悪魔の孫は時の王者となって世界最強   作:MTHR

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評価バーに色が着きました。これも、この小説を評価していただいま方達のお陰です。


41話 モブと悪の戦士達

 場所は八十九層の最奥付近の部屋。

 その正八角形の大きな部屋には四つの入口がある。しかし現在は、そのうちの二つの入口の間にもう一つ通路が存在しており、奥には十畳程の大きさの隠し部屋があった。入口は上手くカモフラージュされて閉じられている。

 

 そこでは、光輝達が思い思いに身を投げ出し休息をとっていた。尤も、その表情は一様に暗い。深く沈んだ表情で顔を俯かせる者ばかりだ。満身創痍であるが故に、苦痛に表情を歪めている者も多い。

 いつもならそのカリスマを以て皆を鼓舞する光輝も、“限界突破”の副作用により全身を酷い倦怠感に襲われており、壁に背を預けたまま口を真一文字に結んで黙り込んでいる。

 

 そしてこういう時、いい意味で空気を読まず場を盛り上げてくれるクラス一のムードメーカーは、血の気の引いた青白い顔でやはり苦痛に眉根を寄せながら荒い息を吐いて眠ったままだった。その事実も、光輝達が顔を俯かせる理由の一つだろう。

 鈴の砕けた骨は既に完治している。しかし鈴が受けたアークゼロのキックは重要な血管を損傷させたのか彼女の体から大量の血を失わせ、内蔵も幾つか損傷していた。香織だからこそ治療が間に合ったと言える。

 尤も、いくら香織でも鈴が失った大量の血を直ぐ様補充する事は出来ない。精々、異世界製増血薬を飲ませるくらいが限界だ。なので、鈴の体調が直ぐに戻るという事は無いだろう。どうしても安静が必要だった。

 香織が鈴にかかりきりになっているため、他の者はまだ治療を受けていない。

 鈴の治療が終わっても次は彼等の番なので、自分達が治療を受けられるのはまだ先であると分かっているメンバーは特に文句を言う素振りはない。人が死ぬ光景を見てしまい、その気力もないのだろう。

 

 薄暗い即席の空間に漂う重苦しい空気に、何とか仲間を鼓舞しなければと雫が眉間に皺を寄せながら頭を捻る。元来、雫はどちらかと言えば寡黙な方なので、鈴の様に場を和ませるのは苦手である。

 尤も雫自身、流石に斎藤と近藤の末路を目の当たりにした事から、肉体的にも精神的にも限界が近かった。

 

 すると、即席通路の奥から左腕が欠損した野村と辻が話をしながら現れた。

 

「野村君、大丈夫…?」

「大丈夫だよ、辻。何とか上手くカモフラージュ出来たと思う。流石に、あんな繊細な魔法行使なんてしたことないから疲れたよ……」

「壁を違和感なく変形させるなんて領分違いだものね……そんな状態で一から魔法陣を構築してやったんだから無理もないよ」

「そっちこそ、ずっと治療してくれて…ありがとう」

 

 二人の会話からわかるように、この空間を作成し、入口を周囲の壁と比べて違和感がないようにカモフラージュしたのは“土術師”の野村健太郎だ。

 “土術師”は土系統の魔法に対して高い適性を持つが、土属性の魔法は基本的に地面を直接操る魔法であり、“錬成”のように加工や造形のような繊細な作業は出来ない。例えば、地面を爆ぜさせたり、地中の岩を飛ばしたり、土を集束させて槍状の棘にして飛ばしたり、砂塵を操ったり、上級になれば石化やゴーレムを扱えるようになるが、様々な鉱物を分離したり掛け合わせたりして物を作り出すようなことは出来ないのだ。

 なので、手持ち魔法陣で大雑把に壁に穴を開ける事は出来るが、周囲と比べて違和感のない壁を“造形”することは完全に領分外であり、野村は左腕が無いと言う手負いの状態で一から魔法陣を構築しなければならなかったのである。

 

 なお、辻綾子が野村について行ったのは、野村の左腕を治療するためだ。尤も、失った四肢を再生するなど香織ですら不可能なので、辻に出来たのは止血と痛み止が限界であった。

 

「お疲れ様、野村君。これで少しは時間が稼げそうね」

「……だといいんだけど。もう、ここまで来たら回復するまで見つからない事を祈るしかないな。浩介の方は……あっちも祈るしかないか」

「……浩介なら大丈夫だ。影の薄さでは誰にも負けない」

 

