今回のサブタイトルの元ネタは仮面ライダーゼロワン第41話の『ナンジ、隣人の手をとれ!』からです。
因みに、作者が最近ハマっている漫画は『キン肉マン』です。なので、少しだけ今回の話に影響が出ています。
早朝特有の静謐が満たすフェアベルゲンの森の奥。
その凪いだ水面のような静けさに波紋をもたらすように、小鳥のさえずりが少しずつ大きくなっていく。葉擦れの音と相まって優しい音楽のようだ。
しかし、そんなフェアベルゲンの一角──余り人目につかなさそうな目立たない場所では、その二音の他にも音が響いていた。
「疾っ!ふっ!はっ!」
空気を裂く鋭い音と、それに同調した短い呼気。それらの音が響く度に、薄く掛かった朝霧を散らすように黒線が宙を奔る。それは、淀みなく、水が高きから低きへと流れる自然さを以て振るわれる音叉剣の軌跡。
その使い手の動きも極めて洗練されていて、翻る特徴的な黒髪と合わさると、まるで神に捧げる神楽舞の如き神秘性すら感じられた。
円を描くように木の葉舞い落ちる森の中で踊る刀と黒髪。彼女の作り出した剣界に入った木の葉が四散し、玉の汗が飛び散る。
一体、何時間そうやって踊り続けていたのか。彼女――雫の足元には、すり足が地面に刻んだ幾条もの円と細切れになった木の葉の残骸が無数に散らばっていた。
しかし、その有様に反して、雫の体幹は疲れ知らずとでも言うように僅かなブレも生じていない。一本芯を通したような美しい姿勢で、ただひたすら無心となって刀を振るう。
「──っ」
が、このまま永遠に踊り続けるのではと思われた雫の演舞に、突如、乱れが生じた。剣筋がぶれて斬られるはずだった木の葉をすり抜ける。くるりくるりと地面に落ちる木の葉と同じく、雫も円運動の遠心力に弄ばれてくるりくるりとバランスを崩した。
辛うじて転倒するという無様だけは避けられた雫だが、たたらを踏んで音叉剣の鞘を支えにする己の姿には剣士として苦い顔をせざるを得ない。
「はぁはぁ、あぁ、もうっ!!」
苛立たしげに頭振る雫。トレードマークの黒髪ポニーテールが、その心情を表すように右に左にと盛大に荒ぶる。
「何を迷ってるの?」
「っ!?にゃに!?」
物凄く聞き覚えのある声がすぐ真後ろから響いてきたことにより雫の心臓が跳ねた。ついでに口調も激しく乱れた。「いつも通りじゃなかったのか?」とツッコミを入れる者はいない。雫は「まさか」と思いつつバッと声のもとへ振り返った。
そこには想像通りの人物──入間が立っていた。雫の鍛錬を邪魔しないためか、気配を殺して接近したようだ。
「す、鈴木くん。脅かさないでよ。いきなり背後に立つなんて悪趣味よ」
「あぁ、邪魔しちゃ悪いと思ったんだけど……それはゴメン」
バクバクと脈打つ心臓を治めながら、雫は咎めるように目を細めた。
入間は軽く謝罪しながら【宝物庫】からタオルを取り出し投げ渡した。それを危なげなく受け取った雫は、今更ながらに自分が汗だくという事実に気が付き、妙な気恥ずかしさを感じて慌てたように拭い出した。
「特に用があったわけじゃないよ。目が覚めたからね。鍛錬でもと思って適当な場所を探してたら君の気配がしたんで見に来たんだよ。……その様子だと、相当前からやってたみたいだな。昨日の今日でよくやるねぇ」
「い、いつもじゃないわよ。その何だか眠れなくて……」
「……まぁ、初の大迷宮攻略だったからね。気持ちが高ぶってもしょうがないか」
「ま、まぁね」
そう言葉を交えたあと、入間は木の幹に背中を預けると、全てを見透かすような目で雫を見据える。その視線を向けられ、雫はドキッと心臓を跳ねさせる。
「……それで、君はどうする気?」
「ど、どうするって、何が?」
「白崎香織の事だよ」
「っ!!」
剣筋を乱された原因である事を指摘され、雫の表情が僅かに歪む。
