悪魔の孫は時の王者となって世界最強   作:MTHR

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 現在実施しているアンケートは、次話の投稿と同時に終了されますので、どうぞ好きな項目に投票してください。アンケートの結果次第で、八重樫雫と谷口鈴の結末が決まります。
 天之河光輝はどうなるのか?……………どうなるんでしょうね。


雫「ちょっと、最後の間はなに?すごく怖いんだけど……」

入間「まぁ、ありふれ原作で深淵卿って呼ばれてる遠藤くんが死んでる時点で……」

雫「止めてくれないかしら、そう言うの!?」


95話 僕の理想

──ギェエエッ、グォアオオ

 

 禍々しい鳥の鳴き声が、カーテンの隙間から陽の光と共に薄暗い部屋の中へと侵入してくる。その音に急かされるように、ベッドの中で頭から布団を被り鉄壁の要塞と化している部屋の主が身動ぎした。

 

 と、そのタイミングを見計らったかのように、カチッという音がやけに明瞭に響き、次の瞬間、悪魔が咆哮を上げた。

 

──ギィエエエエエエエエッ!!!!

 

 断末魔の悲鳴にしか聞こえない音が朝の静寂をぶち壊す。常人がこれを聞いたなら、確実に気を病んでしまうだろう。

 

「んぅ……」

 

 そんな心臓に悪いこと事の上ない音を聴いて、部屋の主はゆっくりと体を起き上がらせた。腕を伸ばし、傍らに置かれていたそれの頭を押すと、その断末魔の叫びはピタリと止んだ。

 

「ん~。爽やかな朝だなぁ」

 

 窓を開けた入間は、不気味な怪鳥が雄叫びを上げて飛ぶ光景を「爽やか」と称しながら、着ていた寝巻きから、悪魔学校(バビルス)の制服に着替えると、ある部屋へと向かう。

 

「おはようございます。おじいちゃん、オペラさん」

「グッドデモーーニング!入間くぅ~~ん!」

「おはようございます。イルマ様」

 

 そこにいたのは、背の高い禿げた頭に二本の角を持つ老人──入間の祖父であるサリバンと、赤い髪をした猫耳を持つ執事──SD(セキュリティーデビル)のオペラの姿だった。

 部屋の中央に設置された長テーブルの上には、魔魚の煮付け、目玉スパゲッティ、暴飲暴食ウサギのソテーに、肉食花のサラダと、見てしまえば精神が病んでしまうような見た目の料理がたくさん並んでいた。

 

(初めて食べた時は勇気いったんだよねぇ)

 

 それを見て美味しそうだと思うと、慣れたものだなと入間は内心苦笑していると、ダイニングの扉が開く音がして、入間は視線を向けた。

 

 その視線の先には金髪紅眼の美少女がいる。悪魔学校(バビルス)の制服を着込み、どこか妖艶さを滲ませた微笑みを浮かべ、なぜか入間を見つめながらペロリと舌舐りする彼女に、入間は苦笑いしながら朝の挨拶をした。

 

「おはよう、ユエ」

「……ん。おはよう、入間」

 

 入間は愛しい恋人とのひと時に目を細めて、一日の最初の幸せを噛み締めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ユエが入間の恋人となってもう随分経つが、互いに、互いへの熱情は些かの衰えもなかった。ユエなど入間の傍に居たいがために、サリバン低にホームステイを強行し、いつの間にか編入手続きまで済ませてしまったくらいなのだ。

 突然、入間はの恋人として現れた美貌の金髪少女に、やって来た当初はそれはもう大騒ぎになった。サリバンはこれで曾孫ができると大騒ぎし、オペラは手にしていた皿を割りながらもパーティーの用意をしようとしただけでなく、悪魔学校(バビルス)の全生徒全教師を集め、サリバンが大々的にユエの紹介及び入間との関係を暴露したのだ。

 あれはもう恥ずかしいなんてものじゃない。一種の処刑である。

 

(……あれ?そう言えば、ユエと出会った場所ってどこだっけ?何で僕はそんなところに行ったんだっけ?あれ?)

