悪魔の孫は時の王者となって世界最強   作:MTHR

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アンケートの結果、優花のヒロイン入りが決まりました。原作通りに投票した方は申し訳ございません。
ウルの町は途中から原作と違う展開となる予定です。


27話 立て続けの再会

 広大な平原のど真ん中に、北へ向けて真っ直ぐに伸びる街道がある。街道と言っても、何度も踏みしめられる事で自然と雑草が禿げて道となっただけのものだ。この世界の馬車にはサスペンションなどは無いので、きっとこの道を通る馬車の乗員は目的地に着いた途端、自らの尻を慰める事になるだろう。

 そんな凸凹道の上空に、白くて巨大で長い物体があり得ない速度で疾走していた。空中に線路を出現させて突き進むその列車──“デンライナー”の一両に、5人の人影があった。

 

「──アスモデウス・アリス。イルマ様のシンユーだ。よろしく頼む」

 

 薄桃色の髪をした美青年──アスモデウスは、入間とアメリを除くバビルのメンバーに自己紹介をする。ギルドで再会した時はろくに言葉も交わせなかった入間達は、“電王ライドウォッチ”を使って呼び出したデンライナーで改めて情報交換をしていた。

 

「そで、アズ君は何でこの世界に来てから何してたの?それに何で冒険者に?」

「はいイルマ様!実は……」

 

 入間の質問に、アスモデウスはニパーッと笑って答える。まるで主人に甘える子犬のようだ。トッドに連れてこられた時の冷たい印象などもはや欠片も見うけられず、若干困惑気味のユエ達にアメリが「こういう奴だ。慣れてくれ」と苦笑い気味にフォローを入れる間にも、アスモデウスはこの世界に来てからの敬意を話していた。

 

 話によると、アスモデウスは門矢士によってトータスに飛ばされた時、見知らぬ魔物の群れの中に飛ばされたらしい。勿論、魔物は全員狩り尽くし、その後はなんと【ブルックの町】でステータスプレートを発行して冒険者をしながら入間達を探して旅をしていたらしい。門番のチェックを通れたのは、記憶を曖昧にする魔術で難を逃れたのだとか……入間も似たような事をしていたので、とやかくは言えないだろう。

 

「成る程な。それで、お前のステータスはどのような物なのだ?」

「ええ。……これです」

 

 アメリの質問に、アスモデウスはこの世界で発行したらしいステータスプレートを取り出して偽装を解除して机に置く。

 入間達が表記を覗き込むとそこには……

 

 

 

アスモデウス・アリス 17歳 男 レベル:??????

 

天職:炎術師/時の預言者 職業:冒険者 ランク:白

 

筋力:測定不能

体力:測定不能

耐性:測定不能

敏捷:測定不能

魔力:測定不能

魔耐:測定不能

 

技能:魔力操作[+口頭魔術][+無口頭魔術]・火属性適性[+魔力消費減少][+効果上昇][+持続時間上昇][+火岸花(アマリリス)]・家系能力・時の預言者[+瞬間移動][+逢魔降臨暦]・刃の心[+忍法][+影移動][+敏捷超強化]・救えよ世界、答えよ正解[+問題][+落雷]・鋼のボディに熱いハート[+機械操作][+セミヒューマノイズ化]・ファイナリータイム[+ギャラクシー][+水金地火木土天海][+灼熱太陽]・言語理解

 

 

 

「……これ、騒ぎにならなかった?」

「まあ、プレートを発行してくれたキャサリンという女性はかなり驚いていましたね。あまりこのステータスを見せびらかさないようにしろと言われました…」

 

 入間と同様、常識を覆すような表記のステータスだった。こんなステータスが公にならなかったのかと疑問に思った入間だが、どうやらアスモデウスのステータスは、キャサリンのお陰で騒ぎにならなかったらしい。

 

