悪魔の孫は時の王者となって世界最強   作:MTHR

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オルクスの最下層です。
ご都合主義、独自設定などが多々あります。



8話 真実と謎と旅立ち

 突然乱入したドラスを倒したジオウとウィザードが変身を解くと同時に、奥の扉が独りでに開いた。二人は新手を警戒したが、少し待ってみても特に何も無く、入間とユエはそのまま扉を潜った。

 先ず目に入ったのは太陽だ。勿論ここは地下迷宮であり本物ではない。頭上には円錐状の物体が天井高く浮いており、その底面に煌々と輝く球体が浮いていたのである。僅かに温かみを感じる上、蛍光灯の様な無機質さを感じないため、太陽と称したのだ。

 

「人工太陽…流石は神に歯向かっただけはあるね」

「……ん。入間、水の音がする」

 

 ユエの言葉に耳を澄ますと、確かに耳に心地良い水の音が聞こえてくる。扉の奥のこの部屋はちょっとした球場位の大きさがあり、その部屋の奥の壁は一面が滝になっていた。天井近くの壁から大量の水が流れ落ち、川に合流して奥の洞窟へと流れ込んで、魚も泳いでいる。地上の川から魚も一緒に流れ込んでいるのかもしれない。

 川から少し離れた所には大きな畑もある様である。今は何も植えられていない様だが。その周囲に広がっているのは、もしかしなくても家畜小屋である。動物の気配はしないが、水と魚、肉や野菜と素があれば、ここだけでなんでも自炊できそうだ。緑も豊かで、あちこちに様々な種類の樹が生えている。

 

「どうやら、ここが反逆者の住みかで間違いなさそうだ。ユエ、何があるのか分からない。気を付けていくよ」

「……ん」

 

 そう言って二人は、視線の先にある三階建ての白い清潔感のある建物に慎重に扉から中に入っていった。扉の先のエントランスには、温かみのある光球が天井から突き出す台座の先端に灯っていた。

 石造りの住居は全体的に白く石灰の様な手触りだ。全体的に清潔感があり、エントランスには温かみのある光球が天井から突き出す台座の先端に灯っていた。どうやら三階建てらしく、上まで吹き抜けになっている。

 取り敢えず一階から見て回る。

 暖炉や柔らかな絨毯、ソファのあるリビングらしき場所、台所、トイレを発見した。どれも長年放置されていた様な気配はない。人の気配は感じないのだが……、言ってみれば旅行から帰った時の家の様と言えばわかるだろうか。まるで、人は住んでいないが管理維持だけはしている様な……。

 

 入間とユエはより警戒しながら更に奥へ行き再び外に出るとそこには大きな円状の穴があり、その淵にはライオンに似た動物の彫刻が口を開いた状態で鎮座している。彫刻の隣には魔法陣が刻まれており、試しに魔力を注いでみると、ライオン擬きの口から勢いよく温水が飛び出した。どこの世界でも、水を吐くのはライオンというのがお約束らしい。

 

「ここは浴場だね、どう見ても」

「……入る?一緒に……」

「いや、ユエも女の子でしょ?もっと自分を大切にしなよ」

「むぅ……」

 

 それから二階で、書斎や工房らしき部屋を発見した。しかし、書棚も工房の中の扉も封印がされているらしく開ける事は出来なかった。破壊する事も出来たが、それでは風情が無い。仕方なく諦め、探索を続ける。

 二人は三階の奥の部屋に向かった。三階は一部屋しかない様だ。奥の扉を開けると、そこには直径7、8mの、今まで見た事も無い程に精緻で繊細な魔法陣が部屋の中央の床に刻まれていた。

 

 だがそれよりも注目すべきなのは、その魔法陣の向こう側。豪奢な椅子に座った骸だった。

 

