光輝達の目の前に現れた赤い髪の女魔人族──【カトレア】は、冷ややかな笑みを口元に浮かべながら、驚きに目を見開く光輝達を観察する様に見返した。
瞳の色は髪と同じ燃える様な赤色で、腰には
そんな彼女の姿を見て、馬鹿な男子生徒達の頬が赤く染まる。コイツらは状況を理解しているのだろうか?
「勇者はアンタでいいんだよね?そこのアホみたいにキラキラした鎧を着ているアンタで」
「ア、アホ……う、煩い!魔人族なんかにアホ呼ばわりされる謂れは無いぞ!それより、何故魔人族がこんな所にいる!」
あんまりな物言いに軽くイラっと来た光輝がその勢いで驚愕から立ち直ってカトレアに目的を問い質した。
しかしカトレアは、煩そうに光輝の質問を無視すると呆れた様に頭を振った。
「なんとまぁ直情的な……これが勧誘対象の勇者様?
そして、物凄く嫌そうな雰囲気を漂わせつつ、意外な言葉を放った。
「アンタ。そう、無闇にキラキラしたアンタ。アタシ等の側に来ないかい?」
「な、何?来ないかって……どう言う意味だ!」
「呑み込みが悪いね。そのまんまの意味だよ。勇者君を勧誘してんの。あたしら魔人族側に来ないかって。色々優遇するよ?」
光輝達としては完全に予想外の言葉だった為に、その意味を理解するのに少し時間がかかった。そしてその意味を呑み込むと、クラスメイト達は自然と光輝に注目し、光輝は呆けた表情をキッと引き締め直すとカトレアを睨みつけた。
「断る!人間族を……仲間達を……王国の人達を裏切れなんて、よくもそんな事が言えたな!やはり、お前達魔人族は聞いていた通り邪悪な存在だ!態々俺を勧誘しに来た様だが、一人でやって来るなんて愚かだったな!多勢に無勢だ、投降しろ!」
光輝の啖呵が響き渡る。そこには些かの揺るぎも無かった。
しかし、断固拒否の回答を叩きつけられたカトレアは僅かに目を細めて観察する様な眼差しを向けただけで、特に気にした様子も無かった。それどころか、更に譲歩した条件を提示する。
「一応、お仲間も一緒でいいって上からは言われてるけど? それでも?」
「答えは同じだ!何度言われても、裏切るつもりなんて一切無い!」
やはり微塵の躊躇いも無く光輝が答える。そして、そんな勧誘を受ける事自体が不愉快だとでも言う様に、聖剣に光を纏わせた。これ以上の問答は無用、投降しないなら力づくでも!という意志を示す。
そんな光輝の行動に焦りを見せたのはカトレアではなく、寧ろ永山と雫だった。
二人は内心で舌打ちしつつ、カトレアより周囲に最大限の警戒を行う。永山がさり気無く後ろ手に出した指示で、同じく警戒をしていた遠藤の気配が音も無く消える。
永山も雫も、場合によっては一度嘘をついてカトレアに迎合してでも場所を変えるべきだと考えていた。しかし、その考えを伝える前に光輝が答えを示してしまったので、仕方なく不測の事態に備えているのだ。
普通に考えて、いくら魔法に優れた魔人族とはいえ、こんな場所に一人で来るなんて考えられない。この階層の魔物を無傷で殲滅し、剰えその痕跡すら残さないなどもっと有り得ない。そんな事が出来るくらい魔人族が強いなら、ハナから人間族は為す術無く魔人族に蹂躙されていた筈だ。
加えて、この階層に到達出来る程の人間族15人を前にしても、カトレアは全く焦った様子が見られない。戦闘の痕跡を隠蔽した事も考えれば、最初に危惧した通りここで待ち伏せしていたのだと推測すべきで、だとしたら地の利は彼女の側にあると考えるのが妥当だ。
──自分達は今、大迷宮にいるのではない。敵のテリトリーにいるのだ!
