A.S.117年1月8日
ジャミトフ・ハイマンの演説により、ティターンズの結成と、ベネリットグループを中心とした、スペーシアンに対しての宣戦布告から1時間もせずに、ティターンズ艦隊は破竹の勢いで進撃を開始、特に艦隊総司令官のパプテマス・シロッコ率いるティターンズ宇宙艦隊主力は、すでに月軌道に到達していた。
ベネリットグループ所有の月面基地
「ティターンズ艦隊!月の第一防衛ラインに侵入!」
「クソ、速すぎる!奴らの航路を考えると、月軌道に到達するまでの航路上には、多くの我がグループのフロントや基地があったはずなのに!奴等は昼寝でもしていたのか!!」
司令官が述べた様に、本来ティターンズ宇宙艦隊が辿って来た、月までの航路には幾つもの、ベネリット保有のフロントと、そこに駐留する部隊も存在しているはずであり、その部隊との戦闘時間を計算に入れれば、月まで到達するまでには、もう少し時間がかかるはずであったが、その予想を裏切られるほどの速さで月まで到達された為、現地司令官は驚愕と困惑が入り混じった様子でそう述べた。
「司令官、どうなさいますか?」
「決まっている!直ちに迎撃しろ!この月は、パーメット資源の最大の採掘場だ!ここをアーシアン共に奪われるわけにはいかん!!」
「了解です!総員戦闘体制!セキュリティフォース!全部隊出撃!!」
だが、敵が来ている以上、なんとしてでもこの月を守らなければならないと決意した司令官は、同地に駐留するセキュリティフォースに、出撃命令を下し戦う事を決意した。
一方その頃
旗艦:ドゴスギア
「感謝する、諸君らが協力してくれたおかげで、我々ティターンズ艦隊は、無駄な戦闘を行わず、万全の態勢でベネリットのセキュリティフォースと戦うことが出来る」
『いいえ、パプテマス閣下のお役に立てて光栄でございます。今回パプテマス閣下の艦隊に提供した軍需物資は、閣下とジャミトフ総帥への名刺がわりのご挨拶と言うこですので、何卒、我が社の事をジャミトフ総帥閣下に、宜しくお伝えしていただけるよう願いたします』
「分かっている。貴公の会社には、戦後ティターンズのMS生産、および軍需物資生産の一翼をになってもらいたい」
『ありがとうございます』
「では、これより作戦だ。通信は切らせてもらうぞ」
それでは」
作戦が始まる前、シロッコは通信先に写っていた、恰幅の良い、あからさまにこちらに媚を売る人物にそう言うと、通信を切った。
「ふん、俗物風情が、他愛もない」
「しかし、御三家ではないとはいえ、よくベネリットグループの企業に対して、ティターンズへの協力を取り付ける事ができましたね」
通信が終わり、先ほどの通信相手を蔑む様な口ぶりでそう述べたシロッコに、ドゴスギアの指揮を取る艦長が、感心した様子でそうシロッコに言った。
実はシロッコは、戦争が始まる前から、月をはじめとした戦略目標となる拠点周辺に存在するフロントに拠点を構える、ベネリットグループ傘下のいくつかの企業に対して、開戦時には、自分達ティターンズに味方する様事前に交渉、ティターンズ宇宙艦隊への無抵抗の降伏に、ティターンズ艦隊に対する補給物資の提供や、破壊されたMSや艦船の修理を要求する代わりに、戦後にティターンズが接収したベネリットグループの工場やパーメット採掘資源場などの利権の分割に、戦後必ず起こるであろう軍拡というビジネスに一枚噛ませる事を条件に、こちら側に取り込んでいたのだ。
「戦いは…力だけでは勝てんよ艦長」
「はぁ…」
「ベネリットグループは、巨大な力と戦力を有しているとはいえ、所詮は企業の連合組織、即ちその存続理由は、主義主張でも理想でも、思想でもなく、ただ単純に利益を得る事…その結束はエゥーゴよりも脆いものだ…」
