ハイスクールD×Dー機械仕掛けの少年と紫髪の歌姫ー 作:ホスパッチ
「ひっぐ……えぐ……ふぐぅううう……」
あれからギャン泣きしてしまったエイミィーを珍しくゼノヴィアが抱きしめていた。
いつもならば冷遇しているところだが、今は眷属になれないことがそれ以上にショックらしい。見ていて、アルヴェムもイングヴィルドも胸が苦しくなるほどだ。
一方、嬉しさと憐憫が交互に来ているゼノヴィアはとりあえずエイミィーの頭を撫でて宥めており、どうにもできないアルヴェムは腕を組んで考えていた。
リアスもこの事態には困った表情を浮かべ、
「アルヴェムは『戦車』の駒一つで転生できたのにね。それほどエイミィーの素質がすごいってことなのかしら……」
「あれは俺の中に入れて駒を改造したから何とかなったんだ。今だから言えるが、俺は悪魔に転生してはいない。駒を中に入れただけの偽造悪魔みたいなものだ」
「あなた、そんなことしてたの……」
「それでしたら、今持つ駒も改造すればエイミィーちゃんも適応できるのではないでしょうか?」
「……正直、時間がかかるな。完全に解析を行わないとどうしようもない」
話には聞いたが『
エイミィーで同様のことを行おうとすると『戦車』の駒を解析した後、エイミィーの身体を解析して彼女に合うように変化させなければならない。ゼファードルとのレーティングゲームどころか若手悪魔同士の総当たりが終わる頃にも間に合わない状態だ。
さらに言えば、先ほど駒を入れた感覚はアルヴェムの時ともまるで違う。
エイミィーはただでさえ天使と悪魔の混血。神器も特別なものを有している。感じた何かを解明するまでは他の駒と合わせて転生させようとしたところで無駄だろう。
とはいえ、泣かせたままでは互いに後味が悪い。
今もゼノヴィアに抱きついたままのエイミィーの前に片膝をつけると、なるべく優しい声音になるように声をかける。
「はっきり言って今すぐは無理だ。これから先も確証することはできない。だから――『戦車』の駒を預かっていてくれ」
差し出された手に乗せられた二つの『戦車』の駒。
それを見たエイミィーはアルヴェムの行動に驚き、思わず涙が引っ込んでしまう。
「で、ですが……そうすると、アルヴェム様の『戦車』はずっと欠けたままに……」
「『騎士』が剣なら『戦車』は盾、レーティングゲームではよくそう例えられるらしい。俺が『盾』を選ぶなら迷うこともなくエイミィーがいいと思ったんだ。それはどれだけ時が経とうとも変わらない。だからこそ、これをキミに託す。一緒にレーティングゲームには参加できないが、その『在り方』は俺やエイミィー、そしてイングヴィルドが望むものと同じなのだから」
「アルヴェム様……はい、わかりました!」
数瞬前まであれだけ泣いていたというのに、暗い雰囲気もどこへやら。抱きついていたゼノヴィアを突き飛ばしてエイミィーが完全に復活した。
差し伸べられた手に、自らもまた床に膝をついて恭しく『戦車』の駒を受け取る。
これで遺恨は残らない形にはなったものの、一部始終を見ていたリアスは疑問を口にした。
「でも、三日後にはグラシャラボラス家とのゲームなのよね? 実力は心配してないけど、流石に眷属がイングヴィルド一人だけだとゲームにも支障をきたすわよ?」
「レーティングゲームは力だけでない特殊ルールで行われるものも多いと聞きますわ。例えば『王』は行動できず、全てを自らの眷属に任せたり、一度使った眷属は使用できなくなったり……そういった場合、アルヴェムくんは不利になってしまいます」
「確かに過去の対戦データでも多種多様なルールがあったな」
「こういう眷属が欲しいとか、そういうアテや要望はあるのかしら?」
リアスの問いにアルヴェムは少し考える。
イングヴィルドは必要だった過程で『女王』の駒を与えた成り行きに過ぎないが、これからは違う。アルヴェムは『王』として共に歩む眷属を見つけていかなければない。
「そうだな……数だけ揃えるならば兵を作ればいいだけだから何とかなる。それに使えるかは別にして『兵士』なら三人ほど考えがある。他は独創性がある者、成長性のある者が良い」
「良かったわ。イングヴィルドとエイミィーだけで十分だって言いそうだったから」
「これから先、同じ志を持つ『仲間』は必要になってくるはずだ。それにアテも少しある」
「アテ?」
と、イングヴィルドが小首を傾げたところでアルヴェムは別方向へと目をやる。
つられて他の面々もその視線を追うとそこに立っていたのは片手を軽く挙げたアザゼルだった。
「よっ、お前ら。それぞれレーティングゲームが決まったらしいじゃねえか」
「アザゼル、もうそちらの要件は済んだということかしら?」
「ああ。これで堅苦しいのも一旦終わりだ。それよりも対戦までアルヴェムは三日、リアスは二十日と互いに短い時間しかねえ。もたもたしてる暇はねえぞ。修行だ修行」
「アザゼル先生がつけてくれるんですか?」
一誠の問いにアザゼルは頷く。
「堕天使側も若手悪魔のレーティングゲームに一枚噛むことになってな。それぞれバックアップ態勢に入っているが、後は若手悪魔のプライド次第だ。俺らを利用して強くなりたいか、種のプライドを尊重するか……まあ、そこは自由だな。リアス、アルヴェム、お前らはどうする?」
「私はお願いするわ。もう前のような敗北はごめんよ。できることは最大限にする、それが今の私達にすべきことだと思うから」
リアスの人生初のレーティングゲームは敗北から始まった。
