悪魔の孫は時の王者となって世界最強   作:MTHR

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 迷宮攻略、スタートします。
 前回実施したアンケートは理想世界の試練が終わる時まで実施する予定なので、気兼ねなく好きな項目に投票していただけると嬉しいです。


92話 ハルツィナ大迷宮

 体に纏わりつくような濃霧の中を、迷いのない足取りで進む人影がある。

 

 入間が結成したバビルと、勇者パーティー、そして愛子と優花だ。

 

 シアを先頭に、入間達は現在、大樹に向けて歩みを進めていた。フェアベルゲンに到着してから三日目に、ちょうど大樹への道が開ける周期が訪れたのである。

 

 その間、フェアベルゲンに滞在していた入間達にも色々と騒動が降りかかったりしたのだが、いつもに比べれば、きっと日常の範疇に入るレベルの騒動なので語るほどのことでもないだろう。

 シアがアルテナに絡まれたり、入間とアメリがハウリアに絡み付かれたり、光輝とアスモデウスが元奴隷の女の子達に絡み付かれたり、ティオが入間に絡んできて簀巻きにされたり、鈴が亜人の子供達にハァハァしながら絡んだり、ユエが入間を押し倒したり……

 

 道中、当然のように樹海の魔物が霧に紛れて奇襲を仕掛けて来た。

 しかし、入間達バビルとハウリア達は一切対処せず、全て光輝達に任せている。【ハルツィナ樹海】の大迷宮がどのような試練を用意しているかわからない以上、初挑戦の彼等に樹海の魔物でウォーミングアップをしていてもらおうというわけだ。

 もっとも、樹海の霧は亜人族以外の種族の感覚を著しく狂わせるため、【オルクス大迷宮】での魔物の戦闘とは勝手が違うようで、光輝達は少々苦戦しているようだった。

 

「天之河くん、右から来るよ」

「──ッ!」

 

 側面から奇襲を受けそうになり、入間の忠告で辛うじて凌いだ光輝は僅かに顔をしかめている。苛立ちが募っているようだ。

 それは、結界でパーティーを守る鈴も、遊撃に徹する雫も、難しい表情をしている。

 

「はっ!でやっ!!」

「たぁっ!やっ!」

 

 そんな中、光輝達に混じって戦闘を繰り返しているのは、優花が変身したエターナルと、愛子が変身したゼインだ。

 入間達や光輝達よりも戦闘経験の少ないので自主的に鍛練しているのである。どうやら、変身すると濃霧の影響は受け付けないらしい。

 

 今も、二人はマントを翻しながら、エターナルはエターナルエッジを巧みに振るい、ゼインは強力なスペックを活用してパンチやキックで魔物達を蹴散らしていく。

 やがて、エターナルはエターナルエッジに緑色のガイアメモリを装填し、ゼインは一枚のカードをドライバーに装填する。

 

 

CYCLONE MAXIMUM DRIVE!!

 

 

アマゾン!

 

執行!!

 

JUSTICE ORDER!!

 

 

「食らいなさい!!」

「大切断!!」

 

 エターナルエッジに風の刃を纏わせ、鎌鼬の如き鋭い切れ味で魔物達をミンチに変え、ゼインは手首にアームカッターと呼ばれる刃を出現させると、群れのボスである大型魔物を一刀両断に切り裂いた。

 

「……うむ。ユウカはエターナルの力に慣れてきているようだな。死にそうな目にあったとは言え、26連マキシマムを使わざるを得ない程の相手との戦いは、アイツにとっていい刺激になったようだ」

「でも、畑山先生はまだまだ意識改革が必要かもね。ゼインカードの使用は限りがあるから乱用はできないし、少しは自分だけの力で強くなることも必要かもね」

 

 アメリと入間が、「ふぅ~」と息を吐いて変身を解除する優花とゼインの姿を見ながらポツリと呟いた。

 エターナルの力を使いこなしつつ成長している優花だが、愛子のゼインはスペックだけでなく時間停止やラーニングなど、単体でもとてつもない能力を秘めているが、ゼインカードは使えばそれっきりになってしまう諸刃の剣なので、あまり乱用すると愛子はどんどん手札を失っていくと言う事なのだ。

 

「すみません。気を付けようようとは思ってるんですがまだまだで、どうしても頼ってしまうんですよね……」

 

 その会話が聞こえていたらしく、歩み寄りながら愛子は謝罪する。

 

