ハルウララ
4月のはじめ。飛鳥がトレセン学園に転入する前までさかのぼる…。
「風見くん。この子がハルウララです」
「宜しくねー!!」
「よ、よろしくお願いします…」
男子生徒・風見天智は増田からハルウララというウマ娘を紹介された。だが、彼はとても申し訳なさそうにしていた。
天智は幼少時に『事故』で家族を失い、小学校を卒業するまで孤児院(寺)に預けられていたが、中学進学時に院長の知人の元に預けられることとなった。そこで天智は様々な事に挑戦しては活躍して不本意ながらも注目の的になった。
しかし、中学3年生の時に院長の知人の孫娘が天智の活躍を妬んだ生徒達に誘拐され、彼女を助ける為に暴力事件を起こしてしまう。莫大な治療費と損害賠償の支払いをしようとしたが、通っていた学園を去る事と孫娘たちに金輪際合わない事を約束させられる。天智としては彼女が無事であればそれで良いと考え、彼女達の前から姿を消してしまうのだが、天智は生きる目標を完全に失ってしまう。
そんな中、天智の才能を聞きつけた増田が天智の元を訪ねてトレセン学園に来てほしいと依頼される。天智は当初断ったが、学費を増田が肩代わりする事と増田の説得により天智は最後の希望をかけて鹿児島から上京する(ちなみに出席などはきちんとしていた事や通信教育を受けた為、中卒には認定された)
そして転入していきなり、ハルウララの育成を任されることとなった…。
***
増田「風見くん。君にはこの『ハルウララ』さんのトレーニングを手伝ってもらいます」
天智「は、はい…」
増田「分からなかったら僕に聞いてください。連絡先は教えている筈なので」
天智「あの、増田トレーナー」
増田「そうですね。事前にトレーニングの知識については教えてはいましたが、何をすれば良いのか分からないですね」
天智「す、すみません…」
天智が申し訳なさそうにする。
増田「本来ならそれくらい自分で考えろと言う所ですが、初めは皆そうです。慣れる事からはじめましょう。そうすればコツが掴めるはずです」
天智「は、はい!」
増田「今度競技大会にウララさんも出ますので、彼女の走りを見て貰いましょうか」
ハルウララ「いいね! わたしがはしる所見てて!」
と、ウララが元気よくそういうと、天智はウララに何か惹かれる所があった。そう、ウララは天智とは真逆の性格で明るくていつも前向きな性格だった。
そしてその姿は自分が守ったあの孫娘…隅田川琴美と重なって見えたのだ。
増田「……」
天智はウララが琴美と姿を重ね合わせていたことに気づいたが、あえて何も言わなかった。
そして天智はウララの事を良く知るために、競技大会を見学する事となった。
*****
『最後の直線に入り、各ウマ娘ラストスパート! しかし、最後方のハルウララはどんどん遅れを取っています!!』
ハルウララ「んんん~っ!!」
実際に見学するも、ウララの出来はお世辞にも良いとは言えなかった。天智はそれを見て困惑した表情を浮かべていた…。
「おいおい。ハルウララの奴、またビリだぞ」
「よくトレセン学園通ったよなぁ…」
と、近くにいた生徒達が嫌味を言っていた。
「何でも面接で通ったらしいぞ?」
「マジかよ。完全に贔屓じゃね?」
「まあ、確かに可愛いけどなー」
「でも、このままじゃマズいんじゃね…?」
そう、トレセン学園は校風こそ自由だが、流石に成績の芳しくない生徒をいつまでも置いておくほど寛大ではないのだ。今のウララみたいに成績の良くない生徒をいつまでも在籍させる保障などない。
それを聞いて天智は困惑した表情を浮かべていたが、
増田「風見くん。ここからが本番ですよ」
天智「!」
増田にそう言われて天智がウララを見た。すると、もう最下位だと結果は分かっているのに必死に走り続けていた。
ハルウララ「ええええええええええええい!!!!」
ウララが最後の思いでゴールを割ると、観客から拍手が送られていた。それもそうだが何よりもウララが嬉しそうだったのだ。
***
ハルウララ「疲れたー」
ウララが増田と天智の元に戻ってきた。
増田「お疲れ様です。ウララさん」
