悪魔の孫は時の王者となって世界最強   作:MTHR

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ライセン大迷宮、始まります。
本作ではミレディもヒロイン入りとなるので、ライセン大迷宮は途中から原作と違う展開となります。


19話 大峡谷の大迷宮

「一撃必殺ですぅ!」

「……邪魔」

「鬱陶しい」

「……」

 

 入間達がブルックの町を出た後(ユエ、アメリ、シアのファンらしき人々の見送り付き)、ライドストライカーを走らせてかつて通った【ライセン大峡谷】の入口に辿り着いた。現在はそこから更に進み、【オルクス大迷宮】の転移陣が隠されている洞窟もとうに通り過ぎたあたりだ。

 【ライセン大峡谷】では相変わらず懲りもしない魔物達がこぞって襲ってくるが、シアは大槌モードのガシャコンブレイカーⅡが文字通り一撃必殺となって魔物を叩き潰し、ユエは至近距離まで迫った魔物を、魔力に物を言わせて強引に発動した魔法で屠っていき、入間はジカンギレード・ジュウモード、アメリは専用武器の“ジカンザックス・おのモード”を使い、様々なライドウォッチの力で遠距離攻撃を可能として、魔物達を一撃で絶命させていく。

 谷底に跋扈する地獄の猛獣達が完全に雑魚扱いだった。大迷宮を示す何かがないかを探索しながら片手間で皆殺しにして行く事で、道中には魔物の死体が溢れかえっていた。

 

「ライセンの何処かにある、っていうのはやっぱり大雑把過ぎるな」

 

 洞窟等があれば調べようと注意深く観察はしているのだが、それらしき場所は一向に見つからない。それでふと言葉を溢す入間。

 

「まぁ、大火山に行くついでなんですし、見つかれば儲けものくらいでいいじゃないですか。大火山の迷宮を攻略すれば手がかりも見つかるかもしれませんし」

「それもそうだが……ハルツィナ樹海で迷宮の証が三つも必要なら、ここで一つ確保しておきたいからな……」

「ん……それに魔物が鬱陶しい」

「あ~、ユエさんには好ましくない場所ですものね~」

 

 そんな風に愚痴を溢し魔物の多さに辟易しつつも、更に走り続けて日が暮れ谷底から見上げる空に上弦の月が美しく輝く頃、入間達はその日の野営の準備をしていた。野営テントを取り出し、夕食の準備をする。町で揃えた食材と調味料と共に、調理器具も取り出す。この野営テントと調理器具、全て入間の所持品である。

 

 今日の夕食はクルルー鳥のトマト煮である。クルルー鳥とは空飛ぶ鶏で、肉の質や味はまんま鶏の、この世界でもポピュラーな鳥肉だ。一口サイズに切られ、先に小麦粉をまぶしてソテーしたものを各種野菜と一緒にトマトスープで煮込んだ料理だ。肉にはバターの風味と肉汁をたっぷり閉じ込められたままスっと鼻を通るようなトマトの酸味が染み込んでおり、口に入れた瞬間それらの風味が口いっぱいに広がる。肉はホロホロと口の中で崩れていき、トマトスープがしっかり染み込んだジャガイモ(擬き)はホクホクで、人参(擬き)や玉葱(擬き)は自然な甘味を舌に伝える。旨みが溶け出したスープにつけて柔くしたパンも実に美味であり、入間(食いしん坊)は何度もおかわりした。

 こうした美味しい料理を食べられるのはシアのおかげである。入間もユエもアメリも、料理の腕は壊滅的なので(全員自覚無し)、料理が得意なシアは一行のコックを務めるようになったのだ。

 

 大満足の夕食を終えて、その余韻に浸りながら、いつも通り食後の雑談をする入間達。テントの中にいれば、入間の付与した気配遮断の魔術で魔物が寄ってこないのでゆっくりできる。偶然通りがかる魔物はテントに取り付けられた窓ガラスからミラーモンスター達が現れて補食する。そして就寝時間が来れば、四人で見張りを交代しながら朝を迎える、という予定だ。

 そしてそろそろ就寝時間だと寝る準備に入るユエとアメリとシア。最初の見張りは入間だ。テントの中にはふかふかの布団があるので、野営にも拘らず快適な睡眠が取れる。すると、布団に入る前にシアがテントの外へと出ていこうとした。

 振り向いた入間に、シアがすまし顔で言う。

 

「ちょっと、お花摘みに」

「手短にね」

 

 入間はそう声を掛けると共にシアはテントの外に出て行った。

 その後暫くして……

 

「い、入間さ~ん!ユエさ~ん!アメリさ~ん!大変ですぅ、こっちに来てくださぁ~い!」

 

 と、シアが魔物を呼び寄せる可能性も忘れたかの様に大声を上げた。何事かと入間達は顔を見合わせ同時にテントを飛び出す。

 シアの声がした方へ行くと、そこには巨大な一枚岩が谷の壁面に凭れ掛かる様に倒れおり、壁面と一枚岩との間に隙間が空いている場所があった。

 シアはその隙間の前で信じられないものを見た!という様に興奮に彩られた表情で手をブンブンと振っていた。

 

