ハイスクールD×Dー機械仕掛けの少年と紫髪の歌姫ー 作:ホスパッチ
「イッセー、二度と教会に近付いてはダメよ」
翌日の夜、いつになく険しい表情のリアスが一誠を叱りつけていた。
何でも一誠が教会に所属するシスターと出会ったらしく、そのシスターを教会まで送ったそうだ。
悪魔が教会に近付く、今回の問題点はそこらしい。
「教会は
三大勢力の拮抗状態。
今の平和は脆く、小さな衝撃でも崩れ去ってしまうような弱きもの。
どの勢力も戦力が低下している以上、おいそれと他勢力に喧嘩を売るような真似はできない。
「教会の関係者には
無、その言葉に一誠は生唾を飲み込む。
現実味のない話に反応に困る一誠、それを見てリアスも気付いたようだ。
「ごめんなさい、熱くなり過ぎたわね。これからは気を付けてちょうだい」
一誠も「はい」と答え、その話はそこで終わる。
それを見計らって朱乃が一誠の後ろに立っていた。
「部長、大公より討伐の依頼が届きました」
―○●○―
はぐれ悪魔――
爵位持ちの悪魔に下僕としてもらった者が主を裏切り、または主を殺してだれの所有物でもなくなる事件が極稀に起こるらしい。
悪魔の力は強大だ。それに爵位持ちの悪魔が皆リアスのように情愛を持った者でもない。
主に対する憎悪が凶行に走らせることがある。
そうして、主から離れ、各地で暴れ回る者たち――それが『はぐれ悪魔』。
一誠も一度深夜に堕天使から襲撃されたことがあるらしい。
その時、堕天使は一誠のことをはぐれ悪魔だと勘違いしていた。
主の手綱を離れたはぐれ悪魔は危険で害悪でしかない、だから見つけ次第処分する。
これは三大勢力全体の共通認識だった。そして、その処分をするのも悪魔の仕事のひとつ。
今回のはぐれ悪魔は元々別の地域からグレモリー家の縄張りに逃げてきている。
すでにかなりの人間を喰らっているらしく、早急な対処を求められていたためリアス率いる眷属たちは町はずれの廃屋までやってきていた。
廃屋からは獣に似た不気味な気配を感じる。
現にアルヴェムのセンサーは一体の悪魔を捕捉していた。それも人間サイズではない巨体を持った者を。
確認すると、アルヴェムはすぐ隣に目をやる。
隣にはイングヴィルドがいて、ついてくると聞かなかったのだ。
「わざわざ危険な場所についてこなくても良かったんだが……」
「ううん、お仕事の時は一緒にいるわ。防御魔法も教わったから、大丈夫……アルヴェムの役に立つから」
リアスたちに魔法の基礎を教えてもらって以降、イングヴィルドは家でも魔法の勉強をよくするようになっていた。一生懸命なのも知っている。
研究対象として役に立ちたい、その純粋な気持ちでの行動らしい。
だが、力を得ると慢心が生まれるのも事実。念のため、釘を刺しておく。
「ついてくるのは仕方ないとして……二つ、約束してくれ」
「うん」
「ひとつ、戦闘になったら俺の前には絶対出ないこと。ひとつ、覚えた魔法は自分の身を守るためだけに使うこと。この二つを守れないなら戦闘になりそうな時、キミを異次元空間に閉じ込める」
「でも、私……アルヴェムの力になりたい。目覚めてから、ずっと優しくしてくれるのに、私……何も返せてないから」
「そんなことを気にしていたのか……」
イングヴィルドにとっては、そんなことではない。
しかし、アルヴェムにとってはあまりにも些細なことだった。
「魔法を身につけてくれるのは嬉しい。これは事実だ。だが、ふたりぼっちの契約ではキミを守ることが俺の支払う代価……もしキミを傷つけてしまったのなら、契約は反故になってしまう」
「でも……」
「何も返せてないなんてことはない。キミが毎日起きて、食べて、そうやって毎日を過ごしてくれているだけで十分、俺の役に立っている……まあ、目には見えないものだが」
加えて言うと、何の役に立っているかはアルヴェムにもわからないが。
