ハイスクールD×Dー機械仕掛けの少年と紫髪の歌姫ー   作:ホスパッチ

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フェーズⅤ.Family『冥界合宿のヘルキャット』
第六十五話『いざ、冥界へ』


「冥界でのスケジュールは……リアスの里帰りに現当主へ眷属悪魔の紹介。その後は新鋭若手悪魔の会合が行われて、終われば各自修行に入る。ここまでで質問ある奴いるか?」

 

 懐から取り出したメモ帳を読み聞かせてくるのは、オカルト研究部特別顧問になったアザゼルだ。

 駒王学園も夏休みに入って数日、グレモリー眷属悪魔達に告げられたのはリアスの冥界への里帰りだった。眷属悪魔である都合上、眷属悪魔はついて行く必要があるらしいが、早速アルヴェムが手を挙げる。

 

「まあ、お前はあるだろうな」

「俺はもうグレモリー眷属じゃなくなるわけだがどうなるんだ?」

「新鋭若手悪魔の会合までは一緒だ。そっからは別ルート、お前はサーゼクスの隠し子っつうことでマスコミが騒ぎまくってる。そんでもって記者会見ってわけだ。そして、上級悪魔として『悪魔の駒』の授与を受ける。まあ、『女王』の駒はフェニックス家の夫人に返される手筈になっているがな」

 

 先刻、アルヴェムはサーゼクスからの提案に乗り、彼の息子となった。

 当然リアスにもその結果を話したが、彼女は自らの眷属を取られることに対して明らかに不満そうにしサーゼクスへと猛抗議したのだ。しかし、立場、政治的な観点からサーゼクスとグレイフィアに押し切られてしまい、渋々応じることになった。

 

 それでも未だに「無理に眷属から離さなくてもいいじゃない……お兄様のおたんこなす」と愚痴を零すこともある。きっと、グレモリー家の中でも彼女は特別情愛が深いのだろう。

 何がどうであれ、悪魔への道を作ってくれたリアスに感謝はしているが、自分の存在で不都合を与えるわけにはいかない。取り出した『戦車』の駒を返却し、アルヴェムはリアスの眷属から外れた。

 

 そういう経緯もあっての別ルートだ。

 アザゼルは軽く言って、続きを説明していく。

 

「あと予定としては未定だが、アルヴェム同行の下でイングヴィルドやエイミィーには旧魔王派の中でも『禍の団』に入らなかった面々に会ってもらう。留まることを決めた以上、テロに加担することはないだろうが心変わりがあってもおかしくねえ。あいつらにも担ぐ神輿をやれってのが上層部の考えらしい」

「私、できる……かな?」

「無理にしなくてもいい。彼らのフラストレーションに少しでも付き合うだけで変わるものもある」

「私は悪魔と天使の混血ですが……そんな私の話を聞いてもらえるのでしょうか?」

 

 エイミィーの問いに対し、アザゼルも「あー……」と言葉を悩ませるように頭を一度掻いた。

 

「旧魔王派の連中はもうお前の存在にも気付いている。純血ではないにせよ、相反する血を持ったお前を神聖視する声もあるらしい。嫌だったら行かなくてもいい。俺とサーゼクスが上層部を黙らせてやる……まあ、ゆっくり考えてくれ」

 

 皮肉なものだ、とアルヴェムは素直に感じた。

 エイミィーの血は天使側では忌むべきものだと忌避され、虐げられた。しかし、反対の悪魔側に来れば、それが神聖視される。どちらも偶像的な扱いに違いはない。

 イングヴィルドもエイミィーもすぐには答えを出せなかった。これはアルヴェムがどうこう言うものではなく、彼女達の意思を尊重すべきものだ。

 

「まあ『悪魔の駒』の授与さえ終われば後は何か言われん限りは自由の身だ。好きにやれ……っと、説明はこんな感じだな」

「ということはアザゼル……先生は冥界に入るまでは同行するのね? アルヴェム達の予約も含めて、こちらでしておけばいいのかしら?」

「ああ、よろしく頼む。いつもは堕天使のルートでしか入らねえから、悪魔の道を使うのも新鮮なものだな」

 

 それに何の違いがあるかは不明だが、アザゼルは楽し気に笑う。

 しかし、実際のところ冥界にはどう行くのかが分からない。前に冥界を訪れた時にはフェニックス家に用意された魔法陣を使用したり、グレモリー家の魔法陣を使用したりと空間転移で一瞬だった。

 

 予約、という言葉が出た時点で行き方が違うのだろう。

 アザゼルと同様に少しだけアルヴェムにも期待する心が芽生えてしまった――

 

 ―○●○―

 