「こっち、こっちですぅ! 見つけたんですよぉ!」

 

 はしゃぎながら入間の手を引っ張るシアに、入間は少し呆れ気味に、ユエとアメリは鬱陶しそうに顔をしかめる。

 シアに導かれて岩の隙間に入ると壁面側が奥へと窪んでおり、意外な程広い空間が存在した。そしてその空間の中程まで来ると、シアが無言で、しかし得意気な表情でビシッと壁の一部に向けて指をさした。

 その指先をたどって視線を転じる入間達は、そこにあるものを見て「は?」と思わず呆けた声を出し目を瞬かせた。

 

 三人の視線の先には其処には壁を直接削って作ったのであろう見事な装飾の長方形型の看板があり、それに反して妙に女の子らしい丸っこい字でこう掘られていた。

 

〝おいでませ!ミレディ・ライセンのドキワク大迷宮へ♪〟

 

「「「……なにこれ」」」

 

 入間とユエとアメリの声が重なる。その表情は、正に“信じられないものを見た”という表現がぴったり当て嵌まるものだ。二人共、呆然と地獄の谷底には似つかわしくない看板を見つめている。

 

「何って、入口ですよ大迷宮の!おトイ……ゴッホン、お花を摘みに来たら偶然見つけちゃいまして。いや~、ホントにあったんですねぇ、ライセン大峡谷に大迷宮って」

 

 能天気なシアの声が響く中、入間達は漸く硬直が解けたのか何とも言えない表情になり、困惑しながらアメリを交えて話し合う。

 

「……ユエ。これ本物だと思う?」

「…………………………ん」

「長い間だな。根拠は何だ?」

「……“ミレディ”」

「やっぱりそこか……」

 

 “ミレディ”は、オスカーの手記に出て来たライセンのファーストネームだ。ライセンの名は世間にも伝わっており有名ではあるが、ファーストネームの方は知られていない。故にその名が記されているこの場所がライセンの大迷宮である可能性は非常に高かった。

 だがしかし、はいそうですかと素直に信じられないのは……

 

「なーんでこう…チャラいんだろう……」

 

 そういう事である。入間としては、オルクス大迷宮の内観を思い返し、それを鑑みて他の迷宮は発見からして判り辛いだろうと想像していただけに、この軽薄さは否応なく脱力させるものだった。ユエも大迷宮の過酷さを骨身に染みて理解しているだけに、若干まだ誰かの悪戯ではないかと疑わしそうな表情をしている。大迷宮を攻略していないアメリも、入間とユエから聞かされた大迷宮との凄まじいギャップに拍子抜けしているようだ。

 

「でも、入口らしい場所は見当たりませんね?奥も行き止まりですし……」

 

 そんな入間達の微妙な心理に気づく事も無く、シアは入口を探して辺りをキョロキョロ見渡したり、壁の窪みの奥の壁をペシペシと叩いたりしている。

 

「シア、あまり……」

 

ガコンッ!

 

「ふきゃ!?」

 

 「不用意に動き回るな」と言おうとした入間の眼前で、シアの触っていた窪みの奥の壁が忍者屋敷の仕掛け扉の様にグルンッと回転し、巻き込まれたシアはそのまま壁の向こう側へ姿を消した。

 

「「「……」」」

 

 奇しくも大迷宮への入口も発見した事で看板の信憑性が増した。やはりライセンの大迷宮はここにある様だ。まるで遊園地の誘い文句の様な入口に、「これでいいのか大迷宮」とか「オルクスのシリアスを返せ」とか言いたい事は山程あるが、無言でシアが消えた回転扉を見つめていた入間とユエとアメリの三人は溜息を吐くとシアと同じ様に回転扉に手をかけた。

 

 扉の仕掛けが作用して、三人を同時に扉の向こう側へと送る。中は真っ暗で、扉がグルリと回転し元の位置にピタリと止まる。その瞬間、

 

ヒュヒュヒュ!

 

 無数の風切り音が響いたかと思うと暗闇の中を入間達目掛けて全く光を反射しない漆黒の矢が侵入者を排除せんと無数に飛来する。

 

 

龍騎!スレスレシューティングッ!

