ハイスクールD×Dー機械仕掛けの少年と紫髪の歌姫ー   作:ホスパッチ

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第六話『海辺の詠』

 リアスが魔法陣の光に包まれ消えて行った後、オカルト研究部の部室ではちょっとした歓迎会が開かれていた。

 主に小猫が持ってきていた私物のお菓子がテーブルの上に並べられており、朱乃もお菓子に合うように紅茶がそれぞれに用意されている。

 

「木場、キミの神器は何なんだ?」

「見せてあげたいけど、キミが初めて目にする神器はイングヴィルドさんの方がいいんじゃないかな?」

「別にそのこだわりはないが……」

 

 そこまで言うとイングヴィルドが目を見開いて驚いていた。

 アルヴェムはその意図を読めずにいると、小猫から非難のジト目が突き刺さってくる。

 

「……アルヴェム先輩、それは良くないと思います」

「うふふ、女心も研究した方がいいかもしれませんわね」

 

 どうやら今の発言はダメだったようだ。

 研究対象としての誇りでも目覚めたのだろうか。

 彼女の中での変化は不明だが、確かにイングヴィルドの神器が見られるのなら越したことはない。

 しかし、問題がある。

 

「制御……よりも、まず発現できるのか?」

「わからない。だけど、頑張るから」

 

 拳を小さく握り締め、意識表明するイングヴィルド。

 そこから流れる少しの沈黙。

 やがて、イングヴィルドは口を開いた。

 

「……どうやって出すの?」

 

 これにはオカルト研究部の部員も苦笑を零す。

 朱乃がイングヴィルドの前に出ると優しくレクチャーをし始める。

 

「部長の受け売りですが、まずは目を閉じて……あなたの中で一番強いと思う存在を思い浮かべてください」

「強い存在……アルヴェム……」

「わかりましたわ。それじゃあ、アルヴェムくんの最も強く見える姿を思い浮かべてください」

「強く見える姿……?」

 

 そこで止まってしまった。

 確かに強く見える姿と言われても本人にすらわからない。

 人間が娯楽として楽しむ創作物のキャラクターのように分かりやすいものなどなく、アルヴェムもこれには反応に困ってしまう。

 朱乃も察してくれたのか、人差し指を立てる。

 

「神器の原動力は宿主の感情、想いに反応します。何かを想えば想うほど神器は強い力を見せる……ですから、強く想えるなら何でもいいのですわ」

「……でしたら、アルヴェム先輩。イングヴィルドさんを抱き締めてみたらどうでしょう?」

「何を急に言い出すんだ……?」

「アルヴェムくん、抱擁(ハグ)にはヒトのストレスを緩和する効果があるらしいんだ。イングヴィルドさんは今とても緊張していると思うから、ね?」

「国によりますが挨拶代わりになるほどですわ」

 

 小猫もそうだが、何故か木場と朱乃まで援護してくる始末。

 抱擁によるストレス緩和効果は初耳だが、そういうことならば仕方ない。

 ソファから腰を上げて立ち上がるとアルヴェムは両腕を広げる。

 

「そういうことらしい。とりあえず、抱き締めるよ」

「わっ……ちょ、ちょっと待って。心の準備ができてない……」

「緩和するどころか余計に緊張しているようだが」

 

 緊張させるようなら本懐から離れている。

 そう判断したアルヴェムが両腕を下ろすと、今度は何故かイングヴィルドが残念そうな顔をしてしまう。

 一体どうして欲しいのか。

 聞いたところで再び問答が発生して話が進まなさそうだ。

 

 アルヴェムは考えるのをやめて、とりあえず抱き締めることにした。

 いきなりの行動にイングヴィルドも大きく驚く。

 だが、飛び退くことはせず、やがて身を預けるようにアルヴェムの胸へと顔を寄せる。

 

