ハイスクールD×Dー機械仕掛けの少年と紫髪の歌姫ー   作:ホスパッチ

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第六十七話『若手悪魔の会合』

「あの、私まで同席して大丈夫なんですか?」

「置いていくと気まずいだろう。だったらキミも若手悪魔を見ていた方がよほど有意義だと思ったんだ」

 

 心配そうに問いかけてくるのはエイミィーだった。

 グレモリー領に着いた次の日、アルヴェムが訪れていたのは魔王領にある都市ルシファード。何でもこのルシファードは旧四大魔王ルシファーが首都として機能していたらしい。

 

 そんな場所にアルヴェムはいた。それも容貌を隠すためにフルフェイスのヘルメットまで着けて。

 アルヴェムはサーゼクスの息子として、すでに冥界中に知られているために注目の的になっている。それに記者会見以前に一般市民に見つかると、それはもうややこしいことになるのでそれまでは目立った行動を控えるようにグレイフィアから言われていた。

 

 それならグレモリー家の本邸に残れば良かったのだが、このルシファードにて新鋭若手悪魔の会合が行われるために動かざるを得なかった。

 リアス達とは一度別行動になったために、アルヴェムはイングヴィルドとエイミィーを連れて街の観光をしながら指定された位置を目指して歩いているのだ。

 

 冥界でも都市部まで来れば、人間界と同様に近代的な施設が多くなる。

 むしろ、人間が描く未来の街がそのまま表れていると言ってもいいほどの街並みだ。

 だが、そんな街並みを素直に観察できない自分がいるとアルヴェムは感じていた。そんなアルヴェムに気付いて、イングヴィルドが顔を覗かせる。

 

「アルヴェム、何だか疲れてる……?」

「気苦労だけで言えばな。巻き込まれるのも大概にして欲しいよ」

 

 事の発端は先日の食事にあった。

 リアスの父、そしてグレモリー家の現当主であるジオティクスとその妻であるヴェネラナに挨拶をしたまでは良かったのだ。二人ともサーゼクスがアルヴェムの存在を隠していたことに遺憾の意を示していたが邪険にすることもなく受け入れてくれた。

 

 ただ、問題はそこではなくリアスと一誠の関係性にある。

 フェニックス家との婚約を破談にした以上、一誠の存在をリアス最後のわがままだと認識しているジオティクスとヴェネラナは二人の関係について次々と話を進めようとしたところ、リアスがそれに反発。

 しかし、ヴェネラナは裏でどれだけジオティクスとサーゼクスが根回しして事を収めたのか知っているが故に反論を許さなかった。

 

 正直言ってここまではいい。リアス自身の問題であり、アルヴェムには関係ないのだから。

 問題なのは、その次に放ったヴェネラナの言葉だった。

 

『あなたは何を言おうと魔王の妹。否が応でも周りはあなたをそう見ます。そして、三大勢力が協力体制に入った今、他勢力の下々まで知られることになる……もう勝手な振る舞いも許されません。今後のあなたを誰もが注目する、あなたはそんな立場になったのです。二度目のわがままはありません。甘えた考えは大概にしなさい――アルヴェム、あなたもですよ』

『……え?』

『我関せずと食事を楽しんでいる場合ではありません。あなたは魔王の息子、今まで姿を見せられなかった経歴から動向はリアス以上に注目されるでしょう。聞けば冥界のことを詳しく知らないようですね。だったら、一誠さんと共に素養を身に付けるため特別な訓練をしてもらいます』

『マジか……あの、おじい様。何とか――』

『すまない。私では力になれないようだ』

 

 肝心な時に何の役にも立ってくれない祖父だった。

 そういうわけで、アルヴェムは一誠やミリキャスと共に勉強をさせられることになり、貴重な冥界入り初日が潰されたのだ。しかも、これから悪魔文字の読み書きや歴史だけではなく、社交界に出た時用にダンスまで覚えなければならないらしい。

 

 割と細かく決められてしまったスケジュールに流石のアルヴェムも嘆息したくなってくる。

 しかし、イングヴィルドはそうではないようだった。

 

