悪魔の孫は時の王者となって世界最強   作:MTHR

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 今回のサブタイトルの元ネタは仮面ライダーリバイス第17話『裏切りの深化、バディの真価』からです。


93話 姿の変化、絆の真価

 入間達一行が、蜂型の魔物と戦ってから三十分ほど樹海を探索した時のこと。入間達は魔物と邂逅した。

 

 その魔物は猿型の魔物で、群れをなして襲ってきた。樹々を足場に縦横無尽に飛び回って、あらゆる角度から飛んでくる攻撃は中々に厄介で、どこから手に入れたのか棍棒や剣なども装備していた。

 

 光輝、雫、鈴は、案の定、猿型の魔物のトリッキーな動きに翻弄され苦戦を強いられていたのだが、当然、それでも入間の敵ではなかった。

 出来るだけ早くユエ達と合流したかった入間は、ある程度、光輝達に敵を割り振りつつも自らの手でさくさくと片付けていった。仲間があっさり殺られていくことに危機感を覚えたらしい猿型の魔物は、この時点で最優先目標を入間に変更。

 

 猿型というだけあって知能は高いのか、人質を取ろうと行動し始めた。しかし、入間にとっては、その程度の浅知恵などお見通しであり、むしろ人質を取ろうとする猿型の魔物の思考すら利用して瞬殺していった。

 その辺りで、猿型の魔物もどうあっても敵わない相手だと気が付いて撤退すれば良かったのだが……中途半端に知恵が回るものだから選択を誤ってしまった。そう、彼等にとって最悪の選択をしてしまったのだ。

 

 その主たる原因は猿型の魔物が持つ固有魔法──“擬態”である。あの入間を怒らせた赤錆色スライムと同じだ。

 

 転移陣が読み取ったユエ達の情報も受け取って、はぐれた大迷宮挑戦者の仲間に成り済ますことが出来る。ただ、赤錆色スライムと異なるのは猿型の魔物達が先に述べたように知恵が回るという点だ。

 すなわち、どのような人物に擬態して、どのような行動をとれば相手が心を乱すか、という点を考えることが出来るのである。考えることが出来てしまったのである。

 結果、彼等は擬態した。最も危険な敵が、最も大切にしている者に。激しく動揺させるために最低な方法で。

 

 猿型の魔物達は、奥の茂みから擬態した同胞を引きずって来たのだ。その姿はユエだった。あられもない格好で傷だらけとなり、なされるがままに引きずられる姿。赤錆色スライムと同じく、転移陣によって読み取られた情報をもとにしているので見た目は本物と寸分違わない。

 当然、入間は赤錆色スライムの擬態すら感覚だけであっさり偽者だと見抜いたくらいであるから、猿型の魔物達が引きずって来たそれがユエでないことはわかりきっている。

 

 それでも、本物と寸分違わない以上はユエのほとんど裸とも言える悲惨な姿を見ているのと変わらないので、“加速(スピレット)”で距離を詰めると、取り敢えず擬態ユエの方を振り返りそうになった光輝の目を潰した。

 

「目がぁ~、目がぁ~。ちくしょう、鈴木の奴めぇ! いきなり、何すんだよぉ!」

 

 その結果、涙を流しながら両手で自分の目を抑えてうずくまり、まるで何処かの大佐のような苦悶の声を上げる光輝だが、入間は完全に無視した。

 

 この時点で既に入間はキレかかっていたが、まだ十分に理性は利かせられていた。しかし、知能はあっても空気は読めない猿型の魔物達。

 入間の目の前でユエの擬態を殴りつけると下卑た笑みを浮かべ、更に擬態した魔物が入間に目を向けながらユエの声で「……入間、助けて」などと言ってしまったものだから大変だ。

 

 その瞬間、誰もが確かに耳にした。ブチッと何かが切れる音を。

 その後どうなったかは……語るまでもないだろう。

 

 完全に切れた入間は一瞬でインフィニットジオウに変身して“ギガント”や“ギガランチャー”に“ギガキャノン”、マグナギガ、“サイドバッシャー”、etc……ありとあらゆる破壊力を秘めた兵器の一斉射撃により、四方五百メートルが完全な焼け野原となっている。よく見れば、人型の炭化した何かがあちこちに転がっている。他にも蜂型の魔物やアリ型の魔物らしき残骸もちらほら見られた。