 隠れ家の安全性が増したという話に、僅かに沈んだ空気が和らいだ気がして、雫は頬を綻ばせて野村を労った。

 それに対して、野村は苦笑いしながら、今はここにいないもう一人の親友の健闘を祈って遠い目をする。

 

 そう、今この場所には、仲間が一人いないのである。それは、“暗殺者”の天職を持つ、永山重吾と野村健太郎の親友である【遠藤浩介】だ。特に暗いわけでも口下手なわけでもなく、また存在を忘れられるわけでもない。誰とでも気さくに話せるごく普通の男子高校生なのだが、何故か“影が薄い”のだ。気がつけば、皆、彼の姿を見失い「あれ?アイツどこいった?」と周囲を意識して見渡すと、実はすぐ横にいて驚かせるという、本人が全く意図しない神出鬼没さを発揮するのである。もちろん、日本にいた頃の話だ。

 本人は極めて不本意らしいのだが、今はそれが何よりも役に立つ。遠藤はたった一人、パーティーを離れてメルド達に事の次第を伝えに行ったのである。本来なら、いくら異世界から召喚されたチートの一人でも、八十層台を単独で走破するなど自殺行為だ。光輝達が少し余裕をもって攻略できたのも15人という仲間と連携して来たからである。

 だが、遠藤なら「影の薄さでは世界一ぃ!」と胸を張れそうなあの男なら、隠密系の技能をフル活用して、魔物達に見つからずメルド団長達のいる七十層にたどり着ける可能性がある。そう考えて、光輝達は遠藤を送り出したのである。

 

 別れるとき、遠藤は少し涙目だった。説得の言葉として「お前の影の薄さなら鋭敏な感覚を持つ魔物だって気づかない!」とか、「影の薄さで誰がお前に勝てるんだ!」とか、「私なんてこの前、遠藤君の名前だって直ぐに出てこなかったんだよ!絶対に大丈夫!」とか、「俺なんか、昨日もお前の事忘れてたぜ!」等と仲間から口々に酷い事を言われたからに違いないだろう。仲間をなんだと思っているのだろうか?

 本当なら、光輝達も直ぐにもっと浅い階層まで撤退したかったのだが、如何せんそれをなすだけの余力がなかった。満身創痍のメンバーに、瀕死の鈴、弱体化中の光輝、とても八十層台を突破できるとは思えなかったのだ。

 

 勿論、メルド団長達が救援に来られるとは思っていない。メルド団長を含め七十層で拠点を築ける実力を持つのは六人。彼等を中心にして、次ぐ実力をもつ騎士団員やギルドの高ランク冒険者達の助力を得て、安全マージンを考えなければ七十層台の後半くらいまでは行けるだろうが、それ以上は無理だ。

 仮にそこまで来てくれたとしても、八十層台は光輝達が自力で突破しなければならない。つまり、遠藤を一人行かせたのは救援を呼ぶためではなく、自分達の現状とアークゼロの情報を伝えるためなのだ。

 

 光輝達は確かに聖教教会の教皇イシュタル等から魔人族が魔物を多数、それも洗脳など既存の方法では無く明確な意志を持たせて使役するという話を聞いていたが、光輝達チート持ちを1人で圧倒出来るアークゼロの存在など聞いていなかった。この情報は、何が何でも確実に伝えなければならないと光輝達は判断したのである。

 

 それから光輝達は、交代で仮眠を取りながら少しずつ体と心を癒していった。

 

 そんな光輝達の隠れ家の外で、宝石のような身体をした白い小さな鳥が、野村がカモフラージュした壁を眺めていた。その鳥はピィ!と小さく鳴くと、パタパタと小さな羽を羽ばたかせて、主人の元へと飛んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、一人撤退と魔人族の情報伝達を託された遠藤は、ただの一度も戦闘をせず全ての魔物をやり過ごしながらメルド団長達のいる七十階層を目指して着実に歩みを進めていた。

 八十台階層で魔物に気づかれれば一対一ならどうにかなるが複数体ならアウトだ。その為できる限り急ぎつつ、それでも細心の注意を払って進んでいた。そのお陰で、今も魔物が眼前を通り過ぎていくのを見送る事が出来た。

 魔物が完全に見えなくなった後、遠藤は張り付いていた天井からスタッと地に降り立った。“隠形”を最大限に生かす為の全身黒装束姿は、正に“暗殺者”だ。

 きっと先程眼前を通り過ぎた魔物も、天井から奇襲をかければ気づかせる事無く相当深いダメージを与えられただろう。内心「……少しくらい、気配を感じてくれてもいいんだよ?」とか思っていない。全く気付かずに通り過ぎた魔物を見て、目の端に光るものが溢れたりもしていない。断じて。

