悪魔の孫は時の王者となって世界最強   作:MTHR

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今回は内容を少し改変しております。


28話 ちみっ子教師の悩み

 散々愛子が吠えた後、他の客の目もあるからとVIP席の方へ案内されたバビル一行。そこで愛子や園部優花達生徒から怒涛の質問を投げかけられていたが、入間は本日限りの米料理に夢中だった為、愛子達の質問も全ておざなりに返していた。

 

Q、橋から落ちた後、どうしたのか?

A、迷宮攻略してた

Q、その髪と目はどうしたのか

A、元からに決まってるでしょ

Q、何故、直ぐに戻らなかったのか

A、戻るわけないでしょ、虫酸が走る

 

「真面目に答えなさい!」

 

 そこまで聞いて愛子が頬を膨らませて怒るが、全く迫力がないのが物悲しく、入間には柳に風といった様子だ。目を合わせることもなく、美味そうにニルシッシル(異世界版カレー)を頬張ってユエとシアとアスモデウスと感想を言い合ったり、時折アメリの天丼擬きとミレディのチャーハン擬きを分け合ったりしている。

 

 その様子にキレたのは愛子専属護衛隊隊長のデビッドだ。愛する女性が蔑ろにされていることに耐えられなかったのだろう。拳をテーブルに叩きつけながら大声を上げた。

 

「おい、お前!愛子が質問しているのだぞ!真面目に答えろ!」

「答えてるでしょうが。食事中は行儀よくしなさいよ、唾が飛ぶ」

 

 だが、入間は煩そうにデビッドに注意すると、スプーンに乗ったニルシッシルを再び口を入れた。

 全く相手にされていないことが丸分かりの物言いに、神殿騎士にして重要人物の護衛隊長を任されているということから自然とプライドも高くなっているデビッドは、我慢ならないと顔を真っ赤にした。そして、何を言ってものらりくらりとして明確な答えを返さない入間から矛先を変え、その視線がシアに向く。

 

「ふん、行儀だと?その言葉、そっくりそのまま返してやる。薄汚い獣風情を人間と同じテーブルに着かせるなど、お前の方が礼儀がなってないな。せめてその醜い耳を切り落としたらどうだ?少しは人間らしくなるだろう」

 

 侮蔑をたっぷりと含んだ眼で睨まれたシアはビクッと体を震わせた。ブルックの町では、宿屋での第一印象や、キャサリンと親しくしていたこと、入間の存在もあって、むしろ友好的な人達が多かったし、フューレンでも蔑む目は多かったが、奴隷と認識されていたからか直接的な言葉を浴びせかけられる事はなかった。

 つまり、入間と旅に出てから初めて、亜人族に対する直接的な差別的言葉の暴力を受けたのである。有象無象の事など気にしないと割り切ったはずだったが、少し、外の世界に慣れてきていたところへの不意打ちだったので、思いの他ダメージがありシュンと顔を俯かせるシア。

 

 よく見ればデビッドだけでなく、チェイス達他の騎士達も同じような目でシアを見ている。彼等がいくら愛子達と親しくなろうと神殿騎士と近衛騎士である。聖教教会や国の中枢に近い人間であり、それは取りも直さず亜人族に対する差別意識が強いということでもある。何せ、差別的価値観の発信源はその聖教教会と国なのだ。デビッド達が愛子と関わるようになってそれなりに柔軟な思考が出来るようになったといっても、ほんの数ヶ月程度で変わる程、根の浅い価値観ではないのである。

 

 あんまりと言えばあんまりな物言いに、思わず愛子が注意をしようとするが、その前に俯くシアの手を握ったユエが絶対零度の視線をデビッドに向ける。入間、アメリ、ミレディ、アスモデウスも食事の手を止め、同じ様な視線をデビッドに向けていた。

 その視線にデビッドは一瞬たじろぐも、見た目幼さを残す少女に気圧されたことに逆上する。普段ならここまでキレやすい人間ではないのだが、思わず言ってしまった言葉に、愛しい愛子からも非難がましい視線を向けられて軽く我を失っているようだった。

 

