ハイスクールD×Dー機械仕掛けの少年と紫髪の歌姫ー   作:ホスパッチ

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第六十三話『魔王からの誘い』

「もう……今までどこに行ってたんですか! 本当に……本当に心配したんですよっ!!」

「すまない……」

 

 あれからエイミィーにも連絡をすると、彼女は数分足らずで海辺に駆けつけ、アルヴェムへと抱き着いてきた。

 アルヴェムもぐしゃぐしゃになるほどの涙を浮かべたエイミィーを見れば、自分がどれだけ軽率な行動をしたか思い知らされる。とりあえず謝罪しながら頭を撫でて宥めておく。

 

 正直、イングヴィルドにも助力を願いたいところだが彼女へ視線を向けるとそれどころではないようだった。

 口元はにやけて緩みきっており、イングヴィルドらしからぬ心ここに在らずな状態で、視線を送っていることにも気付いていない。

 

 イングヴィルドなら上手い具合に場を収めてくれると思ったが、それは期待できない。そうなると、アルヴェム自身がどうにかするしかないようだ。

 何か機嫌を取る方法はないか、アルヴェムは記憶を呼び覚ますと――そういえばと思い出すことがあった。

 

「そうだ、エイミィー。キミとの契約条件で『甘えさせて欲しい』と言っていただろう? 今、してみたらどうだ。いくらでも受け止めるよ」

「えっ……しかし……」

 

 心配そうにエイミィーはイングヴィルドへと目を配る。

 すると、今度は聞いていたのかイングヴィルドは緩み切った表情のまま、人差し指と親指を合わせて『OK』のサインを作り出す。先ほどの告白によって、彼女の中で何かが変わったのだろう。もはや、余裕に満ちていた。

 

 そのサインを受ければエイミィーの涙は途端に止まった。泣くよりも巡る思考が優先されたのだろう。

 少しの間、考える素振りを見せ、やがて――アルヴェムの足に自らの足を引っかけて転ばせてきた。

 

 何を……と問いかけようとした矢先、砂浜に倒れたアルヴェムの胸元に頬を寄せて、エイミィーもまた緩み切った表情を見せる。

 

「えへへ……えみぃもがんばったから、いっぱいほめてぇ……」

 

 何と言えばいいのか……エイミィーの理性がいきなり溶けた。

 それもそうだ。彼女は幼少期に両親を、甘えられる存在も環境も同時に失っている。誰にも弱みを見せられない状況で十年近く生き続けたエイミィーの経歴を考えれば至極当然なことだろう。

 

 ただ、そこは一度置いておいて、これは絶対にゼノヴィアへは見せられない。いくら感情に疎いアルヴェムでもそれは即座に理解できた。

 とりあえず、悩むこともないのでエイミィーの頭を撫で続けておくことにする。

 

「あのね、あのあと……わるいまほーつかいをぜんいんたおしたの。がんばったの。すごい?」

「ああ、流石だな。キミは本当にすごいよ」

「えへへぇ……ほめてもらっちゃったぁ……」

 

 褒める言葉の語彙が少ないが、それでもエイミィーは満足げに笑む。

 やがて、満足したのかエイミィーは倒れ込んだ体勢のまま寝息を立て始める。一睡もせずアルヴェムを探していたため、どれだけの日数が経過しているかは不明だが無理もない。

 

 熟睡するエイミィーをお姫様抱っこの形で抱きかかえるとアルヴェムは起き上がり、

 

「ひとまずエイミィーを拠点で寝かせて……旧校舎へ行くか」

 

 結果的に言えば敵前逃亡をしたわけだ。

 どのような処分も覚悟しなければならないが、アルヴェムには如何なる罰も受ける覚悟はある。

 未だに意識をどこかへやってしまっているイングヴィルドを連れて、アルヴェムは自らの身体から大型バイクを創り出した――

 

 ―○●○―

 

「うわぁぁぁんっ!! アルヴェム先輩ぃぃいいっ!! 無事で良かったですぅううううっ!!」

 

 どんな言葉でも受け取るつもりで旧校舎にあるオカルト研究部の部室に戻ってきたら、開口一番ギャスパーが泣いて抱き着いてきた。何というか、先ほどもエイミィーで見た光景である。

 

 あまりにもギャスパーがギャン泣きするために、流石に罪悪感を覚えたアルヴェム。大粒の涙を流すギャスパーの頭を撫でながら謝罪する。

 