 そして、今度は入間達がこの世界で得た情報を提示した。

 この世界で盲信されているエヒトの正体、世界の均衡を崩した黒幕はエヒトと手を組んでいること、入間は黒幕とエヒトに排除される為に呼び出された事、共に召喚された光輝達の事、大迷宮の神代魔法やミレディ達“解放者”、そして村雨良の事も包み隠さず話した。

 

「……この世界の神が快楽主義者だったとは…やけに人間達がエヒト神を崇拝していたので、妙だとは思っていましたが……」

 

 どうやらアスモデウスも、この世界は歪だと感じていたらしい。暫く考え込んでいると、直ぐに入間の前に向き直り、再会した時のように入間に跪いた。

 

「イルマ様。貴方達の旅に、私も同行します」

「……いいの?」

「はい。この世界の害悪達がイルマ様を狙うのなら、それをお守りするのがイルマ様の矛たる私の役目ですから!」

「ありがとう!アズくん!!」

 

 アスモデウスの言葉に入間は喜び、ユエ達も「入間が良いならそれでいいか…」と納得することにした。どうやら癖が強そうだが、バビルに新しいメンバーが加わったようだ。

 すると、ふと思い出したようにアメリがミレディに視線を向けた。

 

「そういえばミレディ。そろそろ教えてくれないか?お前達の協力者していた村雨良の話」

「え?あー、そうだね。良くんはね……」

 

 大迷宮ではビッグマシンの乱入やミレディの勧誘によって忘れかけていたが、元々入間達はミレディから村雨良の情報を得ようとしていたのだ。それを聞かれたミレディも、特に渋ることなく答えた。

 

 ミレディの話によれば、村雨良はエヒトの手によってトータスに来たわけではないが、村雨自身も何故自分がこの世界に来たのか分からなかったらしい。そしてミレディ達解放者と出会い、共に人類のために戦う決意をした村雨良…仮面ライダーゼクロスは解放者と共にエヒトを討とうとしていたらしい。

 だがミレディ達解放者は神の策略によって敗北し、迷宮を造る事を決めたと同時に、ミレディを含めた7人は神代魔法の真髄“概念魔法”を使い、村雨良を元の世界に戻す魔法を作り出したのだ。

 最初は渋った村雨だったが、7人の説得と、自分には大迷宮で託せるものがない事から元の世界に帰る事を決め、10個のライドウォッチをミレディ達に託して帰ろうとしていた。

 その時、村雨良はこう言ったらしい……

 

『俺はお前達と共に神を討てなかった……だがいずれ、人類の自由を守る為に、仮面ライダーは現れる』

 

 その言葉を残して、村雨良は自分がいるべき世界へと帰還した。

 

(……このウォッチは、いずれ現れる僕達(仮面ライダー)への贈り物だったのかな…)

 

 入間はオルクスで手に入れたゼクロスウォッチを見つめる。通常、ライドウォッチにライダーの力が宿ればオリジナルのライダーはライダーでなくなる筈だ。なのに、地球(ほし)の本棚の記述によれば村雨良はトータスに帰ってからもライダーの力が健在だったらしい。門矢士のように半分の力をウォッチに託したのか、だとしても1号ウォッチを含めた9個はどうやって手に入れたのか、そもそもどうしてライドウォッチを持っていたのか、それに地球(ほし)の本棚で読んだあの本は、何故塗り潰されていたのか……。

 謎は解けても、新しい謎が増えた。結局ミレディの話でわかったのは、7つの迷宮を攻略した末に“概念魔法”という特別な魔法が手に入るという事だけだった。

 ここで考えてもしょうがないと半ば思考を放棄した入間は、話題を切り替えようと自動操縦で動いているデンライナーが向かう先に目を向けた。

 

「取り敢えず、今は依頼の方に専念しよう。この先にはウルっていう湖畔の町があるから、そこで一泊してから山脈に向かうとしようか」

「……積極的?」

「別に件のパーティーが全滅してようとどうでもいいけど、生きてた方が感じる恩は大きい。これから先神のペット達と殺し合いになるのは避けらないから、ある程度中立の立場の連中を増やしとけば面倒も減るでしょう?」