 

「急がないと……」

 

 遠藤は、自分が課せられた役割を理解している。そして光輝達が、情報の伝達以外にもそのまま生き延びろという意味合いを含めて送り出してくれた事も察していた。永山と野村の「戻ってくるなよ」という想いは、言葉に出さずとも伝わっていたのだ。

 だがそれでも。役目を果たした後、遠藤は光輝達の下に戻るつもりだった。何と言われようと、このまま自分だけ安全圏に逃げて、のうのうとしている事など出来なかったのだ。

 遠藤は自分に気が付かない魔物に若干虚しさを覚えながらも、今はそれが最大の武器になっているのだと自分に言い聞かせつつ、頭に叩き込んである帰還ルートを辿って遂に七十階層に辿り着いた。

 

 逸る気持ちを抑えながら、メルド団長達が拠点を構える転移陣のある部屋に向かう。暫くすると、遠藤の気配感知に六人分の気配が感知された。間違いなくメルド団長達だ。“隠形”を解いたので、距離的に向こうも気づいた筈である。

 遠藤は最後の角を曲がり、メルド達のいる転移部屋に出た。しかし、既に完全に姿を見せているのにメルド達は特に気が付く気配が無い。

 遠藤は死んだ魚みたいな目をしながらメルドに近づき、声を張り上げた。仲間の危機に焦る気持ちと、「自分に気付いてプリーズ」という想いを込めて。

 

「団長 俺です!気づいてください!大変なんです!」

「うおっ!?何だ!?敵襲かっ!?」

 

 遠藤が声を張り上げた瞬間、メルドがそんな事を言いながら剣を抜いて飛び退り、警戒心たっぷりに周囲を見渡した。他の騎士達も、一様にビクッと体を震わせて戦闘態勢に入っている。

 

「だから俺ですって!マジそういうの勘弁して下さい!」

「えっ?……って、浩介じゃないか。驚かせるなよ。ていうか他の連中はどうし?それに、何かお前ボロボロじゃないか?」

「ですから、大変なんです!」

 

 メルド団長達は相手が遠藤だと分かると、彼の影の薄さは知っていたのでフッと肩の力を抜いた。

 しかし戻ってくるには少々予定より早い事と、遠藤が一人である事、そして、その遠藤が満身創痍と言ってもいい位ボロボロである事から、直ぐ様何かがあったと察して険しい表情になった。

 遠藤は、王国最精鋭の騎士達にすら声をかけないとやっぱり気付かれないという事実に地味に傷つきながら、そんな場合ではないと思い直し、事の次第を早口で語り始めた。

 

 最初は訝しげな表情をしていたメルド達だったが、遠藤の話が進むにつれて表情が険しさを増していく。

 そしてたった一人逃がされた事に、話しながら次第に心を締め付けられたのか、涙を零す遠藤の頭をグシャグシャと撫で回した。

 

「泣くな、浩介。お前はお前にしか出来ない事をやり遂げんたんだ。他の誰がそんな短時間で一度も戦わずに二十層も走破できる? お前はよくやった、よく伝えてくれた」

「団長……俺、俺はこのまま戻ります。アイツらは自力で戻るって言ってたけど……今度は負けないって言ってたけど……。天之河が“限界突破”を使ってもアイツにはまるで敵わなくて、近藤と斎藤も殺されて、逃げるので精一杯だったんだ。皆かなり消耗してるし、傷が治っても……今度襲われたら……だから、先に地上に戻って、この事を伝えて下さい」

 

 泣いた事を恥じる様に袖で目元をぐしぐしと擦ると、遠藤は決然とした表情でメルドに告げた。

 メルドは悔しそうに唇を噛むと、自分の持つ最高級の回復薬全てを、それの入った道具袋ごと遠藤に手渡した。他の団員達もメルドと同じく、悔しそうに表情を歪めて自らの道具袋を遠藤に託した。

 

「すまないな、浩介。一緒に助けに行きたいのは山々だが……私達じゃあ、足手纏いにしかならない……」

「あ、いや、気にしないで下さいよ。大分薬系も少なくなってるだろうし、これだけでも助かります」

 

 そう言って、回復薬の類が入った道具袋を振りながら苦笑いする遠藤だったが、メルドの表情は、寧ろ険しさを増した。それは、助けに行けない悔しさだけでなく、苦渋の滲む表情だった。

 