「……先生。自分を客観的に見てください。私達を軽く上回る身体能力に、ラーニングなんていう反則能力。国宝級のアーティファクトを凌駕する武器を召喚して、挙げ句の果てには時間停止……もうチートなんて評価じゃ足りない、バグキャラというべき存在だと思いませんか?」

 

 雫から呆れたように客観的なスペックを指摘されて、確かに化け物じみていると感じた愛子は目を泳がせる。

 

「ですが、それ全部鈴木くんが出来ることですし……私がバグキャラなら、鈴木くん達は?」

「……名状しがたい何か…としか……」

 

 雫が難しい表情でバビルをあらわす表現を考えるが、結局、何も出てこなかったらしい。そんな雫に光輝が声を掛ける。

 

「大丈夫だ、雫。大迷宮さえクリアできれば、俺達だって鈴木くらい強くなれる。いや、鈴木の天職が不明であることを考えれば、きっと、もっと強くなれるはずだ」

「うん、頑張ろうね!」

 

 入間の持つ力はトータスに来る前から持っていたもので神代魔法はあまり大きな要因とは言えないのだが、その辺に気付かない光輝がグッと握り拳を作った。鈴も気合十分なようだ。

 

 雫が仲間達の様子を目にして笑みを浮かべ、これから始まる試練に向けて気合いをいれようとした時、雫は入間が此方を見ていることに気づいた。正確には、彼女が魔物を切るために使っていた剣に。

 

「……えっと、何かしら?」

「………本当に、世話が焼ける」

 

 視線が気になった雫が尋ねると、入間は少し嫌そうな顔をしつつ“宝物庫”からあるものを取り出した。

 それは、ヘルシャー帝国で一度だけ見た変身音叉だった。入間は変身音叉を軽く振って音叉部分を展開すると、次の瞬間、音叉部分に波紋が広がり、片刃の刀身を持つ“鳴刀・音叉剣”となったのだ。

 適当に作った鞘に音叉剣を収めた入間は、その剣をポイッと雫に投げ渡す。何がなんだか分からずにそれをキャッチした雫に、入間は話す。

 

「君、その剣そろそろ寿命でしょ?それあげるから、足手まといにだけはならないでよ」

 

 雫の持つ剣もアーティファクトなのだが、最初に支給されたものはシグルドとの戦いで折れてしまい、新たに渡された刀剣も王蛇との戦闘でかなりのダメージが入ってしまっていた為、この剣で大迷宮を攻略できるのかと不安を抱いていた雫は、驚いたように音叉剣に目を向けた。

 一振り二振りし、全体のバランスと風すら切り裂きそうな手応えに感嘆する。

 

「こんなにすごいものを……ありがt」

 

 正直、雫の扱う八重樫流の剣術は当然日本刀を前提とするものなので、前の剣ではどうしても技を放つときに違和感があったので刀が手に入ったのは嬉しい雫が礼を言おうとするが、入間は既にやることはやったと言うように先に進んでいた。

 

 入間としては、雫の剣が途中で折れて足手まといになって欲しくなかったから渡したのであり、彼女を気遣ったつもりなど一切ないのだ。別に放っても良かったのだが、それをせずに最低限のアフターサービスしてやるのは入間の優しさか。

 その時、入間は視線を感じてそちらに目を向けると、そこには変身を解いた優花が、顔を赤くしながら此方をにらむように見ているのだ。

 

「……園部さん?どうかしましたか?」

「ッ!し、知らないわよ!!」

 

 声をかけると、途端にそっぽを向く優花。しかし視線はチラチラと此方を向いている。

 

 フェアベルゲンに到達する少し前、とある異世界に戻ってきてから、優花はこのように入間をチラチラ見ていることがある。そして何か用かと入間が尋ねてみると、何も答えずそっぽを向くのだ。

 因みに、それを見たユエ達は「とうとう落ちたか……」と呟いていたが、入間はその理由は良く分からなかった。

 

「みなさ~ん、着きましたよぉ~」

 

 シアが肩越しに振り返りながら大樹への到着を伝える。濃霧の向こう側へ消えていくシアを追って入間達も前へ進むと霧のない空間に出た。前方には以前見た時と変わらない枯れた巨大な木がそびえ立っている。

 

「これが……大樹……」

「すごく……大きいね……」

 

 頭上を見上げ、大樹の天辺が見えないこと、横幅がありすぎて一見すると唯の壁のように見えることに口をポカンと開けて唖然とする光輝達と愛子と優花。

 

