今回のサブタイトルの元ネタは仮面ライダーセイバー第16章の『世界を救う、一筋の光。』をイメージしたおります。最後にちょっとしたオリジナルストーリーがあります。
「“神罰之焔”」
可憐な声で、しかし、残酷に響き渡った詠。
直後、その魔法は殲滅の意思を乗せて発動された。
蒼炎の宝珠が一瞬、ドクンッ!と脈動したかと思うと、次の瞬間、宝珠を中心に煌く蒼い光が内側から膨れ上がるように地下空間へと広がっていく。まるで凪いだ水面に落ちた一滴の水滴がもたらす波紋の如く。静かに、穏やかに、されど慈悲など微塵も宿さずに。
その蒼の光に触れたゴキブリは僅かな抵抗も許されず、一瞬で灰も残さずに消滅していった。
ボスゴキブリもまた“神罰之焔”と命名され魔法が呟かれた瞬間、脱兎の如く逃げ出したが、幾ばくも距離を取らないうちに急速に膨れ上がるようにして広がった蒼の光に捕まり悲鳴を上げることも出来ずにあっさりと消滅した。
ボスゴキブリが消えたことで、遠くでエグゼイド達や光輝達が戦っていた小さなゴキブリと中型ゴキブリが統率を失ったように混乱し始めたが、そんなことは些細なことである。広がり続ける蒼い光は、そのままシア達も巻き込んでゴキブリ達を呑み込んだ。
自分達に迫るゴキブリを一瞬で殲滅していく蒼炎に、光輝達が焦った表情になる。
そう、焦ることが出来ていた。目の前の滅びを見ることが出来ていた。
理由は明快。滅されたのはゴキブリ達だけで、光輝達もエグゼイド達も全くの無傷だったからだ。無傷なのはエグゼイド達だけではない。大樹や枝通路なども全くの無傷である。
地下空間に余すことなく広がりゴキブリを蹂躙していく蒼い光、にもかかわらずゴキブリ以外には全く影響を及ぼさないという事実に、光輝達だけでなくシア達も驚いたような表情でジオウとウィザードに視線を向けた。
──神罰之焔
炎系最上級魔法“蒼天”を重力魔法によって計十発分圧縮し、更に、魂魄魔法の“選定”によってユエが指定した魂を持つ者だけ、あるいは指定しなかった魂を持つ者だけを焼き滅ぼす殲滅魔法である。
ユエに許されたものだけが生き残り、敵と定めたものだけを滅ぼす。
それはまさに、御業というに相応しい。ユエという名の神が下す神罰の焔、というわけだ。
「とんでもない魔法だよ。……流石ユエだね」
「……んっ、もっと褒めて?」
蒼炎の光が消えて静寂を取り戻した地下空間に、二人の声が響く。
ウィザードの変身を解除したユエを、同じく変身を解いた入間はスッとお姫様抱っこした。入間の首筋に腕を回したユエはリラックスした様子で全身から力を抜く。そして、そのままカプッ!と入間の首に口付けを行い、レロレロ、チューチューと入間の血を堪能した。
ユエが夢中で入間の首筋に吸い付いている間、入間は片手でユエを抱き直し、もう片方の手で優しくその髪を撫でる。
ユエは、喘ぎつつ恍惚とした表情で入間から顔を離す。すると、入間は優しくユエを地面に下ろし、見つめあった。
何も言わず、二人はスッと距離を詰めると空中で自然と抱き合い、これまたごく自然に唇を重ねた。言葉はなく、ただ触れ合うだけの軽いキスだが想いだけは十二分だ。
ユエの細い腰を抱きしめる入間の腕にも、入間の首筋に回したユエの腕にも力が入る。唇を離した二人は互いに額をくっつけ合い、再度、自分の中の感情を確かめると至近距離で見つめ合いホロリと表情を崩して微笑みあった。
その時、突如念話が響き渡った。それはもう大声で。
『いつまでイチャイチャしているんですかぁ!!さっさと戻って来て下さいぃ!』
『TPOを弁えんかお前達は!!そんな羨ま……じゃなくて!!』
シアとアメリだ。ミレディとチマと共にぷんすかしながら光輝達の傍らでブンブンと激しく手招きしている。愛子と優花は不満げな表情を浮かべており、アスモデウス、ティオ、クララは肩を竦めているだけだ。どうやら心情を汲んで待っていてくれたらしい。光輝達は気まずげに視線を逸らし、雫と鈴は頬を赤らめている。遠目に、入間とユエのあれこれを見ていたようだ。