「……浩介。私は今から、最低な事を言う。軽蔑してくれて構わないし、それが当然だ。だが、どうか聞いて欲しい」

「えっ?いきなり何を……」

「……何があっても、“光輝”だけは連れ帰ってくれ」

「え?」

 

 メルドの言葉に、遠藤がキョトンとした表情をする。

 

「浩介。今のお前達ですら窮地に追い込まれて死者が出てしまう程魔人族が強力になっているというのなら…光輝を失った人間族に未来はない。勿論、お前達全員が切り抜けて再会できると信じているし、そうあって欲しい……だが。それでも私は、ハイリヒ王国騎士団団長として言わねばならない。万一の時は、“光輝”を生かしてくれ」

「……」

 

 漸く、メルドの意図を察した遠藤が唖然とした表情をする。

 それは、より重要な誰かを生かす為の犠牲の発想。上に立つ者がやらなければならない“選択”だ。遠藤に出来る考え方では無かった。それ故に、遠藤の表情は酷く暗いものになっていく。

 

「……俺達は、天之河のおまけですか?」

「断じて違う。私とて、お前達に生き残って欲しいと思っているのは本当だ。……いや、こんな言葉に力は無いな。浩介、せめて今の言葉を雫と龍太郎には伝えて欲しい」

「……」

 

 遠藤は、メルドの言葉に暗く澱んだ気持ちになった。

 メルドと遠藤達が過ごした時間は長く濃密だ。右も左も分からない頃から常に傍らにいて、ずっと共に戦ってきたのだ。特に、前線に出ている生徒達からすればメルドは兄貴的な存在で、この世界の者では誰よりも信頼している人物だった。

 だからこそ遠藤は、自分を切り捨てる様な事を言うメルドに裏切られた様な気持ちになったのだ。

 それでも、頭の片隅ではメルドの言う事が必要な事だと理解もしており、衝動のまま罵る事は出来なかった。遠藤は、暗い表情のままコクリと頷くだけで踵を返した。

 が、その瞬間……

 

「浩介ッ!」

「えっ!?」 

 

 メルドが突然浩介を弾き飛ばすと、何処からか飛んできた光弾が地面に当たって小さな爆発を起こし、辺りに火花が散った。

 それを見て、地面に尻餅を付いていた遠藤は顔を青褪めさせて呟く。

 

「そ、そんなっ!もう追いついて……」

 

 その言葉がまるで合図となったかの様に、二つの人影が現れた。そう、アークゼロとカトレアだ。しかし、歩いてやってきたアークゼロとは違い、カトレアはまるで槍と箒が合体したような物に跨がり、お伽噺の魔法使いのように宙に浮いていた。

 

 しかし遠藤は予想外に早く追いつかれた事に動揺して、尻餅を付いたままだ。

 ここに来るまでの間、“暗殺者”の技能を使って気配や臭い、魔力残滓等の痕跡を消しながら移動してきた。カトレアとアークゼロが光輝達を探しながら移動する以上、一直線に駆け抜けた遠藤にこんなに早く追いつく筈が無かったのだ。

 

「本当に一人だけだったとはね……。まさかこうも的中するなんて、アンタ達が味方で本当に良かったよ」

『当然だ。私の予測に狂いはない』

 

 カトレアは髪をかきあげながら箒から降りると、遠藤を姿を見て感心したようにアークゼロに声を掛け、アークゼロは無機質に答えた。

 そう、アークゼロはその能力から、光輝達がどこかで身を隠し、誰か一人が地上に向かって自分達の事を地上の連中に伝える事を看破していた。どの道ホルアドは壊滅の危機に瀕しているので地上に辿り着いた所で全て無意味なのだが、光輝達の隠れ場所もわかっているので、()()との合流がてら先に遠藤を始末する事にしたのだ。

 

『…それよりも、私達の目的はコイツ等ではない。本来の目的のためにも、さっさと終わらせるぞ』

「言われるまでもないよ」

 

 そう言って、アークゼロとカトレアは遠藤とメルド達に殺気を向けた。

 

「円陣を組め!転移陣を死守する!浩介ッ!いつまで無様を晒している気だ!さっさと立ち上がって……逃げろ!地上へ!」

「えっ!?」

 

 その言葉を聞き、流石王国の最精鋭と思わず称賛したくなる程迅速な陣組みをするメルド団長達。事前に遠藤からアークゼロの話を聞いていた事から、自分達では攻撃力不足だと割り切り、徹底的に防御と受け流しを行おうとしている。

 

