悪魔の孫は時の王者となって世界最強   作:MTHR

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ブルックの町です。


16話 ブルックの町

 入間達はライドストライカーに乗り込んで平原を疾走していた。

 乗っているのは前回と同様で、入間の運転するライドストライカーの後ろにユエ、アメリが運転するライドストライカーにはシアが乗っている。時速100㎞を優に越える速度で平原を突き進んでいると、シアが入間に質問した。

 

「入間さん。そう言えば聞いていませんでしたが目的地は何処ですか?やっぱりグリューエンの大火山ですか?」

「ん?言ってなかった?」

「聞いてませんよ!」

「……私は知っている」

「私もだ。シア、聞いてなかったのか?」

「わ、私だって仲間なんですから、そういうことは教えて下さいよ! コミュニケーションは大事ですよ!」

「そう騒がずとも教えるって。…次の目的地はライセン大峡谷だ」

「ライセン大峡谷?」

 

 目的地に疑問の表情を浮かべるシア。現在確認されている七大迷宮は【ハルツィナ樹海】を除けば、【グリューエン大砂漠の大火山】と【オルクス大迷宮】である。オルクスは攻略済みなので、自然次の目的地は【大火山】だろうと思ったのだ。その疑問を察したのか入間が意図を話す。

 

「一応、ライセンも七大迷宮があると言われているからね。どうせ【大火山】を目指して西大陸に行くなら、東西に伸びるライセンを通りながら行けば、途中で迷宮が見つかるかもしれないだろう?」

「つ、ついででライセン大峡谷を渡るのですか……」

 

 ライセン大峡谷は地獄にして処刑場というのが一般的な認識であり、つい最近一族が全滅しかけた場所でもある為、そんな場所を一気に達が唯の街道と一緒くたに考えている事にシアは少しばかり動揺する。

 その動揺が手に取るように分かったアメリは、肩越しにシアに話し掛ける。

 

「シア、お前は自分の力を自覚しろ。今のお前は谷底の魔物もその辺の魔物も変わらないだろう。ライセンは放出された魔力を分解する場所だぞ?身体強化に特化したお前なら何の影響も受けずに十全に動けるんだ、寧ろ独壇場だぞ」

「シア、自分の得意分野くらいは理解しなよ」

「……師として情けない」

「うぅ~、面目無いですぅ」

 

 入間とユエにも呆れた視線を向けられ目を泳がせるシアは、話題を逸らそうとする。

 

「で、では、ライセン大峡谷に行くとして、今日は野営ですか?それともこのまま、近場の村か町に行きますか?」

「今後の為にもそろそろこの世界の通貨が欲しい、素材を換金できるらしいから町に向かう。前に見た地図通りなら、この方角に町があった筈だ」

 

 入間としては、そろそろマトモな料理を食べようと思っていたところだ。檜山に落とされてから、入間は殆どトレント擬きの果実や魚しか食べていないので、そろそろマトモな食事が食べたいと思っていた。

 それに今後、町で買い物なり宿泊なりするなら金銭が必要になる。素材だけなら腐る程持っているので換金してお金に替えておきたかった。それにもう一つ、ライセン大峡谷に入る前に落ち着いた場所でやっておきたい事もあったのだ。

 

 そんな風に話しながらライドストライカーで数時間程走り、そろそろ日が暮れるという頃、前方に町が見えてきた。奈落から出て空を見上げた時の様な、戻ってきたという気持ちが湧き出したのか、背中のユエがどこかワクワクした様子だ。

 そろそろ町の方からも入間達を視認できそうな距離まで来ると、ライドストライカーをウォッチに戻して徒歩に切り替える入間達。流石にバイクで乗り付けては大騒ぎになるだろう。

 先程からステータスプレートを手にして何かをしていた入間は、ふと思い出した様にシアに向き直り、懐からあるものを取り出した。

 

「そう言えばシア。町に入るに前に、これをつけといて」

「……え?」

 

 

 

 

 