 既に白骨化しており、黒に金の刺繍が施された見事なローブを羽織っている。薄汚れた印象は無く、お化け屋敷等にあるそういうオブジェと言われれば納得してしまいそうだ。

 その骸は朽ちて白骨化したのだろう、椅子に凭れ掛かりながら俯いていて、膝には()()()()()()()が置かれてある。魔法陣しかないこの部屋で骸は何を思っていたのか。寝室やリビングではなく、この場所を選んで果てた意図はなんなのか……。

 

「……怪しい……どうする?」

 

 ユエもこの骸に疑問を抱いた様だ。恐らく反逆者と言われる者達の一人なのだろうが、苦しんだ様子も無く座ったまま果てたその姿は、まるで誰かを待っている様である。

 

「地上への道を調べるには、この部屋が鍵だ。下の部屋を開けるヒントである可能性が多分にある以上、調べるしかないね」

「ん……行こう」

 

 入間はそう言うと、ユエと共に魔法陣へ向けて踏み出した。そして入間が魔法陣の中央に足を踏み込んだ瞬間、カッと純白の光が爆ぜ部屋を真っ白に染め上げる。

 眩しさに目を閉じる二人。直後、何かが頭の中に侵入し、まるで走馬灯の様にこの世界に来てからの事が駆け巡った。

 

 やがて光が収まり、目を開けた入間とユエの目の前には、黒衣の青年が立っていた。

 入間は咄嗟に身構えたが、直ぐに警戒態勢を解いた。

 どうにも目の前の青年からは敵意や悪意どころか、存在感そのものが感じられなかったからだ。またよく見れば、後ろの骸と同じローブを羽織っており、その事も相まって自然と青年の正体がわかってくる。

 

『試練を乗り越えよく辿り着いた。私の名はオスカー・オルクス。この迷宮を創った者だ。反逆者と言えばわかるかな?』

 

 話し始めた彼は【オスカー・オルクス】というらしい。【オルクス大迷宮】の創造者の様だ。

 

『ああ、質問は許して欲しい。これはただの記録映像の様なものでね、生憎と君の質問には答えられない。だが、この場所に辿り着いた者に世界の真実を知る者として、我々が何の為に戦ったのか……メッセージを残したくてね。この様な形を取らせてもらった。どうか聞いて欲しい。……我々は反逆者であって反逆者ではないという事を』

 

 そうして始まったオスカーの話は、入間が聖教教会で教わった歴史やユエに聞かされた反逆者の話とは大きく異なったものだった。

 

 それは狂った神とその子孫達の戦いの物語。

 

 神代の少し後の時代、世界は争いで満たされていた。

 人間と魔人、様々な亜人達が絶えず戦争を続けていた。争う理由は様々だ。領土拡大、種族的価値観、支配欲、他にも色々あるが、その一番は“神敵”からだ。今よりずっと種族も国も細かく分かれていた時代、其々の種族、国が其々に神を祭っていた。その神からの神託で人々は争い続けていたのだ。

 だが、そんな何百年と続く争いに終止符を討たんとする者が現れた。それが当時“解放者”と呼ばれた集団である。

 神代から続く神々の直系の子孫であった為か、解放者のリーダーはある時偶然にも神々の真意を知ってしまった。

 何と神々は、人々を駒に遊戯のつもりで戦争を促していたのだ。解放者のリーダーは、神々が裏で人々を巧みに操り戦争へと駆り立てている事に耐えられなくなり志を同じくする者を集めた。

 そして神が住まうと言われている“神域”と呼ばれる場所を突き止めた解放者達は、解放者のメンバーでも先祖返りと言われる強力な力を持った7人と()()()()()()を中心に、彼等は神々に戦いを挑んだ。

 しかしその目論見は、戦う前に破綻してしまう。何と神は人々を巧みに操り、解放者達を世界に破滅を齎そうとする神敵であると認識させて、人々自身に相手をさせたのである。

 

 その過程にも紆余曲折はあったのだが、結局守るべき人々に力を振るう訳にもいかず、神の恩恵も忘れて世界を滅ぼさんと神に仇なした“反逆者”のレッテルを貼られ解放者達は討たれていった。

 

