「それで?そろそろ話を聞かせて貰おうか?」
ユエの逆鱗に触れたシアが犬○家にされた後、入間はライドストライカーにもたれかかり、腕を組んでガタガタと震えて地面に座り込むシアに質問する。その隣には如何にも怒ってますという顔のユエがいる。
「改めまして。私は兎人族ハウリアの長の娘、【シア・ハウリア】と言います。実は……」
シアの話を要約するとこうだ。
シア達ハウリアと名乗る兎人族達は、【ハルツィナ樹海】にて数百人規模の集落を作りひっそりと暮らしていた。
兎人族は聴覚や隠密行動に優れているものの、他の亜人族に比べればスペックは低いらしく、突出したものが無いので亜人族の中でも格下と見られる傾向が強いらしい。性格は総じて温厚で争いを嫌い、一つの集落全体を家族として扱う仲間同士の絆が深い種族だ。また総じて容姿に優れており、エルフの様な美しさとは異なった可愛らしさがあるので、帝国等に捕まり奴隷にされた時は愛玩用として人気の商品となる。
そんな兎人族の一つのハウリア族に、ある日異常な女の子が生まれた。兎人族は基本的に濃紺の髪をしているのだが、その子の髪は青みがかった白髪だったのだ。しかも、亜人族には無い筈の魔力まで有しており、直接魔力を操る術と、とある固有魔法まで使えたのだ。
当然、一族は大いに困惑した。兎人族として、いや亜人族として有り得ない子が生まれたのだ。魔物と同様の力を持っているなど、普通なら迫害の対象となるだろう。しかし、彼女が生まれたのは亜人族一家族の情が深い種族である兎人族だ。百数十人全員を一つの家族と称する種族なのだ。ハウリア族は女の子を見捨てるという選択肢を持たなかった。
しかし、樹海深部に存在する亜人族の国【フェアベルゲン】に少女の存在がバレれば間違いなく処刑される。
魔物とはそれだけ忌み嫌われており、不倶戴天の敵なのである。国の規律にも魔物を見つけ次第、出来る限り殲滅しなければならないと有り、過去にわざと魔物を逃がした人物が追放処分を受けたという記録もある。また、被差別種族という事もあり、魔法を振りかざして自分達亜人族を迫害する人間族や魔人族に対してもいい感情など持っていない。樹海に侵入した魔力を持つ他種族は、総じて即殺が暗黙の了解となっている程だ。
故に、ハウリア族は少女を隠し、十六年もの間ひっそりと育ててきた。だが、先日とうとう彼女の存在がばれてしまった。その為、ハウリア族はフェアベルゲンに捕まる前に一族ごと樹海を出たのだ。
行く宛もない彼等は、一先ず北の山脈地帯を目指す事にした。山の幸があれば生きていけるかもしれないと考えたからだ。未開地ではあるが、帝国や奴隷商に捕まり奴隷に堕とされてしまうよりはマシだ。
しかし彼等の試みは、その帝国により潰えた。樹海を出て直ぐに運悪く帝国兵に見つかってしまったのだ。巡回中だったのか訓練だったのかは分からないが、一個中隊規模と出くわしたハウリア族は南に逃げるしかなかった。
女子供を逃がす為男達が追っ手の妨害を試みるが、元々温厚で平和的な兎人族と魔法を使える訓練された帝国兵では比べるまでもない歴然とした戦力差があり、気がつけば半数以上が捕らわれてしまった。
全滅を避ける為に必死に逃げ続け、ライセン大峡谷に辿り着いた彼等は、苦肉の策として峡谷へと逃げ込んだ。流石に、魔法の使えない峡谷にまで帝国兵も追って来ないだろうし、ほとぼりが冷めていなくなるのを待とうとしたのである。魔物に襲われるのと帝国兵がいなくなるのとどちらが早いかという賭けだった。
しかし、予想に反して帝国兵は一向に撤退しようとはしなかった。小隊が峡谷の出入り口である階段状に加工された崖の入口に陣取り、兎人族が魔物に襲われ出てくるのを待つ事にしたのだ。
そうこうしている内に、案の定魔物が襲来した。もう無理だと帝国に投降しようとしたが、峡谷から逃がすものかと魔物が回り込み、ハウリア族は峡谷の奥へと逃げるしかなかった。そうやって、追い立てられる様に峡谷を逃げ惑い……
「……気がつけば、60人はいた家族も、今は40人程しかいません。このままでは全滅です。どうか助けて下さい!」
「成る程……」
最初の残念な印象とは打って変わって悲痛な表情で懇願するシア。
話を一通り聞いた入間は顎に手を当てて思案顔になる。どうやらシアは、ユエと同じこの世界の例外的な存在であり、先祖返りと言うやつなのかもしれない。
だが、それでも疑問はある。
「事情は分かった。…だとしても、何で君は仲間と離れて単独行動してたの?さっきの“見つけた”って言葉もだけど…君の固有魔法と関係があるの?」
「あ、はい。“未来視”といいまして、仮定した未来が見えます。もしこれを選択したら、その先どうなるか?みたいな……。後、危険が迫っている時は勝手に見えたりします。まぁ、見えた未来が絶対というわけではないですけど……そ、そうです!私、役に立ちますよ!“未来視”があれば危険とかも分かりやすいですし!少し前に見たんです!貴方が私達を助けてくれている姿が!
