タイトルは仮面ライダー555の『超絶バイク』のオマージュです。
霧をかき分けて数人のハウリア族が入間に課された課題をクリアしたようで魔物の討伐を証明する部位を片手に戻ってきた。よく見れば、その内の一人はカムだ。
シアは久しぶりに再会した家族に頬を綻ばせる。本格的に修行が始まる前に気持ちを打ち明けたときを最後として会っていなかったのだ。たった10日間とはいえ、文字通り死に物狂いで行った修行は日々の密度を途轍もなく濃いものとした。そのため、シアの体感的にはもう何ヶ月も会っていないような気がしたのだ。
報告したいことが山ほどあるシアは父親であるカムに話し掛けようとする。
…しかし、シアは話しかける寸前で、発カム達が発する雰囲気が何だかおかしいことに気がついた。
歩み寄ってきたカムはシアを一瞥すると僅かに笑みを浮かべただけで、直ぐに視線を入間に戻すと、入間の前で片膝をついて首を下げ、胸に手を当てた。
「陛下。我等ハウリア、陛下より指示された魔物を仕留めて参りました」
「へ、陛下?と、父様?何だか口調が……というか雰囲気が……」
入間に跪き、別人のような口調で話す父親に戸惑いの声を発するシアをさらりと無視し、カム達はこの樹海に生息する魔物の中でも上位に位置する魔物の牙やら爪、更にはライセン大峡谷の魔物達の素材もバラバラと取り出した。
入間の課した訓練卒業の課題は上位の魔物を一チーム1体狩ってくる事だ。しかし、眼前の剥ぎ取られた魔物の部位を見る限り、優に10体分はある。
「……僕は一体でいいって言った筈だけど?」
「はい。最初は一匹仕留めるはずだったのですが、仲間が集まってきたため、全て返り討ちにしました。その結果がこちらでございます」
「あー…そう、取り合えずご苦労様。これで君達は僕がいなくても大丈夫そうだね」
『『『ハッ!お褒めにあずかり光栄であります!』』』
少し引き気味な入間の誉め言葉に、ハウリア達はまるで王に遣える騎士団のように跪いて声を揃える。
そんな
「ど、どういうことですか!?入間さん!父様達が完全に別人じゃないですか!?」
「えーと…」
当然と言えば当然なので、入間は苦笑いしながら説明する。
あの後、入間はカム達をライセン大峡谷に置き去りにして一日放置し、翌日に戻ってきた。そこでは死屍累々と形容できる程傷だらけの血塗れになりながらも、弱肉強食の世界にいきる覚悟を決めたハウリア達がいた。驚いたことに、死者を一人も出すことなく。
そして再び始まった入間とアメリによる指導の下、ハウリア達はまるで王国の騎士とでも形容できるような立ち振舞いで、入間を「陛下」と呼ぶようになったのだ。隠密能力を活かし、時には狡猾な手段を用いる事も戸惑わない戦闘スタイルはどちらかと言えば忍者や
「父様ァッ!?この10日間で何があったんですか!?私の知ってるみんなじゃないですよぉっ!!」
入間のぶっ飛んだ指導法と一族の変貌ぶりに驚愕した彼女は、思わずカムに掴みかかるが一方のカムは娘を宥めた。
「シア、安心しなさい。我々ハウリアは陛下とアメリ殿のお陰で気付いたのだ。花や虫等に気を遣い、戦いから逃げ続けるだけでは本当に大切なものを喪ってしまうと。故に私達は弱肉強食の世界を生き抜くために覚悟を決めたのだ。そして私達は陛下とアメリ殿の指導の末、新たなる兎人族へと進化を遂げたのだ」
「進化って…言いたいことは分かりますけどこれはもう変貌ですよォ……」
「シア、不満か?」
「不満というかなんと言うか……私の家族が全員別人になっててすんなり受け入れられませんよぉ~…」
アメリの問い掛けに、シアはなんとも言えないような表情で返す。夏休みが明けてガラリと雰囲気が変わってるクラスメイトと学校で再開するアレの何百倍ものインパクトがあるのだから、仕方ないだろう。
……だが、これでも入間はかなり本気で矯正したのだ。誰にも話していないが、入間がカム達を迎えにきた時、カムを筆頭に何人かのハウリア族は「ヒャハハハハッ!」とか「豚のように悲鳴を上げなさい!」とか叫びながら、嬉々として魔物を殺していたのだ。それを見た入間は流石に唖然となり、精神を落ち着かせる魔術を“
