悪魔の孫は時の王者となって世界最強   作:MTHR

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13話です。タイトルが思い付かなかったので、原作とおりにさせていただきました。
今回は原作をかなり改編しています。苦手な方はブラウザバックを推奨します。


13話 長老会議

 入間が熊の亜人をデコピンで吹き飛ばした後、アルフレリックが何とか執り成した事で蹂躙劇は回避された。

 熊の亜人はほぼ全身の骨が粉砕骨折という危険な状態であったが、入間が施した回復魔術で腕も傷も治療してやった事で一命は取り留めた。尤も、下に見ていた人間にデコピンでやられた上に治療までされた事で完全に自信をへし折られ、2度と戦士として戦うことはできないようだが、まあ自業自得だ。

 

 その後、アルフレリックによってその場はとりなされ、彼と共に当代の長老衆である虎人族の【ゼル】、翼人族の【マオ】、狐人族の【ルア】、土人族の【グゼ】が入間達と向かい合って座っており、入間の傍らにはユエとアメリと、シアとカムが座り、その後ろにハウリア族が固まって座っていた。

 

「それで、貴方達は僕達をどうしたいんですか?僕達は大樹の下へ行きたいだけで邪魔しなければ干渉するつもりは一切無いんですが、亜人族としての意思を統一してくれないと、いざって時は容赦しませんよ?」

 

 そう話を切り出す入間を、グゼが忌々しそうに睨みつけてきた。

 

「こちらの仲間の一人を再起不能にしておいてそれか……?友好的になれるとでも?」

「痛め付ける?そもそも向かってきたのはあの熊擬きでしょう?僕はかる~くやり返しただけですよ。怪我したのは自業自得です」

「き、貴様!ジンはな!ジンは、いつも国のことを思って!」

「それが初対面の相手を問答無用に殺していい理由になると?愉快な国ですね……」

「そ、それは!しかし!」

「自分から喧嘩をふっかけておいて、自分は怪我しないですむなんて都合の良い話は何処にもない。やり返されたのもその後の事も、結局はあの熊擬きの自業自得です」

 

 おそらくグゼはジンと仲が良かったのだろう。その為、頭では入間の言う通りだと分かっていても心が納得できないのだ。だが、自分から喧嘩を売って来た相手の心情を汲み取ってやるほど、入間達はお人好しではない。

 

「グゼ、気持ちはわかるがそのくらいにしておけ。彼の言い分は正論だ」

 

 アルフレリックの諌めの言葉に、立ち上がりかけたグゼは怒りに顔を歪めてドスンッと音を立てながら座り込むとむっつりと黙り込む。

 

「確かに、この少年たちは、紋章の1つを所持しているし、その実力も大迷宮を突破したと言うだけのことはあるね。僕は、彼を口伝の資格者と認めるよ」

 

 そう言ったのは狐人族の長老ルアだ。糸のように細めた目で入間を見た後に他の長老はどうするのかと周囲を見渡す。

 翼人族のマオ、虎人族のゼルも相当思うところはあるようだが、同意を示した。代表して、アルフレリックが入間に伝える。

 

「鈴木入間、ユエ、アザゼル・アメリ。我らフェアベルゲンの長老衆はお前さん達を口伝の資格者として認める。故に、お前さん達と敵対はしないというのが総意だ……可能な限り、末端の者にも手を出さないように伝える。……しかし……」

「絶対じゃない……と?」

「ああ。知っての通り、亜人族は人間族をよく思っていない。正直、憎んでいるとも言える。血気盛んな者達は長老会議の通達を無視する可能性を否定できない。特に、今回再起不能にされたジンの種族、熊人族の怒りは抑えきれない可能性が高い。アイツは人望があったからな……」

「それで?」

 

 アルフレリックの話しを聞いても入間の顔色は変わらない。すべきことをしただけであり、すべきことをするだけだという意思が見て取れる。アルフレリックはその意志を理解した上で、長老として同じく意志の宿った瞳を向ける。

 

「お前さんを襲った者達を殺さないで欲しい」

「……手加減しろと?私怨で殺しにかかってくる連中に?」

「そうだ。お前さんの実力なら可能だろう?」

「…可能か不可能かで言われれば間違いなく可能です。でも、根本的な事を忘れてませんか?人を殺す挑んで来ながら自分が殺されないなんて都合の良い話はない。僕達を殺す気で挑んでくるなら、逆に殺される覚悟があって当然だ。死なせたくないならそれを纏めるのがトップの勤めでしょう?」