「何だ、その眼は?無礼だぞ!神の使徒でもないのに神殿騎士に逆らうのか!」

 

 思わず立ち上がるデビッドを副隊長のチェイスは諌めようとするが、それよりも早くユエの言葉が騒然とする場にやけに明瞭に響き渡った。

 

「……小さい男」

 

 それは嘲りの言葉だった。たかが種族の違い如きで喚き立て、少女の視線一つに逆上する器の小ささを嗤う言葉だ。唯でさえ、怒りで冷静さを失っていたデビッドは、よりによって愛子の前で男としての器の小ささを嗤われ完全にキレた。それが唯の自殺行為だとも知らずに。

 

「……異教徒め。そこの獣風情と一緒に地獄へ送ってやる」

 

 無表情で静かに呟き、傍らの剣に手をかけるデビッド。突如現れた修羅場に、生徒達はオロオロし、愛子やチェイス達は止めようとする。だが、デビッドは周りの声も聞こえない様子で、遂に鞘から剣を僅かに引き抜いた。

 その瞬間、

 

ザシュッ!!

 

 生々しい音がVIP席に響き渡り、その後に「ゴトッ」と何かが床に落ちた音がした。

 デビッドは、剣を抜こうとした腕が動かず、寧ろ何か違和感を感じて一度冷静になると、その腕に目を向けると……デビッドの腕は、半ばから綺麗に切断されていたのだ。さらに視線を落として床に目を向けると、そこには切断された男性の腕が落ちていた。

 

「えっ……?」

 

 そう呟いた瞬間、傷口から夥しい血が噴き出しデビッドの腕に今まで感じたことのない激痛が走った。

 

「うああああああ!!!!う…腕がッ!?腕があああああああああ!!!!」

 

 絶叫してのたうち回る事でデビッド。愛子や生徒達は顔を青ざめさせて悲鳴を上げて席を飛び退き、デビッドの絶叫に何事かとフォスがカーテンを開けて飛び込んできて、目の前の惨状に目を丸くして硬直する。

 そこには、席から立ち上がって血に濡れたジカンギレードを手にしている入間がいた。

 

 詳細は分からないがデビッドの腕を切断したのが入間であると察した騎士達が、一斉に剣に手をかけて殺気を放つが、バビルの前ではそんな殺気など蟻が喚いているのと同じであり、代わりに入間が愛子を除く全てに向けて凄絶な殺気を放った。

 

ドンッ!!

 

 全てを滅ぼす魔王を前にしたかのような絶大のプレッシャーが襲いかかり、立ち上がりかけた騎士達を強制的に座席に座らせ、激痛で錯乱していたデビッドはその殺気に堪えられず、白目を向いて泡を吐きながら意識を失った。

 直接殺気を浴びている訳ではないが、入間から放たれる桁違いの威圧感に愛子達も顔を蒼褪めさせてガクガクと震えており、フォスを含めた“水妖精の宿”の中にいた者達はその威圧を微かに感じただけで泡を吹いて気絶してしまった。

 

 入間はジカンギレードで肩をトントンと叩くと、ゆっくりと騎士達を目を向ける。目があっただけで威圧感が倍増しし、一部の騎士達は失禁する者までいる。入間はそんな醜態を晒す騎士達を一瞥した後に、切断面から未だにドクドクと血を流すデビッドに心底汚い物を見るような目を向けると、普段の数段低い声色で呟いた。

 

「人の食事を邪魔してシアを冒涜した挙句、僕達を殺す?身の程知らずもここまで来ると感心するねェ……。だけど君達は運が良い。久し振りにお米が食べれて気分が良いから、今日この時だけは見逃してあげるよ。けど次、少しでも僕の機嫌を損ねたら全員細切れにして魔物の餌さとしてばら蒔いてあげるよ。それが嫌なら、今後自分達の態度をよーく改めろ」

 

 わかったか?そう眼光で問いかける入間に、誰も何も言えなかった。直接視線を向けられたチェイス達はかかるプレッシャーに必死に耐えながら、僅かに頷くので精一杯だった。

 入間は続いて愛子達にも視線を転じる。

 愛子は何も言わない。いや、言えないのだろう。迸る威圧感のせいだけでなく、入間の言葉を了承してしまったら何も分からぬまま変わってしまった教え子を放置してしまうことになる。それは、愛子の教師としての矜持が許さなかった。

