誰一人として勝利させられなかったハルウララを勝たせた天智は一躍有名人となり、そのままダシマカップへの参戦を決める事となった。
しかし…
「おい」
「!?」
廊下を歩いていると、同じトレーナー科の男子生徒達に呼び止められた。何やら良くない感情を抱いている事を察知した天智。
天智「…何でしょうか」
「調子に乗んなよ」
天智「え?」
「だから! あのハルウララを勝たせたくらいで調子に乗るなって言ってんだよ!」
「あいつがずっと勝てなかったから注目を浴びてるだけだ!」
「お前の実力なんかじゃない!」
理不尽な僻みに天智は困惑していた。
天智「…ええ、十分に心得ていますよ」
「はぁ?」
天智「失礼します」
天智がそう言って去ろうとするが、男子生徒達は歯ぎしりした。
「…黒島といい、あいつといい、どうなってるんだ!!」
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そして教室に帰ってくると、太一が天智を見つめていた。
太一「先ほど絡まれていましたね」
天智「気づいてたんですか…」
太一「ええ。声が聞こえていました」
天智「…そうですか」
太一の言葉に天智が困り顔になった。実はこの2人は寮で同室であり、喋る機会も多いのだ。
太一「注目を浴びてしまっていますが、お互いウマ娘の為に頑張りましょう」
天智「そうですね…」
太一と天智がそう話しているのをクラスメイト達も自分の席から聞いていた。
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ダシマカップが開催され、天智とウララはエントリーを済ませて走った。初めて出た大会は3着だった…。
天智「まあ、そう簡単にはいかないか…」
そんな時だった。
「おいおい! やっぱりあの1着はまぐれだったのか!?」
と、先ほど喧嘩を売ってきた男子生徒達がわざわざ天智とウララをからかいにきた。
天智「アナタ達は…」
ハルウララ「あれ? あの人たちトレーナーの友達?」
天智「いえ、違います」
「悔しかったら1着取らせてみろー!」
そう言って男子生徒達は天智とウララを煽るが、天智は困惑する一方だった。
ハルウララ「こんどは1着とるよ!」
ウララがそう言うと、
「やれるもんならやってみろ!」
「まあ、出来たところでオレ達はお前の事なんか認めないけどな!」
男子生徒達はウララに対して暴言を吐き始め、他の生徒達もまずいと判断したが、男子生徒達が怖くて何も言えなかった。
ハルウララ「どうしてそんな事を言うの!?」
ウララもそう言うが男子生徒達は止まらない。すると天智はこう言った。
天智「ウララさん。どうしてだと思いますか?」
ハルウララ「え?」
「!?」
すると天智はこう言った。
天智「貴女に対して僻んでるんですよ。1着取って皆からチヤホヤされてるのが気に入らないんです」
天智が堂々と言い放つと男子生徒達が青筋を立てた。
ハルウララ「え? そうなの!?」
天智「ええ。1着を取った時、皆さんから拍手されたのを覚えてますか」
ハルウララ「うん! すごいねやおめでとうを沢山言って貰えた!」
天智「ええ。それが妬ましくして仕方がないのです」
天智がそう言って男子生徒達を見つめると、男子生徒達は歯ぎしりした。
「て、てめえ!!」
天智「僕の事はもうどうなったっていいです。ただ、ウララさんに暴力をふるおうと言うのなら、黙っていませんよ」
天智がそう睨みつけると、いつもの弱気な雰囲気は完全に消え去った。男子生徒達だけではなく、周りの生徒達も天智が只者じゃないと思った。すると天智はウララを見つめた。
天智「ウララさん」
ハルウララ「な、なに?」
天智がしゃがんでウララに目線を合わせた。
天智「これからのレース、見ている人たちから酷い言葉を言われる可能性があります」
ハルウララ「え!? どうして!?」
天智「見ている人たちにも事情があって、他の人に勝ってほしかった。真剣に走ってるように見えなかった。といった感想があります。そして、それがあなたを傷つけてしまう事があります。ですがウララさん。あなたは今のままでいい」
天智がそう言うとウララは目を開いた。
天智「今はただ沢山1着を取る事を考えてください」
ハルウララ「うん。分かった!」
天智「まだ走れますか」
ハルウララ「走れるよ!」
天智「それでは行ってきてください」
そう言ってウララはまた並びに行くと、天智は男子生徒達を見つめた。
天智「お待たせしました。これ以上やるって言うのなら、人気のない所で…」
「その必要はありませんよ。風見くん」
天智「増田トレーナー!」
増田がやってきたが、その隣には見た事のないウマ娘がいた。
天智「…そちらの方は」
増田「紹介します。彼女はライスシャワーさん。新しくチームに入れて貰います」
天智「えっ!?」
いきなり2人目が来た事で天智や周りの生徒が驚いていると、増田は男子生徒達を見つめた。
増田「申し訳ありませんが、ここまでにして貰えますか。大事な話があるんですよ」
「くっ…!」
増田が来て分が悪いと判断したのか、男子生徒達は去っていった。
「あ、あのう…」
天智「あ、はい」
「ご、ごめんなさい…。ライスがいると迷惑だよね…」
天智「え?」
増田「ライスさん。そんな事を急に言われても風見くんが困るだけですよ」
ライスシャワー「ひゃああっ! ご、ごめんなさい!」
天智「えっと…」
ライスの突然の行動に困惑しつつも、なんか他人事とは思えないと天智は思っていた。
増田「大丈夫。先ほどの彼を見たでしょう。ちゃんとあなたの事を守ってくれますよ」
ライスシャワー「……」
増田がそう言うと、ライスが俯いた。
天智「あの…一体何があったんですか…?」
増田「それを説明する前にウララさんのレースを一緒に応援しましょうか」
