ハイスクールD×Dー機械仕掛けの少年と紫髪の歌姫ー 作:ホスパッチ
「お兄様、お客様ですわよ。扉を開けてください」
レイヴェルの案内のもと、フェニックス邸の中でも不死鳥の彫刻が刻まれた巨大な扉の前までアルヴェムはやってきていた。
コンコンコン、とノックしてレイヴェルが話しかけるも中から返答はない。
寝ているのか、一瞬そう思ったアルヴェムだが数瞬待って中から男性の声が聞こえてくる。
『レイヴェルか……今日は誰とも会う気はない。そういう気分にはなれないんだ』
「入るぞ」
生憎アルヴェムには時間がない。
本人の了承を得ている暇すらないのだから、容赦なく扉を蹴り飛ばす。
いきなりの行動にレイヴェル、後ろからついてきていたライザーの眷属たちも驚き、何か言おうとするもそれより早く部屋の中へと入っていく。
中に入れば見えたのは初めて出会った時からは考えられないほど身なりがみすぼらしくなったライザーだった。
髪はぼさぼさ、その表情からはレーティングゲーム時の自信満々な様相はどこにも感じられない。
呆れたアルヴェムの視線に対し、ライザーは目を丸くし、
「き、貴様はアルヴェム・オーヅァ!?」
「正しくはアルヴェム・オーヅァ・グレモリーだ。サーゼクス・ルシファーの息子という立場になっている」
「グレモリー!? り、リアスの……ぐっ……うぅ……」
グレモリーという名から連想でリアスのことを思い出してしまったライザー。
トラウマを刺激されてしまったのか、背を向けた途端に天蓋付きのベッドへ潜り込み、丸くなってしまう。
「それで……何をしにきたんだ? 赤龍帝に無様に負け、婚約者を奪われ今はドラゴンに怯えて引き籠っている俺を笑いに来たのか……?」
「全部自分で言ったな……」
フェニックスの
すっかり不死鳥から小鳥に成り果てたライザーにどこまでも呆れるも、それで終わっていてはフェニックス現当主や夫人にも申し訳がない。
ライザーの眷属である『兵士』のチェーンソー姉妹が「だいじょうぶですよー」「怖くないですよー」と励ましているうちに、アルヴェムは顎に手を当てる。
「しかし、そうか。ドラゴンが怖いのか……それをどうにかすれば引き籠りから立ち直るか」
と、言ってアルヴェムは数瞬思考を走らせる。
一瞬の沈黙、やがて考えをまとめたアルヴェムはレイヴェル達の方へ向き、
「とりあえず、簀巻きにしてでも外へ連れ出そう。フェニックス領に暴れても良い広い土地はないか?」
「今は使われていない土地ならばありますが……何をするつもりですの?」
「決まっている――
―○●○―
「ま、待て貴様ら! 俺は何も了承していないぞ!!」
「とりあえず、この辺りに置いてくれ」
「「はーいっ」」
あれから十数分後、フェニックス邸から一度出たアルヴェム達はフェニックス領の中でも中心部から離れた未開拓地へとやってきていた。
ライザーはというと眷属総出でシーツにて簀巻きにし、チェーンソー姉妹に抱えられており、割と雑に地面へと投げ捨てられる。
「さて、ライザー。手早く行こう。キミのドラゴン恐怖症をここで終わらせる」
「終わらせるだと……そんな簡単に治せるのなら
「自信満々に言わないでください……」
レイヴェルの呆れたツッコミもどこへやら、簀巻きにされながらも自信満々に言ってのけるライザー。
これだけ言い返せるのだ。まだライザーの中で炎が完全に鎮火されたわけではない証拠だと言える。
後は薪木を与え、その心の炎を再燃させればアルヴェムの仕事は終わりだ。
そう考えていると、レイヴェルが小さく挙手し、
「それで、そろそろ何をするおつもりなのか教えてもらっても?」
「ああ、単純な話だ。ドラゴンに怯えているのなら、立ち向かう気持ちをもう一度奮い立たせる――荒療治だがな」
言って、アルヴェムは全員から少し離れると両手を地面につく。
同時にアルヴェムの身体はカシャカシャとスライド音と立てて、駆動音と共に姿を変化させていく。
『
猛禽類の如き鋭い爪を四つ脚の先に携えた全身に金属の鱗を持つ巨大ドラゴン形態。
その巨躯にこの場にいた誰もが驚く。それもそうだ。レーティングゲームの時にはこの姿を見せることはなく終わったのだから。
しかし、眷属達とは違った意味で驚いている者がいた――無論ライザーだ。
ドラゴンと化したアルヴェムの姿を見るなり顔が青ざめ、
「ど、どどどどど……ドラゴン……」
『俺にはドラゴンの知り合いはまだいなくてな。だから俺自身が今からこの姿でキミを蹂躙し続ける。心を奮い立たせてかかってこい』
「い、いやだぁああああっ!!」
悲痛な叫びと共にライザーは背に炎の翼を顕現。自らを縛っていた縄をシーツごと燃やしてその場から飛び立つも、一瞬でその翼にいくつもの風穴が開く。
アルヴェムの背部に携えられた砲台が一瞬にして撃ち抜いたのだ。
空気抵抗を失ったライザーはそのまま転落。元の位置へと戻ってしまう。
「く、くそ……っ」
『逃げる目的で飛んだと判断したら容赦なく撃ち落とす。さあ、始めるか』
こうして、特訓という名の過酷な
―○●○―
ライザーへの
未だに立ち向かう勇気が出ないのか、ライザーはアルヴェムに背を向けて逃げるばかり。アルヴェムはその背を容赦なく爪で斬り裂いてくる。
