テツマ「お前は人の話を聞かねぇだろ」
サクラバクシンオー「何を仰っているのですか! 私は人の話を聞くことが出来ますよ!?」
テツマは加入に難色を示していた。
テツマ「それにお前の適正距離は短距離とマイルだった筈だ。うちは芝の中距離と長距離がメインなんだよ」
サクラバクシンオー「安心ください! 私も中距離か長距離のどちらかに出る予定ですので!」
バクシンオーの言葉に皆が不思議そうにしていたが、男子生徒達は嫌そうな顔をしていた。
テツマ「それは一体なぜだ?」
サクラバクシンオー「何を隠そう、私は学級委員長だからです!」
バクシンオーの言葉にテツマは無表情になった。
サクラバクシンオー「学級委員長である以上、私は皆の『模範』にならねばならないのです!」
テツマ「…そのためには短距離だけには絞れないと?」
サクラバクシンオー「その通りです! それに質問ですが、短距離のG1はいくつあると思いますか!?」
テツマ「高松宮とスプリンターズステークスの2つ…。成程」
サクラバクシンオー「その通りです! しかも中距離や長距離はもっと注目して貰えますし、全て出来てこそ学級委員長なのです!」
バクシンオーの良く分からない理論に大半のメンバーは困惑していたが、太一と天智は何となく言いたい事は分かっていた…。
テツマ「少しだけお前の事が理解できたぜ。やる気は十分に伝わった」
サクラバクシンオー「そうですか! なら…」
テツマ「だが、一つだけ条件がある」
サクラバクシンオー「な、何でしょう!」
テツマがバクシンオーを見つめた。
テツマ「お前がダシマカップに出るのは5月からだ。1か月はオレの練習メニューをこなして貰う」
「!?」
サクラバクシンオー「何故ですか? 私は今すぐにでも…」
テツマ「お前は試合に勝つ事よりも、人から尊敬される事に価値を持っているからだ」
テツマの言葉に皆が驚いた。
テツマ「お前は『模範』になると言ったな」
サクラバクシンオー「はい! それは勿論ですよ!」
テツマ「お前が『模範』になれるかどうか、オレが試してやる。受けるか?」
サクラバクシンオー「それは構いませんが、まさか短距離を走らせるとかじゃないですよね!?」
テツマ「いいや。中距離と長距離のトレーニングさ。まあ、チームに入ればどこかのタイミングで短距離とマイルも走って貰う事になるがな。逃げるなら今のうちだぜ」
サクラバクシンオー「私は学級委員長! 逃げませんよ!」
テツマ「そうか。ならその威勢がいつまで続くか試させて貰うぜ」
そんなこんなでバクシンオーは仮加入となったが、仮加入した事よりもテツマが練習メニューを考えた事にヒシアマ達は驚いていた。
テツマ「これを1か月間やって貰う」
トレーナー室。テツマが練習メニューをバクシンオーに見せたが、ヒシアマ達も見た。
ヒシアマゾン「はぁ!? アンタ本気で言ってんのかい!?」
あまりにも安直すぎるトレーニングメニューにヒシアマ達は呆れていた。
ウイニングチケット「ランニングと水泳だけって…」
ナイスネイチャ「しかもライブの練習全くないし…」
メジロライアン「…か、考えがあっての事ですね?」
テツマ「ああ。まあ、そう言うだろうと思ってもう一つの案を用意したぜ」
そう言ってテツマはもう一つの案を見せると、
ヒシアマゾン「絶対こっちの方が良いよ!!」
ウイニングチケット「アタシもそう思う…」
ナイスネイチャ「ていうかトレーナーさん。普通に練習メニュー組めたんだ…」
メジロライアン「…バクシンオーはどっちにする? あたしはこっちの方が良いと思うんだけど」
2つの案をバクシンオーが見たが、2つ目の練習メニューはお気に召していないのか、無表情で見つめていた。そしてバクシンオーは2つ目のメニュー表を取り下げた。
サクラバクシンオー「最初に考えてくださった方をやります!!」
ナイスネイチャ「ええっ!!?」
サクラバクシンオー「トレーナーさんはこの私の可能性を見込んで、このようなトレーニングメニューを考えてくださったのですよね!?」
テツマ「いいや、違う。諦めさせる為だ」
「!?」
テツマの言葉にバクシンオーたちが驚いた。
ウイニングチケット「一体どういうことなの!?」
テツマ「1か月耐えるか、リタイアしたら教えてやる。やるか?」
サクラバクシンオー「勿論です!」
テツマ「これを1か月出来ないようなら中距離と長距離は諦めろ。オレから見ても見込みはねぇ」
サクラバクシンオー「分かりました!」
