悪魔の孫は時の王者となって世界最強   作:MTHR

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リアルが忙しくなってきて、更新が遅れてしまいました。申し訳ございません。
これから学校行事や科目修得試験で更に忙しくなり、今後も更新が遅れる事になるかもしれませんが、ご了承下さい。

ギーツ最終回、そしてガッチャードが放送開始、そして魔入りました!入間くんも二大スピンオフ連載開始予定と、楽しみが盛り沢山です!



42話 懐かしき災獣

「ヒャッハー!ですぅ!」

 

 左手側の【ライセン大峡谷】と右手側の雄大な草原に挟まれながら、【仮面ライダーレーザー・バイクゲーマーレベル2】とデンライナーが太陽を背に西へと疾走する。

 空中に線路を作りながらも道に沿って進むデンライナーと異なり、レーザーの方は峡谷側の荒地や草原を行ったり来たりしながらご機嫌な様子で爆走していた。

 

「シア、ご機嫌だねぇ……」

「……むぅ。ちょっとやってみたいかも」

 

 デンライナーの車両の席に座ってコーヒーを飲んでいた入間が、呆れた様な表情で呟いた。

 入間の言葉通り、今シアはデンライナーの方には乗っていない。一人で意思を持たないレーザーを運転しているのである。

 

 元々シアは、バイクの風を切って走る感じがとても気に入っていたのだが、最近人数が多くなり、すっかりデンライナーでの移動が主流になっていた為少々不満に思っていたのだ。それならば、運転の仕方を教わり自分でバイクを走らせてみたいと入間に懇願し、特に断る理由も無かった入間はすんなりと“爆走バイクガシャット”をシアに渡したのである。

 そうして、そのガシャットを用いて呼び出したのが、現在シアが乗っている意思を持たないレーザー・バイクゲーマーレベル2である。元々特別な技術や操作が必要ではない為、バグウサギのシアにとっては大して難しいものでもなく、あっという間に乗りこなしてしまった。そして、その魅力に取り憑かれたのである。

 今も奇声を発しながら右に左にと走り回り、ドリフトしてみたりウィリーしてみたり、その他ジャックナイフやバックライドなどプロのエクストリームバイクスタント顔負けの技を披露している。

 シアのウサミミが「ヘイヘイ、どうだい私のテクは?」とでも言う様にちょっと生意気な感じで時折入間の方を向く。ハンドルを握ったり乗り物に乗ると性格が豹変する人種がいるが、シアもその類なのだろう。

 

 入間の正面の席で同じ様にシアの様子を見ていたユエが、ちょっと自分もやりたそうにしている。ユエも一応【マシンウィンガー】を所持しており、ウルの町でもバイクアクションを披露していたが、シアに影響されて「ヒャッハー!!」とか叫ぶユエの姿を想像すると、その時は絶対に止めようと考える入間。

 

 そんな入間に、ユエの隣で窓に手をついて外の景色を眺めていた三、四歳くらいの幼女──ミュウがいそいそとユエの膝の上に攀じ登ると、そのまま大きな瞳をキラキラさせた。そしてハンドルを握りながら逆立ちし始めたシアを指差し、入間におねだりを始める。

 

「パパ!パパ!ミュウもあれやりたいの!」

「ダメに決まってるでしょ」

 

 ミュウがユエの膝の上に座りながら、即答で自分のお願いを否定して頭を撫でる入間に「やーなの!ミュウもやるの!」と全力で駄々をこねる。暴れるミュウが座席から転げ落ちない様、ユエが後ろから抱きしめて「……暴れちゃメッ!」と叱りつけた。「うぅ~」と可愛らしい唸り声を上げながらしょぼくれるミュウに、入間は「仕方ないなぁ~」と苦笑いする。

 

「後で僕が乗せてあげるから、それまでは我慢してね」

「……いいの?」

「うん。シアと乗るのは絶対に駄目だよ?」

「シアお姉ちゃんはダメなの?」

「駄目だよ。いい?特に理由も無く妙なポーズで曲技運転する奴は危ないからね」

 

 レーザーのハンドルの上に立ち、右手の五指を広げた状態で顔を隠しながら左手を下げ僅かに肩を上げるという奇妙なポーズでアメリカンな笑い声を上げるシア。そんなジョ○ョ的な香ばしいポーズをとる彼女にジト目を向けながら、入間はミュウに釘を刺す。見てないところでシアに乗せてもらったりするなよ?と。

 

「そもそもバイクは危ないから乗せたくないんだけど……サイドバッシャーならいけるかな?念のため安全性を考慮して改造を……」

「ユエお姉ちゃん。パパがブツブツ言ってるの。変なの」

「……入間パパは、ミュウが心配……意外に過保護」

「フフ、ご主人様は意外に子煩悩なのかの?ふむ、このギャップはなかなか……ハァハァ」

「ユエお姉ちゃん。ティオお姉ちゃんがハァハァしてるの」

「……不治の病だから気にしちゃダメ」

「フッフッフ…これでどうだ!ストレート!」

「フォーカード」

「フルハウス」

「また負けたぁ~~~!!!」

「ユエお姉ちゃん。ミレディお姉ちゃんが倒れたの」

「……いつもの事」

 

 膝の上からユエを見上げているミュウの頭をいい子いい子しながら、ユエがミュウの話し相手を務める。その隣の席では、暇潰しにポーカーをしているアメリ、ミレディ、アスモデウスがいる。

