鬼の戦艦。
五キロにも渡る広大な戦艦内の一室に集まった入間達は、現在行方不明となった雫と鈴の事で話をしていた。
因みに、光輝は復活させておくとまたなにか騒いでくるだろうと判断して、チマとユエが氷漬けにしている。お陰で今、操縦室は真冬みたいな寒さだが、後で氷を溶かせば問題ないだろう。
「ミッドチルダ、ですかぁ……」
シアが難しい表情で呟く。鬼の戦艦内をくまなく捜索していた彼女は、入間から明かされた雫の居場所を聞いて、何故そんな場所に雫がいるのかと頭を捻るが、当然ながら答えは出てこない。
「ふむ。勇者の坊やや優花の学友達が戻ってきたのじゃから、少なくとも鬼の戦艦、或いはトータスの何処かにいるのかと思ってはいたが……まさか異世界に飛ばされておったとはのぅ」
「…さっき、シアの父親やリリアーナの居場所を特定してみたけど、二人はちゃんと元の場所に戻ってる」
「となると、やはりあの二人だけが転移したという事か……」
雫と鈴が行方不明になったのなら、他の面々も行方不明になっているのかもしれないと考えたユエは入間の有限の魔力を消費させないために、代わりに自分が導越の羅針盤を使ってカムやリリアーナの位置を特定した。さほど距離が離れていなかった為、ユエはそこまで大きな魔力を消費することなく二人の位置の特定に成功し……カムはフェアベルゲンに、リリアーナは帝国の城に戻ってきている事を伝えた。
「そ、そんな…!八重樫さんと谷口さんが、別の異世界に……!?せめて…せめて、あの時…リリアーナさんと一緒に助けてあげられていれば……こんな事には…!!」
「あ、愛ちゃん先生!しっかりしてよッ!?まだ2人が死んだって決まったわけじゃないでしょ!!?今はどうにかして、ミッドチルダに行く方法を考えないと!!」
「でも、でも…!もし、その方法を考えている間に……私達の知らない所で、2人が亡くなってしまったら………!!」
生徒二人の失踪を耳にした愛子は、絶望に満ちた表情で頭を抱えながらその場に膝をつく。優花はそんな愛子の背中を擦って必死に宥める。
かつて、オルクス大迷宮で龍太郎達がアークゼロに敗北し、何人もの死者が出てしまった事を思い出したのだ。自分が傍にいられなかったせいで何人も生徒が死んだのだと思っている彼女にとって、自身の生徒二人がまたもや別の世界に飛ばされてしまったと聞いた途端……自分が知らない所でまた生徒が死んでしまうのではないかと、これ以上ない程の恐怖で取り乱してしまうのは必然であった。
「……ねぇ、鈴木。ミッドチルダに行ける方法って、なにか無いの………?」
優花が入間に問いかける。彼女とて、わざわざ次元の壁を超えられるのなら、彼等がこうして立ち往生してる筈がないと理解している。故に、この答えの結果は分かりきったものだ。しかし、これまで幾度もありえないことをやってのけた入間なら……と期待していた。
入間はそんな猫型ロボットに泣きつく小学生みたいな期待をされる事に頭痛を感じつつも、顎に手を当てて考え込んだ後、難しい表情で答えた。
「………行けるか行けないかでいえば、行けるが正解かな」
「嘘っ!?」
「な、なんとッ!?流石はイルマ様!まさか世界の壁を超える程のお力を手に入れておられたとは!!このアスモデウス・アリス、実に感服いたしました!!!」
「じゃ、じゃあ……!!」
「いやいやいや!少し待ってください!!」
サラリと答えた入間に、優花は驚愕し、アスモデウスが絶賛する。そして、愛子が今すぐにでもその力を使ってくれるように頼もうとして、入間は慌ててそれを止める。
「確かに、今の僕なら次元の壁を超えれる事は出来なくはないんです。でも、それはあくまでも行けるだけで、安全性は皆無に等しいんです」
オーマジオウの力を継承したオーマフォームの力を手にした入間のレベルはかなり上がっている。そして、オーマフォームの能力の一つである時間操作を利用することで、時間と密接に関わっている空間も操れるようになった。オーマフォームの能力と、入間がグリューエン大火山で手に入れた空間魔法を併用すれば、別の世界への移動も可能だろう。しかし、それは周囲への被害を無視した場合だ。
士が行使するオーロラカーテンは世界と世界、時間と空間を繋ぐトンネルのような役割を持つが…入間が操るオーロラカーテンにはそこまでの力はない。せいぜい行った事がある場所か、正確な緯度経度を把握した場所に転移するだけだ。並行世界への移動も、時間旅行も出来ない。
