ハイスクールD×Dー機械仕掛けの少年と紫髪の歌姫ー 作:ホスパッチ
若手悪魔との会合を終えた後、アルヴェムはすぐに会場を移動していた。
一般の記者達がカメラを携えており、アルヴェムの登場と同時に沢山のフラッシュが焚かれる。中には映像を撮る者もいて、やや眩しさを感じながらも用意された席につくと司会の女性――グレイフィアが進行していった。
記者へのルール提示。そして、終了時間。
注意事項を告げる間にアルヴェムは事前にグレイフィアから刷り込まれていた回答案を思い出す。
突然現れた魔王サーゼクスの息子、誰もがその出自を気にする。なので、その点は重点的に考えられていた。
アルヴェムは生まれつき消滅の魔力とは別の強い力を持つ変異体であり、制御できずにいたというところから始まる。
身内にも内緒で表舞台には出ずに辺境で育つ過程で力の扱いを覚えたことで、次世代を担う若手悪魔として帰ってきた。それがサーゼクスとグレイフィアの考えたストーリーだった。
マスコミにこの裏を取る方法はない。
何せ真っ赤な嘘なのだが、容姿がサーゼクスに似ていることは何よりも否定できない材料ではある。変身魔法で見た目を変えている、など言われる可能性もあるがそこは魔王の権威。理由を言えば、それは真実となる。
現に記者は生い立ちを聞いてきて、考えられた通り答えると異議を唱える者はいなかった。
代わりにミリキャスとの関係性はどうか。初めて弟君に出会った時、どんな反応はだったかと聞かれるも、それは実際に体験したことを話す。
おぉ……と感嘆の言葉を零す記者達。
会見はスムーズに進行し、これで大体聞くことは終わったかと思った矢先、手を挙げる者がいた。
記者の中でも要注意人物としてグレイフィアから聞かされていたゴシップ記事を得意としており、手段を選ばないと聞く。関わりがある範囲で言えばリアスや一誠のことも書いていたらしい。
フェニックス家と婚約が破棄された際に『リアス姫、伝説のドラゴンを使って婚約に物申す!』などという見出しで好き勝手書いていたようだ。権力にも物怖じしない姿勢らしく、数々のゴシップを握り締めているため貴族悪魔からも良い目では見られていないそうだ。
そんな男性記者は分厚めな唇を震わせて問いかけてくる。
「少し面白い写真が取れまして、まずはこちらを確認してもらってもよろしいでしょうか?」
勝手にアルヴェムの背後にあったスクリーンに映し出されたのは、いくつかの写真。
写真に写っているのはイングヴィルド。人間界でアルヴェムと隣り合って歩く姿だった。
本来、駒王町はリアスやアルヴェム、その他眷属のプライベートも配慮して、グレモリー家の管轄下であり冥界の記者は立ち入りと撮影を禁止されているらしいが、どうやら
「こちらの女性、何でも現状アルヴェム様唯一の眷属で『女王』だそうですね? しかし、この親し気に歩く姿はそれ以上にも見えるのですが……彼女との関係について、お話をいただけると幸いです」
にんまりとした卑しい笑みを作って問いかけてくる男性記者に、司会を担当していたグレイフィアが反論しようとする。管轄地域内での撮影、プライベートの侵害、明らかにタブーであることからその口を封じようとするも、アルヴェムは軽く手を向けて制止した。
この場で脅したところで、それをまた見出しにでも記事を書くつもりだろう。そうなれば魔王の妻であるグレイフィアがゴシップの的になるはずだ。加えて、アルヴェムとイングヴィルドの関係について確信を得ようと冥界でもしつこく追ってくる可能性がある。
だったら、この場で答えて、それ以上追及してこようとした場合はアルヴェムにも考えがあった。
しかし、イングヴィルドとの関係をどう説明したものか。