こうしてライスシャワーを仲間にする事となった天智だったが、ライスシャワーが仲間になった事で更に驚かせていた。
天智「あ、1着だ…」
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増田のトレーナー室。ウララは先に寮に戻り、増田、天智、ライスの3人だけだった。本来は増田と天智の2人だけで話す予定だったが、ライスも参加したいという事で3人になった。
増田「ライスシャワーさんはTSで既に活躍しているウマ娘なのですが、昨年の秋に事件に遭いまして、現在お休みしているんですよ」
天智「事件…」
丁度自分が事件を起こした時期に近いので、天智は冷や汗をかいていた。
増田「…ライスさんは実力こそあるのですが、彼女が勝利した時に限って誰かの連勝記録がかかっていたりと、正直タイミングが悪いんですよ。そのせいでヒール扱いです」
増田の言葉にライスは悲しそうに俯くと、天智は何とも言えない顔をした。
増田「そして昨年の秋…ライスさんが最後に勝利したレースですね。その試合は特に誰かの連勝記録がかかっていたという訳ではなかったのですが、お客さんの中で賭け試合をしていた方がいたんですね」
天智「賭け試合!?」
増田「賭博行為は勿論禁止されているのですが、少々厄介な人達でしてね。で、ライスさんが勝利してしまった事で大損してしまった人がいるんです」
天智「まさか…」
天智はイヤな予感がした。
増田「そのまさかです。大損したお客さんが帰宅途中だったらライスシャワーさんを凶器で殺害しようとしたのです」
ショッキングな事実に天智は慄然とした。そんな事があったウマ娘を何故自分のチームに入れようとしているのか到底理解できなかったというのもある。ライスは当時の事を思い出して顔色が悪くなっている。
天智「ま、待ってください! そんな事があってどうして僕のチームに…」
ライスシャワー「トレーナーさん! このトレーナーさんも困ってるよ! やっぱり…」
天智「いや、そうではなくて…」
増田「そうです。彼はあなたを見捨てるような子ではありません。2人とも、一旦深呼吸をしましょうか」
天智とライスに深呼吸をさせて落ち着かせる増田。
増田「…さて、風見くん。見てわかると思いますが、ライスさんは昨年の出来事もあって恐怖でレースには出られない状態です」
天智「その前に他の方は知っているんですか!?」
増田「…大人たちは知っていますが、ライスさんを襲った犯人はURAの上層部の一人息子で、揉み消されてしまったんです。そしてこの事を突っ込んでしまえば」
増田が語る『闇』に天智は息をのんだ。
ライスシャワー「トレーナーさん。やっぱりライスは…」
増田「ダメです」
増田がきっぱりと否定したので、天智もライスも驚いていた。
増田「お気持ちは分かりますがライスさん。このままではいけないと貴女も気づいているでしょう」
ライスシャワー「そ、それは…」
増田「自分の為に誰かを傷つけたくないと言うのは誰でもそうです。ですが、一人で何でもかんでもしようとすれば、最終的に周りの人間を傷つける事になってしまう。ライスさん。あの事件に関してはもうあなた一人だけの問題ではありません」
増田の言葉にライスは俯いていた。ライスは元々優しい性格ではあったのだが、不幸体質という事もあり、人を傷つける事を恐れていたのだ。
増田「ライスさん。今の貴女をTSシリーズに出すのは貴女にとってもトレセン学園にとってもリスクは高すぎます。また同じことが起こる可能性は正直あります」
ライスシャワー「だ、だったら…」
増田「ですが何かしらの動きはして貰います。僕としてもあなたの才能を潰したくはありませんし、あなたを助けてくれた『彼』に申し訳ないでしょう?」
増田の言葉にライスは自分を助けてくれた男の事を思い出した。襲われた時間帯が夜だった為、顔は良く見えなかったが、手の感触と体格から男だという事は分かっていた。
増田「ライスさん。改めて彼とウララさんに力を貸して貰えませんか。貴女のこれからの為にも…」
増田の言葉にライスが俯いたが、
天智「あの、ライスシャワーさん…」
ライスシャワー「!」
ライスシャワーが天智の方を向いた。
天智「あの…。僕がトレーナーで本当に大丈夫ですか?」
ここに来て弱気な発言をする天智。
ライスシャワー「う、ううん!! 大丈夫! 寧ろライスがチームに入って大丈夫なの?」
天智「いえ、問題ないんですけど、もっとイケメンが良かったとか…」
ライスシャワー「そんな事ない! そういうトレーナーさんこそライスみたいなちんちくりんじゃなくてもっと可愛くて…」
天智「えっと、ライスシャワーさんも可愛いと思いますが…」
ライスシャワー「ふぁっ!!?//////」
天智の言葉にライスシャワーが顔を赤くした。
増田「風見くん。あなた彼女がいた筈でしょう」
天智「いや、彼女はもう…」
ライスシャワー「え? どうしたの?」
天智「…すいません。こっちに来るときに色々あって離れ離れになってしまったんです」
天智が気まずそうに答えるとライスはまた困惑した。
ライスシャワー「あああ…ごめんね。ライスが余計な事聞いたから…」
天智「いえ、気になるのは仕方のない事なので…」
増田「そういう訳なのでライスさん。申し訳ないと思っているのなら、風見くんのチームで頑張ってくださいね」
ライスシャワー「は、はい…」
天智(増田トレーナー…意外と強か…!)
こうしてライスシャワーが改めて仲間になった訳だが…。
***
後日
増田「ライスさんはレースには出場せず、風見くんとウララさんのお手伝いをして貰います」
ハルウララ「ライスちゃんも同じチームなの!? うれしいなー!!」
ウララがライスと同じチームになってとても嬉しそうにしていたので、ライスの涙腺が崩壊したのは言うまでもなかった…。
おしまい