恋するヒットマン   作:ほろろぎ

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第三話 発覚

「姫野さん、今いいか?」

「どうしたの、鶫くん」

「先生にプリントを持ってくるように頼まれたのだが、場所が分からないのだ」

「ああ、それはこっちだよ。案内する。……と、プリント半分持つよ」

「すまないな、ありがとう」

 

 実に親し気な会話を重ねながら、姫野純と鶫誠士郎は肩を並べ教室から出ていった。

 

 そんな二人を見送ったあとで、クラスメイトの女子たちはキャーキャーと黄色い歓声を上げる。

 

「ねえねえ、あの二人……いい感じだと思わない!?」

「うん、うん! キリッとした王子様系の鶫くんと、フワッとしたお姫様系の姫野くん! この二人の組み合わせ……ベストマッチだわ!」

「姫野くんが女の子だったら、桐崎さんたちに並ぶ凡高の名物カップルになれるわね!」

 

 最近、より距離の縮まった純と鶫のコンビを見て、恋愛トークにお盛んな女生徒たちの盛り上がりは天井知らずだ。

 

 そんな女子たちを遠くに見ながら、かつてクラスの話題を独占していた一条楽と桐崎千棘のカップルも二人の話題を口にする。

 

「でも本当にあの二人、見るからにどんどん仲よくなっていくわね~」

「だな。相性がよかったんだろうな」

 

 御付きとして子供の頃から一緒にいる千棘は、一人の友人として鶫の現状を想い、小さく笑みを浮かべた。

 

「つぐみはずっとビーハイブの構成員として過ごしてきたから、ちょっと他人に対して当たりがキツい時もあるけど……

あれで性根は優しい子だから、姫野くんみたいな仲のいい友達が出来て安心したわ」

「…………」

「……なによ?」

「いや……お前もそんな人の親みたいな心境になるんだな、と思ってよ」

「悪い!? ……私だってつぐみの事、友達だと思ってるんだから。友達に友達が出来れば、そりゃ嬉しくなるもんでしょ」

「だな。俺も純に新しい友達ができて嬉しいよ」

 

 楽も千棘も、笑顔を浮かべ自分のことのように喜びを表現した。

 

 

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

 それから時間は過ぎ、放課後。

 生徒たちがまばらに残る校舎の外──庭の一角を占有してつくられた飼育小屋の前に、楽と千棘はいた。

 

 二人は飼育係として、楽が拾ってきた種々雑多の動物たちの世話をしているのだ。

 動物の数は普通の学校が管理する域を越え、楽と千棘の二人だけで相手するには手に余るほどになっていた。

 

 なのでこの日は臨時の助っ人として、純と鶫も共に飼育番として学校に残っているという訳である。

 

「しかし、まるで小さな動物園だな、これは……」

 

 餌箱を掃除しながら、鶫が漏らした。

 動物の数が多いだけに、汚れた餌箱の数も比例して多くなる。

 山と積まれた箱は水で洗い流すだけでも一苦労だ。

 

「ダーリンが誰彼構わず拾ってくるからよ?」

「しゃーねーだろ。ほっとけねーんだし」

「まあ、そこは一条くんのいい所だからほら、ね?」

 

 千棘、楽、純も手分けして、動物たちが住んでいる小屋を掃除していく。

 四人の手もあって、作業は順調に消化されていくが……

 

「あっ」

「どうしたの?」

「餌が切れちまった……」

 

 純がのぞき込むと、楽が空になった飼料袋を手に立ち尽くしていた。

 

「ちょっとー、ちゃんと管理しときなさいよね! 大事な動物たちが餓死しちゃうでしょー!」

「わーってるよ! うっかりだ、うっかり!」

 

 言い合う千棘と楽の隣りで、鶫も純にどうするか訪ねていた。

 

「こういう場合、業者の人に持ってきてもらうはずだけど……」

「ウチの場合、珍しい動物が多いから、近くの店で直接買うしかねえな」

 

 純の言葉に答える楽。

 ならばと、鶫が立ち上がった。

 

「私が行こう。この中で一番力仕事に向いているのは私だ」

「あ、じゃあ僕も行くよ。お店の場所知ってるし」

 

 純も鶫に同行を申し出る。

 

「なら俺も……」

「ダーリンは残って掃除! まさか恋人にだけ汚れ仕事を押し付けるわけないわよね?」

 

 千棘の圧もあり、楽は居残りが決まる。

 こうして純と鶫は二人で、学校の側にあるペットショップまで向かうことになった。

 

 

 

 

 

 凡矢理市の街中は、夕方にも関わらず人通りも多く、(にぎ)やかな装いを見せていた。

 

 純の道案内でペットショップへと向かう最中の鶫は、道中でやたら周囲の人間が、自分たちに視線を向けてきたのが気になっていた。

 二人には道行く人の会話は聞こえなかったが、人々はこんなことを口にしていた。

 

「あの二人、恋人同士なのかな?」

「そうじゃない? すごくお似合いだし」

「男の子の方、スマートでモデルみたい。カッコいいな~」

「女の子の方は、なんで男子の制服着てるんだろ」

「ああいうカップル、街でよく見るよね。うらやまし~」

 