 

「──君達にも一つ言っておこうか」

「「「「「「ッ!!」」」」」」 

 

 すると今度は、入間は優花達にも殺気を向けた。勿論、軟弱な彼女達が気絶しないようにかなり抑えいるが、優花達に入間の殺気を堪えきれる筈もなく、殺気を浴びただけで優花達6人は腰を抜かし、入間が血に濡れたままのジカンギレードの切っ先を向けると、たちまち「ヒイッ!!」と情けない悲鳴を上げた。

 

「この際ハッキリ言わせて貰うけど、僕は君達を仲間だなんて思っていない。君達は僕を無能だと蔑んでいるらしけど、君達が知る“鈴木入間”と“僕”は違う。少しでも僕を不愉快にさせたら、その瞬間に君達も殺してあげるよ。わかったね?」

 

 それだけ言うと、愛子も生徒達も明らかに怯えた様子だったので敢えて関わっては来ないだろうと推測した入間は殺気を収める。

 

 凄まじい圧迫感が消え去り、騎士達がドウッと崩れ落ちて大きく息を吐いた。愛子達も疲れたように椅子に深く座り込む。そして入間、何事もなかったように食事を再開しながら、シュンとしているシアに話しかけた。

 

「気にする必要はないよシア、これが外の普通なんだ」

「はぃ、そうですよね……わかってはいるのですけど……やっぱり、人間の方にはこの耳は気持ち悪いのでしょうね」

 

 自嘲気味に自分のウサミミを手で撫でながら苦笑いをするシアに、ユエ、アメリ、アスモデウスが真っ直ぐな瞳で慰めるように呟く。

 

「……シアのウサミミは可愛い」

「ユエさん……そうでしょうか」

「フェアベルゲンでも入間が言っていただろう?お前は動物等ではない。自信を持て」

「アメリさん……」

「……私は加入したばかりだが…あのような下衆共の言葉を本気にする必要などないだろう?」

「アスモデウスさん……」

 

 それでも自信無さ気なシアに、今度は入間がフォローを入れる。出会った頃はかなり雑だったが、今のシアはれっきとしたバビルのメンバーだ。恋仲になるかどうかは兎も角、仲間としてはキチンと配慮する。

 

「あのさ、そこの連中含めたあの腐れ傀儡王国の連中は、見掛けだけで何の功績も成していない癖にプライドだけは人一倍の無能の集まりなんだ。そんな頭のネジが残らず外れた連中の言葉を真に受ける必要なんて無いでしょ?」

「そう…でしょうか……あ、あの、因みに入間さんは……その……どう思いますか……私のウサミミ」

 

 入間の慰めに少し嬉しそうになったシアは、頬を染めながら上目遣いで入間に尋ねる。ウサミミは「聞きたいけど聞きたくない!」というようにペタリと垂れたまま、時々ピコピコと入間の方に耳を向けている。

 しかし、ニヤニヤと笑うミレディの横からの言葉に一気に元気を取り戻してヒュパ!と立ち上がった。

 

「シアちゃんのウサミミ、イルくんのお気に入りなんだよね~。シアちゃんが寝てる時もモフモフしてたし」

「ミレディ!それ言わないでよ!!」

「い、入間さん……私のウサミミお好きだったんですね……えへへ」

 

 シアが赤く染まった頬を両手で押さえイヤンイヤンし、頭上のウサミミは「わーい!」と喜びを表現する様にわっさわっさと動く。

 ついさっきまで下手をすれば皆殺しにされるのではと錯覚したのに、今は何故か桃色空間が広がっている不思議に、愛子達も騎士達も目を白黒させたが、再び入間が絶対零度の視線を向けたことで、殺気を受けた訳ではなかったが愛子達と騎士達は再び震え上がる。

 

「これで話は終わりだ。明日は山脈に向かうから朝早くに出る。君達との縁もそれまでだ」

「ッ……鈴木く…」

 