そんな時、あの「お花さ~ん」の少年…【パル】が、スタスタと入間の前まで歩み寄ると、カムのように片膝をついて胸に手を当てて口を開いた。
「陛下、失礼致します。ご報告したい事があるのですが宜しいでしょうか?」
「う、うん。何?」
11歳の少年が歴戦の騎士団長のような雰囲気を放っている事に気圧され、今更ながら少しやり過ぎたかもしれないと若干どもる入間。
パルはお構いなしに報告を続ける。
「はっ!魔物を追跡中に、完全武装した熊人族の集団を発見しました。場所は、大樹へのルート。おそらく我々に対する待ち伏せかと思われます」
「成る程ね……目的を目の前にして叩き潰そうって魂胆か。僕達に喧嘩売ったんだ。代償は命で払ってもらおうか……」
どうやら、あの長老会議の日に感じた憎悪の視線の主が身の程知らずにも入間達に挑んできたようだ。熊人族ということは、十中八九あの時の熊擬きの部下だろう。既に長老達が呼び掛けているだろうに、つくづく馬鹿な奴等だと、入間は首をゴキゴキと鳴らす。
そんな時、カムが入間に話し掛けてきた。
「陛下。宜しければ今回の熊人族の排除、我々にお任せ下さいませんか?」
「ん?出来るの?」
「お任せ頂けるのなら是非。生まれ変わった我々の力が奴らに何処まで通じるか、試してみたく思います」
それを聞いた入間は、「ここで決めておこうかな…」と呟いた後、コホンと咳払いして、大きく声を上げた。
「貴様等は何者だ!!」
『『『兎人族、ハウリアであります!』』』
「ハウリア諸君!君達に命令を下す!これから君達は、僕達を狙う熊擬きの群れを駆逐しろ!ただし、君達の強さを知らしめる為に必ず一人は生き証人として生かせ!喋れるのなら状態は問わない!行け!!」
『『『ハッ!!』』』
入間の号令に短く答え、霧の中へ消えていくハウリア達。温厚で平和的、争いが何より苦手……そんな種族いたっけ?と言わんばかりだ。
「……うぅ~。私の家族が兎人族から別の何か変わっていますぅ~」
「言うなシア。怯えて逃げ回るよりはマシだろう」
「……ん。入間、さっきノリノリだった?」
「…確かに、ちょっとノッちゃってた」
【レギン・バントン】は熊人族最大の一族であるバントン族の次期族長との噂も高い実力者だ。現長老の一人であるジン・バントンの右腕的な存在でもあり、ジンに心酔にも近い感情を抱いていた。尤も、それはレギンに限ったことではなくバントン族全体に言えることで、特に若者衆の間でジンは絶大な人気を誇っていた。その理由としては、ジンの豪放磊落な性格と深い愛国心、そして亜人族の中でも最高クラスの実力を持っていることが大きいだろう。
だからこそ、その知らせを聞いたとき熊人族はタチの悪い冗談だと思った。自分達の心酔する長老が、一人の人間に為すすべもなく再起不能にされたなど有り得ないと。しかし、現実は容赦なく事実を突きつけ、以前のような破棄を完全に失って部屋に籠っているジンの姿が何より雄弁に真実を示していた。
レギンは変わり果てたジンの姿に呆然とし、次いで煮えたぎるような怒りと憎しみを覚えた。腹の底から湧き上がるそれを堪える事もなく、現場にいた長老達に詰め寄り一切の事情を聞く。そして、全てを知ったレギンは、長老衆の忠告を無視して熊人族の全てに事実を伝え、報復へと乗り出した。
長老衆や他の一族の説得もあり、全ての熊人族を駆り立てることはできなかったが、バントン族の若者を中心にジンを特に慕っていた者達が集まり、憎き人間を討とうと息巻いた。その数は50人以上。仇の人間の目的が大樹であることを知ったレギン達は、もっとも効果的な報復として大樹へと至る寸前で襲撃し、目的を眼前に果てるがいい!と下衆な考えに至ったのだ。
相手は所詮、人間と兎人族のみ。例えジンを倒したのだとしても、どうせ不意を打つなど卑怯な手段を使ったに違いないと光輝みたいなご都合解釈をしたレギンは、樹海の深い霧の中なら感覚の狂う人間や、まして脆弱な兎人族など恐るるに足らずとでも思っているのだろう。