そして、入間が並行世界に行く力を持つオーマフォームの場合、世界を隔てる空間に穴を空けるのだ。いつ崩落してもおかしくない洞窟を掘るような物だ。
「最悪の場合…その穴を起点にこの世界全体へ何らかの影響が出て、滅びる可能性もあります。だから、この手は絶対に使えません」
「そんな……じゃあ、一体どうしたら………!?」
生徒を助けに行くことが出来ない現状にショックを受けながら、力なくソファーに崩れ落ちる愛子。入間はどうしたものかと頭を捻っていると、ごく最近の記憶の中からある光景が浮かび上がると、ある可能性にたどり着いた。
「いや、もしかしたら……
短く呟いた入間は、宝物庫からあるアイテムを取り出すと、真剣な表情で仲間達に向かい合った。
ミッドチルダに設立された高層ビルの屋上に、4つの影があった。
その中の一人──門矢士は、数キロ先に設置されている機動六課の隊舎を首に下げたトイカメラで撮影をしていると、その隣で腰を下ろしていたデモンサンダーが、金色の髪を風に靡かせながらポツリと呟いた。
「……まさか、トータスからミッドチルダに迷い込んできた奴が出てくるなんてね。しかも、同時に2人もだなんて………完全に予想外だわ」
「トータスとミッドチルダを隔てる世界の壁は分厚い。ちょっとやそっとの異常で、簡単に繋がるなんて事はありえないはずなんだが……どうやら、時空の歪みは俺達の予想を遥かに超える速度で大きく広がっているみたいだな」
その言葉を聞いて、浮世英寿は腕を組む。そこには、いつものような笑みはなく、神妙な表情で士とデモンサンダーの視線の先にある六課隊舎を見ている。
そんな彼の様子を、全体的に赤い差し色模様がかかっている白い九尾の狐を彷彿とさせる姿をし、背中には赤い矢印模様が特徴的な、オレンジ色の瞳を持つ白狐──【ギーツケミーのコン】は、心配そうに見上げている。
「……ディケイド、お前は何を知っている?」
英寿の問いかけに、士はトイカメラから視線をあげると、六課の隊舎から目をそらさないまま、英寿の質問に答えた。
「…………オーマジオウ。未来の鈴木入間が殺された」
「…そうか」
英寿は驚きはしなかったが、飄々とした態度を取ることは出来ない。
オーマジオウは、創世の力を持つ英寿ですら勝てる保証がない相手だ。そんな人物が寿命や事故ではなく、誰かに殺されたのだとしたら、それは想像を絶する存在が密かに動いている事を意味している。
デモンサンダーは、二人の間にある重々しい空気に顔をしかめつつ、士に声をかけた。
「確か…世界の崩壊が始まったとか、前に言ってたと思うんだけど……もしかして、そのオーマジオウを殺した奴が原因なの?」
「…いや。トータスをはじめとした、あらゆる次元世界で起きている時空の歪み……その根本的な理由は別にあると、俺は踏んでいる。そしてそれは………」
「──鈴木入間。仮面ライダージオウ、か?」
目を見開くデモンサンダーを他所に、士は英寿に視線を向ける。しばらくの間、士と英寿が視線を交差させていると、士は靴音をならしながら歩きだした。
「何処に行くんだ、ディケイド?」
「……アイツ等の現状は大体わかった。なら、ここに用はない」
それを言い残すと、士は英寿の横を通りすぎ、慌てて付いてきたデモンサンダーと共に屋上を後にする。
英寿はその後ろ姿を一瞥した後、心配そうに自分の足に体を擦り寄せるコンを見下ろすと…いつもの笑みを浮かべながら、コンの頭を優しく撫で回した。
「コーン……」
「心配するな。あの2人の事は入間達に任せておけば大丈夫だ。さっ、帰るぞ」
「コン」
英寿はコンを抱き上げると、背後に出現したオーロラカーテンの向こうに消えていった。
四隅に並んだいくつもの培養カプセルが不気味に輝くその部屋に、銀色に揺らめくオーロラが現れると、そこから白衣を着た男と、3人の戦闘機人が姿を現した。
白衣の男──ジェイル・スカリエッティは、辺りをキョロキョロと見渡しながら、ポツリと呟いた。
「英寿君がいない………どうやら、転移と同時に何処かへ行ってしまったようだね」
「………はぁ、またか。あの男の奔放さには、いつもいつも頭が痛くなる……」
「ったく、あの野郎!少しくらい協調性ってもんを持ちやがれってんだよ!!」