きっと、初めて訪れたとき自分達も同じような表情になっていたのだろうなと、入間とユエとアメリは顔を見合わせて小さく笑みをこぼした

 

 入間は宝物庫から今まで攻略して来た大迷宮の証を取り出しながら根元にある石版のもとへ歩み寄る。石版も以前と変わらず、七角形の頂点に七つの各大迷宮を示す紋様が描かれており、その裏側には証をはめ込む窪みがあった。

 しゃがみこみながら、入間が計五つの証を掌で弄んでいると、光輝達もようやく大樹の偉容から解放されて正気を取り戻し入間のもとへ集まって来た。ここからは何が起こってもおかしくない本当の魔境だ。気を引き締めろと、入間は鋭い視線を飛ばした。

 

「カム、何が起こるかわからないからハウリア族は離れておいて」

「御意、陛下。ご武運を」

 

 フェアベルゲンとの交渉で、大樹近辺から南方はハウリア族の土地になったので付いてきたカム達だったが、入間の言葉に少し残念そうな表情になりつつ、それでも一斉にビシッと敬礼を決めて散開していった。

 

 それを確認すると、入間はおもむろに【オルクス大迷宮】攻略の証である指輪を石版の窪みにはめ込んだ。一拍置いて、石版が淡く輝き出し文字が浮き出始める。

 

〝四つの証〟

〝再生の力〟

〝紡がれた絆の道標〟

〝全てを有する者に新たな試練の道は開かれるだろう〟

 

「これも前と同じだね。使う証は……【神山】以外のでいいかな」

 

 入間は呟きながら一つずつ証を石版にはめ込んでいった。【ライセンの指輪】【グリューエンのペンダント】【メルジーネのコイン】……

 一つはめ込んでいく度に石版の放つ輝きが大きく強くなっていく。そして、最後のコインをはめ込んだ直後、その輝きが解き放たれたように地面を這って大樹に向かい、今度は大樹そのものを盛大に輝かせた。

 

「む?大樹にも紋様が出たのじゃ」

「……次は、再生の力?」

 

 ティオが興味深げに呟いた通り、大樹の幹に七角形の紋様が浮き出ていた。トコトコとその輝く紋様に歩み寄ったユエは、そっと手を触れながら再生魔法を行使する。

 直後、

 

パァアアアアア!!

 

 今までの比ではない光が大樹を包み込み、ユエの手が触れている場所から、まるで波紋のように何度も光の波が天辺に向かって走り始めた。

 燦然と輝く大樹は、まるで根から水を汲み取るように光を隅々まで行き渡らせ徐々に瑞々しさを取り戻していく。

 

「あ、葉が……」

 

 シアが、刻々と生命力を取り戻していく大樹にうっとりと見蕩れながら頭上の枝にポツポツと付き始めた葉を指差す。まるで、生命の誕生でも見ているかのような、言葉に出来ない不可思議な感動を覚えながら見つめる入間達の眼前で、大樹は一気に生い茂り、鮮やかな緑を取り戻した。

 少し強めの風が大樹をざわめかせ、辺りに葉鳴りを響かせる。と、次の瞬間、突如、正面の幹が裂けるように左右に分かれ大樹に洞が出来上がった。数十人が優に入れる大きな洞だ。

 

 入間達は顔を見合わせ頷き合うと、躊躇うことなく巨大な洞の中へ足を踏み入れた。

 

 入間が少し懸念していたこと──実際に四つ以上の大迷宮を攻略していないメンバーは樹海の大迷宮に挑戦できないのではないかという点については、どうやら杞憂だったようである。問題なく全員が洞の中へ入ることが出来た。

 おそらく他の大迷宮と同じく、「入りたければ、あるいは入れるものなら入ればいい。但し、生きて出られる保証は微塵もないけど」というスタンスなのだろう。

 

 入間は視線を巡らせる。だが、洞の中は特に何もないようだった。ただ大きな空間がドーム状に広がっているだけである。

 

「行き止まりなのか?」

 

 光輝が訝しそうにポツリと呟く。

 直後、洞の入口が逆再生でもしているように閉じ始めた。

 

 徐々に細くなっていく外の光。思わず慌てる光輝を入間が一喝する。入口が完全に閉じ暗闇に包まれた洞の中で、咄嗟にユエが光源を確保しようと手をかざした。が、その必要はなかった。

 なぜなら、足元に大きな魔法陣が出現し強烈な光を発したからだ。

 