 一瞬にして空爆にあったようなものであるから、空間転移でも出来ない限り逃れられた魔物はいないだろう。

 

「ふぅ~。ゴメンね、少し暴れすぎちゃった」

「気にするな。実際、私も奴らのやり口は気に入らんと思っていたからな」

「アメリさんの言う通り、あいつらのやり方は私も頭に来ましたし。仕方ありませんよ」

「うぅ~、ミレディさんを見ないでよ~」

「この嫌らしさは……ある意味、流石ですね」

「これが大迷宮……侮れませんね」

 

 変身を解除した入間が苦笑いを見せると、バビルのメンバーは頭を振りながら嫌悪感をあらわにしつつ頭を振った。

 

 ほとんど荒野と化した樹海の一部を背景に入間達が話していると、雫が頬を引き攣らせながら歩み寄ってきた。

 

「鈴木くん。落ち着いたのなら、そろそろ光輝を何とかしてあげて欲しいのだけど……」

 

 その言葉に、入間が「あ、そう言えば」と光輝の方へ振り向く。

 光輝は未だしくしくと涙を流していた。何とも哀れを誘う姿である。入間は適当に回復魔法を発動した。

 

「うっ、この感じ。回復魔法か?あ、光が見える……」

 

 光輝が目の痛みから解放されて嬉しそうに視線を彷徨わせた。そして、痛みの元凶である入間を見つけるとギュイン!と目を吊り上げて抗議の声を張り上げた。

 雫が事情を説明するも、他にもやりようはあっただろうと不満顔である。

 

「あのね、天之河君。手加減が下手だったのは悪かったけど、自分の恋人のあられもない姿を他の男に見られるか否かの瀬戸際だったんだ。男なら……目を潰すだろ?」

「なに、『常識だろ?』みたいな口調で同意を求めているんだ。危うく失明するかと思ったぞ。大体、偽物だって分かっていたんだろ?それに、アスモデウスさんにはなにもしなかったのに自分だけあの痛みを味わったかと思うと……すごく腹が立つんだが」

「馬鹿だねぇ。君の視力とたとえ偽物でもユエの半裸……路傍の石と最高級の宝石を天秤にかける人がいる?」

「俺の目は路傍の石かっ!」

「それと、アズ君にはなにもしなかった理由だっけ?アズ君は自他共に認める紳士だから、ユエが半裸でもなにもしないし見ようともしない。対する君は、ユエの半裸なんて見たら下衆な本性を剥き出しにしてユエを襲うでしょ?」

「するわけないだろ!俺をなんだと思ってるんだ!!」

「イルマ様…!この私を誉めていただけるとは……なんたる幸せっ!!」

 

 入間の物言いに憤りをあらわにする光輝と、入間の然り気無い評価に涙を流すアスモデウスだったが、入間はそれらを華麗にスルーして既に意識は探索へと向けていた。

 相手にされていないことに、更にウガァーと怒り出す光輝。それを雫と鈴がなだめすかす。

 

 と、その時、不意に入間は真っ直ぐ接近してくる生物の気配を捉えた。小走りくらいの速度で一体だけ向かってくる。

 

 気配の感じからして、それほど強敵というわけではなさそうだ。その為、入間は訝しそうな表情で背後の樹海を振り返った。

 シアも気がついていたようで首を傾げながら樹海の奥を見つめている。

 

 二人の態度に何かが迫っているのだと察して光輝達も身構えた。

 空気が張り詰めていく中、ガサガサと音を立てて樹々の合間から現れたのは一匹のいわゆるゴブリンに酷似した生き物だった。暗緑色の肌に醜く歪んだ顔、身長百四十センチメートル程の小柄な体格でぼろ布を肩から巻きつけている。

 

 そのゴブリンは、入間達の姿を見つけると「グギャ!」と一瞬どこか弾んだ声で鳴いたが、直後、自分の声にハッとしたように動きを止めた。そして、その場に佇みジッと入間を見る。顔の造形のせいで、まるで殺意を滾らせ睨んでいるようにも見えた。

 

 実際、光輝にはそう見えたのだろう。

 碌に戦果を挙げられていないことからくる焦燥感と少しでも活躍したいという思いから、半ば無意識でゴブリンへと急迫した。瞬く間に距離を詰めて光を纏わせた聖剣を大上段に振りかぶる。

 

 しかし、今まさにその命を刈られそうになっているゴブリンはというと、一瞬、光輝に視線を向けたものの直ぐに視線を戻し、回避行動も防御行動も取らず無防備に佇んだままだった。

 

 一瞬、そのことを訝しむ光輝だったが、大迷宮の魔物であることに変わりはなく油断は出来ないと全力で聖剣を振り下ろした。

 光を纏う聖剣の輝きが、奇妙なゴブリンを両断しようとしたその瞬間、

 

 

フルボトルブレイク!