「君に頼まれた通り、迷宮攻略で
「……ッ!」
その言葉に、雫は息を呑んだ。
バダンとの決着。つまり、入間達は必然的に、バダンに与している香織とも決着を着けるということであり、決戦が近いということを改めて突き付けられて表情を強ばらせる雫に、入間は淡々とした口調で問い掛けた。
「君の選択肢は二つだけ……幼馴染みを捨てて帰還をとるか、覚悟を決めて親友に刃を向けるか……どうする?」
入間から与えられた選択肢に、雫は直ぐに答えることは出来なかった。
いや、幼馴染みを捨てて地球に帰還するなんて選択肢を取ることは絶対にしない。だが、もう一つの選択肢──香織と戦わなければならないという現実に、雫はかつてない程の恐怖を感じていた。
入間達バビルは香織を助けるつもりが一切無いのだと理解している雫は、自分が親友を助けなければならないと前々から覚悟を決めていたつもりだが……改めてその現実を突き付けられると、唯一無二の親友を自分の手で傷付けてしまうのかもしれないという恐怖によって、体を僅かに震わせる。
「……まぁ、出発まで時間があるし、答えは急かさないよ。出発の答え次第で、戦いに連れていくかどうかを決める」
そう言いながら、入間は踵を返して歩き出す。
「ま、待って!」
思わず声をあげた雫に呼び止められ、入間は足を止めて視線を向ける。雫はその目にビクッと体を震わせるが、何とか臆さずに入間に問い掛けた。
「どうして、そんな質問をするの?貴方は、私達の事が嫌い、なのよね……」
「まぁ、君の事を好意的に思っていないのは事実だけど……だからと言って憎んでいる訳じゃないよ。例え赤の他人でしかなくても、出来る範囲では手を貸して上げるくらいの良心くらいは僕にもある。けどまぁ、理由があるとすれば……」
そう言いながら、入間は空を見上げる。
「……僕にも、敵になっちゃった友人がいたからだね」
「えっ?」
雫は目を丸くして入間を見る。普段の冷たい色も、敵意にギラついている光もない、真っ直ぐな瞳。その表情は何処か悲しそうでありながら、とても強い意思を宿した瑠璃色の瞳に、雫は吸い込まれるような感覚を覚えた。
入間は、近くにあった木に背中を預けながら、口を開く。
「僕はあの人の事を信じてたよ。でも、僕はあの人の本性を分かっていなかった。でも、あの人と過ごした時間は嘘じゃないって思ってたから、ずっと彼を信じて待ってた……でも、気付いた頃にはもう、手も届かない程に遠くに行っちゃってたよ」
入間の脳裏に映るのは、緑色の髪をした、悪魔の背中。
「じゃあ、鈴木君はその人とも戦えるの……?」
「戦うよ。僕は皆が傷付くのも嫌だし、
その言葉に、雫はとても眩しいものを見るように、入間から視線を逸らせなかった。しかし、同時に心の中にある何かを突き刺されたような感覚を覚え、俯いてしまう。
そんな雫に、入間は瑠璃色の目を向けて話し掛けた。
「君が親友に刃を向けようと、僕は止めないし強要もしない。けど……君に必要なのは、“神代魔法”でも“力”でもない。もっと根本的で、もっと大切なものなんだと思うよ」
「それって、なんなの……?」
「……その程度の答え、自分で考えなよ」
すがるような目を向ける雫に冷たく言い放ちながら、入間は今度こそ踵を返し、歩き出していった。
雫はその背中を見つめながら入間の言葉を思い返し、“もっと大切なもの”を必死に考えるが──答えを出すことは出来なかった。
翌日の昼。
フェアベルゲンにて入間達が宿泊している建物内で、ドタンッバタンッと騒がしい音が響いてきた。更には「うりゃぁあああ!」という聞き覚えのある声や、「いやぁあああ!」という女性の声まで響いてくる。
簡単に説明すると、入間に甲斐甲斐しく世話を焼こうとしたアルテナに、同じ亜人族としてシアがにこやかに、それはもうにこやかに断りを入れたのだが、やたらシアに張り合おうとするアルテナは諦めず、結果、ついシアのコブラツイストが炸裂してしまったらしい。