 遠藤はメルドの「地上へ逃げろ」という言葉に、思わず疑問の声を上げた。

 逃げるなら一緒に逃げればいいし、どうせこの場を離脱するなら地上ではなく光輝達の下へ戻って団長の言葉を伝える役目があると思ったからだ。

 

「ボサっとするな!魔人族の事を地上に伝えろ!」

「で、でも、団長達は……」

「我らは……ここを死地とする!浩介!向こう側で転移陣を壊せ!なるべく時間は稼いでやる!」

「そ、そんな……」

 

 メルドの考えは明確だ。

 地上へ逃げるにしても、誰かが僅かでも時間を稼がねば直ぐにアークゼロとカトレアも転移してしまうだろう。そうなれば、追っ手を撒く方法が無くなってしまい、追いつかれて殺される可能性が高い。

 故に、一人を逃がして残り全員で時間稼ぎをするのがベストなのだ。

 時間を稼げれば、対となる三十層の転移陣を一部破壊する事で、完全に追っ手を撒ける。転移陣は直接地面に掘り込んであるタイプなので、“錬成”で簡単に修復できる。逃げ切って地上の駐屯部隊に事の顛末を伝えた後、再び光輝達が使える様に修復すればいい、という訳だ。

 

 そして、その逃げる一人に選ばれたのが遠藤なのだ。

 遠藤は先程、光輝以外の自分達を切り捨てる様な発言をしたメルドが、今度は自分達を犠牲にして遠藤一人を逃がそうとしている事に戸惑い、それ故に行動を起こせずにいた。

 そんな遠藤に、激しい戦闘を繰り広げるメルドの心根と願いが、雄叫びとなって届けられる。

 

「無力ですまない!助けてやれなくてすまない!選ぶ事しか出来なくてすまない!浩介、不甲斐ない私だが最後の願いだ!聞いてくれ!」

 

 戸惑う遠藤に、兄貴の様に慕った男から最後だという願いが届く。

 

「生きろぉ!」

 

 その言葉に、遠藤は理解する。

 メルドが本当は、遠藤達の誰にも死んで欲しくないと思っている事を。誰かを犠牲にして誰かを生かすなら、自分達が犠牲となり光輝に限らず生徒達全員を生かしたいと思っていた事を。自分に告げた“選択”が、どれだけ苦渋に満ちたものだったかを。

 

 遠藤はグッと唇を噛むと、全力で踵を返し転移陣へと向かった。ここでメルド団長の思いと覚悟に応えられなければ、男ではないと思ったからだ。

 

「させると思ってるかい?」

 

 そう言うと、カトレアは右手に嵌められた指輪を、腰に巻かれた手の形をしたベルトにかざす。

 

 

ドライバーオン!ナウ!

 

 

 音声と共に、カトレアの腰に【メイジのベルト】が装置される。そしてカトレアは大きく開いた胸元から見える胸の谷間から仮面の形状をした指輪を取り出し、その指輪を左手に嵌めると、ドライバーを操作して手の向きを変えた。

 

 

シャバドゥビタッチヘンシン!シャバドゥビタッチヘンシン!

 

 

 奇妙な歌が響き、カトレアはベルトに左手の指輪をかざした。

 

「変身!」

 

 

チェンジ!ナウ!

 

 

 カトレアの左斜め下に琥珀色の魔方陣が現れ、その魔方陣が右斜め上へ昇ってカトレア身体を通りすぎると、カトレアの姿が一瞬で変化した。

 琥珀色の研磨されていない原石を思わせる造形の仮面に、腰周りはスカートの様な形状になっている。肩から突き出た大きな琥珀色の角が特徴的で、左腕が巨大な鉤爪“スクラッチネイル”となっている魔法使い──【仮面ライダーメイジ】に変身したカトレアは、右手の指輪を付け替え、ベルトにかざした。

 

 

コネクト!ナウ!

 

 

「さあ、終わりの時だよ!お前達、餌の時間だ!!」

 

「「「グァアアアアアアアアアッ!!!」」」

 

 音声と共に、メイジの前に六角形の魔方陣が現れたかと思うと、そこからキメラ、筋肉ムキムキのブルタール、六本足の亀、背中から触手を生やした黒猫、四つ目の狼が大量に飛び出し、魔物達は唸り声を上げながらメルド達に襲い掛かった。

 予想外の事にメルド達は目を丸くするが、直ぐに気を取り直して各々武器を手にして応戦するが、魔物達のスペックはメルド処か光輝達すら越えており、瞬く間にメルド達は追い詰められていく。

 

 

エクスプロージョン!ナウ!