そんな彼女達の反応からすると、みんな感情が元に戻っているようである。自力で戻れていたのか、それともボスゴキブリが死んだためかは分からないが。
入間とユエは、顔を見合わせ軽くもう一度キスするとシア達のところへ戻った。
「最後に、さり気なくキスしてましたね……」
「うらやま……ンンッ!二人共、無事で良かった。まぁ、途中で“愛しさしかないぃ”とか“私もぉ”とか、物凄く響いてたから無事だってわかっていたがな……」
「魔法を自力土解いたのは良しとしても、こんな惚気ながら攻略されるなんて予想だにしてなかったよぉ」
「…二人とも、空気読まなさすぎです」
「全く、流石ご主人様とユエじゃな。戦闘中に二人っきりの世界に入るなどと……玩具のように翻弄されるあ奴が流石に不憫でならなかったのじゃ」
全員呆れを含ませた言葉と表情で入間とユエを出迎えるシア達。入間は肩を竦めるだけで、特に気にしていないようだ。その神経の太さに光輝達もまた呆れた表情になる。
「……自力で戻れた?」
「ああ、途中で戻るには戻れたのですが……」
「ウム……あれを自力で戻ったと言っていいのか?」
ユエの質問に、シア達は首を傾げる。それにティオが苦笑いしながら説明を加える。
「まぁ、自力で戻ったと言ってよいじゃろう。きっかけが、ご主人様とユエの告白合戦に対する嫉妬だったとしてもの?あの熱烈な愛の言葉は妾も女として羨ましかったのじゃ。気が付けばゴキブリなんぞ眼中になかった、というくらいにの。シア達も、そんなところじゃろ?」
「はいですぅ……」
「うむ……」
「はい……」
「ミレディさんはそんなの関係なしに自力で解いたんだけどね~」
「私は、どちらかと言えばユエへの嫉妬でしょうかね……。イルマ様のお背中をお守りする役目を果たせずにいたとは……無念!!」
「ア、アハハ~。私も最後はイヤって思ってたから平気だと思うけど……」
そういう事らしい。入間の視線が愛子達の方を向く。お前等はどう?と。
「あ~、どうなのかしら?最後の方は普通にゴキブリを気持ち悪いと思っていたけれど……先生と優花は?」
「うぇっ!?え、えぇ。お、恐らく自力で解けたと思います!」
「そ、そうね!私も最後にはゴキブリをイヤって思えたし、多分できたと思うわ!!」
「「……」」
どうやら自力で乗り切れた可能性があるのは、何故か妙に顔を赤くしている愛子と優花、そして雫だけのようだ。
光輝達は試練を乗り切れなかった可能性(一応、かなりの数のゴキブリを倒したが)が高いことと、最後までゴキブリを可愛い、愛おしいと思ってしまったことに二重でダメージを受けていた。
その後、シア達がユエにさっきの魔法は何なのかと質問していると、突然、天井付近の大樹の一部が輝き始めた。光輝達のダメージを回復しつつそちらに注目していると、メキメキッと音を響かせながら大きな枝が新たに生え始める。
その枝は、新たな通路となってどんどん長さを伸ばすと、遂に入間達がゴキブリに襲われた四本の枝通路が合流するポイントに五本目の枝通路として引っ付いた。上から伸びてきた枝通路なので、枝の節とも相まって天へと伸びる階段のようにも見える。
入間達は顔を見合わせると、休憩もそこそこに先へ進むことにした。
ただし、ユエが入間に抱きついてきたので、入間はユエをお姫様抱っこし直した事で、むくれたシア、アメリ、ミレディ、ティオ、チマが四方八方からから抱きついたのは言うまでもない。アスモデウスとクララは苦笑し、愛子と優花はこの上なくふきげんそうな顔をし、光輝達が何とも言えない表情で後を付いていったのも言うまでもないことだ。
五本目の枝通路を登りきると、そこにはいつものように洞が出来ていた。躊躇いなく進むと、案の定、光が溢れ出し転移陣が起動する。
光が収まったあと入間達の目の前に広がっていたのは……庭園だった。
空が非常に近く感じられる。