 

 

「何してるんだ、この下衆!」

「んなっぶべらっ!?」

 

 一瞬で距離を積めた入間が“フルボトルバスター”に“ラビットボトル”を装填し、赤いエネルギー弾を飛ばして光輝を吹き飛ばした。

 爆発を起こし、奇怪な悲鳴を上げて、ダンプカーに轢かれでもしたかのように樹海の奥へと消える光輝。余程の力で吹き飛んだようで、光輝が突っ込んだ場所からベキベキッ!と樹々の折れる音が響いた。

 

 魔物を前にして、目潰しに続いて砲弾を味方に放つという行動に唖然としていた雫達。流石に看過できなかったようで、怒り気味に目を吊り上げて入間のもとへ駆け寄って来た。

 

「ちょっと、鈴木くん!今のは何!?いくらなんでも滅茶苦茶よっ。光輝はただ魔物を倒そうとしただけじゃない!」

「そうだよ!っていうか、光輝くん大丈夫かな。直ぐに探しに行かないと」

 

 雫と鈴が入間に非難の眼差しを向ける。バビルのメンバーと愛子も、入間の行動の理由が分からず困惑した表情だ。

 しかし、入間は雫達の声が聞こえていないのか、全く反応せず一心不乱に眼前のゴブリンを見つめている中、ミレディは「あっ!」と何かに気付いたような声を上げる。

 

 その視線で、入間が光輝を爆撃するという衝撃展開に吹き飛んでいたゴブリンの存在を思い出し雫達が身構えた。

 と、樹海の奥から腕をさすりながら光輝が現れた。どうやら無事だったようだ。しかし、全身から怒気を発しており、今にも入間に飛びかかりそうな雰囲気である。

 

「……鈴木。どういうつもりだ。なぜ邪魔をしたんだ?さっきとは状況が違う。下手な言い訳は許さない。魔物を庇うなんて正気を疑う──」

「魔物じゃない」

「何だって?」

 

 光輝の怒気にも反応せず、ただそれだけポツリと呟いた入間は問い返す光輝を無視して、未だ佇んだままのゴブリンの前にそっと跪いた。その行動に全員が驚愕し、益々入間の正気を疑う。

 

 入間は、視線の高さを合わせ真っ直ぐゴブリンを見つめるとフッと目元を和らげ、驚愕すべき言葉を繰り出した。

 

「……ユエだよね?」

「グギャ!」

「「「「「「「「……は?」」」」」」」」

「やっぱり……でも、一発で見抜くなんて予想外だよぉ」

 

 ポカンと口を開けて呆ける光輝達と納得したように呟くミレディを尻目に、入間は躊躇うことなくゴブリンの手を取ると、もう一度「ユエ…」と呟いた。ゴブリンもまた、どこか嬉しそうに「グギャ」と鳴く。

 

「えっと、入間さん。まさかと思いますがユエさんなんですか。その、私には魔物に見えるのですが……」

「わ、私も魔物に見えるぞ。本当にユエなのか?」

 

 疑問の声を上げて目の前のゴブリンを見るシアとアメリ。

 そんな二人を、ゴブリンはチラリと見たあと何かを訴えるように「グギャ、グゴゴ、ギャアギャ」と入間に向けて鳴き始めた。そして、やはりまともに喋れないことに悄然と肩を落とす。

 

 しかし、そこは入間。常識破りな彼の前に不可能はない。

 