 そうして歩いていると、町の全体像が見えてきた。周囲を堀と柵で囲まれた小規模な町だ。街道に面した場所に木製の門があり、その傍には小屋もある。恐らく門番の詰所だろう。小規模といっても、門番を配置する程度の規模はある様だ。

 それなりに充実した買い物が出来そうだと入間は頬を緩め、ユエとアメリも楽しみというような表情だ。唯一、黒を基調として小さな水晶の様な物が目立たないが付けられているかなりしっかりした作りの首輪が付けられたシアが首輪に対してブチブチと文句を垂れていたが、全員スルーした。

 

 そして、遂に町の門まで辿り着いた。案の定門の脇の小屋は門番の詰所だったらしく、武装した男が出てきた。格好は革鎧に長剣を腰に身につけているだけで、兵士というより冒険者に見える。その冒険者風の男が入間達を呼び止めた。

 

「止まってくれ。ステータスプレートを。後、町に来た目的は?」

 

 規定通りの質問なのだろう。どことなくやる気なさげである。入間は門番の質問に答えながらステータスプレートを取り出した。

 

「食料の補給がメインです。旅の途中でしてね」

 

 ふ~んと気のない声で相槌を打ちながら門番の男が入間のステータスプレートをチェックする。

 

 ステータスプレートにはステータスの数値と技能欄を隠蔽する機能がある。冒険者や傭兵においては、戦闘能力の情報漏洩は致命傷になりかねないからである。先程、入間はステータス表記の偽装を施していたのだ。だが、名前、年齢、天職といった基本情報は隠すことは出来ないので、そこは門番に幻術を掛けることでやり過ごす。

 

 門番がユエとアメリとシアにもステータスプレートの提出を求めようとして三人に視線を向けると、硬直した。みるみると顔を真っ赤に染め上げると、ボーと焦点の合わない目でユエ達を見ている。ユエもアメリもシアも、他から隔絶したレベルの美少女達だ。つまり、門番の男は三人に見惚れて正気を失っているのだ。

 そこで入間がわざとらしく咳払いし、門番はそれにハッとなって慌てて視線を入間に戻す。

 

「ここに来る前に魔物に襲撃されてね。この二人は失くしちゃったんだ。こっちの兎人族は……わかるでしょ?」

 

 その言葉だけで門番は納得したのか、なるほどと頷いてステータスプレートを入間に返す。

 

「それにしても随分な綺麗どころを手に入れたな。白髪の兎人族なんて相当レアなんじゃないか?あんたって意外に金持ち?」

 

 未だチラチラと三人を見ながら、羨望と嫉妬の入り交じった表情で門番が尋ね、入間は肩をすくめるだけで何も答えなかった。

 

「まぁいい。通っていいぞ」

「どうも。あ、そうだ。素材の換金場所って何処にありますか?」

「あん?それなら中央の道を真っ直ぐ行けば冒険者ギルドがある。店に直接持ち込むならギルドで場所を聞け。簡単な町の地図をくれるから」

「おぉ、それは親切ですね。ありがとうございます」

 

 門番から情報を得て、入間達は門をくぐり町へと入っていく。門のところで確認したがこの町の名前はブルックというらしい。町中は、それなりに活気があった。かつて見たオルクス近郊の町ホルアドほどではないが露店も結構出ており、呼び込みの声や、白熱した値切り交渉の喧騒が聞こえてくる。

 こういう騒がしさは訳もなく気分を高揚させるものだ。入間だけでなく、ユエとアメリも楽しげに目元を和らげている。

 しかし、シアだけは先程からぷるぷると震えて、涙目で入間を睨んでいた。

 

 怒鳴る事も無く、ただジッと涙目で見てくるので、理由が分かっている入間は苦笑い気味に声を掛ける。

 

「どうしたのさ、折角の町だよ?」

「これです!この首輪!これのせいで奴隷だと思われるじゃないですか!入間さん、分かっていて付けたんですね!うぅ、酷いですよぉ~、私達仲間じゃなかったんですかぁ~」

 