「ひゃあっ!?なんですか!?」

「なになに!なんなのっ!」

「落ち着いて!転移系の魔法陣だよ!転移先で呆けないでね!」

 

 動揺する愛子や鈴に入間が注意した直後、彼等の視界は暗転した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ……ここは……」

 

 再び光を取り戻した入間達の視界に映ったのは、木々の生い茂る樹海だった。大樹の中の樹海……何とも奇妙な状況である。

 

「みんな、無事か?」

 

 光輝が軽く頭を振りながら周囲の状況を確認し仲間の安否を確認した。それに雫達が「大丈夫」と返事をする。バビルのメンバーも、愛子も優花も特に問題はないようで、周囲を警戒し鋭い視線を飛ばしている。

 

「鈴木、ここが本当の大迷宮なんだよな?……どっちに向かえばいいんだ?」

 

 入間達が飛ばされた場所は、周囲三百六十度、全てが樹々で囲まれたサークル状の空き地であり、取るべき進路を示す道標は特に見当たらなかった。

 頭上は濃霧で覆われているので飛び上がって上空から道を探すことは出来そうにない。なので、光輝はどうしたものかと大迷宮経験者である入間に尋ねたのだ。

 

「……取り敢えず、探すしかないね」

 

 入間は、どこか不機嫌そうな表情でそれだけ呟くと、近くの木の幹を適当に傷付けた。

 

「そうか。俺が先頭を行く。何か気が付いたら教えてくれ」

 

 それを見て光輝達が頷く。目印を残しながら探索するしかないと理解したようだ。神代魔法は、大迷宮の試練をクリアしたのだと認められなければ神代魔法を授かれないと聞いていたので率先して歩き出した。

 

 ぞろぞろと、他のメンバーもその後を付いて行く。しかし、入間だけは、どこか瞳に冷たさを宿しながら何故かその場を動かない。歩き出して、それに気がついたシアが頭上に「?」を浮かべて入間の方へ振り返った。

 

「……入間さん?どうし――」

 

 シアが、入間に声をかけた……その瞬間、

 

シュバッ!

 

 そんな風切り音が響いたかと思うと、一瞬でユエ、ティオ、クララ、優花が鎖に巻き付かされ拘束されてしまった。入間が“ツインブレイカー”に“ロックボトル”を装填して鎖を放ったのである。

 

「……ん!?」

「ご主人様!?」

「イルマち!?」

「行きなり何すんのよ!?」

 

 ジタバタともがくユエ、ティオ、クララ、優花。そんな彼女達を見て光輝達が唖然とする。しかし、直ぐに正気を取り戻すとキッと音がしそうな強い眼差しを入間に向けた。

 

「鈴木!一体、なんのつもりだ!」

 

 光輝が思わず怒声を上げる。雫達もどこか緊張したような表情で入間に視線で事情説明を求めた。

 

「……少し黙って」

 

 しかし、入間はそれだけ言うと光輝達の疑問には答えずユエのもとへ無言、無表情でスタスタと歩み寄った。

 

 そして、自分を困惑したように見上げるユエの額に、ゴリッとツインブレイカーの銃口を押し付けた。その瞳には絶対零度の冷たさが宿っており、入間が激烈な怒りを抱いていることが示されていた。

 

「入間……どうしっ」

 

 ユエが、自分に銃口を向ける入間を見て信じられないといった表情をする。そして、入間の名を呼びながら疑問の声を上げようとした。

 が、その直後、

 

ドパンッ!

 

 入間は躊躇うことなくツインブレイカーの引き金を引いた。樹海に、乾いた炸裂音が木霊する。一応、銃口は額から外されてユエの肩に向けられていたが、それでも入間が最愛の恋人を撃ったことに変わりはない。

 

 その事実に、光輝達は当然のことシア達は激しく動揺する中、アスモデウスとミレディだけは入間の意図がわかっているように静かだった。

 

「な、何をやってるの!鈴木くん!」

「鈴木くん!やめてください!」

 

 雫と愛子が、焦燥感に満ちた制止の声を上げ入間を止めようとするが、そこでようやく残りのバビルのメンバーが違和感に気がついたようで逆に雫達を手で制した。

 光輝が入間を取り押さえようと今にも飛びかかりそうな雰囲気だったが、それは、次ぐ入間の言葉で霧散することになった。

 

「許可なくしゃべらないで、偽物。紛い物の分際でユエの声を真似るな。次に、その声で僕の名を呼んだら……手足の端から削り落とす」

 

