ハイスクールD×Dー機械仕掛けの少年と紫髪の歌姫ー   作:ホスパッチ

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第六十四話『あの日できなかったこと』

「それで、アルヴェムはサーゼクス様の……息子になったの?」

「ああ。流される形にはなるが得られるメリットも多い。これから冥界を第二拠点として考えるなら、相応の立場を得るのも悪くないと思ったんだ」

 

 満月が浮かぶ深夜、アルヴェムはイングヴィルドやエイミィーと共にプールへと訪れていた。

 何でもプール開きの日、一緒に遊べなかったことが不満だったそうで、それならば空いている夜に遊ぼうということになったのだ。

 

 学校指定の水着しか持っていないアルヴェムはそれで済ませたが、イングヴィルドやエイミィーは自分で用意したものらしい。

 今はラッシュガードを着ていて全貌は見えないが、アルヴェムが行っているプール中の水に対する掃除が終わればすぐに見られるだろう。

 

 他者が入った形跡を完全に消す。そうすることでプール開きの日を再現しようとしているのだ。

 見た目だけで言えばプールサイドから水面に手を突っ込んでいるだけだが、アルヴェムの指から展開された目に見えないほどの小型ビットが全ての汚れを消し去っている。

 

 その作業中、同じくラッシュガードで水着を隠した状態のエイミィーが何か気になっている様子で、アルヴェムの隣に腰を下ろす。

 

「お二人はその、恋人になったんですよね?」

「関係を言葉で示すならそうだな」

「でも、その割にはあまりお変わりないような……」

「それを言ってしまえば、そもそも俺達が恋人のような距離感でいたことになるな」

「……確かに近い距離ではありましたね。イングヴィルド様からは、それはもうたくさんの好意がアルヴェム様に向けられていましたし」

「あ、あまり、言わないで……恥ずかしいから……」

 

 あまりに小さなか細い声を出すイングヴィルドは顔を真っ赤にしてエイミィーの口を塞ごうとする。

 言われてみれば、思い返してみると好意を感じる行動は色々とあった。

 中でも最近で言えば――

 

「イングヴィルド」

「え、あ……な、何?」

「俺の子供、本当に三十人ほど産んでくれるのか?」

「何で今、それを思い出しちゃうの……っ」

 

 もう蒸気が出そうなほど顔を紅潮させたイングヴィルドは口をあわあわさせて、我慢できずにプールへと飛び込んでしまう。

 水柱が綺麗に舞い上がったかと思えば、すぐにプールサイドへと上がり、どうやら頭を物理的に冷やしたようだ。

 

「が、頑張るって言ったから……頑張るわ。けど……エイミィー、は、八人くらい、どう……?」

「私ですか!? え、えぇ~っと……アルヴェム様のことは好きですけど、そうなるとハーレムになってしまって……うぅ~っ!」

 

 今度はエイミィーがプールに飛び込んでしまった。

 しかし、水柱が上がる中でアルヴェムは冷静に、

 

「そうなるとエイミィーにも三十人頑張ってもらわないといけなくなるな」

「えっ、一人あたり三十人なの……!?」

「当たり前だろう。そうじゃないと平均値が取れない。母親が違えば条件が変わるからな」

 

 あくまで三十人という数値は平均を取るためのもの。母体が増えてしまうと、それだけ同等の数を求められる。

 育児に関してはアルヴェムには多彩な機能があるために不自由にはさせないつもりだが――と、ここで水面をバシャバシャ叩いてエイミィーが暴れていることに気付く。

 何をしているのだろうか、そう考えた矢先、イングヴィルドは焦った表情を浮かべる。

 

「あっ……エイミィー、泳げないのを忘れていたわ……っ!」

「何をやってるんだ……」

 

 やや呆れながらもアルヴェムは掃除し終えたことを確認し、自らもプールへと飛び込む。

 結局、このドタバタから二人の水着お披露目はまたの機会となってしまったが――後日聞いたところ、イングヴィルドが紺色のビキニで、エイミィーは水色のワンピースタイプの水着だったという。

 

 ―○●○―

 

「Bab.やっぱり、よわっちぃねー」

 

 冥界の辺境にて、少女の陽気な声が聞こえてくる。

 すぐ傍には抉られた地面がいくつものクレーターを作り出し、それぞれの中心で悪魔が倒れていた。一人は貴族服を纏っているため上級悪魔であり、他の恰好はそれぞれ違うも眷属悪魔であることは確かだ。

 