 

 

「うぁああああッ!!?」

 

 突如、先程とは別の音声が響き、必死に転移陣に向かって走る遠藤の足元に、魔物達が出てきたものと同じ魔方陣が現れる。また魔物が出てくるのかと遠藤は横に飛んだ瞬間、魔方陣が爆発を起こす。その爆炎と爆風に遠藤はゴロゴロと地面を転がる。

 そう、任意の空間に爆発を起こすメイジ(カトレア)のエクスプロージョンの魔法だ。

 

 遠藤は痛みを堪えて立ち上がって顔を上げると、殺気を感じてそちらを振り向く。そこには、いつの間にか装備したアタッシュアローから無数のエネルギー矢を発射するアークゼロの姿があった。

 遠藤は咄嗟に立ち上がり、歯を食いしばって衝撃に備えながら走り出した。例え攻撃を食らっても、走り続けてそのまま転移陣に飛び込んでやるという気概をもって。

 

 だが、予想した衝撃はやって来なかった。騎士団員の一人が円陣から飛び出し、その身を盾にして遠藤を庇ったからだ。

 

「ア、アランさん!!!」

 

 知り合いだったのだろう、遠藤はその騎士を名前を呼ぶが、アランと呼ばれた騎士からの返事はなく、身体中にエネルギー矢が貫通し、大量の血を流して目から光を失ったアランは前のめりに倒れ込んだ。鈴の結界すら容易く破壊したアークゼロの攻撃なのだ、遠藤に被害がいかなかっただけでも称賛者である。

 アランが自分を庇って死んだという事実に、遠藤は噛み切る程唇を強く噛み締めて、転移陣へと駆ける。

 

「ハッ、私達の勝ちだ!ハイリヒ王国の騎士を舐めるな!」

 

 メルドが不敵な笑みを浮かべながらそう叫ぶと同時に、遠藤が転移陣を起動しその姿を消した。

 しかし、返ってきたのは嘲笑であった。

 

『逃げても無駄だ。奴の死は決まっている…』

「何っ!?」

『冥土の土産に教えてやろう。既に我等が放った害獣がホルアドを攻め滅ぼしている。その害獣を放った者達も既にこの迷宮に潜っているだろうから、私達が殺らずとも奴等があの男を殺すだろう。私達を足止めしたとしても、奴があの三人に勝てる可能性は…ゼロだ』

「……ッ!!?」

『人間を弄び、絶望の淵へと落とす……人間から教わった悪意の一つだ』

 

 無機質ながらも嘲笑うかのようなアークゼロの言葉に、メルドや魔物と交戦中の騎士達も青褪めた。

 アークゼロが嘘を言っている可能性もあるが、アークゼロの無機質な声と態度から、アークゼロの言葉が事実なのだと分かった。しかし、それが本当だと言うことは、今現在ホルアドは自分達を圧倒している魔物が地上の人々を襲っていると言う事なのだ。王国でも最高レベルの実力のメルド達でさえ足止めだけで精一杯なのだから、ホルアドの住人や冒険者達だけで何とか出来ると考えてるのは楽観的すぎた。更には、アークゼロの仲間が迷宮に潜っているということは、アークゼロと同様の者がまだ存在し、遠藤に迫っていると言う事なのだ。

 それならば態々メルドと交戦する必要はないのにこうして遠藤を追ってアランを殺害したのは…アークゼロの言う通り、遠藤とメルド達を弄んでいたのだ。

 

「浩介…すまない…っ!」

 

 転移陣の方に目を向けて謝罪するメルド。しかし、アークゼロはそんなメルドの言葉など知ったことかと言わんばかりに、ベルトのアークローダーを押す。それは、アークゼロの死刑宣告だった。

 

 

オールエクスティンクション!

 

 

 悪意の文字に満ちた禍々しいオーラがアークゼロの足元に発生する。足元のオーラは地面を伝い、メルド達に纏わりつき、身体の動きを完全に封じだ。メルド達は抜け出そうにも、全方位から掛かる圧力に抜け出す所か身動きさえ取れない。

 そして、拘束されたメルド達は中に浮き上がり、完全に逃げ場を失ったメルド達に、アークゼロは右掌を向けて、握り締めた。

 

ドゴォオオオオオオオオンッ!!!