「……そう言う割には、あまり本気ではなさそうだな。ノーヴェ?」
「なっ!?ち、違ぇよ!チンク姉ッ!!アタシはただ、好き勝手な事ばっかやってるアイツに呆れてるだけなんだよ!!!」
英寿がいないことに頭を抑えるトーレと、舌打ちをするノーヴェ。しかし、姉であるチンクはそんなノーヴェの違和感に気づいて問いかけると、当の本人は顔を赤くして反論する。
その時、室内のドアが開き、そこから二人の戦闘機人が姿を現した。
「あっ!ドクターにチンク姉達、やっと見つけた!!」
「今の今まで何処に行ってたんスか!?皆が急にいなくなっちゃったから、アタシ達スッゴい心配したんスよ!」
現れたのは、明るい雰囲気を醸し出している水色の髪を肩ぐらいまで伸ばした少女──【セイン】と、赤髪を後頭部でまとめている活発そうな少女──【ウェンディ】だった。
彼女達もまた、ノーヴェ達の姉妹である戦闘機人ナンバーズである。
スカリエッティ達を見て安堵の表情を浮かべてる辺り、自分達を心配していたと言う事を悟り、スカリエッティは苦笑いを浮かべた。
「心配をかけて悪かったね。少々、英寿君達と面倒事に巻き込まれていたんだよ」
「英寿さんとっスか?」
「なら安心だね。英寿さんや入間さん達と出会ってから毎日が楽しいこと続きだし、ノーヴェもなんだかんだで嬉しそうにしてるもん」
「はぁ!?んなワケねぇだろ!そういうお前等こそ、アタシ等が留守だったからって好き勝手やってねぇだろうな!!?」
「いやいや、そんな事ないっスよ~……って、あれ?そういえば、他にも何かあったような………」
「っ、そうだ!大変だよ、ドクター!!この研究所に侵入者が出たんだ!!!」
「………何?」
トーレはセインが告げた情報に目を細める。
広域次元犯罪者であるスカリエッティのアジトの隠蔽力は広大な次元世界でもかなり高い。そこに侵入できる者など、警戒するには十分すぎるのだが、それにしてはウェンディとセインの反応が明るすぎる。
そこで、トーレはウェンディの違和感に気づく。正確には、その背中にだ。他の面々も気づいたようで、チンクが代表してそれを問いかけた。
「ウェンディ……お前の背中にいるソイツはなんだ?」
そう。ウェンディの背には、小柄な茶色いおさげ髪の少女が背負われていたのだ。
「侵入者っス!」
「……侵入者が何故、お前の背中でスヤスヤ眠っている?」
呆れたような言葉を溢しつつ、チンクはウェンディの背中にいる少女を観察する。
チンクと同じか少し上くらいの小柄な体躯。美人と言うよりかは愛嬌がある顔立ちをしており、服装はどことなくファンタジーを思わせる雰囲気を醸し出す巫女服にも見えるような衣裳で、両腕には大きく広がった付け袖を装着している。今は気を失っているのか、眠るように目を閉じて小さく呼吸を繰り返している。
ハッキリ言って、この研究所に侵入できるような存在には思えない。
「ドクター達が行方不明だって知った瞬間、ウーノ姉がマジ発狂しそうになるくらい酷く取り乱しちゃってさ……全員で手分けしてアジト中を探し回っていたら、訓練場辺りから偶発的な次元転移の反応を感知したって通信が来てね?それで、近くにいた私とウェンディがそこに向かったんだよ」
「そしたら!急に天井全体がパァーッて光った後に、この子が落ちてきたんスよ!!もぉ、マジでビックリしたっス!キャッチした瞬間に思わず『親方!』って、アタシ叫びそうになっちゃったっス!!」
ウェンディのくだらないネタ発言は放っておいて、スカリエッティはその少女をしばらく観察した後、その膨大な知識と記憶力の中にあった彼女の情報を見つけ出すと、僅かに目を見開いた。
尤も、彼女と関わった時間があまりにも短かったチンク達は、その後に起きた出来事によって忘れてしまったようだが……
「ふむ……とりあえず、まずは彼女を医務室に運ぶとしよう。少なくとも、私達とは知らない仲ではないからね」
スカリエッティの言葉にウェンディは頷くと、少女を背負ったまま踵を返して別室へと向かっていった。
「……え………り………」
背負われた少女──谷口鈴は、ウェンディの背に揺られながら、譫言のように呟いた。
それから数時間後。
「う…んぅ……あれぇ?」
鈴が目を覚ますと、そこは知らない天井が広がっていた。
以前、オルクス大迷宮で同じようなネタに走った事があったが、今目の前にあるのは本当に見た事がない天井だ。鈴はゆっくりと身体を起こそうとすると、すぐ側から声が聞こえてきた。