 シアが怒っているのはそういう事らしい。旅の仲間だと思っていたのに、意図して奴隷扱いを受けさせられた事が相当ショックだった様だ。勿論入間が付けた首輪は本来の奴隷用の首輪ではなく、シアを拘束する様な力はない。それはシアもわかっている。だがだとしても、やはりショックなものはショックなのだ。

 そんなシアの様子に入間はカリカリと頭を掻きながら目を合わせる。

 

「考えてもみなって、奴隷でもない亜人族、それも愛玩用として人気の高い兎人族が普通に町を歩ける訳無いでしょ?まして、君は白髪の兎人族で物珍しい上に容姿もスタイルも抜群。誰かの奴隷だと示してなかったら、町に入って十分も経たず目をつけられるよ。後は絶え間無い人攫いの嵐だ。面倒事になるのは目に見え……って何をしてるの?」

 

 言い訳あるなら言ってみろやゴラァ!という感じで入間を睨んでいたシアだが、話を聞いている内に照れたように頬を赤らめイヤンイヤンし始め、ユエとアメリが冷めた表情でシアを見ている。

 

「も、もう、入間さん。こんな公衆の面前で、いきなり何言い出すんですかぁ。そんな、容姿もスタイルも性格も抜群で、世界一可愛くて魅力的だなんてぇ、もうっ!恥かしいでっぶげら!?」

 

 調子に乗って話を盛るシアの頬に、ユエとアメリの黄金のダブルパンチが突き刺さる。可愛げの欠片もない悲鳴を上げて倒れるシア。身体強化していなかったので、別の意味で赤くなった両頬をさすりながら起き上がる。

 

「「……調子に乗るな」」

「……ずびばぜん、ユエざん、アメリざん」

 

 冷めた声にぶるりと体を震わせるシア。そんな様子に呆れた視線を向けながら、入間は話を続ける。

 

「つまりね。人間族のテリトリーでは寧ろ奴隷という身分が君を守っているんだ。それ無しじゃあトラブルの元なんだよ」

「それは……わかりますけど……」

 

 理屈も有用性もわかる。だがやはり納得し難いようで不満そうな表情のシア。仲間というものに強い憧れを持っていただけに、そう簡単に割り切れないのだろう。そんなシアに、今度はユエとアメリが声をかけた。

 

「……有象無象の評価なんてどうでもいい」

「ユエさん?」

「大切な事は、大切な人が知っていてくれれば十分だ。違うか?」

「アメリさん………………そう、そうですね。そうですよね」

「……ん、不本意だけど……シアは私とアメリが認めた相手……小さい事気にしちゃダメ」

「……えへへ。ありがとうございますぅ」

 

 シアはユエとアメリの言葉に照れた様に微笑みながらチラッチラッと入間を見る。何かの言葉を期待する様に。

 

 入間は仕方ないという様に肩を竦めて言葉を紡ぐ。

 

「まぁ、奴隷じゃないとバレて襲われても見捨てたりしないさ」

「街中の人が敵になってもですか?」

「既に帝国兵とだって殺りあったでしょ?」

「じゃあ、国が相手でもですね!ふふ」

「今更だよ。世界だろうと神だろうと、僕の仲間に手を出すなら容赦しないさ」

「くふふ、聞きました?ユエさん、アメリさん。入間さんったらこんな事言ってますよ?よっぽど私達が大事なんですねぇ~」

「……入間が大事なのは私だけ」

「ちょっ、空気読んで下さいよ!そこは、何時も通り『…ん』て素直に返事するところですよ!」

「………ムゥ」

 

「…フフ」

 

 相変わらず冷たいユエに、頬を膨らませるアメリ。シアはユエの態度に文句を言いながらも嬉しげで楽しげな表情をする。いざとなれば、自分の為に世界とだって戦ってくれるという言葉は、やはり一人の女として嬉しいものだ。まして、それが惚れた相手なら尚更。

 

 入間はじゃれあっている(様に見える)三人を見て微笑ましそうに笑うと、シアの首輪について話し始める。

 

「それからその首輪だけど、念話石と特定石が組み込んであるから、直接魔力を注げば使える」

「念話石と特定石ですか?」

 