 

 ユエと出会った場所は正確には何処だったのか。まるで霞が掛かったように判然としない。そのことに気がついた途端、記憶の本棚からボロボロと疑問がこぼれ落ちてくる。どんどん膨れ上がっていく疑問に入間の中の違和感も急速に膨らんでいった。

 

「……入間!」

「うわっ、どうしたの、いきなり大声だして。ビックリしたよ」

 

 ユエの普段は絶対に出さないような大声が響いた。それに心臓が跳ねて、思考の渦に呑み込まれかかっていた入間の意識は急速に現実へと浮上する。

 そんな入間をユエはジッと見つめたあと、どこか拗ねたような表情になった。

 

「……何度も呼んだのに無視するから」

「えっ?ホントに?ごめん!ちょっと考え事してて……」

 

 ぷいっとそっぽを向くユエ。へそを曲げてしまったようで入間は眉を八の字にしながら宥めにかかる。その時には既に、先程の疑問は入間の中から完全に消えてしまっていた。

 

「おはようございます、イルマ様!」

「イルマち!ユエユエ!おっはよーー!」

「おはよう。アズ君、クララ」

「……ん。二人ともおはよう」

 

 自宅への門を潜ると、親友のアスモデウス・アリスとウァラク・クララが入間とユエに挨拶をしてきた。これもいつもの事であるが、入間にとっては親友達とこうして過ごす時間もとても幸せだと思っている。

 馬車を使っていくかと尋ねるサリバンの誘いをやんわりと断り、いざ登校しようとした時、突如背中に柔らかな衝撃が伝わった。誰かがぶつかって来たのは確かだが、その感触は男にとっては余りに幸せ過ぎた。

 

「入間さ~ん!ユエさ~ん!アスモデウスさ~ん!クララさ~ん!おはようございますぅ!」

「あっ!シアシア!おっはよ~!」

「ん……おはよう、シア」

「うわっ、シア!?ちょっ、離れて!挨拶する度に抱きつかないでって、いつも言ってるでしょ!」

「ハウリア!イルマ様から離れぬか!」

「そんなぁ~、入間さんもアスモデウスさんも私から幸せを奪おうなんて……酷いですよぉ!これはもう責任をとって入間さんは私と結婚してもらわないと!」

「飛躍しすぎでしょ!とにかく、離れて!ユエの瞳からハイライトが消えかかってるから!僕を瞬きせずに凝視してるから!」

 

 入間は背中に感じる幸せな感触のことは微塵も表に出さず、引っ付いてきたシアを引っペがした。

 シアはユエと同じ悪魔学校(バビルス)に転校して来た来たのだが、偶然、シアと彼女の家族が暴漢に襲われているところを助けて以来、今のように過激なスキンシップを繰り返しては好意を隠すこともなく示してくるのである。

 トレードマークのウサミミを生やした淡い青色がかった白髪と神秘的な容貌に反して天真爛漫な笑顔を分け隔てなく振りまくシアは、ファンクラブが存在するほど男女問わず大人気である。

 正直、そんな彼女がこうまで自分に好意を示してくることは戸惑いつつも嬉しくはある。あるいは、ユエより先に出会っていたならと思うことがないわけではない。

 しかし、そんなIFは考えても意味のないことだ。なので、ユエという最高の恋人が居る手前、シアの積極性は入間にとって非常に頭の痛い問題だった。

 

 もっとも、シアが入間に向ける好意や過剰なスキンシップに不機嫌にはなるものの、実はユエとシアは親友といっていいほど仲が良かったりする。

 なので、完全に邪険にすることも出来ず、ある意味、板挟みな状態でもあった入間に対して独占欲があるにもかかわらず、親友であるシアとの間に溝が出来る気配もない。入間には二人の関係が不思議でならなかった。

 

「……入間、行こう」

「イルマち!アズアズ!ユエユエ!シアシア!皆で競争しよう競争!ビリの子がジュース奢りね!よ~いドン!!」

「待てクララ!宣告してから走り出すやつがいるかーー!!」

「あっ!アスモデウスさんもクララさんも待ってくださいよぉ~!」

 

 爆即で走り出したクララを追って、アスモデウスとシアがそれを追いかけるわ。

 

(ん?なんだろ?何ていうか……懐かしい?あれ、なんで、そんな事感じるんだろう?)