ハルウララ「あ、うん! でも、負けちゃった…」
増田「そうですね。ですが、良い走りでしたよ」
増田がそう言い放った。
ハルウララ「うん! 最後まで全力で走れたんだ!」
増田「そうですね。前は途中で疲れ切っていましたからね」
ハルウララ「えへへ! やっぱり走るのって楽しいな~」
天智「……!」
ウララの言葉に天智はある事を思い出した。
**
『…ウララさんは一度もレースに勝ったことがないんです』
『えっ?』
試合が始まる前、増田からウララの事について聞かされていたのだ。入学してから一度も本番のレースにすら勝ったことがないというのだ。それを聞いて天智は驚いていた。本来なら退学になってもおかしくはないからだ。
増田『素行が悪くなければどうにでもなるのですが、彼女は勉強の方も…』
天智『そ、そんなウマ娘を何故…』
増田『勿論勝つ事は大事ですが、彼女には皆が持っていないものを持っています。そして風見くん。今の君にとって一番大事なものを彼女が持っている。なので、君に彼女の面倒を見て貰いたいんです。彼女を近くで感じて…』
**
増田に言われた事が分かった。今の自分に必要な事は『くじけない事』だと。何度負けても一度も勝てなくても、次は出来ると信じて前を進み努力する。今のウララを見てそう思った天智だった。そして彼女に対して拍手が送られたのもきっと彼女のそういう姿勢に心を動かされたのだろうと思った。そうでなければ、とっくの昔に戦力外通告を受けている筈だからだ。
天智「…ウララさん」
ハルウララ「なあに?」
天智がウララを見つめる。
天智「あなたのトレーニング。僕に手伝わせてくれませんか」
ハルウララ「ホント!?」
増田「ウララさん。暫くは彼があなたのトレーニングを見ます」
ハルウララ「あれ? トレーナーは?」
増田「僕は他にもやる事がありますので…。ですが、困った事があったらすぐに来ますよ」
ハルウララ「ふーん。分かった! それじゃがんばろうね! トレーナー!」
天智「あ、はい…」
こうしてウララと天智の二人三脚が始まった。
だが、ウララは前向きでやる気こそあるものの、集中力がないのですぐ別の事にそれてしまう短所があり、トレーニングが進まない事もあった。
しかし、天智は彼女を責めることはせず、何とかして彼女にトレーニングに集中させたり、増田にコツを聞いたりして努力と時間を惜しまなかった。
その中で彼女が何故1着を取れないのか自分なりに分析した結果、身体が小さい事と走っている時に無駄に体力を使っていた事が分かったので、耐えられるようにスタミナと根性トレーニングを中心にした。ウララも天智が自分の為に頑張ってくれている事に気づいて真剣にトレーニングをするようになった。
その結果…
『ハルウララ! 1着! ついに1着を取りました~!!!』
ウララが遂に1着を取ったのだ。観客からは大歓声が上がっていたが、その中には泣いている観客もいた。天智と増田も喜んでいた。
天智「おめでとうございます。ウララさん」
ハルウララ「やったよトレーナー! わたし、はじめて1着が取れた!」
天智とウララは喜びあっていると、増田も笑みを浮かべた。
増田「おめでとうございます。ウララさん、風見くん」
ハルウララ「ありがとー! トレーナー!」
天智「増田トレーナー…」
増田「これでダシマカップに出ても大丈夫そうですね」
天智「え?」
ハルウララ「ダシマカップ?」
増田「ええ。今度学生向けに長期の大会があるんですよ。いわばTSシリーズの学生バージョンです」
天智「そ、そんな大会が…」
増田「出て損はないと思います」
ハルウララ「トレーナー! 出ようよ!」
ハルウララはそう言って天智の方を向くと、天智は意を決して参戦を決意した。
そんな中、正規のトレーナー達は唖然としていた。あのハルウララが1着を取った上に、1着にしたのがトレーナー科の生徒だったからだ。
「そ、そんな…」
「このままだとオレ達の立場がないじゃないか…!!」
このウララの1着が各方面で良くも悪くも影響を与えたのは別の話…。
おしまい