ハイスクールD×Dー機械仕掛けの少年と紫髪の歌姫ー   作:ホスパッチ

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第八話『悪魔のお仕事②』

 一誠とアルヴェム、木場も小猫も仕事で出て行った後――

 部室に残されたイングヴィルドはソファに座ったまま扉の方へ視線を向けていた。

 その扉は先ほど、一誠と共にアルヴェムが出て行った扉。

 本当はついて行きたかった。彼が去ると、ここに直接的な関わり合いのある人がいない。完全にアウェーな存在になってしまう。

 

 つい数分前だというのに、すでに心には寂しさが生まれていた。

 眠りから覚めたら家族、知人が全員いなくなっていた……その経験がこの寂しさを募らせていた。

 そういった面では快復に向かっている"眠りの病"の後遺症とも言えるだろう。

 

「不安かしら?」

 

 声を掛けてきたのはリアスだった。

 この数日間、部室にいる時は常にアルヴェムがいてくれたから問題はなかったが、こうして一人でいるのは初めてのことだ。

 

 言われて、リアスと朱乃の視線が集まったことで少し居心地の悪さを感じてしまう。

 あまり注目されるのは慣れていない。それに初めてと言っても過言ではないリアスとの会話。

 

 それでも、イングヴィルドは首を横に振るって、

 

「……大丈夫。何かあっても、アルヴェムが守ってくれるから」

「うふふ、本当にアルヴェムくんを信頼していますのね」

「彼、優しいから。本人は否定するけど……」

 

 身寄りもなく、天涯孤独になったイングヴィルドにとって、アルヴェムは唯一の拠り所だった。

 彼もそれをわかっていて、学園に行っていても細かく連絡してくれる。

 体調に変化はないか、食事は摂っているか、何か欲しいものはないか――

 

 研究対象、そう言いながらもアルヴェムはいつも気にかけてくれていた。

 故郷を思い出して寂しくなっていても、ただじっと傍にいてくれる。

 それだけで心が救われていた。

 

「故郷も、家族も、全部なくなっちゃったけど……アルヴェムが一緒にいてくれるなら、今の世界もいいかなって思えるの。だから、彼の役に立ちたい。それが今の生きる意味だから……」

 

 イングヴィルドの言葉にリアスは目を丸め、やがて笑みを浮かべた。

 

「交際しているのかしら……って、聞こうとしたのは本当に浅慮だったわ。あなたたちは、もうそれ以上の絆で結ばれていたのね」

「でも、どうやって役に立てばいいか……」

 

 出会ってから少し経ったが、大きな実験をされた覚えはない。

 理由はどうであれ、大切にされている。それはわかる。

 それでも、イングヴィルドはいつも与えてもらってばかりだった。行きたい場所、欲しいもの、言えばアルヴェムはどこでも連れて行ってくれて、何でも手に入れてくれる。

 

 こちらからも何か与えられなければ『ふたりぼっちの契約』は無くなってしまうかもしれない。

 一抹の不安がイングヴィルドの頭をよぎる。

 もし、自分よりも魅力的な研究対象が現れたら――

 その不安をリアスが否定する。

 

「きっと今はあなたの精神を気遣っていると思うわ。まだ目覚めてから日も経っていない……そんなあなたに無茶な真似をさせても思うような結果が出ない、だからまずは今の世界に慣れてもらおうと考えているんじゃないかしら?」

「どうしてもというなら、今のうちに魔力の扱いを覚えるのはどうでしょう? アルヴェムくんは魔力に恵まれませんでしたが、イングヴィルドちゃんはそれを補助(カバー)するにはあまりにも十分すぎると思いますわ」

 

 二人の言葉に活路を見出した気がする。

 アルヴェム本人は気にしていないだろうが、ここで魔力の扱いを覚えれば転移魔法も使えるようになる。

 はじめて役に立てる――その想いでイングヴィルドは拳をきゅっと握る。

 

「……わかった。やってみたい」

「なら、まずは魔力を使う感覚を知るところから始めましょう――朱乃」

「はい、部長」

 

 指示を受けると朱乃は自らの胸の前で手を合わせる。

 そこから少し手を放すと、その中心には淡い光の球体が出来上がっていた。

 

「魔力は全身のオーラから流れるように集中させます。意識を集中させて、魔力の波動を感じ、イメージを形にするのですわ」

「イメージを、形に……」

 

 言われるがまま、イングヴィルドもやってみる。

 まずは手を合わせて全身へ意識を向ける。

 波のようにイングヴィルドの身体を巡る力を感じた。これが魔力の波動なのだろう。

 それを手のひらから球体に変えるイメージをする。

 イメージが出来上がったら、手を放して――

 

「わっ……大きい」

 