「エゥ…ゴ…なんですかそれは?」
「いや、何でもない…ともかく、その様な企業の連合組織を崩すなど容易い事だ。グループ各社の業績や資産状況、売上などの情報を統合し分析すれば、たとえアーシアンの軍事組織である我々ティターンズと言えども、つけ込み、崩す場所くらいは容易く見つかる」
「なるほど…」
パプテマス・シロッコ
今年で20歳になる彼は、ティターンズにとっては偉大で、そして異質な存在である。
軍人であるジャミトフやバスクとは違い、ティターンズで大佐の階級を有し、宇宙艦隊の全権を担う前は、木星で活動を行う、ベネリット非加盟の企業である、ジュピトリス・テクノロジーズと言う会社の代表であり、15歳の頃に、突如事故で死亡した両親の代わりに会社を受け継いでからは、そしてその類まれなる手腕で、会社を成長させ、その後、自社の資金力と技術力や手土産に、当時ティターンズ結成のために奔走していたジャミトフへ血判による忠誠を誓うと同時に、その資金力を使い、ティターンズ設立の為の多くの支援を行って来た。
さらに、現在ティターンズで使用されている、ハイザックやガルバルディβなどの地球産MSや、アレキサンドリアやサラミス、そしてこのドゴスギアなどの宇宙戦艦の開発と設計、さらにそのエンジンなど、様々な新技術を開発し、ティターンズに提供しており、彼がいなければティターンズも、ましてやこの宇宙艦隊も存在しなかったと言っても過言ではない、まさにティターンズ設立の功労者と言っても差し支えない人物である。
しかし、底知れぬ才能、さらに戦略的にモノを考え、2手3手物を進める事ができる才能の奥にあるその真意と、彼の功績以上に多く存在する、彼自身の謎、その事を考えると艦長は、彼を頼もしいと思う一方、何処か恐怖を抱きそうになっていた。
「艦長、そろそろ敵も動くだろう。ミノフスキー粒子を散布後、全艦隊に攻撃命令を発令、ドゴスギアからもMS部隊を出撃させろ」
「はっ、ではヤザン隊を?」
「そうしてくれ」
だが、そんな艦長の心情を、もしかしたら見透かしているかの様な目をむけると、シロッコは自艦のMS部隊にも出撃を行う様命令した。
格納庫
「ラムサス、ダンケル、どうだ調子は?」
『はい、問題ありません隊長』
『相変わらず人使いが荒いですな、ヤザン隊長は』
「言うな、後方で燻っているよりかはマシだろ」
ドゴスギアの格納庫には、先の連邦高官の暗殺事件の実行犯である、ヤザンらが、開戦直前に開発が間に合った、可変モビルスーツである、ギャプランに乗り込んで、発進の準備行っていた。
言うまでもないが、あの高官暗殺は、連邦政府のティターンズによる掌握と、スペーシアンへの戦争のための大義名分作りのために、ジャミトフの命令の元行われた自作自演、所謂マッチポンプであったが、ヤザン本人としては、戦争の引き金を引く片棒を担ぎ、罪悪感に苛まれている様子はなく、いよいよ始まった戦争に、どこか興奮している様な様子であった。
「俺たち、ヤザン隊がスペーシアンの鼻先をへし折る所謂先鋒だ。開発がギリギリ間に合った新型機での出撃だがビビるなよ。なんせ、戦場では、ビビった奴から死ぬからな」
『了解です隊長』
『まぁ、今更戦場でびびるヒヨッコは、ヤザン隊には居ませんがね』
「言うじゃねぇか、ダンケル…よし、このくらいの減らず口が叩けるなら、準備は万端だな」
そして出撃前に、ヤザンと、その部下であるラムサスとダンケルは、コックピット内で、初の大規模戦闘でありながら、どこか余裕な様子でそんな話をしていた。
すると
『ヤザン隊、出撃命令が出ました!』
艦隊司令部が置かれる、メインブリッジからそう告げられ、いよいよ出撃の時が来た。
「よし、ヤザン隊ゆくぞ!ヤザン・ゲーブル、ギャプラン出るぞ!」
