ハイスクールD×Dー機械仕掛けの少年と紫髪の歌姫ー 作:ホスパッチ
決戦の日――
レーティングゲームは用意された専用の空間で行われるが、その映像を映し出す会場の観客席は人々によって埋め尽くされ満員となっていた。
何せサーゼクス・ルシファーの息子……さらに言えば隠し子が初めて一般市民へと公開される貴重な日。今回のレーティングゲームの観戦チケットの倍率は今年度行われたゲームでも最高記録となっていた。
誰もが期待する存在、アルヴェム・オーヅァ・グレモリー。
その登場を今か今かと待ち望む観客席の中にエイミィーはいた。
自分も名誉『戦車』ではあるものの当然ゲームには参加できない。しかし、精一杯の応援をしようと拳を握り締めると肩を優しく叩かれる。振り向けば、そこにいたのはリアスだった。
「ごきげんよう、エイミィー」
「リアス様も観戦しに来たんですね」
「えぇ、元とはいえアルヴェムは私の眷属だったし甥でもある。それに『王』としても戦う相手になるから偵察しに来たのよ」
と言って笑みを浮かべるリアス。その様子から偵察というよりも純粋にアルヴェムの戦いを応援しに来たように見える。
「――そちらは純粋に偵察といったところかしら、シーグヴァイラ?」
リアスが目を向けた先、エイミィーの左隣の席には眼鏡をかけた女性が座っていた。
淡いグリーンがかかった長髪、切れ長の双眸、エイミィーもどこかで見たことがあると思っていたが、気付くよりも早く声をかけられた女性――シーグヴァイラが会釈する。
「会合ぶりですね、リアス。変わらずお元気そうで何よりです。あなたの質問に答えるとすれば、個人的に彼にはとても興味があります」
何という偶然だろうか。いや、この席のほとんどは関係者席であり、若手悪魔ならば敵情視察をしに来るのも普通だろう。
そう考えているうちに、リアスがエイミィーの右隣に座ると今度は背後から男性の声が聞こえてきた。
「ふっ、大公アガレス家の次期当主が目をかけるとは珍しいこともあるものだ」
「……サイラオーグ、あなたも来ていたのですね」
エイミィーの後ろにはサイラオーグが腕を組んで座っていた。
彼もリアスやシーグヴァイラと同じくアルヴェムの実力を見定めにきたのだろうが、エイミィーが気になったのはそこではない。
相手は大公、後で問題になるかもしれないが言わなければならなかった。
エイミィーは慌てて、
「だ、駄目ですよ。アルヴェム様にはすでにイングヴィルド様が……」
「ご安心下さい。そういった男女関係の感情ではありません。ただ――」
「ただ?」
「いえ、これ以上は止しましょう。その答えを確認するために、こうして試合を観に来たのですから」
真意は最後まで話さず、シーグヴァイラの視線は会場の中心へと戻ってしまう。
怪訝に思うも響く歓声が一際高まったことによって、レーティングゲームの主役達が登場するのを察してエイミィーも視線を戻した――
―○●○―
「大事な試合の前に時間を取らせてすまないね」
「いえ、わざわざ激励に来てくれたんですね」
入場口、その通路にはアルヴェム率いる眷属達とその前にはサーゼクスとお付きであるグレイフィアがいた。
本来ならば二人とも三大勢力に加えて他の神話系の神々もいる要人専用の席に行く予定だが無理に時間を作ってくれたらしい。
アルヴェムが軽く頭を下げるとサーゼクスは手を軽く振って、
「父親として息子の活躍を祈るのは当然だよ。魔王としては互いの健闘を祈るべきだが、やはりデビュー戦は勝利を掴んで欲しい」