 最後まで残ったのは中心の7人だけだった。世界を敵に回し、彼等はもはや自分達では神を討つ事は出来ないと判断した。そして、バラバラに大陸の果てに迷宮を創り潜伏する事にしたのだ。試練を用意し、それを突破した強者に自分達の力を譲り、いつの日か神の遊戯を終わらせる者が現れる事を願って。

 

 長い話が終わり、オスカーは穏やかに微笑む。

 

『君が何者で何の目的でここに辿り着いたのかはわからない。君に神殺しを強要するつもりもない。ただ、知っておいて欲しかった。我々が何の為に立ち上がったのか。……君に私の力を授ける。どの様に使うも君の自由だ。だが、願わくば悪しき心を満たす為には振るわないで欲しい。話は以上だ。聞いてくれてありがとう。君のこれからが、自由な意志の下にあらん事を』

 

 そう話を締めくくり、オスカーの記録映像はスっと消えた。同時に、入間とユエの脳裏に何かが侵入してくる。不快感を覚えるが、それがとある魔法を刷り込んでいる為と理解できたので大人しく耐えた。

 やがて、不快感も収まり魔法陣の光も収まる。入間はゆっくり息を吐いた。

 

「入間……大丈夫?」

「うん、平気だよ。それよりユエ、さっきの現象だけど……」

「……ん。神代魔法、覚えた」

「どうやらこの床の魔法陣が、神代魔法を使えるように頭を弄るらしいね」

 

 神代魔法とは文字通り、神代に使われていた現代では失伝した魔法だ。今回得たのは“生成魔法”。魔法を鉱物に付加して特殊な性質を持った鉱物を生成出来る魔法、つまりアーティファクトを作る為の魔法だ。

 とはいえ、ユエは生成魔法と相性抜群の“錬成”を使わないし、入間も“変化(チェルーシル)”と併用すればイケるかもしれないが、やはり適正はそれほど高くないため、オスカーには気の毒だがあまり役に立ちそうにない魔法だった。

 

「……それにしても、奈落の底にあったのが世界規模の詐欺の種明かしとはね……」

「……ん……どうするの?」

 

 ユエの質問に、入間は顎に手をやり、思案する。

 そして何となく、オスカーの膝の上にあった箱を手にとってそれを開け──目を見開いた。

 

「…ユエ、先ずはここを調べよう。なにかあるかもしれない」

「……何があったの?」

 

 ユエに質問され、入間は手に取った箱の中身をユエに見せた。

 

「これって……!」

 

 それを見て、ユエも驚愕した。

 その箱の中には、この世界(トータス)には存在しない筈のライドウォッチが三つ納められていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、入間の提案で形だけだがオスカーの墓を作り、骸の消えた後に遺された彼の指環を拾って入間とユエは封印されていた場所へ向かった。その指輪には十字に円が重った文様が刻まれており、それが書斎や工房にあった封印の紋様と同じだったのだ。

 先ずは一番の目的である地上への道と、ライドウォッチがここにあった手掛かりを探すために書斎に向かう。

 入間とユエは書棚にかけられた封印を解き、めぼしい物を調べていく。すると、この住居の施設設計図らしき物を発見した。通常の青写真程確りした物ではないが、どこに何を作るのか、どの様な構造にするのかという事がメモの様に綴られた物だ。

 

「ビンゴだ!」

「んっ」

 

 設計図によれば、どうやら先程の三階にある魔法陣がそのまま地上に施した魔法陣と繋がっているらしい。オルクスの指輪を持っていないと起動しない様だ。

 更に設計図を調べていると、どうやら一定期間ごとに清掃をする自律型ゴーレムが工房の小部屋の一つにあったり、天上の球体が太陽光と同じ性質を持ち作物の育成が可能等という事もわかった。人の気配が無いのに清潔感があったのは清掃ゴーレムのお陰だった様だ。工房には、生前オスカーが作成したアーティファクトや素材類が保管されているらしい。

 

「入間……これ」

「ん?」

 