 入間が声を発した瞬間、まるでその場が極寒の地にでもなったかのように冷気で満たされた。

 実際に気温が下がっているわけではない。その身から溢れ出る殺意が、生命の発する熱を削ぎ落としているのだ。心なし、周囲が暗くなった気さえする。余りに濃密な殺意に、光輝達の呼吸が自然と浅くなり冷や汗が滝のように流れ落ちた。

 

「君は何?本物のユエは何処にいる?」

「……」

 

 ユエの姿をした“何か”は表情をストンと落とすと無機質な雰囲気を纏って無言を貫いた。“何者”ではなく“何か”なのは、撃たれた肩から血が流れ落ちないからである。明らかに“人”ではなかった。

 

 入間は、今度は逆の肩を撃ち抜く。しかし、ユエの偽物は表情一つ変えることはなかった。どうやら痛覚がないらしい。ノイントよりも尚、人形のようなイメージを受けるそれは、あるいは本当に意思を持っていないのかもしれない。

 

「答える気はない。……いや、答える機能を持っていないのかな?ならもういい。纏めて死ね」

 

 

シングル! ツイン!

 

ツインブレイク!

 

 

 入間はツインブレイカーをアタックモードに切り替えると、“クマフルボトル”と“ドラゴンフルボトル”を装填し、ユエに狙いを定めると、蒼炎を纏う鉤爪を振るい、ユエと、そしてその横にいたティオ、クララ、優花を吹き飛ばした。後方に、何かがビチャビチャと飛び散る。

 

 思わず顔を背ける雫達だったが、堪えてよく見てみれば飛び散ったのは臓物などではなく赤錆色のスライムのようなものだった。身体の大半を失った肉体は、一拍おいてドロリと溶け出すと、同じように赤錆色のスライムに戻りそのまま地面のシミとなった。

 

「流石大迷宮。いきなりやってくるね……」

 

 入間がツインブレイカーを宝物庫に仕舞いながら悪態を吐く。

 

「入間さん……ユエさん達は……」

「転移の際、別の場所に飛ばされたんだろうね。僅かに、神代魔法を取得する時の記憶を探られる感覚があった。あの擬態能力を持っている赤錆色のスライムに記憶でも植え付けて成り済まさせて、隙を見て背後からって感じじゃないかな?」

「まさにその通りだよ」

 

 入間が恋人をダシにされて不機嫌そうに表情を歪ませる。入間の推測をミレディが肯定したのを聞いて雫と鈴が感心したように頷いた。

 

「なるほどね。……それにしてもよくわかったわね」

「うんうん、鈴には見分けがつかなかったよ。どうやって気がついたの?」

 

 鈴が、また成り済ましで仲間に紛れられたら困ると入間に見分け方を聞いた。光輝もユエ達の安否を気にしつつ興味深げに入間を見やった。

 そんな疑問に対する入間の答えは……

 

「どうって言われてもね。……見た瞬間、わかったとしか言いようがない。目の前のこいつは“僕のユエじゃない”って」

「「「「「……」」」」」

 

 ある意味、惚気とも言えるような回答に全員がガクッと脱力した。

 

「じゃあ、ティオさんとクララさんと優花は?」

「偽者がいるって分かれば、後は集中すれば魔物の気配とユエ達の気配を察知出来る。だから、今後は心配無用だよ」

 

 そうですかぁ~と、光輝達はどこか呆れたような眼差しを入間に向けた。すると、雫は次いでアスモデウスに視線を向ける。

 

「アスモデウスさんも途中で気付いていましたよね?どうやって見分けたんですか?」

「……私が見抜けたのはクララだけだ。いつもなら樹海の奥へと先走りそうな奴が妙に大人しかったからな」

「あぁ~確かに。クララはこういう時、必ず何処かに行っちゃうよね」

 

 アスモデウスの言葉に同意する入間を見て、雫達は「そんな理由で気付くか普通?」というような目を二人に向ける。

 そんな中、シアが何か思いついたようにハッとすると、もじもじしつつ期待を含めた眼差しで入間に問う。

 

「あの、入間さん……私でも、見た瞬間に気づいてくれますか?」

「!イ、イルマ!私も、もし偽物になったどうなんだ!?」

「イルくん、まさかイルくんがこの超絶天才美少女ミレディさんの魅力を見間違えるわけないよね~。ね?ね?」

「イルマ先輩。私は…?」

「!」

 