 念話石とは、文字通り念話ができる鉱物だ。生成魔法により“念話”を鉱石に付与しており、込めた魔力量に比例して遠方と念話が可能になる。

 特定石は、“気配感知”や“特定感知”を付与した物だ。特定感知を使うと多くの気配の中から特定の気配だけ色濃く捉えて他の気配と識別しやすくなる。それを利用して、魔力を流し込む事でビーコンの様な役割を果たす事が出来る様にしたのだ。ビーコンの強さは注ぎ込まれた魔力量に比例する。

 

 どちらも奈落を出る前に宝の持ち腐れと生成魔法の練習で作った物だが、念話系技能を持たないシアに丁度良いと思い加工したのだ。入間の説明に、シアさ感心の声を上げる。

 

「着脱については、特定量の魔力を流す事で一応外せる様になっている」

「なるほどぉ~、つまりこれは……いつでも私の声が聞きたい、居場所が知りたいという入間さんの気持ちという訳ですね?もうっ、そんなに私の事が好きなんですかぁ?流石にぃ、ちょっと気持ちが重いっていうかぁ、あっ、でも別に嫌ってわけじゃなくッバベルンッ!?」

「…調子に乗るな」

「ぐすっ、ずみまぜん」

 

 美しい曲線を描いて飛来したユエの蹴りが後頭部に決まり、シアは奇怪な悲鳴を上げながら倒れ、アメリから冷ややかな声がかけられる。

 旅の同行は許しても、入間へのアプローチはそうそう許してもらえないらしい。尤も、シアの言動がアプローチになっているかは甚だ疑問ではあるが。

 

 そんな風に仲良く?メインストリートを歩いていくと、一本の大剣が描かれた看板を発見する。規模は二回り程小さいが。かつて【ホルアド】の町でも見た冒険者ギルドの看板だ。

 

 入間は看板を確認すると重厚そうな扉を開き中に踏み込んだ。

 

 

 

 

 

 一歩足を踏み入れたそこは、清潔さが保たれた場所だった。入口正面にカウンターがあり、左手は飲食店になっている様だ。何人かの冒険者らしい者達が食事を取ったり雑談したりしている。誰一人酒を注文していない事からすると、元々酒は置いていないのかもしれない。酔っ払いたいなら酒場に行けという事だろう。

 入間達がギルドに入ると、冒険者達が当然の様に注目してくる。最初こそ見慣れない四人組という事で細やかな注意を引いたに過ぎなかったが、彼等の視線がユエとアメリとシアに向くと、途端に瞳の奥の好奇心が増した。中には「ほぅ」と感心の声を上げる者や、恋人なのか女冒険者に殴られている者もいる。平手打ちでないところが冒険者らしい。

 テンプレ宜しくでちょっかいを掛けてくる者がいるかとも思ったが、意外に理性的で観察するに留めている様だ。足止めされなくて幸いと入間はカウンターへ向かう。

 

 カウンターには恰幅がいいオバチャンが座っていた。年の頃は40代といったところか、ニコニコと人好きのする笑みを浮かべている。

 内心、テンプレ(ゲーム)でよくある美人の受付をほんの少~しだけ期待していた入間だが、結局ゲームと現実は違うのだと悟ってこっそり落胆し、女性陣から冷めた視線を向けられていた。

 

 それに気づいたのか、オバチャンがニコニコ笑いながら話しかけてきた。

 

「可愛い子が三人もいるのに、まだ足りなかったのかい?残念だったね、美人の受付じゃなくて」

「いえいえ、そんなこと考えてませんから…」

「あはははは、女の勘を舐めちゃいけないよ?男の単純な中身なんて簡単にわかっちまうんだからね。あんまり余所見ばっかして愛想尽かされないようにね?」

「……肝に銘じておきます」

「あらやだ、年取るとつい説教臭くなっちゃってねぇ、初対面なのにゴメンね?」

 

 入間の返答に申し訳なさそうに謝るオバチャン。何とも憎めない人だ。チラリと食事処を見ると、冒険者達が「あ~あいつもオバチャンに説教されたか~」みたいな表情で入間を見ている。どうやら、冒険者達が大人しいのはオバチャンの腕によるもののようだ。

