悪魔の孫は時の王者となって世界最強   作:MTHR

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今回も原作通りです。


31話 愛子の願い

 ストールによるドームが消えた後、入間達の目に入ったのはウルの町の入口だった。

 

 愛子もウィル達も驚愕していたが、やがて気分が落ち着くと、愛子達は足をもつれさせる勢いで町長のいる場所へ駆けていった。入間としては愛子達とここで別れてさっさとウィルを連れてフューレンに行ってしまおうと考えていたのだが、むしろ愛子達より先にウィルが飛び出していってしまったため仕方なく後を追いかけた。

 町の中は活気に満ちている。料理が多彩で豊富、近くには湖もある町だ。自然と人も集う。まさか、一日後には魔物の大群に蹂躙されるなどは夢にも思わないだろう。バビル一行はそんな町中を見ながら、そう言えばまだ晩飯を喰っていなかったと、屋台の串焼きやら何やらに舌鼓を打ちながら町の役場へと向かった。

 

 バビル一行がようやく町の役場に到着した頃には既に場は騒然としていた。ウルの町のギルド支部長や町の幹部、教会の司祭達が集まっており、喧々囂々たる有様である。皆一様に、信じられない、信じたくないといった様相で、その原因たる情報をもたらした愛子達やウィルに掴みかからんばかりの勢いで問い詰めている。

 普通なら明日にも町は滅びますと言われても狂人の戯言と切って捨てられるのがオチだろうが、何せ“神の使徒”にして“豊穣の女神”たる愛子の言葉である。そして最近、魔人族が魔物を操るというのは公然の事実であることからも、無視などできようはずもなかった。

 因みに、車中での話し合いで、愛子達は、報告内容からティオの正体と黒幕が清水幸利である可能性については伏せることで一致していた。ティオに関しては竜人族の存在が公になるのは好ましくないので黙っていて欲しいと本人から頼まれたため、黒幕に関しては愛子が未だ可能性の段階に過ぎないので不用意なことを言いたくないと譲らなかったためだ。

 愛子の方は兎も角、竜人族は聖教教会にとっても半ばタブー扱いであることから、混乱に拍車をかけるだけということと、ばれれば討伐隊が組まれてもおかしくないので面倒なことこの上ないと秘匿が了承された。

 

 そんな喧騒の中に、ウィルを迎えに来たバビル一行がやって来る。周囲の混乱などどこ吹く風だ。

 

「ウィル。勝手に突っ走らないでくれないかな?自分が保護対象だって自覚してくないか。報告が済んだら、さっさとフューレンに向かうよ」

 

 その入間の言葉に、ウィルや愛子達が驚いたように入間を見た。他の重鎮達は「誰だこいつ?」と、危急の話し合いに横槍を入れた入間に不愉快そうな眼差しを向けた。

 

「な、何を言っているのですか?入間殿。今は、危急の時なのですよ?まさか、この町を見捨てて行くつもりでは……」

 

 信じられないと言った表情で入間に言い募るウィルに入間は、やはり面倒そうな表情で軽く返す。

 

「見捨てるもなにも、どの道、町は放棄して救援が来るまで避難するしかないでしょ?観光の町の防備なんてたかが知れているんだから……どうせ避難するなら、目的地がフューレンでも別にいいでしょ?ちょっと人より早く避難するだけの話だ」

「そ、それは……そうかもしれませんが……でも、こんな大変な時に、自分だけ先に逃げるなんて出来ません!私にも、手伝えることが何かあるはず。入間殿も……」

 

 “入間殿も協力して下さい”そう続けようとしたウィルの言葉は、入間の冷めきった眼差しと凍てついた言葉に遮られた。

 

「……何度も言ったよね?僕達バビルの仕事はお前をフューレンに連れ帰ること。この町の事なんて知ったことじゃない。いい?君の我儘なんて聞く義理ないんだ。どうしても付いて来ないなら……手足を砕いて引き摺ってでも連れて行く」

「なっ、そ、そんな……」

 

 入間の醸し出す雰囲気から、その言葉が本気であると察したウィルが顔を青ざめさせて後退りする。その表情は信じられないといった様がありありと浮かんでいた。

 ウィルにとって、ゲイル達ベテラン冒険者を苦もなく全滅させたティオすら圧倒した入間はちょっとしたヒーローのように見えていた。なので、容赦のない性格であっても、町の人々の危急とあれば何だかんだで手助けをしてくれるものと無条件に信じていたのだ。なので、入間から投げつけられた冷たい言葉に、ウィルは裏切られたような気持ちになったのである。