 そう言って入間が踵を返すと、いつの間にか食事を終えていたユエ達も立ち上がる。愛子が引きとめようとするが、入間は無視して仲間達を連れ二階への階段を上っていってしまった。

 

 後に残された愛子達の間には、何とも言えない微妙な空気が流れる。死んだと思っていたクラスメイトが生きていたのは嬉しいが、当の本人は自分達の事などまるで眼中になく、自分達の記憶の中にある入間の姿とはとはあまりにもかけ離れており、“無能”と呼んで蔑んでいた頃のように上から目線で話すなど出来る筈もない。

 また、蔑んでいた事や檜山達のイジメを見て見ぬふりをしていた事、そしてあの“誤爆”事件、その全てが負い目となり、入間の自分達に対する態度に間違いなく恨まれていると実感し、誰も入間に対して積極的な態度を取れなかった。

 

 愛子自身も、怒涛の展開と教え子の変貌に内心激しく動揺しており、離れていく入間を引き止めることができなかった。

 チェイスは傍らで治癒をかけられているデビッドの姿を見ながら、何かを深く考え込んでいる。

 

 食事はすっかり冷めてしまい、食欲も失せた。目の前の料理を何となしに眺めながら、誰もが、入間が退席した事で改めて“入間の生存”について深く考え始め、皆一様に沈んだ表情で、その日は解散となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜中。深夜を周り、一日の活動とその後の予想外の展開に精神的にも肉体的にも疲れ果て、誰もが眠りついた頃、愛子は未だ寝付けずにいた。愛子の部屋は一人部屋でそれほど大きくはない。木製の猫脚ベッドとテーブルセット、それに小さな暖炉があり、その前には革張りのソファーが置かれている。冬場にはきっと揺らめく炎が部屋を照らし、視覚的にも体感的にも宿泊客を暖めてくれるのだろう。

 愛子は今日の出来事に思いを馳せ、ソファーに深く身を預けながら火の入っていない暖炉を何となしに見つめる。愛子の頭の中は整理されていない本棚のようにあらゆる情報が無秩序に並んでいた。

 考えねばならないこと、考えたいこと、これからのこと、ぐるぐると回る頭は一向に建設的な意見を出してはくれない。大切な教え子が生きていたと知ったときの事を思い出し頬が緩むも、その後の非友好的ですらない無関心な態度に眉を八の字にする。

 デビッドの言動により垣間見た入間の力に、そのように変貌しなければ生き残れなかったのかもしれないと、入間が経験したであろう苦難を思い、何の助けにもなれなかったことに溜息を吐く。しかし、その後の5人との掛け合いを思い出し、信頼できる仲間を得ていたのだと思い、再び頬を緩める。

 

 と、そこへ、突如誰もいないはずの部屋の中から声が掛けられた。

 

「なーにを百面相してるんですか?」

「ッ!?」

 

 ギョッとして声がした方へ振り向く愛子。そこには、入口の扉にもたれながら腕を組んで立つ入間の姿があった。驚愕のあまり舌がもつれながらも何とか言葉を発する愛子。

 

「す、鈴木君?な、なんでここに、どうやって……」

「それは……言っても分からないと思いますよ?」

 

 “コズミックステイツウォッチ”を見せながら飄々と答える入間に愛子はしばらく呆然とした後、驚きでバクバクと煩い心臓を何とか落ち着かせながら、眉をしかめて咎めるような表情になった。

 

「こんな時間に、しかも女性の部屋にノックもなくいきなり侵入とは感心しませんよ。わざわざ鍵まで開けて……一体、どうしたんですか?」

 

 愛子の脳裏に一瞬、夜這いという言葉が過ぎったが即行で打ち消す。生徒相手に何を考えているのだと軽く頭を振った。入間はそんな愛子のお叱りを柳に風と受け流し、非常識な来訪の目的を告げた。

 

「まぁ、そこは謝りましょう。他の連中にこの訪問を見られたくなかったんだ。先生には話しておきたい事があったんですが、さっきは教会やら王国の奴等がいたから話せなかったんですよ。内容的にアイツ等発狂でもして暴れそうだし」

