恋するヒットマン   作:ほろろぎ

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第二話 接近

「しっかし、なんでアイツあんな格好してんだろーなー」

 

 転校生の鶫誠士郎に視線を向けながら、舞子集は近くにいる友人に向けて言った。

 彼の発言は、鶫が身に着けている制服がこの凡矢理高校のものではないことによるものだ。

 だがそれは、すでに今、鶫と千棘の会話で語られたことが集の耳にも遠く入っているはず。

 

 話しかけられた一条楽と姫野純は、集の言葉の意図が分からないと、共に首をかしげた。

 

「は? 今言ってたろ? 制服が無かったんだってよ」

「他校の制服で転校してくるって勇気あるよね~」

「ああ、そーじゃなくて……」

 

 楽と純の答えを訂正しようとする集だったが

 

「ああ、そういうこと! 姫ちゃんって前例がいちゃあ、そりゃねぇー」

「……純、コイツなに言ってんだ?」

「さあ? まったく分からない」

 

 二人の疑念をよそに一人で納得した様子の集は、「このままの方が面白いから」と楽たちの疑問をそのままに放置することにした。

 

「ところでお嬢には、最近とてもステキな恋人ができたとか」

「「!」」

 

 不意打ちのような鶫の発言に、彼の前に立つ千棘と、純の隣りにいる楽が身構えるのが見える。

 

 楽と千棘は凡高内でも知られた有名カップルなのだが、それは表の顔。

 二人は敵対する組織をまとめるため、仮初めの恋人関係を続けなければならないことを、純と集は楽本人の口からすでに聞かされていた。

 

「ぜひその素敵な彼を、私にも紹介してくださいませんか」

「え、えぇ……いいわよ……」

 

 純粋な好奇心か、鶫の笑顔を前に断り切れなかった千棘は、震える声で楽を呼んだ。

 二、三言葉を交わす楽と鶫の様子は、傍目(はため)には(なご)やかなものだ。

 が外から眺めている純の目には、鶫の笑顔がほんのわずかな違和感をもって映り込む。

 

 やがて席を離れた千棘。

 そのあとで、鶫も楽を連れ立って教室から出ていった。

 

「あり? どこ行くの姫ちゃん」

「いや、ちょっと気になって……」

 

 屋上へと向かう鶫たちのあとを着けるように、気づかれないよう離れた後ろをついて行く純。

 

 集に答えたように、なぜか彼らのことが気になってしまう。

 それは虫の知らせか。

 なにかこの後、大きなトラブルがやって来そうな予感が、純の脳裏を支配していた。

 

 屋上へとつながる扉をそっと開けると、不幸にもその予感は的中することになる。

 鶫が楽の(あご)に拳銃を突き付けている場面が展開されいているではないか。

 

(あれ偽物、だよね……? でも鶫くん、桐崎さんの関係者ってことは……やっぱり本物!?)

「わぁーっ! 鶫くん、ストーップ!!」

 

 今にも引き金がひかれそうな一触即発の空気の中、純はとっさにドアを開け二人の前に飛び出た。

 

「純!?」

「姫野さん……邪魔しないでください!」

「そんな訳にはいかないよ! ちょっと落ち着いて!」

 

 楽と鶫の間に割って入る純は、銃口から楽を庇うように鶫の前に立つ。

 

退()いてください姫野さん! お嬢はその男に騙されているんだ!」

「……いや……そんなことは無い、ですよ? ……ねえ一条君!?」

「お、おう! 俺たちゃ、ちゃんと両思いだぜ!?」

 

 楽と千棘のニセコイ関係を知ってしまっている純だが、本当のことを言えば修羅場になるのは間違いなし。

 友人の楽がむざむざ血に塗れる姿は見たくない。

 

 ウソをつくのは心苦しいが、純は楽と口裏をあわせ鶫をなだめることにした。

 

「君が転校してくる前から一条君と桐崎さんのことを見てきたけど、二人は本当に……ラブラブ、カップル……ですよ? ……ねえ一条君!」

「お、おう! 俺と千棘は凡矢理市一のラブラブカップルだぜ!?」

「二人とも、妙にたどたどしくないですか?」

「「いえぜんぜん!!」」

 

 視線を泳がせながら弁明する純と楽を(いぶか)しむ鶫。

 だがそこに当人の一人である千棘もやって来て、三人の言葉による恋人証明を聞かされ、しだいに怒りも沈静化していく。

 

 ……かに見えた。

 

「なるほど確かに、皆さんの話を聞くと一条楽はお嬢の恋人ではあるらしい。がしかし……ならばこそ私は、この男がお嬢のパートナーとは認められない!」

 