「わ、私も、立場的には……必要になってくる、よね」

「そうだな。魔王の血を引くイングヴィルドやエイミィーも立場的に社交界へ出る必要があるかもしれないな。今のうちから冥界について学んでおいてもいいだろう」

「…………」

「アルヴェム様……それは違いますよ……」

 

 頬を膨らませるイングヴィルドに、少し呆れた様子のエイミィー。

 どうやらイングヴィルドの真意を取り違えたようだが――訂正している時間はなさそうだった。

 アルヴェム達が目指していた都市の中でも一番高い建物。その直下に辿り着いていた。

 

 警護をしている悪魔達に怪しまれるも、フルフェイスのヘルメットを外せば慌てて地下へと誘導される。あの一瞬で一般市民からの視線が急に集まったため、焦ったようだ。

 

 この建物は地位のある悪魔が会合に使われる重要なものであり、一般の悪魔達は入ることさえ許されない。一度入ってしまえば後は事情を知る者しかいないために、アルヴェムは手に抱えたままのヘルメットを消滅のバリアによって消し去る。

 

 それを消滅の魔力だと勘違いしたのか、随伴していたボディガード達が感心の声を上げる。

 本当にサーゼクスの息子なのだと確信しているようだ。実際はまるで違うが。

 ともあれ、案内されたのは大きなエレベーター。これに乗って指定された上階に行けば、若手悪魔達が集まっている会場へとたどり着くようになっている。

 

「ちょっと、緊張してきた、かな……」

「どのような面々が集まっているんでしょうね。まともな人がいれば良いんですが……」

「キミの悪魔に対するイメージがまあまあ悪いことはわかったな」

 

 確かに今まで出会った悪魔はリアスやソーナ、サーゼクスとほとんどが友好的だった。

 しかし、ライザーのように人間や下級悪魔を見下す貴族らしい悪魔もいる。ある程度、悪魔に詳しいエイミィーからすれば、そのような感想が出てくるのも無理はない。

 

 エレベーターに乗って少し経つと、かなり上階に上がったところで停止して扉が開く。

 そこは広いホールだった。飾られている絵、花瓶や装飾品に至る全てが高級品であり、どれもがこの空間の豪華さを演出している。

 

 降りるなり、一人の使用人悪魔がアルヴェム達に気付いて一礼する。

 

「ようこそ、アルヴェム・オーヅァ・グレモリー様。こちらへどうぞ」

 

 先行して歩き出す使用人にアルヴェム達も後を追ってついていく。

 通路を越えた先、あったのは一つの大きな扉。使用人が開ければより強い光が差し込んできて――見えたのは大広間にいる多数の悪魔だった。

 

「こちらでしばしの間、お待ちください。規定時刻になれば、再びお呼び致します」

 

 そう言って、使用人の悪魔は一礼して立ち去っていく。

 見渡すとリアスやソーナはまだ到着していないようだった。

 つまり、誰一人として知り合いのいない空間。そしてアルヴェムの容貌もあって、様々な視線が送られてくる。

 

 警戒して誰も近付いてこない、そう思えば一人だけ近付いてくる男性がいた。

 年齢はリアスとそう変わらない。黒髪の短髪に紫色の瞳をした、魔力至上の悪魔にしては珍しく鍛え上げられた肉体を持つ青年だ。

 

 その容貌はどこかサーゼクスを思わせるもの。

 どこか親近感を感じたのか、相手からアルヴェムへ声を掛けてくる。

 

「はじめましてだな、アルヴェム。話には聞いている。俺はサイラオーグ・バアル、バアル家の次期当主だ」

 

 バアル、すでに事前調査で知識としてはあったが魔王の次に権力を持つ『大王』の家系だ。

 いきなりの大物の登場だが、祖母のヴェネラナも元はバアル家。理由があって疎遠にはなっているものの、アルヴェムからすると従叔父にあたるのだろう。

 

 こちらは魔王の息子。同じ新鋭若手悪魔だが、爵位を考えると向こうの方が上。この場合、どのように対応すべきなのか。疑問を浮かべるも、サイラオーグは反応に困る様子を見て快活に笑う。

 