そんな雫達の危機感は、直ぐに正しかったと証明された。
「……そう。なら、アンタに用はない。言っておくけど、アンタの勧誘は絶対って訳じゃないよ。命令は“可能であれば”だ、状況によっては排除の命令も出てる。殺されないなんて甘い事は考えない事だね」
『──ならば、私が相手をしてやろう』
その時、カトレアの背後から、感情を感じさせない無機質な声が響いた。物腰落ち着いたような雰囲気を醸し出す澄んだ男性の声質だ。
その声に、まだ誰か潜んでいたのか!と光輝達は一斉に身構える。そしてカトレアは、その声の主を知っているのか、特に慌てた動揺した様子も見もせずに振り返り、その独特な低音ボイスの持ち主に向かって口を開いた。
「……なんだ、お前1人でやるってのかい?」
『無駄に魔物を消費したくはないだろう?私1人の方が合理的だ』
「言ってくれるねぇ…まぁいい」
不機嫌そうにカトレアが引き下がるのと、
それは、漆黒の鎧を纏った存在。黒一色のボディに片方しかないアンテナ、左目には禍々しく輝く赤い瞳を持っている。
左半身は胸部装甲を貫くように銀色のパイプが伸び、配線や内部パーツが剥き出しになっているなど、痛々しい外見になっている。
彼はかつて、『飛電インテリジェンス』や『ZAIAエンタープライズ』が製作に関わった人工衛星にして、人間の悪意をラーニングされた事で人類を滅亡させようと目論んだ人工知能【通信衛星アーク】が変身した仮面ライダー、【仮面ライダーアークゼロ】だ!
突然現れた謎の戦士に光輝達が警戒を最大レベルまで上げていると、アークゼロのベルトから赤い光が射出され、多次元プリンターのように紫色の模様が入ったアタッシュケースのような物が生成され、アークゼロの手に収まる。
すると、アークゼロの手に収まったアタッシュケースが独りでに変形した。アークゼロはその弓矢──“アタッシュアロー”を引き絞り、赤いエフェクトを纏ったエネルギー矢を放った。エネルギー矢は、空中で無数に分散し、まるで雨のように光輝達に降りかかった。
『『『うぁあああああああ!!!?』』』
咄嗟に鈴が張った障壁魔法をガラスでも割るかのように破壊し、赤い矢の雨が降り注ぎ、地面に着弾した矢が爆発を起こす。幸いにも、咄嗟に光輝達も回避のために動いていたことで誰1人として射抜かれる事は無かったが、爆発の衝撃波によって吹っ飛ばされて倒れた。
アークゼロは新たに剣の刃先を組み合わせたような見た目をした金色の槍、“サウザンドジャッカー”を生成して右手に持つと、体勢を立て直そうとした光輝に斬りか掛かった。
『フンッ!』
「ぐっ!?うぁああああああ!!」
咄嗟に聖剣を前に出して防御を試みるが、武器の性能もパワーもアークゼロの方が圧倒的に上であり、光輝はアークゼロの槍の一振りだけで後方に吹き飛ばされた。そして、アークゼロは光輝を見据えてゆっくりと歩き出そうとする。
「させっかよ!」
そこで動いたのは龍太郎だ。龍太郎はアークゼロに飛び掛かり、アーティファクトの籠手による衝撃波を放つ正拳突きを繰り出した。
しかし、アークゼロは龍太郎の繰り出した衝撃波を伴うアーティファクトの籠手を片手であっさりと受け止め、そのまま力強く握り返す。
「ぎゃああああああっ!!」
グシャッという音と共に籠手は一瞬で砕かれ、龍太郎は自身の手を握る握力に体勢を崩して苦しむ。
『ハッ』
「ぐぁああああッ!!?」
アークゼロは手を離すと、そんな隙だらけの龍太郎の顔面を蹴飛ばした。トータスの一般人を凌ぐステータスと、何よりアークゼロが手を抜きに抜きまくっている事が重なり、龍太郎が死ぬことはなかったが、龍太郎は鼻の骨が折れて歯も何本が砕けた無様な顔で地面を転がった。
「呑み込め、紅き母よ──“炎浪”!!」