森人族の長老の孫娘──紛う事なきお姫様に入間から戯れに教わったプロレス技をかけてしまったシア。従来なら兎人族の少女が亜人族の中でも賢人として地位の高い森人族の姫に暴力を振るうなど考えられないことだ。直ぐに「処刑だっ!」となってもおかしくない。
しかし、今や兎人族はその名の前に一言つく種族だ。
すなわち、“首狩り”兎人族と。
そして救国の英雄種族であり、かつ、亜人奴隷解放の英雄一族でもある。しかも、シアはその長であるカムの娘。その為、誰もがオロオロとして手を出せずにいた。
技を解かれ「おとといきやがれですぅ!!」と吐き捨てるシアに、生まれて初めてそんな粗雑で乱暴で遠慮容赦ない扱いを受けたアルテナは崩れ落ちたまま放心してしまった。シアはそんなアルテナの様子を見て、これで箱入りお姫様も入間に近づかないだろうと思ったのだが……
「オラオラオラオラッ!止めて欲しかったら、入間さんに色目を使わないと誓いやがれですぅ!!」
「やぁあああああ!!恥ずかしいのぉおおおお!!」
どうやらアルテナはめげなかったらしく、引き続き入間に纏わり付いてはシアにプロレス技を掛けられていた。
現在、逆さになったアルテナはシアの肩に乗せられ、その見事な脚線を思いっきり左右に広げる某正義超人の代名詞とも呼べる技──キン肉バスターを掛けられている。
逆さまのまま持ち上げられて股間を晒すアルテナ。清純そうな容貌に反して下着は意外にもアダルトだった。
「ふむ。純情そうな見た目の割に、中々挑発的な下着じゃな」
「……ん。大人しそうな見た目をした女は大体本性はエロい」
「入間君の世界には、“隔世遺伝”って言葉があるらしいけど……本当だったね」
ちなみに、この食堂には入間達の他、食堂の従業員とアルテナ付きと思しき侍女が複数名いる。バビル以外は皆オロオロしていた。
「これ大丈夫ですか?あの人、一応、お姫様なんじゃ……」
「一応もなにも正真正銘の姫君だ。でもほら、あの表情を見てみろ……」
「……あれ~~?何だかアルリン、楽しそう?」
見れば、確かに顔は真っ赤に染まり、目の端には光るものが溜まりに溜まっているのだが、アルテナの表情からはどこか楽しげな雰囲気を感じ取れてしまうのだ。
お姫様が有り得ない辱めを受ければあっさり相手の要求に頷きそうなものだが……未だに従おうとしないのが満更でもないという内心を示している、ような気がしないでもない。
「チッ、強情なっ。ならこれでどうですっ!!」
「こ、今度は何を……や、やめてぇ~~、はしたない格好をさせないでぇ~~」
入間にこれ以上近づかないという言葉を言おうとしないアルテナに痺れを切らしたシアは、キン肉バスターの投げは行わず地面に降ろすと、今度はアルテナの右手を左手で、右手でアルテナの右足を掴み、左足で左足を封じ、右足をアルテナの頭にかける。まるで、Kのように極めていく関節技──亡羊捕牢固めを御見舞いした。
スカートが捲くり上げられて、やはり盛大に見せてはいけない部分があらわになったアルテナは普段のお淑やかな口調も崩して止めるよう懇願する。だが、その言葉はどこか棒読みで、何よりその表情が「えへへ~」というように緩んでいるのものだから全く説得力がなかった。
体勢的にシアからはアルテナの表情が見えないので、シア自身はアルテナを懲らしめていると信じているようだが、既にその場の誰もが「この娘、喜んでるよね?絶対、痛めつけられて喜んじゃってるよね?」と困惑と引き気味の表情で距離をとっていた。
「これ、もしかしなくても……」
「そうですね、愛ちゃん先生。……ティオが仲間を見つけたって顔してるけど……違うと思いたいですよ」