 降ろしていた銃口を再び楽に向ける鶫。

 楽はそれに対し、冷や汗を浮かべながら文句を言う。

 

「おい! いい加減その物騒なモン向けるの止めてくれ!」

「それだ!」

「それって……なにがだ!?」

「銃を向けられているのになぜ身を守ることも、反撃もしない!? それ以前に、軽々と銃口を突き付けられるその注意散漫さ……貴様それで、どうやってお嬢を守るつもりだ!!」

 

 一気にまくしたてる。

 どうやら鶫は千棘のボディーガードとして、自分より身近にいるはずの楽が彼女を守護するに足る男とは思えないと言うのだ。

 

「こんな軟弱で軽薄で脆弱(ぜいじゃく)で貧弱なモヤシ男が、お嬢の隣に立つなど納得いきません!」

((えらい言われようだ……))

 

 辛辣(しんらつ)極まりない鶫の評価に楽本人も、偽の恋人関係である千棘も言い返す言葉が無かった。

 だが、ただ一人……純だけは楽の側に立つ。

 

「鶫くん、君は今日が初対面だから分からないだろうけど、彼にもいい所はあるんだよ?」

 

 例えば捨てられている動物を見つけたら、すべて拾って学校で世話をしてやったり。

 例えば道で落とし物をして困っている老人を見つけたら、一緒に日が暮れるまで探してあげたり。

 例えば宿題を忘れたクラスメイトには、一緒になって課題を片付けてあげたり。

 

 そんな一条楽のこれまでの善行が、純の口から次々と語られていく。

 それは楽本人も、とうに忘れてしまったような出来事もあったりした。

 

「僕もずいぶん一条くんには助けられてきたよ。だからさ、あんまり悪く言わないであげて欲しいんだ……ダメかな?」

 

 純の語る楽の話しを黙って聞いていた鶫は、しばし考え込むように目を閉じる。

 

「…………分かりました。姫野さんはウソを吐くような人じゃない。貴方が言うなら、きっとそれが一条楽の本当の姿なのでしょう」

「それじゃあ……!」

 

 銃を懐にしまい、殺気を消す。

 しかしほんのわずかな怒りを乗せて、鶫は楽に言う。

 

「この人の感謝するんだな、一条楽。とりあえず、一応は! ……貴様のことは信用してやる」

「サンキュー鶫! 純も、ありがとな!」

「うん、なんとか丸く収まってよかったよ」

 

 命の危機も去り、楽は涙ながらに二人に感謝した。

 

 

 

 

 

 しかし……それはそれとして、鶫は楽の監視を続けていた。

 警戒ではない、あくまでも監視である。

 それは鶫が上司から言い渡された、『一条楽が桐崎千棘にダマされている証拠を探れ』という任務における一環でもあった。

 

 さすがに学校内に限定されてはいるが、常に鶫の射るような視線を受ける中で、偽の恋人を演じ続ける楽の限界は近い。

 休憩時間の今も、机に突っ伏し魂が半分抜けかけている有様だ。

 

「ったくよぉ~……俺を信じるなら、もっとそっとしといて欲しいぜ……」

 

 対面に座っている純に向けたわけではないが、楽の口からはつい愚痴が漏れてしまう。

 集も「こりゃ大変だねぇ」と同情の目を向ける。

 

 息抜きも出来ない友人を気の毒に思った純は、おもむろに席を立つと、監視の目を光らせている鶫の元へ向かった。

 

「鶫くん、今いい?」

「何ですか、姫野さん」

「君、まだこの学校のこと詳しく知らないでしょ? よかったら色々案内しようかと思って」

「それはありがたい! ……ですが、今は任務が」

「いつも任務で気が張り詰めてちゃ、疲れちゃうよ。ほらほら、息抜きも兼ねて」

「えっ、あ、しかし」

 

 任務が大切と言いながら、大した抵抗もなく鶫は純に連れられて楽の前から姿を消した。

 こうして楽は、つかの間でも監視を逃れ落ち着いた時を過ごすことが出来るのだった。

 

 その間に純は、鶫を連れて校内のいろいろな場所を渡り歩いていた。

 美術室に音楽室、保健室などの各教室に加え、休憩用のベンチが置かれた中庭などの(いこ)いの場まで。

 最後に二人は、開かれた屋上へと出た。

 

「ここは見晴らしがよくて、天気のいい日なんかは街が一望できるんだ」

「おお、確かにいい眺めですね」

 