 

 敬語を使いながらも、入間はアルフレリックの要求を一蹴する。要するに、お前達の都合など知らないから自分達で努力しろという事だ。まあ、例えフェアベルゲンの亜人が束になってかかってこようと入間達には傷一つ与えられないので別に生け捕りなど簡単なのだが、流石に人を殺す覚悟だけはあって殺される覚悟がない馬鹿に配慮してやる程、入間達は優しくなかった。

 しかし、そこで虎人族のゼルが口を挟んだ。

 

「ならば、我々は大樹の下への案内を拒否させてもらう。口伝にも気に入らない相手を案内する必要はないとあるからな」

 

 その言葉に入間達は怪訝な顔をする。

 元々案内はハウリア族に任せているのに、何で自分達が案内をするような言い草をするのか、意味が分からないからだ。

 

「ハウリア族に案内してもらえるとは思わないことだ。そいつらは罪人。フェアベルゲンの掟に基づいて裁きを与える。何があって同道していたのか知らんが、ここでお別れだ。忌まわしき魔物の性質を持つ子とそれを匿った罪、フェアベルゲンを危険に晒したも同然なのだ。既に長老会議で処刑処分が下っている」

 

 そう冷酷に告げるゼルに、シアは泣きそうな表情で震え、カム達は一様に諦めたような表情を浮かべる。

 

「長老様方!どうか、どうか一族だけはご寛恕を!どうか!」

「シア、止めなさい!皆、覚悟は出来ている。お前には何の落ち度もないのだ。そんな家族を見捨ててまで生きたいとは思わない。ハウリア族の皆で何度も何度も話し合って決めたことなのだ。お前が気に病む必要はない」

「でも、父様!」

「既に決定したことだ。ハウリア族は全員処刑する。フェアベルゲンを謀らなければ忌み子の追放だけで済んだかもしれんのにな」

 

 その言葉に遂にシアは泣き出してしまい、それをカム達は優しく慰めた。

 

「そういうわけだ。これで貴様が大樹に行く方法は途絶えたわけだが?どうする?運良くたどり着く可能性に賭けてみるか?」

 

 それが嫌ならこちらの要求を飲めと言外に伝えてくるゼル。他の長老衆も異論はないようだ。

 

 しかし入間は特に焦りを浮かべることも苦い表情を見せる事もなく、寧ろ小馬鹿にしたように鼻を鳴らした。

 

「……ハッ、ここまで馬鹿だったとはね。少しはマトモなのがいると期待したんだけどね…」

 

 腕を組んで嘲笑する入間の台詞に、ゼルを始めとした長老達は眉を吊り上げ、代表してゼルが入間に怒鳴った。

 

「貴様!我等を侮辱する気か!!」

「する気じゃなくてしてるんですよ。僕達の案内をするのはハウリアです。彼等の命を救う代わりに樹海の案内を約束した。だからこそ僕は樹海に辿り着くまで彼等の命を守る義務があるんだ。一度した約束を破る気なんてない。貴方達がハウリアを処刑するなら、それは僕を敵に回すだけなんですよ」

「本気かね?」

「当然です」

「フェアベルゲンから案内を出すと言っても?」

 

 アルフレリックの誤魔化しは許さないという鋭い眼光の問い掛けにも、入間は迷う事なく答えた。

 ハウリア族の処刑は長老会議で決定したことだ。それを言ってみれば脅しに屈して覆すことは国の威信に関わる。今後、入間達を襲うかもしれない者達の助命を引き出すための交渉材料である案内人というカードを切ってでも、長老会議の決定を覆すわけにはいかない。

 

 だが、入間は一切として動じない。足を組み、何処か呆れたような目で口を開い(反撃を始め)た。

 

「そもそも、僕達は貴方達を信用していない。僕達はここに来るまで何度も殺意を向けられたのに殆ど手を出さず、その上無茶苦茶な言い掛かりをつけて襲いかかって返り討ちにされた熊擬きの治療までしてあげたのにそんな敵意満々に命令されてさ……そっちの方こそ友好的になれるとでも?」

「そ、それは…」

「それに、シア達に関してもそうだ。君達は忌み子だとか意味不明な事を言ってるけど、要はシアが人と違うってだけの話でしょう?その程度で追放だの処刑だの騒ぐ馬鹿共の相手なんて僕は出来ませんよ」

「忌み子を庇う気か!!忌み子はこの地に災いを呼ぶ!!」

 