空気はとても澄んでいて、学校の体育館程度の大きさのその場所にはチョロチョロと流れるいくつもの可愛らしい水路と芝生のような地面、あちこちから突き出すように伸びている比較的小さな樹々、小さな白亜の建物があった。
そして一番奥には円形の水路で囲まれた小さな島と、その中央に一際大きな樹、その樹の枝が絡みついている石版があった。
ティオがスタスタと歩いて庭園の淵に行き眼下を覗き込む。
「ご主人様よ。どうやらここは大樹の天辺付近みたいじゃぞ?」
ティオの言葉に、他のメンバーも庭園の端から下を見やる。すると、眼下には広大な雲海と見紛う濃霧の海が広がっていた。
「いや、それはおかしい。……僕達が鬼の戦艦で樹海の上を飛んで来たときには大樹なんてなかった。濃霧があるところまでで目算しても、この庭園の高さは二百メートルはある。こんなでっかい樹を見逃すはずがない……」
そこまで言ってから、入間は自分の発言のおかしさに気がついた。そもそも、地上でみた大樹の大きさからして、樹海を覆う濃霧を越えて上部が上空に突き出しているのは当たり前のことだ。
にもかかわらず、今の今まで、フェルニルから大樹を確認できなかったことを
「……なるほど。隠蔽する魔法でも働いてるってことか」
「……ん。闇系統にそういう魔法はある……魂魄魔法ならもっと……あるいは空間をずらしてる?」
入間の推論に、ユエが魔法の考察をする。闇系統なら認識阻害系の魔法もあるが規模がおかしい。魂魄魔法なら魂魄に干渉して意識させないようにすることもあるいは……と考えた。しかし、違和感すら覚えさせないというのは今のユエでもまだ無理だ。
入間達は感心したような表情になる。用意されていた試練の数々は最低に嫌らしいものばかりだったが、そこはやはり解放者。ただの性悪ではないらしい。
「やっぱり、ここがゴールか」
入間の呟きに光輝達がハッとした表情をする。口々に「ここが……」とか「やっと……」などと呟いている。それらを尻目に入間は一番奥にある石版のもとへ歩いて行った。
水路で囲まれた円状の小さな島に、入間達が可愛らしいアーチを渡って降り立つ。途端、石版が輝き出し、水路に若草色の魔力が流れ込んだ。水路そのものが魔法陣となっているのだ。ホタルのような燐光がゆらゆらと立ち昇る。
いつもと同じように記憶を精査されるような感覚と、直後の知識を無理やり刻み込まれる感覚。入間達は慣れたものだが、初めてとなるチマやその他の三名ほどその衝撃と違和感に「うっ」と呻き声を上げている。
入間が、流れ込んできた知識から読み取った新たな神代魔法を口にしようとしたその時、おもむろに目の前の石版に絡みついた樹がうねり始めた。
何事かと入間達が身構える。そんな入間達を尻目に立ち昇る燐光に照らされた樹はぐねぐねと形を変えていき、やがて、その幹の真ん中に人の顔を作り始めた。ググッとせり出てきて、肩から上だけの女性とわかる容姿が出来上がっていく。
そうして完全に人型が出来上がると、その女性は閉じていた目を開ける。そして、そっと口を開いた。
「まずは、おめでとうと言わせてもらうわ。よく、数々の大迷宮とわたくしの、このリューティリス・ハルツィナの用意した試練を乗り越えたわね。あなた達に最大限の敬意を表し、ひどく辛い試練を仕掛けたことを深くお詫び致します」
どうやら樹を媒体にした記録のようだ。オスカーのような映像の代わりということだろう。どこかリリアーナのような王族に通じる気品と威厳があるように感じる。樹の幹から出来ているのではっきりとは分からないが、ストレートの髪を中分けにした美人に見える。
「しかし、これもまた必要なこと。他の大迷宮を乗り越えて来たあなた方ならば、神々と我々の関係、過去の悲劇、そして今、起きている何か……全て把握しているはずね?それ故に、揺るがぬ絆と、揺らぎ得る心というものを知って欲しかったのよ。きっと、ここまでたどり着いたあなた達なら、心の強さというものも、逆に、弱さというものも理解したと思う。それが、この先の未来で、あなた達の力になることを切に願っているわ」