しかし、ここまで言ってもイングヴィルドの表情は納得していないようだ。
アルヴェムは真っ直ぐな目でイングヴィルドを見据え、
「もっと端的に言おう――契約もあるが、キミに傷を負って欲しくない。理由は不明だけどな」
それに――
「――俺を信じられないか?」
その言葉が殺し文句となった。
イングヴィルドは首を横に振るい、その顔は心なしか赤い。
理解してくれたのなら、これで話は終わりだ。
そう思った矢先、いつの間にかリアスも含め部員たちの視線がアルヴェムへと集まっていた。
「あなた、本当に大胆なことを言うわね……」
「盗み聞きとは趣味が悪いな、部長」
「そりゃあ、あんだけ普通に喋ってるんだから聞こえてくるって」
「でも、せっかく張り切ってくれてるところ悪いけど、今回アルヴェムはイッセーと一緒に見学よ」
抗議する暇もなく、リアスは言葉を続ける。
「イッセー、前にあなたを悪魔にした『駒』の話を少ししたわね?」
「はい、確かチェスをモチーフにしているとか……」
「そうよ。『女王』、『戦車』、『僧侶』、『騎士』、『兵士』、それぞれの特性を下僕となる者に授けるの。今日はこの特性とそれを駆使した戦闘を見てもらうわ」
言って、リアスは廃屋に向かって臆せず歩いて行く。
他の部員たちもそれに続き、その足取りは一誠を除いてピクニックに行くように軽いものだった。
「……血のにおい」
廃屋に入るなり、小猫がそう口にする。
一誠は何も感じていないようだが、小猫は嗅覚に優れているようだ。
臭気センサーにも血液反応があり、その濃度は数十人と喰らっていなければならないほど濃いもの。近付けば近付くほどに数値は上昇していく。
「そういえば俺の役割って何なんですか?」
「そうね。イッセーは――」
思い出したように問うイッセーに対し、リアスは言葉を止める。
廃屋に立ち込めていた殺意や敵意がより一層深まったからだ。
リアスの視線の奥、一際太い柱を見れば、そこから女性の影が覗く。
服は着ていない。一糸纏わぬ裸の乳房が揺れ、一誠の視線が一瞬釘付けとなる。
これだけならば、男性にとってはラッキーなイベント。
異常なのは、女性の平均身長を遙かに上回る位置にその上半身が見えること。
重い足音に次いで現れるのは巨大な獣の下半身。それが女性の上半身と繋がっているばかりに整合性が取れておらず、異形の化け物としての存在感を遺憾なく発揮していた。
「イッセー、良かったな。全裸の女性だぞ」
「良くねえよっ!? 下半身見ろ! 本物のバケモンじゃねえか!」
などと軽口を叩くも、一誠の脚は少しばかり震えていた。
それもそうだ。こんな化け物、人間だった時の日常生活では出てくるわけもないのだから。
だが、リアスは臆することもなくはぐれ悪魔と対峙する。
「はぐれ悪魔バイザー。己の欲望を満たすためだけに暴れ続けるその所業、万死に値するわ。グレモリー公爵の名において、あなたを消し飛ばしてあげる!」
「小娘ごときが何を偉そうにぃいいいいッ!! その紅の髪のように血に染まるがいいわぁあああああ!!」
獣じみた咆哮と共にはぐれ悪魔――バイザーは駆け出す。
その時、リアスの隣から木場が飛び出した。
腰には鞘が携えられており、剣を抜いてバイザーへと突貫する。
速度は常人の比ではない。一誠の目には消えたように見えただろう。
「裕斗は『騎士』。その駒を持つ者は速度が上がるの。そして、最大の武器は剣――はぐれ悪魔ごときじゃあの子の動きは捉えきれないわ」
現にバイザーには木場の動きは見えていなかった。
力任せに足で踏みつけたところで、そこには木場はいない。
何度も繰り返すことで巨体のせいかバイザーの息が上がっていく。
その隙を逃さず、木場の剣がバイザーの両腕を斬り飛ばす。
廃屋に響き渡るバイザーの悲鳴。
同時に切断面から間欠泉の如く噴き上がる血に、バイザーの身体はよろめく。
