ハイスクールD×Dー機械仕掛けの少年と紫髪の歌姫ー   作:ホスパッチ

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第七十三話『姉妹の和解』

「ゼノヴィアお姉様、デュランダルに振り回されていますよ」

「くっ……!」

 

 アーシアの元から離れて、エイミィーが次に訪れたのはゼノヴィアのもとだった。

 鍛錬は至ってシンプル。ひたすらゼノヴィアとの実戦形式である。

 エイミィーは自らの神器によって刃のないシンプルな西洋剣を作り出し、それに自らの光と魔力を纏わせることによってデュランダルとも打ち合えるようにしていた。

 

 対し、ゼノヴィアはデュランダルを上手く扱えていない部分があるのか、その多大な力に振り回されている印象が強く見て取れる。

 振る度に軸足が利き手へと少しずれる。一見、普段とは数ミリの違いだが戦闘においてはその数ミリすら命取りになってしまう。

 

 現にエイミィーでさえ、その数ミリに割り込める。

 軸足がずれた瞬間、力の方向性に合わせてゼノヴィアの足を引っかけた。ただそれだけでゼノヴィアの身体は面白いほど横回転し、地面へと転ぶ。

 

「武器は身体の延長です。刀身が大きいとか重いとか、そんなものは関係ありません。そう思えるほど自在に扱えなければ伝説の聖剣であっても枝にさえ劣りますよ」

「もう一本だ!」

 

 普段は冷遇しているゼノヴィアだが、こういった諦めないところだけは尊敬している。

 妙な理屈を捏ねたり、こちらが折れるまで延々としつこかったり、施設で共にした時間は短かったもののこうして二人きりになると思い返してしまう。

 

 ――思えば、私が『化物』だと知っても変わりませんでしたね。

 

 そんなことを思いながら、エイミィーはゼノヴィアと剣戟を繰り広げる。

 ゼノヴィアは『騎士』の特性である速度を駆使し、砂煙を巻き起こしながら走って攪乱を狙うも気配はそう簡単には消せないもの。砂煙から飛び出した瞬間を狙えば良いだけ。

 

 砂煙が裂かれた瞬間にエイミィーが剣を振るうも、カンッと金属が接触する軽快な音が響くのみ。見ると弾いたのはデュランダルであり、そこにゼノヴィアの姿はなかった。

 

 しかし、すぐにその姿は露になる。

 上だ。ゼノヴィアはデュランダルを投擲したと同時に宙を舞い、弾かれたデュランダルを空中で受け止めるとそのままの勢いで振り下ろす。

 

「……惜しかったですね」

 

 視界から外れたまでは良かったが、空中では逃げ場がない。

 振り下ろされたデュランダルに対し、剣を絡めてゼノヴィアの手からデュランダルを弾く。その後、武器を失ったゼノヴィアの首筋に剣を突き立てる。

 

「また私の勝ちです」

「はぁ……はぁ……やはり、エイミィーは強いな」

 

 すでに合流してから何十戦もしているため、ゼノヴィアも疲労を隠せず、その場に大の字で倒れる。

 少しの間、エイミィーはその姿を見下ろすも、やがてゆっくりとその隣に腰を下ろした。

 エイミィーの行動にゼノヴィアも驚き、目を丸めて何か言おうとするもエイミィーが先に口を開く。

 

「気になっていたので聞きますが……どうして私を妹にしたんですか?」

「……そうか、話したことはなかったな。でも、単純な話だよ。初めて出会った時、エイミィーを見て家族になりたいと思ったんだ。何と言えば良いかな……一目惚れ?」

「間違いなく妹相手に使う言葉ではありませんよ、それ」

 

 ゼノヴィアは戦闘だけではなく普段から感覚派だ。自分が思ったらこう、を素でしており、そして変なところで強情。かつて世話になったシスターもかなり手を焼いていたのを覚えている。

 何を伝えたいかは不明だが、代わりにエイミィーなりの解釈を伝える。

 

