悪魔の孫は時の王者となって世界最強   作:MTHR

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マサカの宿ですが、後半にオリジナル展開を入れます。


17話 夜の宿屋で

 最早地図というよりガイドブックと称すべきそれを見て入間達が向かうのは“マサカの宿”という宿屋だ。紹介文によれば料理が美味く防犯もしっかりしており、何より風呂に入れるという。最後のが決め手だ。その分少し割高だが、金はあるので問題ない。若干、何が『まさか』なのか気になったというのもあるが……

 宿の中は一階が食堂になっている様で、複数の人間が食事をとっていた。入間達が入ると、お約束の様にユエとアメリとシアに視線が集まる。それらを無視してカウンターらしき場所に行くと、15歳くらい女の子が元気よく挨拶しながら現れた。

 

「いらっしゃいませー、ようこそマサカの宿へ!本日はお泊りですか?それともお食事だけですか?」

「宿泊です。このガイドブックを見て来たんですが、記載されている通りでいいですか?」

 

 入間が見せたオバチャン特製地図を見て合点がいった様に頷く女の子。

 

「ああ、キャサリンさんの紹介ですね。はい、書いてある通りですよ。何泊のご予定ですか?」

 

 どうやらあの受付のオバチャンの名前はキャサリンらしい。明らかに只者ではなさそうなので、入間はキャサリンの名前を頭に留めておく。

 

「一泊で食事付き、あとお風呂もお願いします」

「はい。お風呂は15分で100ルタです。今のところ、この時間帯が空いてますが」

 

 女の子が時間帯表を見せる。なるべくゆっくり入りたいので、男女で分けるとして二時間は確保したい。その旨を伝えると「えっ、二時間も!?」と驚かれたが、元とはいえ日本人たる入間としては譲れないところだ。

 

「え、え~と、それでお部屋はどうされますか? 二人部屋と三人部屋が空いてますが……」

 

 ちょっと好奇心が含まれた目で入間達を見る女の子。そういうのが気になるお年頃だ。だが、周囲の食堂にいる客達まで聞き耳を立てるのは勘弁してもらいたいと思う入間。ユエもアメリもシアも美人とは思っていたが、想像以上に三人の容姿は目立つ様だ。美男美女を見慣れている入間の感覚が麻痺しているのだろう。

 

「じゃあ、一人部屋の三人部屋を一つずつで」

 

 戸惑いのない入間の答えに、周囲は「そりゃそうだ」という顔をする。勿論、周囲が考えている通りに入間は男子で部屋を分けようとしているのだ。

 だが、そんな入間の言葉にユエが待ったをかけた。

 

「……ダメ。二人部屋二つで」

「ユエ?」

 

 その言葉に周囲の客達、特に男連中が絶望の表情となるが、ユエは構わずに言葉を紡いだ。

 

「……入間とアメリが相部屋。シアは今日だけは私と一緒」

「「ハァッ!?」」

「んなッ!?何でアメリさんなんですか!?私も入間と一緒に寝たいですぅ!」

 

 ユエの予想外の提案に入間とアメリが目を見開いて驚愕し、シアが猛然と抗議する。

 やがてユエの言葉に絶望の表情を浮かべた男連中が、次第に入間に対して嫉妬の炎が宿った眼を向け始める。宿の女の子は既に顔を赤くしてチラチラと入間とアメリを交互に見ていた。入間がこれ以上騒ぎが大きくなる前に止めに入ろうとするが、その目論見は少し遅かった。

 

「だ、だったら、ユエさんとアメリさんが一緒に寝て下さい!入間さんと私で一部屋です!」

「……ほぅ、それで?」

「そ、それで、入間さんに私の処女を貰ってもらいますぅ!」

「「なッ……!?」」

 

 静寂が舞い降りた。誰一人、言葉を発する事無く、物音一つ立てない。今や、宿の全員が入間達に注目、基凝視していた。厨房の奥から女の子の両親と思しき女性と男性まで出てきて「あらあら、まあまあ」「若いっていいね」と言った感じで注目している。

 

 やがて、顔を真っ赤にしたままだった入間が静寂を破るかのようにツッコミを放った。

 

「こ、こんな公の場で何を言ってるんだ君はぁああああああッ!!!」

「はきゅっ!?」

 

 入間が絶叫しながらシアの頭に拳骨を放ち、シアは涙目になって蹲り両手で頭を抱えている。だが入間は余程恥ずかしかったのか、そのままシアを正座させて説教を始める。

 それを見ていたユエは、未だに真っ赤な顔で口をパクパクさせて硬直しているアメリに声をかけた。

 

