悪魔の孫は時の王者となって世界最強   作:MTHR

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 合宿研修も終わり、四月から遂に仕事が始まるため、投稿が大幅に遅れるかもしれません。これからも仕事をこなしつつ頑張ります。これからも悪魔の孫は時の王者となって世界最強をどうかよろしくお願い致します。

 サブタイトルは仮面ライダーガヴ17話「カラメる触手は幸福味」のオマージュです。


97話 カラメるスライムは快楽味

 入間達が転移した場所は最初と同じ樹海の中だった。

 

 だが、最初のどっちに向かえばいいのか見当もつかないような広大さはなく、()()も向かうべき目標も見えていた。

 どうやらこの場所は、かつての【オルクス大迷宮】の密林地帯と同じくどこかの地下空間に存在しているらしい。そして、他の樹々がほぼ同じ高さであるのに対して空間の一番奥には一際大きな樹がそびえ立っていた。おそらく、新たな転移陣のある場所だろう。

 

「今回は全員いるみたいだね」

 

 入間が目を細めながらメンバーに視線を巡らせる。また転移先で何かされるんじゃないかと疑っていたのだが杞憂だったようだ。

 

「……入間、偽物は?」

「いや、大丈夫みたいだよ。僕の感覚も全員本物だと言ってる」

「入間さんがそう言うなら大丈夫ですね」

 

 シアが信頼の眼差しを向ける。入間は「自分でも気をつけてよ?」と注意しつつ肩を竦めた。ちょっと照れ隠しが入っているとユエ達にだけ分かるのは付き合いの長さ故だろう

 

 鬱蒼と茂る樹海と遠くに見える巨樹を見て入間が出発の号令を掛ける。チラリと肩越しに振り返れば、未だどこか表情に陰が差している光輝達勇者パーティーの姿が。

 

 雫と鈴の方は目覚めた時の言葉から何を夢に見たのか容易に想像がつくし、その為に脱することが出来ず深く傷ついたこともわかる。

 しかし、光輝の方は一体何を見たというのか……いや、直前に口にしていた台詞から何となく分かるが、考えるのは野暮だ。というより、何を見たかよりも、その夢を振り払って現実に帰って来られなかったこと自体がショックだったのかもしれない。

 

 しかし、ここは大迷宮だ。ほんの一秒後には絶体絶命の修羅場に陥っても何らおかしくない魔境なのだ。いつまでも終わったことを引きずっていては話にならない。

 

「天之河君、八重樫さん、谷口さん。君達、やる気あるの?」

「なっ、あ、あるに決まってるだろ!」

「な、何を言うのよ鈴木君!私達は……」

「え?あ、あるよ!」

 

 入間の鋭い眼光が落ち込んでいる三人に突き刺さる。辛辣とも言える言葉はともすれば追討ちのようで、愛子が入間を止めようとする。

 しかし、愛子が何かを言う前に入間が言葉を続ける。

 

「ここは大迷宮。一歩踏み込んだ先、一秒後の未来、そこに死が手ぐすね引いて待っているような場所だ。集中できないな、攻略は今ここで諦めて。無駄死にするだけだから」

「ま、待て、俺は……」

「何をどう言い訳したところで、さっきの試練を君達がクリアできなかった事実は変わらない。なら、最低でも必要なのは残りの全てを踏み越えてやるという決意じゃないかな?でも今の君達にはそれが見えない。気概の無い人は足手纏いよりも質が悪い」

「……俺は」

「出来そうなら大迷宮の外までオーロラカーテンを開いてあげるし、転移が使えなくても結界くらいは敷いてやる。進むか引くか、今決めて。他力本願で死地に足を運ぶようなら……もう君達との縁はここまで。ここから先は、君達三人だけで攻略してもらう」

 

 辺りを静寂が包む。光輝はギリギリと歯を食いしばり必死に憤りを抑えているようだ。しかし、それは言いたい放題の入間に対してではなく、そんな事を言わせてしまった光輝自身への怒りだった。

 落ち込んで集中を欠いていても、入間達がいるのだから大丈夫だろうと無意識の内に甘えていた事実に気がついたのだ。

 入間の考え方が気に食わなくて、入間よりも強くなりたくて、半ば無理やり大迷宮攻略に随伴したというのに、その入間に甘えてしまった自分がまた情けなくて、自分をぶん殴ってやりたい心境だった。

 しかし、今ここで激情を発散しても、それもまた答えを待っている入間に対する甘えだ。光輝は何度も深呼吸をして空気と共に胸の内のモヤモヤを外に排出し、新鮮な空気を取り入れる。