「私に同情したんですか? あの時にはすでに私がどうして施設に来たか大まかに知っていたでしょうし」

「違うよ。ただ……本当に可愛らしかったんだ」

 

 何を面と向かって……そう思うエイミィーだが、ゼノヴィアの目は真剣だった。

 

「私は神からの愛があれば生きていける……ずっとそう思っていたよ。でも、心のどこかではもっと身近な愛が欲しがってたんだと思う。だが、愛というものは渡して初めて返ってくると聞いたことがあるからね。だから、私は思いつく限りの愛情をエイミィーに与えようとしていた」

 

 その言葉にエイミィーは施設にいた頃を思い出す。

 食事の時にはいつもパンを押し付けてきたかと思えばお腹をすぐ鳴らしていたので返したり、部屋には二つベッドがあるにも関わらずベッドに入ってきて寝相が悪くこちらの睡眠時間を奪ったり、後はやけにベタベタと触ってきたり、当時は本当に全部嫌がらせだと思っていた。

 

 まさか、それら全てが愛情だったとは。

 迷宮入りしていた謎が解けたエイミィーが最初に出た感情は呆れだった。

 だが、ゼノヴィアはゼノヴィアなりに愛情を示していたつもりで、結果的にどこか救われていた部分もあったかもしれない。

 

「私が悪魔になったのは神の不在を知ったから……それもあったが、コカビエルの襲撃時に何もできなかった自分に嫌気が差したんだ。アルヴェムにエイミィーのことを任せてしまった自分に」

「仕方がありませんよ。今の私とお姉様には明確な差がありますから」

「そんなもの関係ないよ。あの時に動けなかったのが私で、動いたのがアルヴェム。そして見事に救ってみせた。姉を名乗りながら妹一人助けられないなんて、あまりにも情けない。だから、これからはエイミィーと共に過ごすためにも自分も悪魔になったんだ」

 

 そんな風に思っていたとは少し予想外だった。

 こうしてゆっくりと話す機会もエイミィーは自ら放棄していたにも関わらず、ゼノヴィアはそれでも不器用ながら懸命に向き合おうとしてくれている。

 

 何と言葉を掛ければいいか、そう考えているとゼノヴィアは上体を起こす。

 そして、拳を握り締め、

 

「私は決めたんだ――エイミィーから頼られるお姉ちゃんになると。だから、まずはエイミィーに一撃でも与えられるように頑張らないとね」

「…………」

 

 今まで自分は『化物』だからとゼノヴィアを避けてきた。

 だが、ゼノヴィアは同じ場所に下りてまで傍にいてくれようとしてくれている。

 

 少し考え、やがてエイミィーは一息吐いて――ゼノヴィアへと手を伸ばした。

 背へと両腕を回し、ゼノヴィアの身体を抱き締めるとゼノヴィアはも驚いて目を丸める。

 構わず、エイミィーは言葉を紡いだ。

 

「――()()()()()()()()()()

 

 それだけ言って、身体を離す。

 すると、鳩が豆鉄砲を食ったような表情のゼノヴィアが見え、思った以上に面白く笑ってしまいそうになるも――直後に鼻から零れた血にエイミィーも驚く。

 

「お姉様!? 鼻血が出てますよ!?」

「も、もう悔いはないかな……」

「ちょっとっ!?」

 

 そのままバタンと受け身もなく倒れてしまい、いきなり修行どころではなくなってしまった――

 

 ―○●○―

 

「――って、ことがあったんです。もう大変でしたよ」

「ふふ……ゼノヴィアさんも、嬉しかったんだと思うわ。だって、私にも相談してきたことがあったから。エイミィーと仲良くなる方法を教えて欲しいって」

「もしかして、家の中で両手を広げてずっと待っていた時がありましたが……イングヴィルド様の差し金だったんですね……」

抱擁(ハグ)はストレスを軽減させるって聞いたから、言ってみたの……そのままするとは思ってなかったけど」

 