神妙な顔でリューティリスの話を聞く入間達。
「あなた達が、どんな目的の為に、私の魔法──“昇華魔法”を得ようとしたのかは分からない。どう使おうとも、あなた達の自由だわ。でも。どうか力に溺れることだけはなく、そうなりそうな時は絆の標に縋りなさい。わたくしの与えた神代の魔法“昇華”は、全ての“力”を最低でも一段進化させる。与えた知識の通りに。けれど、この魔法の真価は、もっと別のところにあるわ」
入間の眼がクワっと見開かれた。どういうことだとリューティリスに視線が向けられる。昇華魔法の真価など与えられた知識の中にないが、心当たりはひとつある。
「昇華魔法は、文字通り全ての“力”を昇華させる。それは神代魔法も例外じゃない。生成魔法、重力魔法、魂魄魔法、変成魔法、空間魔法、再生魔法……これらは理の根幹に作用する強大な力。その全てが一段進化し、更に組み合わさることで神代魔法を超える魔法に至る。神の御業とも言うべき魔法──“概念魔法”に」
誰かがゴクリと生唾を飲み込んだ音がやけに大きく響いた。
入間の脳裏には、かつてミレディに言われた七つの神代魔法の深遠に触れて手に入れた魔法。それは一体、どんなものなのか……。
「概念魔法──そのままの意味よ。あらゆる概念をこの世に顕現・作用させる魔法。ただし、この魔法は全ての神代魔法を手に入れたとしても容易に修得することは出来ないわ。なぜなら、概念魔法は理論ではなく極限の意志によって生み出されるものだから」
それが魔法陣による知識転写が出来なかった理由。
入間は説明を聞いて眉をしかめる。“極限の意志”……何て、ふわっとした説明なんだ、と。
「わたくし達、解放者のメンバーでも七人掛りで何十年かけても、たった三つの概念魔法しか生み出すことが出来なかったわ。もっとも、わたくし達にはそれで十分ではあったのだけれど……。その内の一つをあなた達に」
リューティリスがそう言った直後、石版の中央がスライドし奥から二つの懐中時計のようなものが出てきた。
一つはもう見慣れている、昭和ライダーの力を宿したライドウォッチだが、入間の視線が集まったのはもう一つの懐中時計だった。
表に半透明の蓋の中に同じ長さの針が一本中央に固定されており、裏側にはリューティリス・ハルツィナの紋様が描かれていた。どうやら攻略の証も兼ねているようだ。
入間はその懐中時計を手に取り、手中のそれをしげしげと見つめているとリューティリスが説明を再開した。
「名を“導越の羅針盤”──込められた概念は“望んだ場所を指し示す”よ。どこでも、何にでも、望めばその場所へと導いてくれるわ。それが隠されたものでもあっても、あるいは──別の世界であっても」
きっと、リューティリスの言っている“別の世界”とは神のいる世界のことだろう。極限の意志のみによって概念魔法が生み出されるというのなら、解放者達の意志など決まっている。それは当然、神を倒すことだ。
ならば、この羅針盤は神のいる場所を探し出すために作り出されたのだろう。もしくは、解放者の中で唯一の異世界からの来訪者である村雨良を元の世界に送るため、再開のためか…それをミレディに聞くのは、あまりにも野暮だろう。
それは兎も角として、オスカー辺りが概念魔法を生成魔法で付与した材料を使って、この羅針盤を作成したに違いない。
「全ての神代魔法を手に入れ、そこに確かな意志があるのなら、あなた達はどこにでも行ける。自由な意志のもと、あなた達の進む未来に幸多からんことを祈っているわ」
伝えることは最低限伝えたということか、リューティリスはそれを最後の言葉に再び樹の中へと戻っていき、後には唯の石版に絡みついた樹だけが残った。
余韻に浸っているような、あるいは、今起きた出来事を咀嚼しているかのような沈黙が場を満たす。そよそよと吹く風が起こす葉擦れの音だけが辺りに響いていた。