 放すと、ソファから天井擦れ擦れの球体が出来上がっていた。

 これには朱乃も驚いており、リアスも思わず笑ってしまう。

 

「暴発したら部室どころか旧校舎が吹き飛びそうね」

「笑い事ではありませんよ、部長。イングヴィルドちゃん、その魔力の塊をゆっくりと小さくするイメージをするのです。焦らず、ゆっくりと……」

 

 言葉に合わせてイングヴィルドは意識を手のひらに向ける。

 小さくする、小さくする……そのイメージが伝わり、魔力の塊は朱乃のものとほぼ同サイズとなっていた。

 

「はい、よくできました。イングヴィルドちゃんは本当に魔力の才能があるようですわね」

「でもこの魔力の質……どこかで見た気が……」

 

 魔力の塊を消して、拍手を送る朱乃。

 対し、改めてイングヴィルドの魔力を見て顎に手を当てたリアスは何か考え始めてしまったようだ。

 

「次はその魔力に変化を与えてみましょう。水、炎、雷……得手不得手はありますが、この変化を覚えていけば様々な魔法へと応用が利きますよ」

 

 朱乃の言葉にイングヴィルドも頷く。

 今、こうしているうちにもアルヴェムは仕事を頑張っている。

 帰ってきた時、魔力の扱いを覚えた姿を見せて少しでも喜んでもらおう。

 そう思ったイングヴィルドは、集中し練習を再開し始めた――

 

 ―○●○―

 

 一方、アルヴェムは早くもこの仕事の過酷さを身をもって思い知らされていた。

 

「聞いてよもぉおおおおおおおおおんっ!! あいつマジ最低なのぉおん!! 浮気してぇ! 私のこと捨ててぇ!! なんで私の方がキープなのよぉおおっ!!」

 

 マンションの一室で泣き叫ぶ女性。

 テーブルの周りには無造作に開けられた酒瓶が転がっており、中には零れて絨毯にシミを作ってしまっているものもある。

 

 これが今回の依頼者。

 何でも結婚を誓い合った男性がいたのだが、式を前に自分よりも若い女性との浮気が発覚。

 しかも向こうからはこちらがキープだったと言われ、本命以外にストレス発散がしたかったらしい。

 それを何度も何度も何度も、酒に酔った勢いで泣きながら話してくる。

 

 むしろ木場はこの相手をしなくて助かっただろう。

 悪魔としての初仕事がOLの愚痴から始まるとはアルヴェムも予想外だった。

 現代社会において悪魔の召喚は結構軽い気持ちで行われるらしい。

 しかし、これでは一向に話が始まらない。

 すでに同じ話を七回聞いたところで、ようやく本題に入る。

 

「キミの気持ちは大いにわかった。それで、悪魔として俺に何をして欲しいんだ?」

「私ぃ……田舎から出てきてぇ、話す相手がいなかったから聞いて欲しかっただけでぇ……」

「それでいいのか?」

「え……?」

「話を聞く。それはいくらでもできるが、相手は今もその浮気相手といるのだろう? そしてキミのことは簡単に忘れる。キミは心に傷を負ったまま、これからも過ごす。だったら、一度くらい大きく報復をしてやった方が気持ちも晴れるんじゃないか?」

「確かにぃ……悪魔くん!! 私、アイツに仕返ししてやりたい!!」

「どのくらいのレベルがいい?」

「男として再起不能になるぐらいッ!!」

 

 滅茶苦茶に力強い返答が返ってきた。

 願いを聞けば、アルヴェムは持っていたタブレットを操作する。

 男として再起不能……つまり、生殖機能の停止が該当するだろう。

 代価を見ると、意外にも安い金額で行って良いようだ。これは恐らく、彼女の願いに対して相手の男の価値がそれほどに低いために違いない。

 

「その願いは問題なく受けられる。金額にしてはこの程度で……今なければ分割払いでも可能だ」

「一括払いでお願いしまぁす!! あんなクソ男、これで綺麗さっぱり忘れてやるわ!!」

 

 酒の勢いか、女性には躊躇いがない。

 タブレットの契約画面を勢い良く押し、六桁の金銭が女性の口座からグレモリーへと送金された。

 

 契約の成立。

 女性に相手の男性の写真を見せてもらい、駒王町をサーチする。

 常に飛ばしているステルス偵察機がものの数分で対象を発見した。

 高級料理店の個室、そこで浮気相手と思われる女性と食事をしているようだ。

 

「少し開ける」

 

 ベランダに通じるガラス戸を開けると夜空を見上げる。

 ここから浮気相手のいる高級料理店まで、ステルス偵察機がそれぞれ配置され狙撃するために必要な経路が整っていた。

 

Cell Snipe(セル スナイプ)

 