……だが、
「これはないだろう!?」
レギンは堪らず絶叫を上げた。なぜなら、彼の目には亜人族の中でも底辺という評価を受けている兎人族が、最強種の一角に数えられる程戦闘に長けた自分達熊人族を蹂躙しているという有り得ない光景が広がっていたからだ。
「死ねェ!」
「地獄に堕ちなさいッ!」
「お前はもう死んでいるゥ!」
ハウリア族の死刑宣告が響き渡り、致命の斬撃が無数に振るわれる。そこには温和で平和的、争いが何より苦手な兎人族の面影は皆無だった。必死に応戦する熊人族達は動揺もあらわに叫び返した。
「ちくしょう!何なんだよ!誰だよお前等!!」
「こんなの兎人族じゃないだろっ!」
「うわぁああ!来るなっ!来るなぁあ!」
奇襲しようとしていた相手に逆に奇襲された事、亜人族の中でも格下のはずの兎人族の有り得ない強さ、どこからともなく飛来する正確無比な弓や石、認識を狂わせる巧みな気配の断ち方、高度な連携が激しい動揺を生み、スペックで上回っているはずの熊人族に窮地を与えていた。
実際、単純に一対一で戦ったのなら兎人族が熊人族に敵うことはまずないだろう。だが、この十日間、ハウリア族は、地獄というのも生ぬるい特訓のおかげでその先天的な差を埋めることに成功していた。
元々、兎人族は他の亜人族に比べて低スペックだ。しかし、争いを避けつつ生き残るために磨かれた危機察知能力と隠密能力は群を抜いている。何せ、それだけで生き延びてきたのだから。そして敵の存在をいち早く察知し、気づかれないよう奇襲できるという点で彼等は実に暗殺者向きの能力をもった種族であると言えるのだ。ただ、生来の性分が、これらの利点を全て潰していた。
躊躇いのない攻撃性を身に付けた彼等は、中々の戦闘力を発揮した。一族全体を家族と称する絆の強い一族というだけあって連携は最初からかなり高いレベルだった。また、気配の強弱の調整が上手く、連携と合わせることで絶大な効果を発揮した。
さらに、非力な彼らの攻撃力を引き上げる入間製の武器の数々もハウリア族の戦闘力が飛躍的に向上した理由の一つだ。
全員が常備している小太刀二刀は、ライダーの武器の素材を“
他にもコズミックステイツウォッチで一度奈落の底に戻って蜘蛛型の魔物から採取した伸縮性・強度共に抜群の糸を利用して作ったスリングショットやクロスボウも非常に強力だ。
特にハウリア族の中でも近接戦は厳しい小さな子供達でも先天的に備わっている索敵能力を使った霧の向こう側からの狙撃は、思わず入間でさえも瞠目したほどだ。
そんなわけで、パニック状態に陥っている熊人族では今のハウリア族に抗することなど出来る訳もなく、瞬く間にその数を減らし、既に当初の半分近くまで討ち取られていた。
「レギン殿!このままではっ!」
「一度撤退を!」
「殿は私が務めっクペッ!?」
「トントォ!?」
一時撤退を進言してくる部下に、ジンを再起不能にされたばかりか部下まで殺られて腸が煮えくり返っていることから逡巡するレギン。その判断の遅さをハウリアのスナイパーが見逃す筈もなく、殿を申し出て再度撤退を進言しようとしたトントと呼ばれた部下のこめかみを正確無比の矢が貫いた。
それに動揺して陣形が乱れるレギン達。それを好機と見てカム達が一斉に襲いかかった。
霧の中から矢が飛来し、足首という実にいやらしい場所を驚くほど正確に狙い撃ってくる。それに気を取られると、首を刈り取る鋭い斬撃が振るわれ、その斬撃を放った者の後ろから絶妙なタイミングで刺突が走る。
だなそれも本命ではなかったのか、突然、背後から気配が現れ致命の一撃を放たれ、そのように連携と気配の強弱を利用してレギン達を翻弄した。レギン達は戦慄する。これが本当に、あのヘタレで惰弱な兎人族なのか!?と。
しばらく抗戦は続けたものの、混乱から立ち直る前にレギン達は満身創痍となり武器を支えに何とか立っている状態だ。連携と絶妙な援護射撃を利用した波状攻撃に休む間もなく、全員が肩で息をしている。一箇所に固まり大木を背後にして追い込まれたレギン達をカム達が取り囲んだ。