 純と鶫はフェンス越しに凡矢理市の風景を見渡す。

 青空の下で街は、行き交う人々の活気ある活動音が遠くに聞こえる、実に穏やかな光景が広がっていた。

 

「いい所ですね、この凡矢理という街は」

「うん」

「お嬢も私も、ここに来れてよかったのかもしれない」

「僕も……僕だけじゃなく一条くんたちも、君と桐崎さんと知り合いになれてよかったと思うよ」

「私と、きっとお嬢も同じ気持ちです。貴方たちと仲良くなれたことに感謝しています」

 

 笑い合う二人の柔らかな笑顔は、青い空の下でまぶしく輝いていた。

 

 

 

 

 

 それから数日後……姫野純と鶫誠士郎は、凡矢理市の街中で再びま見えていた。

 この日は休日だが、両者は互いに日用品の買い出しに出かけていた所で、たまたま遭遇したのである。

 

「どう? この街の様子も、そろそろ慣れた?」

「ええ、おかげさまで店の場所もあらかた把握できました」

 

 二人は手に荷物を()げながら、並んで道を歩いていた。

 今日も天気がよく、快晴の下肩を並べる二人は、さながら買い物中の若夫婦にも見えた。

 

 と、そんな時に空気を読まない乱入者が現れ、純に声をかけてくる。

 

「ねえ君、荷物重そうだねぇ~。俺らが家まで運んであげようが?」

「あ、お礼は家にお邪魔させてくれるだけでいいよ!」

 

 髪を染め、派手なアクセサリーをした不良の集団である。

 彼らもまた、見た目から純を女性と勘違いしてナンパしてきたのだ。

 

「止めろ。この人は私の連れだ」

 

 純が口を開く前に、鶫が不良から庇うようにその前に立ちはだかる。

 

「あぁん、男にゃ用はねーんだよ」

「私たちも貴様らに用はない。痛い目を見る前に、さっさと失せろ」

「だとコラぁ!?」

 

 鶫の挑発じみた言葉に、不良は怒りをあらわに殴り掛かって来た。

 純は鶫の名を叫ぶが、当の鶫はいたって冷静に対処する。

 

 不良のパンチを悠々とかわすと、空ぶった腕をつかみ柔道のように投げ飛ばしたのだ。

 

「こ、この野郎!」

「やっちまえ!」

 

 他の不良たちも襲い掛かるが、鶫は集団相手にも(ひる)むことなく、次々とこれを蹴散らしていった。

 

「すごい……さすがギャングの関係者」

 

 見ているだけの純も、思わず感嘆(かんたん)の言葉が漏れる。

 それほど鶫の体さばきには無駄がなかった。

 

 と、正面から向かってくる不良の集団を相手どる鶫の背後から、最初に投げ飛ばされた一人が起き上がり、ゆっくりと忍び寄って来るのが純の視界に入る。

 鶫は気づいていない様子。

 

「危ないっ!」

「うぎゃー!?」

 

 純はとっさに駆け寄ると、後ろから不良の腕をひねり上げ、さらにこの日も持っていた防犯用の催涙スプレーを、男の顔に躊躇(ちゅうちょ)することなく吹きかけた。

 鶫は、穏やかな性格の純の意外な行動力に驚く。

 

「姫野さん!?」

「守られてばっかりじゃね。僕も一緒に」

 

 鶫の背に立ち、互いの後ろを守るように構える純。

 

「僕も、こういう時の為に護身術を習ってたんだ」

「……わかりました。無理はしない様に」

 

 こうして即席のタッグを組んだ純と鶫だったが、結果は圧倒的で不良たちは一人残らず、完膚なきまでに叩きのめされたのだった。

 

「やっぱり桐崎さんのボディーガードしてるだけあって、すっごく強いね」

「いえいえ、貴方も見事な腕前でしたよ」

 

 邪魔者もいなくなった帰り道を歩く純と鶫。

 共に拳を振るい互いを守ったことで、両者の仲はまた近くなったのを二人ともに感じていた。

 

 その証にと、純は一つの提案をする。

 

「ねえ、鶫くん」

「なんですか?」

「それ。そろそろ敬語は外していいんじゃないかな」

「そう、ですか……? いや、そうか……そうだな。そうしようか」

 

 目に見える形で二人の仲は、また一つ近づく。

 照れくさそうにはにかみながらも、自然な笑顔を浮かべて答える鶫に純もまた、つられてほほ笑みを浮かべるのであった。




最初は原作沿いでオリ主を楽の代わりに鶫と決闘させようと考えてましたが
ちょっと無理がありすぎると考え直し、結果穏便に済ませることにしました。
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