「ん?ふむふむ、転移したあと気が付けばその姿に変えられていたって?」

「!グギャ!……グゴゴ」

「肉体そのものが変質したってところかな……だとすれば、これは魔人族が使ってた神代魔法が作用してるんだね」

「グギャ……ギャギャ、グギ」

「ウィザードライバーにリングも失ったんだね。……ああ、僕の残したマーキングを追って来たの?」

「ググッ……ゴガゴガ」

「な爆音が響いて入間に違いないと思ったって?まぁ、間違ってないけどさ……」

「……ギュウウ、ゴゴ」

「そうか、魔法も使えないと……でも、これ以上変質するような感覚もないんだね?」

「ギギギ、ガギ」

「まぁ、大丈夫だろう。これもおそらく試練の一つだろうしな。不可避のスタート地点に立った時点でゲームオーバーとか試練の意味がない」

「……ギュウウ?」

「ああ、あと、ティオとクララと園部さんもいないんだ。多分ユエと同じだね。何の魔物かまでは分からないが……まぁ、そう心配しないでよ、ユエ。いつも通り何とかするさ」

「……グギャ!」

 

 普通に会話が成立していた。

 

「「「「「「「「……」」」」」」」」

 

 思わず無言になる光輝達。そんな彼等に、入間は恋人と再会できた喜びを隠そうともせず笑みを浮かべながら立ち上がる。

 

「よし、取り敢えず再生魔法かけてみよう」

「「「「「「「「いやいやいやいや、待て待て待て待て」」」」」」」」

「ん?どうしたの?」

 

 綺麗にハモリながらツッコミを入れる光輝達に不思議そうな表情をする入間。一同は、そんな入間に更にツッコミを入れたくなる。というか、実際に我慢できずツッコミを入れた。

 

「おかしいでしょ?おかしいわよね?どうして意思疎通が出来ているの?それもごく自然に!」

「いや、何でも何も……ユエだって喋ってるよ?」

「鈴にはグギャ!としか聞こえないよ!何語なの!?何で理解できるの!?」

「イルマ様、まさかカムイの“翻訳(なかよし)”をコピーしてたのですか!?」

「いや、家系能力はコピーできないよ。そこはフィーリング……目と目でも会話は出来るし」

「普通は目を見て会話なんて出来ませんよ!」

「そう言えば普段から見つめ合ってますよね。……あれが、まさかこんな時に役立つなんて……お二人の通じ合い方が天元突破してますぅ」

「フフン。まぁ、愛の力……かな?」

「然り気無く惚気るな馬鹿者!」

「こんなアホな見分け方する攻略者がいるなんて、リューちゃんも思わなかっただろうなぁ……」

「二人とも異常すぎます……“特別”がすごく遠く感じます」

「っていうか鈴木。どうやって気がついたんだ。俺を蹴り飛ばしたってことは最初から分かっていたんだろ?」

「どうやってって、単純な話……」

 

 数々のツッコミを、さも常識を語るように返していく入間に皆が疲れた表情になっていく。そして、最後に光輝がした質問に対してはゴブリン姿のユエ──ユエゴブを優しく見つめて、いつものように頬に手を這わせながら、

 

「姿形が変わったくらいで、僕がユエを見失うわけない。それだけのことだよ!」

「「「「「「「「……そうですか」」」」」」」」

「……グギャ!!」

 

 砂糖を吐きそうな表情で投げやり気味な返事をする光輝達と嬉しげに鳴くユエゴブ。

 

「それより、再生魔法をかけてみるよ──“絶象”」

 

 入間はユエゴブに向けて再生魔法を行使した。

 言うまでもなく、再生魔法は神代の魔法でありその効果は絶大だ。入間も再生魔法を使えば元に戻ると考えていたのだが……

 

「……グギャ?」

「あれ?これじゃあ効かなかった?」

 

 ユエの姿は元に戻らなかった。

 再生魔法が発動していないわけではない。蒼い魔力光がユエ

に降り注ぎ、入間の魔力は消費している。それでもユエの姿が戻る気配はなかった。

 

「グギャ……」

 

 悄然と肩を落とすユエゴブ。

 他のメンバーも一様に心配そうな表情になっている。そんな中、入間は腕を組みながらこめかみをトントンと叩き、今の現象を考え込む。

 

「ん~……再生魔法が効かないのは、変質が同じ神代魔法によるものだからじゃないからかな……他にも特殊な方法が使われているのかもしれないけ。挑戦者が再生魔法を持っているのは自明の理。あっさり治されちゃ試練の意味がないからか」

「……グギ」

「ああ、心配しないで。あと、忘れてたけど、ユエ。これ持ってみて?」

「……ギギ?」

 