頬をひきつらせる愛子の隣で、優花が可哀想なものを見る眼差しになっている。
事実、稀代の変態であるティオが、かつて見たことがないほど慈愛に満ちた眼差しをアルテナに送っており、それはまるで師匠が弟子の成長を見守るような、同胞の喜びに共感しているような、そんな表情だった。
向かいの席に座っている入間とユエが物凄く嫌そうな表情になっている。
と、いい加減、そんな光景に嫌気が差したのか、ギリギリとアルテナの関節にダメージを与えるシアに向かって入間が口を開いた。
「シア、その辺にしときなよ」
「いえ、入間さん。私は止めませんよっ!!ただでさえライバルが続々と増えていますのに、この上、森人族のお姫様なんて断固拒否ですっ!!しかも何だかこの人、私を妙に意識してますしっ!!先手必勝ですぅ!!」
逆エビ固めに移行したシアは、どうやらライバルの芽をここで摘むつもりらしい。再び恥ずかしい場所を曝け出しながら、やはりどこか嬉しげで切なげな悲鳴を上げるアルテナ。その姿に深窓の姫という面影は皆無だった。侍女や従業員達が、半ばエクトプラズムを吐きながら現実逃避している。
昼食に出された野菜たっぷりのスープに浸した固めのパンを口に入れながら、アルテナのまさかの痴態とイラっとくるほど分かったような表情を浮かべるティオに視線を向けた入間は、仕方ないというように溜息を吐くとおもむろに席を立った。
そして、食堂中の視線を集めながら「うらぁーー!!」とアルテナの足を抱えるシアに近づきグイッとその腕を引っ張る。
思いがけず引き寄せられたシアは、そのままポスッと入間の腕の中に収まった。キョトンとした表情で「ふぇ?」と間の抜けた声を出すシアと「あっ!」と声を上げる愛子と雫。
入間はそれらの一切を無視して、腕の中で目を白黒させているシアのウサミミにそっと言葉を落とした。
「シア、ユエ達は君のライバルなの?」
「え?ユエさん達ですか?いえ、ライバルだなんて、皆さんは特別ですよ……あの」
戸惑うシアを殊更強く抱きしめながら、入間は言い聞かせるようにシアに語りかけた。
「なら、もう君にライバルなんて存在しない。君がユエ達の事を特別だというように、僕も
「い、入間さん……」
不意に囁かれた〝特別〟という言葉に、シアだけでなく、流れ弾を食らったアメリやミレディ、ティオ、チマですら一瞬で真っ赤に染まりきった。
入間の言葉を要約すると、ユエが“特別”であり他の誰も同列には成り得ないことは不変であるだろうが、それでも、入間にとって自分が、そんなユエに限りなく近い存在になっているということだ。
それを、特別なシチュエーションでもなく、まさか真昼の食堂でさらりと告げられるとは思わなかった。完全に不意打ちである。赤面したまま固まったシアに困ったような表情をしながら、同じく硬直しているユエ以外のメンバーを尻目に、入間はシアの再起動を試みた。
「それとね、シア。アルテナに関しては、僕じゃなくて、むしろ君にちょっかいを掛けているんだと思うよ?」
「ほぇ?な、なんです?え?私?」
ポンポンとあやすように背中を優しく叩かれたシアは、少々混乱しつつもどうにか返事をする。そして、入間の視線を辿ってアルテナに不思議そうな眼差しを向けた。
突然発生した桃色空間に頬を赤らめながら両手で顔を覆い、しかし、その指の隙間からしっかりと覗き見るというテンプレなことをしていたアルテナは、二人の視線にビクッと体を震わせると恥ずかしげにそわそわし始めた。
「えっと、私にちょっかいって……やっぱり入間さんのことで気に食わないってことじゃ」
「ち、違いますわ!シアさんのことを悪くなんて思っていません!ただ、わたくしはシアさんに遠慮なくああいうことをして頂きたいだけですわっ!!」
「え……」
シアがドン引きする。
入間にすがり付くように後退った。