 その誰もが受けた傷よりも驚愕を隠せず、少女へと目を向ける。

 自らの領土に不審な者達が現れた――領民からの通報を受けて現場へ向かったものの、すでに辺境にある村に住む人々は見る影もなかった。

 

 代わりにいたのは、二人の少女。

 一人は赤黒い長髪を腰まで伸ばした二メートルはあろう長身の少女。拘束具のような服装で口には何故かおしゃぶりを咥えており、腰元にも赤子をあやすためだと思われる玩具が数本携えられていた。

 

 もう一人は暗色の強い銀色の髪をした幼女。

 ウサギを模したフードを目深に被っており、手に持つ三つの首を持つ龍の頭部を模した杖を退屈そうにくるくると回していた。

 

 異様なのは出で立ちだけではない。その尋常ならざる強さもまた異常だった。

 銀髪の少女は後ろに控えており、長身の少女が一人で来たため攻撃を加えたが何を与えても効かない。耐久力が優れているなど、そんな陳腐な話ではなかった。

 

 勝てるはずもない、そう倒れている面々は確信する。

 対して、銀髪の少女は倒れている中でも貴族服の悪魔に目を向けるとその場にしゃがみ込み、

 

「本当に上手いこと釣れたわね。グラシャラボラスの次期当主……名前は何だったかしら? まあ、いいわ。これ持って帰るの?」

「Dab.よわっちぃけど、つかえるから」

「まあ、そうね。戦闘能力問わずに純血悪魔なら『あれ』に使えるし、さっさと他は始末して帰りましょ。モタモタしてると増援が来るわ」

「あーい」

 

 間の抜けた返事、しかしその直後に眷属悪魔たちの命は容易く奪われる。

 彼らの影が形を変え、槍の矛先のように先端を尖らせた途端、彼らの身体を容易く貫いた。さらに内部で炸裂し、幾本もの影が無惨に命を奪うどころかその遺体まで溶かしていく。

 

「じゃ、かえろっか」

 

 ―○●○―

 

 冥界の中でも一つしか入口のない次元の中に創り出された空間――そこに『禍の団』の本拠地はあった。この本拠地を知っているのは幹部以上、旧魔王派で言えば四大魔王の血筋の者くらいだ。

 

 外敵の侵入を拒むために通路にはいくつもの魔術で仕掛けが施されており、入り組んだ通路を歩いた軌跡によって辿り着く部屋が変わっていく。

 グラシャラボラスの次期当主を捕まえたティクレンとは道の途中で別れ、アイシェルもまた迷わずに道を突き進んでいった。

 

 正規の手順で進んだ先、見えたのは一つの扉。

 何の変哲もない。装飾の一つもない物寂し気な扉は中にいる者の本質を示しているようにも見える。

 しかし、それがいいのだと、アイシェルは心の中で納得した。何せ、中にいるのは――

 

「ただいま、オーフィス」

 

 部屋の中心には椅子しかない、物寂し気な空間にオーフィスは座っていた。

 何をするわけでもなく、ただぼーっとしているような虚ろな瞳でアイシェルを捉えるとオーフィスも小首を前に傾けて頷きを見せる。

 

「おかえり」

「今日はお土産もあるの……って、あなた達もいたのね。負け犬魔王さんたち」

「くっ……」

 

 身長が低いアイシェルでも一瞬目に映っていなかったが、オーフィスの前に男女二人がいた。

 カテレア・レヴィアタンとクルゼレイ・アスモデウス……どちらも自分たちが真の魔王だと言って聞かない者だ。

 駒王学園への襲撃時に、アルヴェムに大敗を喫してカテレアは重傷。少しの間、姿を見ないと思っていたがすでに復活していたとは思わなかった。

 

 せっかく気分が良かったにも関わらず、水を差された気分でいっぱいだ。

 鼻で息を吐いて、嘆息の意を示すと一応問いかけてみる。

 

「で、あなた達、何しにきたの?」

「……オーフィスより『蛇』をいただくためです。前は力の濃度が足りなかったために敗北しましたが、次こそは――」

「いくら『蛇』を貰っても、あなた達だと三大勢力のトップ陣の誰も殺せないわよ」

「貴様、我らを愚弄するのも大概にしろッ!」

 

 そう激昂するクルゼレイだが、その反応を見てアイシェルはクスクスと笑みを浮かべる。

 

「だって、自分の力じゃないもの。借りただけの力だと、それが限界よ」

 

 カテレア達がトップ陣に劣る理由はその点にある。

 才能を重視し、努力せず、生まれ持った力のみで戦う……それで勝てるなら良いがオーフィスの力を借りてなおそのままでは話にならない。

 