 入間の推測に、ユエゴブだけでなく他のメンバーも納得の表情をする中、入間はユエゴブに宝石の付いたイヤリングを渡す。

 入間ならば、ユエの時間そのものを戻して元の姿に戻すなど造作もないのだが、恐らくこの魔物化はハルツィナ樹海のコンセプトに関連する試練の一つである可能性が高い為、このままにすることにしたのだ。

 見た目はゴブリンのままになってしまうが、そもそも入間は人間界での生活から、魑魅魍魎のような見た目をした悪魔達が住まう世界で普通に生活していた男なのだ。見た目を気にする質ではないし、ユエならば尚更だ。

 

 姿を変えられ魔法も使えない身ではあるが、魔力を通すくらいのことは出来るため、それが何かを察したユエはさっそく受け取ったアーティファクト──“念話石”を発動した。

 

『……入間?入間、聞こえる?』

 

 すると、まるでティオが竜化している時のように空間そのものに可憐な声が響いた。ほんの僅かな間しか離れていなかったのに随分と懐かしく感じる愛しい声に、入間の表情が嬉しげに緩む。

 今まで目の前のゴブリンがユエだと言われても、どこか半信半疑だった光輝達も、ユエの声が聞こえたことで改めて目の前の存在がユエの変わり果てた姿なのだと実感したようだ。

 

「聞こえるよ、ユエ。姿は変えられちゃったけど……無事でよかった」

『……んっ。入間なら気が付いてくれると思ってた』

「当たり前でしょ。僕は君の彼氏なんだから、分かるに決まってる」

『……ん。でも嬉しかった。大好き』

「……うん、僕も大好きだよ」

『……ふふ』

 

 目の前にいるのは見た目完全にゴブリンなのだが、周囲に満ちる空気はどこまでも甘やかで桃色だった。姿が変わっても“二人の世界”は変わらず作り出せるらしい。他のメンバーの目が死んだ魚のようになっている。

 

「ウォッホンッ!そろそろいいか?ユエ、無事で良かったな」

「ユエちゃん、ゴブリンになっても可愛いからね~。元気だしてね~……ブフッ」

「ユエさん、身体に異常とかありませんか?」

『ん……アメリ達も無事でよかった。こんな姿になっても入間に愛されてごめんなさい』

「「「喧嘩売ってるのか!?」」」

 

 ユエは、何処までもユエだった。彼女達はもう疑わない。目の前のゴブはユエだ。ユエゴブだ。間違いない。

 

「ユエさん……絶対、ぜぇ~たい!元に戻して見せますからね!その為なら、私、何だってしちゃいますからいっぱい頼って下さい!」

『……シア、ありがとう。今は戦力になれないから頼りにしてる』

 

 ゴブッと微笑む(?)ユエ。中身がユエだと分かると、何となく愛嬌を感じるから不思議なものだ。

 光輝がバツの悪そうな表情で口を開いた。

 

「ユエさん、その、さっきは済まなかった。君だと気が付かなくて……危うく傷つけるところだった」

『……気にしないで。仕方ないこと。それに信じてたから傷つくとは思わなかった』

「えっ、それって俺が……」

『……必ず入間が守ってくれるって』

「……そうですか」

 

 吸血姫のさり気ない一撃が勇者にクリーンヒットする。光輝はすごすごと引き下がると乾いた笑い声を上げた。雫が、何故一瞬でも勘違いしそうになるのだと、呆れたような目を向けている。

 

「後はティオとクララと園部さんだけど……。この感じだと三人とも魔物に変えられたってことだね。これは少し急いだ方がいいね」

 

 ユエと同じで魔物に変質しているのなら、同種の魔物に襲われる可能性は低いが、可能性はゼロではない。もしもそうなったら、魔法が使えず装備も失った彼女達はひとたまりもないだろう。

 

 入間の言葉に緩んでいた空気が引き締まり、荒野と化した樹海の一部を背後に、一行は再び樹海の奥へと歩みを進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 三十分後。

 

「……入間さん、今度は私にもわかりますよ。あれがティオさんだって」

「私も分かります。あれはクラルスで間違いありません」

「……ティオちゃんを見てると、リューちゃんを思い出すよ」

「そのリューちゃんがどんな奴なのかは知らんが……まぁ、一人は見つけられたようだな」

「誰だって分かると思いますよ、あれがティオさんって」

『……むしろ、ティオ以外にあんなのがいたら大変』

「満場一致で、あれがティオだね」

 

