ハイスクールD×Dー機械仕掛けの少年と紫髪の歌姫ー 作:ホスパッチ
重力場に圧し潰されそうな中でもアザゼルは冷静さを失わない。
光を槍としてではなく、全身を包む形で展開し、四方八方から迫る重力を遮断する。
そうとは知らず重力球にアザゼルを閉じ込めたことによって、アイシェルの魔法やアジ・ダハーカの鎧による追撃はなくなり、思考をまとめる時間ができた。
わかったことと言えば『禁じられし魔源の龍宝杖』は『神滅具』級の代物だ。
『魔神器』は『神の子を見張る者』でも存在は知られていた。だが、実物は誰も見たことがなかった故に天使や堕天使の中では空想上の産物だと揶揄されたこともある。
神とは異なる者が創り出した災厄を生み出すためだけに存在し、所在のほとんどが不明。かつて神に仕えていた頃に六つ存在すると聞かされていたが、全能と称された神自身でさえ全てを把握出来ていなかった。そんな物を末端の連中が信じるとはアザゼルも思っていない。
神の気持ちが今になって良く理解出来る。
通常、何かの魂や意志を宿す神器は『神滅具』であっても、その生前の能力に似たような性質となるのが定石だ。
しかし、アイシェルの持つ『禁じられし魔源の龍宝杖』は相対した今でもさっぱり能力が分からない。
千の魔法を操る邪龍……アジ・ダハーカの力を考えれば宿主に千の魔法を与えるなど、そのあたりの可能性は高いだろう。現にアイシェルが扱う魔法は悪魔が扱う魔法とは術式が異なったものが多い。アジ・ダハーカが元より持っていた魔法だ。ヴァーリを保護した後、ドラゴンに関する伝承、文献は片っ端から読んだため記憶にも残っている。
しかし、それだけでは説明できないのが先ほども見た形態変化だ。禁手せずとも形状が変わる神器はあるが、出力だけで言えば神器の禁手と変わらない上に自律して攻撃してくる。
研究で幾度となくヴァーリの禁手を見ていたが、『白龍皇の鎧』に比べても遜色がない。むしろ匹敵するほどだ。一個人で鍛え上げたにしては、あまりにも上等過ぎる。
「マジで誰だよ、あんな代物創りやがったヤツはよ……」
研究材料としては最高に面白いが、世界にとってはこの上なく傍迷惑なものだ。
間違いなく、この世界にバグを齎した神以上に性質の悪い存在だろう。神が創り出した神器も、もしかしたら『魔神器』に対抗するための術だったかもしれないと思うほどだ。
それに、今までの攻防ではっきりとわかった。
今のアイシェルは並大抵の上級悪魔ではまるで相手にならない。
同じルシファーの血筋であるヴァーリもまた圧倒的な魔力と才能を持ち合わせていた。白龍皇として『禁手』に至るのも早く、今では歴代最強の白龍皇と言ってもいいだろう。
だが、今だけで考えればアイシェルは現状のヴァーリすらも上回る。
ヴァーリには裏技のような力があるものの、禁手もなく手を抜いた状態でこの戦闘能力、継戦能力を含めて考えると現段階ではアイシェルに軍配が上がるだろう。
『虐殺魔女』、その名は悪魔側だけではなく堕天使側にも知られている。
生まれは人間界でも北欧の辺境にある街、その街の中でも一番裕福だった名家に生まれた。
数年前、アイシェルの手によって街は更地に、人口全てが消えたと現場に向かった副総督であるシェムハザから報告は受けている。
その中で唯一遺体が見つかったのは街から離れた山小屋で暮らしていたアイシェルの母親だった。ありとあらゆる箇所に殴打を受け原型すら留めていなかったのだ。
怨恨、それだけを残して消えた。その後はこちらの目を掻い潜るように行動し、姿を消したかと思えば時折冥界、人間界問わずに被害を出し続けていた。
魔法を作っては提供し、その魔法による被害も後を絶えない。コカビエルも取引していたようで、黒い噂は探せば絶えないだろう。
神器持ちの中でも別次元の危険性を持つアイシェルは堕天使側でも足取りを追っていたが、まるで見つからなかったのが現実だ。
今まで表舞台に現れなかっただけで、逃げていたわけではない。はっきり言って地力は向こうが上だ。