そして最初に隊長であるヤザンがそう言うと、戦闘機形態であるMA形態のギャプランが、大出力のスラスターを吹かしながら、ドゴスギアから出撃した。
「続いて、ダンケル・クーパー出る!」
「ラムサス・ハサ!行くぞ!」
そして続く様に、ダンケルとラムサスの2人も出撃して行った。
そして、彼ら三人が出撃したと同時に、各艦からも月面基地への、第一次攻撃隊が次々と出撃、月面基地上空は、ティターンズの主力MSであるハイザックとガルバルディβ、ジムクェルなどの第一世代MS、そしてそれらを率いる隊長機の様な役割を担っている、新型の第二世代量産機である、先行量産されたマラサイによって埋め尽くされていた。
「な、なんだこのMS数!それに、見た事ない機体だ!!」
「パーメット識別コードは…確認出来ない、あの機体にはパーメットが積まれていないのか!?」
その風景に、セキュリティフォースのMS部隊は、不安と恐怖に押しつぶされそうになっていた。
『狼狽なるな!我々がやることは変わらん各部隊…アー…シア…』
「司令部?司令官!応答…グァ!!」
そんな時、司令部から命令を伝えるための通信が送られて来たが、先ほどシロッコが散布を命じた、電波通信を大きく阻害するミノフスキー粒子と呼ばれる存在により、パーメットによる通信速度が大きく遅くなってしまった。
そして、その事に戸惑った1人のパイロットが、必死に司令部に連絡を取ろうと呼びかけたが、その隙にティターンズのMS部隊のビーム攻撃により破壊され、そしてそれが会戦の火蓋を切る合図となった。
「トーマス!クソ!アーシアンめ!!よくもやりやがったな!!」
「何がティターンズだ!!!ここは宇宙だ!!貴様らの好きにはさせんぞ!!!」
そう言いながら、駐留部隊残るディランザを主力として編成された、ベネリットグループのモビルスーツ部隊が、攻撃を開始した。
「はっ、当たるかよそんな攻撃!」
「落ちろ!」
しかし、ヤザンとその部下であるラムサスとダンケルが乗るギャプランは、まるでハリネズミのように飛んでくる攻撃を交わし、次々とベネリットのセキュリティフォースのMS部隊を撃破、そして彼ら精鋭である三人以外の、ティターンズの部隊も勿論それなりの損失こそ被ってはいる。
しかし、やはり、ただの企業のMS部隊と、れっきとした軍隊であるティターンズのMS部隊とでは、その士気も練度も大きな差があり、何よりベネリット側は、通信障害による混乱で、うまく戦闘を行う事が出来ずにいる事から、次々とティターンズのMS部隊に打ち破られて行った。
ドゴスギア
艦橋
「こちら側にもそれなりの損失はあるとは言え、我が方が有利だな…」
「はい、ヤザン隊が戦場をかき回す事で、他の部隊が混乱する敵部隊を各個撃破する事で、効率的に戦いを行えています。ただ、大佐が発見された通信妨害機能を有する、ミノフスキー粒子とやらが、パーメットの通信システムに対して、大きな妨害効果を与えたとは言え、完全に妨害を可能と出来なかったことは…」
「いや、予想できないことではなかった。むしろ、ここまで妨害能力を発揮出来ただけで十分だ」
「そうですか…まぁ、ですが、この様子だと第一次攻撃隊のみで、勝利は可能そうですな」
「いや、時間をかければ、増援も来るだろう。ただでさえ我々は、全体を総合した総戦は、未だ敵より少ないのだ。ここは、第二攻撃隊と第三攻撃隊を出撃させ、一気に防衛戦を突破した方が良い…第二、第三攻撃隊を出撃させよ。なお第一攻撃隊は、戦況に応じて各自臨機応変に撤退し、補給を行わせろ」
「はっ!」
ドゴスギアにて指揮を取っていたシロッコは、戦況を見て一気に戦線を破壊し、月面基地占領を行う事を決断した。
アレキサンドリア級
格納庫