 シアに続くようにバビルの女性陣が入間に問いかけ、愛子は敏感に反応する。口には出さないが、「自分だったら気付くのか」と聞きたそうにチラチラと視線を向けている。

 何となく入間はに視線が集まる。微妙に甘酸っぱい雰囲気の中、入間は特に気負った様子もなくあっさり答えた。

 

「気付くに決まってるでしょ。どれだけ一緒にいたと思ってるの?」

 

 身内博愛主義者の入間らしい答えだった。

 決して恋愛感情という意味で言ったわけではないのだが、惚れた男から自分達を思っての言葉に、シア達は自然と頬が赤くなる。そんな彼女達に苦笑しつつ、入間は仲間達に声をかけて樹海の奥へと歩いていく。シア達は嬉しそうに、アスモデウスは誇らしそうにその背中を追い駆ける。

 

 愛子は、自分がその枠に含まれていない事に頬をぷくっと膨らませながらバビルの後に続いていくと、勇者パーティーは物凄く甘いものを食べたような表情で入間達を追いかけた。

 

 一行は最初から色々問題を抱えつつ樹海の中へと足を踏み入れるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな彼らの姿を、木々の影に隠れて眺めている存在がいた。

 

「大迷宮の試練が始まったようだね」

 

 白系統の色をしたベレー帽と芸術家風のコートを纏っており、「救世主伝説」と言うタイトルが彫られた大きめの本を手にしている青年は、その本を開き、まるで誰かに語りかけるように口を開いた。

 

「この本によれば、全てのライダーの力を継承した鈴木入間は最低最悪の時の王者、オーマジオウとなり世界を滅ぼす未来が待っていた。そして、その魔王を倒し、未来永劫に渡って人々の上に君臨する者こそ……おっと、それはまだずっと先の話でした」

 

 本を閉じた青年は踵を返し、樹海の奥へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブゥウ゛ウ゛ウ゛ウ゛!!

 

 まるで扇風機を最大速で動かしているような、そんな音が樹海に響く。

 一つや二つではない。おびただしい数のそれは羽音だ。超高速で羽ばたかれる半透明の羽が、既にそれ自体攻撃になりそうな騒音を撒き散らしているのだ。

 

「うぅ~、キモイよぉ~、“天絶ぅ”!」

 

「泣き言いわないの!鈴、そっち行ったわよ!」

「くっ、素早い!“天翔剣”!」

 

 鈴が相対する魔物の姿に生理的嫌悪感を抱いて泣きべそをかく。

 

 それも仕方ないかもしれない。何せ、羽音の元は幼児サイズの蜂だったからだ。フォルムを例えるならスズメバチだろう。超巨大な蜂型の魔物が、強靭な顎と尾の針を凶器に群れをなして襲いかかって来ているのだ。

 黄色と黒の毒々しい色合いと、ギチギチと開閉される顎、緑色の液体を滴らせる針、わしゃわしゃと不気味に動く足、そして赤黒い複眼……確かに直視は避けたい生き物だ。

 しかも、この蜂型の魔物、動きがやたら素早く群れで連携までとってくるので厄介なことこの上なかった。更に、尾の針は射出可能で飛ばした直後には新しいものが生えてくるので、中距離からマシンガンのように掃射されると厄介どころでは済まない脅威であった。

 

 何とか鈴の障壁が毒針の攻撃を防ぎ、雫が速度で相手の連携を崩して、生まれた隙に光輝が強力な一撃を叩き込むという方法で対抗しているが、視界を埋め尽くす蜂の群れは一向に減った様子がなかった。

 

「くそぉ、こいつら、まるで魔人族の魔物みたいだ!」

「いや、逆だね。奴らの魔物が大迷宮の魔物に近いんだ」

 

 必死の形相で聖剣を振るう光輝が、少し前に経験した修羅場を思い出して思わず悪態を吐いた。大迷宮の魔物の強さに余裕が全くないようだ。

 そんな光輝の背後から今にも奇襲を仕掛けようとしていた体長二メートルはあるカマキリ型の魔物を、歯牙にもかけずに瞬殺しながら入間がツッコミを入れた。

 

「防御なんて関係ねぇ~ですう!」

 

 入間から少し離れた場所では、シアが、これまた三メートルはありそうな巨大なアリ型の魔物をガシャコンブレイカーⅡの一撃で地面ごと爆砕し周囲に屍の山を築いている。

 