 

「鈴木。もう大丈夫だ。俺は先に進む!」

 

 入間は軽い感じで頷くと視線を雫と鈴に巡らせた。二人は一瞬、ビクッと体を震わせたが直ぐに決然とした表情を見せると真っ直ぐに入間の目を見返した。

 

「えぇ、私も少し甘えすぎてたみたい。ごめんなさい、鈴木君。私はまだやれるわ」

「鈴も行く。やる気十分だよ!」

「それならいい。集中を切らせるなよ」

 

 入間はそれだけ言うと、さっさと先頭を歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 巨樹を目指して真っ直ぐ進む入間達。

 周囲には虫の鳴き声一つ聞こえない静寂で満ちている。風すら吹いていないので葉擦れの音も聞こえない。入間達が草木をかき分ける音がやけに大きく響いた。

 

「う~む、何だか嫌な感じじゃの」

「確かに……魔物の気配も全くないものね」

 

 ティオが眉根をしかめてポツリと零すと、雫も魔人族の女カトレアの待ち伏せにあった時のことを思い出し、緊張感と警戒心に満ちた鋭い視線を周囲に飛ばした。

 

「一応、魔力紙兵隊を先行させているんだが特に何もないな。このまま何事もなくとは流石にいかないと思うが……いっそのこと、巨樹までの樹海を全部焼き払おうかな?」

「鈴木……俺が言うのもなんだけど、取り敢えず面倒いから壊しとけみたいな発想はどうかと思うんだ」

「鈴木君。」

 

 入間が隠れている何かを警戒するくらいなら隠れた場所ごと灰燼にしてしまおうかと本気で考えだしたことに光輝と愛子がツッコミを入れた。周囲一帯を火の海にされたのは流石に肝が冷えたのだ。

 他のメンバーからも取り敢えずこのまま行こうと諭すような眼差しを向けられ、入間は渋々、取り出していたパーフェクトゼクターをしまい込んだ。

 

 この時、当然ではあるが、入間を諌めたことを彼等は後に後悔することになるとは思いもしなかった。これから起こることに気がついていたなら、何が何でも森林破壊を自ら申請したはずだ。特に、雫辺りは絶対に。

 

「……ん?雨か?」

「ほんとだ。ポツポツ来てるね」

 

 突然、頭上から感じた水気に光輝は顔をしかめる。それに鈴が手をかざしながら同意する。何故かミレディが「ゲッ!?」と顔を青ざめさせる。

 次の瞬間、光輝と鈴が顔を見合わせると、有り得ない事象だと気がついて二人同時に総毛立った。

 

「チッ、ユエ!」

「……んっ、“聖絶”!」

 

 入間が、その異常性にいち早く反応しユエに呼びかける。ユエは阿吽の呼吸で障壁を展開した。

 

 直後、

 

ザァアアアアア

 

 土砂降りの雨が入間達を襲い、ユエの張った障壁に弾かれてその表面をドロリと滑り落ちていく。どう見ても唯の雨ではない。雨であるはずがない。ドロリとしたその粘性もそうだが、そもそもここは閉鎖空間であり空など存在しないのだ。

 

 ならば、その正体は自ずと絞られる。硫酸や何らかの毒性をもった液体を降らせるトラップか、あるいは、()()()()()()()()()か、どちらかだ。そして、今回は後者のようだった。

 

「鈴木くん、周りがッ」

 

 この状況でも冷静に目を凝らして障壁の外を注視していた雫が緊迫した声音で入間を呼ぶ。その視線の先には、樹々、草、地面、あらゆる場所からにじみ出てくる乳白色の何かの姿があった。

 

「スライムなの?クッ、気配遮断タイプにしても、感知されないなんてどんな隠密性なのさ」

「鈴木!足元からもッ!」

「うぎゃーー!来ないで来ないで!“絶禍”!!」

 

 入間が自分にすら気づかせないスライムの隠密性に内心で舌打ちしていると、足元の地面からも乳白色のスライムが滲み出してきた。“聖絶”は球状の障壁であり地面の中まで展開可能だが、最初から内側に入っている部分の地面までは効果範囲外だ。地面に潜んでいた乳白色スライムは内側から入間達を強襲した。

 

 突然、足元からドバッ!と飛び出した乳白色スライムに、膝下まで呑み込まれたミレディが、いつになく慌てた様子で“絶禍”を発動する。

 球体に吸い込まれていく乳白色スライム。スライムの典型的な攻撃といえば、その物理攻撃に強い特性を生かして接近し体内に取り込んで溶かしてしまうというものだが、どうやら溶かされる前に完全に排除できたようだ。