「ありがとうございます。それで、ママ上からも激励はないんですか?」
「今は一使用人ですので『ママ上』はおやめください……というよりも、前から気になっていたのですが私には遠慮しないのですね」
キッと鋭く見られてしまうも、アルヴェムは「ははは」と適当に作った笑みと共に棒読みで誤魔化す。
それを見て、サーゼクスも微笑み、
「良いじゃないか、心を許されているようで私も羨ましく思うよ。私も早く『パパ上』と呼ばれてみたいものだ」
「それは私が絶対に許しません」
ピシャリと遮断されてしまい、どこまでもグレイフィアに頭が上がらない様子のサーゼクス。
冗談半分で言ったばかりに仕方ない、とアルヴェムも納得しようとしていたが数瞬してグレイフィアは言葉を紡いだ。
「誰が何と言おうとあなた様は魔王の息子です。受け入れた以上それは今も、そしてこれからも必ず付き纏います。ですから――勝ちなさい。眷属の方々と共にあなた様の強さを全ての民に見せ、恥じぬ戦いにしてください」
言って、一礼するグレイフィア。
メイドモードのために本当に激励してもらえるとは思っていなかったために、アルヴェムも目を丸めて少し驚いてしまう。
サーゼクスはその様子を見て、グレイフィアに聞こえないように耳打ちしてくる。
「(今はこんな風に言っているが今日までずっと心配していたんだ。キミの思考は読みづらいから緊張していないか、本当に大丈夫か……なんてね)」
「……それは意外ですね」
「聞こえていますよ」
またグレイフィアに鋭く睨まれてしまうも、今度は照れ隠しなのかほんのりと顔が紅くなっている気がする。
その様子にサーゼクスも嬉しそうで「それではね」と、グレイフィアを連れてこの場から去って行った。
残されたアルヴェムと眷属達、顔をそれぞれ見ていくと緊張しているのが見て取れる。
何せ初めてのレーティングゲーム。それにサーゼクスやグレイフィアからの応援が重圧になっているのだろう。
一瞬で重苦しくなる雰囲気の中、アルヴェムは口を開いた。
「皆、緊張しているか?」
「う、うん……こういうの、初めてで……」
「私も兄のレーティングゲームには幾度か参加しましたが、これほどまでに緊張したのは初めてですね……」
レーティングゲーム初のイングヴィルドは無論、経験者であるレイヴェルでさえも緊張を隠せないでいた。
堕天使三人組に至ってはつい最近まで宿敵であった悪魔側、つまり完全
だったら、とアルヴェムは率直に言った。
「結局『騎士』や『僧侶』、他の『兵士』は見つからなかった。だけど、俺は何も悲観していない。する必要もない。何故なら
その言葉に眷属の皆が目に輝きを取り戻した。
緊張を忘れるように皆が一斉に声を合わせて『はいっ!!』と答え、アルヴェムも頷く。
『それでは皆様お待たせいたしました!! 西口ゲートよりアルヴェム・オーヅァ・グレモリーチームの入場となります!!』
会場に響くアナウンス。
それをきっかけにアルヴェムは眷属達の前を歩き始める。後に続く眷属達にもう不安な様子は見られなかった。
ゲートを潜れば直接レーティングゲームが行われる専用空間へと転移する。
薄暗い通路からアルヴェム達は一気に光を受け――
―○●○―
「…………」
アルヴェムは珍しく事態を飲み込めていないでいた。
転移した先はどこまでも続く真っ白で何もない、ただただ広いだけの空間。そこにレーティングゲームのバトルフィールドはなく、後ろについてきていたはずの眷属達もいない。
何かの罠に嵌められた?