 

「さて、じゃあ改めて、冒険者ギルド、ブルック支部にようこそ。ご用件は何かしら?」

「ええ、素材の買取をお願いします」

「素材の買取だね。じゃあ、まずステータスプレートを出してくれるかい?」

「?買取にステータスプレートの提示が必要なんですか?」

 

 入間の疑問に「おや?」という表情をするキャサリン。

 

「あんた冒険者じゃなかったのかい?確かに、買取にステータスプレートは不要だけどね、冒険者と確認できれば一割増で売れるんだよ」

「へえ……」

 

 オバチャンの言う通り、冒険者になれば様々な特典も付いてくる。生活に必要な魔石や回復薬を始めとした薬関係の素材は冒険者が取ってくるものが殆どだ。町の外はいつ魔物に襲われるかわからない以上、素人が自分で採取しに行く事は殆ど無い。危険に見合った特典が付いてくるのは当然だった。

 

「他にも、ギルドと提携している宿や店は1~2割程度は割り引いてくれるし、移動馬車を利用する時も高ランクなら無料で使えたりするね。どうする、登録しておくかい? 登録には千ルタ必要だよ」

 

 ルタとは、この世界トータスの北大陸共通の通貨だ。ザガルタ鉱石という特殊な鉱石に他の鉱物を混ぜる事で異なった色の鉱石ができ、それに特殊な方法で刻印したものが使われている。青、赤、黄、紫、緑、白、黒、銀、金の種類があり、左から1、5、10、50、100、500、1000、5000、1万ルタとなっている。驚いた事に貨幣価値は日本と同じだ。

 

「そうか、なら折角だし登録しておこうかな。悪いんですが、最近こちらに来たばかりでこちらの通貨の持ち合わせがないんです。買取金額から引く形で頼めるますか?勿論、最初の買取額はそのままでいいので」

「可愛い子三人もいるのに文無しなんて何やってんだい。ちゃんと上乗せしといてあげるから、不自由させんじゃないよ?」

「…すみません」

「若いのに細かい事なんて気にしてんじゃないよ」

 

 入間は有り難く厚意を受け取っておく事にした。ステータスプレートを差し出す。勿論、こっそり幻術をかけておく。

 

 オバチャンはユエとアメリとシアの分も登録するかと聞いたが、それは断った。三人はそもそもプレートを持っていないので発行からしてもらう必要があり、そうなるとステータスの数値も技能欄も隠蔽されていない状態で目に付く事になる。

 入間としては三人のステータスを見てみたい気もしたが、恐らく技能欄にはばっちりと固有魔法等も記載されているだろうし、それを見られてしまう事を考えると、まだ自分達の存在が公になっていない段階では知られない方が面倒が少なくて済むと今は諦める事にした。

 

 戻ってきたステータスプレートには、新たな情報が表記されていた。天職欄の横に職業欄が出来ており、そこに“冒険者”と表記され、更にその横に青色の点が付いている。

 青色の点は冒険者ランクだ。上昇するにつれ赤、黄、紫、緑、白、黒、銀、金と変化する。そこは通貨の価値を示す色と同じである。つまり、青色の冒険者とは「お前は一ルタ程度の価値しかねぇんだよ、ぺっ」と言われているのと一緒という事だ。この制度を作った初代ギルドマスターの性格は捻じ曲がっているのが透けて見える。

 因みに、戦闘系天職を持たない者で上がれる限界は黒だ。辛うじてではあるが四桁に入れるので、天職なしで黒に上がった者は拍手喝采を受けるらしい。天職ありで金に上がった者より称賛を受けるというのであるから、如何に冒険者達が色を気にしているかが分かるだろう。

 

「男なら頑張って黒を目指しなよ?お嬢さん達にカッコ悪いところ見せない様にね」

「ええ、そうさせてもらいます。それで、買取はここでよろしいですか?」

「構わないよ。あたしは査定資格も持ってるから見せてちょうだい」

 