 

 

 その時、勇者パーティーの背後からガバッと体積を広げて覆い被さろうとしてきた乳白色スライム。顔を強張らせる三人に、チラリとそれを横目で見た入間はチッと舌打ちすると、“ネオアルファスイーパー”を武装し、アマゾン細胞弾を何万発も発射していく。

 体に穴を空けられバラバラにされていく乳白色スライスは、体をびちゃびちゃと飛び散らせながら四散する。

 

「光輝、少し妙だと思わない?こいつらいくらなんでも簡単に死ぬ……ってどうしたの?」

「えっ、いや、何でもないぞ!ああ、何でもない!」

「?」

 

 雫が大迷宮の魔物にしては随分と脆い事に少し訝しみながらも、光輝に自分の無事を伝える。だが、当の声を掛けた光輝はと言うと、ババッ!と音がしそうなほど素早く顔を逸らし雫と視線を合わせようとしなかった。

 途中、視界の端に鈴も入り、雫と同じような状況だったのでやはり慌てて視線を逸らす。

 そんな光輝にスライムに向けるもの以上の不審顔を向ける雫だったが、結局、今はそれどころではないと音叉剣を上手く使いながら結界内の乳白色スライムを駆逐していった。

 

 光輝が動揺した原因。

 それは乳白色スライムである。それを、最初の雨状のものと、先程入間が飛び散らせたものを雫も鈴も浴びてしまっているのだ。言い換えれば、白濁したドロリとした液体を、だ。

 

 これだけで、光輝が何に反応してしまったのかは言うまでもないだろう。有り体に言えば、雫と鈴の見た目は非常にマズイことになっていた。本人達は気が付いていないが……

 

 そして、それはユエ達も同じことだった。

 

 ユエは“聖絶”を展開しながら襲い来る乳白色スライムを縮小版“蒼龍”で焼き滅ぼしており、倒したスライムの飛沫が付着することはなかったが、最初に降ってきた雨の分はしっかり付いている。頬や首筋にトロリと流れる白濁液……

 

 アメリは、足元に巻き付いてきたスライムを剛脚をもって振り払い、今も尚その強力な脚力をもって蹴り飛ばしていくのだが、そのは旅に四散していく液体が飛び、その美脚に白濁液が流れていて……

 

 シアも、覆い被さろうとしてきた乳白色スライムをガシャコンブレイカーにガシャットを挿して必殺技を発動して吹き飛ばしてしまったので、飛び散った飛沫がいくらか付着してしまっている。もっとも、衝撃波の威力が高かったので、その量は極めて少ない。少ないが、やはり……

 

 チマは、他と比べて被害が少ない。スライムが潜んでいる地面ごと凍らせているため、四散する心配もないが、最初に浴びてしまった白濁液が全身に伝っているので、やはり危ない絵柄だ。

 

 そして一番見た目がヤバイのは、シアが吹き飛ばした乳白色スライムの飛沫をモロ浴びしてしまったティオである。別にシアがティオを狙ったというわけではなく、こればかりは運が悪かったとしか言いようがないのだが、まるでバラエティのパイ投げのように正面から顔面に浴びてしまったのだ。

 今のティオは、その艶やかな黒髪と黒を基調とした和服風の衣服を白濁液でドロドロにしている状態だ。しかも、はだけた裾から覗く美脚にもトロリと白濁液が流れている。非常にマズイ絵面だ。

 

 そして愛子と優花。変身する間もなかった為、簡易的な魔法で撃退するしかなかったのだが、他の面々に比べると成果は著しくない。その度に白濁液がかかり、二人ともユエ達よりも被害が大きい。

 

 一番被害がないのはミレディだ。“絶禍”があるので液体状の飛沫が飛び散る心配がない。もっとも、最初の雨にやられて多少の液体が付いているのは他のメンバーとさほど変わらない。

 

 アスモデウスは、クララを庇うようにして自分達の周りをを包むように炎を発生させ、地面からも外側からも、襲い来るスライム達を焼き尽くしていく。

 

 飛び掛って来る乳白色スライム相手に、体全体に覆うように悪食の指輪の靄を発生させることでスライム限定で無敵状態になっている入間は、取り敢えずユエ達の姿が光輝との目に入る前にまた目潰しをしておこうかと物騒なことを考える。