「へっ、獲物は全部、第一次攻撃隊に持ってかれるんじゃねぇかと心配してたが、心配ねぇ様だな」
「独り占めすんなよモンシア、俺たちの分も残しておけよ!」
「お二人とも、いよいよ実戦なんですから、緊張感を持ってください」
「へっ、言われなくても分かってるての!」
第二次攻撃隊の一翼を担う、ベルナルド・モンシア少尉とアルファ・A・ベイト少尉、チャップ・アデル少尉の、ティターンズ第四小隊に属する三人は、いよいよ実戦が始まると言うのに、軽口を言い合っていた。
すると
「こら!お前ら、いよいよ実戦なんだぞ!集中力を持て!」
「りょ、了解です中尉!」
「申し訳ございません隊長!」
そんなモンシア達に、この第四小隊の隊長である、サウス・バニング中尉が、喝を入れる様にそう叱り付け、普段は問題児である三人も、大尉の喝に萎縮しそう言った。
すると
「中尉、そう言えば今更ですが、良かったんですか?せっかく最新のマラサイを受領できたってのに」
モンシアが、バニング中尉の機体を見て徐にそう言った。
なぜなら、自分達第四小隊の他の面々は、皆最新鋭の量産機であるマラサイを与えられているのに、隊長であるバニングは、3年前にハイザックと共に配備されたジムクェルに、いまだに乗っていたからだ。
「構わん、俺は戦うなら乗り慣れている機体で戦った方がやりやすいからな。そっちこそ、最新鋭の機体を与えられたからと言って、調子に乗るんじゃないぞお前ら。特にモンシア、分かったか?」
「は、はい!」
バニング中尉とモンシア、2人がそう互いに話をしていたのも束の間。
『第四小隊、出撃許可がおりました』
「了解だ!行くぞ!」
「「「了解!!!」」」
艦橋から出撃命令が下り、バニング中尉率いる第四小隊は、第二次攻撃隊の一翼として出撃した。
ティターンズ宇宙艦隊
本拠地:グリプス2
パプテマス・シロッコ大佐を司令官とする、ティターンズの一翼を担う軍隊として、宇宙での戦いを担う軍隊。
地球国家の中で、唯一宇宙に拠点を有しているヨーロッパ連邦管理下の密封型コロニーである、グリプス2に本拠地を置いている軍隊であり、本拠地グリプス以外にも、同コロニーを開発する際に使用した資源衛生跡を改造して作られた、ルナ2とゼダンの門と言う二つの宇宙要塞を有し、大型戦艦であるドゴスギアを旗艦に重巡洋艦であるアレキサンドリア級を20隻、サラミス級巡洋艦を100隻以上有し、大量のMSも有している。
パプテマス・シロッコ
階級:大佐
肩書き:ティターンズ宇宙艦隊総司令官
ティターンズの宇宙における戦力の全権限を有する、バスクと並ぶティターンズの最高幹部の一翼を担う、若いティターンズの士官。
元は、木星にて活動を行うベネリットグループ非加盟のジュピトリス社の代表であり、同社をベネリットの御三家に匹敵するほどの規模に成長させた敏腕の社長だったが、ジャミトフへの忠誠と、ティターンズの創設を全力で支援する事を引き換えに、ティターンズ宇宙艦隊の司令官の地位を手に入れた。
だが、実力は凄まじく、ティターンズの有するMSと艦船のほぼ全てを彼が設計するほどの技術者としての能力、並外れた人身掌握術と指揮能力、ドミニコス隊のエースすらも凌ぐ圧倒的MSの操縦技術、そしてジャミトフすらも凌ぐかもしれないカリスマ性など、もはや天才と言っても過言ではない人物であり、ティターンズ宇宙艦隊の将校の多くも、彼を慕っているが、彼自身謎が多く、一体なぜこれほどの力を有しているのか、その真意は何か、あまつさえ一体何者なのかと疑問に思うものは少なくない。
その一方で、軍人出身ではないため、地上軍総司令官のバスクやその腰巾着であり、シロッコの監視役でもある、艦隊副司令官のジャマイカン・ダニンガン中佐など、シロッコの事をよく思っていない軍人も多い。