輝かせる。

 放たれたのは細く赤い光線。寸でのところで躱すも、光線が過ぎ去った地面は灰色に染まって脆くも崩れ去っていく。

 

形態変更(モードチェンジ)――『巨影龍兵(ドラグ・タンク・ゲイン)』」

 

 さらに杖が分解したかと思えば、その形状を大きく変化させる。

 まるでアイシェルの身体よりも少し上の位置に巨大な三頭の龍を模した鎧が出現し、アイシェルの身体とは別に動き出して前に飛び出す。両腕が分厚く、殴るのに特化したもので握り締められた拳が正面からアザゼルを襲った。

 

「ッ!」

 

 光の槍を盾にして拳自体は防ぐも、アザゼルの身体は後方へと吹き飛ばされ、その口端から血が零れた。

 衝撃の瞬間、拳に込められた魔力が身体を突き抜けたのだ。外傷はないが、内部……内臓がダメージを受けた。防御無視の一撃、これを連発で受けるとアザゼルもただでは済まない。

 

「せっかく来てくれたのに遠ざけてしまったわね」

『もっと遊んでいけや!!』

 

 あの巨大な鎧はどうやらアジ・ダハーカの意思で動いているようで、アイシェルとは独立して動いていた。

 杖がないからとアイシェルが魔法を使えないなどという都合の良いことは起きない。むしろ、独立して動くアジ・ダハーカの鎧に加えて、その六つの眼から今もなお放たれる『石化の眼光』。そして、空では光の槍をすり抜けた魔法達が再び降り注いでくる。

 

 それらの対処に追われ、一瞬だったがアイシェルから目を離してしまった。

 一瞬、しかしアイシェルが行動を起こすにはあまりにも十分な時間だ。体勢を低くし、掻い潜るようにして肉薄していたアイシェルは両手の手のひらをアザゼルの前で構えた。

 

「ここから奈落に還るのも悪くないんじゃない?」

 

 途端に発生するのは重力場。アザゼルを球体状に囲み、四方八方からアザゼルの身を圧し潰そうと重力が苛んでくる。

 アザゼルをもってしても指一本すら動かせない状況に陥り、重力球はゆっくりと地面に向かって沈んでいった――

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