 しかし、乳白色スライムの脆弱性という不審な点がある以上、まだ何が起こるか分からないので仕方なく目潰しは自重することにした。

 

(万一見られたら、後で記憶が飛ぶまでタコ殴りにしよう)

 

 代わりに、より物騒なことが考えられていた。光輝の頭の命は風前の灯火かもしれない。

 そうこうしている内に、障壁内の乳白色スライムはあっけないほどあっさりと掃討することが出来た。それを確認して、今や“聖絶”の外側をびっしり覆い尽くしている乳白色スライムに視線を向ける入間。おもむろに内壁に近寄ると障壁の外へタカカンドロイドとバッタカンドロイドを転送する。

 

「結局、こうなるんだよね……」

 

 バッタカンドロイドを通じて見た外は、おびただしい程の乳白色スライムで溢れかえっていた。天井の壁からは、今尚スライムが豪雨となって降り注いでいる。地上で波打つスライムの群れは、まるで乳白色の海のようだ。

 ユエのように上級の防御魔法を即時発動できるような者がいなければ、あっという間に呑み込まれて終わりだったかもしれない。本当に大迷宮というのは一寸先は闇である。

 

「ユエ、結界は頼むよ。一切合切、全部焼き滅ぼすから」

「んっ……任せて」

 

 ユエの力強い言葉を聞くと、入間は“保護繭”で自身の体を守りながら決壊の外へと飛び出す。

 

「また、あれが来るのね……」

「うぅ、あの時、再生魔法がなかったら鈴の結界壊れてたんだよ?本気で死ぬかもって思ったんだよ?敵じゃなくて鈴木くんの攻撃で!」

 

 入間が何をしようとしているのか察した、雫は死んだ魚のような目になった。鈴はあの赤い竜巻が軽くトラウマになっているらしく、若干涙目だ。ちなみに、光輝はずっと視線を逸らしている。

 

『ミレディ、体についてるスライムを取ってあげて。絵面的にマズイから』

 

 入間からの突然の念話に驚くミレディ。なぜ、わざわざ自分に念話を?と首を捻るが、“絵面的にマズイ”という入間の言葉でその真意を悟った。

 そして、改めて白濁液で汚れている女性陣を見て「自分達が仕掛けたこととは言えこれはちょっと……」と一気に赤面する。入間がわざわざ念話をしたのは、未だ自分の見た目のマズさに気がついていない雫達に配慮してのことだ。男である入間が指摘するのはいろんな意味で悪手だろう。

 それも察して、ミレディは頬を染めたまま了解と感謝の意を伝えて白濁液の処理に乗り出した。

 

 それを確認して、入間は意識をバッタカンドロイドから届く外の映像に集中する。

 

(……スライムの雨が一向に弱まる気配を見せない。無尽蔵かな?だとしたら、まず天井をどうにかしないと意味がないか)

 

 刻一刻と体積を増やしていくスライムの海を眼下に、入間は“デストバイザー”を手に取り、一枚のカードを装填した。

 

 

FREEZE VENT

 

 

 その瞬間、天井から降っていたスライムと、スライムの海の動きが止まった。任意の相手を凍りつかせるフリーズベントのカードにより、全てのスライム達はガチガチに凍りついた彫刻と化した。

 それを見た入間は、“スピンミキサー”と呼ばれるシフトカーを召喚し、それを魔術で巨大化させる。

 

 突如現れた超巨大ミキサー車にギョッとなる光輝達。

 

 しかし、そんなことはお構いなしにスピンミキサーは空中に生成した道路を走り抜け、速乾性のコンクリートを天井に発射した。壁の僅かな穴や隙間からにじみ出て来ている乳白色スライム達を、壁そのものを固めてしまうことで封殺しようという意図だ。

 その目論見は正解だったようで、スピンミキサーが錬成した部分から、フリーズベントの効果が及ばなかったスライムの流出が止まっていった。

 

(よし、天井の錬成はこんなもんでいいだろうね。後は地面だけど……取り敢えず、地上を焼かないと話にならないかな)

 

 入間は内心でどこかのテロリストのようなことを考えつつ、ジクウドライバーとライドウォッチを取り出した。

 

「よくも、ユエ達に汚ねぇもんかけてくれたねぇ。跡形もなく燃やし尽くしてやる」

 

 入間が不敵な笑みを浮かべ、眼をギラギラと凶悪に光らせた。ユエ達に白濁液なんてものをかけられたことが実は相当頭に来ていたらしい。

 