その時、恵里が片手を突き出し、今迄見せた事も無い詠唱省略された強力な魔法を発動させた。“炎浪”という名の炎属性中級魔法は、文字通り炎の津波を操る魔法で、素早い敵でもそう簡単には避けられはしない。
しかし、アークゼロはこの程度の魔法で倒せる筈がなかった。アークゼロはサウザンドジャッカーの“ジャックリング”を引いた後、アタックトリガーを引くことで必殺技を発動する。
『フッ』
音声と共に“フリージングベアー”の力を発動し、サウザンドジャッカーに極寒の冷気が纏われ、アークゼロがサウザンドジャッカーを横に一閃させると、放たれた冷気が、炎の津波を一瞬にして凍結させた。氷の彫刻となった津波は、やがて音を立てて砕け散り、砕けた破片が緑光石の光を反射して、幻想的な光景を作り出す。
「嘘でしょ……?」
炎の津波が凍らされるというあまりの事態に、恵里は心理的衝撃から思わず固まってしまった。
すると、アークゼロの持つサウザンドジャッカーの刀身が“フレイミングタイガー”の力で灼熱の炎に包まれる。それなりに距離がある恵里でさえ肌が焼けるような熱を感じる事から、あの炎がどれだけの熱量なのか、喰らってしまえばどうなってしまうのかなど容易に想像ができる。
「ま、まずいっ!」
その様子を見た恵里が、表情に焦りを浮かべた。魔法を放ったばかりで対応する余裕が無かったのだ。だがその焦りは、親友がいつも通りの元気な声で吹き飛ばした。
「にゃめんな!守護の光は重なりて、意志ある限り蘇る──“天絶”!」
刹那、鈴達の前に二十枚の光の障壁が全て斜め四十五度に重なる様に出現した。障壁の出現と同時にアークゼロが放った超高熱の斬撃は障壁を粉砕しながらも上方へと逸らされていった。
しかし、アークゼロの本命は炎の斬撃ではなかった。
再びジャックリングを引いてアタックトリガーを引いたアークゼロが必殺技を発動。“バイティングシャーク”の力を発動し、鮫の歯を模した水色の光刃が連結して鞭の形となると、アークゼロはサウザンドジャッカーを振るい、その鞭で鈴と恵里の身体を同時に絡めとる。二人の表情が崩れるが、もう遅い。
アークゼロがサウザンドジャッカーを持つ腕を振り上げると、連動して鈴と恵里の身体が吊り上げられ、二人は背中を天井に叩き付けられる。それを一瞥したアークゼロは、身体を回転させ、壁を足場にして潜んでいた人物に向けて鈴と恵里の身体を叩き付けた。
「「きゃあああッ!!?」」
「ぐぁっ!?」
そこにいたのは、永山の指示を受けて気配を消した後、暗殺者の技能である隠形をしながらこっそりとアークゼロの背後を取ろうと動いていた遠藤だった。
しかし完全に後ろを取る前に事態が動き出し、動揺の為気配を駄々洩れにしながらも仕方なく一気に距離を詰めようとしたのだが、当然アークゼロは気付いており、恵里と鈴を使って遠藤の動きを封じたのだ。
更にアークゼロは追い打ちを掛けるようにサウザンドジャッカーを巧みに操って遠藤を鞭で拘束すると、三人を同時に地面を向かって振り落とした。
「「きゃあああああっ!?」」
「ぐぁああああああっ!?」
「浩介!?」
「鈴!恵里!」
遠藤は二人に巻き込まれ、三人同時に地面に叩きつけられた事で、地面にクレーターが出来あがり、砂塵が舞う。永山と雫が叫ぶと同時に砂塵が晴れていくと、そこにはクレーターの中心で血を流しながら倒れる三人の姿があった。
「護光で満たせ!──“回天”、“天絶”!」
アークゼロが倒れ伏す三人に視線を向けると、その直後に香織が殆ど無詠唱かと思う程の詠唱省略で同時に二つの光属性魔法を発動した。
一つ目は、光属性中級回復魔法“回天”。複数の離れた場所にいる対象を同時に治癒する魔法だ。