 

 入間は自分の感情の動きが理解できず、ますます困惑したように首を捻りながら、ユエと共に三人を追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 悪魔学校の校門の前では、数多くの悪魔が校門を潜り抜けている。

 翼を広げて空を飛ぶ悪魔達は、入間達を見て「あっ、イルマ軍だ」「相変わらずあの5人仲良いよね」という声が聞こえてくる。

 

(……5人?僕達って5人だっけ?このメンバーで登校するなんていつもの事の筈なのに……)

 

 入間が突然胸の内に湧き上がったモヤモヤの正体を知ろうと記憶を探っていると、ある声を耳にした。

 

 大きな門の前には、黒と赤を基調とした服を着た悪魔の集団──生徒会の役員達が朝の挨拶をしていた。この中で一際目立つ、赤い髪を伸ばした背の高い女悪魔を眼にして、入間はその女性に声をかけた。

 

「おはようございます。アメリさん」

「ッ!?あ、あぁイルマ!おはよう!」

 

 ピクッと体を震わせた後、ユエやシアと並んでも遜色のない美少女──アザゼル・アメリだった。悪魔学校の生徒会長を勤め、生徒達から絶大な人気を誇っている。そして、何故か入間に好意を持ってくれている女性だ。

 一学年上の先輩であまり関わりのなかった彼女とは、ある出来事を切っ掛けに、定期的に二人きりで読書会をするようになったのだが、当時はまさか自分に好意があるなどとは全く思いもしなかった。しかし、ユエという恋人の存在が現れた危機意識からアメリが明確に好意をあらわにするようになったので勘違いなどと逃げるわけにはいかなくなった。何せ、ユエから奪い取ると公言するほどなのだから。

 

 すると、入間の隣に並んで歩いていたユエが、入間とアメリの間に割り込んで仁王立ちするとアメリを睨みつけた。

 

「ユエ。一応、おはよう」

「……ん、一応、おはよう。アメリ」

 

 律儀に朝の挨拶を交わしながら周囲にブリザードの如き冷気を撒き散らすユエとアメリは、学校公認の恋敵だ。

 暖かな日差しが窓から入り込んで徐々に気温を上げているというのに、二人がいるだけであっという間に真冬となる。生徒会長を勤めるものに相応しい実力者を持つアメリだが、ユエは隔絶した実力であっという間にアメリに並び立つ程の強さを持つ。

 しばらく無言で睨み合う二人だが、実はそこに陰湿なものはない。女子の繰り広げる恋愛戦争だというのに、二人は実に堂々と、言ってしまえば開けっぴろげに衝突し合っている。

 入間にはそれが何とも不思議でならなかったが、ライバルというより、どちらかといえば喧嘩友達という表現の方がピッタリと当てはまりそうな二人の関係が案外嫌いではなかった。

 

 そして、入間達は巨人が使うような巨大な扉の前にやって来て、その扉を開けた。

 開け放たれた扉の向こうは、ダンスホールのような広さにあちこちに宝石が埋め込まれた部屋で、金銀の糸で刺繍された絨毯が敷かれており、まるで城のようだ。

 

 『王の教室(ロイヤル・ワン)

 かつて魔王一人のために創られたと言われていた教室であり、入間がクラスメイト達と共に勝ち取った教室だ。

 

 教室に入ると、入間の元に、パタパタと靴音を響かせながら近寄ってくるクラスの女子が一人。

 

「イルく~ん!おっはよ!」

「あっ、ミレディ。おはよう」

 

 金髪碧眼の美少女──ミレディ・ライセン。ユエ達にも匹敵する美少女であるが、性格にかなりの問題があり、入学初日に校舎の一部にトラップを仕掛け、教師や生徒達を正体不明の液体まみれにしたり、蠍の群れの餌食にした上で、相手を苛立たせるような文字で煽りまくった結果、この問題児(アブノーマル)クラスに入ることが決まった少女だ。

 そして、彼女も何故か自分に好意を抱いているらしい。ミレディが仕掛けたトラップを無傷でクリアしたことから関わるようになったのだが、ある日突然入間に告白してきたのだ。

 

 すると、ミレディに続いて新たに少女が入間に近寄ってきた。

 

「鈴木。これ、今日のお弁当」

「あっ!ありがとう園部さん!」

 

 弁当箱を差し出してきたのは、問題児(アブノーマル)クラスの一人、園部優花だ。一班的な飲食店の娘で、不良っぽい見た目をしながらも根は真面目な彼女が何故問題児(アブノーマル)クラスになったのかは、【クロケル・ケロリ】と並ぶくらいの謎である。

 彼女の料理の腕前は入間も気に入っており、ある出来事が切っ掛けで親しくなった彼女はよく入間に弁当を作ってきてくれる。

 

「あらあら、相変わらず仲が良いわね~」

「イ~~ル~~マ~~氏~~ッ!!」

 