恋人、そう言うのは簡単だが恋人にも色々なランクがある。人間界で学んだことだが恋人とは一過性のものから結婚まで発展する長期交際まで幅広い。
だったら――
「彼女の名はイングヴィルド・レヴィアタン、前魔王レヴィアタンの血を引く者です。彼女と出会ったのは偶然ですが、共に時間を重ねるにつれて何も知らなかった私は誰かを想い、愛する心を知りました。私にとって、イングヴィルドは『女王』でありながら――生涯のパートナーとなります」
はっきりとした物言いに吹っ掛けてきた男性記者まで口を呆けて開けていた。
秘匿されていたレヴィアタンの血筋。魔王の息子との交際関係の明確化。妻に迎え入れる気があると、聞きたかったこと以上のことを聞けたのだろう。他の記者はさらにカメラのフラッシュを焚き、その発言をしたアルヴェムを写真に収める。
しかし、アルヴェムが「それともう一つ」と言葉を続ければ、記者達の動きが止まった。誰もが次の言葉に期待しただろうが――アルヴェムは先ほどと違ってその期待に応えるつもりはなかった。
「私やイングヴィルドに対する質問があれば、いくらでも私が答えます。ですから、イングヴィルドを追うことはやめていただきたい。今の生活は彼女にとって、やっと得た平穏な暮らしなのです。それを侵そうとするならば――
同時に、ゴシップ記者が何度も手で回していたペンが吹き飛ぶ。言葉と起きた現象は記者の悪魔たちを威圧するには十分過ぎるほどだった。
あれだけ卑しい笑みを浮かべていたゴシップ記者ももう片手に持っていたメモ帳を落とすほどで、他の記者もカメラで撮ることも忘れて圧倒されている。
魔王の息子として正しい対応ではなかったと思うが効果はあるはずだ。これでイングヴィルドに迫ろうとする者がいればよほどの馬鹿に違いない。
誰も話さなくなった静寂が支配する会場内でグレイフィアが「他にご質問がなければ、此度の記者会見を終了させていただきます」と場を収めていった――
―○●○―
「先ほどの会見、前半は良かった後半の脅しは感心できません」
「図に乗る奴は力で黙らせた方が早い……俺の持論です。まあ、褒められたものではないでしょうが効果はあるはずですよ」
魔王領都市ルシファードから離れたアルヴェムは話しながらも着替えていた。
何せ、着替えた後にすぐ冥界の首都リリスへ転移。そこにある式典用の会場で最上級悪魔になるための儀礼が執り行われる。
悪魔の貴族服は無駄に肩幅が広く設計されており、腕を上げようにもあまりに動きにくい。
不満そうに身体の感触を確かめているのを察してグレイフィアはその身なりを整えつつ、
「動きにくいでしょうが、元々悪魔は活発に動くことなどありません。純血悪魔ほど魔力、魔法を重んじますので戦闘では近接格闘戦などほとんどありません。泥臭い戦いは魔力に恵まれない元人間や下級悪魔がするとされていますから」
「随分と窮屈な話だな……」
「知らぬ者はしきたりを煩雑なものだと軽視します。しかし、悪魔は貴族社会。その根幹を支えているのはしきたりという絶対のルールです。それが機能しなければたちまち社会は崩壊してしまう。窮屈だろうと、いくら変革の時代であろうとも変わらぬ事実です」
「確かに変化が続けば貴族達も立場を失う。そうなれば……新しいテロリストがまた増えそうだ」
現在テロリスト集団筆頭の『禍の団』にいる旧魔王派は追い詰められた末の行動だろう。結局、彼らも圧政を受けた貴族社会の犠牲者とも言える。
ただイングヴィルドに手を出した以上、消すことは確定している。同情はすれど容赦はしない。
そう考えていると着替え終えたアルヴェムは後ろへ目をやる。
そこには同じく正装のドレスに着替えているイングヴィルドがいるのだが、どうにも表情が緩んでいる。にへらぁ……と笑っていて心ここに在らずといった状態だ。