「悪魔だ、悪魔がいるよ、シズシズぅ!怖いよぉ~」

「……見ちゃダメよ、鈴。見なければどうということもないはずよ!多分、きっと……」

「今、アイツがニュースで犯行声明だしている光景が頭を過ったよ」

 

 入間の悪魔のような姿に鈴がガクブルと震えながら雫に縋りつき、雫は娘に注意する母親のようなことを言いつつ目を逸らし、光輝は未来のテロリストでも見るかのような戦慄の表情を浮かべ、勇者として倒すべきなのはアイツなんじゃ……と思わず使命感に駆られていた。

 

 一方で、ユエ達はというと、

 

「あぁ……入間、素敵」

「うむ。いつもの優しい表情が凛々しさと可愛らしさなら、あの表情はカッコよさというか……」

「ですねぇ~、こうキュンキュンきますねぇ……」

「イルくん、カッコいいよぉ……」

「ご主人様ぁ……はぁはぁ、一目でいいのじゃ。その眼を妾に向けて欲しいのじゃ」

「……イルマ先輩……ゴクリ」

 

 なんだかウットリしていた。恋は盲目とはこのことか。どう見ても、ただ凶悪な顔をしているだけなのだが、ユエ達から見ると頗る付きで心をときめかせる魅力があるらしい。いろんな意味で手遅れということだろう。

 

「流石ですイルマ様!何足る凛々しき姿!!」

「アズアズ、いっつもやってる。おっかしぃ~」

「鈴木君……///」

 

 そして、その表情を見慣れているアスモデウスは何度目なのかわからない感服をしており、クララはそんなアスモデウスを見てケラケラ笑っている。

 一昔前なら、好戦的な入間を見て複雑な表情をしそうな愛子ですら、ノイントを前に自信をお姫様抱っこしながら不適な笑みを浮かべていた入間を見て以来、今のような凶悪顔に心をときめかしていたりする。

 そんな愛子を見て、優花は遠い目をしながら「愛ちゃん、変わっちゃったんですね……」と呟いている。しかし彼女も、チラリと入間を見て、頬を染めてプイッとそっぽを向いていた。

 

 

アーマータイム!

 

アメイジーングッ!!

 

 

 その時、音声と共に、入間は【仮面ライダークウガ・アメイジングマイティ】を模した装甲に顔に「アメイジング」と言う文字が書かれた姿──【仮面ライダージオウ・クウガアメイジングマイティアーマー】に変身した。

 ジオウは、そのまま流れるような動作でドライバーを一回転させる。

 

 

フィニッシュタイム!アメイジング!

 

アメイジングタイムブレーク!

 

 

 その瞬間、ジオウの両足に炎と雷のようなエネルギーが集まり、ジオウは空中で一回転した後に両足を同時に突きだし、そのまま乳白色の海に向けて急降下した。

 乳白色の海に向けて炸裂したキックは一瞬で爆発を起こし、その粘性のボディを粉微塵に粉砕していった。そして、爆心地から、天を貫くような獄炎の柱を創り出す。

 

 凄まじい熱量の炎が地を舐め尽くし、発生した上昇気流が緋色の尖塔を築き上げる。乳白色スライムはなすすべなく焼滅していき、それでもなお炎は全てを巻き込んで焼き尽くしていく。入間の殺意がそのまま具現化したような緋色の津波は、樹々を焼き、地面を溶かし、空気すら焦がして樹海を呑み込んでいった。

 

 障壁を覆い尽くしていた乳白色スライムの隙間から遂に灼熱の赤が顔を覗かせる。それに気がついた誰かが「あっ」と声を上げた次の瞬間には、障壁の外は火炎の海に早変わりしていた。まさに瞬く間もなく乳白色スライムは灰燼に帰したのだ。

 やがて周りからすっかり乳白色がなくなり、地面のあちこちが溜まったタールの残りを燃料に燃え盛っているだけになった外の様子を見ながら、結界の中に転移したジオウが変身を解きながら入間がつぶやいた。

 

「ん~、どうやら、大体焼き尽くしたみたいだね」

「……もう、結界解いても大丈夫?」

 

 入間の言葉にユエが確認を取る。

 

「いや、もうちょい維持しててくれ。地面の下に潜んでないとも限らないからな」

 

 入間はそう言うと、更に“ソフトーニャ”に“タカウォッチロイド”を召喚し、ソフトクリーム型のフードロイドと機械の鷹は機械音を響かせながら散開していった。

 瞑目しながら集中し始めた入間はそのまま皆へ話し掛ける。

 