痛みに呻きながら何とか起き上がろうと藻掻く光輝、龍太郎、鈴、恵里、遠藤に白菫の光が降り注ぎ、尋常でない速度で傷が塞がっていくと、虚空にふわりと幾枚もの輝く盾が、アークゼロの行く手を阻むように出現した。
光属性中級防御魔法“天絶”。“光絶”という光の障壁を展開する光属性初級防御魔法の上位版で、複数枚を一度に出す魔法だ。
“結界師”である鈴などはこの魔法を応用して、壊される端から高速で障壁を補充し続け、弱く直ぐに破壊されるが突破に時間がかかる多重障壁という使い方をしたりするが、この点香織は光属性全般に高い適性を持つものの結界専門の鈴には及ばない為、その様な使い方は出来ない。だがそれでも、完璧な角度で最適位置に最速で障壁を展開し、まるで合気でも行ったかの様に攻撃を逸らすなど……正に絶技というに相応しい技だった。
「畜生!何だってんだ!」
「何なんだよ、コイツは!」
「クソ、とにかくやるぞ!」
そこまでの事態になって漸く檜山達や永山達が悪態を付きながらも混乱から抜け出し完全な戦闘態勢を整える。
「永山君、斬り込むわ!後衛の守り頼むわよ!」
「ああ任された!行け八重樫!」
最初の一撃で傷を負っていた雫も完全に治癒されて、アークゼロに攻撃を仕掛け始めた。
雫が残像すら見えない超高速の世界に入る。風が破裂するような音を一瞬響かせて姿が消えたかと思えば次の瞬間にはアークゼロの真後ろに現れて、いつの間にか納刀していた剣を抜刀術の要領で抜き放った。
“無拍子”による予備動作の無い移動と斬撃。姿すら見えないのは単純な移動速度というより、急激な緩急のついた動きに認識が追いつかないからだ。更に、剣術の派生技能により斬撃速度と抜刀速度が重ねて上昇する。鞘走りを利用した素の剣速と合わせれば、普通の生物には認識すら叶わない神速の一閃となる。
先程受けた一撃のお返しとばかりに放たれたそれは、八重樫流奥義が一“断空”。鞘の持ち手を親指で鍔を押さえつつ反動を溜め込み、抜刀の瞬間には逆に弾いて極限まで抜刀族度を上昇させる技だ。
しかし、アークゼロはその技を完全に見切っており、アークゼロの背後に生成された“ザイアスラッシュライザー”が、雫の剣をあっさりと受け止めた。
「なッ!?」
完全にやったと思っていた攻撃をあっさり防がれた事に、雫は動揺から硬直してしまう。しかし、その隙をアークゼロが見逃す筈がない。アークゼロは左足を軸に回転すると、雫の横腹を右足で蹴飛ばした。
「あがぁああああああッ!!?」
「「「うぁああああああッ!!?」」」
手加減マシマシとはいえ、96.3tという桁違いのキック力に防御力が低い雫が受け止められる筈もなく、雫は血反吐を吐きながらサッカーボールのように野村や檜山達の所まで蹴り飛ばされ、雫と激突した野村達はまるでボーリングのピンのように吹っ飛ばされた。
更に、アークゼロは追い討ちを掛けるようにドライバーに格納されている流体金属が複雑怪奇な形となって射出されると、流体金属が針山のような形状となり、まるで生きているかのように雫達に襲い掛かった。
「今度はなんだよッ!?」
「固有魔法…?ぐぅっ!?」
形状を変えて襲い掛かる金属の泥に、雫達は武器を手にして応戦するが、圧倒的な質量から繰り出される攻撃は重く、自由自在に形を変える流体金属の攻撃は予測不可能であり、刺の一撃を防いでも足や腹などがら空きの場所を狙って針が延びるため、致命傷だけは避けられているが、雫達は決して小さくないダメージを負っていく。
「寵華で満t──キャアッ!!?」
咄嗟に香織が光属性中級捕縛魔法“封禁”を雫達に行使して流体金属から引き離そうとするが、詠唱を終える前に、青い光弾が香織を襲い、足元の地面が爆ぜる。