 

「「「「「ぐぅああああああああああっ!!!!」」」」」

 

 その瞬間、メルド達に纏わりついていた赤黒いオーラが空中で大爆発を起こし、爆炎がメルド達騎士を呑み込んだ。爆炎が収まると、煙の中から、腕や脚といった人体の一部が落ちてくる。

 アークゼロはその一つ、顔の半分以上に酷い火傷を負ったメルドの首に目を向ける。

 

『…理解したか?全ては予測通り……これが…結論だ』

 

 転移陣のある七十層の部屋に再び静寂が戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁあああーっ!!」

 

 そんな悲鳴とも雄叫びとも付かない叫び声を上げながら、【オルクス大迷宮】三十階層の転移陣から飛び出した遠藤は、直ぐ様ダガーを振りかぶり足元の魔法陣の破壊を試みた。

 一撃で魔法陣を破壊出来なかった遠藤が二撃、三撃と加えあと一歩で陣の一部を破壊出来るというところで、辛くも魔法陣破壊を妨害するものが現れた。

 

「──そう言う事されると困るんだよ…ね!」

「がはっ!?」

 

 遠藤の横腹を、何者かが蹴り飛ばした。遠藤は転移陣の破壊に夢中になっていた為にそれを避ける事が出来ず、無防備にその蹴りを受けて吹き飛ばされる。

 蹴られた箇所を抑えながら遠藤は自分を蹴飛ばした者に目を向けると、そこにはアークゼロとはまた違う、仮面と鎧を身に付けた戦士が佇んでいた。

 

 銀灰色の鎧に犀を模した仮面を纏い、左肩に赤い一本角を携えた戦士───【仮面ライダーガイ】

 黒のボディスーツには黄色の二重のラインが走り、銀の装甲を纏い、紫の複眼にギリシア文字の『X(カイ)』を連想させるマスクの戦士──【仮面ライダーカイザ】

 スーツカラーは薄緑。複眼やアーマーの色は赤。全体的にサクランボを連想させる茎を模したパーツが目立つデザインで、手足にはヴァイキングの様な毛皮が付いている戦士──【仮面ライダーシグルド】

 

 三人とも、各々の世界で他のライダー達を苦しめた凶悪な戦士だ。

 その姿を見て、直ぐに目の前の鎧の戦士達がアークゼロの仲間だと気付いた遠藤は顔を青褪めさせる。

 

「そんな…!なんで……ッ!?」

 

 地上が壊滅の危機に瀕しているとは知らない遠藤は、どうしてここにアークゼロの仲間がいるのかと疑問に思ったが、ふと辺りを見回してみると、そこには、無惨に切り刻まれた人間の死骸が転がっていた。彼等はメルド団長の部下で、三十階層側の転移陣を保護する役目を負った者達だ。実力不足で三十階層での警備が限界な者達でもある。

 冒険者や騎士が迷宮で殉職するというのはよくある話だが、この状況をみれば、彼等が魔物に殺られた訳ではないのは容易に想像が出来る。

 

「まさか……お前らが…!!」

「ん?…ああ、俺達が殺ったよ。全然相手にならなくてさ、つまんなかったなぁ……」

 

 遠藤の言葉に、ガイが悪びれもせずに肯定する。そう、彼等はホルアドに害獣を解き放った後、こうしてオルクス大迷宮に潜って攻略を始め、その圧倒的な力で僅か数時間でこの三十階層まで来て、邪魔者であった騎士達を殺害したのだ。

 

「皆殺しの指示が出されているんだ。悪いが容赦はしないよ…!」

 

 ネクタイを直すような仕草をした後、仮面の下でニヒルな笑みを浮かべるカイザ。遠藤は歯を噛みしめてカイザをキッと睨み付けるが、転移陣を破壊しなければアークゼロ達がやってきてしまうと、“暗殺者”の技能“影舞”を利用して天井に駆け上がり、頭上から魔法陣の破壊を狙う。

 

「やれやれ、諦めの悪い子供は嫌いだよ」

 

 しかし、それを態々見逃してくれる程彼等は甘くない。

 先ず、シグルドが専用武器の“ソニックアロー”を装備し、ソニックアローのグリップを引き絞り、赤いエネルギー矢を連続で発射した。

 

「がぁ、あぁあああああっ!!!??」

 

 正確無比に撃たれた光の矢が遠藤の肩と脚を正確に撃ち抜き、遠藤は着弾箇所から血を拭き出し、苦痛の叫びを上げながら天井から墜落した。床に勢いよく背中を打ち付けた遠藤は、痛みに悶えながらも転移陣を破壊しようと身体を動かすが、それを遮るようにガイが転移陣と遠藤の間に立った。

 

「大人しく死ねよ。あの魔法陣(ショートカット)は俺達も使うんだからさ」

「ッ!!…ふっざけるなぁあああっ!!」

 