 抱き締めてわかったのは、やはりイングヴィルドの身体は細いということだった。

 今は朝、昼、夕と三食用意しているが百年以上食事も摂っていなかったため痩せ気味だ。

 それでも胸、尻と女性として出る部分は出ている。リアスや朱乃と比べて遜色がないほど発育は良い。

 それに匂いも心地良いと言える。使用している整髪料のものではなく、女性特有の甘さを感じる匂いだ。

 伝わってくる体温は熱いと思えるほどで、見るとイングヴィルドは顔を耳まで紅潮させてしまっている。

 

「あらあら、大胆ですわね」

「……その行動力、見習わせてもらいます」

「僕もそんな甲斐性を身につけたいものだね」

「言い出したのはそっちのくせに何を感心してるんだ……?」

 

 と、思わず本筋から外れそうになっていた。

 件の神器はどうなっているのか――変化はすでに生じていたのだ。

 イングヴィルドの喉元が淡い紫色に輝いている。

 この光は初めて出会った時にも見たものだ。あの時からすでに発現していたのだろうか。

 だが、前も今も淡い色自体に攻撃性はない。わかりやすい形になるわけでもない。

 イングヴィルドの神器は彼女と一体化していると考えるのが妥当だろう。

 

 問題はその能力。

 神をも屠れるほどの神器が本当にイングヴィルドの中にあるとなれば制御できていない分、危険性は跳ね上がる。

 早急に対処すべきだが、肝心な能力に思いあたる節は――

 

「……そろそろ放してあげてください」

「もうお湯を沸かせそうなほど真っ赤ですわね」

「ただいま、みんな――って、何をしているのかしら……?」

 

 考えていると、リアスが床に描かれた魔法陣から帰ってきていた。

 怪訝そうにアルヴェムと抱き締められているイングヴィルドを見て、頭に疑問符を浮かべているようだ。

 

「彼女の神器を発現させていたところだ。見たらわかるだろう?」

「わからないわよ!?」

 

 リアスのツッコミに朱乃もクスクス笑う。

 それでわかった。どうやら、これも自分の反応を試されていたらしい。

 しかし、神器は発現した。結果は出た以上、アルヴェムとしては満足だった。

 イングヴィルドを放すとアルヴェムは座っていたソファへと戻る。後に続いて、イングヴィルドもふらふらとアルヴェムの隣へと座った。

 

「それで部長、召喚の方はどうなりましたか?」

 

 戻ってきたリアスに朱乃は問う。

 その問いに対し、リアスは笑みを浮かべ、

 

「ええ、面白いことになったわ。私を召喚したのは公園で息絶えた兵藤一誠くん、彼にも『神滅具』級の神器があったから『兵士』の駒全てを使って悪魔へと転生させたの」

「『兵士』の駒は八個……その全てとなればとんでもない力が眠っていますわね」

「まずは様子を見るわ。いきなり説明するのではなくて、自分の変化を実感してもらうの。だから、それまで兵藤一誠くんが何か探ってきても知らないふりをしてちょうだい」

 

 リアスの言葉に部員たちはそれぞれ「はい」と返すのだった――

 

 ―○●○―

 

 数日後の放課後――

 夕暮れ時にアルヴェムは大型バイクで海岸沿いの道路を走っていた。

 後ろにはアルヴェムの腰に手を回したイングヴィルドがいて、その身を預けている。

 

「いいのか? 速度なんていくらでも出せる。その気になれば数秒で着くが……」

「うん。こうやって潮風を感じるの好きだから」

 

 あれからリアスの読みどおり一誠はアルヴェムに『天野夕麻』のことについて探りを入れてきた。

 松田と元浜は直接『天野夕麻』のことを見ていたが、全くと言っていいほど覚えていない。

 リアスに聞けば堕天使側の工作だと言う。記憶の改竄――悪魔もよく使う手らしい。

 

 一誠にとっては不思議な日々を過ごしたことだろう。

 アルヴェムには起こらなかったが、朝や陽に弱くなり、夜になると身体が活発化する。運動能力も人間時に比べると体力、筋力も跳ね上がっているはずだ。

 

