戦いが終わったウルの町。
魔物の死骸や戦いの余波で荒れた大地、破壊された外壁やアナザーフォーゼによって爆撃された建物など、被害は出なかったとはいえないが、万単位の魔物の襲撃で死者がゼロという事を考えれば、奇跡としか言い様のない結果であった。
住民を避難させたデンライナーがウルの町に戻ってくるまで暇となった入間達バビルは、取り敢えずウルの町で時間を潰していた。愛ちゃん護衛隊の五人はアナザーフォーゼの攻撃で火傷を負ってしまったが命に関わる程の物ではなく、“水妖精の宿”で優花が看病をしていた。
入間は、特に何かするわけでもなくウルの町を歩いていた。そうして歩いていると、町の外れで人影が佇んでいるのを見つけた。
「………ごめんなさい」
人影の正体は、愛子だった。
その目前には質素な棺桶が置かれている。その棺桶に入れられているのは、この騒動の元凶にして愛子の教え子。そして、愛子が殺してしまった生徒──清水だった。
素通りしても良かったが、入間は何となく愛子の方へと歩みを進めた。その足音に気が付いたのか、愛子は顔を上げ、入間の方に視線を向けた。
「鈴木君……」
「…偶然、でもないですね」
「鈴木君は、どうしてここに……もしかして…」
「清水を弔いに来たとでも?まさか。こうなったのは彼の自業自得ですからね」
愛子の質問を入間は鼻で笑う。
そんな入間に愛子は苦笑すると、今度は罪悪感と自己嫌悪に満ちた表情となり、入間に謝罪をした。
「……ごめんなさい、鈴木君」
「ん?」
「……私がいたせいで…この町が危険に晒されて、君に戦いを強要したせいで君達が傷付いて……挙句の果てには私が園部さん達を傷付けて……清水君を…ッ」
話していく内に愛子の目に涙が溢れそうになり、愛子は顔を両手で覆った。
生徒という存在は、愛子を支える根幹だ。だからこそ、生徒である清水に裏切られたという事。町の為にと思い戦いを強いた結果入間達が傷付いた事。そして敵の手によって怪物にされ、清水を殺して優花達を傷付けてしまった事。どれか一つでも、愛子の心を打ち砕く
入間は、そんな愛子の頬を優しく包みこみ、まっすぐな視線を向けて語り掛けた。
「──先生。貴女が僕に言った事、覚えていますか」
「…鈴木、君?」
「“未来への選択肢は常に自分に委ねられている”と貴女は僕に言いました。あの自称護衛隊は“自分の意思”で護衛になったんですから、貴女を守るために怪我をするなんて当然の事ですし、清水は貴女の制止も聞かず戦争に参戦する事を“自分”で選択して、“自分の意思”で貴女を裏切って殺そうとした。既に清水は堕ちる所まで堕ちていました。貴女が殺らなくても、清水は僕が殺ったかもしれませんし、結局は捨て駒として殺されていたでしょう。英雄っていうのは、英雄になろうとした時点で失格なんですから」
そう、護衛という仕事を買って出たのは優花達であり、愛子を守るためになら命を懸けるのは当然の義務だ。アナザーフォーゼになった愛子に痛め付けられたのも、結局は護衛隊の仕事を何一つとして果たさなかった優花達の怠慢のツケだ。
清水も、自分の意思で魔物の軍勢を襲撃させ、その結果がこれだ。バダンの連中がただの人間でしかない清水を優遇する筈がないし、あの場で魔人族が監視していたという事は、恐らくバダンは魔人族と同盟関係にあるのだろう。人種差別の激しいこの世界で、敵種族である清水が魔人族の英雄になれると考える方がおかしい。そんな事も考えずに欲に目が眩んで、清水は愛子を裏切ったのだから、完全に清水の自業自得である。
「でも、王宮で預かってもらって、一緒に日本に帰れば、もしかしたら改心する可能性はいくらだって……」
「先生、“味方である”事と“過保護”は意味が違う。清水のせいで罪のない5人の冒険者が死んで、この町は一歩間違えれば壊滅して数え切れない程の死者が出る所だった。王宮に連れ帰ったら悪くて死刑、良くても死ぬまで牢獄の中でしょう。そもそも、これだけの事をしておいて何の罰も与えずに王宮で預かるなんて出来る筈がないし、日本に連れ帰れる筈がない」
「……」