「どうした?最強種族と名高い熊人族の実力はその程度か?」
「その程度でよく私達や陛下を殺そうなんて思えたものねェ…」
「その慢心が、お前達の敗因だ」
温厚な兎人族と思えない、冷たい目で容赦の無い言葉を浴びせるハウリア達に、熊人族達は戦慄の表情を浮かべる。中には既に心が折られてしまい頭を抱えてプルプルと震えていた。大柄で毛むくじゃらの男が「もうイジメないで?」と涙目で訴える姿は……凄くシュールだった。
「何か言い残す事はあるかね?最強種族殿?」
「ぬぐぅ……」
入間製武器である小太刀を手にし、心底見下しているように皮肉げな言葉を投げ掛けるカム。闘争本能に目覚めた今、見下されがちな境遇に思うところが出てきたらしい。前のカムからは考えられないセリフだ。
レギンはカムの物言いに悔しげに表情を歪めるが何とか混乱から立ち直ったようでその瞳には本来の理性が戻ってきていた。ハウリア族の強襲に冷や水を浴びせかけられたというのもあるだろうが、ジンを再起不能にされた怒りの炎は未だ燃え盛らせつつも、今は少しでも生き残った部下を存命させる事に集中しなければならないという責任感から正気に戻ったようだ。同族達を駆り立て、この窮地に陥らせたのは自分であるという自覚があるのだろう。
「……俺はどうなってもいい。煮るなり焼くなり好きにしろ。だが、部下は俺が無理やり連れてきたのだ。見逃して欲しい」
「なっ、レギン殿!?」
「レギン殿!それはっ……」
レギンの言葉に部下達が途端にざわつき始めた。レギンは自分の命と引き換えに部下達の存命を図ろうというのだろう。動揺する部下達にレギンが一喝した。
「だまれっ!……頭に血が登り目を曇らせた私の責任だ。兎人……いや、ハウリア族の長殿。勝手は重々承知。だが、どうか、この者達の命だけは助けて欲しい!この通りだ」
武器を手放し跪いて頭を下げるレギン。部下達はレギンの武に対する誇り高さを知っているため敵に頭を下げることがどれだけ覚悟のいることか嫌でもわかってしまうからこそ言葉を詰まらせ立ち尽くすことしかできなかった。
「殺す気で挑んでおいて、立場が変わればそれか……まあいいだろう。我々も虐殺を楽しむ趣向はない。その代わり、今後我らを排除しようと考えるものが出ないように今回の件を誇張なしにフェアベルゲンに伝えろ。それが我々がお前達を見逃す条件だ」
「……解った。感謝する…」
カムは心底軽蔑したように条件を突き付ける。最強種族と名高い熊人族が兎人族に負けたと言うのを周知するのは屈辱だったが、それで部下が助かるならと、屈辱に顔を歪めながらも安堵するレギンだったが、その瞬間カムの小太刀の刃がレギンの首筋の当てられた。
「何を安堵しているのだ?まだ陛下達がいるだろう?」
「なッ!?我等はもう要求を飲んだろう!?」
「それは我等ハウリア族からの要求だ。陛下達の事も狙っておいて、何のお咎めもないと思ってるのか?」
「ぐっ…」
正論と言えば正論なので、レギンが言葉をつまらせていると、入間達が樹海の奥から歩いてきた事で、カムは小太刀を収刀して跪く。
「お疲れ様。これで君達の実力は証明されたね」
「ハッ、お褒め頂き光栄であります!」
そう言うと、入間はザッ、ザッ、と足音をならしながらレギン達の前に立つと、先程とは一転して冷めきった目でレギン達を見据え、その目に熊人族が怯えることなど知ったことではないと口を開いた。
「さて、僕達も君達みたいな蝿に一々構っていられる程暇じゃないけど、お咎め無しでは済まさないよ。フェアベルゲンに帰ったら、長老達にこう伝えてもらう」
「……伝言か?」
条件と言われて何を言われるのかと戦々恐々としていたのに、ただのメッセンジャーだったことに拍子抜けするレギン。しかし、言伝の内容に凍りついた。
「──“貸一つ”」
「……ッ!?それはっ!」
「出来ないの?それなら…こうかな?」
「グ…グァアアアアアアアアッ!!!」