 ゼノヴィアとの修行を終えて、エイミィーはイングヴィルドの元へやってきて、そんな雑談をしていた。

 一旦休憩中なのかイングヴィルドは用意されたテーブルの上でノートにペンを走らせている。

 何を書いているのかエイミィーは気になるも、問う前にイングヴィルドが言葉を紡ぐ。

 

「リアスさん達のお手伝いは、もういいの?」

「最後に塔城様が残っていましたが……思い詰めているようで取り付く島もありませんでした。なので、イングヴィルド様の元へ来たんです」

 

 木場は剣術の師匠に一から教わるそうなので出番はなし、一誠も元龍王のタンニーンに山篭もりをしているためこちらも出番はなし。ギャスパーもリアスもエイミィーが関わってしまうと主旨から外れるため、訪れることはなかった。

 

「小猫さんも……朱乃さんみたいに封じてる力を解放しろ、だったかしら」

「はい、どうやら塔城様も私達と同じように普通の生まれではないそうです。何でも妖怪の中でも猫又と呼ばれる強い妖力を持つ種族だと聞いています」

 

 他者の過去を不躾に探る真似はしたくなかったが、関わるにあたって必要だろうとエイミィーにはリアスの母親であるヴェネラナから聞かされていた。

 

「両親を亡くし路頭に迷っていたところ力を買われて姉妹で上級悪魔に拾われ、姉が転生悪魔になることで生活の保障はされたそうですが……転生悪魔になると猫又の力が覚醒し、姉は力に溺れて主を殺して『はぐれ』になったそうです」

「置いて行かれた小猫さんは……傷ついたよね」

「唯一の家族、信頼していた姉が去り残されたのは忌まわしき力だけ……正直、躊躇うのも無理はありませんよ」

 

 きっと、この問題に手を差し伸べられるのは同じグレモリー眷属のメンバーのみだろう。

 部外者が余計な手を加えるべきではないと少し暗くなってしまった雰囲気に、エイミィーは話題を変えるためにイングヴィルドが先ほどまでペンを走らせていたノートを軽く指差し、

 

「先ほどから気になっていたのですが、そのノートには何を書いているのでしょうか?」

「……笑わないで、聞いてくれる?」

「笑いませんよ。例え、抱腹絶倒の落書きがされていたとしても笑いませんっ!」

「そこまで気合いを込めなくてもいいけど……はい、どうぞ」

 

 と、イングヴィルドからノートを手渡されるエイミィー。

 中身を拝見してみると、ページには順番に名前が書かれており、意図が分からず首を傾げてしまう。

 

「これは……お名前ということは分かりますが、何のためのお名前でしょう?」

「……子供。私とアルヴェムの……今から、考えた方がいいかなって……」

 

 指を絡めてもじもじしながら、どこか恥ずかし気に言うイングヴィルド。

 その言葉にようやくエイミィーも合点がいった。名前の数を数えてみると候補も含めて三十を超えた名前があり、すなわち――

 

「ほ、本当に三十人産む覚悟ができたんですか……?」

「うん、頑張ろうかなって……悪魔の人生は長いし、こう、気長に考えればできると思うの」

 

 三十人、アルヴェムが提示した欲しい子供の人数だ。

 一般的に、それも悪魔の社会を考えると途方もない数字だが、短い付き合いながらにアルヴェムは自らが言ったことに対して一切妥協しないことはわかる。

 

 それに対応しようとしているイングヴィルドも規格外だ。エイミィーも二、三人なら頑張ろうと思えるも流石に三十人は果てしなさが過ぎる。

 素直に感心の意を示していると、エイミィーは一つ気になり、

 

「それにしても見たところ全部女の子の名前のようですが、流石に三十人ともなると男の子も一人は生まれるのではないでしょうか……?」

「私も、そう考えたんだけどね。勘、なのかな……女の子しか生まれない気がして」

「……何だか、その勘は当たっていそうですね」

 

 ただの直感でしかないが、エイミィーもイングヴィルド同様にそんな気配を感じていた。

 と、そんな談笑をしていると遠くから人影が二つ、アルヴェムが誰かもう一人を引き連れてこちらへとやってくる――

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