返す言葉が見つからず、愛子は俯いた。入間の言う通り、清水が行った事は、どんな理由があろうと許される事ではない。王宮に連れ帰れば間違いなく極刑されるだろうし、この世界で罪を償わずに預かってもらうだけでそのまま日本に帰るなど、国外逃亡する犯罪者と同じだ。
愛子にとって教師とは、生徒の“味方である”事が一番重要だと考えていた。具体的に言えば、家族以外で子供達が頼る事の出来る大人で在りたかったのだ。家の外に出た子供達の味方である事が愛子の教師としての信条であり矜持であり、自ら教師を名乗れる柱だった。だがトータスに召喚されてからは、ピーターパン症候群の光輝達が年長者である愛子の言う事を聞き入れずに勝手に話を纏められて生徒全員が戦争に参戦する事になり、生徒の一人である檜山が故意に入間を殺害しようとした事、本人の許可も得ずに勝手に護衛隊を結成した優花達を止められず、町の人達と為にと入間に強要した結果入間達が傷付けられ、自分は操られていたとはいえ、優花達を攻撃して清水をその手で殺害してしまった事。
生徒達に何もしてやれなかった事への自責の念、味方であろうとする生徒の醜悪さへの葛藤、自分がしてしまった事の罪の重さに、愛子は押し潰されそうだった。
「……先生、貴女はこれからも先生ですか?」
「ッ!……私は…もう……」
そこへ、入間は愛子に唐突な質問をする。普段の愛子なら自信を持って「当然です!」と答えただろうが、生徒を殺してしまった自分に教師など名乗る資格がないと、愛子は歯を噛み砕かんばかりに噛み締め、表情を歪ませた。
人を殺すという行為は重い。狂人や性根の腐った者、或いは覚悟を決めたり割り切ったりした者でもない限り、普通は罪悪感や倫理観という名の刃によって己の精神をも傷つけるものだ。愛子のように、責任感の強い人間ならば尚更だ。
そんな愛子に、手を離した入間は優しく語り掛けた。
「──良いんじゃないですか?
「……え?」
「操られていたとはいえ、貴女は人間の命を奪った。それは変えようのない事実です。でも、貴女は損得も関係なしにこの町の人達を助けたいと僕に頭を下げて、無傷とまではいかなくても町を救えたのも事実ですよ。失った者があっても、より多くの者が救われたんじゃないですか?」
「…でも、
「自分の罪を許せないなら、その罪を背負えば良い。罪の重さに苦しんで、罪悪感に苛まれながら生きれば良い。その罪を償う為に足掻いて、立ち上がって前を向いて、自分と同じ道を辿る生徒が出ないようにして生きればいい」
「でも……でもッ──私は…私は!この世界に召喚された日に生徒達が戦争に参戦する事を止められず、清水君の行動に気付いてあげられず…私のせいでこの町が危険に晒されて!そして…守るべき生徒を傷付けて…殺して…ッ!!」
それでも愛子は、不甲斐なく罪深い自分に、教師である資格など無いと己を責めた。
「それでもいいんだ。
「……ッ」
入間の真っ直ぐな眼と言葉に、愛子は瞳から溢れ落ちそうになる涙を隠すように、再び顔を両手で覆う。入間はそんな愛子にクルリと背を向けると、ポツリと呟いた。
「…大人って辛いですよね」
「……え?」
「辛い事や悲しい事があっても、寄り掛かって甘えたり、叱ってくれる人がいないんですから」
入間は“
「でも、大人が泣いちゃいけないなんて法律は何処にもありません。泣きたい時は泣けば良い。……僕の背中に目はないので、何も見えませんよ」
「っ……本当に……貴方という人は……」
愛子は、泣き笑いをしながら近寄ると、ポスっとその背中に顔を埋めた。
「少しだけ…背中を貸してくれますか……鈴木君」
「どうぞ」
気軽に応える入間に愛子は頬を緩めつつ、その身を預ける。そして、溜め込んだものを吐き出すように涙を流しながら、改めて誓いを立てた。清水を殺した罪悪感は一生消えることは無いだろう。それでも、これからも自分は教師で在り続けようと。そして、罪を背負い続けようと。
圧倒的な強さと意思を持ち、そして誰よりも優しい心を持った彼が先生で在り続けていいと言うのなら、頑張れそうな気がした。
静寂に満ちた空間の中で、暫くの間、一人の女のすすり泣く声が響いた。