“ああいうこと”とは紛れもなくプロレス技のことだ。恥ずかしい関節技を掛けられたいなんて……と、シアは思わず身近な変態に視線を向ける。
アルテナの言葉に「ほぅ」と感心したような表情を浮かべていたティオだが、シアの視線に気が付くと実にいい笑顔でこれ以上ないくらい力強いサムズアップを決めてくれた。
言外に伝わる新たな変態の存在。まさか目覚めさせてしまったのかと、シアは戦慄の表情を浮かべながらアルテナに視線を向けてポツリと呟いた。
「へ、変態……」
「ち、違いますわっ!!シアさんは誤解しています!わたくしは、ただシアさんと仲良くしたいだけです!」
「わ、私と、ですか?」
戦々恐々とした表情で尋ね返すシアに、アルテナはもじもじとしながら心情を吐露した。
それによると、どうやらこういうことらしい。
アルテナはフェアベルゲンのお姫様である。亜人族の中でも地位の高い森人族の長老の孫娘であり、同族の間でも高貴な存在と見られている。故に、小さい時から相応の扱いを受けてきた。
結果は言わずもがなだ。教育によく応えたアルテナは、聡明で心優しい少女に育ち多くの同族達から慕われたが、同時にどこまでも特別扱いだった。同年代の少年少女と同じ時間を過ごしても、常に優先され敬われる。遠慮のない対等な関係というものは皆無だった。
アルテナの周囲は心優しい人々で溢れている。故に、寂しいと感じたことはない。だが、憧れはあった。それこそ言いたいことを遠慮なしに言い合えるような“友達”、もっと言えば“親友”のような存在に。
入間に惹かれたのも、亜人族として蔑むでもなく、アルテナの地位や美貌に反応するでもなくごく自然であったことが大きな要因だったのだろう。そんな入間に、当然のように寄り添うシアが羨ましかったのも事実だ。
だが、妙に意地になってシアに張り合った結果、アルテナは衝撃を受けることになる。それは物理的な関節への衝撃であり、それを元にした精神的衝撃だった。同い年の兎人族の少女はアルテナに対して全く容赦がなかった。全力で感情をあらわにし、それを言葉と物理でぶつけてきた。本当に衝撃的で、思わず放心し、直後、胸の内に嬉しさがこみ上げた。
そして、思ったのだ。同年代、同族のこの少女との気が置けない関係──親友というものになれたら、どれだけ素晴らしいだろうと。
「その、お恥ずかしながら、わたくし、友人というものをどうやって作ったらいいのかわからなくて……シアさんは、入間さんに近づくと構って下さるから、つい……」
「いや、構って貰えるって犬じゃないんですから。普通に言ってくれれば……」
「い、犬……わたくしを犬扱い……」
「え……そこに反応するんですか?」
犬扱いされて妙に嬉しげに頬を染めるアルテナに、シアが「やっぱり……」という表情になる。それに慌てて居住まいを正したアルテナは、もじもじしながら立ち上がるとシアにそっと手を差し出した。
「そ、それでは、その、お友達になって欲しいと言えば、応えて下さいますか?」
「……なんだか、告白でもされているみたいでむず痒いですが……友達になりたいと言われて断る理由はないです」
シアは、「お騒がせなお姫様だなぁ」と呆れたような表情をしながらアルテナの手を取り握手をかわした。それに嬉しそうに微笑むアルテナ。意外な展開ではあったが何だかいい感じに話が纏まって、皆、ほっこりした表情になる。
「?」
しかし、手を離そうとしたシアは、「おや?」という感じで首を傾げる。何故か、繋いだ手をアルテナが離そうとしないのだ。
「あの、アルテナさん?そろそろ手を……」
「わたくしのことは、どうかアルテナと呼び捨てに。わたくしもシアと呼びますわ。し、親友なら普通ですわよね?」
友達になって五秒で親友に格上げされていた。「あれ?何だかやっぱり、この娘ヤバクないですか?」とシアが冷や汗を掻き始めた時、その予感を的中させるようにアルテナが頬を染めながらシアに言った。