「……成る程」

 

 実際、イルワという盾が、どの程度機能するかはわからないし、どちらかといえば役に立たない可能性の方が大きいが保険は多いほうがいい。まして、ほんの少しの労力で獲得できるなら、その労力は惜しむべきではないだろう。

 

 そうして新たなメンバーを加えたバビルが乗るデンライナーは疾走して行く。調査依頼の範囲である北の山脈地帯に一番近い【ウルの町】まで後半日程だ。このまま休憩を挟まず一気に進み、恐らく日が沈む頃に到着するだろうから、町で一泊して明朝から捜索を始めるつもりだ。

 

 そこで、意外な人物との再会が待っていることを、入間はまだ知らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、今日も手掛かりはなしですか。……清水君、一体何処に行ってしまったんですか……?」

 

 悄然と肩を落とし、【ウルの町】の表通りをトボトボと歩くのは召喚組の一人にして唯一の教師にして常識人である【畑山愛子】だ。普段の快活な様子が鳴りを潜め、今は不安と心配に苛まれて陰鬱な雰囲気を漂わせている。心なしか表通りを彩る街灯の灯りすらいつもより薄暗い気がする。

 

「愛子、あまり気を落とすな。まだ何も分かっていないんだ。無事という可能性は十分にある。お前が信じなくてどうするんだ」

「そうですよ、愛ちゃん先生。清水君の部屋だって荒らされた様子はなかったんです。自分で何処かに行った可能性だって高いんですよ? 悪い方にばかり考えないでください」

 

 元気のない愛子に、そう声をかけたのは愛子専属護衛隊隊長の【デビッド】と、オルクス大迷宮で入間が意図せず命の危機から救った生徒の【園部優花】だ。周りには他にも騎士達と生徒達がも口々に愛子を気遣うような言葉をかけた。

 

 自分達の保身のために入間の誤爆事件を事故として片付けた生徒達は、自分の活躍しか頭にない光輝とその腰巾着トリオ、そして檜山(ゲス野郎)を始めとした15人は再度ゲーム感覚で迷宮攻略に挑み、残った生徒達は入間の訃報を聞いた愛子の働きかけのお陰で戦闘に参加する事はなくなり、王宮に引きこもるようになった。

 その後、優花をリーダーとした【菅原妙子】【宮崎奈々】【相川昇】【仁村明人】【玉井淳史】【清水幸利】が“愛ちゃん護衛隊”というものを愛子の許可も取らずに結成したのだが、実際は愛子を心変わりさせて生徒達を戦場に駆り出させようと目論んだ王宮がハニートラップ要員として派遣させたのにミイラ取りがミイラになったデビッドの他に【チェイス】【クリス】【ジェイド】の牽制しかしておらず、結局護衛の仕事など何一つしていなかったのだが。

 そして愛ちゃん護衛隊の一人、清水幸利が失踪してから既に二週間と少しが経ったのだ。愛子達は八方手を尽くして清水を探したが、その行方は杳として知れなかった。町中に目撃情報は無く、近隣の町や村にも使いを出して目撃情報を求めたが、全て空振りだった。

 

 当初は事件に巻き込まれたのではと騒然となったのだが、清水の部屋が荒らされていなかった事と、清水が“闇術師”という闇系魔法に特別才能を持つ天職を所持しており、他の系統魔法についても高い適性を持っていた事から、そうそうその辺のゴロツキにやられるとは思えず、今では自発的な失踪と考える者が多かった。

 元々清水は大人しいインドアタイプの人間で、社交性もあまり高くなかった。クラスメイトにも特別親しい友人はおらず、愛ちゃん護衛隊に参加した事も驚かれた位だ。

 そんな訳で、既に護衛騎士達と生徒達は清水の安否よりそれを憂いて日に日に元気が無くなっていく愛子の方が心配している。なんとも薄情な連中である。

 