入間の質問にシアは一瞬呆けたものの、これはチャンスだと身振り手振りを加えて一生懸命話し出す。
シアの説明する“未来視”は彼女の説明通り、任意で発動する場合は仮定した選択の結果としての未来が見えるというものだ。これには莫大な魔力を消費する。一回で枯渇寸前になる程である。また、自動で発動する場合もあり、これは直接・間接を問わず、シアにとって危険と思える状況が急迫している場合に発動する。これも多大な魔力を消費するが、任意発動程ではなく三分の一程消費するらしい。
どうやらシアは、元いた場所で入間達がいる方へ行けばどうなるか?という仮定選択をし、結果自分と家族を守る入間の姿が見えた様で、入間を探す為に飛び出してきたらしい。こんな危険な場所で単独行動とは、余程興奮していたのだろう。
だが、入間が注目したのはシアの固有魔法ではない。
「
「あ、はい!貴方とその子の他に、赤くて長い髪と角を持った背の高い女性が見えたんです。けどその人がいなくておかしいなぁとは思っているのですが……」
「!?」
シアの説明を聞き、入間は驚愕に目を見開いた。赤い髪と角を持った背の高い女性など、入間が知る限り一人しかいない。
入間は顎に手を当ててしばし考えると、直ぐにシアを見据えて口を開いた。
「……分かった。手を貸して上げるよ」
「ッ!本当ですか!?」
「その代わり、僕達はハルツィナ樹海を目指している。君達の一族にはその案内をして貰いたい。いいね?」
「は、はい!!」
入間の言葉にシアは興奮して目をキラキラさせ、入間との契約内容を真面目に聞いてなさそうに承諾した。
入間達が目指す【ハルツィナ樹海】は充満する濃霧により、亜人族以外では必ず迷うと言われている。その為兎人族の案内があれば心強い。方向さえ合っていればいずれ辿り着くと思っていたが、自ら進んで案内してくれる亜人がいるならばそれに超した事はない。
「……入間、いいの?」
そんな入間に、隣に立っていたユエが質問する。この話、言ってしまえば樹海の案内以外に入間達にメリットなどない。
帝国から追われてるわ樹海から追放されているわシアは厄介の種だわ。寧ろデメリットしかないだろう。仮に峡谷から脱出できたとして、その後はどうするのだという話でもある。
峡谷を抜けても、また帝国に捕まるのが関の山、そうなればまた自分達を帝国から守りながら北の山脈まで連れていってくれとでも言って、また自分達を頼るのは明白だ。
「まぁ、契約したのは今回だけだから、その後は知らないよ。それよりも気になるのは、シアが言っていた“もう一人”だ」
「……門矢士って人が言ってた援軍かもしれないから?」
「まあね。シアの固有魔法が本物なのかは分かんないけど、シア達を助けて
「………………ん、入間が決めたことなら構わない」
「…凄い間があったね」
取り合えず納得して貰ったらしく、入間はホッとする。……何処となくユエが不機嫌そうだったが。
一方で、峡谷に於いて強力な魔物を片手間で屠れる強者との約束を取り付け、望んだ未来への分岐点を無事に進む事が出来たと確信したシアは、飛び上がらんばかりに喜びを露わにした。
「あ、ありがとうございます!うぅ~、よがっだよぉ~、ほんどによがったよぉ~」
ぐしぐしと嬉し泣きするシア。しかし、仲間の為にもグズグズしていられないと直ぐに立ち上がる。
「あ、あの、宜しくお願いします!そ、それでお二人の事は何と呼べば……」
「そう言えば名乗ってなかったね……僕は鈴木入間」
「……ユエ」
「入間さんとユエちゃんですね」
「……さんを付けろ。残念ウサギ」
「ふぇ!?」
ユエらしからぬ命令口調に戸惑うシアは、ユエの外見から年下と思っているらしく、ユエが吸血鬼族で遥に年上と知ると土下座する勢いで謝罪した。
どうもユエはシアが気に食わないらしい。何故かは分からないが……。例え、ユエの視線がシアの体の一部を憎々しげに睨んでいたとしても、理由は定かではないのだ。
「さて、善は急げ。二人も早く乗りな」
入間がユエの内心を華麗にスルーしながらライドストライカーに跨り、シアに指示を出すが、シアは少し戸惑っている様だ。無理はないだろう。なにせこの世界にバイクなんて乗り物は存在しないのだ。
取り敢えず何らかの乗り物である事は分かるので、シアは恐る恐るユエの後ろに跨る。ユエが小柄なので、十分に乗るスペースはある。シアはシートの柔らかさに驚きつつ、前方のユエにその巨乳押し付けながら捕まった。
その感触にビクッとしたユエは徐に立ち上がると、器用に入間の前に潜り込んだ。小柄なユエは問題無く入間の腕の間にすっぽりと収まる。どうやら、背中に当たるシアの巨乳の感触に耐え切れなかったらしい。苦い表情で背後の入間に体重を預けるユエに、入間は事情を察して苦笑いする。
シアは何も分かっていない様子だったが、いそいそと前方にズレると入間の腰にしがみついた。入間は背中に当たる感触に少しだけ身を固くしたが、直ぐに気を取り直してライドストライカーを作動させる。
すると、シアは入間の肩越しに疑問をぶつける。
「あ、あの。助けてもらうのに必死で、つい流してしまったのですが……この乗り物?何なのでしょう?それに、入間さんもユエさん魔法使いましたよね?ここでは使えない筈なのに……」
「それは道中でね」
そう言いながら、入間はライドストライカーを一気に加速させて出発した。
時速100キロを越える速度で爆走する乗り物にシアが入間の肩越しに「きゃぁああ~!」と悲鳴を上げた。
入間がとある悪魔が再開する時は、目前まで迫っていた。
次回、いよいよあの人の登場です。
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