 だが、それはウィルの勝手な思い込み以外の何者でもない。

 言葉を失い無意識に距離を取るウィルに入間が決断を迫るように歩み寄ろうとする。一種異様な雰囲気に、周囲の者達がウィルと入間を交互に見ながら動けないでいると、ふと入間の前に立ちふさがるように進み出た者がいた。

 

 愛子だ。彼女は決然とした表情でハ入間を真っ直ぐな眼差しで見上げる。

 

「鈴木君。君なら……君なら魔物の大群をどうにかできますか?いえ……できますよね?」

 

 愛子はどこか確信しているような声音で、入間なら魔物の大群をどうにかできる、すなわち町を救うことができると断じた。その言葉に、周囲で様子を伺っている町の重鎮達が一斉に騒めく。

 愛子達が報告した襲い来る脅威をそのまま信じるなら、敵は数万規模の魔物なのだ。それも複数の山脈地帯を跨いで集められた。それはもう戦争規模である。そして、一個人が戦争に及ぼせる影響など無いに等しい。それが常識だ。それを覆す非常識は、異世界から召喚された者達の中でも更に特別な者、そう勇者だけだ。それでも、本当の意味で一人では軍には勝てない。人間族を率いて仲間と共にあらねば、単純な物量にいずれ呑み込まれるだろう。なので、勇者ですらない目の前の少年が、この危急をどうにかできるという愛子の言葉は、たとえ“豊穣の女神”の言葉であってもにわかには信じられなかった。

 

 入間は、愛子の強い眼差しを鬱陶しげに手で払う素振りを見せると、腕を組んで愛子の言葉に答えた。

 

「出来ますよ。でも、僕が魔物を殲滅できるのと、それをやるのは話が違う。それに、僕はウィルをフューレンまで連れ帰る仕事中なんですよ」

 

 明らかにやる気の無い様子の入間に、愛子は更に真剣な表情のまま頼みを伝える。

 

「鈴木君。どうか力を貸してもらえませんか?このままでは、きっとこの美しい町が壊されるだけでなく、多くの人々の命が失われることになります」

「それが“戦争”ですよ。貴女も社会科教師なら分かってる筈だ。過去に起きた戦争がどれだけ罪の無い民衆に被害を被り続けて来たのか。これは信仰なんて意味不明な理由で戦争を選んだこの世界の連中の愚かさが招いた結果だ。そんな原始人達の為に使う力なんてありません。貴女だって、生徒達を元の世界に帰す為なら、この世界の連中なんてどうでも良かった筈でしょう?」

「……元の世界に帰る方法があるなら、直ぐにでも生徒達を連れて帰りたい、その気持ちは今でも変わりません。でも、それは出来ないから……なら、今、この世界で生きている以上、この世界で出会い、言葉を交わし、笑顔を向け合った人々を、少なくとも出来る範囲では見捨てたくない。そう思うことは、人として当然のことだと思います」

「矛盾してますね。その論で言うならそもそも僕に頼る事自体お門違いだ。この町の住人と出会って言葉を交わして笑顔を向けあったのも貴女達だ。なら貴女かそこの“自称”護衛隊が戦えば良い話だ。なのに、何で昨日一泊した程度の僕が、貴女の命令で、万単位の魔物と戦争しなきゃならないんですか?それとも、力があるから本人の意思とは関係なく力を振るえと?まるであの教会の害虫共みたいな言い分ですね。…はっきり言って、失望しましたよ」

 

 言葉の通り、侮蔑が含まれた目で愛子を見据える入間。しかし、愛子は動じなかった。その表情は、ついさっきまでの悩みに沈んだ表情ではなく、決然とした“先生”の表情だった。

 近くで愛子と入間の会話を聞いていたウルの町の教会司祭が入間の言葉に含まれる教会を侮蔑するような言葉に眉をひそめているのを尻目に、愛子は侮蔑の視線を向ける入間に一歩も引かない姿勢で向き直る。

 

「……君の言う通り、私の言っている事は矛盾しています。失望するのも当然だと分かっています。ですが、例えこの世界の人々より生徒達の方が大切だとしても、それは何もやらない言い訳にはならならいと思うんです……」

 

 愛子が一つ一つ確かめるように言葉を紡いでいく。

 

「鈴木君、あんなに穏やかだった君がそんな風になるには、きっと想像を絶する経験をしてきたのだと思います。そこでは、誰かを慮る余裕などなかったのだと思います。君が一番苦しい時に傍にいて力になれなかった先生の言葉など…君には軽いかもしれません。でも、どうか聞いて下さい」

 

 入間は黙ったまま、先を促すように愛子を見つめ返す。

 

「鈴木君。先生が、生徒達に戦いへの積極性を持って欲しくないのは、帰った時日本で元の生活に戻れるのか心配だからです。殺す事に、力を振るう事に慣れて欲しくないのです。……鈴木君、君は君の目的を果たすために、これからも大切な人以外の一切を切り捨てて生きていくのですか?」