 そんな光景を、【イクス・エリザベッタ】は微笑ましそうに笑い、美少女達に囲まれる入間に【カイム・カムイ】が血涙を流しながら黒いオーラを漂わせている。この光景になれてきている自分に、入間はつい苦笑する。

 

 そうこうしている内にチャイムが鳴り、教室に担任の【ナベリウス・カルエゴ】と、副担任の畑山愛子が入ってくる。サッと踵を返して自分の座席に戻っていった。

 

「ホームルームは以上です。それでは皆さん、ティオ先生の授業に移動してください」

「騒ぐな!他の生徒や先生方に迷惑をかけるな!あくまでも……静粛にな」

 

 殆どのクラスメイトが先生の話を全く聞いていないなかでホームルームが終わると、入間達は本校に足を運び、ティオ先生の授業が始まる。

 何故か妙に入間を気に入っている、美貌の、そしてエロティックなその女教師は、毎度必ずと言っていいほど入間にセクハラ気味のちょっかいを掛けてくる。

 今日も今日とて、初っ端から流し目を送ってきたティオ先生に、入間はボソリと呟いた。

 

「…さっさと懲戒免職すればいいのに」

「ッ!?ハァハァ」

 

 これも、いつもの光景だ。そう、ティオ先生にだけは、穏やかな入間も対応が辛辣になっていく。

 

(……あれ?今のすごくしっくり来た?)

 

 いつもの事なのに、先程から抱いていた違和感が不意に消える。まるで、()()()()()()()()()()()()()みたいに。

 

「……あれ?これは……」

 

 その時、入間は自身の手元に何かが置かれている事に気付いた。

 黒を基調としたストップウォッチのような形状のそれを手にした入間は、しばらくの間それを見つめていると、脳裏に奇妙な映像が過った。

 

「──変身!!」

 

 

仮面ライダー!ジオウ!!

 

 

 脳裏に過るのは、奇妙なベルトを構えた自分が、そのベルトを回転させて黒い鎧に包まれ顔に文字が刻まれる……

 

「……入間?」

「ッ!あれ!?」

 

 その時、隣にいたユエに肩を叩かれ、入間は意識を取り戻す。授業は既に終盤に差し掛かっており、入間の手にはさっきの時計は何処にもない。

 

「大丈夫ですか、イルマ様?」

「イルマち、元気ペコペコ?」

「あ、うん。気にしないで。すこしボーッとしてただけだから」

 

 そう言った瞬間、授業の終わりを告げるチャイムが鳴り響き、問題児(アブノーマル)クラスは教室を後にする。入間の頭からは、さっきの時計のことはもう消え去っていた。

 

 その後も、入間は昼休みに食堂で優花が作ったくれた弁当を食べたり、魔具研究師団(バトラ)でチマとユエが火花を散らしたり、談話室でアメリと読書会を行ったりと、いつも通りの日常を過ごしている筈の入間は、何故か違和感を感じずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後、入間とユエは並んでとある場所に向かっていた。アスモデウスやクララ、シア、ミレディ、優花、そして何故か愛子先生やティオ先生が付いて来ようとしたが、ユエが一刀両断にばっさり切り捨てて(もちろん、精神的な意味で)一時的に行動不能に陥れたので二人っきりである。

 しばらく他愛ない会話を楽しみながら到着した場所は幼稚園だ。

 

 ここに、サリバンの友人であるレミアの娘ミュウがおり、忙しい彼女に代わって幼稚園のお迎えに来たのだ。このお迎えと、レミアが帰ってくるまでの間、家で預かるというのはずっと前から続いている入間の日常だ。

 

「あっ、パ…お兄ちゃん!ユエ姉ちゃん!」

 

 入間とユエが正門を通って幼稚園の敷地内に入ると、目聡くそれを捉えたミュウがステテテテーと走り寄って来た。その表情は満面の笑みである。思わずほっこりする入間とユエ。突進してきたミュウを二人がかりで受け止めてギュッと抱き締めてやる。

 

「ミュウ、突っ込んじゃダメだよ。危ないよ?それと今、僕のこと、また“パパ”って呼びそうになったよね?ホント、勘弁してね?」

「……私は“ママ”でもいい」

 

 入間は、ミュウの呼びかけた呼び名に冷や汗を流しながら窘めた。

 以前、師団披露(バトラパーティー)でミュウが入間を“パパ”と呼んでしまい大騒ぎになったのだ。レミアは未亡人なので、父を知らないミュウにとっていつも傍にいて優しくしてくれる年上の男である入間はパパだと思えたのだ。