日が沈みかけた頃、この世界で聞こえる筈のない電車の警笛が聞こえてくる。ウィルと住民達を乗せたデンライナーが帰ってきたらしい。
「…先生。デンライナーが帰ってきたので、僕たちはもう行かせて貰いますよ」
「……はい」
“不可侵円卓”を解除した入間の言葉を聞き、愛子は入間の背中から顔を上げる。涙と鼻水で入間の上着の背中が大変な事になっていたが、入間は特に気にした様子もなく上着を脱いで仲間達と合流しようとデンライナーが停車した場所に歩き出し、愛子はその後ろ姿を黙って見送っていた。
デンライナーが停車した場所に辿り着くと、戻ってきた住人達は道中で再会して拾ってきたのであろう家族や恋人、友人達と抱きしめ合い、互いの無事を喜び合っている。
その近くでは既にユエ達バビルのメンバーが集まっており、入間に気付いたシアとミレディが笑顔で手を振り、外の3人も笑顔で入間を迎えており、入間も微笑みながら仲間達の下へ歩み寄ろうとすると、不意に後ろから声を掛けられた。
「鈴木!」
聞き覚えのある女性の声に入間が嫌そうに振り向くと、そこには優花達“自称”愛ちゃん護衛隊の6人が立っていた。優花を除いた5人は包帯が巻かれているが動き回れている辺り、問題はないだろう。
入間はそんな彼等に一瞬だけ視線を向けると、まるで初めから何もなかったかのように再び歩き出す。
「ま、待って鈴木!話があるの!」
「……存在自体が不愉快だって、言ったよね?」
優花に呼び止められ、入間は言葉の通り不愉快そうな表情で軽く彼女達を威圧する。その威圧感に6人は「ヒッ」と悲鳴を上げて後退るが、優花が冷や汗を流しながらも決然とした表情で入間に向き直り、それを見た5人も、未だに引け腰ながらも入間に向き合った。
すると、6人は一斉に頭を下げた。
「…本当に、ごめんなさい!」
「「「「「……ごめんなさい!」」」」」
何の脈絡もなく謝罪されたことに、入間は訝しそうな表情となる。未だに頭を下げた姿勢のままの6人を代表して、優花が声を上げた。
「今まで私達はアンタの事を何も知ろうとせず、天之川の言う事を鵜呑みにしてアンタの事を蔑んで酷いことをして、その上私達は保身の為にアンタに救われた恩を仇で返した。…恨まれて当然で、今更仲良くなんて出来る筈ないのに……あんな態度を取り続けて…!!」
優花達はずっと、クラスのマドンナである香織に迷惑をかける奴だと主張する光輝に同調して入間を蔑み続けていた。香織がただのストーカーであり、光輝の言っていることは唯の嫉妬による癇癪だと言う事を理解しようともせずに。
この世界に来てからも、何時ものように光輝の言うことに従って戦争に参加した結果、檜山と光輝達バカルテットのせいで死にかけた所を入間が救ってくれたというのに、自分達はあの事態を引き起こした元凶である檜山を土下座一つと光輝の支離滅裂な庇護で許し、自分が殺人犯になるのが怖くて誤爆の件を入間の自業自得にした。
これだけの事をされれば、自分達は入間に恨まれて当然だと言うのに、再開してからも悪いのは檜山達小悪党組で自分達は関係無いという様な態度を取り続けていれば、優花の感謝を、入間が不愉快に思うのは当然だった。
それをようやく理解した優花は、入間が町を出る前に謝罪がしたく、目が覚めた5人に事情を話し、こうして全員で謝罪をしに来たのだ。
「だから…ごめんなさい!私達を許してくれなくていい…でも、鈴木が2度も私達を助けてくれた事を、絶対に無駄にしない…。それだけは、信じて欲しいの…!!」
頭を下げたまま、真剣な表情で話す優花。他の5人も同じ表情であり、皆同じ気持ちと言うことだろう。
入間は優花達を暫くジッと見つめていたが、やがて呆れたように溜め息を吐くと、踵を返してデンライナーへと歩き出した。
謝罪の言葉を受け取ってもらえたのか、もらえてないのか。決意は届いたのか、届いてないのか。それすらも分からず、頭を上げて所在無さ気に立ち尽くす優花達に、入間は振り返らずに片手を上げてヒラヒラと振ると、そのままデンライナーに乗り込んだ。