「──お目覚めですか?」
「……………うぇっ!!??」
鈴は奇怪な声を出しながら、反射的にその声の主に視線を向ける。
そこには、ウェーブのかかったすみれ色の長髪に秘書のような服を着こなした美しい女性が立っていた。雫とはまた違う大人っぽさを感じる美女に、鈴は自分の中にいる小さなオッサンが歓喜の声を上げつつも「ほぇー」と声を上げていると、長髪の美女は端末を操作する傍ら……鈴がいた部屋のドアが開く音が聞こえてくると、鈴は白衣を身に纏っている青紫色の髪をした男が入ってくるのを目にした。
「目が覚めたようだね、谷口鈴くん。私の事は…1度自己紹介をしたから必要ないかな?」
「えっ!?えーっと……あぁっ!確か、ジェイル・スカリエッティさんだよね!!?」
名前を呼ばれた事に驚くが、すぐに鈴も記憶の中から彼──スカリエッティの名前と記憶を思い出して声を上げる。
「えっと、スカリエッティさん。ここって何処なんですか?」
「ここは私の研究所さ。君はこの世界に次元漂流したようだ」
「えっ?なんで鈴はそんなところに?」
「おや、覚えていないのかい?」
「いやぁ~、その……試合に負けた後の事はなにも……」
「そうか。ならば簡単に説明すれば、あの大会は罠だったのだよ」
「罠って、どう言うこと?」
「うむ。実はね……」
スカリエッティの言葉に目を丸くする鈴。
そして、鈴はライダーコロシアムの実態とプレアデスの正体と事の顛末、今いるこの場所がトータスとは違う世界であり、鈴はその世界に迷い込んだということをスカリエッティから知らされ、顔面蒼白となった。
「そ、そじゃあ!鈴はもとの世界に戻れないの!?」
「残念だが、そうなんだ。トータスという世界の位置座標は私も把握していないんだ。座標を特定するにしても、広大な次元世界のなかでたった一つをピンポイントに見つけるのは非常に困難でね」
「そんな……でもっ、スカリエッティさんって、いろんな世界に行ったことがあるんだよね!それなら……」
「出来ないことはないが……何年先になるか分からないね」
「でも……でもっ」
苦笑混じりに告げるスカリエッティだが、そんな彼の裏腹に、鈴の顔には絶望に満ちた表情を浮かべながらベッドの上に腰を座り込んだ。
「本当に…本当になんとかならないの!!?」
「いくら私でも」
「でも、鈴は早く戻らないと行けないのに……!!」
「……何を焦っているのですか?向こうの世界に、何かやり残した事でも?」
ウーノの問い掛けに、鈴はピタリと動きを止める。そして、その瞳からポロポロと涙をこぼし始める。突然の反応に、スカリエッティとウーノの方が困惑する。
「戻らないと……恵里を助けられない、から……」
「「……………………」」
カトンボのように小さな呟きだったが、静寂に包まれた部屋であったゆえに、二人にはそれが聞こえていた。話はまるで分からないが、どうやら並々ならぬ事情があるのだろうと察したスカリエッティは穏やかな口調で鈴に提案する。
「どうだろう?君さえよければ、帰りの目処が立つまで、このアジトで過ごさないか?」
「うぇ?」
「行く宛がないのだろう?代わりに、君は我々にトータスの情報や魔法を提供してもらいたいんだよ。トータスの魔法について、我々の有するデータは少なくてね」
「でも、鈴って鈴木くん達よりずっと弱いよ?」
結界師の天職を持つ鈴は、操る結界の多様さには誇れるが、肝心の結界の強度はユエやミレディの張るものには遥かに劣る。アメリの蹴り一発で砕かれる程だ。
しかし、スカリエッティは気にしないと答える。欲しいのはあくまでもトータスの魔法のデータであり、強さではないのだ。
「分かったよ。これからよろしくね、スカリエッティさん」
「あぁ、これからよろしく頼むよ、谷口鈴くん」
鈴は差し出されたスカリエッティの手を握りながら、これから起こることを思い唇を固く結んだ。
次回予告
ユエ「……民間協力者になった八重樫雫。高町なのは達とも上手く行っているみたい」
シア「その胸の内にはあるのは大きな後悔と悲壮。剣士のその心に、錬金術師は何を思うのか!?」
第3話「雫の翳り」
ユエ・シア「「テイク・オフ(ですぅ)!」」
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