昇華魔法の詳細を確認しつつ、もう一つの懐中時計──ライドウォッチを手に取る入間。ハルツィナにあったのは、深緑色で「1974」と書かれている【仮面ライダーアマゾン】のライドウォッチだ。
「ッ!」
その時、入間の持つライドウォッチの一つが光を放ち、入間はそれを取り出した。
取り出したブランクウォッチが、光を放ちながら真っ黒なウォッチ──“ブラックライドウォッチ”に変化し、入間がそれをしげしげと眺めていると、後ろから光輝が声を掛けてきた。
「な、なぁ、鈴木。さっきの話……その概念魔法が使えるようになれば……」
「そうだね。帰れるだろうね。行き先はこの羅針盤が教えてくれる」
「そう……か……」
光輝が希望を見たような表情になる。それは、愛子や優花、鈴や雫も同じだった。
一様に、どこか泣きそうな表情で今にも爆発しそうな感情をグッと堪えている。おそらく、まだ完全に手に入ったわけではいことと、全ての神代魔法を手に入れられる可能性が高いのは今のところ入間しかいないために遠慮があるのだろう。
「あ、あの、鈴木君は、その、帰るとき……えっと……」
鈴が、どこか遠慮がちに入間に何かを尋ねようとする。
その先は言わなくても察することが出来た。入間と自分達クラスメイトの間にある溝を思い出して不安になったのだろう。帰還方法を手に入れたあと、入間達だけでさっさと帰ってしまうのではないかと。しかし、ストレートに聞くには完全な他力本願なため遠慮が出てしまうのだ。
「──生憎、そこに行くつもりはないよ。僕には僕の世界がある」
「え?それってどういう……」
「君達を送り返すかどうかは、君達次第だってことだよ」
「ッ!そう、なんだ……」
入間の答えは、あまりにも曖昧なものだった。
帰してやらない訳ではない。だが、それをするのかどうかは、これからの光輝達の行動次第ということだ。
最初から光輝達とは違う世界で生きてきた入間には、本来なら赤の他人でしかない光輝達を地球に送り返してやるような義理はない。だが、愛子や優花、地球組にも多少なりとも入間が心を開いている者がいるのも事実であった。だからこそ、送り返してやる事に、明確に拒否はしなかった。
「それより、やけに自信なさげにそんなことを聞いて来るってことは……二人とも、ダメだったね?」
「「うっ!?」」
光輝と鈴が胸を抑えて項垂れる。
昇華魔法があれば、全ての能力のレベルを最低でも一段上げることが出来るのだ。もちろん、そこは神代魔法なので昇華させること自体に莫大な魔力は必要だし、言ってみれば副作用なしの限界突破みたいなものなので時間制限もあるだろうが……それでも、一般の【オルクス大迷宮】くらいは歯牙にもかけず攻略できるだろう。その下層にある本当の大迷宮も、いいところまでは普通に行けるはずだ。
それでも自信なさげなのは、つまり、昇華魔法を得られなかったということだ。もっとも、それは予想できたことでもある。あれだけ試練で失敗続きだったのだ。攻略できたと考える方がどうかしている。
だが、そんな項垂れる光輝と鈴を心配そうな、また、どこか気まずげな様子でオロオロとフォローしようとしている人物がいる。
「畑山先生と園部さん。それから八重樫さんは攻略を認められたみたいだね」
「は、はい。一応、認められたみたいです……」
「……えっと、ええ、使えるみたい」
「何か変な感じだけどね……」
「ほ、ほんとか!」
「流石、シズシズ!鈴の嫁!」
これもまた予想できたことだ。戦闘はともかく、理想世界は乗り越えられなかった雫も快楽地獄と感情反転は自力で乗り切ったのだ。戦闘能力は足りなくても、精神力は十分に神代魔法を得るに値するものだった。
その事実を純粋に喜ぶ鈴と、笑顔で称賛しながら、どこか表情に影を落とす光輝。
愛子と雫は、そんな光輝を心配そうにチラチラと見ている。
その時、入間はある気配を関知して、一瞬にしてトリガーマグナムを装備すると、光弾をある地点に向けて発射した。