余波だけで地面が抉れ、眷属達からも思わず「うわぁ……」と声が漏れる。あんなものをレーティングゲーム時に使われていれば眷属達など一撃で倒されていた。。終始人型で戦ってくれていたことに感謝すらしてしまう。
いくら不死身を司るフェニックスであっても再生には精神力を必要とする。いつものライザーであれば今のようなダメージを受けても一瞬で再生していたが今は燻るような炎で再生も遅い。最初から精神力などない状態なのだ。
「ライザー様、大丈夫かな……」
「…………」
不安げな眷属の言葉に『女王』ユーベルーナは声を返すことができなかった。
ただ一度の敗北。何も知らない者からすればその程度の認識だろうが、上級悪魔にとっては重みが違う。
才能、魔力、全ての素質に恵まれたライザーは今までの人生で負けたことがない。挫折を知らないのだ。
だからこそ、一敗は人生観を歪めるほどに影響する。それもその一敗は元人間の転生者によって付けられた黒星で、愛した婚約者を奪われたのならばなおさらだ。
しかし、負けた後も生きる道は続いていく。
ライザーに仕える眷属達は皆形は違えどライザーのことを尊敬し、『王』と崇めている。
婚約者であるリアスがいなくなっても、どんな姿になったとしても。無償の愛をライザーへ捧げ続けるのが彼女達の本懐だ。
だから、もう一度蘇って欲しい。
自分達を率いて、再び前に進んで欲しい。そう願うばかりだった。
それでも、ユーベルーナ達の想いは未だに主へは届かない。逃げるばかりで、まともにドラゴンの姿をしたアルヴェムを直視できないでいた。
その哀れな姿にアルヴェムは嘆息し、
『気付いているか、ライザー。今、キミが存在し続けているだけでフェニックス家の名は貶められているんだ』
「――っ!」
背部の砲台が変形させながら、アルヴェムは言葉を続ける。
『調べたよ。兄は二人ともレーティングゲームでは上位層なんだろう? 長兄は当主の座を継ぐとも聞く。それで、三男のキミには何があるんだ?』
「俺は……」
『キミはプライドも愛する女性も何もかも奪われた抜け殻だ。だから引き籠って、自分一人の世界に逃げた。キミ一人ならば、それでいいだろう。だが、その状態でいる限り他の貴族から蔑みの言葉を受けるのは兄弟や両親だ。わかっているのか?』
その言葉にライザーは言葉を返せずにいた。
現にレイヴェルも上級悪魔が開くパーティにて、そういったフェニックス家に対する陰口は嫌というほど聞こえてきた。
『そのままだと無価値なまま死んでいく――誰からも認められずにな』
アルヴェムは紅き眼光を輝かせ、同時に背部のミサイルが一斉に発射させる。
軌道を煙が追い、その全てがライザーへと向かって飛んでいく。一瞬物思いに更けていたライザーは一手反応が遅れ、躱せないと思ったが――
「――例え、世界中の誰もがライザー様を否定したとしても……私達はライザー様のことを心から慕っている。だから、眷属として『盾』と『剣』の役目を全うするわ!!」
我慢できなくなったユーベルーナの言葉と共にレイヴェル以外のライザー眷属達が一斉に飛び出した。
全員が負傷覚悟で防護魔法陣を張り、それでも防げなかったミサイルは『戦車』の
実力差は分かっているはず。それでも眷属達の身体は動いた。
その姿を一瞥したアルヴェムは、
『眷属はこう言っているが、お前はどうする? 眷属に任せて見ているだけか?』
「俺は……」
『まあ、一人や二人減ったところで問題はないだろう。何せ、プロのレーティングゲームでは上級悪魔は眷属をすぐに変えるんだろう? 弱い駒を処分する手間を省いてやる』
冷酷に、そう言えばライザー眷属達の攻撃を身に受けながらも、前足がライザー眷属の中でも『兵士』のミラを捉えて地面へと押し付ける。
苦しそうに呻き声を上げるミラに、助けようと他の眷属達がアルヴェムの前足を攻撃するも微動だにしない。
アルヴェムは本気で殺すつもりだ――そう感じたレイヴェルは止めるために声を上げようとするも、それよりも先に一つの炎が地を駆けた。
「俺の――俺の可愛い眷属達を手を出すなッ!!」
今度は揺るぎない炎の翼を携えたライザーの巨大な火球がアルヴェムの顔面を捉える。
一瞬生まれた隙にライザーは踏みつけられていたミラを救出し、少し離れた
「ライザー様、お役に立てず申し訳ございません……」
「良いんだ、お前達のおかげで腑抜けて負け犬になっていた俺の心は死んだ――お前達、すまなかった。これからももう一度蘇った俺についてきてくれるか?」
「「「はいっ!!」」」
完全に復活を果たしたライザーの言葉に眷属達は大きく声を上げ、頷く。
その姿はすでにレーティングゲーム前の……いや、それ以上に凛々しく上級悪魔らしい振る舞いとなっていた。
少々考えていた筋道とは違ったが、これで目標は完了した。
剣呑な雰囲気を身に纏っていたアルヴェムは元の静かな雰囲気へと戻り、
『……わざわざ悪役に徹した甲斐はあったようだな。少しはマシな顔になった』
「おかげ様でな。そして、ついでだ。お前には眷属達を可愛がってもらった分とレーティングゲームでの借りを返させてもらう!」
『ああ、かかってこい。今のキミにはあの時以上に戦う価値がある』
ドラゴンの姿でも笑みを作ったアルヴェムに対し、ライザーも笑みを浮かべる。
自らが久しぶりに笑ったと自覚しながらも、ライザーの一声で眷属と共に立ち向かっていった――