そんなこんなで1か月続けて行った。練習メニュー自体はそんなに難しいものではなkったが、バクシンオーの性格上どうしても耐えられない地道なものばかりだったので、バクシンオーは心が折れそうだった。
ヒシアマゾン「一体どういうつもりだい!?」
ウイニングチケット「あたし達には教えてよ!」
テツマ「バクシンオー本人に言わないと約束できるなら教えてやる」
ヒシアマゾン「わ、分かった…」
テツマ「答えは簡単だ。練習メニュー自体はシンプルにスピードとスタミナをあげる為だが、1か月も同じことをやり続ける事。この行為に大きな意味がある」
メジロライアン「…まさか」
テツマ「実力のない奴ほど地道な努力を嫌う」
テツマの言葉にヒシアマ達は目を開いた。
テツマ「お前達なら分かるだろう。中途半端なトレーニングや努力で勝てる程、このレースは甘くない。違うか?」
メジロライアン「…そ、そうだね」
テツマ「このメニューをやっているのがバクシンオーだから分かりづらいだろうが、経験の浅いネイチャや実力のねぇウマ娘はそれ以上にやらなきゃならねぇ。これはバクシンオーだけじゃねぇ。才能がどうとかゴチャゴチャ言ってる奴に引導を渡す為でもあるんだ」
ウイニングチケット「引導?」
チケットの言葉にテツマは冷めた目でチケットを見た。
テツマ「1か月地道な努力を続けて勝てば、それくらいやらないと勝てないって事を少しは理解するだろうよ。結局最後にモノを言うのは『経験』だ」
テツマの言葉にヒシアマ達が驚いたようにテツマを見ていた。
ナイスネイチャ「そ、それは分かりましたけど…ライブの練習がないのは…」
テツマ「オレ自身が素人だからっていうのもそうだが…。出来たとしても1位以外のダンスの練習は見ねぇよ」
「!!?」
テツマの言葉に皆が驚いた。
テツマ「トレーナーをバカにしてるぜ。負けた時の事を考えるバカがいるかよ」
テツマの言葉にヒシアマ達は何も言えなくなった。だが、それと同時にテツマがどれだけ勝負ごとに真剣なのかも伝わってきて、少し嬉しくなった。
そしてこの後もバクシンオーのトレーニングは続いたが、目立ちたがり屋な性格故に地道な努力に耐えられなさそうになっていた。
しかし、テツマの『諦めろ』という挑発に反発して、トレーニングを続けていた。
ナイスネイチャ「バクシンオー先輩。あそこまでやれるなんて凄いなぁ…」
メジロライアン「あたし達も見習わないと…」
バクシンオーは底抜けのバカだが、自分の強さに自信があり、一切疑わないという長所があり、卑屈なライアンとネイチャは見習うべきだとしていた。
そして…。
テツマ「ヴィクトリアマイルと安田記念に出て貰う」
ある日の事。トレーニングを終えたバクシンオーの元に、テツマがそう告げた。
サクラバクシンオー「ふ、二つともマイルですよ!? 中距離と長距離は!?」
テツマ「前哨戦だ」
「!?」
テツマ「まずはヴィクトリアマイルで思いっきり走ってみろ。本番のレースを通じてどれほどスピードを上げたか体感して貰う。全力で走り、完走してみてまだ走れそうなら見込みはある。安田記念はヴィクトリアマイルの結果次第だ」
竜「あ、ちなみにボクがトレーナーとして出るからネ。ライセンス持ってるカラ!」
こうして運命のヴィクトリアマイル…。
「サクラバクシンオー!! 大差!! 大差をつけて1着だ~!!!!!」
「最後に出たレースよりも大幅に実力が上がっています!! 彼女に一体何が起きたのでしょうか!?!」
バクシンオーが大差をつけて1着となった。テツマ達も観戦していたが、バクシンオーの成長ぶりに唖然としていた。
ウイニングチケット「やったやったぁー!!」
チケットが喜びすぎてテツマに抱き着いていた。
ヒシアマゾン「凄いじゃないか…!」
そんな中、テツマはバクシンオーの様子を見ていたが、息が上がっていない事を確認した。
そして…。
テツマ「余裕そうだったな」
サクラバクシンオー「はい! 以前よりも苦しくなくなりました!」
スタミナが大幅に強化されて、バクシンオーの本来の持ち味であるスピードともつりあえるようになった。
サクラバクシンオー「それでトレーナーさん!」
テツマ「何だ」
サクラバクシンオー「これで私を正式にチームに入れてくれるんですよね!?」
テツマ「勧めはしないぜ」
ナイスネイチャ「またそういう事言う!」
メジロライアン「あたし達は大歓迎だよ!」
サクラバクシンオー「はい! それではお世話になります!!」
こうして、バクシンオーが仲間に加わったのだが、この1か月後に行われた安田記念にも大差で勝った。
おしまい