起動を自在に変えながら飛ぶ光弾を、光輝達が驚いたように目でおっていき、とある木に迫った所で、緑色の衝撃波が、その光弾を弾き飛ばした。
誰もが目を見開いてその光景を眺めていると、入間が光弾を放った木の影から、一人の影が現れた。
「流石は魔王。完璧に気配を消していた筈が……」
「ッ!お前は……」
「何故、ここに……!?」
そこにいたのは、白を基調とした服を着た青年だった。それを見たアメリとチマが目を見開く。何故ならその男は、アメリにとって因縁深い相手であり、チマに力を渡した張本人なのだから。
その青年──【白ウォズ】は、とあるアナザーウォッチを取り出し、それを起動した。
「この本によれば……救世主は最低最悪の魔王を打ち倒し、未来永劫に渡って人々の上に君臨するとある。真の救世主である…この私がね…!」
そう言いながら、白ウォズはなんと、そのアナザーウォッチを飲み込んだ。
ゴクリ、とウォッチを飲み込むと、黒い光が白ウォズを包み込み、不気味な光と共に、その怪物は姿を現した。
仮面ライダーゼインを歪めたような姿に、全身がボロボロの鎧を纏ったような体。
顔の表情はまるで無理矢理笑顔にされているような造形で、青い複眼には瞳が閉じたような線が存在するが、その奥には涙を流しているような瞳が見える。
背中にはボロボロのマントを羽織り、右太腿に『ZEIN』のライダー名が、左太腿に『2022』の年号がそれぞれ刻まれている。
「アナザーゼインだと……白ウォズ、貴様何故そんなウォッチを!?」
その怪物──【アナザーゼイン】の姿を目にし、アメリは鋭く目を光らせながら拳を構えた。
アナザーゼイン──白ウォズは、アメリにとって因縁の深い相手だ。
まだアメリが入間と出会って日が浅かった頃、アメリの前に現れた白ウォズは、アメリにジクウドライバーとブランクウォッチを渡し、ある存在を倒せと唆した。その存在こそが、当時目立ちなくない精神のためジオウであることを隠していた入間であった。
ジオウがいずれオーマジオウになり世界を滅ぼすことを知らされたアメリは仮面ライダーゲイツとなり、幾度となく入間と相対し続けた。
その後、とある事件でアメリが乙女のような性格になってしまった事件の際にお互いの正体を知り、紆余曲折の末に入間とアメリは和解し、白ウォズはアメリの前から姿を消した筈だった。
『とある伝から貰ったんだよ。君達の力を貰うためにね』
「何ッ?……ぐぅあぁっ!!?」
「あぁああっ!!?」
その瞬間、アナザーゼインが伸ばした手から波動を放たれると、アメリとチマから光が溢れだし、アナザーゼインの手に吸い込まれた。
『昇華魔法を手にした君達の力、貰おうじゃないか……ッ!?』
その時、アナザーゼインの背中に何本もの矢が突き刺さり、そこから稲妻の龍がアナザーゼインを襲う。その怒涛の攻撃に、流石のアナザーゼインも後退し、エネルギーの吸収を中断した。
顔を上げると、そこには入間達が、アメリとチマの下へ駆けつけている光景だった。
「アメリさん!チマちゃん!大丈夫ですか!?」
「あ、あぁ……問題ない……」
「でも……なんか力が弱まってる気が……」
フラフラと起き上がるアメリとチマ。それを見て、アナザーゼインは呆れたような口調で喋り出す。
『やれやれ……。魔王、邪魔をしないで貰おうか。アザゼル・アメリとクロケル・チマに渡した力…今こそ返上して貰う時だ』
「貴方が、チマちゃんに力を……!?」
『そう。私が救世主と認めたアザゼル・アメリは、魔王を倒し世界を救う道を放棄した。だからこそ、私は未来のライダーの力を彼女に渡してこのトータスに送り込んだんだ。昇華魔法によって更なる力を得た二人の力を手に入れ、私こそが真の救世主となるためね』
チマがこの世界に来た経緯が、白ウォズの策略であった事を知った面々は目を見開く。
確かに、チマは入間の後輩であるから、入間達と合流すれば彼女を同行させるのは確実であり、白ウォズはそれすら見越していたのだろう。
それを聞いて、アメリは歯を食い縛りながら立ち上がり、アナザーゼインを睨み付けた。