 オバチャンは受付だけでなく買取品の査定もできるらしい。優秀な人材だ。入間はあらかじめ宝物庫から出してバックに入れ替えておいた素材を取り出す。品目は魔物の毛皮や爪、牙、そして魔石だ。

 カウンターの受け取り用の入れ物に入れられていく素材を見て、再びオバチャンが驚愕の表情をする。

 

「こ、これは!」

 

 恐る恐る手に取り、隅から隅まで丹念に確かめる。息を詰めるような緊張感の中、漸く顔を上げたオバチャンは、溜息を吐き入間に視線を転じた。

 

「とんでもないものを持ってきたね。これは…………樹海の魔物だね?」

「ああ、はい」

 

 奈落の魔物の素材もあるのだが、奈落の魔物の素材などこんな場所で出す訳が無い。そんな未知の素材を出されたら一発で大騒ぎだ。樹海の魔物の素材でも十分に珍しいだろう事は予想していたので少し迷ったが、他に適当な素材も無かったので買取に出した。キャサリンの反応を見る限り、やはり珍しい様だ。

 

「樹海の素材は良質な物が多いからね、売ってもらえるのは助かるよ」

「やはり珍しいですかね?」

「そりゃあねぇ。樹海の中じゃあ人間族は感覚を狂わされるし、一度迷えば二度と出てこれないからハイリスク。好き好んで入る人はいないねぇ。亜人の奴隷持ちが金稼ぎに入るけど、売るならもっと中央で売るさ。幾分か高く売れるし、名も上がりやすいからね」

 

 キャサリンはチラリとシアを見る。恐らく、シアの協力を得て樹海を探索したのだと推測したのだろう。樹海の素材を出してもシアのお陰で不審にまでは思われなかった様だ。代わりに、「若いのに無茶をして」という心配そうな顔を向けられてしまった。

 

 実際は亜人族の国【フェアベルゲン】まで踏み込んだ挙句、兎人族の魔改造によって兎人族が熊人族に圧勝させるまで行ったと知れば、オバチャンは果たしてどんな表情になるのか、入間は案外動じないかもしれないと思って内心で苦笑いを浮かべるのだった。

 それからキャサリンは、全ての素材を査定し金額を提示した。買取額は40万7000ルタ。結構な額だ。

 

「これでいいかい?中央ならもう少し高くなるだろうけどね。」

「いや、この額で構いません」

 

 入間は五十一枚のルタ通貨を受け取る。この貨幣、鉱石の特性なのか異様に軽い上、薄いので五十枚を超えていても然程苦にならなかった。尤も、例え邪魔でも入間には宝物庫があるので問題は無いが。

 

「ところで、門番の彼にこの町の簡易な地図を貰えると聞いたのですが……」

「ああ、ちょっと待っといで……ほら、これだよ。おすすめの宿や店も書いてあるから参考にしなさいな」

 

 手渡された地図は、中々に精巧で有用な情報が簡潔に記載された素晴らしい出来だった。これが無料とはちょっと信じられない位の出来である。

 

「これは……いいんですか?こんな立派な地図を無料で。お金を請求してもいい出来だと思うんですが……」

「構わないよ、あたしが趣味で書いてるだけだからね。書士の天職を持ってるから、それ位落書きみたいなもんだよ」

「成る程、ありがとうございます」

「いいって事さ。それより、金はあるんだから少しはいい所に泊りなよ。治安が悪い訳じゃあないけど、その三人ならそんなの関係無く暴走する男連中が出そうだからね」

「アハハ……そうさせてもらいます」

 

 オバチャンは最後までいい人で気配り上手だった。

 入間はオバチャンの優秀さに苦笑いしながら返事をし、入口に向かって踵を返し、ユエとアメリとシアの三人も頭を下げて追従する。食事処の冒険者の何人かがコソコソと話し合いながら、最後までユエ達三人を目で追っていた。

 

「ふむ、いろんな意味で面白そうな連中だね……」

 

 後には、そんなオバチャンの楽しげな呟きが残された。

 

 

 

 




今回は原作通りに事が進みました。

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