「邪魔だ」

 

 アメリは、迫り来るカマキリ型魔物の脳天に踵落としを決め、更にそれを足場にして跳躍し、次々とヒールの形に凹んだ魔物の死体を量産していく。

 

「“極上の業火(ラゾーロ・フレイム)”」

 

 アスモデウスは、両手から炎の竜巻を放ち、既に60体近い蜂型の魔物を灰へと変えていっている。

 

「数が多い……」

 

 そして、チマも負けじと冷気を放ち、次々と蜂型魔物を氷の中に閉じ込めていく。一番経験が少ないゆえに数の多さに少しだけ汗を流しているが、まだまだ余裕がありそうだ。

 

「ひゃわ、あわわっ!」

 

 可愛らしい悲鳴を上げながら、ゼインに変身した愛子は次々と蜂型の魔物を蹴り、地面に叩き落としていく。

 

「皆~、頑張ってね~」

 

 ミレディは呑気そうに声をかけつつ、“絶禍”で蜂型魔物が飛ばす針を吸い込みつつ、神速の“水刃”を放ち、真っ二つになった魔物がぼとぼとと地面に落ちていく。

 

 光輝は視界に入ったその光景を見て、改めて入間達との実力差を感じ悔しそうに歯噛みする。

 

「“天絶ぅ”、“天絶ぅ”!もう、ダメだよっ。押し切られちゃう!」

 

 既に半泣きの鈴が展開する幾枚もの輝くシールドは、破壊されては新たに作り出されてを繰り返し、鈴の魔力を容赦なく削り取っていく。

 “天絶”は、確かにシールド自体の強度はそれほどでもなく展開数を重視した障壁ではあるが、それでも“結界師”である鈴が張るものであり並みの魔物なら一枚割るにも数度の攻撃が必要なくらいの強度があるのだ。

 しかし、蜂型の魔物が射出する毒針の前では文字通り紙屑のように一瞬で破壊されてしまい、鈴は現在、かつてない速度での障壁展開を余儀なくされていた。

 

 少しずつ、少しずつ、障壁の展開が遅れがちになり飛んでくる毒針が徐々に距離を詰めてくる光景は、まるで真綿で首を絞めるかのように鈴の精神にもダメージを与えていた。

 

「はぁっ!!」

 

 そこへ、雫が新たに手に入れた鳴刀・音叉剣を蜂型の魔物に振るっていく。

 音叉剣は特殊能力を持たない刀剣だが、魔化魍の体すら切り裂くことの出きるその刀の切れ味は、今まで雫が使っていた刀剣を凌駕する切れ味を誇り、剣士としての腕前は確かな雫は十分にその切れ味を活かしている。

 その鋭い太刀筋は、確かな手応えと共に蜂型の魔物を切り裂いていった。スピードファイターである雫と蜂型の魔物は相性がいいのだろう。“無拍子”を利用した緩急自在のスピードで連携を乱しつつ、一体一体確実に屠っている。

 

 しかし、蜂型の魔物の強みはその数の多さだ。倒すことは出来ても雫には圧倒的に殲滅力が足りなかった。それ故に、戦局は徐々に押され始めており、それに気がついている雫の表情は苦々しい。

 

「刃の如き意志よ、光に宿りて敵を切り裂け!“光刃”!」

 

 光輝が、雫のおかげで出来た隙に詠唱し、聖剣に光の刃が宿らせる。

 その光刃は、聖剣の先から更に伸長し二メートル近い長さとなった。光輝は、巨大な光の刃を振りかぶると体を回転させながら一気に振り抜き周囲の蜂型の魔物を纏めて切り飛ばす。

 

 しかし、隙の大きいモーションをとってしまったために技後硬直を狙われ魔物が殺到。体当たりを受けて後方へひっくり返ってしまった。

 

「くっ、このっ!」

「光輝!」

 

 顎をギチギチ鳴らしながら毒針を突き刺そうとする蜂型の魔物だったが、幸い、光輝の纏う聖なる鎧が針を寄せ付けず、光輝はその隙にどうにか頭部を切り飛ばして起き上がろうとした。

 雫の心配する声に応える余裕もない。次の瞬間には、再び大量の魔物が体勢を立て直しきれていない光輝に襲いかかったからだ。

 

「うぉおおおお!」

 

 雄叫びを上げながら聖剣を振る光輝だったが、一度晒してしまった決定的な隙を簡単に立て直しさせるほど大迷宮の魔物は甘くない。遂に、聖剣を掻い潜って背後に回り込んだ蜂型の魔物が、そのスパイクのような足でがっちり背中に組み付き、凶悪な顎で光輝の首筋を噛み千切ろうとした。

 

「ッ!?」

 

 声にならない悲鳴を上げる光輝。

 刹那、

 

ドパンッ!