 入間が設計図をチェックしていると、他の資料を探っていたユエが一冊の本を持ってきた。どうやらオスカーの手記の様だ。かつての仲間との何気ない日常について書いた物の様である。

 入間はペラペラとページを捲り、ある一節を発見した。

 

「……やっぱりそうか」

「……ん、何が書いてあったの?」

「ここ、読んでみて」

 

 入間はユエと目線を合わせ、ユエにも書記を見せる。その一節には解放者の中心人物たる6人と、“協力者”の名前が書かれていた。

 解放者のリーダーたる【ミレディ・ライセン】を始めとした、【ナイズ・グリューエン】【メイル・メルジーネ】【ラウズ・バーン】【リューリティス・ハルツィナ】【ヴァンドゥル・シュネー】。

 そして…

 

「……『異世界から来た戦士、ムラサメ・リョウ』…!?」

 

 名前の前に書かれている一文に、ユエは大きく目を見開く。この内容が事実なら、過去にも入間達以外の異世界人がこの世界に来ていたということになるのだ。

 入間もまた、その文と記載されている名前を少しの間眺めていたが、一度調べる必要があるだろうと考えて懐から白と緑のライドウォッチを取り出した。

 

「…入間、そのウォッチは?」

「これは少し特殊でね。調べものには丁度いいんだ」

 

 ユエの質問にそう答えながら、入間はそのウォッチ──“ダブルサイクロンジョーカーエクストリームライドウォッチ”のライドオンスターターを押した。

 

 

サイクロンジョーカーエクストリーム!

 

 

 【仮面ライダーダブル・サイクロンジョーカーエクストリーム】の力を解放し、入間は目を閉じて腕を開き、精神を別の空間へとダイブさせた。

 

 

 

 

 

 

 

 真っ白な世界に浮かぶ、無数の本と本棚。この光景を見たら、王宮の書庫が小さく見えてしまうだろう。

 ここは【地球(ほし)の本棚】。地球のありとあらゆる記憶が本となって詰め込まれている精神世界だ。本来入間に地球の本棚にアクセスする能力はないが、ダブルエクストリームウォッチを使えば、入間はこうして地球の本棚にアクセス出来るのだ。

 

『さて、検索を始めよう。キーワードは……「村雨良」』

 

 入間のキーワードに反応して、本と本棚が急激に減っていく。

 やがて入間の前に、一冊の本が残った。その本の題名(タイトル)は【MASKED RIDER ZX】。

 入間はその本を手に取り開くと、本の内容に目を通した。

 

 村雨良、またの名を【仮面ライダーZX(ゼクロス)】。

 悪の秘密結社『バダン』によって脳以外の99%を機械に置き換えられたパーフェクトサイボーグ。

 それまでのライダーのように体術を駆使した技はあまり使えないが、その代わり“忍者ライダー”の異名どおり全身に備えた武器を駆使して戦うライダーである、と書かれている。

 

『殆ど図鑑みたいな感じだな……ん?』

 

 思ったよりも有益な情報が得られなかった事に溜め息を吐く入間だったが、その本の次のページを捲ると、その表情は困惑のものに変わった。

 

『ページが…閲覧できない…!?』

 

 そう、入間が開いたページは、真っ黒に塗りつぶされていたのだ。漫画家がインク瓶をひっくり返して中身が溢れた原稿のように。それから先も開くがやはり同じであり、軽く10ページはインクで塗りつぶされている。

 それから先には『2023年、天草四郎時貞の手により仮面ライダーシノビの世界に連れ込まれたが、パーフェクトサイボーグであることが幸いし呪術を受けず、一足先に神蔵蓮太郎(仮面ライダーシノビ)桜井景和(仮面ライダータイクーン)に加勢して洗脳された風魔と剣斬と相手取った。2人が正気に戻った後は虹蛇達と戦った。』と記載されていた。

 

『この出来事が起こるまでの間に、村雨良に何があったんだ…?……凄く気になるけど、仕方ないか』

 

 読めないのなら仕方がないと、入間は精神を地球の本棚から現実世界に戻すと、顎に手を当てて思案する。

 