「……アメリ」

「ッ!お、おいユエ!どういうつもりだ!?年頃の男女がい、一緒に寝るなんて破廉恥な事が出来るとでも……ッ」

 

 その呼び掛けに、意識を取りもしたらしいアメリは、真っ赤な顔のまま原因であるユエにこの状況を招いた真意を聞こうとするが、ユエが悪ふざけの意図など微塵も感じられないほど真っ直ぐな目でアメリの目を見ていた事に気付き、言葉を詰まらせた。

 ユエは一瞬だけデフォルトの無表情を崩して不機嫌そうな顔となるが、直ぐに無表情に戻って、ポツリと呟いた。

 

「……チャンスは一度だけ」

「……ッ!!」

 

 ユエの言葉の意味を完全に理解したアメリは、驚いたようにユエを見返す。

 アメリの反応を見た後、ユエはカウンターまで歩いて女の子に向き直る。女の子はユエの視線を受けてビシィと姿勢を正した。

 

「……というわけで、二人部屋二つお願い」

「ユエ!?何勝手に決めてるの!?」

「す、凄い…!はっ、まさかお風呂を2時間も使うのはそういうこと!?お互いの体で洗い合ったりするんだわ!それから、あ、あんなことやこんなことを…。なんてアブノーマルなっ!」

 

 咄嗟に入間がツッコミをいれ、女の子はトリップしていた。見かねた女将さんらしき人がズルズルと女の子を奥に引きずっていく。代わりに父親らしき男性が手早く宿泊手続きを行った。結局、二人部屋二つに決まってしまった。部屋の鍵を渡しながら「うちの娘がすみませんね」と謝罪するが、その眼には「男だもんね? わかってるよ?」という嬉しくない理解の色が宿っている。絶対、翌朝になれば「昨晩はお楽しみでしたね?」とか言うタイプだ。

 何を言っても誤解が深まりそうなので、急な展開に呆然としている客達を尻目に、入間は三人を引きずってそのまま三階の部屋に駆ける様に向かった。暫くすると、止まった時が動き出したかの様に階下で喧騒が広がっていたが、何だか異様に疲れた気がするので無視する入間。そして部屋に入ると自らのベッドにダイブして意識を強制的にシャットダウンした。

 

 数時間程眠ったのか、夕食の時間になった様でユエに起こされた入間は、ユエとアメリとシアを伴って階下の食堂に向かった。何故か、チェックインの時にいた客が全員まだ其処にいた事で入間は一瞬頬が引き攣りそうになるが、冷静を装って席に着く。

 すると、初っ端から滅茶苦茶顔を赤くした宿の女の子が「先程は失礼しました」と謝罪しながら給仕にやって来た。謝罪してはいるが瞳の奥の好奇心が隠せていない。注文した料理は確かに美味かったのだが、せっかく久しぶりに食べた真面な料理は、もう少し落ち着いて食べたかったと入間は内心溜息を吐くのだった。

 

 風呂は風呂で、男女で時間を分けたのにユエとシアが乱入してきて風呂場でまた修羅場になりそうになったところをアメリが顔を真っ赤にして止めに入ったり、その様子をこっそり風呂場の陰から宿の女の子が覗いていたり、覗きがバレて女将さんに尻叩きされていたり……

 

「ハァ~~……」

 

 そんな一時も安らげない時間を過ごした入間は、割り当てられた二人部屋のベッドに横たわり、入間の人生においても五指に入る程深~い溜め息を吐いた。心なしか、胃もキリキリと痛んでいる気がする。

 そんな入間の様子に、結局相部屋となり、寝巻きに着替えたアメリが苦笑い気味に入間に話し掛けた。

 

「大変そうだな…」

「はい、ユエもシアも結構強引ですから……今度宿を取るときは絶対に一人部屋にしなくちゃ……」

「そ、そうか………なぁ、イルマ」

「?」

 

 入間が目を向けると、アメリは顔をほんのり赤くし、モジモジしながら何かを言おうとしている。やがて、アメリは異を決したようにキッと端から見れば睨んでいるように入間に目を向けた。

 

「す、少し話がしたいんだ……時間を貰ってもいいか…?」

「え?あ、ハイ。別に……」

 

 本当は今からやっておきたいことがあるのだが、まあそんなに時間も掛からないし、思い返してみるとアメリと再開してからは樹海やハウリアの事もあってロクな会話が出来ていなかった事を思い出し、たまには思出話も良いだろうと思い、アメリの態度を訝しみながらもそれを了承する。

 だが、アメリが持ち出した話の内容は、入間の予想とは違っていた。

 

