ハイスクールD×Dー機械仕掛けの少年と紫髪の歌姫ー 作:ホスパッチ
「ふふ、そうこなくっちゃ――だったら、こういうのはどう?」
指をぱちんと鳴らせば、アイシェルから横並びに展開される魔法陣の数々。
それは召喚の魔法陣。現れたのはそれぞれの属性を司る精霊たちだった。火を纏う小人の精霊、水でできた身体を持つ少女の精霊、下半身が竜巻に包まれ大きな葉を傘替わりに持つ精霊、身体中に岩が貼り付いている精霊、ぼんやりと輪郭しか見えない光の精霊、伝承に伝えられている悪魔と似た風貌を持つ精霊、その全てが一斉に構えを見せる。
「精霊まで従えてやがるのか……しかも、それは北欧の――」
「あっちに『取引相手』がいるの。まだ行動はしないみたいだけど――見返りに教えてもらったのよ」
誰が――そう問いかけようとした瞬間、すでにアイシェルは手を頭上に翳し振り下ろしていた。
「――『
声と同時に力を放った精霊たち。その魔法が全て合わさり、反発し、絨毯爆撃が行われる。
咄嗟に光の槍を展開して、先ほどと同じように防御態勢を取るもどれも今までとは威力の格が違う。一発を防ぐことすらできず、当たれば鎧が砕けて出血するほどの威力。
「悪ぃ、ファーブニル! いくつかぶっ壊す!」
一応の謝罪を述べてアザゼルは魔法陣から次々と盾を繰り出す。どれも伝承に載らずとも、かつて名を馳せたものばかりであり、物理的な防御によって魔法を防いでいく。
しかし、それでも長くは持たないようだ。今も上空から降り注ぐ魔法も追加されれば、いくら伝説級であろうともミシミシと嫌な音を立てている。
だが、盾のおかげでアイシェルとアザゼルの間に壁ができた。
今ならば『小細工』を施せる。アザゼルはすぐさま自らを中心に短めの光の槍を大量に出現させていく。球体状に展開し終えれば、アイシェルの前に二つの球体が盾の後ろから左右に飛び出した。
「なるほど、そうくるのね」
アイシェルが両手をそれぞれの球体に向ければ、手のひらから放たれるのは災害級の竜巻。
竜巻は一瞬で球体を飲み込み、中で渦巻く風の刃で光の槍をすぐさま分解する。
「私には通じないけど――」
『上だ、アイシー!』
アジ・ダハーカの声で、アイシェルが上空を見上げるとその顔に影が重なる。
飛び出してきていたのは当然アザゼルであり、光の槍の球体二つどちらにもアザゼルはいなかったのだ。
球体を作って飛び出す瞬間、アザゼルは盾の後ろに留まり、アイシェルの視線が二つに向いた途端に上空へ向かって飛翔。そして、急降下を行ったのだ。
気付いたところで、すでに眼前。アザゼルは光を斧のように形状変化させ、渾身の力でアイシェルへと叩き込む。
その小柄な身体はアザゼルの一撃を受けて下方へと吹き飛び、建築物の屋上へと激突する。
舞い上がる粉塵。確かな手応え、そして鎧による全体性能の向上と共に底上げされた威力の一撃。最高濃度の光をぶつけたのだ。防護魔法陣も無しに受ければただでは済まない。それも光を弱点とする悪魔ならば尚更のことだ。
だが、アザゼルの表情は敵を討ち取ったものではない浮かないものだ。
何故なら光の斧を受ける寸前、アイシェルは笑っていた。それは窮地に立たされ、やけになったものではない――受けても何ら問題ないという確信から来る笑みだった。
アザゼルはアイシェルが落ちた建築物の屋上にまで下りると、翼を薙いで粉塵を吹き飛ばす。
屋上には一つクレーターが出来ており、その中心にはアイシェルが倒れていた。だが、アザゼルが降りてくるなり上体を上げる。
「今の一撃、良かったわ――二度と同じ手は食わないけど」
「嘘つけ、お前ならあの状態でも返せただろ」
服は受けた一撃、砂埃によって汚れてはいるものの、その身体に外傷はない。