 アザゼルも手製の神器を使ったものの、あれは上手い具合に自らへの調整を施して落とし込んでいた。その柔軟性が旧魔王派の悪魔には欠けている。自尊心ばかりが先行して実力がまるで追いついていない。

 このまま『禍の団』として戦い続けても旧魔王派の勝ち目は到底ないだろう。

 

「それにあなた達の目……もう怯えている目よ。アルヴェム・オーヅァに実力差を見せつけられて、本当はもう世界の改革なんて無理なんじゃないかって思ってるんじゃない?」

 

 言っていて、ため息が出るばかりだ。

 大体、本気で新世界を作ろうとするならば敵は三大勢力だけではない。各神話の、それこそ実力のランキングで言えば一桁台を相手にしなければならないのだ。

 

 いくら『禍の団』の頭目がオーフィスであっても、彼女が自ら戦うはずはない。オーフィスは好戦的な性格でもない上、彼女が求めているのはあくまで平穏。頭目としては需要に合わせて『蛇』を与えるのみ。それ以外は延々とこの部屋に座っているだけだ。

 

 旧魔王派の連中もトップがこうなってしまえば瓦解も時間の問題だろう。

 情けない話だが、名乗りを挙げた開幕からアイシェルが介入しなければならない状況になったようだ。

 

 言い返すこともできないカテレアとクルゼレイに対し、アイシェルは魔法陣を二人の頭上へと出現させる。それと同時に二人へ降り注ぐのは圧倒的な重力。

 その身体ごと圧し潰さんとする重力はカテレアとクルゼレイの両者を跪かせ、アイシェルは二人の前に身を屈めて座り込む。

 

「ねぇ――本当に世界を変えたいなら、私に賭けてみない? ま、どうするかはお二人の自由だけどね」

 

 それはカテレアやクルゼレイにとって、まさに悪魔の囁きだった。

 しかし、賭けねば旧魔王派が願う未来は失われる。拒否したところでアイシェルは何をするか分からない。

 悩んだ末に返答を出したのは、カテレアだった。

 

「……分かりました。あなたに賭けましょう。ですが、あなたは何を狙っているのですか? 前の仕事の代価に何故我々の血を欲したのか答えてもらえませんか?」

「ここは学校じゃないのよ。質問したら何でも答えが返ってくるって思ったら大間違――」

「Bab.『まじん』、つくるのっ!」

 

 聞こえた大声に思わずアイシェルは額に手を当てた。

 グラシャラボラスの次期当主を研究所へ放り込み終えたティクレンが話を聞いていたのか、扉を思い切り開けるなり答えを出してしまう。

 

「魔神……?」

「あなた達には関係のないことよ」

 

 了承は得ているため、すぐさまカテレアとクルゼレイの二人を転移魔法で飛ばす。

 そして、入室してきたティクレンに対しては眉を顰め、

 

「ちょっとティクレン、わざわざ教える必要ないじゃない」

「えー、おしえてって、いってた」

《そう怒らないでやってくれ。今のはティクレンの善意だ》

「アポプス、あなたがそうやって甘やかすから……」

 

 怒ろうとすると、すぐに影から西洋の龍のように細長い影が現れる。

 ――『原初なる晦冥龍(エクリプス・ドラゴン)』アポプス。ティクレンが持つ魔神器『闇夜に揺蕩う冥龍の獄鎖(ジ・エンド・オブ・エクリプス・チェイン)』に封じられた邪龍であり、赤子の頃から彼女の父親として世話をしてきたらしい。

 

 そのアポプスが出てきたからには、これ以上言ったところで透かされてしまう。

 一方、頬を膨らませて拗ねたティクレンが足を腕で囲んで不貞腐れながら横たわり、ぷいっとアイシェルから目を逸らしてきた。

 

「はぁ……もう、仕方ないわね。ドーナツ食べる人はいないかしら?」

「Dab.たべるたべる!」

「我も食べる」

 

 お土産として買ってきたドーナツが入ったケースを見せるなり、不満そうにしていたティクレンがすぐさま起き上がる。オーフィスも虚ろな目ながらにどこか輝いているように見えて、小さな手を挙げていた。

 

「ま、バレたところで止められるものでもないし、今はお茶会を楽しみましょうか」

 

 言おうが黙っていようが、それはティクレンの自由。そして、教えたアイシェルの過失だ。

 すぐに気持ちが切り替わったアイシェルは指を鳴らすと、ドーナツに合う紅茶が入ったティーカップがテーブルと共に用意されていく――

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