 因みに王国と教会には報告済みであり、捜索隊を編成して応援に来る様だ。清水も魔法の才能に関しては召喚された者らしく極めて優秀なので、入間の時の様に上層部は楽観視しておらず、捜索隊が到着するまであと2、3日といったところだ。

 

 次々とかけられる気遣いの言葉に、愛子は内心で自分を殴りつけた。事件に巻き込まれようが、自発的な失踪であろうが心配である事に変わりはない。しかしそれを表に出して、今傍にいる生徒達を不安にさせるどころか気遣わせてどうするのだと。「それでも自分はこの子達の教師なのか!」と、愛子は一度深呼吸するとペシッと両手で頬を叩き気持ちを立て直した。

 

「皆さん、心配かけてごめんなさい。そうですよね。悩んでばかりいても解決しません。清水君は優秀な魔法使いです。きっと大丈夫。今は、無事を信じて出来る事をしましょう。取り敢えずは、本日の晩御飯です!お腹いっぱい食べて、明日に備えましょう!」

 

 無理しているのは丸分かりだが、気合の入った掛け声に生徒達も「は~い」と素直に返事をする。デビッド達はその様子を微笑ましげに眺めた。

 

 カランカランッと音を立てて、愛子達は自分達が宿泊している宿の扉を開いた。【ウルの町】で一番の高級宿だ。名を“水妖精の宿”という。嘗て【ウルディア湖】から現れた妖精を一組の夫婦が泊めた事が由来だそうだ。

 なお【ウルディア湖】は【ウルの町】の近郊にある大陸一の大きさを誇る湖だ。大きさは日本の琵琶湖の四倍程である。

 

 水妖精の宿は一階部分がレストランになっており、ウルの町の名物である米料理が数多く揃えられている。内装は落ち着きがあって、目立ちはしないが細部まで拘りが見て取れる装飾の施された重厚なテーブルやバーカウンターがある。また、天井には派手過ぎないシャンデリアがあり、落ち着いた空気に花を添えている老舗という言葉が自然と湧き上がる、歴史を感じさせる宿だった。

 

 当初、愛子達は高級過ぎては落ち着かないと他の宿を希望したのだが、“神の使徒”、或いは“豊穣の女神”とまで呼ばれ始めている愛子や生徒達を普通の宿に泊めるのは外聞的に有り得ないので、騎士達の説得の末【ウルの町】における滞在場所として目出度く確定した。

 元々王宮の一室で過ごしていた事もあり、愛子も生徒達も次第に慣れ、今ではすっかりリラックス出来る場所になっていた。農地改善や清水の捜索に東奔西走し疲れた体で帰って来る愛子達にとって、この宿で摂る米料理は毎日の楽しみになっていた。

 

 全員が一番奥の専用となりつつあるVIP席に座り、その日の夕食に舌鼓を打つ。

 

「ああ、相変わらず美味しいぃ~。異世界に来てカレーが食べれるとは思わなかったよ」

「まぁ、見た目はシチューなんだけどな……。いや、ホワイトカレーってあったけ?」

「いや、それよりも天丼だろ?このタレとか絶品だぞ?日本負けてんじゃない?」

「それは玉井君がちゃんとした天丼食べた事無いからでしょ?ホカ弁の天丼と比べちゃ駄目だよ」

「俺はチャーハンモドキ一択で。これやめられないよ」

 

 極めて地球の料理に近い米料理に、既に清水の事等どうでもよくなりかけてる優花達のテンションは上がりっぱなしだ。見た目や微妙な味の違いはあるのだが、料理の発想自体はとても似通っている。素材が豊富というのも、【ウルの町】の料理の質を押し上げている理由の一つだろう。米は言うに及ばず、【ウルディア湖】で取れる魚、【北の山脈地帯】の山菜や香辛料等もある。

 

 そんな美味しい料理で一時の幸せを噛み締めている愛子達の下へ、60代くらいの口髭が見事な男性がにこやかに近寄ってきた。

 

「皆様、本日のお食事は如何ですか?何かございましたら、どうぞ遠慮なくお申し付け下さい」

「あ、オーナーさん」

 