 

 

 ジカンギレードに“龍騎ライドウォッチ”を装填した入間が引き金を引くと、放たれた炎によって計21本の矢は一瞬にして燃やし尽くされ、再び静寂が戻った。

 すると、同時に周囲の壁がぼんやりと光りだし辺りを照らし出す。入間達のいる場所は10m四方の部屋で、奥へと真っ直ぐに整備された通路が伸びていた。そして部屋の中央には石版があり、看板と同じ丸っこい女の子文字でとある言葉が掘られていた。

 

〝ビビった?ねぇ、ビビっちゃった?チビってたりして、ニヤニヤ〟

〝それとも怪我した?もしかして誰か死んじゃった?……ぶふっ〟

 

「「……」」

「アハハハ……」

 

 ユエとアメリの内心はかつてないほど一致している。すなわち「うぜぇ~」と。わざわざ“ニヤニヤ”と“ぶふっ”の部分だけ彫りが深く強調されているのが余計腹立たしい。特にパーティーで踏み込んで誰か死んでいたら、間違いなく生き残りは怒髪天を衝くだろう。

 唯一、入間だけはイラッとせずに苦笑いで留まっている。両親から受けた様々な修羅場による危険にして理不尽な経験に比べれば、この程度、イライラするに値しない。

 

 そしてふと、ユエが思い出した様に呟いた。

 

「……シアは?」

「「……あ」」

 

 ユエの呟きで入間とアメリも思い出した様で、くるりと背後の回転扉を振り返る。扉は一度作動する事に半回転するので、この部屋にいないという事は入間達が入ったのと同時に再び外に出た可能性が高い。結構な時間が経っているのに未だ入ってこない事に嫌な予感がして、入間は直ぐに回転扉を作動させに行った。

 果たしてシアは……いた。回転扉に縫い付けられた姿で。

 

「うぅ、ぐすっ、入間ざん……見ないで下さいぃ~、でも、これは取って欲しいでずぅ。ひっく、見ないで降ろじて下さいぃ~」

 

 何というか…実に哀れを誘う姿だった。

 恐らく矢が飛来する風切り音に気がつき見えないながらも天性の索敵能力で何とか躱したのだろう。だが、本当にギリギリだったらしく、衣服のあちこちを射抜かれて非常口のピクトグラムに描かれている人型の様な格好で固定されていた。ウサミミが稲妻形に折れ曲がって矢を避けており、明らかに無理をしているようでビクビクと痙攣している。

 尤も、シアが泣いているのは死にかけた恐怖などではない様だ。

 何故なら……足元が盛大に濡れていたからである。

 

「……ゴメン」

「うぅ~、どうして先に済ませておかなかったのですかぁ、過去のわたじぃ~!!」

 

 女として絶対に見られたくない姿を、よりにもよって惚れた男の前で晒してしまった事に滂沱の涙を流すシア。ウサミミもペタリと垂れ下がってしまっている。尤も、出会いの時点で百年の恋も覚める様な醜態を見ている上に、入間にその気が無いので今更だったが。

 

「……動かないで」

「今外してやる。入間、そのまま向こう向いていろ」

「…ハイ」

 

 それでもシアの心情は理解できる為、入間は目を閉じてシアに背を向けて見ないようにすると、流石に同じ女として思うところがあったのか、ユエとアメリが同情を含ませてシアを磔から解放する。

 

「……あれくらい何とかする。未熟者」

「面目ないですぅ~。ぐすっ」

「入間、着替え出してやれ」

「はい」

 

 “宝物庫”からシアの着替えを出してやり、シアは顔を真っ赤にしながら手早く着替えた。

 そしてシアの準備も整い、いざ迷宮攻略へ!と意気込み奥へ進もうとして、シアが石版に気がついた。

 

 顔を俯かせ垂れ下がった髪が表情を隠し、暫く無言だったシアは徐にガシャコンブレイカーⅡを取り出すと一瞬で大槌モードにし、渾身の一撃を石板に叩き込んだ。ゴギャ!という破壊音を響かせて粉砕される石板。余程腹に据えかねたのか、親の仇と言わんばかりの勢いで大槌モードのガシャコンブレイカーⅡを何度も何度も振り下ろした。

 

 すると、砕けた石板の跡の地面の部分に何やら文字が彫ってあり、そこには……

 

〝ざんね~ん♪この石板は一定時間経つと自動修復するよぉ~プークスクス!!〟

 

「ムキィーー!!」

 

 シアが遂にマジギレして更に激しくガシャコンブレイカーⅡを振い始めた。部屋全体が小規模な地震が発生したかのように揺れ、途轍もない衝撃音が何度も響き渡る。

 

 発狂するシアを尻目に、入間は呟いた。

 

「ミレディ・ライセンは性格に少し難があるみたいだね」

「「……少しどころじゃない(だろう)」」

 

 どうやらライセンの大迷宮は、オルクス大迷宮とは別の意味で一筋縄ではいかない場所の様だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 入間とユエとアメリがシアを追ってライセン大迷宮の扉の向こう側に入った頃、大迷宮の入り口から数キロ離れた峡谷の崖の上で、双眼鏡を手にして入間達を監視する人影がいた。

 その人影は入間達がライセン大迷宮に突入するのを確認すると、双眼鏡をしまい、入間達がいた場所(ライセン大迷宮の入口)を見て邪悪な笑みを浮かべたかと思うと、人影の背後に銀色に揺らめくオーロラが現れ、人影はそのオーロラに向かって踵を返して歩き出す。

 オーロラが消えた頃には、その人影は何処にも存在しなかった。

 

 

 




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