言伝の意味を察して、思わず怒鳴りそうになるレギンの右腕を入間が手刀で切り飛ばすと、レギンは激痛で、部下達は恐怖で悲鳴を上げた。
“貸一つ”という事は、襲撃者達の命を救うことの見返りに何時か借りを返せということだ。
長老会議が長老の一人を失い、会議の決定を実質的に覆すという苦渋の選択をしてまで不干渉を結んだというのに、伝言すれば長老衆は無条件で入間の要請に応えなければならなくなる。
だが客観的に見れば、ジンの場合もレギンの場合も一方的に仕掛けておいて返り討ちにあっただけであり、その上、ジンは入間の手で完全に治療して貰っている上に、レギン達は命は見逃してもらったということになるので、長老会議の威信にかけて無下にはできないだろう。無視してしまえば唯の無法者だ。それに、今度こそ入間が牙を向くかもしれない。
つまり、レギン達が生き残るという事は、自国に不利な要素を持ち帰るということでもあるのだ。長老会議の決定を無視した挙句、負債を背負わせる、しかも最強種と豪語しておきながら最弱み見下していた兎人族に半数以上を討ち取られての帰還……まさに生き恥だ。
「そもそもね、君達のボスらしいあの熊擬きは、逆恨みで仕掛けてきたんだよ。しかも僕は治療までしてあげたんだ。君達の怒りはお門違いも甚だしいんだよ。文句があるなら、僕が直々に君達の縄張りに赴いて、一族を皆殺しにしてあげようか?」
「グウゥ…わ、わかった!我らは帰還を望む!その条件を飲む!」
レギンは切断面を抑え、激痛に体を震わせながら叫んだ。
ハウリア族により心を折られ、レギンの決死の命乞いも聞いていた部下達も反抗する気力もないようで悄然と項垂れて帰路についた。若者が中心だったことも素直に敗北を受け入れた原因だろう。レギンも、もうフェアベルゲンで幅を利かせることはできないだろう。一生日陰者扱いの可能性が高い。だが、理不尽に命を狙ったのだから、むしろ軽い罰である。
「ならよし。ならさっさと帰ってそれら全てをフェアベルゲンに伝えてもらうよ。惚けでもしたら、その時がフェアベルゲンの最期だと思った方がいいよ?」
踵を返して歩きながら言い残す入間の背中を、レギン達はただ眺める事しか出来なかった。
その背中が小柄な少年ではなく、豪華な衣服を纏う王の背中に見えて…。
その後、入間達一行は大樹に向かって歩みを進めていた。先頭をカムに任せ、これも訓練とハウリア達は周囲に散らばって索敵をしている。油断大敵を骨身に刻まれているので、全員その表情は真剣そのものである。
そうして歩いている内に、一行は遂に大樹の下へたどり着いた。
「……なにこれ?」
大樹を見た入間の第一声は、驚き半分、疑問半分といった感じのものだった。ユエもアメリも、予想が外れたのか微妙な表情だ。三人は、大樹についてフェアベルゲンで見た木々のスケールが大きいバージョンを想像していたのだ。
しかし、実際の大樹は……見事に枯れていたのだ。
大きさに関しては想像通り途轍もない。直径は目算では測りづらいほど大きいが直径50mはあるのではないだろうか。明らかに周囲の木々とは異なる異様だ。周りの木々が青々とした葉を盛大に広げているのにもかかわらず、大樹だけが枯れ木となっているのである。
「大樹は、フェアベルゲン建国前から枯れているそうです。しかし、朽ちることはない。枯れたまま変化なく、ずっとあるそうです。周囲の霧の性質と大樹の枯れながらも朽ちないという点からいつしか神聖視されるようになりました。まぁ、それだけなので、言ってみれば観光名所みたいなものですが……」
三人の疑問顔にカムが解説を入れる。それを聞きながら入間は大樹の根元まで歩み寄った。そこには、アルフレリックが言っていた通り石板が建てられていた。
「これは……オルクスの扉の……」
「……ん、同じ文様」
「ん?そうなのか?」
石版にはオルクスの部屋の扉に刻まれていたものと全く同じ紋様が刻まれてだ。入間は確認のため、オルクスの指輪を取り出す。指輪の文様と石版に刻まれた文様の一つはやはり同じものだった。
「やっぱり、ここが大迷宮の入口みたいだね……でも、こっからどうすればいいんだ?」