 するとゼルが口を挟んできたが、入間は「はあ?」と言わんばかりにゼルを見る。

 その目のあまりの冷たさに少しだけ動揺するゼルなど知ったことではないといわんばかりに、入間はそれに反論する。

 

「なら聞きましょう。貴方達はシアが生まれてから今日まで、何かありましたか?人や魔物の手によってこの国は滅びましたか?天災か何かで亜人族の滅亡の危機に瀕しましたか?」

「ぐっ……」

「無いんですね?ならシアには何の罪もない。…まあその存在を16年も隠していたハウリアには少し問題はあるでしょうが、実害は出ていない。シアの魔力に関しても、本人が望んで手にした物じゃない。不細工に生まれたのは本人のせいか?障害をもって生まれたのは本人のせいか?答えはNOだ。さて、これを聞いた上で、何故シア達が罪人なんですか?」

「黙れ!その女は魔物と同じ魔力を持っているんだぞ!!」

「魔力を持ってるから何ですか?さっきも言いましたが、要は人より強い力があるかないかの違いでしょう?その程度で魔物(野生動物)と同類だの忌み子だの、下らない以外の何者でもない」

 

 ツラツラと話していくなかで、感情を露にしていく長老達。その瞳には形容しがたい私怨の色が見え隠れしていることに、入間とアメリだけが気付いていた。

 すると、今度はグゼが声を上げた。

 

「それが掟だからだ!我等亜人族にとって、掟は絶対だ!!」

「その掟を眉唾物と一蹴して突っかかってきたのは誰ですか?さっきまで眉唾物と唾棄していた癖に、自分の都合が悪くなれば絶対と言い出して神聖視ですか?なら余計に信頼できない。貴方達に案内頼んでも、どうせ道中に掌返して闇討ちしてくるに決まってる」

 

 その言葉にグゼは言葉をつまらせ、アメリはユエは確かにと納得した。

 アルフレリックは兎も角、先程まで眉唾物だと一蹴していたくせに、直ぐに掌を返して絶対と宣う彼等が出す案内人など、とてもではないが信用できない。入間の言う通り掌返して闇討ちしてきても返り討ちにするのは簡単だが、時間の無駄以外の何物でもない。

 

「そもそも、僕はシアが魔力を持つから迫害されるなんて聞いた時から貴方達には疑問があった。亜人族が他種族から差別されている種族で人間族や魔人族を憎んでいるなら、シアは寧ろ重宝されるべき存在の筈だ。なのに迫害された…理由を推理するのは簡単でしたよ」

「どういう事だ?」

 

 本気で分からなそうな表情の長老達だが。唯一、アルフレリックとルアだけは、入間の言葉の意味を理解しているのか難しい表情となった。ルアはどうやらアルフレリックと似た様な感性の持ち主らしく、その言葉の意味が分かるのだろう。

 

「分かっているのはアルフレリックとルアという亜人だけですか。なら説明しましょう。人間族や魔人族は、亜人が魔力を持たないから差別している。だけどシアの存外があれば、もうそんな言い分は通用しなくなる。シアの存在を公表すれば亜人族の歴史が変わる第一歩となる筈だ。付け加えて、シアの固有魔法は未来予知。使いこなせれば天災や魔物の進行、それに亜人を拐う他種族から亜人を守ることに繋がるじゃないですか」

「なっ…なっ…」

 

 長老達は目を見開きながら体を震わせ、ユエとハウリア達も驚いたようにシアを見つめた。シアも、今まで忌み子と蔑まれていた自分が亜人族の希望となるかもしれないと言われ、自分の掌を見つめていた。

 唯一、アメリだけはそれに気付いていたのか、静かにシアを見据えた後、再び入間と長老達に視線を戻した。アルフレリックとルアは難しそうな表情で、他の長老達はなんとか言葉を紡ごうとしているのか、入間を睨んでいる。

 

ドンッ!

 

 そんな時、突如入間が席から立ち上がって、テーブルに片足を叩き付ける。轟いた音がまるで部屋そのものを揺らすような錯覚を覚え、長老達やシア達は思わずビクッ!と身を強張らせる。

 そして、入間の冷めきった声が部屋に響いた。

 

「全く呆れたよ。掟は自分達の良いように理由する、私怨で物事をよく見ず、挙げ句の果てには逆恨みで殺しにかかる──調子に乗るのも大概にしてもらおうか?