 人差し指が銃身に変形し、放たれる一条の赤い光。

 赤い光は空中にいるステルス偵察機に搭載された反射板へと直撃する。

 そうして火花のように弾けた光はさらに突き進み、いくつもの反射を繰り返す。

 時間はかからない。高級料理店まで到着した光は目視できないほど小さく分散し、壁を貫通しておよそ千発を超える極小の光が全て男性の股間へと直撃した。

 

 アルヴェムの視界では、その悶える姿がよく見える。

 視界を撮影し、それを写真として腕から現像。ガラス戸を閉めて部屋へと戻る。

 怪訝そうな表情をしている女性に、アルヴェムは写真を一枚提示した。

 

「目標である男の海綿体の一部を破壊して生殖行為をできなくした。キミの言う『男として再起不能』状態の完成だ」

「わぁぁああああっ! ありがとぉぉおおお!! これで、明日からゲラゲラ笑って生きていけるわ!!」

 

 いきなり抱き着かれ、ちゅっちゅと唇を頬に押し当てられる。

 やがて満足した女性は写真を破り捨てて大の字で床に寝転がった。

 

「本当にありがとぉ悪魔くん。何なら悪魔としての契約だけじゃなくてぇ……私と婚約っていう契りを――」

「またのご利用をお待ちしております」

 

 こういう手合いは深く関わらない方がいい。

 何はともあれ、これで契約は取れた。初仕事としては上場だろう。

 そう結論付けて早々に部屋から立ち去った――

 

 ―○●○―

 

『――そうそう、上手くできているわよ』

『どうやらイングヴィルドちゃんは水属性が得意みたいですわ』

 

 オカルト研究部の部室前に帰ってきたアルヴェム。

 扉越しにリアスや朱乃の声が聞こえてくる。何かイングヴィルドがしているようだ。

 二人ならば怪我をさせるようなことはしなさそうだが、念のため早急にノックをして中へ入る。

 

「あっ……おかえり」

 

 迎えてくれたイングヴィルドはテーブルに置かれたコップに手を翳していた。

 コップの中では水が渦巻き、形を変えている。どうやら魔力の扱いを練習していたらしい。

 

 だが――

 

「アルヴェム……?」

 

 アルヴェムの顔を見て呆然とした表情を浮かべるイングヴィルド。

 瞬間、操作を誤った水はコップの中で炸裂。コップ以上の水塊となって部室内へと飛び散った。

 

「きゃっ!」

 

 リアスも小さく悲鳴を上げ、全身に水を浴びてしまった。

 床、壁、ともどもびしょ濡れとなり、朱乃も頬に手を当てる。

 

「あらあら、こんなに濡らしてしまって……」

 

 言って、朱乃はシャワールームにあるタオルを取りに行く。

 当のイングヴィルドはまだ呆然としており、徐に立ち上がったと思えば一気にアルヴェムへと駆け寄った。

 問いかける暇もなくイングヴィルドは純白のドレスの袖をアルヴェムの頬に押し当てる。

 遠慮なくゴシゴシと拭かれ、何かと思えばドレスに赤い塗料のようなものが付着していた。

 口紅……どうやら、先ほどの依頼者にキスされた時の跡が残ってしまっていたようだ。

 

「これ、嫌……悪魔のお仕事って、こういうことされるの……?」

 

 不安げなイングヴィルド。

 出会って間もないが、彼女が『嫌』という表現をするのは初めてのような気がする。

 ある種貴重なことだが、アルヴェムはイングヴィルドの手首を軽く掴み、

 

「今回に関しては相手が酒に酔ってたから、こんなことになっただけで普段はないはずだ。キミのドレスを汚すまでもないよ」

Clean Wash(クリーン ウォッシュ)

 

 空いている手で汚れた袖口をなぞれば、再びドレスは純白を取り戻す。

 それでもまだ不安なようで、イングヴィルドの手がアルヴェムの頬へと触れる。

 

「アルヴェムの言う通りよ。そういうのは専門の悪魔がいるわ。あと、お熱いのは結構だけど――とりあえず、皆が戻ってくる前にこの部室を何とかしましょう」

 

 リアスの言葉にハッとイングヴィルドは気付く。

 部屋全体が水浸しで、アルヴェムも全身が濡れてしまっていた。

 

「ご、ごめんなさい……」

「俺も手伝う。手早く終わらせよう」

 

 肩を落とすイングヴィルドに、アルヴェムは「気にするな」とフォローを入れつつ手から熱を放射して部室全体を乾かしていく。

 

 その作業中、アルヴェムはつくづく一誠が運のない男だと感じてしまう。

 今ならリアスも朱乃も全身濡れていて、制服が透けて官能的な下着が丸見えだった。

 

 後日聞いたが、一誠はちょうどその頃、依頼者とアニメ『ドラグ・ソボール』ごっこの真っ最中だったらしい――

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