そんな疑問がアルヴェムの頭を過ぎるも、周りの景色がそれを否定する。
真っ白なだけの空間だと思っていたが時折色様々に変化していた。それはまるでテレビが
考えられるのは――アルヴェムの存在がレーティングゲームのルールに引っかかった可能性。
レーティングゲームの公式戦及び特別戦において運営側の想定以上の出来事が起きた際には相応の対応が取られると聞く。
それは主に該当するプレイヤーを違う空間へと強制転移させ事態の収束を図るものだが、今回においては『王』であるアルヴェムが引っかかっている。
自ら言うのも何だが今回のレーティングゲームにおいて、アルヴェムは主役と言っても過言ではない。その主役がいきなり消えてゲームはどうなっているのだろうか。
そう単純に気にしていると、眼前の光景に変化が起こる。
青い光と共に巨大な魔法陣が現れ、そこから現れたのは――一体のドラゴン。
蒼穹の如き鱗を持ち四つ脚で立つ西洋型、そして身に纏う雰囲気から冥界に来て出会ったタンニーンよりも実力は上に感じられる。それに見たところ雌に見えた。
だが、この世界のドラゴンの中でも上から数えた方が早く思えるほどの実力者。
そんな相手がどうしてこんなところに、率直な疑問を抱くも――それは相手のドラゴンも同じようだった。
ドラゴンの表情は人間と違って変化をつけにくいのか分かりにくい。それでも、眉(にあたる部分)を顰めて何とも言えない表情、そして視線でアルヴェムを見つめてくる。
「不正をしているようには見えない……だが、システムは『黒』を指し示している。貴様は何者だ? 顔はサーゼクスに似ていても、その本質はまるで違う」
名乗りもせずに女性の声で問いかけてくるドラゴン。
対し、アルヴェムはアルヴェムで額に手を当てていた。
突如として頭に痛みが走る。眼前の光景にバグが走り、歪んで別の光景が見えてくる。
この感覚には覚えがあった。自分の記憶には存在しない映像がアルヴェムの中で蘇ってきて――
『ノインは本当にかわいいなぁ……』
『どれくらい?』
『食べちゃいたいぐらい! がおーっ!』
『わっ、やめてよーっ! ドラゴンの――が言うと冗談に聞こえないよ!』
そんなことを言いながら、抱きかかえた幼い自分を冗談で食べようとする仕草をしてくる女性。
蒼く長い髪をストレートに下ろしているのは分かるが、顔には靄がかかっていて見ることは叶わない。
それでも楽しそうにしているのは分かる。相手が本気で食べるつもりもないことだって、二人の間にある雰囲気からも察することができた。
と、そこで場面が変わって映像は空中へと変化する。
自分は蒼く大きな床に座って風を感じており、その下より声は聞こえてきた。
『どう? たまにはこんな大空を飛ぶのも悪くないでしょ? ……まあ、あの――や――には内緒だけどね』
『うん、わかってる。でも、父さんたちはおれのことなんて見てないよ』
『…………』
その返答に声の主――蒼きドラゴンは言葉を詰まらせた。
きっと、自分が置かれている環境を知って何と声を掛けようか迷ったのだろう。
だが、その答えはすぐに出たようだった。
『私にとってあなたは「友達」だと思っている。あなたも同じかしら?』
『当たり前!』
『だったら二つ、誓いを立てましょう。一つ、私がいる限りあなたが孤独になることはないわ。私が守ってあげる。両親以上に愛情も与え続けるわ。だから、二度と「俺なんて」って自分を卑下する言葉は使わないこと。例えあなたでも私は自分の「友達」は侮辱されたくないの』
『ご、ごめん……』
そう謝罪すると蒼いドラゴンは『分かればよろしい』と笑って手を挙げると、指の二本目を立て、
『二つ――もし、あなたが私のことを忘れたとしても、私があなたを忘れてしまっても、何度でも友達になって。私は執念深い女だから気に入ったものを逃がすつもりはないから』
『うん、わかった! ――は、俺がもうちょっと大きくなって「悪魔の駒」を貰ったら眷属に絶対するし、そしたらずっと一緒の「親友」だ!』
『ふふ、それも良いわね。でも――』
そこで映像は終わってしまって肝心な部分は欠けて分からない。それでもアルヴェムの中に妙な納得感があった。
だからか、まだ名前も知らない。自らの敵かもしれない、同一個体かも分からない――そんな蒼いドラゴンへ手を差し伸べ、
「いきなりですまないが――俺の『友達』になってくれないか?」
記憶から湧き出た言葉をアルヴェムは止められなかった――