 どこか汚物を見るような目を前方に向けているバビル一行。

 

 彼等の目の前にはゴブリンの集団がいた。その集団は寄ってたかって一匹のゴブリンに殴る蹴るの暴行を加えている。

 しかし、そこには相手を殺傷しようという意図はなく、どこかイジメじみた雰囲気が漂っており、事実ゴブリンの集団に囲まれて暴行を受けながら蹲っているそのゴブリンには目立った傷はないようだった。

 それだけなら、仲間内の序列とかその辺の事情で弱いゴブリンが虐められているだけかと思うのが自然なのだが……

 

「恍惚としてる……わよね?どう見ても……」

「ただでさえ顔がゴブリンなのに……あれは放送禁止レベルだよ」

「鈴木……認めるよ。懐の広さでは、お前には負ける」

「普段は優秀なんだけどねぇ……もう少し真面目に生きていれば十分魅力的なのに……」

「す、鈴木くん!気持ちは分かりますがそんな事を言っては……」

 

 ドン引きしながら呟く雫達の言う通り、その暴行を受けているゴブリンは恍惚の表情を浮かべていたのである。その姿はとある変態を彷彿とさせた。というか、どう見ても一人しか居なかった。

 

「ティオ……君って奴は……。皆、ティオはもう手遅れだ。彼女はそれからゴブリンとして生きていくことを決めたみたいだよ。残念だけど諦めよう」

 

 入間は哀しげな表情で頭を振ると、そっと踵を返した。ユエ達が何の躊躇いもなく追随する。いつもなら「仲間を見捨てるのかっ!」とか言って突っかかってくる光輝や、「女性の扱いが悪いですよ!」と説教する愛子ですら、どうしたものかと視線を彷徨わせている。

 

「グ?ギャギャ!」

 

 と、その時、ゴブリンの一体が入間達の存在に気がついたようで声を上げた。

 

 それにより、暴行を受けていたゴブリンも入間達の存在に気がついたようだ。ガバッと頭を上げると大きく目を見開き、入間に向かって今まで暴行を受けていたとは思えない素早さで突進して来た。

 地面をカサカサと這うように高速移動するゴブリンに、同じゴブリン達が思わずドン引きして後退りしている。実は、意気揚々と虐めをしていた彼等だったが、流石に途中から「あれ?何かコイツおかしくね?」と感じていたようで、それが今、確信に変わったようだ。

 

「グギャギャギャ!!」

 

 そうこうしている内に、変態ゴブリン──もとい、ゴブリン姿のティオ──ゴブティオはルパ○ダイブのような姿勢で飛び上がると一直線に入間の胸に飛び込もうとする。

 ゴブリン語で何を言っているかは分からないが、見た感じ、きっと「ご主人様よぉ~、会いたかったのじゃ~!」とかそんな感じだろう。

 当然、入間の対応はと言うと、

 

「寄るな、このド変態っ!」

 

メキョッ!

 

 罵りと身体強化を用いたアッパーカットである。

 何だか鳴ってはいけない音を響かせながら、ゴブティオは四回転半の芸術的なバク宙を決めつつ傍の茂みにドシャ!と墜落した。

 

『……死んだ?』

 

 ユエゴブが茂みを覗き込みながら、そこで倒れ伏すゴブティオの体を木の枝でツンツンと突く。

 するとビクンッビクンッ!と体を痙攣させつつゴブティオが意識を取り戻しガバッと起き上がった。体はゴブリンなのに耐久力は竜並なのかもしれない。あるいは変態補正か……

 

「ギャギャギャ!ゴゴ、グゲ!グギャ!」

 

 ゴブティオは何か興奮したように鳴き喚きながら両手で自分の頬をはさみ、まるでイヤンイヤンするように身を捩らせている。そして、熱っぽい瞳で入間をチラ見し始めた。

 

 思わず、殺気と共に武器を手にしようとする入間。必死にシア達が宥める。アメリが代わりにゴブティオへ念話石を手渡した。

 

『む、念話石じゃな。……どうじゃ、ご主人様よ、聞こえるかの?再会して初めての言動が罵倒と拳だった我が愛しのご主人様よ』

「チッ。体は変わってもその変態性と耐久力だけは変わらないのか。そのまま果てればいいのに……」

『っ!?あぁ、愛しいご主人様よ。その容赦の無さ、たまらんよぉ。ハァハァ。やはり、妾はご主人様でなければだめじゃ。さぁ、ご主人様の愛する下僕が帰って来たぞ。醜く成り下がった妾を存分に攻め立てるがいい!!』