 だがしかし、入間は現役の学生であり、そんな少年が園児にパパと呼ばれれば……当然、よからぬ噂は立つものである。

 しかも、隣にはユエがいる。親御さんが何を想像するのかは分かりきったことだ。

 その勘違いを察したユエが、きっぱり否定せずに頬を赤らめたものだから勘違いは更に加速した。ユエは単純に入間との子作りを想像して恥ずかしくなっただけなのだが、タイミングが悪すぎた。

 どうにか、幼稚園の先生達が誤解を解いてくれて、後日レミアが親御さん達に顔見せをすることで事無きを得たが、あのままあらぬ噂が広がれば、悪魔学校で入間の居場所は無くなっていただろう。本当に冷や汗ものである。

 

 もっとも、レミアが未亡人であるということから、今度はレミア自身を狙っているのではないか? 大人しそうな顔をして何て女たらしだ!と警戒の目を向けられるようになった。最近は、もう諦めの境地に達している。それでも一応、パパ呼びは改めさせているが。

 

 ミュウを間に挟んで三人は手を繋ぎながら帰路につく。時々、定番のブランコをしてミュウがキャッキャッとはしゃいだ声を上げた。傍から見れば完全に家族である。

 

「……ミュウ、今日は何してた?」

「えっとね、きょうは……」

 

 ユエの質問にミュウが喜々として今日の出来事を語る。そんなミュウを見るユエの眼差しはひどく優しい。慈しみと包み込むような温かさに満ち溢れている。何だか、そんなユエが神々しくすら見えて入間は呆然とユエに見蕩れていた。

 そんな入間に少し不機嫌そうな声が掛かる。

 

「もうっ、パp…お兄ちゃん!ミュウのおはなし、きいてるの?」

「え?ああ、ゴメン、ゴメン。ちょっとボーとしてたよ」

 

 ぷんすかと怒るミュウに謝罪しながら苦笑いする入間は、ヒョイっとミュウを抱き上げる。そして機嫌を取るようにあやし始めた。

 抱っこされて直ぐに機嫌が戻ったミュウだったが、降ろされたくないので頑張って怒っている振りをする。バレバレなのだが、それには気が付かない振りをして入間はミュウを宥め続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜。

 夕食も終えて風呂も入り、自室でベッドに身を投げ出していた入間は、濡れた髪を乾かしもせず何かを考え込むように眉根をしかめていた。

 

 胸中を巡る正体不明の違和感。

 いつもと何ら変わらないはずの幸せな日常のはずなのに……本能とも言うべき深い場所で誰かが叫ぶのだ。「これは違う!」と。自分の中の何かが、この幸せなはずの日常を否定するのだ。「目を覚ませ!」と。

 

(楽しい学校生活……平和な日々……大切な恋人にクラスメイト達……。何も不自由なんかない、楽しい日々の筈なのに……僕は何が不満なの?)

 

 考えても考えても、答えは出せず、胸の中のモヤモヤだけが広がっていく。その時、聞きなじみるある声が掛けられた。

 

「おい!イル坊!!」

「うわっ!?」

 

 紫の体に、一つ目の燕尾服の存在を目にして、入間はビックリしてベッドの上に倒れ込む。だが、直ぐにそれが自身の相棒なのだと察すると、ため息を吐いた。

 

「ア、アリさん……。いきなり出てきて驚かせないでよ」

「はいは~い、第50話から本当に久しぶりに登場したアリさんですよ~。っと、なんね駄弁ってる場合じゃなかったわ。正直、凄腕のアリさんでもここにはあんま長くいられねぇしな……」

 

 そう言ったアリクレッド。50話やら何やらと訳の分からない事ばかり言っている事に困惑していると、入間はアリクレッドの体にノイズのような物が走り、その姿が透けていくの目をにして、目を見開く。

 

「あぁ……やっぱり精神に侵入するのは無理があるか」

「アリさん!」

「いいか、イル坊……。ここから出るには、オメーが自分の力でなんとかしなくちゃなんねぇ。さっさと戻ってこいよ」

「ここから出るって、どういう……わッ!?」

 

 アリクレッドは、入間にあるものを投げ渡した。教室で見た、あの黒い時計だ。顔を上げようとすると、アリクレッドの姿はもう何処にもない。

 その時計に視線を落とすと、その時計が光った瞬間、その時計が、白と黒を基調とした見た目に、「カメン」という文字と「2018」という年号が刻まれたものに変化したのだ。

 

「これは……うっ!?」

 

 その時、入間の頭に強烈な痛みが走り、脳内にいくつもの光景がフラッシュバックされる。

 

──……私は、入間と一緒に行きたい……!!