「……入間?」

「…ユエ。先ずは他の迷宮を攻略しよう。もしかしたら他に村雨良に関する手掛かりがあるかもしれないし、エヒト(似非神)に近付けば、おのずと黒幕の正体も分かるかもしれない」

「……私も一緒に?」

「ついてくるって、決めたんでしょ?」

 

 そう言って入間が頭を撫でると、ユエは相好を崩した。

 

「それとユエ。しばらくここに留まらない?他の迷宮攻略の事を考えても、ここで少し準備しておきたいんだけど、どうかな?」

 

 ユエは300年も地下深くに封印されていたのだから一秒でも早く外に出たいだろうと思ったのだが、入間の提案にキョトンとした後、直ぐに了承した。

 

「……入間と一緒ならどこでもいい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の晩、入間は風呂に浸かりながら天井の太陽が月に変わり淡い光を放つ様を眺めていた。

 

「はぁ、久々のお風呂だ。最高ォ……」

 

 迷宮を攻略するまでの一週間、入間は一応魔術で体を洗ってはいたが、やはりこうしてゆっくりと風呂に浸かれるのは別格だ。

 そうして適度に力を抜いて湯舟を堪能していると、突如、ヒタヒタと足音が聞こえ始めた。入間は「え?」と肥を漏らしながら音の方へ視線を向ける。

 タプンと音を立てて湯船に入ってきたのは勿論、ユエだった。

 

「んっ……気持ちいい……」

 

 ユエは一糸纏わぬ姿で入間のすぐ隣に腰を下ろした。

 淡い月明かりがその芸術品の如き白磁の肌を照らし、ゆるふわの髪は入間も初めて見るアップに纏められた状態で、晒された白く滑らかな項が艶かしい。

 

 入間はしばらく呆然としていたが、やがてボンッという効果音がつきそうな勢いで顔を真っ赤に染めると、直ぐにバシャバシャと飛沫を上げながら風呂から出ようとする。

 しかし、直ぐにユエが入間の腕を掴んだ事で阻止される。

 

「ゆゆゆゆゆユエ!!お、おおお風呂に入りたいなら先に言ってくれない!?それと、僕は出るから!!手を離して!!」

「……一緒に入りに来た」

「ヴェ!?そんなの出来るわけないでしょ!!男女が一緒にお風呂にはいるなんてそんな非常識な……」

「……入間、一緒に入ろう。()()()

「ヴッ!」

 

 入間の弱い言葉を使われる。これが香織やクラスメイトなら知ったことかとぶん殴っているだろうが、ユエからのお願いとあっては断れない。

 まるで錆び付いたロボットような動きで正座して湯船に浸かる。

 

「せ、せめて前隠してくれないかな……その、目のやり場が……」

「寧ろ見て」

 

 目をギュッと閉じて、全力で顔をそらしながら注意するが、ユエは首を振って入間に迫る。

 その言葉と共に、少し上気し始めたユエの肌。頬も淡く染まり、得も言われぬ色気を放っていた。

 

「……ん。入間……見て?」

 

 ユエの得意げな顔に、入間はもはや噴火するのではないかと錯覚する程に顔を真っ赤にする。

 

「……私、好みじゃない?」

「そ、そそそそんな事ないから!!ユエは綺麗だし、十分魅力的だから!!!」

「……ん。嬉しい…全部、入間のだから。いっぱい、見て?」

「ハッ!!」

 

 入間は己の失言に気づくが、もう遅い。

 ユエがおもむろに立ち上がると、湯の中をゆったりと進みながら入間の足を跨ぎ座る。

 

「……入間」

 

 妖艶な雰囲気を纏いながら、チロリと下舐めずりをするユエを見て、入間はユエが何をする気なのかを完全に理解し、咄嗟に魔術を行使した。

 

「スッ、“睡眠(スイーピー)”ッ!!!」

 