相手は千を超える魔法を扱う超越者。どれだけタネがあろうと不思議ではないが、渾身の一撃が効かなかったとなればいよいよ現状では勝ち目がない。
服に付いた砂埃を手で叩きながら立ち上がったアイシェル。しかし、この状況下でさえすぐには攻撃してこなかった。
戦闘から感じていたことだが、ずっとアザゼルのことを試しているようだ。そのために自分の魔法力を絞ってまで手加減をしている。
「本気を出さねえのは、そんなに俺が相手だと不満ってわけか?」
「ん、違うわよ。雑魚ならすぐ殺すけど、あなたのような強い人は私に新しい発想をくれるから長く戦おうとしてるだけ」
「同じバトルマニアでも、そこはヴァーリとは合わねえんだな」
「いちいち比べないでもらえるかしら? 私とお兄ちゃんは別人、環境も別で育ったんだから思想が違うのは当然よ」
今までとは違い、その声音にはどうにも棘があった。どうやら最初に思った通り、アイシェルはヴァーリに良い感情を抱いてはいないようだ。
はぁ……と、一度大きく息を吐いたアイシェルは気分を害した様子で、
「お兄ちゃんの話をするなら
展開された歪な魔法陣の下側から垂れるようにして現れたのは一人の女性。
全身が骨と皮だけのミイラ状態であり、身に着けられている白い礼服は血に染められていた。それでも生きているのか、眼窟からはぼやけた光が灯り、カタカタと口元が震え動く。
それだけで全身が怖気立つほどの悪寒が走る。
例え五大龍王であるファーブニルの力を纏っていたとしても防げない――そんな予感が頭を過ぎる。
現に一瞬だけアザゼルに痛みが走った。ちょうど左手の薬指、そこから輪を描くような痛みだ。
「おいおい、俺は独身でいいっつうの……」
その名からして、今着けられたのは指輪を模した何かだろう。
そして、直感で分かった――これは後数秒でも放置すれば自らの生命に届きうる死神の鎌なのだと。
「チッ!!」
アザゼルの行動は早かった。
思考よりも早く身体が動き、左手を腕ごと光の槍で斬り落とす。
刹那、左手薬指で輪になっていた呪いが一瞬にして左腕を毒し、ボロボロと燃え終わった炭のように散らしてしまった。後少しでも判断を遅らせていればアザゼルの全身がああなっていただろう。
「思い切りが良いわね。そのおかげで助かったわけだけど」
「禁術……か。そんなもんに手を出したらどうなるかわかってんのか?」
今までの属性魔法とは明らかに違った魔法――禁術。
あまりにも凶悪な効果故に使用される言語ごと禁止されたという古代魔術たち。アジ・ダハーカはそれをいとも容易く扱うと伝えられていたが、宿主であるアイシェルも例外ではなかった。
だが、禁術に認定される理由はその能力だけではない。使用者が支払う代償の高さもまた禁術たる由縁である。普通は忌避されて当然のものだが、アイシェルには微塵も恐怖を感じていないようだ。
「わかるわよ。だって、私の身体は何年も前に代償で時間が停まったもの。これ以上成長もしないし、死にもしない。不老で不死の空っぽな存在……それが私よ」
『まだ俺の力にも慣れてねぇ頃だったから、代償を支払うしかなかったんだよ。まあ、その破滅願望と破壊衝動を気に入ったんだがな!』
「そういうわけ。禁術を使いたい放題できるから本気を出すと相手はすぐ死んじゃうの。今のあなたならわかるでしょ?」
その言葉にアザゼルは左腕の切断面から流れる血と共に理解した。
あんなものは序の口、アイシェルがその気になれば今上空に存在している魔法陣、それ以上の数の禁術を放つことができるはずだ。例え魔力や呪術に対する高い耐性を持つファーブニルの力を身に纏って防げないあたり、今の調子で禁術を繰り出されればアザゼルは骨すら残らないだろう。