「……どうしたんだ、イングヴィルド?」
「よほどアルヴェム様から『生涯のパートナー』だと言われたことが嬉しかったのでしょう。イングヴィルド様、浮かれている暇はありません。もう出発のお時間となります」
「はぁい……」
「本当にこんな調子で大丈夫なのか……?」
心配になるものの、本番になれば大丈夫だろうと楽観的な思考でアルヴェムは式典の会場へと向かうことになった――
―○●○―
「上級悪魔昇進おめでとうございます!」
式典を終えてグレモリー家の本邸に戻れば出迎えてくれたのはエイミィーだった。
流石に眷属ではない以上、式典会場までの同行は認められず留守番してもらう形になっていたが、エイミィーはそんなことを露ほども気にしていなかった様子だ。
それよりもエイミィーの視線はアルヴェムの手にあった。
手には式典時に付与された『
「それが『悪魔の駒』、でしょうか?」
「ああ。何でも持ち主の素養によって色を変えるらしいんだ。だから部長は紅色で俺は鈍色。どういう基準かはわからないけどな」
「これで眷属集めが始められるわけですね! そうですか、眷属集め……眷属……」
と言いながらエイミィーは『悪魔の駒』とアルヴェムの顔を交互にチラチラと見てくる。
その視線は何かの期待に満ちたもので、アルヴェムの言葉を今か今かと待っているようだった。
流石に言葉にせずともアルヴェムにもその考えが分かる。だからこそ、エイミィーの目を真っ直ぐに見て、
「エイミィー、俺の眷属に――」
「はいっ!!」
「返事が早いな」
あまりに早い返事にアルヴェムも思わずツッコミを入れてしまった。
とはいえ、これほど強力な眷属は他にいないだろう。
隕石すらも自由に操る星の双眸を持つアスモデウスの特性を持ち、神滅具すら容易く創り出す神器を持つ超常の存在。そんなエイミィーを眷属にできるならば、それ以上のことはない。
ケースから『戦車』の駒を二個外す。
一誠もそうだったが他種族を悪魔に転生させる際、その素養によって必要な駒数が変わってくる。
『兵士』を一とするならば『僧侶』と『騎士』が三、『戦車』が五、『女王』九となる。『戦車』の駒価値が高いのはレーティングゲームの際、『王』と位置を変えられる『キャスリング』という能力にあるらしい。
エイミィーの素養は段違いのもの。それ故に二つの消費を見込んでいるのだ。
すでに眷属になる気満々のエイミィーはその場に跪いて今か今かと待ち望んでいる。
アルヴェムが『戦車』の駒を差し出すと淡い光に包まれた駒が二つ、エイミィーの元へと飛んでいく。
駒価値にして十、駒はゆっくりとエイミィーの中へと入っていき――
「これで私も――」
飛び出した。
カランカラン、と駒が地面を跳ねて転がり、止まると共にエイミィーの目が点となった。
これにはアルヴェムも予想外で一度考えると、再度『戦車』の駒を差し出して――結果は同じくして駒が飛び出して終わりだ。
あまりの予想外の出来事に三人は理解が追いつかない。
考えられるとすれば、エイミィーの価値は『戦車』の駒二つという『女王』の駒価値を超える状態でも眷属にすることができない。そういうことなのだろう。
「あ、アルヴェム様……? これ、どうにかできるんですよね……? 私も、アルヴェム様の眷属になれるんですよね……?」
もう泣きそうな顔で縋りついてくるエイミィー。
ただ、現実は非情だ。事実がある以上、それを伝えなくてはならなかった。
「…………また、今度な」
遠い目をして、そう伝えるとエイミィーのギャン泣きがグレモリー本邸前で響き渡る。
その後、すぐにどうしたどうしたと本邸にいたリアス達が様子を見に来るのだった――