「「「「───ッ!!」」」」

 

 その瞬間、途方もない殺意と威圧感が、洪水の如く降りかかった。

 その強大さは果てしなく、ユエとアメリ以外の者達を一瞬にして硬直させ、冷や汗を止まらなくさせ、鼓動を早くさせる。

 

 入間はアルフレリックとルア以外の長老達を見据えて身を乗り出すと、かつてオルクスで光輝達に向けたものと同じ絶対零度を越える目と声色で口を開いた。

 

「仮にも貴方達は種族を束ねる長老、その可能性を少しでも思い浮かべられないほど馬鹿じゃないでしょう…。なのにその可能性を度外視…いや、気づかないフリをしてシア達を迫害した主な理由は……ただの八つ当たりだ。最弱と見下していた兎人族から、亜人族の歴史を変える存在が現れたんだ。プライドだけは高そうな君達は、それが許せなかったんでしょう…?」

「なっ!ち、違──」

「違わないさ。さっきのシアの泣き顔を見た時も、優越感に浸っていたんだろう?愉しかったでしょう?魔力を持つ存在を虐げて、まるで自分達が人間族や魔人族の上に立てたようで……」

 

 入間の口から出る悪魔の囁きをアルフレリックとルア以外の長老は必死に否定しようとするが、入間は容赦などせず事実を突き付けた。

 

「それがお前達の本性だ。まるで“悪魔”だよ…本物のね」

「あ……あぁ……」

 

 その一言で、彼等は膝から崩れ落ちた。目からハイライトが消え、まるでものを言わぬ人形のようであり、耳を澄ませば物凄く「違う……違う…」と壊れたレコーダーのよう呟いている。自分の醜悪な本性を暴かれ、それを突き付けられた事に、心がそれを認めたくないと拒絶した事によるものだろう。

 

「そこまでにしてくれぬか。確かにハウリアの扱いは我等の考え不足であり、ゼル達の行動に問題があったのは認める。己を見つめ直すまで、しばしの猶予をもらえぬか?」

 

 アルフレリックにそう言われ、入間はフンッと鼻を鳴らして再び席に座り込んだ。別にこの場で荒事を起こす気はないのだが、入間の心情とゼル達の態度にイラついたことで、自分に歯向かうことが無いように少しだけ強めに出たのだ。お陰でゼル達の心が壊れてしまったが、入間の知ったことではない。

 

 アルフレリックはふうと息を吐くと、ゼルの代わりにハウリア族の処分を述べた。

 

「ここはハウリア族はお前さん達の奴隷ということにする。フェアベルゲンの掟では、樹海の外に出て帰ってこなかった者、奴隷として捕まったことが確定した者は死んだものとして扱う。樹海の深い霧の中なら我らにも勝機はあるが、外では魔法を扱う者に勝機はほぼない。故に、無闇に後を追って被害が拡大せぬように死亡と見なして後追いを禁じているのだ。…既に死亡と見なしたものを処刑はできまい」

 

 普通なら反対意見一つでも出そうなものだが、今回に限っては、長老達は何も言わなかった。

 入間の指摘を否定できず、入間の威圧感に心をへし折られそうだった所で己の醜悪な内面を露わにされて心を壊されて、もはや肉人形同然の状態では、物理的にも精神的にも意見を出せる筈がなかった。

 それを見たアルフレリックは難しい顔をしながらも、判決を下した。

 

「…反対はないな?ならばハウリア族は忌み子シア・ハウリアを筆頭に、資格者である鈴木入間、ユエ、アザゼル・アメリの奴隷とする。そして、資格者三人には敵対はしないが、フェアベルゲンや周辺の集落への立ち入りを禁ずる。以降、彼らの一行に手を出した場合は全て自己責任とする……。以上だ。何かあるか?」

「それでいいですよ。元々ハウリアの案内で大樹に行ければそれで良いのでね。二人もそれでいい?」

「ああ、問題ない」

「……ん、異議なし」

「……そうか。ならば、早々に立ち去ってくれるか。ようやく現れた口伝の資格者を歓迎できないのは心苦しいが……」

「構いませんよ。それがお互いにとってのベストだ。あの熊擬きみたいな奴等への呼び掛けはちゃ~んとしてもらいますよ?」

 

 それだけ言い残すと入間は席を立ち、ユエとアメリも特に意見する事も無く入間に合わせて立ち上がった。

 

 しかしシア達ハウリア族は未だ現実を認識しきれていないのか呆然としたまま立ち上がる気配がない。ついさっきまで死を覚悟していたのに、気がつけば追放で済んでいるので、「えっ、このまま本当に行っちゃっていいの?」という感じで内心動揺しまくっていた。