「……」

「君には君の価値観があり、君の未来への選択は常に君自身に委ねられています。それに、先生が口を出して強制するようなことはしません。ですが、君がどのような未来を選ぶにしろ、大切な人以外の一切を切り捨てるその生き方は……とても“寂しい事”だと思うのです。きっと、その生き方は、君にも君の大切な人にも幸せをもたらさない。幸せを望むなら、出来る範囲でいいから……他者を思い遣る気持ちを忘れないで下さい。元々、君が持っていた大切で尊いそれを……捨てないで下さい」

 

 一つ一つに思いを込めて紡がれた愛子の言葉が、向き合う入間に余す事無く伝わってゆく。町の重鎮達や優花達も、愛子の言葉を静かに聞いている。

 特に生徒達は、力を振るってはしゃいでいた事を叱られている様な気持ちになり、バツの悪そうな表情で俯いていると同時に、愛子は今でも本気で自分達の帰還とその後の生活まで考えてくれていたという事を改めて実感し、どこか嬉しそうな擽ったそうな表情も見せていた。

 

 入間は、例え世界を超えても、どんな状況であっても、生徒が変わり果てていても、全くブレずに“先生”であり続ける愛子に感心せずにはいられなかった。自分や本人も言っていた通り、愛子の言い分は矛盾だらけであり、元々赤の他人である上に、結局は他力本願なだけの彼女を「何様のつもりだ」とか「そんなに町を守りたいなら自分が肉壁になれ」と一蹴するのは簡単だ。

 だが、入間にはそんな風に反論する気すら起きなかった。今も、自分を真っ直ぐに見つめるその瞳には、召喚された日の光輝達の様な下らない承認欲求の意思は何処にも見受けられず、本当に“人を助けたい”という意志が宿っていたからだ。

 

 入間は愛子からすぐ傍にいるユエ、アメリ、シア、ミレディ、アスモデウスへと視線を転じた。ユエはどういうわけか懐かしいものを見るような目で愛子を見つめていたが、入間の視線に気がつくと真っ直ぐに静かな瞳を合わせてきた。アメリはいつものように腕を組んでいる状態でチラリと愛子を見た後に入間に視線を戻した。シアは心配そうに入間を見つめ、ミレディはいつも通りの笑顔をで真っ直ぐに入間を見返しており、アスモデウスは胸に手を当ててコクリと頷いた。

 その瞳には、入間がどんな答えを出そうとも付いていくという意志が見えた。

 

 入間が掲げる正義は、“敵を切り捨てる事で大切な物を全部守る”だ。この世界を旅をするのはエヒトとその協力者を亡き者にして自分達の魔界(故郷)、そして先輩達の世界を守る為であり、その過程で仲間(ユエ達)以外の連中がどうなろうと知ったことでは無かった。元凶は似非神とはいえ、信仰なんていう非論理的な理由で何千年も戦争している連中の末路など高が知れているからだ。

 この戦いに入間達バビルが参戦すれば町の安全は保証されたといって良いが、それだと間違いなく教会の連中に目をつけられる。だが、どの道、教会と王国は入間達の手で滅ぼすのだ。圧倒的なまでの実力差を教会や王国の連中に見せつけ、自分達が何を敵に回したのかを教えてやるのも、悪くないかもしれない。

 

 愛子の言葉に完全に納得した訳ではないが、そうやって自己完結した入間は、愛子に再度向き合う。

 

「1つだけ言っておきましょう。世界中の幸せの総量っていうのは決まっている。この町の救済を願えば、貴女には大きな不幸が降り掛かるかもしれません。それでもいいんですか?」

「……私にとって一番大切なのは、生徒達が誰一人欠ける事なく皆で日本に帰る事です。例え私が不幸な目にあったとしても、彼等が無事でいてくれるなら、それでも構いません」

 

 入間はしばらく、その言葉に偽りがないか確かめるように愛子と見つめ合う。入間は、愛子の瞳に偽りも誤魔化しもないことを確かめると、おもむろに踵を返し出入口へと向かった。ユエ達バビルのメンバーも、すぐ後に続く。

 

「す、鈴木君?」

 

 そんな入間に、愛子が慌てたように声をかけた。入間は振りり返ると、参ったとでもいうように肩を竦めて言葉を返す。

 

「…貴女の指図を受けた訳じゃありませんが、僕も仮面ライダーの端くれだ。今回だけは手を貸して上げますよ」

「鈴木君!」

 

 入間の返答に顔をパァーと輝かせる愛子。そんな愛子に入間は苦笑いする。

 