 ようやく今日の放課後、一誠に悪魔としてリアスたちが会う。

 ならばアルヴェムも同席すべきだろうが、すでにアルヴェムには別の命令が下っていた。

 一誠が受ける説明はすでに受けているもの。自己紹介も終わっており、一誠ともすでに知り合いの状況にある。

 なので、今はイングヴィルドの能力を解明することが最優先事項。

 そのためには彼女が一番安らぐことのできる海へと再びやってきていた。

 

「そういえば、ひとつ聞かせて欲しいことがある」

「……? どうしたの?」

 

 砂浜に着くとイングヴィルドは靴を脱いでいた。

 浜辺まで歩き、海水の小さな波を素足で感じているところで、アルヴェムは不意に思い出した。

 

「部室でキミを紹介した時、神器の話を聞いてキミは『ちょっと嬉しい』と言っていた。あの時は内緒にされたが、どうして嬉しかったんだ?」

「ふふっ……だって、あなたの役に立てるもの。私にとって、悪魔の力も神器の力も、私から奪うだけだと思ったから。そうじゃないってわかって、嬉しかったの」

「それならあの場で言っても問題なかったのでは?」

 

 いまひとつイングヴィルドの気持ちがわからないアルヴェム。

 だが、そんな彼に失望することもなくイングヴィルドは笑みを浮かべる。

 

「私たちは『ふたりぼっち』だから、二人だけの秘密が欲しかったの」

 

 そんな理由で、というのはあまりにも野暮だろう。

 彼女が自分との契約を大事にしてくれている――その事実にアルヴェムは、

 

「そうか……ありがとう」

「うん。それと……実はね。私の能力、ひとつはもう何となくわかっているの」

 

 言って、イングヴィルドから淡い薄紫色の粒子が漂う。

 そのまま漬かっている足を軽く上げると不思議なことに――海が二つに割れた。

 力技ではない。確実に海はイングヴィルドの意思によって、まるで生物のように動いたのだ。

 

「まだ全然上手くできないけど、海を操れるみたい」

 

 割れた先、数メートルどころの世界ではない。数十、下手をすると数百メートル先は続いている。

 軽く使ってこの規模。海は地球の大半を占めている。極めればその全てがイングヴィルドの武器になるということだ。

 神をも屠ることのできる『神滅具』、その恐ろしさの一端を目の当たりにした。

 

「怖い?」

「まさか。操れはしないが、海を割る……それなら俺にもできる」

Cutting Laser(カッティング レーザー)

 

 イングヴィルドが二つに分けた海を、右手から照射された赤いレーザーがさらに二つに分ける。

 驚くイングヴィルドに、アルヴェムは人間の表情を真似ただけの笑みを向け、

 

「ほぼ同じことをできるのだから、俺がキミを恐れることはないよ。むしろキミが力を見せてくれるほど……そうだな。これが"嬉しい"と感じることか。どうやらキミといれば俺も少しずつヒトの感情を理解できそうだな」

「だったら、これから好きなものいっぱい見つけていこ。そうしたら、きっと色んな感情がわかるはずだから」

「好きなもの、か……」

 

 理屈はわからない。

 ただイングヴィルドが言うのなら、信じられそうな気がする。

 それに"嬉しさ"が少し理解できたことで、わかったことがある。

 

「キミに初めて出会ったあの時、俺はキミの(うた)に導かれて公園に立ち寄った。だからかわからないが、キミの詠は好きだ」

「……ありがとう。故郷の詠なの。お母さんとお父さんから教えてもらって……残った唯一の繋がり、なのかな」

「だったら、俺もよく覚えておこう。俺が生きている限り、キミと両親の繋がりは永久に消えることはないはずだ」

「うん……」

 

 涙ぐんだ目尻を拭って、イングヴィルドは静かに詠を口ずさみ始める。

 さざ波と共に心地よい歌声で流れ、淡い薄紫色の粒子と相まって辺りは幻想的な雰囲気となる。

 その歌声からは彼女の優しさが伝わってきて、きっとこの胸の奥に感じる心地良さが"癒し"というものなのだろう。

 

「――――♪ ―――♪」

 

 海辺にはたった二人。

 イングヴィルドの歌声は幻想的な光景と共に響き続けた――

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