「話ですか?鈴木君は、先生達のことはどうでもよかったんじゃ……」

「いや、戻るつもりはありませんよ。今から話す話は、あの生徒達(猿共)より先生が冷静に受け止められるだろうと思ったから話すんです。聞いた後、どうするかは先生の判断に任せるますよ」

 

 そう言って入間は、奈落の底でオスカーから聞いた“解放者”と狂った神の遊戯の物語を話し始めた。

 

 入間が愛子にこの話をしようと思ったのは、もちろん理由がある。

 神の意思に従って光輝達が盤上で踊ったとしても、彼等の意図した通り神々が元の世界に帰してくれるとは思えない。魔人族から人間族を救う、すなわち起こるであろう戦争に勝利したとしても、それはそもそも神々が裏で糸を引いている結果だ。勇者などと言う面白い駒をそうそう手放す訳が無く、寧ろ勇者達を利用して新たなゲームを始めると考えた方が妥当である。

 入間としては、その事をわざわざ光輝達を捜し出して伝えるつもりはなかった。クラスメイトとは赤の他人であるし、唯でさえ好感度がマイナスへ振り切っている上に、あの“誤爆”事件を入間の自業自得にされていた事を知った時は、クラスメイト達全員を皆殺しにしてやろうかと本気で考えた程だ。レストランで入間が優花達も脅した理由はそれである。

 それに仮に伝えたとしても、あの神年齢が小学生未満のクソガキ共が入間の言葉を信じるとは思えなかった。

 

 たった一人の言葉と、大多数の救いを求める声、どちらを信じるかなど考えるまでもない。むしろ、大勢の人たちが信じ、崇める“エヒト様”を愚弄したとして非難されるのがオチだろう。そう言う意味からも、入間は光輝に関わるつもりは毛頭なかった。

 

 だが、偶然に偶然が重なって、何の因果か愛子と再会することになった。入間は愛子の行動原理が常に生徒を中心にしていることを知っている。つまり、異世界の事情に関わらず生徒のために冷静な判断ができるということだ。そして、今日の生徒達の態度から、愛子が話したのならきっと彼女の言葉は光輝達にも影響を与えるだろうと考えた。

 その結果がどうなろうと、入間はどうでもよかった。愛子が生徒達にその話をしたとして、光輝達が神の意図しない動きをすれば神の注意は一時的に光輝達に向き、その隙に自分達は迷宮攻略に専念できる。もしも光輝が「鈴木が先生を脅して俺達を騙そうとしたんだ」とか意味不明な事を言い出して自分達に牙を向くなら、入間には光輝達ごと聖教教会(狂信的害悪)ハイリヒ王国(腐れ傀儡国家)を滅ぼす最高の口実が手に入る。どちらに転んでも入間にはプラスに傾くのだ。

 

 入間からこの世界の真実を聞かされ、愛子は呆然としており、どう受け止めていいか分からないようだ。情報を咀嚼して自らの考えを持つに至るには、まだ時間が掛かりそうである。

 ここで仮面ライダーや入間の来歴、そしてミレディが解放者の一人である事を話さなくて良かっただろう。もしも話していれば愛子の頭がパンクするかもしれないだろうと内心苦笑いした入間は、静かに愛子に語りかけた。

 

「まぁ、そういうわけですよ。僕が奈落の底で知った事はね。これを知ってどうするかは先生に任せます。戯言と切って捨てるもよし、真実として行動を起こすもよし。好きにしてくださいな」

「な、鈴木君は、もしかして、その“狂った神”をどうにかしようと……旅を?」

「まあ、この世界の連中を助ける気なんて一切無いし、戦争するなら勝手にやって死滅しろって話なんですけどね。だとしても、どうせこのまま旅を続けたら神の方から来るのは確実だ。宇宙的害悪は取り除くに限る」

 

 愛子は何とも微妙な表情だ。躊躇いなく他者を切り捨てる発言には教師として眉を顰めざるを得ないが、自分もこの世界の事情より生徒達を優先しているので人の事は言えず、微妙な表情で話題を逸らすことになった。

 