 愛子達に話しかけたのは、この水妖精の宿のオーナーである【フォス・セルオ】である。スっと伸びた背筋に、穏やかに細められた瞳、白髪交じりの髪をオールバックにしていて、宿の落ち着いた雰囲気がよく似合う男性だ。

 

「いえ、今日もとてもおいしいですよ。毎日癒されてます」

 

 愛子が代表してニッコリ笑いながら答えると、フォスも嬉しそうに「それはようございました」と微笑んだ。

 しかし次の瞬間には、その表情を申し訳なさそうに曇らせた。いつも穏やかに微笑んでいるフォスには似つかわしくない表情だ。何事かと食事の手を止めて、皆がフォスに注目した。

 

「実は、大変申し訳ないのですが……香辛料を使った料理は今日限りとなります」

「えっ!?それって、もうこのニルシッシル(異世界版カレー)を食べれないって事ですか?」

「はい、申し訳ございません。何分材料が切れまして……いつもならこの様な事が無い様に在庫を確保しているのですが。……ここ一ヶ月程北山脈が不穏という事で、採取に行く者が激減しております。つい先日も、調査に来た高ランク冒険者の一行が行方不明となりまして、ますます採取に行く者がいなくなりました。当店にも次にいつ入荷するかわかりかねる状況なのです」

「あの……不穏っていうのは具体的には?」

「何でも魔物の群れを見たとか……北山脈は山を越えなければ比較的安全な場所です。山を一つ越える毎に強力な魔物がいる様ですが、態々山を越えてまでこちらには来ません。ですが、何人かの者が居る筈の無い山向こうの魔物の群れを見たのだとか」

「それは心配ですね……」

 

 愛子が眉を顰め、他の皆も若干沈んだ様子で互いに顔を見合わせた。フォスは「食事中にする話ではありませんでしたね」と申し訳なさそうな表情をすると、場の雰囲気を盛り返す様に明るい口調で話を続けた。

 

「しかしその異変も、もしかするともう直ぐ収まるかもしれませんよ」

「どういう事ですか?」

「実は、今日の丁度日の入り位に新規のお客様が宿泊にいらしたのですが、何でも先の冒険者方の捜索の為北山脈へ行かれるらしいのです。フューレンのギルド支部長様の指名依頼らしく、相当な実力者の様ですね。もしかしたら異変の原因も突き止めてくれるやもしれません」 

 

 愛子達はピンと来ない様だが、食事を共にしていたデビッド達護衛の騎士は一様に「ほぅ」と感心半分興味半分の声を上げた。

 フューレンの支部長と言えばギルド全体でも最上級クラスの幹部職員である。その支部長に指名依頼されるというのは、相当どころではない実力者の筈だ。同じ戦闘に通じる者としては好奇心をそそられるのである。騎士達の頭には、有名な“金”クラスの冒険者がリストアップされていた。

 愛子達がデビッド達騎士のざわめきに不思議そうな顔をしていると、二階へ通じる階段の方から声が聞こえ始め、それに反応したのはフォスだ。

 

「おや、噂をすれば。彼等ですよ、騎士様。彼等は明朝にはここを出るそうなので、もしお話になるのでしたら、今のうちがよろしいかと」

「そうか、分かった。しかし随分と若い声だ、“金”にこんな若い者がいたか?」

 

 デビッド達騎士は、脳内でリストアップした有名な“金”クラスに今聞こえている様な若い声の持ち主がいないので、若干困惑した様に顔を見合わせた。

 

 そうこうしている内に、6人の男女は話ながら近づいてくる。

 

 愛子達のいる席は三方を壁に囲まれた一番奥の席であり、店全体を見渡せる場所でもある。一応カーテンを引く事で個室にする事も出来る席だ。唯でさえ目立つ愛子達一行は、愛子が“豊穣の女神”と呼ばれる様になって更に目立つ様になった為、食事の時はカーテンを閉める事が多い。今日も、例に漏れずカーテンは閉めてある。