 

──どんな障害があろうと関係ない。僕達は僕達の道を進めば良い

 

──知らないんですか? 未来は絶対じゃあないんですよ?

 

──好き…なんだ……。先輩でも、悪魔学校(バビルス)の生徒会長としてでもなく……一人の女として、私はイルマ(お前)に……こ、恋をしている…!!

 

──ミレディ・ライセン。僕と一緒に、世界を変えてみない?

 

──もっちろん!着いていくよ!!

 

──お久し振りです!イルマ様!!

 

──妾達竜人族の悲願はこの世界を弄ぶ神を打ち倒すことじゃ……バダンなる異世界からの害悪と結託した神を打ち倒すご主人様の旅仲間に、妾を加えてはくれぬか?

 

──パパは、ずっとミュウのパパでいてくれる?

 

──入間ち達と一緒なら、何処だって楽しいもん!!

 

──どうか悩まずに、貴方の助けを待つ人のためにお進み下さい

 

──助けてくれてありがとう。貴方を戦わせしまってごめんなさい

 

──お願い!こんなどうしようもない私達を最後まで見捨てないでくれた愛ちゃんだけは、喪いたくないの…!力を、貸してください……!!

 

 一つ一つの記憶が甦る。魔界で手に入れたもの達、そしてあの世界で手に入れた者達の、大切な記憶が。

 

「そうだ……僕はジオウだった……!」

 

 その時、不意にノック音が響く。

 

「……入間?」

「ああ、いるよ」

 

 一拍おいてユエが扉を開けて部屋に入って来た。

 ネグリジェ姿だ。むき出しの真っ白な手足が艶かしい。トコトコと近づいて来たユエは、入間の髪が濡れていることに気が付くと、僅かにメッ!と叱るような眼差しを向けて、ベッドに乗り込むと、濡れたままの髪を乾かそうとその手を伸ばすが、

 

バシッ!

 

 入間の振るった手に勢いよく振り払われてしまった。

 悲しげな表情で自分の手をもう片方の手で包み込むユエ。その表情に、おそらく大迷宮が作り出したその表情に、入間はギリッと歯を食い縛った。

 

「…入間、どうしたの?」

 

 不安そうなユエの問い掛けを無視して、入間は鋭い視線をユエに向けた。

 

「……ユエ。僕は君の事だ好きだ。皆とは違う意味で大切に思ってる」

「……入間、嬉しい」

 

 突然の入間の言葉にユエは一瞬面食らうも、直ぐにその表情をほころばせた。だが、その言葉とは裏腹に入間の視線は鋭いままだ。

 

「もしも僕が君に…他の何かを切り捨てろと言ったら切り捨ててくれる?」

「入間がそれを望むなら」

 

 入間の要領を得ないはずの言葉に、一瞬の躊躇いもなくユエは頷く。

 

「たとえそれが、アズくん達みたいな、大切な人達であっても?」

「入間がそれを望むなら」

 

 まるで入間の理想を体現するかのように、入間の望むままを実行すると宣言するユエ。そんな彼女に、しかし入間は嬉しがるでもなく、むしろ苛ついたように表情を歪めた。

 そして、鋭い視線はそのままに吐き捨てるように言葉を投げつけた。

 

「そうか……よくわかったよ」

 

 入間がユエを偽物と断じた瞬間、入間の姿が一瞬で変わる。青と金色の、人間の自由のために戦う戦士達の彫刻を携えた鎧を纏う戦士──仮面ライダーインフィニットジオウに。

 

「これまでの敬意から、自分が望む理想の世界に閉じ込めて、その世界から抜け出せるのかって言う試練なんだね……。でも、これは流石に許せないね……。今までの事を全部無かったことにしようとするのも、あんな人形を作るのも……でも、一番許せないのは……ユエにこんな台詞を言わせた、僕自身の理想だ!!」

 

 悪態を吐くインフィニットジオウにユエが歩み寄る。そして、すがるような表情で手を伸ばした。

 