「何、気を遣うことはないさ。俺も気を遣わん。互いに敬語は無しでいく……それでは駄目か?」

「いや、それに賛成しよう。改めて、俺はアルヴェム・オーヅァ・グレモリーだ。よろしく」

 

 器量が大きい人物のようで手を差し出されれば、アルヴェムも握手を返す。

 その手は大きく、そして手のひらからは血豆を何度も潰しただろう固さが伝わってくる。

 それで納得した。先ほどからサイラオーグに魔力を一欠片も感じなかったが、本当に魔力を持たずに生まれた悪魔なのだろう。そして、あまりあるハンデを肉体を極限にまで強化することで補っている。

 

 他の面々を見れば魔力はあれど正面から戦えばサイラオーグに勝てる者はいない。

 間違いなく、アルヴェムを抜いた状態で言えば若手悪魔最強と言えるだろう。

 

「コカビエルを倒した実力、いつか見せてもらいたいものだな」

「俺もキミの戦いには興味が出てきたところだ。機会があれば戦おう」

 

 手を離せば挨拶は終わり、サイラオーグは元の場所へと戻っていく。

 大広間には他にもいくつか悪魔のグループがある。どれも同じように若手悪魔を中心としたものなのだろう。それぞれの派閥に分かれて、とても穏やかとは言えない雰囲気が流れていた。

 

 何せ、ライバル同士だと言ってもいい関係だ。友好的に接してきたサイラオーグが珍しいとも言える。

 その中でもエイミィーが向けていたのはサイラオーグではない、さらに奥にいた黒髪の優し気な雰囲気を持つ青年を囲っている外套に身を包んだ不気味な雰囲気を持つ女性達だった。

 

「あの女性達がどうかしたのか?」

「どこかで見たことがある気がするんですが……どこでだったかを思い出せないんですよね」

「脅威になるか?」

「いえ、到底及びません。ですが、うーん……何だかもやもやします」

「思い出せないなら仕方がない。あまり見ていて絡まれるのも面倒だから、適度に視線は外しておいてくれ」

 

 アルヴェムの言葉にエイミィーも頷くが、やはり気になるのか腕を組んで首を傾げ、考える素振りを見せる。

 残る一派閥は眼鏡をかけた女性を中心にしたものだ。淡い緑が混じった長いブロンドの髪、切れ長の双眸は冷たい印象を与える冷徹な雰囲気を身に纏っている。

 特徴と言えば前髪を左右に分けた髪型のために額が目立っていると言ったところか。魔力を持つ者で考えれば、その魔力量は広間にいる誰よりも恵まれたものである。

 

「――おいおい、随分とシケた会場じゃねえかよォ!!」

 

 再度扉が開かれる鈍い音と共に、今までの静寂が嘘のように下品な大声が聞こえてきた。

 振り返ってみれば当然リアスやソーナではない。その風体は人間界で言う『不良』そのものといった男性だ。人相は悪く、顔には魔術的な意味を持つだろうタトゥーの数々、連れている眷属悪魔達同様に見た目で威圧するには十分なほど邪悪さが滲み出ていた。

 

 不意な大声に両肩をビクッと震わせて驚いたイングヴィルドはアルヴェムの背に隠れてしまい、一方で先ほど見ていた眼鏡の女性がわざと相手にも聞こえるような音でため息を吐く。

 当然、現れた不良の男にもそのため息が聞こえ、ズカズカと歩いては女性の前に立つ。

 

「よォ、シーグヴァイラ・アガレスさんよ。今、何か無駄にデケェため息吐いたみてぇだが、俺に用があるってことだよなァ?」

「ゼファードル・グラシャラボラス……次期当主が行方不明になって空いた席に運良く座った不良風情が偉そうに物をほざいていると思っただけよ。珍妙な生物は見世物小屋に帰ってはいかがかしら?」

「ナメた口利きやがって……そういうお前こそ処女臭くてたまらねぇぜ! 何だったら、そこの個室で俺が一発開通式を上げてやろうか?」

 