「目標の巨樹まで錬成するのに少し時間がかかる。あのスライムの総量がわからない以上、適時撃破するより少し時間を割いてでも襲撃対策をしておいた方が面倒がなくていい。悪いがその間、念のため結界の維持は頼むよ、ユエ」

「……んっ」

 

 そう指示する入間にユエは快諾する。他のメンバーも取り敢えず危機を脱したと分かり肩から力を抜いた。

 なお、女性陣を汚していた白濁液は既に取り除かれているので皆綺麗な姿だ。

 

 急速に地面を錬成していく入間だが巨樹までの道程を邪魔されない程度に対策するにはしばらく時間がかかる。なので、ドカっとその場に座り込み胡座をかいた。体力的には何の問題もないが休めるときに休んでおくのは冒険の鉄則である。

 それを見て他のメンバーもそれぞれ僅かな休息に努めた。

 

 と、その時、不意に入間の背中に柔らかな重みが加わる。「ん?」と肩越しに振り返れば、そこにはユエの姿が。どうやら背中から抱きついてきたらしい。いつものように甘えてきただけかと、皆の手前小さく笑みを浮かべる入間だったが……

 

「はぁはぁ……入間、何か変……はぁはぁ、すごく……入間が欲しい」

「は?いや、こんな状況下で何を言って……ユエ?一体どうした?」

 

 ユエの息が荒い。吐息は火傷しそうなほど熱く、瞳はうるうると潤んでいて、チロチロと動く舌は入間を求めて唇からいやらしく出し入れされている。どう見ても発情していた。

 これが夜の宿屋などだったら喜んで応えるところだが、流石にそんな呑気なことは言っていられない。

 

 こんな状況でいきなり発情するなど有り得ない。ユエは明らかに体に異常をきたしている。入間が真剣な表情で体ごと向き直りユエを抱きとめると、ユエは身悶えするようにブルリと震えながら更に体を熱くした。そして、我慢できないとでも言うように入間に自分の体をグイグイと押し付ける。

 

 入間が頭を疑問で埋めながらユエの容態を観察していると、いつの間にか影が差し掛かった。入間が顔を上げるとそこにはシアとチマがいた。

 

「入間さん……私……私、もうっ……はぁはぁ」

「シア、お前もかっ?」

「イルマ先輩……好きですっ……好き、好き……!」

「ちょっ……待って」

 

 シアは入間の右腕に抱きついて胸の谷間を挟み込み、チマは左腕に抱きつくと太ももに腕を挟み込んで逃がさないようにし、スリスリと体を擦りつけ始めた。

 明らかにユエと同じ症状だ。頬は薔薇色に上気し、瞳は劣情で霞んでいる。普段はあまり感じさせない色気を全開で放っており、イルマをしてくらくらするような甘い香り発していた。

 

「一体、何が……」

 

 入間が困惑しながら視線を巡らせる。そこにはユエ達と同じように異変をきたしたメンバーの姿があった。

 

「鈴木君っ。私っ──」

「鈴木……私、ここままじゃ…どうにかなりそう……」

 

 更には愛子と優花までもが、耐え難い何かに身悶えしながら潤んだ瞳を入間に向けている。二人とも、両足をもじもじと擦り合わせながら入間へと少しずつ近寄って来ている。

 

「なんなんだ…これは……集中が途切れて…“幻想王(ロマンチスタ)”が使えん……ッ!」

「うぅっ……リューちゃんの案なんて、採用するんじゃなかった……」

 

 アメリとミレディも、地面に膝を着きながら頬を赤く染め、荒い呼吸を繰り返して必死に何かを堪え忍んでいるようだった。しかし、潤んだ目を向けてちまちまと自身に近寄ってきている。

 

 アスモデウスとクララも、互いに顔を赤くしながら互いに距離を取っている。しかし、互いをチラチラと熱を孕んだ目で見つめている辺り、余裕はなさそうだ。

 ティオは……何だかボーとしている。

 

 光輝達も例外ではない。

 鈴は前かがみで自分を抱き締めるように身悶えているし、光輝も血走った目で傍らの雫を見つめており、おもむろに立ち上がると雫へと手を伸ばし始めた。

 

「ふぅふぅ……っ、負けて、たまるもんですか」

 

 唯一、雫だけは同じように身悶えたあとグッと唇を噛みつつ正座をして目を閉じ、その後は微動だにしていない。頬の赤みも取れて静寂を纏っている。どうやら精神統一か何かをして発情状態を耐えきろうとしているらしい。それを告げなかったのは正気を失う一歩手前で余裕がなかったのだろう。

 しかし、そのままでは既に眼前まで迫っている光輝が何をするか分からない。

 

「まさか、あのスライムってそういう事だったの!?」

 

 

シングル!