「アテはあるんですか?」

「まあヒントとしては、大迷宮が鍵です。興味があるなら探索したらいいですよ。オルクスの百階を超えればめでたく本当の大迷宮だ。尤も、あの程度の威嚇で腰抜かしてチビってるんじゃあ奈落の一層で魔物の餌になるでしょうね。“未来視”を使わなくてもその未来が見えますよ」

 

 夕食時の入間から放たれたプレッシャーを思い出して、どれだけ過酷な状況を生き抜いたのかと改めて入間に同情やら称賛やら色々なものが詰まった複雑な目差しを向けた。

 しばらく沈黙が続き、静寂が部屋に満ちた。

 入間は愛子の様子から与えるべき情報を確かに与えられたと悟り、もう用はないと踵を返して扉へと手をかけた。その背中に、オルクス大迷宮という言葉で思い出したとある生徒の事を伝えようと愛子が話しかけた。

 

「白崎さんは諦めていませんでしたよ」

「……」

 

 愛子から掛けられた予想外の言葉に入間の歩みが止まる。愛子は、背中を向けたままの入間にそっと語りかけた。

 

「皆が君は死んだと言っても、彼女だけは諦めていませんでした。自分の目で確認するまで、君の生存を信じると。今も、オルクス大迷宮で戦っています。天之河君達は純粋に実戦訓練として潜っているようですが、彼女だけは君を探すことが目的のようです」

「…………彼女は無事ですか?」

 

 長い沈黙の後、入間は愛子に尋ねる。自分達に無関心な態度をとっていた入間の初めての他者を心配するような言葉に、愛子は、まだ入間が以前の心を残していると思い喜色を浮かべた。

 

「は、はい。オルクス大迷宮は危険な場所ではありますが、順調に実力を伸ばして、攻略を進めているようです。時々届く手紙にはそうありますよ。やっぱり気になりますか?鈴木君と白崎さんは仲がよかったですもんね」

「違いますよ。ですが、彼女と手紙のやり取りがあるなら、一つ伝言を頼んでも良いですか?」

「伝言、ですか…?」

「ええ。もしも連絡をする機会があれば僕の生存と一緒にこう伝えといてください───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今度会ったら、生き地獄を味合わせてやる…ってね」

「ヒッ!?」

 

 その瞬間、一瞬だけ入間から漏れだした“殺意”に、愛子は思わず短い悲鳴を上げて後ずさった。

 そこで、無駄に威圧してしまった事に気付いた入間は直ぐに殺意を静め、少ししてから愛子が落ち着いたのを確認すると、再び口を開いた。

 

「今日の生徒達の態度から大体の事情は察しています。僕が奈落に落ちた原因はベヒモスとの戦闘、または事故という事にでもなっているんじゃないんですか?」

「そ、それは……はい。一部の魔法が制御を離れて誤爆したと……」

「違う、あれは明確に僕を狙って誘導された魔法だった」

「え?誘導?狙って?」

 

 訳が分からないといった表情の愛子。だが入間は、容赦なく愛子を更なる悩みに突き落とす言葉を残す。

 

「…確か、檜山大介かな?僕は奴に狙われたという事ですよ」

「ッ!?」

「どーせ理由はあの白崎香織(ストーカー女)が僕に付き纏ってたことに対する嫉妬でしょう。嫌だと言ってるのにあの女に付き纏われ続けた結果がこれだ。あの二人には、再会する事があれば相応の報いを受けさせるつもりなので」

 

 それだけ言い残すと、入間は部屋を出ていった。

 

 シンとする部屋に冷気が吹き込んだ様に錯覚し、愛子は両腕で自らの体を抱きしめた。大切な生徒が仲間を殺そうとしたかもしれない。それも、死の瀬戸際で背中を狙うという卑劣な手段で。生徒が何より大切な愛子には、受け入れ難い話だ。だが否定すれば、入間の言葉も理由無く否定する事になる。

 生徒を信じたい心がせめぎ合う。

 

 愛子の悩みは深くなり、普段に増して眠れぬ夜を過ごした。

 

 

 

 

 

 




ミレディのバビルメンバーの呼び方

入間→イルくん
ユエ→ユエちゃん
アメリ→アメちゃん
シア→シアちゃん
アスモデウス→アズくん


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