 

「何時まで呆けているの、さっさと行くよ」

 

 入間の言葉に、漸く我を取り戻したのかあたふたと立ち上がり、さっさと出て行く入間の後を追うシア達。

 

「あ、あの、私達……死ななくていいんですか?」

「話を聞いてなかったの?」

「い、いえ、聞いてはいましたが……その、何だかトントン拍子で窮地を脱してしまったので実感が湧かないといいますか……信じられない状況といいますか……」

 

 周りのハウリア族も同様なのか困惑したような表情だ。それだけ長老会議の決定というのは亜人にとって絶対的なものなのだろう。どう処理していいのか分からず困惑するシアにユエとアメリが呟く様に話しかけた。

 

「……素直に喜べばいい」

「ユエさん?」

「入間にお前達は救われた、それが事実だ。受け入れて喜べばいい」

「アメリさん……」

 

 二人の言葉に、シアはそっと隣を歩く入間に視線をやった。入間は前を向いたまま肩を竦める。

 

「約束を守っているだけだよ」

「ッ……」

 

 その言葉を聞いたシアは肩を震わせる。

 元々、“未来視”で入間が守ってくれる未来は見えていたが、見える未来は絶対ではない。シアの選択次第でいくらでも変わるものだからこそ、シアは入間の協力を取り付けるのに必死だった。相手は亜人族に差別的な人間で、シア自身は何も持たない身の上だ。交渉の材料など、自分の“女”か“固有能力”しかない。それすらあっさり無視された時は、本当にどうしようかと泣きそうになった。

 それでもどうにか契約を交わして、道中話している内に何となく、入間なら契約を違える事は無いだろうと感じていた。それは、自分が亜人族であるにも拘らず、差別的な視線が一度も無かった事も要因の一つだろう。だが、それはあくまで"何となく"であり、確信があった訳ではない。

 だから内心の不安に負けて、“約束は守る人だ”と口に出してみたり“人間相手でも戦う”等という言葉を引き出してみたりした。実際に何の躊躇いもなく帝国兵を殺した時、どれ程安堵した事か。

 だが、今回はいくら入間でも見捨てるのではという思いがシアにはあった。帝国兵の時とは訳が違う。にもかかわらず一歩も引かずに契約を守り通してくれた。例えそれが入間自身の為であっても、ユエとアメリの言う通りシアと大切な家族は確かに守られたのだ。

 シアは先程、一度高鳴った心臓が再び跳ねた気がした。

 顔が熱を持ち、居ても立ってもいられない正体不明の衝動が込み上げてくる。それは家族が生き残った事への喜びか、それとも……

 

 シアは二人の言う通り素直に喜び、今の気持ちを衝動に任せて全力で表してみる事にした。即ち、入間に全力で抱きつく!

 

「入間さ~ん!ありがどうございまずぅ~!」

「わっ!いきなりどうしたの?」

「……アメリ、止めなくて良いの?」

「……今回だけだ」

 

 泣きべそを掻きながら絶対に離しません!とでも言う様にヒシッとしがみつき顔をグリグリと入間の肩に押し付けるシア。その表情は緩みに緩んでいて、頬は薔薇色に染め上げられている。

 それを見たユエとアメリが不機嫌そうに言葉を交わすと、何か思うところがあるのか、入間の手を取るだけで特に何もしなかった。

 

 喜びを爆発させ入間にじゃれつくシアの姿にハウリア族の皆も漸く命拾いした事を実感したのか、隣同士で喜びを分かち合っている。

 

 それを何とも複雑そうな表情で見つめているのは長老衆だ。そして、更に遠巻きに不快感や憎悪の視線を向けている者達も多くいる。

 

 

 

 

 入間はその全てを把握しながら、ここを出ても暫くは面倒事に巻き込まれそうだと苦笑いするのだった。

 

 

 

 

 

 




長老会議、終了です。

原作の長老会議を呼んだとき、ゼルがシアが魔力があるからってシアが魔物になるわけじゃないし、フェアベルゲンを危険に晒したって言ってたけど、危険な目にあったのはハウリアであって、フェアベルゲンに何かあった訳じゃないよね?と思い、ゼル達をこのように扱わせていただきました。気に入らなければ申し訳ございません。


感想、評価お待ちしております。

ミレディが変身するライダーを検討中なので、アンケートを実施します。

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