 そのカーテン越しに、若い男女の会話の内容が聞こえてきた。

 

「へぇ~。ここが今日の宿?雰囲気良いね、“イルくん”」

「確かにな。それにこの町は稲作が盛んらしいから、米が食べられるらしいぞ」

「……ん。“入間”の生まれ故郷を主食、私も食べたい」

「お米かあ……そういえば暫く食べてなかったなぁ……」

「私、穀類なんて初めてですぅ~。“入間”さん、一緒に食べましょう!」

「どうやら米を使ったメニューも豊富らしいですよ、“イルマ”様」

 

 その会話の内容に、そして少女の声が呼ぶ名前に。愛子の、そして優花達の心臓が一瞬にして飛び跳ねる。 

 彼等は今何といった?少年の1人を何と呼んだ?少年の声は、“彼”の声に似てはいないか?

 愛子の脳内を一瞬で疑問が埋め尽くし、金縛りにあった様に硬直しながら、カーテンを視線だけで貫こうとでも言う様に凝視しており、直接命を救われ(たと思っている)、あの出来事に最も深く心を折られた優花の受けた衝撃は尋常ではなく、カランッとスプーンを落とした音にも気付かない様子で唯々呆然としている。

 優花を含め淳史達生徒の脳裏には、およそ4ヶ月前に奈落の底へと消えていった“彼”の姿が浮かび上がっていた。

 

 尋常でない様子の愛子と生徒達にフォスや騎士達が訝しげな視線と共に声をかけるが、誰一人として反応しない。騎士達が一体何事だと顔を見合わせていると、愛子がポツリとその名を零した。

 

「……鈴木君?」

 

 無意識に出した自分の声で、有り得ない事態に硬直していた体が自由を取り戻す。愛子は、椅子を蹴倒しながら立ち上がり、転びそうになりながらカーテンを引き千切る勢いで開け放った。

 

シャァァァ!!

 

 存外に大きく響いたカーテンの引かれる音に、6人の男女はギョッとして思わず立ち止まる。

 だが愛子は相手を確認する余裕も無く大切な教え子の名前を叫んだ。

 

「鈴木君!」

「え?………あー確か、畑山愛子先生?」

 

 愛子の目の前にいたのは、自分を見て暫く考え込んだ後に意外そうな顔をしてする入間だった。髪と瞳の色がまるで海のように深い青色になっているという違いこそあるが、それ以外は愛子の記憶と寸分違わなかった。

 

「鈴木君……やっぱり鈴木君なんですね?生きて……本当に生きて…」

「いえ、人違いです。では」

「へ?」

 

 死んだと思っていた教え子と奇跡のような再会に感動して涙腺が緩んだのか、涙目になる愛子。今まで何処にいたのか、一体何があったのか、本当に無事でよかった、と言いたいことは山ほどあるのに言葉にならない。それでも必死に言葉を紡ごうとする愛子に返ってきたのは、全くもって予想外の言葉だった。

 思わず間抜けな声を上げて涙も引っ込む愛子だが、スタスタと宿の出口に向かって歩き始めた入間を呆然と見ると、ハッと正気を取り戻し、慌てて追いかけ袖口を掴んだ。

 

「ちょっと待って下さい!鈴木君ですよね?先生のこと先生と呼びましたよね?なぜ、人違いだなんて」

「いや、聞き間違いですよ。あれは……そう、方言で“チビ”って意味ですよ」

「それはそれで物凄く失礼ですよ!ていうかそんな方言あるわけないでしょう。どうして誤魔化すんですか?それにその髪に目……何があったんですか?こんなところで何をしているんですか?何故直ぐに皆のところへ戻らなかったんですか?鈴木君!答えなさい!先生は誤魔化されませんよ!」

 

 愛子の怒声がレストランに響き渡る。幾人かいた客達も噂の“豊穣の女神”が男に掴みかかって怒鳴っている姿に、「すわっ、女神に男が!?」と愉快な勘違いと共に好奇心に目を輝かせている。生徒や護衛騎士達もぞろぞろと奥からやって来た。