「そ、それで、シア。今度はどんな技を掛けて下さいますの?」
「はい?」
「とっても恥ずかしくて、痺れるように絶妙な痛さで、シアの温もりが伝わってきて……わたくし、シアの親友ですから、もっと色々な技を掛けて下さっていいのですよ? もっと、わたくし
その瞬間、シアは、アルテナの手を振りほどいてズザザザザーと壁際まで後退った。その顔にはダラダラと冷や汗が流れている。
「な、何が親友ですかっ!やっぱり唯の変態じゃないですかっ!!」
「そんな!わたくしはただ、旅立ってしまうシアと少しでも同じ時間を過ごしたいだけですっ!」
「だったら、なんで“
キョトンとするアルテナに、「ヤバイ、この娘、ガチですぅ」とウサミミを逆立てるシア。そんなシアに、入間が物凄くにこやかな表情を向けて口を開いた。
「流石、僕の女だね。苦労を分かち合ってくれるなんて感激だよ」
「前半のセリフは嬉しいですけどぉ、後半は嫌ですぅ」
変態にロックオンされる苦労を一緒に味わえという割と酷い言い草に、シアは遂に涙目となった。どうやら入間は助ける気が皆無らしい。
壁にピタリと張り付きながら距離をとるシアにアルテナが迫る。その笑顔は「さぁ、先程の続きを!」と物語っていた。
力で押さえつければ逆に喜ぶことは容易に想像できる。なので、シアは食堂の窓をバンッと音を立てて勢いよく開けると、そこから脱兎の如く逃げ出した。ほとぼりが冷めるまで行方をくらますつもりらしい。
「ああっ!シア、どこへ行くのですか!お待ちになってぇ!」
そんなシアの行動に、アルテナは自分を捨てた恋人に追い縋る女の如く、嫌に高い身体能力を発揮しながら窓から飛び出しシアを追走した。意外に速い足でシタタタタタッと駆けていく。後ろを振り向いたシアは、そんなアルテナを見て「ひぃ!?」と声を上げると規格外の身体能力を以てフェアベルゲンの町中を爆走し始めた。
あっという間に見えなくなる二人。残された食堂の面子は、入間を筆頭に一部を除いてもう何が何やらといった感じで放心している。
すると、入間の元に、複数人の影が迫ってきた。
「イ、イルマ……今の“特別”という言葉は、どう言うことなんだ?」
その質問をしたのは、頬を赤く染め、モジモジと此方を見ているアメリであった。
見ればその後ろで、同じような表情を浮かべているミレディ、ティオ、チマの姿と、慈愛に満ちた表情を浮かべているユエと、呆然としているアスモデウス、クララ、愛子、優花の姿がある。
入間はポリポリと頬を掻いた後、「そろそろハッキリさせないとね……」と呟いて人差し指を口元に持っていきながら、仲間達に一言告げた。
「……シアとアルテナさんの鬼ごっこが終わったら、シアを連れてある場所に来てくれませんか?大事なお話があるので」
そう言うと、入間はオーロラカーテンを出現させ、そそくさと食堂を後にした。
食堂では、やたら暗い表情の勇者、思いつめた表情の剣士と結界師。全身からホワホワとピンク色の空気を放つ美女・美少女達。外では、二組の激しい追いかけっこが繰り広げられている。
フェアベルゲンのお昼は、本来の静謐さとはかけ離れた何とも騒々しい様相だった。
感想、評価お待ちしております。
本作での香織の末路はどうなってほしいと思いますか?
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HAPPY END
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NORMAL END
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BAD END