「イルマ……お前は、ユエとシアに告白された事を…どう思っているんだ?」

「へ?」

 

 何故そんな話を…?と一瞬だけ混乱した入間だったが、直ぐに恋バナが聞きたいのかという結論に至った。魔界で定期的に禁書(少女漫画)の朗読を行っていくなかで、冷血だとか言われてるアメリもその手(恋愛)の話が好きなことくらいは分かっている。

 それならユエとシアに聞けばいいのに…と思いながらも、取り敢えず入間は顔を少しだけ赤くし、頬をポリポリと掻きながらも律儀に答える。

 

「まぁ……受け入れるかどうかは別として、好意を抱いてくれているのは嬉しいとは思っていますよ。アプローチが過度というかやり過ぎな気もしますけど……」

 

 嘘偽りのない入間の本心だ。未だにユエにもシアにも恋心を抱いている訳ではないが、それでも彼女達の気持ちは嬉しいと思っている。本音を言えば、もう少しアプローチを控えてくれると嬉しい。特に、奈落で過ごしていた間に行われたユエの猛アプローチには、色んな意味で大変なのだ。

 すると、アメリは何となく頭に思い浮かんだ可能性に、まさか…と思いながらもその疑問を口にする。

 

「………お前、まさかとは思うが今回以外でもユエと風呂に迫られたのか?」

「ウグッ!?そ、それは……」

「なッ!?入ったのか!?イ、イルマ!!き、貴様は()()()()()()()()()()()()、他の女とそんな破廉恥な真似をしたのか!!?」

「いやいやいや!誤解ですから!確かに迫られたけど、疚しい真似は一切……ん?」

 

 ガシッ入間の胸ぐらを掴み、真っ赤に染まった凄まじい形相で詰め寄るアメリ。入間は手と首を全力で横に振って否定するが、その途中で気になる言葉が入っていたことに気付き、目をパチクリさせてアメリに目を向ける。

 その目を向けられたアメリは赤い顔のまま、一転して少ししおらしい様子でモジモジしていたが、直ぐにポツリと呟いた。

 

「わ、私だってな…出来ることなら、そんな風に……」

「ア、アメリさん…?」

「だから……その……」

 

 最期の辺りにはゴニョゴニョと声が小さくなっていくが、入間から恐る恐る訪ねられると、アメリは少し言い淀んだ後、やがて入間の目を真っ直ぐに見据え、口を開いた。

 

 

「好き…なんだ」

 

 

 目にうっすらと涙を溜め、自身の髪と同じ色に染めた顔で、アメリは入間に2年間抱き続けていた恋心(想い)を打ち明ける。

 

「先輩でも、悪魔学校(バビルス)の生徒会長としてでもなく……一人の女として、私はイルマ(お前)に……こ、恋をしている…!!」

 

 段々と言葉の意味を理解してきたのか、入間も徐々に顔を顔を赤くしていき、その表情を見たアメリは、緊張と羞恥心から早口で喋り始めた。

 

「に、似合わないだろう!こんなに身長差もあって、勇ましい()が恋などと…!」

「え、ええ!?そ、そんな事はありませんよ!!」

 

 何故か自分を卑下し始めるアメリに、入間は咄嗟にそんなことはないとフォローする。

 そんな訳の分からない状況の中で、もはや耳まで真っ赤にしながらも、アメリは感情のままに自分の想い口にした。

 

「だ、だかな!ユエにもシアにも、この野望は絶対に譲らん!!お前は必ず、私の恋人(モノ)にして見せる!覚悟しておけよ、イルマ!!」

 

 もはや告白なのか宣戦布告なのかも分からないアメリの宣言(告白)が響き渡る。

 やがて二人とも頭が冷えてくると、顔を真っ赤にしてしばらく悶えていたが、少しシチュエーションに酔ってしまったアメリが勢いのままに一緒に寝ようと提案し、断りきれなかった入間は一緒のベッドでアメリと寝る事になってしまった。シアがここにいれば扱いの差に泣いていただろう。

 やがてアメリはスヤスヤと寝息を立てて眠り始めたが、入間は突然の告白と現状に全く落ち着かず、結局朝になるまで一睡もする事が出来なかった。

 

 

 

 

 




マサカの宿で、まさかの展開でした(笑)
最近、この作品でアメリの影が薄くなっていた気がしたので、今回無理矢理といった感じで恋愛要素をぶちこみました。ご不満でしたら申し訳ございません。
因みに告白のシーンはゆらぎ荘の幽奈さん138話『不器用な狭霧さん』で雨野狭霧が冬空コガラシに告白をするシーンのオマージュです。

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