 入間が叫ぶと同時に、ユエは糸の切れた操り人形のようにガクンと崩れ落ち、咄嗟に入間がささえる。

 極力ユエの肌を見ないように細心の注意を品からユエをお姫様抱っこでベッドまで運ぶ入間。そんな入間を、久々に登場したアリクレッド(小さな相棒)が指輪から出てきてからかい始める。

 

「ま~ったく~。イル坊は純情だぁね~。据え膳食わぬは男の恥なんじゃな~い?」

「アリさん……」

「おお怖い。今回はこの場でおいとましとくよ~」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな事もありつつも2ヶ月の時が過ぎ、入間とユエは三階の魔法陣の部屋に立つ。

 あの後、目を覚ましたユエに入間は年が離れてるとは言えはしたないと説教したのだが、ユエは関係ないと言わんばかりに入間に告白したのだ。

 鈍感な入間は本気でユエの好意に気付いていなかった為、心底驚くが、それでもユエに恋心を抱いていないからと断ったのだが、それからというものユエから猛アプローチを受ける日々が始まったのだ。

 

 とはいえ、流石に2ヶ月もイチャついていたわけではなく、大抵の時間をお互いの訓練のために費やしていた。

 あの箱の中に入っていたライドウォッチは【仮面ライダー1号】、【仮面ライダー2号】。そして【仮面ライダーZX】のウォッチであり、入間はそのウォッチを、ユエはウィザードの力を使いこなすために日々模擬戦を行い、そのお陰で二人の実力は大きく変容しており、ユエも今なら【オールドラゴン】すら使いこなせるようになっていた。

 

 他には、入間は館の探索で様々なアーティファクトを発見した。

 その最たる物がオスカーが保管していま“宝物庫”という指輪型アーティファクトで、指輪に取り付けられている一センチ程の紅い宝石の中に創られた空間に物を保管して置けるという物だ。

 要は勇者の道具袋の様な物である。空間の大きさは正確には分からないが相当な物だと推測している。この2ヶ月の間に確保した食料を全て詰め込んでもまだまだ余裕がありそうだからだ。因みに長旅を予期して入間がトレント擬きを乱獲したことで、オルクスからトレント擬きが絶滅したのは余談である。

 そして、この指輪に刻まれた魔法陣に魔力を流し込むだけで物の出し入れが可能であり、半径1m以内なら任意の場所に出す事が出来るという物凄く便利なアーティファクトだ。

 

 他にも、入間は神結晶が蓄えていた魔力を枯渇させたために抽出出来なくなった神水を、“ジオウⅡライドウォッチ”の時間を操る能力で神結晶の時間を進めることにより、軽く1トンは越える量の神水を生み出し、それを宝物庫に保管した。これで道中に重傷を負ったとしても心配ないだろう。

 更に入間は神結晶の膨大な魔力を内包するという特性を利用し、一部を“変化(チェルーシル)”でネックレスやイヤリング、指輪等のアクセサリーに加工し、それをユエに贈ったのだ。

 ユエは変身せずとも強力な魔法を行使できるが、最上級魔法等は魔力消費が激しく、一発で魔力枯渇に追い込まれる。勿論ウィザードに変身すれば多少は連発して最上級魔法を放てるが、【インフィニティースタイル】に至っていない為に必ず限界はあるので、魔力枯渇で動けなくなるという事も無くなる。

 

 そう思って、ユエに“魔晶石シリーズ”と名付けたアクセサリー一式を贈ったのだが、その時のユエの反応は……

 

「……プロポーズ?」

「…何で?」

 

 余りにもぶっ飛んだ一声に、入間はツッコむしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 そして、二人はいよいよ地上に出る。三階の魔法陣を起動させながら、入間はユエに静かな声で告げる。

 

「ユエ、僕達の力は地上では異端だ。怪人や黒幕との戦いは勿論、あの身勝手な王国や教会の屑共、ひいては似非神とも戦うことになるかもしれない。それでも構わないね?」

「今更……」

 

 ユエの言葉に思わず苦笑いする入間。

 真っ直ぐ自分を見つめてくるユエのふわふわな金髪を優しく撫でると気持ちよさそうに目を細めるユエに、入間は一呼吸を置くと、キラキラと輝く紅眼を見つめ返す。

 