予想外の出来事と爆発の余波で香織は尻餅を突き、光弾が飛んできた方向、つまりアークゼロに視線を向けると、彼が手に持っている物を見て、驚愕の声を上げた。
「あれって…銃!?」
そう、アークゼロの手に握られていたのは、かつて入間が使っていたジカンギレードより小柄な青い銃──“エイムズショットライザー”であった。
一度見ているとは言え、やはり銃のインパクトは強く、香織だけでなく光輝達と驚愕するが、その隙をアークゼロが見逃す筈がない。アークゼロはショットライザーのトリガーを引き、回復魔法を発動しようとした香織のアーティファクトである白杖を正確無比に撃ち抜いた。
「そんなッ!?──あがぁッ!!?」
「「「香織ィ!」」」
アーティファクトが破壊された事に動揺する隙を狙ったアークゼロはトリガーを引いて光弾を発射。香織の腹を撃ち抜き、貫通する。香織は血が流れ出る傷口を抑えながら膝を付き、光輝と雫が叫ぶ。
「貴様、銃なんて卑怯だぞ!正々堂々剣で戦え!!」
『……何故私が態々お前達に合わせなければならない』
自分達がしているのは遊びではない、殺し合いだ。負ければ死ぬ戦いに正当性など存在しないし、外道な手を使おうとを咎められる謂われもない。そもそも、この戦いで剣だけで戦うなどと言ってもいなければ、そんかルールもない。光輝達だって魔法で遠距離攻撃をするのだから、自分の使う
「ふざけるな!お前みたいな卑怯な奴に、俺達は絶対に負けはしない!それを証明してやる!行くぞ──“限界突破”!」
しかし、自分の言い分は世界の心理だと信じて疑わない光輝は、アークゼロの言葉に態度に憤怒の表情を浮かべ、“限界突破”を発動した。
“限界突破”は、一時的に魔力を消費しながら基礎ステータスの三倍の力を得る技能だ。但し、文字通り限界を突破しているので長時間の使用も常時使用も出来ず、使用した後は使用時間に比例して弱体化してしまう。酷い倦怠感に襲われ、また本来の力の半分程度しか発揮出来なくなるのだ。故に、ここぞという時の切り札として使用する時と場合を考えなければならない。
光輝はアークゼロ一人に自分達が押されているという事実に、このままでは仲間の士気が下がり押し切られると判断し、“限界突破”を発動して一気に敵を倒そうと決断したのだ。
「刃の如き意志よ、光に宿りて敵を切り裂け──“光刃”!」
光輝の"限界突破"の宣言と共に、その体を純白の光が包み、聖剣に光の刃を付加させてアークゼロに斬りかかる。その剣の威力は、カトレアが連れている魔物ならばバターでも切るかのように切断されていただろう。
……だが、光輝の力は、アークゼロの前では無意味だった。
「なッ!!?」
なんとアークゼロは、光輝の一撃を片手で受け止めたのだ。しかも、人差し指と中指で聖剣を挟んだだけで。
光輝は振り払おうと腕を右に左にと動かす。両腕で聖剣を持っている光輝と片手の指だけのアークゼロではどちらに分があるかなど一目瞭然の筈なのに、二本指で聖剣を挟んでいるアークゼロは微動だにしない。
『フンッ!』
「ぐぅああああああああッ!!?」
しかし、剣にばかり集中しているのが良くなかった。アークゼロは聖剣に注目していた光輝の腹にヤクザキックを御見舞いし、光輝は体をくの字に曲げて壁まで蹴り飛ばされる。そして壁に激突し、床に崩れ落ちた。
アークゼロにとっては技でも特殊能力でも何でもないただの蹴りだが、その蹴りは国宝級のアーティファクトの鎧に罅を入れ、光輝の内臓を損傷させた。
慌てて香織が流体金属に対象しながらも一人用の中級回復魔法“焦天”をかけるが、アーティファクトが破壊されたので、その回復速度は先程よりも落ちている。飛び掛かってきた龍太郎を蚊でも払う蚊のようにぶっ飛ばしたアークゼロは光輝に休む暇など与えず、サウザンドジャッカーと新たに“プログライズホッパーブレード”を装備し、光輝と剣戦を開始する。