「ただし、相応の対価は払って貰いますよ。この戦いに勝って教会の連中が僕達に目を付けたさい、貴女は僕達の味方になってもらいますよ」

 

 そう言って、再び踵を返して振り返らず部屋を出て行った。ユエ、アメリ、シア、ミレディ、アスモデウスが、小走りで入間の後を追いかけてゆく。

 

 パタンと閉まった扉の音で、愛子と入間の空気に呑まれて口をつぐんでいた町の重鎮達が一斉に愛子に事情説明を求めた。

 愛子は肩を揺さぶられながら、入間が出て行った扉を見つめていた。その顔に入間に気持ちが伝わった喜びは既にない。入間に語った事は、まぎれもない愛子の本心だ。

 だが結果、大切な生徒に魔物の大群へ立ち向かうことを決断させたことに変わりはない。力を振るうことに慣れて欲しくないと言いながら、戦いに赴かせるという矛盾を愛子は自覚している。ウルの町の人々もできれば助けたいという思い。結果的にウルの町を助けられそうではあるが……もっとやりようはなかったのかと、愛子は内心、自分の先生としての至らなさや無力感に肩を落としていた。

 願わくば、生徒達が皆元の心を失わないまま、お家に帰れますように……愛子のその願いは既に叶わぬものだ。愛子自身、入間が見せた、その願いが既に幻想であると感じている。しかし、それでも願うことは止められない。

 

 重鎮達の喧騒と敬愛の眼差しを向ける生徒達に囲まれて、愛子は悟られない程度に溜息をつくのだった。

 

 ちなみに、入間達と一緒に役場に来ていたティオは、「妾、重要参考人のはずじゃのに……こ、これが放置プレイ……流石、ご主ry」と火照った表情で呟いていたが、ごく自然にスルーされていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 【ウルの町】と【北の山脈地帯】を繋ぐ道を、完全武装した護衛隊の騎士達が猛然と馬を走らせている姿があった。先頭を鬼の形相で突っ走るのは、シアを冒涜した事による自業自得で入間に腕を切り落とされたデビッドだ。その横をチェイス達が焦燥感の隠せていない表情で併走する。全力疾走している為か、このまま寝る間を惜しんで疾走すれば既に山脈まで数時間と言った所まで来ていた。

 正史ならば、中間地点で愛子が車に乗って猛スピードでウルの町に帰還と遭遇した事で彼等もウルの町へUターンしていたのだろうが、この世界ではアスモデウスのストールワープによって瞬間移動でウルの町に帰還した為、愛子が既にウルの町に帰還しているなど知る筈もなく、愛子達もまたデビット達が山脈地帯に向かっているなど知る筈もなかった。

 

 暫く走っていると、前方から土煙を上げながら禍々しい雄叫びを上げて何かが此方に向かって爆走していくのを発見し、騎士達は魔物が現れたのだと俄に騒がしくなるが、直ぐに武器を取り出し、隊列が横隊へと組み変わる。対応の速さは優花達と大違いであり、流石超重要人物の護衛隊と賞賛できる鮮やかさだった。

 いつでも戦闘を始められるように身構える騎士達だったが、やがて近付いてきたその魔物の全容が明らかになると、一気に顔を青ざめさせた。

 

 前方からやってきたのは、この世の物とは思えない程禍々しい姿をした怪物だった。しかもその大きさも、かつてライセン大迷宮に乱入したビッグマシン程ではないが桁外れであり、竜化したティオやベヒモスが小動物に見える程だ。

 騎士達は、流石にあの怪物には敵わないと即座に撤退しようとするが、巨体故にスピードも並外れている怪物は既に騎士達の目前へと迫っていた。そして…

 

グシャァアアッ!!

 

 まるで蟻でも踏み潰すかのように、巨大な足の下敷きにされた騎士達は一瞬で絶命した。

 だが下手人である怪物は騎士達の死などどうでもよいのか、それとも始めから眼中になかったのか、歩みを止める事も足元を確認することもなく、ひたすら前へと前進していった。

 この怪物が目指す先、それは今、6万の魔物の大群が目指している場所と同じ【ウルの町】だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




先生のお話でした。
原作を読んでいて、愛子は建物なんて捨てて避難すれば良いのに、生徒が大事といっておきながら生徒であり、ウルの町とは大した縁のないハジメに無報酬で万単位の魔物と闘うことを要求していました。
本作ではどう説得すれば良いのか思い付かなかったので原作通りに参戦する事にしましたが、今章では原作以上にヤバい展開にして愛子に厳しくします。デビッド達はその前座です。
因みに、入間が最後に愛子に掛けた言葉は、仮面ライダーギーツに登場する悪役、ケケラの台詞のオマージュです。



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