 

 銃声一発。

 

 今まさに蜂の顎が光輝の首に突き刺さろうとした瞬間、横合いから空を切り裂いて閃光が迸り、蜂型の魔物の頭部をあっさりと吹き飛ばした。

 その余波でフラつく光輝は、首筋に感じるヒリヒリした熱さを無視して取り付いている蜂型の魔物の残骸を引き剥がす。九死に一生を得たものの、更に群れをなして押し寄せる魔物に光輝の頬が引き攣った。

 

──押し切られる

 

 そう確信した。そんな光輝の耳に何の焦りも感じていない声が届く。

 

「動かないでね、天之河君」

 

 

BOOST CHARGE

 

BOOST TACTICAL VICTORY

 

 

 直後、無数の青い流星が蜂型の魔物を容赦の欠片もなく無慈悲に蹂躙した。

 

 蒼く輝く光の槍は、たった一発で射線上の魔物達を後方まで貫き一瞬で絶命させた。更に微妙に手首を捻り弾の起動を変え、研ぎ澄まされた集中力により、ギーツバスターQB9から放たれる弾は一発も射ち漏らすことはない。

 

 ……全ての片がつくのに一分もかからなかった。まさに秒殺。

 

 瞬く間に蜂型の魔物を殲滅してしまった入間は何事もなかったようにギーツバスターQB9を仕舞うと、呆然とする光輝達を放置して倒した魔物に近寄った。

 

「……どうかしたの、鈴木くん?」

「いや、張り合いがないなってさ。まだ序盤とは言え、久しぶりの迷宮攻略で気合い入れてたんだけど……」

「あぁ~。でも、ここ最近エボルトやらギフやら……大迷宮の魔物が小動物に思えるみたいな相手と戦ってきましたからねぇ。そう思うのも仕方ありませんよねぇ」

「魔物の強さと豊富さはオー君の迷宮コンセプトなんだから、あのレベルと同じにしないでよぉ」

「確かにねぇ……まぁ、この蜂が雑魚とはいえ何が起こるかわからないし、気は抜けないよね」

「……そっかぁ~。鈴木くん達にとって、この魔物は雑魚なんだぁ~。そっかぁ~、アハハ」

「鈴、気持ちはわかるから壊れないで。戻ってきなさい」

 

 若干、壊れ気味に乾いた笑い声を上げる鈴を、雫が嘆息しながら正気に戻す。

 

「……」

 

 そんな中、光輝だけは入間が撒き散らした魔物の残骸をギュッと拳を握りながら見つめていた。

 自分が危うく死にそうになる程の強敵を相手に、まるで何の価値もない路傍の石の如き評価を下す入間達を見て、その隔絶した実力差を嫌というほど感じているのだ。気がつかないふりをしているが、心の内には、かつて感じた黒い感情が湧き出している。

 

 無言で佇む光輝を入間はチラリと見やった。

 

「天之河君」

「っ。な、何だ?」

「何か悩むのは別に良いけど、ここは大迷宮。そういった迷いは動きを鈍らせて死を招く事になるよ。気は引き締めた方がいい」

「あ、ああ。そうだな……」

 

 多少どもりながらも、入間の言葉にしっかりと頷く光輝。

 

「よし。それじゃ、出発しようか。ユエとティオのことだから大丈夫だとは思うけど、もしも園部さん一人だったら少し危ないからね少しでも早く合流できるに越したことはない。クララは……多分逞しくやってそうだから大丈夫かな」

「そうですね。クララならばこんな状況下でも遊んでいそうです」

「ちょっ、クララさんだけ何だか扱い雑じゃない?ある意味、彼女の事を信頼してるのかもしれないけど……」

 

 イルマ軍と称されるほどに仲の良い入間とアスモデウスの物言いに雫が困った表情でツッコミつつ、一行ははぐれた仲間を探して樹海の奥へと進んでいった。

 

 




 感想、評価お待ちしております。

本作での雫と鈴はどうしたいと思いますか?

  • 二人とも救済
  • 二人ともBAD END
  • 雫のみ救済
  • 鈴のみ救済
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