光輝は聖剣を振るって必死に応戦するが、全ての面で大きく負けている為、ただでさえ負傷している光輝はアークゼロの圧倒的なパワーとスピードから繰り出される二刀流の剣を防ぐだけで精一杯だ。
「ぐぅうっ!何だこの強さは!?俺は“限界突破”を使っているのに!!」
『ただ身体能力を上げれば無敵だとでも思っているのか?浅はかだな』
「ぐぁああッ!!?」
苦しそうに表情を歪めながら、“限界突破”発動中の自分を圧倒するアークゼロに焦燥感を募らせる光輝だが、その隙をついたアークゼロはプログライズホッパーブレードを斜めに一閃する。光輝は聖鎧に傷跡を入れられ、そこから血飛沫を撒き散らしながら吹き飛ばされた。
更に、アークゼロは空中に“エイムズショットライザー”、“アタッシュカリバー”、“アタッシュショットガン”、“アタッシュアロー”、“オーソライズバスター”、“ザイアスラッシュライザー”、“プログライズホッパーブレード”を大量に生成する。
宙に浮かぶ武器達は、まるで意思をもっているかのように飛び交い、永山パーティーや小悪党組に襲い掛かった。二組は必死に応戦するが、ただでさえ流体金属の相手で手一杯だというのに、彼等が持つ国宝級のアーティファクトよりも遥かに高性能な武器から繰り出される斬撃や光弾、そして変幻自在の流体金属に、永山パーティーと小悪党組はどんどん追い詰められていった。
香織と辻という治癒師が二人がかりで味方を治癒し続けているからこそ何とか致命的な戦線の崩壊は避けられているが、アークゼロの放出した変幻自在の流体金属と空を飛び交う武器の猛攻により、状況を打開する決定打を打つ事が出来ない。
光輝が“限界突破”の力を以てアークゼロを討とうとしても、肝心のアークゼロは光輝の攻撃がまるで通用せず、逆にその圧倒的な力にどんどん追い詰められていく。
援護しようとした雫の“無拍子”による高速移動による斬撃も、龍太郎の攻撃も、恵里の魔法も一切として通用せず、鈴や香織が張る結界もまるで意味をなさずに粉砕されて反撃され、血飛沫を上げながら吹き飛ばされてしまう。
「やばい……これ、マジでやばいぞ!」
「クソがっ、どうすんだよ!?」
今まで誰も到達したことがない階層を余裕で攻略してきた自分達15人が、たった1人に圧倒されているという事実に、必死に応戦しながらも次第にクラスメイト達の表情に絶望の影がちらつき始めた。
その刹那の間に、アークゼロはドライバーの“アークローダー”と呼ばれるボタンを押して必殺技を発動すると、『悪意』を連想させる文字に満ちた禍々しいオーラがアークゼロの足に集束する。
跳び上がったアークゼロは悪意のオーラをその身に纏い、空中で右足を前に突きだしてキックの体勢をとると、必殺のキックを繰り出した。
「!ここは聖域なりて、神敵を通さず!──“聖絶”!」
その光景に、本能的に“死”を予感した鈴が詠唱省略した光属性上級防御魔を発動。輝く障壁がドーム状となって光輝達全員を包み込んだ。
“聖絶”は強力な魔法なだけあって消費魔力が大きい。故に、普段ならこんな無意味な使い方はしない。しかしアークゼロの強さを身をもって知ったことと、自身の本能がアークゼロの攻撃の危険性をこれでもかと警告していたので、鈴は咄嗟に“聖絶”を選んだのだ。
“聖絶”が展開された直後、アークゼロのキックが障壁に衝突した。見かけによらない凄まじい威力のキックに、鈴は突破させてなるものかと、自身の魔力がガリガリと削られていく感覚に歯を食いしばりながら必死に耐えた。
しかし、その努力も無駄に終わった。
『はぁあああッ!!』
「あぁあああああああああああああああああ!?!!?」
「鈴ちゃん!」