 出発当日。

 リアス率いるグレモリー眷属、アルヴェムとイングヴィルド、エイミィー、そしてアザゼルは列車に乗っていた。無論、ただの列車ではない。最寄り駅には人間に気付かれないような構造で地下があり、そこに現れたのがグレモリー家が保有する列車だった。

 

 転移魔法陣ではなく列車を経由するのは、これが冥界入りの正式な手段らしく、例え眷属悪魔であっても他の手段で入国すれば違法入国となり罰せられるらしい。

 

 アルヴェムとイングヴィルドは運が良かったらしく、一度目はフェニックス家の計らいで、二度目は婚約パーティという緊急事項だったため特例で許された。

 

 そこで汽笛が鳴り響く。それと同時に列車は発進し、一定のリズムで車輪が線路に擦れて音を奏で始める。

 珍しくイングヴィルドやエイミィーはいない。『王』であるリアスやアルヴェムは先頭車両、眷属または客人はそれ以降の車両というしきたりがあるようで、珍しくアルヴェムはリアスと二人きりの状況となっていた。

 

 思えば、完全に二人きりなのは初めてのことになる。

 今までは必ず誰か傍にいて、特に二人きりになる用事もないために気にしてはいなかった。

 それに気付いたのはアルヴェムだけではなかったようで、隣の席に座るリアスが話しかけてくる。

 

「こうして二人きりで話すのは初めてね。何だかちょっと緊張するわ」

「そうだな。俺は自分のことで動いていたから、ほとんど部室に顔を出さないこともよくあった」

 

 まだ出会って数か月しか経っていないというのに、どこか懐かしさを覚えてしまう。

 それを聞いて、リアスも微笑んで、

 

「もう懐かしいわね。今でも出会った時のことははっきりと覚えているわ。ちょっと変なことを言うけど……あなたを初めて見た時、変な感覚がしたの」

「変な感覚?」

「お兄様に似ている、そう思うよりも早く……何と言ったらいいのかしら。あなたと私に……繋がりのようなものを感じたの」

「……そういう口説き文句はイッセーにしてやれ」

 

 真面目に聞いて損したと言わんばかりな視線を向けるアルヴェムに、リアスは「もうっ」と怒った素振りを見せる。しかし、すぐに笑みを浮かべる。

 

「あなたは出生がわからないって言ってたけど、意外と私達には深い繋がりがあるのかもしれないわね。昔どこかで出会ったとか、本当は血が繋がっている……なんて」

「『部長』って呼ぶよりも『お母様』の方が良かったのか?」

「ふふ、まだそんな年齢じゃないわよ。どうせなら『お姉様』が良いかしら? あっ、でも、私が卒業する頃には部長じゃなくなるから皆にそう呼んでもらうのも悪くないわね」

「まあ、続柄で言ったら『叔母様』なんだがな」

「その呼び方は絶対やめて」

 

 どうやら呼称に年齢を感じてしまうのが嫌なのか、即座に否定されてしまう。

 それでもリアスはどこか楽し気だ。何となく一誠に申し訳はなくなるものの、こうしてまともに話す機会も最後になるかもしれないのだから彼も許してはくれるだろう。

 

「ねえ、アルヴェム。あなたは変わったわ。何と言ったらいいのかしら……よりヒトに近付いたって言ったら良いのかしら」

「自覚はないが……もし、そうならきっかけをくれたのはイングヴィルドやエイミィー、オカルト研究部の皆なんだろうな」

「ふふ、そうね。でも、あなたは元々優しい子よ。たまに言動が極端で過激になることもあるけど、その芯には優しさがきちんとあるわ。それを忘れないで――元主からのお願いよ」

「まるで今生の別れみたいな言い方だな」

 

 などと笑っていると、人影が現れる。

 視線を向けると戦闘車両にやってきたのはアザゼルだった。

 

「談笑してるところ悪いが、ちょっと話良いか?」

「どうしたの?」

「もうすぐ()()()()()()()()()()()()()()()。予めエイミィーやイングヴィルドにもすでに話して介入しないようには言っているが、イッセー達がリアスの指示無しでどれだけ動けるかを見る。まあ、どの点を重視して修行するかの洗い出しだな」

 

 二人が傷つかないならば、それに越したことはない。

 リアスも納得の意を示すとアザゼルは手を軽く振って元の車両へと戻っていく。

 

「いいのか? 何をされるか分からないぞ」

「あの子達の実力が伸び悩んでいるのは事実だから。アザゼルは堕天使としてはアレだけど、教育者としては一定の信頼をしているの。だから、様子を見ましょう」

 

 イングヴィルド達に危害が加えられなければアルヴェムとしても問題はない。

 列車は『間もなく次元の壁を突破します』とアナウンスがされると、一瞬浮遊感のようなものが身体を伝ったかと思えば今までトンネルの中で薄暗かった風景が一変する。

 