 

シングルフィニッシュ!

 

 

 入間は悪態を吐きながらツインブレイカーに“ロックボトル”を装填すると、光輝を頑丈な鎖で近くにある大木に縛り付けた。うわ言のように雫や鈴や、更にはこの場にいない香織や、挙句の果てにユエ達の名前まで呼びながらジタバタともがく光輝だったが、その程度で怪人の動きも拘束するロックボトルで作られた鎖が外れるわけもない。

 一先ず安心かと思われたが、次は鈴が、何と隣にいる雫に手を伸ばし始めた。既にその表情は女の子として見せてはいけないものになっている。大切な、心に決めた人にしか見せてはいけない類の表情だ。

 

 入間は再度舌打ちすると、ツインブレイカーから発射した鎖を鈴にも投擲し大木に縛り付けた。

 

「むぅ、ご主人様よ、無事かの?どうやら、あの魔物の粘液が強力な媚薬になっておったようじゃな」

 

 入間が鈴を拘束しつつ、遂に到達して抱きついてきた愛子と優花を押し止めていると、ティオがしっかりした足取りと平然とした表情で歩み寄って来た。

 

 入間は思わず目を丸くする。

 そんな入間を知ってか知らずか、ティオは普通に言葉を続けた。

 

「強烈な快楽で魔法行使すら阻害しておる。時間が経てば経つほど正気を失って快楽のまま性に溺れることになるじゃろうな。厄介なこと極まりないのぅ。あの物量で襲われては、全く飛沫を浴びないなど不可能じゃろう。戦闘が長引けばそれだけで全滅じゃ。生き残っても仲間がおれば交わらずにはおられんじゃろうから、その後の関係はかなり危うくなりそうじゃしの」

「あ、うん、そうだね……」

「うむ。おそらく、それが狙いじゃろう。快楽に耐えて仲間と共に困難を乗り越えられるか……あるいは快楽に負けても絆を保てるか……いずれにしろ性格の悪いことじゃ。ご主人様には効かなかったのは、恐らく最初の雨粒数的で、後は全て弾いたからじゃろう。微量過ぎて、効果が発揮されなかったのじゃな」

「……ねぇ、ティオ」

「む?なんじゃ、ご主人様よ」

 

 入間は、ティオの推測になるほどと納得する一方で、自分にベッタリと引っ付くユエ達を見つつ最大の疑問を投げかけた。

 

「あの粘液がこの事態を引き起こしているって推測は納得できる。僕もそう思うからな……でもさ。ミレディですら発情してるのに、何でティオは平然としてるの?確か、君が一番あの粘液を浴びていたと思うんだけど」

「確かに、妾の体も粘液の効果が発揮されておる。事実、体を駆け巡る快楽に邪魔されて魔法がまともに使えんからの。じゃがのぅ、舐めてくれるなよ、ご主人様よ。妾を誰だと思っておる」

「ティオ……」

 

 入間は、フッと不敵な笑みを浮かべながら胸を張るティオを見て、今度は違う意味で驚愕に目を見開いた。

 

 ティオは、それだけ強烈な快楽に犯されていながらも意志の力で正気を保っているようだ。普段がどれだけ変態でも、たとえ末期のド変態でも、彼女は遥か昔から生き続ける誇り高き竜人族。この程度の魔物の毒素に……

 

「妾はご主人様の下僕ぞ!この程度の快楽、ご主人様から与えられる痛みという名の快楽に比べれば生温いにも程があるわ!!妾をご主人様以外に尻を振る軽い女と思うてくれるなよぉ!!!」

「そうですか」

 

 眼をクワッ!!と見開き、拳を天に掲げてそう力説する駄竜に、入間は汚物を見るような眼差しを向けた。スライム粘液の快楽すら平然とやり過ごしたティオが、その視線にゾクゾクと体を震わせる。

 

「流石ティオさん、いや、クラルスさんですね。ホントにスゴいですね。取り敢えず、これ以上僕に近寄らないでもらえます?」

「け、敬語じゃと!?しかも、族名で呼ばれた!半端ない距離感じゃ!まさか、このタイミングで他人扱いとはっ。はぁはぁ、マズイ、快楽に溺れそうじゃ……」

 