「鈴!」
アークゼロのキックが“聖絶”を打ち破り、必殺のキックが鈴に炸裂。鈴は勢いよく吹っ飛ばされた。その断末魔の叫びにも聞こえる声を聞いて、香織と恵里が思わず悲鳴じみた声で鈴の名を呼ぶ。
鈴の姿は、見るも無惨だった。両手足は有り得ない方向に曲がり、白目を向いて全身から血を吹き出している。ピクピクと微かに痙攣している辺り、まだ死んではいないが、今直ぐにでも治療しなければ手遅れになるのは誰の目から見ても明らかだった。
直ぐに香織が治療しようと鈴の元に駆け付け、精神を集中させる。恵里は、そんな隙だらけの香織と鈴を守ろうと前に陣取る。アークゼロはその姿を一瞥すると、無機質に呟いた。
『……やはり、お前達に戦力としての価値はなかったようだ。これ以上の相手するのは無意味だ』
アークゼロはそのラーニング能力によって、数億通りもの『結論』を導き出している。故に自身の勝利を微塵も疑っていなかった。しかし、時には自分の予測を越える事態が起こりうるということも、アークゼロは学習していた。【飛電或人】と【天津垓】の共闘、そして【仮面ライダーゼロツー】に負けたことがいい例だ。だからこそ、光輝達に戦力としての価値があるかどうかを見極めるために敢えて手加減して戦っていたのだ。しかし、ゼロツー所かマギアにも劣るであろう光輝達の弱さに、アークゼロとカトレアの
そして、彼等を生かす理由がなくなったアークゼロが狙いをつけたのは、流体金属と武器の猛攻によって近くに転がってきた近藤と斎藤、そして野村健太郎だった。
「ヒ、ヒィッ!?た、助けてくれぇええ!!」
「い、嫌だ!死にたくねぇええ!!」
その殺意に気付いた斎藤と近藤は、直ぐにアーティファクトの武器を投げ捨て、アークゼロに背を向けて逃走を始めた。
そんな無様に逃げ回る二人と必死に流体金属と武器の猛攻に応戦する野村を捉え、アークゼロはその手に“アタッシュショットガン”と“シューティングウルフプログライズキー”を生成し、アタッシュショットガンにプログライズキーを装填。青いエネルギーが集束する銃口を向け、トリガーを引いた。
「グッ…!うぁああああああ!!」
「「グギャアアアアアアアアアアアアアッ!!?」」
青い狼の顎を模したエネルギーが無数に発射され、三人に食らい付く。
野村は咄嗟に飛び退いた事で死だけは免れたが、完全にかわす事が出来ず、狼のエネルギー弾の一つが野村の左半身に食らい付き、野村は左腕を喰い千切られ、苦痛に満ちた叫び声を上げた。
咄嗟に回避しようとした野村ですらそうだというのに、無様に逃走する斎藤と近藤が避けられる筈もなかった。青い狼の顎は、羊のように逃げ回る二人に追い付くと、頸に、肩に、胴体に、腕に、その牙を突き立てた。
二人が絶叫し、青い狼が顎に力を入れると──爆発した。
断末魔が爆風に掻き消され、焼け焦げた肉片と赤黒い液体が辺りに飛び散る。そこには斎藤と近藤の姿はどこにもなく、焼け爛れた地面と火の粉だけが残っていた。
「貴様!よくも!」
光輝が仲間の惨状に憤怒の表情を浮かべ、身体を包む“限界突破”の輝きがより一層眩い光を放ち始めた。今にも、アークゼロに突貫しそうだ。勿論、敵う筈がないが。
だが、そんな光輝をストッパーの雫が声を張り上げて諌める。
「待ちなさい!光輝、撤退するわよ!退路を切り開いて!」
「なっ!?あんなことされて、逃げろっていうのか!」
仲間に重傷を負わされた上に二人も殺された事に怒り狂う光輝は、キッと雫を睨みつけて反論した。光輝から放たれるプレッシャーが雫にも降り注ぐが、柳に風と受け流した彼女は険しい表情のまま説得した。
「聞きなさい!一度引いて態勢を立て直す必要があるのよ!それに鈴と野村君がやられて二人も殺されて、今あんたが飛び出したら、次の攻勢に皆はもう耐えられない!本当に全滅するわよ!」