 生徒達は入間の姿を見て、信じられないと驚愕の表情を浮かべている。それは、生きていたこと自体が半分と外見の変貌が半分といったところだろうが、どうすればいいのか分からずただ呆然と愛子と入間を見つめるに止どまっていた。

 

 一方で、入間は冷静なように見えるが、内心ではプチパニックに襲われていた。まさか偶然知り合ったギルド支部長から持ち込まれた依頼で親友に再会し、更に愛子と再会するなどとは夢にも思っていなかったのだ。

 というか、奈落からの日々が濃すぎて愛子の事は殆ど忘れていおり、たった今記憶の片隅から呼び起こした際に先生と呟いてしまったのに人違いという言い訳は通用しないのにしてしまった事に今更ながら恥ずかしくなってきた。

 

 と、そこで入間を救ったのアスモデウスだ。ツカツカと入間と愛子の傍に歩み寄ると、入間の腕を掴む愛子の手を強引に振り払った。その際、護衛騎士達が僅かに殺気立つが、その程度で殺気立つとは騎士としてどうなのだろうか?

 

「イルマ様への無礼は慎んでもらおうか、小娘」

「な、何ですか、あなたは?今、先生は鈴木君と大事な話を……」

「なら落ち着いて話せ」

 

 冷めた目で自分を睨む青年に、愛子が僅かに怯む。年齢で言えば愛子の方が上なのだが、背が高く落ち着いた雰囲気のアスモデウスと実年齢より下に見られる愛子では、アスモデウスが大人で、愛子が大人に怒られている子供にしか見えない。

 実際、注意しているのはアスモデウスの方で、彼の言葉に自分が暴走気味だった事を自覚し頬を赤らめて入間からそっと距離をとり、遅まきながら大人の威厳を見せようと背筋を正す愛子は……背伸びした子供のようだった。

 

「すいません、取り乱しました。改めて、鈴木君ですよね?」

 

 今度は静かな、しかし確信をもった声音で、真っ直ぐに視線を合わせながら入間に問い直す愛子。

 そんな愛子を見て、入間はどうせ確信を得ている以上誤魔化したところで何処までも追いかけて来るだろうと確信して頬を掻くと深い溜め息と共に肯定した。

 

「ええ、久し振りですね。先生」

「やっぱり、やっぱり鈴木君なんですね……生きていたんですね……」

「あんな雑魚相手に死ぬ僕じゃありませんよ」

「よかった。本当によかったです」

 

 それ以上言葉が出ない様子の愛子を一瞥すると、入間は近くのテーブルに歩み寄りそのまま座席についた。それを見て、ユエ達も着く。

 入間の突然の行動にキョトンとする愛子達など知らんとばかりに、完全に元の調子を取り戻した入間は生徒達の後ろに佇んで事の成り行きを見守っているフォスを手招きする。

 

「ええと……入間さん、いいんですか?お知り合いですよね?」

「ん~?まあ知らない仲じゃないけどさ、先生とは殆ど面識なかったし、後ろにいる連中に至ってはただの害虫としか認識してないからね。気にする事でもないよ。それよりお腹が空いたから注文しようよ。聞いた話だと、ここにはニルシッシルって料理があって、どうやら僕の故郷にあるカレーって料理と似てるらしいんだ。想像通りの味なら嬉しいんだけど……」

「……なら、私もそれにする。入間の好きな味知りたい」

「あっ、そういう所でさり気無いアピールを……流石ユエさん。という訳で私もそれにします」

「では、私もイルマ様と同じ品を」

「ふむ、なら私はこの天丼に似た料理にしてみるか……」

「じゃあミレディたんはこのチャーハンにしよ~っと」

「分かりました。店員さ~ん、注文お願いしまぁ~す」

 

 最初は愛子達をチラチラ見ながらおずおずしていたシアも、入間がそう言うならいいかと意識を切り替えて、困った笑みで寄って来たフォスに注文を始めた。

 