その時に味わったものはこの場にいる誰もが忘れられないものになっているだろう。だからこそ、グレモリー眷属で彼女の意に反する者はいなかった。
「俺はいい。すでにイングヴィルドへの修行方針は考えてある。エイミィーはグレモリー眷属も含めて修行の手伝いでもしてやってくれ」
「はい! お任せください!」
「良いのか? 俺としたらエイミィーが参加してくれりゃやりやすくなるが、一応リアス達は敵になるんだぞ」
「構わない。エイミィーの意思次第だが、今回のレーティングゲームの主旨は若手の成長だ。相手が強ければ強いほど俺にも戦う意味ができる」
そう言って、アルヴェムは一枚の紙をイングヴィルドへと手渡す。
「言った通り、修行内容はこの紙に書いてある。俺は『僧侶』のスカウトに行ってくるから、何かあれば連絡してくれ」
「も、もう決まってるの……?」
「『僧侶』に関してはレンタルという形にはなるだろうけどな。それが上手くいけば対戦までに『兵士』と『僧侶』は問題なくなるはずだ。それじゃあ行ってくる」
「あっ、ちょっと、待って……」
踵を返したところでイングヴィルドに呼び止められ、振り返ると一瞬頬へ柔らかい感触が伝った。
いつの間にか近かったイングヴィルドの顔が遠ざかり、彼女の頬が少し紅潮しているのを見るとアルヴェムも頬へキスを受けたことを理解する。
どこか恥ずかし気に小さく手を振ったイングヴィルドは、
「い、いってらっしゃい……」
と、見送りの言葉をくれる。
これには様子を見ていたアザゼルも「ひゅ~っ♪ 熱いね~」などと冷やかす言葉を送ってくるもアルヴェムは構わず口角を上げて笑みを作って、
「ああ、そんなに長くは待たせないよ」
それだけ伝えてグレモリー邸を離れていった――
―○●○―
「突然の訪問に対応していただきありがとうございます――フェニックス卿」
「いやいや、妻共々歓迎させてもらうよ。こちらもすでに若手悪魔によるレーティングゲームについては連絡が来ている。こちらとしてはキミへの助力を惜しむつもりはない」
イングヴィルド達と別れ、アルヴェムが向かったのはフェニックス領。
その中でもフェニックス邸本館がある中心部であり、通された客間にはフェニックス家当主、そして夫人。傍にはレイヴェルも立っていた。
ライザー・フェニックスへの治療時に受け取っていた連絡用の魔法陣が早くも役に立った。
レイヴェルへ連絡を取り、フェニックス家当主との会談を取り計らってもらったのだ。
「だが、驚いたよ。キミが魔王の息子だったとは……」
「あれは俺に立場を与えるための口実ですよ。形としては養子になったとでも思ってください。それよりも、本題に移ってもよろしいでしょうか?」
「そうだな。ゲームまで三日、多忙なキミの時間をあまり取るわけにはいかない。話を聞こうか。我々に何を協力して欲しいのかね?」
促されるとアルヴェムは早速本題へと移る。
「現在、俺の眷属は『女王』のイングヴィルドのみ。眷属を集めるにしても、目先のレーティングゲームに目が眩んで決めては将来後悔すると思います。そこでライザー・フェニックスに『僧侶』であるレイヴェル・フェニックスを
「わ、私をですか?」
「部長とのレーティングゲームの時、ライザー側で指揮を執っていたのはキミなんだろう? その参謀としての力を貸して欲しいと思ってな。期間としては若手悪魔のレーティングゲームが終わるまでか、俺が本命の『僧侶』を見つけるか、キミが自身の『王』を見つけるかまでだな」
「娘のメリットとしては若手悪魔としてレーティングゲームで名を売り、現魔王の長男であるあなたの『僧侶』を務めることで新たな知見を得られる……というところですか」
会話に入ってきたフェニックス夫人の言葉にアルヴェムも頷く。
少なくともフェニックス側には明確なデメリットはない提案だとは思っているものの、フェニックス家の者達からは何故か微妙な空気が流れている。
それを察して、問いかけてみる。
「問題でも?」
「いえ、こちらとしてはお引き受けして良いと思っています。元より娘と空いている『僧侶』の駒をトレードしようとしていたのですが、肝心のライザーが……」
「こちらも最初に連絡をしましたが応答がなく、もしかして何かありましたか?」
「……お兄様は引き籠っていますの」
嘆息交じりに出たレイヴェルの言葉にアルヴェムも納得した。
フェニックス邸に入ってからもどこか使用人達にも活気がなく、何か悩みがあるようだったがやはりライザー関連だったとは。
「大方イッセーに負けてリアスを奪われ、純血悪魔のプライドが酷く傷ついたんだな」
「おっしゃる通りですわ。まあ、才能と能力を過信して調子に乗っていましたからお灸を据えるにはちょうど良かったです」
「我が娘ながら辛辣だな……」
などとフェニックス当主も苦笑する。
しかし、そのおかげでアルヴェムがすべきことが理解できた。
「でしたら、俺がライザー・フェニックスを再び蘇らせます。その後、夫人を経由してレイヴェル・フェニックスを譲ってもらう……それでよろしいでしょうか?」
「こちらとしては嬉しい話ですが、アルヴェム様には時間がないと思いますが……」
「キミの力を買ってるってことさ。それにそう時間はかけない」
「そう言うならばわかった。私事ですまないが頼まれてくれるか?」
フェニックス当主の言葉にアルヴェムは「任せてください」と言って、一礼で返す。
そして呼ばれた使用人についていく形でレイヴェルと共に客間を退室していった――