正面から戦ったところで勝機は薄い。しかし、恰好をつけて飛び出して何もできずに敗北では、せっかく結んだ三大勢力の和平で堕天使が不利となってしまう。元々数が少ない勢力なのだ。その長が嘗められるようなことはあってはならない。
幸い、アザゼルには切り札がある。
『魔神器』相手にどこまでできるかは不明だが、現状自分の技術を余さずに詰め込んだ傑作を披露するには十分すぎる相手だ。
「もしかして本当に死んじゃったかしら?」
『死んでたら残念だぜ。まっ、幸いこの結界内には魔王や天使長……そんで、エイミィー・アスモデウスがいる。戦う相手には困らねえぜ?』
「ま、それもそうね」
「――おいおい、そいつぁ俺を嘗めすぎなんじゃねえか?」
重力球の表面に幾線もの軌跡を描き、光が飛び出したかと思えば霧散する。
そこから出てきたアザゼルは手に黄金の短剣を携えており、それを見てアイシェルは少し驚いた様子を見せ、
「それ、ただの武器じゃないわね」
『間違いねぇ、ありゃドラゴンの気配だぜ』
「察しが良いじゃねえか。これは――」
「人工神器……コカビエルから貰った研究資料にあったわ。ほとんどが失敗作って聞いてたけど、一応の完成はしていたのね」
「せっかくの研究発表だってのに先にネタバレすんじゃねえっての……コカビエルの野郎、他の幹部と揉めたって聞いてたがそん時にパクってやがったか。まあいい。真理に近い部分は俺とシェムハザしか知らないからな。お前が貰ったのはゴミみたいなもんだ」
出鼻は挫かれたものの、アザゼルは短剣の切っ先をアイシェルに向け、
「『
短剣の各所から光が零れ、分解し、一瞬の閃光がアザゼルを包み込む。
次に現れた時にはアザゼルの全身は黄金の鎧に包まれていた。ドラゴンを思わせる形状の鎧、それを見て、アジ・ダハーカの鎧はケタケタと笑い出す。
『「
「ご名答。『
「でも、長くは持たないんでしょ? 見ただけで分かるわよ」
「ハッ! 戦うには十分過ぎる時間だっての!!」
「ふふっ、それは楽しみ」
アジ・ダハーカの鎧を再び杖に戻したアイシェルは、杖に尻を預けてその場から飛び立つ。
また遠距離からの魔法攻撃の雨を仕掛けるつもりだ。だが、今のアザゼルは全ての性能が上がっている。それに今までのは様子見であり、現状仕掛けてくる魔法はすでに頭に入っていた。
だったら、対策も行える。
懐から取り出したのは金属の光沢を持つ数枚の紙に似たもの。それぞれ細かくマス目に分かれたパネルが取り付けられており、空へ投げるとパネルが分散。光を反射しながら各方面へと散っていく。
すると、今までアザゼルに照準を合わせ、追尾していた魔法が次々と軌道を逸らしていく。
その先にあるのは先ほど投げたパネルであり、それを見てアイシェルはすぐに納得する素振りを見せる。
「対魔法用の
『面白ぇ戦いにしてぇならサボんなってわけだ。ほら、
「はいはい、仕方ないわね」
ぱちん、と指を鳴らすと今までパネルに引き寄せられていた魔法がいきなり軌道を変える。
言った通り、手動で軌道調整を行っているのだろう。あまりに早い対応、そして数百単位で容易く精密な操作を行う才能にアザゼルは笑うしかない。
だが、鎧を纏ったアザゼルは先ほどとは違う。
右手に携えた光の槍を振るえば、今度は魔法を突き抜けて空を割った。それに伴い、上空に展開されていた魔法陣を引き裂き、飛ぶ魔法弾はその数を減らす。
「あら、やるわね。それじゃあ、これも追加しようかしら?」
手を幾度か合わせて鳴らすと今度は地面がうねり出す。まるで粘土のような柔らかさで先端を捻り、鋭利となってアザゼルへと襲いかかる。
「効くかよ!」
迫る地面の連続攻撃を光の槍で薙ぎ払いながら、回転させて槍を地面へと突き刺す。突き刺した箇所から光の槍をさらに出現させ、地面を内側から裂き続ける。
「これで好き勝手できねえだろ?」
「修復するよりも早くダメージを与え続ける……再生力に優れた相手への常套手段ね。三十点、赤点よ」