「私を騙してイルマを襲わせた挙げ句、クロケルまで利用するとは、相変わらず不快な奴だな……」
『違うね。君達は、この救世主の伝説のための偉大なる肥やしとなったんだ。最低最悪の魔王、鈴木入間を消すためにね』
アナザーゼインの言葉に、アメリは目を吊り上げ、目の前に立つ怪物を見据えながら口を開く。
「ふざけるな!私もクロケルも、貴様の下劣な欲望の為に戦っていたのではない。お前が、私達の歴史をねじ曲げて利用すると言うのなら……私達がお前を倒す!」
アメリの言葉に同意するように、入間、ユエ、シア、ミレディ、ティオ、アスモデウス、クララ、愛子、優花がアメリの横に立ち並んだ。
「皆……行くぞ!」
アメリは仲間達に声をかけながらジクウドライバーを取り出して装着し、入間達も頷きながらベルトを装着すると、入間達は変身の構えを取った。
「「「「「「「「「「「変身ッ!!」」」」」」」」」」」
仮面ライダーの姿に変身すると、各々の武器を構える入間達。それを見て、アナザーゼインは右手を掲げた。
『面白い。相手をしてあげようじゃないか』
その瞬間、アナザーゼインの手から無数の光が溢れだし、その光が無数のカッシーンとなった。カッシーン達は、槍を手にして一斉に走り出した。
同時にジオウ達も走りだし、武器を手にして戦闘を開始する。
「くッ!俺だって……ぐぁっ!?」
「光輝!!」
「はぁ……。園部さん、天之河くんの方を任せてもいい?」
「わ、わかった!」
自身も参戦しようと聖賢を手にする光輝だが、既にこれまでの迷宮攻略で体力も魔力も消耗している光輝が相手になる筈もなく、槍の一撃で火花を散らす光輝を見たジオウはエターナルに指示を出した。エターナルは直ぐ様踵を返し、カッシーンを相手にし始めた。
すると、ある程度カッシーンを撃破した龍騎が、アドベントカードをドラグバイザーに装填した。
龍騎の手にドラグクローが装着され、そこから放たれた灼熱の炎が、カッシーンを燃やしながらアナザーゼインに迫る。
その瞬間、アナザーゼインの胸に【十面鬼 ユム・キミル】の顔が浮かび上がり一瞬にして消えたかと思うと、その顔が消え、アナザーゼインは右手に禍々しい色の炎を発生させた。
『龍騎返し!』
「何ッ!?ぬぉおおっ!!?」
放たれた炎が龍騎の炎とぶつかり合い、爆発を起こす。
爆発の余波で、他のカッシーンも吹き飛ばされるが、同時に余波の影響を強く受けた龍騎は地面を転がった。
「ゼインなら、私が!」
それを見たゼインが、アナザーライダーの特性からアナザーゼインを倒せるのは自分しかいないと、ゼインカードを裁断する。
ゼインの手にドレイクゼクターが装着された“ドレイクグリップ”が出現すると、ゼインはドレイクゼクターのゼクターウィングを折り畳んでヒッチスロットルを引き、銃口にタキオン粒子を収束させる。
「ライダーシューティング!!」
シューティングモードとなったドレイクゼクターから、青い光弾が発射され、アナザーゼインへと迫る。それに対し、アナザーゼインは余裕の態度だった。
『畑山愛子、確かに君もゼインを持っている。しかし、変身者の差が、そのまま強さの違いとなる』
その言葉と共に、アナザーゼインの胸に【デェムシュ】の顔が浮かび、“シュイム”という剣を手にしたアナザーゼインは肩から電撃を発生させてゼインの放った光弾を打ち消すと、そのままゼインへと接近し、シュイムを振り下ろした。
「きゃあああああっ!!?」
火花を散らしながら吹き飛ばされたゼインは、ドレイクゼクターを落としながら地面を転がる。
すると、アナザーゼインの胸に【ホースオルフェノク】の顔が浮かび上がり、アナザーゼインの下半身が馬の胴体と言う、さながらケンタウロスのような姿に変化し、剣を装備する。
『はぁっ!!』
「ぬぅっ!?」
「わ~~~~っ!!?」
時速360kmの速度で走り出したアナザーゼインは、素早い動きで剣を振るい、すれ違い様に剣撃を受けたウォズとツクヨミは火花を散らして地面を転がった。