 自然豊かな木々、川、山。何より紫色の空の風景がその全てが別世界であることを示しており、冥界に訪れたことを視覚から認識させてくる。

 

「もうここはグレモリー領よ。まだ領地内でも未開拓地ではあるけど……多分、仕掛けてくるならここかしら」

 

 そうリアスが言った傍から山岳地帯で列車が一時停止する。

 その直後、アルヴェム達の足下に突然魔法陣が現れ、強制的に転移させられていく――

 

 ―○●○―

 

「あれがハプニングの正体か」

 

 崖上から眼下を見下ろせば、一誠達はすでに現れた敵と戦闘を行っていた。

 その敵は――ドラゴン。二足歩行型の巨人を思わせる姿であり、体表の鱗は紫色に染まっている。両側頭部からはL字型の角が生えており、あの角だけでもそこらの武具を軽く超えるほど鋭利な輝きを見せていた。

 

 野生のドラゴンなどという都合の良いものではないだろう。

 身に纏う闘気は尋常ではない。明らかに歴戦の猛者であり、ドラゴンの中でも高い戦闘能力を持つ存在だ。さらに計測器には悪魔という反応も出ている。つまり、ドラゴンから悪魔に転生したと考えられる。

 

 考えていると、すぐ傍に飛ばされていたのかイングヴィルドとエイミィーが合流してくる。

 何か気付いたのか、イングヴィルドも紫のドラゴンに目を向け、

 

「アルヴェム、あれって……」

「二人とも、こちらに飛ばされていたか。ああ、名のある龍だろう。今のイッセー達は絶対に敵わない相手だが……ドラゴンである以上イングヴィルドが歌えば一撃、エイミィーが正面から戦っても押しきれてしまうな。あくまでイッセー達の課題を見つけるためのものだ。今は見学しておこう」

「なるほど、だから私達は手を出さないように言われたんですね」

 

 エイミィーも納得したところで、アルヴェム達は改めて一誠達の戦闘へと目をやる。

 数では有利を取っているものの相手のドラゴンはそれを物ともしない。朱乃の雷撃を受けようとも『魔剣創造』による剣山を受けようともその身一つで受け切り、尻尾を薙ぐだけで全てを吹き飛ばしていく。

 

 グレモリー眷属の実力ははっきり言ってまだ発展途上のもの。ドラゴンにはとても敵わない。それを今すぐどうにかできるわけではないが、中でも特に焦っているように見えたのは――小猫だった。

 

 仲間と連携をせず、単騎で飛び出したかと思えば何もできずに尻尾に弾かれ岩肌に打ち込まれる。裂けた額からは血が流れ、地面に受け身もなく倒れてしまう。

 朱乃の指示でアーシアが治療に向かうも盾である『戦車』が倒れれば前衛の戦術にも支障を来たす。いくら素早い『騎士』二人でも攪乱することが叶わず、『赤龍帝の籠手』で力を高めている一誠にもドラゴンが吐いた炎が襲う。

 

 軽く炎を吐いただけにも関わらず、紫色の空が焼けたように赤く変色していた。

 圧倒的な強さ、ドラゴンの名に恥じぬものだった。

 その姿にアルヴェムはイングヴィルドを見て、一つ思いつく。

 

「イングヴィルド……冥界にいる間にドラゴンを従えてみないか?」

「え……? ドラゴン、を?」

「キミが持つ神器『終わる翠緑海の詠(ネレイス・キリエ)』は伝説のドラゴンでも従えられるとアザゼルは言っていた。単独行動をする際、キミを守る者が欲しかったところだからな」

 

 自己防衛策が多いに越したことはない。

 最初は不安そうにするイングヴィルドもやがては覚悟を決めたようで頷く。

 

「まあ、キミと合うドラゴンがいれば……の話だ。俺も協力するからゆっくりと考えればいい」

「私も手伝いますよ。大体のドラゴンは倒せますから」

「ううん、これは一人でやるわ。だって、私……アルヴェムの『女王』だもの」

 

 イングヴィルドの目に映っているのは、どうやらリアスの代わりに指示を出す朱乃の姿だった。

『王』が不在の際は『女王』が動く――どの駒よりも信頼された存在、それが『女王』という存在。イングヴィルドはそうなりたいのだろう。

 

「そうか。まあ、焦ることはないよ。何せ、今のキミでも同世代の悪魔はほとんど超えているんだから」

 

 レヴィアタンの血筋、神滅具、そして日頃の鍛錬が成果として出ているイングヴィルドは現状リアス・グレモリーよりも高い戦闘能力がある。

 と、そこで戦闘にも変化が訪れていた。見定めが済んだのかアザゼルとリアスが一誠達に合流しており、アルヴェム達もその場から崖下へと降りることにする――

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