「ぐっ、だが…」
「そろそろ“限界突破”もヤバイでしょ?この状況で光輝が弱体化したら、本当に終わりよ!冷静になりなさい!悔しいのは皆一緒よ!」
理路整然とした幼馴染の言葉に、光輝は唇を噛んで逡巡するが、雫が唇の端から血を流していることに気がついて、茹だった頭がスッと冷えるのを感じた。
雫も悔しいのだ。思わず、唇を噛み切ってしまう程に。大事な仲間を傷つけられて、出来る事なら今すぐ敵をぶっ飛ばしてやりたいのだ。
「わかった……全員、撤退するぞ!雫、龍太郎!少しだけ耐えてくれ!」
「任せなさい!」
「応よ!」
光輝は聖剣を天に突き出す様に構えると、長い詠唱を始めた。今迄は詠唱時間が長い上に状況の打開にならないので使わなかったが、撤退の為の道を切り開くには丁度いい魔法だ。
但し、詠唱中は完全に無防備になるので身の守りを雫と龍太郎に託さねばならない。それは、三人でも歯が立たなかったアークゼロを二人で相手取らなければならないという事だ。当然、雫と龍太郎の二人に対応しきれる筈もなく、二人の攻撃はあっさりと受け止められ、逆に鳩尾に強力な一撃を受けてしまった。
吹き飛ばされ、地面に落下する二人を守るように恵里が前に立つ。これが
故に恵里は魔法を使って足止めしようとしているのだが、恵里程度の魔法でアークゼロを止められる筈もなく、蚊でも払うかのように魔法を弾き、被弾しても掠り傷所か埃一つ付けられない。
やがて永山パーティーや小悪党組も光輝達の元に吹き飛ばされる。その様子はまさに狼に追い立てられた羊の群れであり、親友の末路を目の当たりにした檜山と中野は既に戦意喪失に近い状態だった。
『──前提を書き換え、結論を予測し直した…』
「……は?」
無機質に呟いたアークゼロの意味不明な言葉に、光輝達は思わずキョトンとなる。するとアークゼロは、スッと腕を上げて人差し指を立てると、光輝達に複眼を向けて口を開いた。
『……
「な、なんだとっ!?」
予想外の言葉に目を見開く光輝達。しかしアークゼロは気にし様子もなく腕を組むと、嘲笑するかのような声色で言った。
『お前達の力は把握した。ここでお前達がどう足掻こうと、我等に滅ぼされる結論は変わらない。…故に、辞世の句を詠む時間を与えてやる、ということだ。まあ、逃げないのならばここで滅ぼすまでだがな……』
明らかに自分達を見下した言葉に、光輝達は歯を喰い縛り、キッとアークゼロを睨み付ける。光輝など今にもアークゼロに突撃しそうな様子である。しかし、香織が鈴の治療に掛かりっきりになっている以上、このチャンスを逃せば今度こそ全滅するのは目に見えているので、光輝達は必死に怒りを圧し殺し、通路を抜けて行く。遠藤が魔力の残滓や臭い等の痕跡を暗殺者の技能の一つ、“隠蔽”で消していった。
アークゼロは宣言通り、腕を組んで指をトントンと動かすだけで、光輝達に一切仕掛けてこなかった。
光輝達は、ボロボロの体と目を覚まさない仲間と敵に見逃して貰ったという事実に悔しさ8割、生き残った嬉しさ2割の気持ちで口数少なく逃げ続けた。
・ライダー紹介
【仮面ライダーアークゼロ】
『仮面ライダーゼロワン』に登場した通信衛星アークがヒューマギアに憑依して変身した仮面ライダー。悪意のデータをラーニングされた事で人類こそ滅ぶべき種族であると考えるようになり、人類滅亡を目論むが、【仮面ライダーゼロツー】によって倒された。
ゼロワン本編では滅亡迅雷.netの幹部を宿主としていたが、今回登場したアークゼロは普通のヒューマギアに憑依している。
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