 ガイの態度に怒りが頂点に達した遠藤は、感情のままにショートソードを手にして無防備なガイに突撃した。

 

「死ねぇええええ!!」

 

 仲間を殺された事、引き離された事、メルド達を置き去りさせられた事、知り合いの団員達を殺された事、その他にも様々な怨嗟を込めた雄叫びと共に、遠藤はショートソードを振りかぶり、ベルトに装置されているカードデッキからカードを引き抜いたガイに斬りかかった。

 しかし、遠藤の渾身の一撃は、ガイの強固な装甲に傷一つ付けることが出来なかった。

 

「…ッ!!?」

「ハハッ。その程度かよ」

 

 目を見開く遠藤をガイは鼻で笑うと、カードデッキから引き抜いたカードを左肩の“メタルバイザー”のカードスロットに投げ入れ、左手でバイザーを閉じた。

 

 

STRIKE VENT

 

 

「ハァッ!!」

「っ!うああああああっ!!」

 

 無機質な音声と共に、銀灰色の犀の頭を模したような形状の籠手──“メタルホーン”が飛来し、ガイの右腕に装着される。専用武器を装備したガイはメタルホーンを振り下ろし、硬直していた遠藤にそのドリル状の角を叩き付けた。

 当然、その攻撃を堪えられる筈もなく、遠藤は血反吐を吐きながら吹っ飛ばされた。

 

 遠藤は痛む身体に鞭打ちながらなんとか立ち上がろうとするが、遠藤の目前にまで歩み寄ったカイザが遠藤の首を掴み、その身体を高々と持ち上げた。

 

「じゃ、死んで貰おうかな……」

「ぐっ…がぁっ……」

 

 遠藤は何とか抜け出そうともがくが、既にアークゼロとの戦いで満身創痍である上に、先程のシグルドとガイの攻撃で大ダメージを受けて大量に血を失ったことで思うように力が入らず、脚を動かしてカイザの体を弱々しく蹴るが、当然ながらカイザは微動だにしない。

 

「畜生……畜生……ッ」

 

 光輝達の頼みを果たせなかった事、メルドの犠牲を無駄にしてしまった事などの思いから、遠藤は涙を流しながら、青白い顔でキッとカイザを睨み付けた。

 そして……

 

ゴキッ!!

 

 骨が砕ける嫌な音が三十階層に響き、遠藤の意識は永遠の闇に消えた。

 

 

 

 

 




・ライダー紹介

【仮面ライダーメイジ(カトレアVer.)】
バダンから与えられたメイジのベルトと魔法の指輪で女魔人族のカトレアが変身した仮面ライダー。
変身した事で魔力を直接操作する事が可能となり、トータスの魔法ならば詠唱も魔法陣も必要なくなる。

【仮面ライダーガイ】
『仮面ライダー龍騎』に登場した悪の仮面ライダー。仮面ライダー王蛇に仮面ライダーゾルダのエンドオブワールドの盾にされ、怒り狂って王蛇に反撃するも王蛇のベノクラッシュで返り討ちに遭い、爆死した。
変身者は芝浦涼。性格や言動は『RIDER TIME』で登場したヤンホモではなく龍騎本編に登場したもの。

【仮面ライダーカイザ】
『仮面ライダー555』に登場した仮面ライダー。スマートブレインによって開発されたカイザドライバーを草加雅人が使って変身する。
ファンの中で草加の評価は両論賛否だが、草加雅人は他媒体では悪役的立ち位置にいる事が多いので、今回悪役として登場させた。

【仮面ライダーシグルド】
『仮面ライダー鎧武』に登場した悪の仮面ライダー。ユグドラシルコーポレーションのエージェントにしてロックシードを若者達に売り捌くディーラー、シドが変身する。禁断の果実を手に入れようとロシュオに挑んで敗北し、岩壁に開かれた亀裂へと吹き飛ばされ、そのまま念力で亀裂の中へ封じ込められて圧死した。


というわけで、遠藤とメルドが退場となりました。
遠藤は原作を読んでいて、彼もハジメの墜落事件を自分が犯人になりたくないからハジメの自業自得にしたのに、再開した時に「仲間だろ」とか「仲間なら助けに行くのは当然」という台詞が掌返しのように思えて、本作ではアンチ対象とした結果、このような展開となりました。遠藤ファンの方々は申し訳ございません。
因みに遠藤を殺害したシーンは、555(ファイズ)本編で草加が木場が変身したカイザに殺されるシーンのオマージュです。



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