そしてユエ達も、意外そうな表情をしながらデンライナーに乗り込み、ウィルも町の事後処理の事で後ろ髪を引かれる様子ではあったが黙ってデンライナーに乗り込んだ。
町の重鎮達が、入間の持つアーティファクトや入間達自身を目的に引き止めようとするが、途端に溢れ出す威圧感に、先の戦いでの化け物ぶりを思い出し、伸ばした手も、発しかけた言葉も引っ込めることになった。
そして、デンライナーは警笛をならして発進する。優花達や町の住民達は、走り去るデンライナーの後ろ姿を見送っていた。
やがてその姿が見えなくなると、6人は愛子の下へ向かって歩き出した。今度こそ、入間が自分達を助けてくれた事を無駄にしない、必ずこの恩に報いるのだという決意を胸にして。
北の山脈地帯を背にデンライナーが警笛を上げながらフューレンに向かって疾走する。
車両にはバビルのメンバーとウィルが座席に座っており、突如としてウィルが、窓際の席でアスモデウスが淹れた珈琲を飲みながら外を眺めている入間に気遣わし気に話しかけた。
「あのぉ~、本当にあのままでよかったのですか?話すべきことがあったのでは……特に愛子殿には……」
「…ま、大丈夫でしょ?言いたい事はもう言ったし、後は先生次第だ」
「……それは、そうかもしれませんが……」
「…君、ほぼ初対面の人間の事をよくそこまで気にするねぇ……」
入間の言葉を聞いてもなお心配そうな表情をするウィルに入間は呆れたような表情だ。会ったばかりの冒険者達の死に本気で嘆き悲しみ、普通に考えれば自殺行為に等しい魔物の大群に襲われる自分とは関係ない町のために残り、恨みの対象であるティオを許し、今は半ば脅して連れ出した入間と愛子達との関係を心配している。王国の貴族でありながら、冒険者を目指すなど随分変わり者だとは思っていたが、中々のお人好しである。入間も人の事は言えないが。
すると、紅茶を飲んでいたアメリが、ふと入間に話し掛けた。
「……それにしても、意外だったな」
「え?何がですか?」
「全部さ。お前が愛子の頼みを聞いた事も、
「……」
そう言われて、入間は口を閉じて考える。
態度からは分かりにくいだろうが、入間はあの時、優花達を許したのだ。その証拠に、デンライナーに乗り込む時、優花達には見せなかった表情には優花達に対する嫌悪は消えており、それがデンライナーに乗り込もうとしていたユエ達を驚かせた理由だ。入間はこれまで、『生徒=険悪の対象』として見ていたのだから、あそこまであっさり許すとは思わなかった。
それに、何故自分は赤の他人でしかない愛子の言うことを聞いて、あそこまで親身になったのだろう?年上であり、生徒達と比べれば割とマトモな人間だったが、あそこまでする義理なんてない筈なのに……。
「……僕もまだまだ甘いってことかな」
「まあ、それでもいいのではないか?」
考えるのも面倒なので、適当に導き出した結論に、アメリは微笑ましそうな表情だ。見れば、後ろにいるユエ達も同じ様な表情であり、何となく恥ずかしくなった入間は、わざとらしく咳払いし、誤魔化すように話題を変えた。
「まあそれより、これで僕達の存在が広まるのも時間の問題になった。敵の組織の名前も分かった以上、これからが本番だよ」
「……ん!」
「ああ」
「はいですぅ」
「うん!」
「はい!」
「分かっておるのじゃ」
これだけの騒動で大暴れしたのだ。王国や教会に伝わらない筈がないし、魔人族や似非神にも目をつけられた可能性だってある。イルワや愛子といった中立派がいるとはいえ、これから先、入間達を取り巻く状況は確実に荒れることになるだろう。
そんな入間の言葉に、バビルのメンバーは皆引き締まった表情で答えた。唯一、話の内容や入間の事情がよくわからないウィルも、特に口出しする事はしなかった。
「──それで、何で
そして一息ついた入間は、座席に座り優雅に紅茶を飲みながら会話に参加したティオにジト目を向けて声を掛けると、全員の視線が集まった。
戦いの前に、入間に付いて行きたいと頼んだにもかかわらず、結局、放置されたどころか存在そのものを忘れられてしまい、慌ててデンライナーに飛び込んだティオ。