さらに不老不死ともなれば光が効かないのも理解できる。
倒すことができなければ封印という手もあるが、相手が魔法に長けた存在だとその線も明確な対処法とならない。
「さあ、続きをしましょう? あなたの身が朽ちるまで、力の全てを見せてちょうだい」
狂気の域に達している他者の強さに対するアイシェルの妄執。
その根源が何かはわからない。だが、これはアイシェルの意思に関わらず世界の全てを蝕んでいく。
勝てる勝てないではなく、ここで止めなければどれだけの被害が齎されるか。アザゼルでさえ、想像がつかないほどだ。
「……ったく、ちぃっとキツいな」
「――だったら、我々も手を貸しましょう」
一息吐いて、改めて気合いを入れようとしたところで二つの影がアザゼルの両隣に降り立つ。
金色の翼を持つミカエル、そして魔王であるサーゼクス。その両者が並び立ち、三大勢力全てのトップが揃ったことになり光景は圧巻のものとなっていた。
だが、アザゼルは悪態を吐くように舌打ちをして、
「ミカエル……それにサーゼクスまで揃いやがって」
「邪魔立てを……なんて言わないでくださいね? どう見たって貴方の劣勢でしたし、何よりそんな意地を張っていられるほどの相手ではありません」
「好き勝手言いやがる。アイツはまだ『悪光魔耀』を見せちゃいねぇ。使われれば一番死ぬ可能性が高いのはお前だぜ、ミカエル」
「危険は承知の上です。彼女の存在はそれをも凌ぐほどの脅威……放置はできません」
ミカエルもアイシェルの危険性は嫌というほどわかったようだ。
隣に立っていたサーゼクスも一歩前に出ると、アイシェルと対峙し、
「最後の警告だ、アイシェル。キミの罪の全てをなかったことにはできないが、矛を収め、投降してくれるならば事情を考慮して必ず情状酌量の余地を与える。キミもまた悪魔の未来を担う子供だからだ――だが、これ以上『禍の団』に加担するつもりなら幼子だろうが躊躇なく消滅させる」
甘いな、そうアザゼルは率直な感想を抱いた。
グレモリー家は悪魔の中でも慈悲深いと聞くが、サーゼクスも例に漏れない。数えきれないほどの犠牲者を出し続けてきたアイシェルにすら、その手を差し伸べてしまう。
きっと答えはわかっているのだろう。
それでも一縷の望みにかけた……しかし、答えは案の定のものだった。
酷く否定するのかと思えば、アイシェルは微笑みを見せる。それは年相応の愛らしいの笑みだった。
「旧魔王派の悪魔はあなたのことを嫌ってるようだけど、私は好きよ? 悪魔なのに情愛深くて、甘くて、ちょっと前の私ならあなたの言葉を信じてみようかなって思えるくらい。皆、結局優しい人が好きだもの。あなたのようなヒトは『魔王』に向いているわ」
「だったら――」
「――でも、ダメ。もう生き方は決めたの。私は世界にとって邪悪な存在、それでいいの。楽しかったら何でも。だから、お互いの道は交わらないわ」
「……そうか、残念だ」
どこか諦めた表情で言うアイシェルにサーゼクスは一個人として、素直な感想を述べると一度だけ目を伏せ――やがて消滅の魔力を迸らせた。
最強の魔王と讃えられるだけのことはあり、アイシェルが創り出した空間さえサーゼクスの魔力の波動を受けて軋む音が響く。
だが、アイシェルの余裕は崩れない。それどころか魔力の波動を見て嬉しそうに笑う始末。
彼女は否定するだろうが、その点だけはヴァーリにそっくりだ。ヴァーリも強敵に出会った際、どれだけ格上であろうとも不敵な笑みを浮かべる。
「ふふ、歴代最強の魔王と言われるサーゼクス・ルシファー、それに天使長のミカエル、三人を相手するなら、こちらも相応の
アイシェルが杖を構えるなり、全ての宝玉が光り輝くと一瞬の閃光に全身が包まれる――