「悪い、本当に心配をかけたみたいだ」

「みたいだ……じゃなくて、心配をかけたのよ。もう三日も姿を見せないから、私も本当に心配したのよ」

 

 ギャスパーの上からリアスもどこか涙ぐみながら抱き寄せてくる。

 感極まったのは分かるがイングヴィルドがいる手前抱きしめられるのは困ると、アルヴェムはイングヴィルドへと目を向けるも彼女はこの上なく上機嫌なようで何も言わない。

 

「……そうか、あれから三日も経ったのか」

 

 聞き逃しそうになったが、思った以上に凹んでいたことを思い知らされる。

 悪魔にとって眷属など所詮替えが利く存在だと思っていたが、リアスは無論他の眷属達もそう思ってはいないようで小猫ですら服の裾を引っ張ってきて、

 

「……私も、心配したんですから」

「すまない、迷惑をかけた」

「でも、その様子だとイングヴィルドとも仲直りできたんだな。本当に良かったよ」

「イングヴィルドちゃん、アルヴェムくんがいなくなって本当に魂まで抜けそうでしたから……どうか、もう手放さないであげてください」

「ああ、大丈夫だ。もう契約なんて必要のない関係……そうだな。互いの想いを告げたのだから、こういうのを人間界では何と言ったか――そうだ。俺たちの関係は『契約者』から『恋人』というものになった」

 

 その言葉にオカルト研究の面々は涙はどこへやら「えぇっ!?」と驚愕の声を上げる。

 だが、未だに緩み切った表情のイングヴィルドを見て三者三様に納得の意を示す。劇的な変化がなければ、魂の抜けた状態から今のようにはならないのだから。

 

 リアスはアルヴェムから離れるとすぐにイングヴィルドの傍に寄って、

 

「――今夜、女子会をしましょ。その時に事の顛末を教えてちょうだい。参考にするわ!」

 

 何の参考にするつもりか、リアスだけではなくアーシアや朱乃まで目に炎を灯しているようだ。

 木場もこれには苦笑いしており、どうにもリアスには状況を聞ける状態ではないため、アルヴェムは木場へと問いかける。

 

「俺がいなくなってからどうなったんだ?」

「『白龍皇』ヴァーリ・ルシファーとイッセーくんが戦って何とか退けたよ。魔術師たちもエイミィーさんの活躍でカウンター魔法が完成する前に増援がなくなって、今回のテロはそこで相手が撤退して事態は収まった。その後、正式に三大勢力のトップ達が調印して和平――『駒王協定』が結ばれたんだ」

「そうか、ありがとう」

「それとヴァーリ・ルシファーがキミにメッセージを残していったよ。『例の件、返事はいつでもいい。どのタイミングだろうが俺はキミを歓迎する』とね」

 

 共に旅をするという件、結局は『禍の団』入りの誘いだったが思った以上にアルヴェムはヴァーリに評価されているようだ。

 それだけでおおよその内容は掴んでいるのか、イングヴィルドとの話を終えたリアスは拳を握って力説する。

 

「アルヴェムは私の眷属よ! 絶対にテロリストなんかに渡すものですか!」

 

 再度抱き寄せられ、もう好き勝手にされているアルヴェムだが現状立場は立場なだけに抗えない。

 それからも少し談笑していると、部室に入ってくる新たな人物がいた。

 

「おうおう、盛り上がってるじゃねえか。アルヴェム・オーヅァも無事戻ってきたってわけか」

 

 そんな軽口を言いながら部室に入ってきたのは、着崩したスーツ姿のアザゼルだった。

 もう早々見るはずもないと思っていた姿を再度見たアルヴェムは怪訝そうにし、

 

「……何故、この男がここに?」

「そう邪険にすんなって。ここの特別顧問になったんだよ。そんでもって、まだまだ成熟しきってねえお前らを鍛えてやろうってわけだ。特に白龍皇と戦う予定の激弱赤龍帝イッセーのな」

 

 それに、とアザゼルは顎に手を当て、

 

「『禍の団』は旧魔王派はともかくオーフィス直轄の部隊『無限の眷属』とかいう奴らもいることだし、こちらの想定以上に行動が早い可能性がある。まだ見えてねえ戦力も考えれば一人でも多く育成しておかねえと流石にヤバい。堕天使の総督が言うんだ、間違いねえよ」

 