手を合わせると、途端に変貌する地面。
正確に言えば、地属性の魔力で作られていたものがその性質を闇属性に変えてアザゼルの光の槍を飲み込んだのだ。
「悪魔にとって光は天敵だから対策してるのは当然でしょ? 闇に関してはティクレンの方が得意というか質が違うけど、私でもこれぐらいは簡単よ」
これぐらい、そう言うが総督であるアザゼルの光を飲み込み無力化している時点で常人の範疇などとうに超えている。
そして、何より――
「ティクレン・ベルゼブブ……その口振りだとアイツも『禍の団』入りしてるってわけか」
「ええ、私が誘ったもの。どういう子かぐらいは、あなたもご存じなんじゃない?」
「四大魔王の血を引く者、その中でも
「物知りね。悪魔側は赤ちゃんの頃に見失ったって聞いてたけど」
「ただでさえ堕天使は数が少ねえんだ。脅威になる奴らを調べ上げて情報戦で優位に立とうとするのは当然だろ。悪魔のカテゴリに当てはまらない悪魔――『超越者』は特に調べているさ」
突然変異体、神によってデザインされた天使達には到底想像もできないことが悪魔では起きていた。
アザゼルはいち早くその危険性を察知し、どの個体も足取りを追って調べている。おかげで情報戦では堕天使が断然有利を取っており、今回の『禍の団』についてもどこよりも早く対応を行っていた。結果的に言えばヴァーリの裏切りによって誤差は出ているものの、それもまた想定の範囲内だ。
「観測されている『超越者』は六人。四大魔王のサーゼクス・ルシファー、アジュカ・ベルゼブブ、そしてお前とエイミィー・アスモデウス、ティクレン・ベルゼブブ……それにお前の祖父にあたるリゼヴィム・リヴァン・ルシファーだ」
「その中で言うと、おじい様が一番下ね。あの人、今屍みたいになってるから」
「……会いに行ったのか」
「ええ、あの人の能力を見てみたかったから。でも会ってみたら残念。今は何もやる気がないみたい」
どこか楽しそうに話すアイシェルだが、アザゼルとしてはその心境は微妙なものだ。
リゼヴィムの人格は知っている。そして、孫であるヴァーリの幼少期に何をしてきたのかも。
それを知ってか知らずか、アイシェルは構わず言葉を続ける。
「あの能力は良いけど、それを加味したところで実力で言ったら結局一番下ね。私が今の状態だと四番ってところかしら。一番はもちろんティクレンね――だって、あの子は『無敵』だから」
「無敵……? どんな生物にも弱点はある。あの『無限の龍神』オーフィスだってそうなんだから、ありえねえよ」
かつて得た情報では、そんな情報はなかった。
魔王の力と神器に目覚めた状態で生を受け、制御できない力によってその場にいた両親共々殺害し、消えた。
その後、成長して姿を現した時にはすでに始祖であるベルゼブブを遥かに超え、名のある悪魔達や天使、堕天使を狩りを始めていたのだ。
それも何一つ証拠を残さなかったためにティクレンの仕業だと知っているのは堕天使、それも最高幹部レベルでしか知られていない。
強いのは知っている。だが『無敵』と称されるほどではなかったはずだ。
アザゼルの反応を楽しんでいるのか、アイシェルはクスクスと笑って、
「だったら、一度戦ってみたらいいわ。私の言ってることがわかるから――でも、今のあなただと私にも勝てないわよ。ほら、続き」
魔法陣を砕いたところでアイシェルが手を払うなり、上空に新たな魔法陣が出現していく。それも先ほどまでは百を少し超えたほどだった数は倍以上となり、まだまだ余力を残していることは間違いない。
再度離れたアイシェルを多種多様な攻撃を躱しながら追っていく。
光の槍だけでは対処されるなら、今度は魔法陣を展開して武器を取り出した。それはファーブニルが保有している宝であり、禁手状態のアザゼルはファーブニルと一心同体ということもあって彼の宝物庫に無理矢理介入して勝手に拝借する。
鎧の各所に輝く宝玉が抗議するかの如く輝くも、アイシェル相手に言っている暇はない。武器を携えたアザゼルはさらに加速していく――