 さっきまで平然としていたのに急速に快楽に敗北しかけているティオ。四つん這い状態で必死に正気を保とうとしている。

 そんなティオから、もはや見る価値もないと視線を外した入間は体を震わせながら自分に抱きつくユエ達や、快楽に抗っているアメリ達を見やった。

 そして、確かな信頼を瞳に込めて語りかける。

 

「皆。君達がたかがこの程度の魔物にいいようにされるわけがない。まだ正気を保っているはずだ。そうでしょう?」

 

 すると、頬を真っ赤に染め、絶え間なく熱い吐息を漏らしながらも、ユエ、シア、アメリ、ミレディ、チマ、アスモデウス、クララは顔を上げて確かな意思を感じさせる眼差しを入間に向けた。

 

「んんっ……当然」

「当たり前ではないか……欲を自制できんほど、このアザゼル・アメリは柔ではない……」

「うぅ~、もちろんですよぉ~」

「自分達で作った試練で自分が快楽に負けちゃったら、解放者の名折れだよ……」

「はぁ、はぁ……大丈夫です。我慢できます」

「イルマ様の期待を裏切るわけにはいかん……はぁはぁ……クララ、我慢できるな?」

「うぅ~~っ!頑張るぅ!!」

 

 案の定、快楽に身を委ねたいという強烈な欲求に抗い、ユエ達は歯を食いしばりながら正気を保っていた。入間はユエ達を順繰りに見渡して満足気に笑と、入間背中に抱きついている愛子と、入間の胸に顔を埋めている優花に目を向ける。

 

「畑山先生、教師という仕事に誇りを持っている貴方が、媚薬の誘惑なんかで年下に手を出すような浅はかな人じゃないことは知ってます。貴方は媚薬なんかに負けないって信じてますよ」

「鈴木君……。はいっ、ありがとうございますっ」

「園部さん。君は根性だけは僕も認めてるんだから、こんなエロい思考で考えたみたいな試練に負けるはずないでしょ?」

「あ、当たり前じゃない……。堪えきってみせるわ……こんなアホみたいな試練に負けたくないし……」

 

 二人の言葉に、入間も自然と頬を緩めるが、念のためにはと神水が入った試験管を取り出しながら声をかける。

 

「これは大迷宮が用意した試練。なら、乗り切れないなんて有り得ない。もちろん直ぐに解決する方法はある。神水を飲めばいいん。どんな状態変化だろうと解除できないなんてことはない。……どうする?」

 

 入間は言い終わると同時に、一度の声は揃って答えを告げる。

 

「……必要ない」

「あぁ、無用だ」

「いりませんよ」

「ミレディさんを嘗めないでよ、イルくん」

「いらないよ」

「いりません」

「大丈夫!!」

「大丈夫、です……」

「こうなったら、自力で堪えきってやるわよ……」

 

 試練を自力で乗り越えることを選んだ。入間が「それでこそだ」と柔らかな眼差しを向けた。それに、ユエ達も嬉しそうに微笑む。入間が信じてくれているということが伝わるからだ。

 

 入間は堪えると決意した一度を気遣って距離を取ろうとする。自分がいない方が快楽には耐えやすいと思ったからだ。

 しかし、

 

「……入間、ギュッてしてて」

「辛くない?」

「ふふ、入間さんに抱き締められて辛いなんて思う人、ここにはいませんよ」

「はい。むしろ、心が落ち着くから……お願いします」

「すみません、鈴木君。どうか、このままで……」

「私も、お願い……」

 

 全員におねだりされてしまい、入間は少し困った表情をしたものの5人まとめて腕の中に閉じ込めた。近くでは、クララはアスモデウスの背中に顔を埋めている。

 ユエ達は一瞬ブルリと震えたものの、直ぐに安心したように身を委ね、直ぐに荒かった息を整え始めた。それを見た入間は、近くでグッと何かを堪えているアメリとミレディを見て、ちょいちょいと手招きすると、二人は恥ずかしそうに入間の背中に抱き付いた。

 

 それから間も無く目を閉じて精神の均衡を保つことに集中する。いつしか彼女達の熱かった体温は下がり、規則正しい鼓動が入間に伝わり始めた。

 

 どうやら、問題なくこの試練も乗り切れそうである。入間は僅かに微笑むと刺激を与えないように体を微動だにさせず、彼女達を支え続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ご主人様よ。妾もそっちに行って良いかの?」

「ご冗談を、クラルスさん」

「ッ……お、堕ちちゃうぅ、堕ちちゃうのじゃぁあああっ」

 

 駄竜の切なげな悲鳴が木霊した。




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