 確かにアイシェルほどの者が他にもいると考えれば悠長なことは言っていられない。

 サーゼクスも和平を結んだその後の一歩目にアザゼルを駒王学園に赴任させたとも考えられる。そのあたりの事情はアルヴェムにとってはどうでもいいことだ。

 

 そんなことを思っていると、アザゼルが今度は懐から一枚の紙を取り出す。

 魔法陣が描かれたものであり、見間違いでなければそれはサーゼクスのものだ。

 

「お前さんにお届けもんだ。お前の都合の良いタイミングで連絡してこいって、サーゼクスが言ってたぞ」

「会談後に話したいことがあると言っていた件か……」

 

 ろくな話ではないことは確かだろうが話してみなければ始まらないようだ。

 アルヴェムは一度部室から出ると、人気(ひとけ)のない屋上へ向かって歩き出す――

 

 ―○●○―

 

『戻ってきてくれたんだね、本当に良かったよ』

「……それで話とは一体何でしょうか? もしかして、授業参観日からの不審な行動に関係があるんですか?」

『不審とは心外だ。私もグレイフィアも、父だって至って真剣だったよ』

 

 その要素が一体どこにあったのか、そう問いたくなるも快活に笑っているサーゼクスは追及の余地を与えない。魔王の交渉術とでも言うべきだろうか。

 ともあれ、本題を切り出すように促すとサーゼクスは『そうだね』と前置きし、話し出す。

 

『キミに立場を与える……そんな話を前にしたと思うが単刀直入に言おう。私の息子にならないか?』

「…………はい?」

 

 何をどう省いたらそうなるのか、甚だ理解できない。

 だが、サーゼクスの中では繋がっているようで、

 

『これも前に話したことだが、上層部ではすでにキミの存在が議題に挙がっている。妙な勘繰りを避けるためにキミのことを私の息子だと紹介したのだよ。ははは、容姿が似ているから恐ろしいほど簡単に信じられてしまった』

「いや笑い事ではなくて、何をしているんですか……」

『グレイフィアや息子のミリキャスとはもう話がついているよ。ちなみにだが、父上や母上にもすでにキミのことを息子だと伝えてしまっている。どうしても隠さねばならない理由があったと。魔王になって久しくなかったが、母上にはとんでもなく怒られてしまったよ』

「本当に何をしているんですか……」

 

 おかげで全ての辻褄が合ってしまった。

 そんな背景があったからこそ授業参観の時、サーゼクスとグレイフィアはやけに突っかかってきていたのだ。やけに保護者のような素振りを見せると思ったが、すでに保護者のつもりだったとは。

 前に選択肢があるような形で言っていたはずだが、これでは選択も何も外堀が完全に埋められてしまっている。

 

『キミに対するメリットとすれば……いきなり上級悪魔、それも『悪魔の駒』が授与される。悪魔の階級は必ず一段階ずつ上げられるもので、一気には上げられない。だが、上級悪魔の血筋となれば話は別だ。魔王の息子、グレモリー家の者――その二つが齎す権威は侮れないものだよ。その気になれば領土も得られるしね』

 

 確かにこれから冥界で活動するならば今の容姿では妙な探られ方をするだろう。息子になったところで探られはするだろうが一過性のものと考えられる。その気になれば、権力でマスコミを黙らせることもできるのかもしれない。

 

 それにサーゼクスはすでにグレモリー家にも通告してしまっているため、今更断ったところで外堀が埋められている以上どうしようもない。

 相手の言う通りに動くのは癪だが、その前に疑問を解決しておく。

 

「この件、部長には伝えたんですか?」

『まだだよ。リアスはキミの事情をある程度知っているからね。キミからの了承を得れば、それとなく説明して合わせてもらうようにはするつもりだ』

 

 結構行き当たりばったりな気もするが、ここまでサーゼクスは何一つ冗談を言っていない。むしろ、そこが恐ろしいところではあるものの、アルヴェムにとって旨味は十分にある話だ。

 

 今はそれほど必要性を感じていないが『悪魔の駒』を手に入れ、もし大規模な実験をする時にも土地が手に入る。

 多少厄介なおまけがつくが、断る理由は薄いとも考えられるだろう。

 

「……わかりました。その提案、乗らせてもらいます」

『ありがとう。それなら本日より私達は親子の縁で結ばれることになる――プライベートでは「パパ」と呼んでもいいのだよ?』

「調子に乗らないでください」

 

 早くも先行きが心配になってきてしまった――

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