「……ここにいて?ここにいれば入間はずっと幸せ」

「黙れ、偽物。君に名前を呼ばれるなんて虫酸が走る……!」

「……どうして?私はユエ。入間の恋人。理想通りの恋人。何が不満なの?」

「全部だよ。僕の言うことなら何でも聞く、俺を独占しようとしてくれる、都合のいい理想通りの恋人?それはもう、ただの人形だ……!」

 

 既に、この空間からの脱出に思考を巡らせているインフィニットジオウは、お座なりな感じで偽物のユエに吐き捨てる。

 

「……違う。人形じゃない。全ての人格を引き継いだ上で入間の理想を体現したのが私。だから、ここにいて。入間が望めば全てが理想通り。ずっと傍にいるから」

 

 どうやら、ただの偽物というわけではないらしい。この世界も、登場人物達も転移陣で読み取った記憶と人格を元に作り出されたもののようだ。そこに、本人の“もし、こうだったら”という、叶うはずのないIFを付け足し、より理想的な世界を作り出したのだろう。

 確かに、魔界に来てから、仮面ライダーとなった事で味わった苦痛や、これから立ち向かわなければならない困難を思えば、それなくしてユエ達と魔界で暮らしていられるというのは理想的と言えるかもしれない。

 だが、

 

「理想通り?これが?こんな下らない世界、こっちから願い下げだよ!」

 

 つまらなさそうにそう言うと、カッ!とその体から蒼い光を爆ぜさせた。透き通るようなエネルギーが一瞬で仮初の世界全体に伝播し、それだけに留まらず、その密度を凄まじい勢いで高めていく。

 これが試練である以上、条件をクリアすれば脱出できる可能性は高いし、その条件も推測は出来ているが、力尽くでぶっ壊してやりたくなったのだから仕方ない。要は八つ当たりである。

 

「……なぜ。ここなら苦しくて辛い戦いをすることもない。人を殺める必要もない。大好きな場所で、大好きな人達と過ごせる日々……どうしてそれを拒絶するの?」

 

 理想的な世界のはずなのに、それを否定するインフィニットジオウに無表情のユエが疑問の声を上げる。インフィニットジオウは猛烈な勢いで自身のもつ力の放出を続けながら、動かない仮面の下に強烈な怒りを宿した光る眼を偽物のユエに向けた。

 

「確かに苦しかったし辛かった……でも、それでも楽しかったんだ!痛みもなにもない世界で、人形に囲まれて過ごす日々よりもずっと!!」

 

 雄叫びと共に更にエネルギーを放出し、遂に空間全体に亀裂が入り始めた。

 ビキベキと音を立てながら刻一刻と亀裂を広げていく空間。インフィニットジオウの名の通り、無尽蔵に沸き上がってくるエネルギーは、更に勢いを増して沸き上がり、更に空間を破壊していく。

 

「他の皆もそうだ!自由奔放でバカなことばかりの変な奴らだからこそ……思い通りにならないで滅茶苦茶なことをする皆だからこそ、僕は皆みたいな悪魔(ヒーロー)になりたいと思えた!だから……こんな世界は、僕の理想でもなんでもない!!」

 

 世界が蒼に染まる。天を衝かんばかりに噴き上がる蒼い光の奔流に、仮初の世界が悲鳴を上げた。

 そして、

 

 

バリィイイイン!!

 

 

 世界が壊れた。

 ガラスの破片のように世界の欠片が宙を舞う。キラキラと光るそれらは、まるでダイヤモンドダストのよう。

 

 生命がその終わりの瞬間に一瞬輝くように、壊れた世界に満ちる光の中で偽物のユエはそっと微笑んだ。それは、ユエが見せる微笑みではない。もっと別の……誰かの微笑みだ。

 

 変身が解けた入間は、その人物に何となく心当たりがあったが、急速に沈んでいく意識に指摘する余裕はなかった。

 

「……合格だよ。甘く優しいだけのものに価値はない。与えられるだけじゃ意味がない。たとえ辛くとも苦しくとも、現実で積み重ね紡いだものこそが君を幸せにするんだ。忘れないでね」

 

 ユエのものとは全く異なる声音。女性的にも男性的にも聞こえる。だが、ひどく優しい声音だ。

 入間は意識が途切れる寸前、声にならない声を上げた。

 

「……そんなこと、とっくの昔に分かってたよ。(ダレス)に上がったあの日にね……」

 

 既に霞んで見えないその人は、やっぱり最後に優しい微笑みを浮かべた……気がした。




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