「なら良い。どんな障害があろうと関係ない。僕達は僕達の道を進めば良い」

「……ん。全てを薙ぎ倒して、魔界(入間の故郷)へ行く。そして……」

「?」

 

 ふと、自分に指を指すユエに入間は首をかしげ、ユエは宣言する。

 

「いつか、入間の“特別の座(一番)”は私が貰う──覚悟してね?」

 

 妖艶な雰囲気とは対称的に、ドラスと対峙した時以上に強い決意と野心に紅い瞳を燃やすユエ。

 もう2ヶ月も経つので、度を越したようなアプローチでなければ柳に風と受け流せるようになってきた入間だが、ユエのその表情にまた一瞬だけ胸を高鳴らせ、若干頬を赤くした入間は後頭部の髪をかき乱しながら、誰にも聞こえないように小さく呟いた。

 

「……本当に、強い女だよ、君は」

 

 その言葉と同時に転移の魔法陣が光り輝き、二人を包み込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻、何百mもの深い峡谷──【ライセン大峡谷】にある大きな岩と岩の隙間から、その過酷な環境とは不釣り合いなウサミミがピコピコと動いたかと思うと、ピョコッと顔を出した。

 ウサミミの持ち主は、人間の顔をしていた。青みがかった白髪と蒼穹の瞳を持ち、薄汚れた布切れを水着のように着こなしている事でそのナイスバディが強調され、いっそ神秘的ですらある。

 そんな神秘的な少女は……

 

「うぅ~、めっちゃ怖いですぅ~。お布団の上でゴロゴロしながら、オヤツを貪りたいですぅ~」

 

 …何だか、色々と残念な性格をしている様だった。

 暫くめそめそと泣き言を呟いていた残念美人(ウサミミ少女)は、しかし自分の頬をペチペチと叩いて気合を入れると、峡谷の奥を見つめだした。

 

「でもこのままじゃ、私や家族の方が魔物のオヤツですぅ……早く行かなくちゃです。あの未来へ、あの人達の下へ」

 

 決然と立ち上がったウサミミ少女は、見つめる先へと駆け出した。

 

「ひ~ん!私は美味しくないですよぉ!」

 

 ……数分後、何とも情けない叫び声が峡谷に木霊した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クッ、手掛かりどころか、魔獣しかいないではないか。門矢士め……」

 

 更に同時刻、先程のウサミミ少女がいる地点から数百m離れた先では、一人の大柄な美女が峡谷の底を歩いていた。周りには魔物の死骸が無数に転がっている。

 

 女性にしてはかなり大きい190cmの長身に、ウサミミ少女よりも抜群のスタイルをしており、整った顔立ちに強い意思を宿した鋭い目。長く赤い髪には、ケモミミのように見える尖りが存在していた。

 左腕には『バイク』という文字が記載された時計と、赤い時計が取り付けられたバンドを巻いている。

 

 彼女は()()()()を探す為に知人の手を借りてこの世界に降り立ったのだが、その知人は何を考えたのか彼女はこんな峡谷に送り込まれ、もう2日も経つのだ。不幸中の幸いか、ここには見たこともないが、魔物(獲物)がわんさかいるため、食うには困らなかったが、目的の人物の手掛かりも、この峡谷への出口も見つからない。

 その上、()()()()()()()()()()()()とも、この世界に飛ばされた瞬間にはぐれてしまった。まさに詰みである。

 

「……お前は一体どこにいるんだ、入間」

 

 赤い髪の美女は空を見上げ、寂しげに呟いた。

 

 

 

 




これにて、オルクス大迷宮編は完結です。
次回からはライセン迷宮編となります。そして、あの悪魔()も登場します。

感想、評価お待ちしております。

本作でミレディ・ライセンをどうするか検討しています。ですので読者の皆様からのご意見をお聞かせください。

  • 入間くんのヒロイン入り。
  • 原作通り。
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