もちろん、当初は叩き出してやろうとドアを開けて蹴飛ばそうとしたのだが、魔法をフル活用して意地でも張り付き、しかも、だんだん興奮してきたのか恍惚としだしたので、満場一致で関わらないことにしたのである。
だが、ずーっと無視していたのに既に仲間入りが決定しているみたいなティオの態度に、リーダーたる入間は流石に無視できなかったのだろう。
「そもそも、君が同行を認めてないんだけど?さっさとカードデッキ返して、ドアを開けて今すぐ飛び降りて」
「ッ!?ハァハァ……何処までも弁えたご主人様め……じゃが断る。妾はご主人様に付いて行くと決めたからの。竜人族としての役目も果たせそうじゃし、責任もとってもらわねばならんし、別れる理由が皆無じゃ。ご主人様がなんと言おうと付いて行くぞ。絶対離れんし、
入間が冷たく命令すると、ティオは表情を蕩けさせながらも、龍騎のカードデッキを抱き締めて断固とした主張をした。表情的に台無しだが。
「責任って…そもそも仕掛けてきたのは君の方でしょ?それに、それは贈り物なんじゃなくて貸してるだけだから。それに、竜人族の役目ならあの
「嫌じゃ!絶対嫌じゃ!勇者とやらがどんな奴かは知らんが、ご主人様より無慈悲で容赦ないお仕置きをしてくれるとは思えん!それに見くびるでない!既に妾は“ご主人様”と呼ぶ相手を決めておる。気分で主人を変える様な尻軽ではないわ!」
「結局君が変態なだけでしょうが!!」
「あはぁん!?」
眼をクワッ!と見開いて拳を握りながら力説…もとい変態宣言をするティオに、イラッとした入間は思わず彼女の頬を叩く。普段なら女性に手を出す入間ではないが、彼女の変態的発言に流石に我慢が出来なかったのだ。
我に返ると、「あ、ヤバッ」と呟いて謝ろうとするが……
「……ご褒美を頂いてしもうた♡」
「ええい、お前みたいなド変態を仲間に出来るか!!今すぐカードデッキを返して出てけ!!!」
しなだれたまま打たれた頬を片手で抑えて恍惚の表情を浮かべるティオに、入間は謝罪する気など一瞬で消え去り、口調すら変わって怒声を上げる。
竜人族にあこがれがあったユエは、既に自身の持っていたイメージが幻想となって消えていたにもかかわらず、なおショックを受けて片手で目元を覆ってしまっている。
「そう嫌そうにするでないご主人様よ。妾は役に立つぞ。ご主人様達ほど規格外ではないが、あの戦いで証明は出来ているじゃろ?何を目標としておるのかはわからんが、妾にもお供させておくれ。ご主人様、お願いじゃ」
「図々しい、野生か土に還れ」
「ッ!!!?ハァハァ……んっ!んっ!」
バッサリと切り捨てる入間の言葉に、両腕で何かを堪えるように自分の体を抱きしめ股をモジモジさせるティオ。そんなティオに、入間だけでなく車内の全員が凄く嫌そうな顔をするが、しばらくすると入間は深々と溜息を吐き、どこか疲れた表情をした。
「ハァ~…。もういいよ……。実際、龍騎になれたなら多少なりとも戦力にはなりそうだしね。僕達の目的の邪魔しないならもうどうでもいいよ」
「お?おぉ~、そうかそうか!うむ、では、これから宜しく頼むぞ、ご主人様、ユエ、アメリ、シア、ミレディ、アリス。妾のことはティオで良いからの!ふふふ、楽しい旅になりそうじゃ……」
「……むぅ」
「………」
「よ、宜しくお願いしますです……」
「…よ、宜しく……」
「……はぁ~」
喜色を表にするティオを尻目に入間はもう一度ため息を吐き、ユエは不満そうに唸り、アメリは嫌そうに顔を歪め、シアとミレディは戸惑ったように挨拶を返し、アスモデウスは頭痛を抑えるように頭に手を当てた。
こうして、新たに変態堕竜のティオを加えたバビル一行は、ウィルを連れてフューレンへと向かう。
そこで、また新たな出会いがある事を、入間達はまだ知らない。
ウルの町、終了です。愛子とのやり取りは、殆んど原作の『たった1日の出来事 後編』の内容です。
入間が愛子に語った台詞は、仮面ライダーSPIRITSでスカイライダーこと筑波洋の名言と、ドラえもんの『パパもあまえんぼ』でのドラえもんの名言のオマージュです。
感想、評価お待ちしております。