その足元には小猫が立っており、一誠が思わず「危ない!」と声を上げようとするも――バイザーの太い足の踏みつけが小猫を襲う。
「大丈夫よ。小猫は『戦車』、これはアルヴェムも一緒ね。その特性は――」
「……吹っ飛べ」
あれだけの重量の踏みつけを受けたにも関わらず、小猫は潰れていなかった。
それどころか軽々と足を持ち上げるとバイザーの身体を殴り飛ばす。
「シンプルなパワーと、屈強なまでの防御力。あんな攻撃じゃ小猫は傷一つつかないわ」
何回転もして壁に激突したバイザー。
すでに両腕も失ったことからろくに立ち上がることすらできなくなっていた。
そこに現れるのは、笑顔を浮かべた朱乃。
「最後に朱乃は『女王』よ。『王』である私の次に強いの。今まで言った『騎士』、『戦車』に加えて持ち主の魔力が上がる『僧侶』の特性を全て扱えるのが『女王』なのよ」
「あらあら、どうしましょうか。楽しませてくれると嬉しいのですが……」
そう言って、手のひらで雷を迸らせた朱乃は次々とバイザーの身体へ雷を落としていく。
そのたびに感電したバイザーは言葉にもならない声を上げ、全身が丸焦げと化す。
においも酷く、イングヴィルドが鼻に手を当てるほどだった。
「朱乃は魔力を使った攻撃が得意なの。そして、生粋のドSよ。相手が降参しても自分の興奮が収まらない限り攻撃の手を緩めないわ」
「常識があると思っていたが一番クレイジーだったな」
「うぅ……朱乃さん、怖いっス」
「二人とも、そんなに怖がらなくてもいいわ。朱乃は味方には優しい人よ。二人のこともかわいいと言っていたわ。今度甘えてあげなさい。きっと優しく抱きしめてくれるわよ?」
「うふふふふふっ、さあどこまで耐えられるのかしら?」
目の前で高笑いしながら雷を撃ち続けている女性が本当に優しいのか。
甚だ疑問ではあるものの、アルヴェムは後半部分が気になっていた。
「イッセー、あれほどの美女が抱きしめてくれるそうだ。ハーレム王の一歩として、一度甘えてみたらどうだ?」
「いや、心底怖いんだけど……?」
「だったら、まずは俺が人柱になろう。これも研究の一環だ」
「えっ、今行く気!? 正気かよ!?」
善は急げ。アルヴェムは未だに雷が続いている中、朱乃に近付こうとする。
だが、アルヴェムの背後から何かが覆い被さるように引っ付いてきた。
見ると、イングヴィルドが後ろから抱きついてきたようで、その顔は小さく膨れっ面になっている。
「私が抱きしめるから……それじゃ、ダメ?」
「趣旨に反するが……」
「…………」
無言の目での訴え。
どうやらアルヴェムが思っていた以上に危険度は高いらしい。
ここは素直にイングヴィルドの忠告を聞いて退いておくことにする。
「悪い、イッセー。だが、チャンスはあるぞ」
「ないって!!」
冴えわたる一誠のツッコミ。
そうしているうちに朱乃の雷撃は止んでおり、本人もうっとりとした満足げな表情を浮かべている。
それを確認したリアスは、すでに戦意を失っているバイザーへと歩み寄る。
見下ろし、手を軽く翳す。
「――最後に言い残すことはあるかしら?」
「殺せ」
「そう、それでいいのね」
手に浮かぶ魔法陣から放たれたのはドス黒い塊の魔力。
その魔力に触れた箇所からバイザーは塵一つ残さずに消し飛ばされていき、最終的に巨体は跡形もなく消し飛んでいた。
「これでおしまい。みんな、お疲れ様」
リアスの労いの言葉によって、はぐれ悪魔との戦闘は終了した。
何を思い、主人から離れたのかはわからないがバイザーの死は酷く呆気のないもの。
一誠もそれを感じているようで、何とも言えない表情をしている。
だが、すぐに思い出したように、
「ところで部長、聞きそびれてたんですけど……俺の駒って何なんですか?」
「イッセーはね、『兵士』よ」
良い笑顔でリアスはそう告げる。
一誠にとって『兵士』は一番下っ端の印象しかないのか、露骨に残念そうな顔をしていた――