 互いに跳ね上がる魔力は周囲の床、天井、そしてテーブルにひびを入れていく。

 この光景に呆れ果てたサイラオーグは心底嫌そうな表情で眷属を連れて、一度広間から退室してしまう。

 一触即発の雰囲気に残されたのは、アルヴェム達と黒髪の青年達となった。あちらは介入する気がないの様子で我関せずと見ることもやめてしまっている。

 

「アルヴェム、どうするの……?」

 

 不安げに問いかけてくるイングヴィルド。

 このまま暴れられればこちらにも被害が出る可能性がある。そう考えると介入する余地は十分にあった。

 

「少し待っていてくれ――すぐに黙らせてくる」

 

 言って、アルヴェムは身に纏う魔力が火花を散らすが如くぶつかりあっているゼファードル、シーグヴァイラの間へと入っていく。

 いきなりの乱入者に両者驚くも、ゼファードルはすぐに声を荒げた。

 

「あぁ? 何だテメェは!?」

「この場は互いに挨拶を交わす場と思っていたんだが、そうではなかったのか?」

「テメェには関係ねぇ話だろうが!!」

 

 怒りで言葉が耳に届かないのか、額に青筋を立てたゼファードルはいきなり魔力弾を拳の一撃と共にアルヴェムへと放った。

 直撃した傍から爆発を引き起こし、巻き起こった砂埃によってアルヴェムの姿は見えなくなる。だが、イングヴィルドやエイミィーに心配する素振りは見られなかった。

 

 ――何せ、この程度の攻撃ではアルヴェムを倒せないことは百も承知なのだから。

 

「……話し合いで終わりたかったが一発殴った方が早そうだな」

 

 相手がヒトならば交渉のしようがあるが獣であれば言葉は無意味だ。

 素のままでも十分だが力を見せつける良い機会でもある。舞い上がる砂埃の中でアルヴェムの身体は変形を遂げ、砂煙を裂くと同時に拳がゼファードルの顔面を捉える。

 

Assault Mode(アサルト モード)

 

 砂煙から現れたのは黒を基調としたボディに赤いラインを走らせた人型の鎧。

 近接戦特化形態と化したアルヴェムは、ゼファードルの顔面を直撃している拳の手首にある装甲がさらにスライドさせると推進器が現れ、火を噴かすと同時にさらなる衝撃を加える。

 吹き飛ばされたゼファードルは頑丈な壁をいくつも突き破っては外へ飛び出し、その姿は星となってしまった。

 

「き、貴様よくも……っ!」

『そのまま向かってくるのは構わないが、今すぐ主を回収した方が賢明だと思うぞ。それとも大事な行事をこのまま欠席するのがグラシャラボラス家の礼儀なのか?』

「くっ……!」

 

 今にも向かってきそうだったゼファードルの眷属達も状況を冷静に見て踵を返して走り出す。あの調子ならばリアスやソーナ達が揃い、上層部の準備が整うまでに回収は間に合うだろう。顔面の方はアルヴェムの知ったところではないが。

 

「…………っ」

 

 これでゼファードル側は解決した。

 振り返るとシーグヴァイラも、あまりに一瞬の出来事に驚いているようで先ほどまでの剣呑な雰囲気はどこにもない。だが、一応のため問いかけておく。

 

『一応聞くが、そちらがまだ続けるつもりなら俺が相手になるがどうだ?』

「いいえ、助かりました。あの……初対面にも関わらず申し訳ありませんが、その、一つ質問してもよろしいでしょうか……?」

 

 手で催促するとシーグヴァイラは今までの冷徹な雰囲気はどこへやら、ぱぁ……っと花が咲いたような明るさで目を輝かせる。

 まるで神々しいものを見るような、ミリキャスが向けてきた純真な目。それが何故起こっているのかアルヴェムにはまるで理解できなかったが――

 

「今、変形しましたよね? あなたは人型ロボットなのでしょうかっ!?」

 

 熱の籠った視線。そして、期待に満ちた双眸。

 関われば確実にまた時間を取られる気がしてならない――そうアルヴェムの直感は告げた。

 だからこそ、躊躇わずに、

 

「……幻覚ですよ」

 

 瞬間的に元の姿に戻って嘘を吐いた――

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