 などなど、通行人には二人の姿が、すっかりカップルとして映っているようだった。

 

 そんなことなど露知らず。

 純と鶫は互いを同性(・・)の友人として考え、これまで接してきた。

 その関係が揺らぐ時が来ることを、今はまだ二人は知らずにいる……。

 

「ここだよ」

「ほう、これがペットショップというやつか」

 

 二人は目的の店の前で一度立ち止まる。

 

「ん? もしかして鶫くん、こういう所に来るの初めて?」

「ああ。ビーハイブには動物を飼うような者もいなかったからな。ペットショップは初体験だ」

 

 わずかに緊張した面持ちの鶫を見て、純は思わず笑みを漏らした。

 

 そして二人は入り口をくぐる。

 店内には、凡高の飼育小屋に負けず劣らずの数の動物たちがひしめいていた。

 

(逆に、ペットショップと張り合うレベルの学校(ウチ)の飼育小屋の方がスゴイんだよなぁ)

 

 楽は一体これまで、何匹の迷える動物たちを保護してきたのだろう……と純の頭に、ぼんやりとそんな考えが浮かぶ。

 

「おぉ……。これが全部、愛玩動物なのか……」

 

 一方の鶫も、感心したような声を上げながら店内を見回していた。

 入口近くのケージ()に入れられた一匹の子犬と鶫の視線がかち合う。

 

 鶫はしゃがみ込んで、子犬をじっと見つめる。

 

「姫野さん! こ、これはなんと言う犬なんだ!?」

「ポメラニアンだね」

「おぉ~……ポメッとしている……」

 

 瞳を輝かせ、ポメラニアンの愛くるしさに釘付けとなっている鶫。

 その横で、純は鶫の様子を微笑ましげに眺めていた。

 

 純の視線に気づいた鶫は居住まいを正す。

 

「はっ!? す、すまない。柄にもなく、はしゃいでしまった」

「いやいや、鶫くんはよく張り詰めたような顔をしてるから、新鮮でよかったよ。なんか可愛かった」

「可愛いか……フフッ、君に言われると気恥ずかしいな」

 

 照れ笑いを浮かべる鶫の表情もまた、純は初めて見るものだった。

 

「……と、いつまでもこうしていられないな。お嬢たちが待っている」

 

 それもそうだ、と二人は立ち上がり店員に、楽から頼まれた餌を注文。

 動物の数が多いため、持ち帰るべき餌もそれなりの量があった。

 二人は台車を借りて、学校まで押して戻ることに。

 

「鶫くん、大丈夫?」

「あ、ああ……このくらい……っと!」

 

 台車には餌が山と積まれ、前方の視界をふさぐほどだ。

 二人は周囲に人や障害物が無いことを確認しながら、慎重に台車を押し進める。

 が、ふとした拍子で鶫の押す台が路上のくぼみにハマり急停止。

 その影響で鶫は足をくじいてしまう。

 

「危ないッ」

 

 姿勢を崩し転倒しそうになる鶫を、純はとっさに抱きかかえるようにして防ぐ。

 鶫は態勢を直そうとしたが、足の痛みに顔をしかめる。

 

「痛っ……!」

「無理しない方がいい」

「こ、この程度なんでも……ッ」

 

 尚も無理に立ち上がろうとする鶫を、純は手で制する。

 

「余計に足を痛めるだけだ。……しょうがない。荷物はここに置いて、一度学校に戻ろう。まだ保健室が開いてるはずだから」

 

 そう言うと純はしゃがみ、鶫に背中を向けた。

 その行為に、鶫は頭にはてなマークを浮かべる。

 

「乗って。おぶって学校まで連れて行くから」

「い、いや、しかし……」

「言い合ってても時間が経つだけだから。さあ」

「……す、すまない」

 

 おずおずと鶫は純の背に体を預けた。

 と、純はとても不思議そうな表情を浮かべる。

 なにか……背中に当たる鶫の体に、見過ごすことのできない違和感があった。とても強い違和感が。

 それは鶫の方でも同じようで、頭に疑問符を浮かべながら純の胸のあたりに置いた手を、撫でるように動かしている。

 

 やがて、二人は共に相手の体の異変に気付いた。

 鶫の胸部は男のものにしては異様に張り出ていて、かつ非常に柔らかい。

 純の胸は女子のものにしてはまったく盛り上がりが無く、筋肉質だ。

 

 二人は震える声で、同時に声を発する。

 

「つ、鶫くん……君は……」

「ひ、姫野さん……君は……」

「女だったの!?」

「男だったのか!?」

 

 姫野純は女性らしい顔立ちをした、しかし性別は男性である。

 鶫誠士郎はボーイッシュな成りと振る舞いをしていながらその実、性別は……女子だったのだ。

 

 二人は互いのことを自分と同じような人物だと考えていた。

 つまり純は鶫を中性的な男性と思っていたし、鶫も純を男装した女子だと勘違い──否、思い込んでいたのだ。

 

 夕暮れに染まる凡矢理市の通りの一角で、ついに純と鶫は互いの隠すでもなく隠れていた正体というものを、知ることとなったのである。

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