アナザーゼインの下半身が元に戻ると、その背後からガシャコンブレイカーⅡを振りかぶるエグゼイドと、ガンガンセイバーを手にするゴーストが飛び掛かってきた。
『無駄だよ……ハァッ!!』
「「うぁあああっ!!?」」
胸に【バットファンガイア】の顔を浮かび上がらせたアナザーゼインは、全身から赤黒い波動を放ち、エグゼイドとゴーストは吹き飛ばされてしまう。
すると、ジオウ、ウィザード、シノビが、剣を手にしてアナザーゼインに襲い掛かってくる姿を目にしたアナザーゼインは胸に【ナスカ・ドーパント】の顔を浮かび上がらせ、超高速で三人の体を切りつけた。
「うぁっ!?」
「んっ!?」
「あぐぅっ!?」
ジオウ達が地面を転がると、アナザーゼインは【アランブラバグスター】の顔が浮かび上がり、アナザーゼインは手を掲げた。
『伝説の魔法を味合わせて上げよう……“クダケチール”!!』
上空に炎・氷・雷を纏う赤・青・黄色の魔法陣が出現し、ジオウ、ウィザード、シノビ、エグゼイド、の頭の上から叩き付けられ、大爆発を起こした。
「あぐっ!?」
「鈴木ッ!」
『魔王とその臣下達。君達も、この救世主の前に消えるべき存在だ』
地面に倒れたジオウを見てエターナルが悲鳴のような声を上げる中、アナザーゼインはゆっくりとジオウ達に歩み寄ろうとする。
「貴様ッ!」
『おっと!』
ゲイツリバイブが、ジカンジャックローを手にアナザーゼインに殴りかかる。しかし、アナザーゼインは一撃一撃を的確に受け流していくと、胸に【ギガモデス】の顔が浮かび、尻から赤く巨大な尾を出現させた。
『はぁっ!!』
「あぐぅっ!!!?」
強烈な一撃が振り下ろされ、ゲイツリバイブは地面を転がりながら通常形態へと戻った。
起き上がろうとするが、大迷宮攻略後の疲労も合間ってうまく起き上がれないゲイツに、アナザーゼインはゆっくりと歩み寄る。
『この真の救世主の力の前に、ひれ伏すが良い……!』
その言葉と共に、アナザーゼインは両手から禍々しいエネルギー波を放ち、その波動がゲイツへと迫る。
「アメリさんッ!!!」
倒れたジオウが、ゲイツに向けて必死に手を伸ばそうとするが、ジオウもかなりのダメージを負ってしまい、思うように動けない。
そして、アナザーゼインの光線がゲイツに炸裂する、その時だった。
四色の光線が、アナザーゼインの光線を打ち消した。
『何ッ!?』
驚愕したアナザーゼインは、その光線が飛んできた方角に目を向け、ゲイツやジオウ達もそこに目を向けると、そこには、あまりにも見慣れた存在が立っていた。
「ゼ、ゼイン!?」
『バカな……!?何故、ゼインが二人も……!?』
白い鎧と仮面を身に付け、青い複眼をしたその戦士は──仮面ライダーゼイン。その手に握られているのは、剣と盾が一体化した武器“プリズムビッカー”。
ゼインは、プリズムビッカーからプリズムソードを抜刀すると、チラリとジオウに顔を向け、口を開いた。
「早い再会ですね、入間君。ですが今は、この不愉快きわまりない悪意を滅ぼすとしましょう」
そう言いながら、
次回予告
アナザーゼイン『ゼイン対ゼインといこうじゃないか』
ジオウ「これは意外なタッグだね」
ゲイツとゼインの共闘!
ゼイン(正義)「私からの贈り物です」
アメリ、更なる高みへ!
ウォズ「祝いたくはないが……!祝え!大いなる野望のその胸に抱き、絶望の未来に光を照らす至高の救世主、その名も仮面ライダーゲイツアンビション!!」
ゲイツ「これが新しい力……!」
第101話「2019:グッドウィル・アンビション」
今回最後に登場したゼインは、以前コラボをさせていただいたikkunさんの作品に登場する仮面ライダーゼインこと善井正義くんです。
ikkunさん、再びコラボをさせていただいてありがとうございます。
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