 

 どうやら、ゴブリンに変わってしまったことすら快感に変換できるらしい。確かに、入間の言う通り既に手遅れだった。

 大の字に寝転がり「煮るなり焼くなり好きにせよ!」と妙に期待のこもった眼差しを向けているゴブティオを無視して、取り敢えず未だ固まっているゴブリン達を瞬殺する入間。

 

「…………はぁ~~~~」

 

 入間は深い…それはもう深いため息を吐くと、ゴブティオを連れて探索を再開させた。見捨てると言う選択肢はないらしい。尤も、右足を掴んで引き摺るという乱暴極まりないやり方でだが。

 

『あぁ~ん♡まださっきの一撃で視界が揺れておるのにこの仕打ち…たまらんのじゃぁ~♡』

 

 ズルズルと背中と地面が擦れあい、時おり転がっている石にガツンッガツンッと頭を打ち付けながらも喜びの声を上げるゴブティオ。

 他の面々は相手にしないことにしたらしく、出来る限りゴブティオを見ないように入間の前を歩くことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、探索を続けていた入間一行は、ゴブリンと化したユエとティオ、そして背が低い犬の頭を持つ人型の魔物──コボルトと化した優花を連れ、樹海の奥へと進んでいく。

 

 道中で、入間一行は一匹のコボルトを追いかけ回しているコボルトの群れを発見したのだ。それだけなら入間達もスルーするのだが、追い掛け回されているコボルトが、近くに落ちていた鋭利な石を絶妙なコントロールで投擲して追い掛けてくるコボルトを怯ませているのを見て、入間はもしやと思ってそのコボルトに近づいてみると、予想は見事的中してコボルトと化した優花を発見したのだ。

 

 残るは、バビル一の元気印にしてイルマ軍のムードメーカーであるクララだけとなった。

 

「クララはどんな魔物になってるかなぁ」

「ゴブリン→ゴブリン→コボルトですからね。予想ができませんよ」

「だが、ウァラクの事だ。満喫してるとは思うがな」

 

 入間、アスモデウス、アメリの言葉にバビルの面々は苦笑し、まだクララとの付き合いが浅い光輝達は微妙な表情だ。

 

 その時、近くの茂みから、ガサガサと何かが茂みを掻き分ける音が聞こえてきた。

 魔物か、魔物に変質したクララか。先程、光輝がユエゴブを殺そうとした前例から、彼等は先手必勝といきなり攻撃することはなく、相手の様子を伺っていると……

 

「な、なに?この魔物……」

「ぬいぐるみみたいというか……気が抜ける見た目してますね」

「こんな魔物用意した覚えないんだけど……」

「あれ?この魔獣って……」

 

 出てきたのは、全身が緑色で耳にも角にも見える頭の二本の突起にやけにデフォルメされた顔といった、まるで雑なぬいぐるみみたいな見た目をした魔物だった。

 なんとも気が抜ける見たことのない魔物に光輝達やシア達が目を丸くしているなか、入間・アスモデウス・アメリ・チマの四人は、その魔物に見覚えがあるようにジッと見つめている。

 

 その魔物は、入間達を発見すると、光の速さで迫り、入間とアスモデウスの周りをグルグルと輪を描くように周り始めた。それを見て、アメリがポツリと呟いた。

 

「……やはり、ウァラクか」

「えっ!?クララさんですか!?」

 

 アメリの呟きに驚いたようにその魔物を目にするシア達。確かに入間とアスモデウスの周りを回るその姿には、クララを思い起こさせる。

 そんな中、変わり果てたクララの姿を一発で見抜き、再開した親友に頬を緩めつつも、入間とアスモデウスは小さな声で会話する。

 

「……アズくん。なんでクララだけトータスに存在しない魔界生物のファルファルになってるのかな?」

「……わかりません」

 

 入間の問いには、聡明なアスモデウスも答えることは出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 




 感想、評価お待ちしております。

本作での雫と鈴はどうしたいと思いますか?

  • 二人とも救済
  • 二人ともBAD END
  • 雫のみ救済
  • 鈴のみ救済
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