 だが当然、そこで待ったがかかる。入間があまりにも自然に何事も無かった様に注文を始めたので再び呆然としていた愛子が息を吹き返し、ツカツカと入間のテーブルに近寄ると「先生、怒ってます!」と実に判りやすい表情でテーブルをペシッと叩いた。

 

「鈴木君、まだ話は終わっていませんよ!何を物凄く自然に注文しているんですか!?大体、こちらの方達はどちら様ですか?」

 

 愛子の言い分はその場の全員の気持ちを代弁していたので、漸く入間が4ヶ月前に亡くなったと聞いた愛子の教え子であると察した騎士達や、愛子の背後に控える生徒達も皆一様に「うんうん」と頷き入間の回答を待った。

 先程から食事を邪魔され続けている入間は苛立ったように目を細めるが、流石にそれだけの理由で手は出せないし、どうせ答えない限り愛子が喰い下がって落ち着いて食事も出来ないだろうと考え仕方なく視線を愛子に戻した。

 

「明日は早くに山脈に向かわなきゃいけないんですから、前夜くらいゆっくりさせてくださいよ。それから皆は…」

 

 入間がコップに入った水を飲みながらバビルのメンバーに視線を向けると、5人は軽く自己紹介した。

 

「アスモデウス・アリス。イルマ様のシンユーだ」

「……ユエ。入間の女」

「シアです。入間さんの女ですぅ!」

「アメリだ。…イ、イルマの女…だ」

「ミレディちゃんだよ!イルくんの女だよ~」

 

「ブフゥッ!?」

「お、女?」

 

 アスモデウス以外のメンバーによる衝撃的な自己紹介に入間は飲んでいた水を吹き出し、愛子は若干どもりながら「えっ?えっ?」と入間と四人の美少女を交互に見る。上手く情報を処理出来ていないらしい。後ろの生徒達も困惑したように顔を見合わせている。いや、男子生徒は「まさか!」と言った表情でユエ達を忙しなく見ている。徐々に、その美貌に見蕩れ顔を赤く染めながら。

 

「何故私を無視するのだ……」

「気にしないでアズくん。ユエ、アメリさん、シア、ミレディ。君達も変な事言わないでよ……」

「……変な事なんて言ってない」

「そうだぞイルマ。1番は決まっていないが、いずれはそうなるのだからな」

「その通りですよ!実際、入間さんは私と初めて会った時と比べて態度が柔らかくなってますもん!」

「イルくんはミレディさんを部屋から連れ出したんだから、ちゃーんと責任取って貰わないとね~」

 

 入間は無視されて不満気なアスモデウスを宥めつつ仲間達に注意するが、四人とも全く反省していないらしい。というか、フューレンでも思ったがアメリが段々アピールに恥じらいがなくなってきている気がする。『朱に交われば赤くなる』という言葉があるが、だとするとユエ達と関わった事でアメリも()()()に染まってきているのだろうか?それに、ミレディも一体いつから恋愛フラグが立ったのだろうか?

 だんだん頭痛がしてきて、入間は頭に手を置いた。

 

 一方、見方によってはじゃれているよう見えるその光景を見せられた愛子の頭の中では、入間が美少女を両手に侍らして高笑いしている光景が再生されていた。表情がそれを物語っている。

 

「鈴木君!!」

 

 顔を真っ赤にして6人の会話を遮る愛子。その顔は、非行に走る生徒を何としても正道に戻してみせるという決意に満ちていた。そして、“先生の怒り”という特大の雷が【ウルの町】一番の高級宿に落ちる。

 

「よ、四股なんて!直ぐに帰ってこなかったのは、遊び歩いていたからなんですか!?もしそうなら……許しません!ええ、先生は絶対許しませんよ!お説教です!そこに直りなさい、鈴木君!」

 

 きゃんきゃんと吠える愛子を尻目に、結局面倒な事になったと入間は深い、それは深~い溜め息を吐いたのだった。

 

 

 

 

 

 




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