入間は大樹に近寄ってその幹をペシペシと叩いてみたりするが、当然変化などあるはずもなく、カム達に何か知らないか聞くが返答はNOだ。アルフレリックにも口伝は聞いているが、入口に関する口伝はなかった。隠していた可能性もないわけではないから、これは早速貸しを取り立てるべきか?と悩み始める。
その時、石板を観察していたユエが声を上げる。
「入間、アメリ……これ見て」
「ん?」
「何かあったか?」
ユエが注目していたのは石板の裏側だった。そこには、表の七つの文様に対応する様に小さな窪みが開いていた。
「これは……」
入間が手に持っているオルクスの指輪を表のオルクスの文様に対応している窪みに嵌めてみると……石板が淡く輝きだした。
何事かと、周囲を見張っていたハウリア族も集まってきた。しばらく、輝く石板を見ていると、次第に光が収まり、代わりに何やら文字が浮き出始める。そこにはこう書かれていた。
〝四つの証〟
〝再生の力〟
〝紡がれた絆の道標〟
〝全てを有する者に新たな試練の道は開かれるだろう〟
「……どういう意味?」
「四つの証とは……この指輪の様な、迷宮の証か?」
「“再生の力”と“紡がれた絆の道”は?」
「う~ん、紡がれた絆の道標は、あれじゃないですか?亜人の案内人を得られるかどうか。亜人は基本的に樹海から出ませんし、入間さん達みたいに、亜人に樹海を案内して貰える事なんて例外中の例外ですし」
「……なるほど。それっぽいね」
「……あとは再生……私?」
ユエが自分の固有魔法を連想し自分を指差すが、アメリがそれを否定した。
「いや、恐らくそれはない。もしそうなら、試練である迷宮攻略に特定個人が必要という事になる。ユエの固有魔法は珍しいのだろう?試練に挑む条件としては不適切だ」
「……ん、確かに」
「……う~ん、枯れ木に……再生の力……四つの証……もしかして、七大迷宮の半分を攻略した上で、“再生”に関する神代魔法を手に入れて来いってことかな?」
目の前の枯れている樹を再生する必要があるのでは?と推測する入間。ユエとアメリもそうかもと納得顔をする。
「はぁ~、今すぐ攻略は無理って事か……面倒くさいけど他の迷宮から当たるしかないか……」
「ん……」
「気合いを入れていたのだがな……仕方ない」
再生だけならジオウの力で何とか出来るが、他の迷宮の証がないならどうしようもない。
ここまで来て後回しにしなければならないことに、入間は歯噛みする。ユエも、初めての迷宮攻略となる筈だったアメリも残念そうだ。しかし大迷宮への入り方が見当もつかない以上、ぐだぐだと悩んでいても仕方ない。気持ちを切り替えて先に三つの証を手に入れることにした。
入間はハウリア族に号令をかけた。
「今聞いた通り、僕達は先に他の大迷宮の攻略を目指す事にする。あと三つの証を手に入れて戻ってきたら、君達に再び案内を頼みたいんだけど、いいかな?」
『『『ハッ!お任せください!』』』
カム達と言葉を交えると、入間はチラリとシアを見る。その瞳には、別れの言葉を残すなら今しておけという意図が含まれているのをシアは正確に読み取った。いずれ戻ってくるとしても三つもの大迷宮の攻略となれば、それなりに時間がかかるだろうから当分は家族とも会えなくなる。
シアは頷き、カム達に話しかけようと一歩前に出た。
「父様……皆……いってきます!」
「ああ…シア、気を付けて行っておいで。広い世界を見て、苦難を乗り越え、より成長したお前に会えるのを楽しみにしているぞ」
「……ハイッ!」
目に涙を溜めながら短く語り合うハウリア達。
今回ばかりは入間達は余計な口を挟まず、それを微笑ましそうに眺めていた。
こうして、新たにシア・ハウリアを仲間に加えた入間達は、樹海の境界でハウリア達の見送りを受けながらライドストライカーを発進させ、新たなる迷宮攻略への旅を再開させた。
一気に進めました。
次回はブルックの町です。
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