 

 ミュウと旅し始めて少し経つが、入間は既に「パパ」という呼び名については諦めている。当初は何が何でも呼び名を変えようとあの手この手を使ったのだが、そうする度にミュウの目端にジワッと涙が浮かび、ウルウルした瞳で「め、なの?ミュウが嫌いなの?」と無言で訴えてくるのだ。奈落の魔物だって片手間で蹴散らせる入間だが、何故かミュウには勝てる気がしなかった。結局、なし崩し的に「パパ」の呼び名が定着してしまった。

 「パパ」の呼び名を許容(という名の諦め)してからというもの、入間は何だかんだでミュウを気にかけている。今では、むしろ過保護と言っていいくらいだった。シアは残念ウサギだし、ミレディはウザインだし、ティオは変態だし、母親の元に返すまでミュウは俺が守らねば!とか思っているようだ。世話を焼きすぎる時は、むしろユエとアメリとアスモデウスの三人がストッパーになってミュウに常識を教えるという構図が現在のバビル一行だった。

 ユエはミュウが入間にべったりなので、中々二人っきりでイチャつく機会が持てず、若干欲求不満気味だったが、やはり懐いてくれるミュウが可愛いので仕方ないかと割り切っている。

 

 何やら妄想に熱が入り始めたのかハァハァという息遣いが煩くなってきたティオにアメリがビンタを食らわせて黙らせ、ユエとアスモデウスは教育に悪いのでミュウの耳と目を塞ぐ。そして、未だミュウ専用のサイドバッシャーに思いを馳せてブツブツ呟く入間と、再戦しろー!と騒いで無視されるミレディ、そして遂にバイクに乗ることすらなく走らせたレーザーの後部に捕まって地面を直接滑り始めたシアを見ながら、私がしっかりしなきゃ!とちょっと虚しい決意をするユエ、アメリ、アスモデウスの三人だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのままデンライナーとレーザーが街道を並走しつつ少し、バビル一行は【宿場町ホルアド】まであと30分といった所まで来ていた。

 本来なら素通りしてもよかったのだが、【フューレン】のイルワからホルアドのギルド長に手紙を渡すように頼まれたので、それを果たす為に寄り道するつもりなのだ。と言っても、元々【グリューエン大砂漠】へ行く途中で通る事になるので大した手間ではない。

 

 入間はテーブルに頬杖を着いて、窓の外に顔を向けて目を細める。入間の膝の上に座ってアスモデウスが用意したお菓子をモシャモシャと頬をリスのように膨らませながら頬張っていたミュウが、そんな入間の様子に気がついたようで、不思議そうな表情をしながら入間に尋ねた。

 

「パパ?どうしたの?」

「ん?あー、これから向かう町は、前に来た事があってさ。何だか懐かしくなってね……」

「……入間、大丈夫?」

 

 入間の腕にそっと自らの手を添えて心配そうな眼差しを向けるユエ。入間は肩を竦めると、次の瞬間にはいつも通りの雰囲気に戻っていた。

 

「ああ、問題ないよ。ただ、四ヶ月前の事なのに、何年も前に感じてさ。思えば、あの町からこの旅が始まったんだなってさ」

「……」

 

 ある意味運命の日とも言うべきあの日のことを思い出す入間の言葉を、神妙な雰囲気で聞くユエ達(未だに外で凄まじい運転をするシアを除いて)。ユエは、ジッと入間を見つめている。ティオが、興味深げに入間に尋ねた。

 

「ふむ。ご主人様は、やり直したいとは思わんのか?元々の仲間がおったのじゃろ?ご主人様の境遇はある程度聞いてはいるが……皆が皆、ご主人様を傷つけたわけではあるまい?仲の良かったものもいるのではないか?」

 

 ティオは、まだ入間達と付き合いが浅いため、時折、今のように入間達の心の内を知ろうと客観的に見ればかなりストレートな、普通なら気を遣ってしないような質問をする。それは、単なる旅の同行者ではなく、ティオ自身がきちんとバビルの仲間になりたいと思っているが故の彼女なりの努力だ。手に余る変態ではあるが、其の辺の在り方は入間達も好ましく思っている。

 なので、特に気を悪くすることもなく、入間はティオの質問を受け止める。

 

「別に、仲間なんて一人もいなかったよ。僕は光輝(疫病神)達のせいでクラス中から嫌われるし、中途半端な力を手にして天狗になる馬鹿しかいなかったしね。あの傀儡王国と教会も同じだよ。あのまま王宮で過ごしてたら、僕は確実に魔人族よりも先にあの王国を滅ぼしていただろうね」

 

 なんでもないように語る入間に、アメリとアスモデウスの魔界組は難しい表情をする。過去の経験から、人間に対して良い感情を抱いていない入間だが、基本的に温厚な性格の彼がそこまで言うとは、と。

 

 しかし、入間の言葉は全て事実だ。いくら一緒に召喚されたとはいえ、見ず知らずの人間をいきなり『仲間』だなんて思える筈がなかったのに、光輝達バカルテットのせいで自分とは無関係の戦争に巻き込まれ、しかもクラスには誰一人として“()()()()()()()()”が一切無かった。戦争という物がどれだけの無益な犠牲を伴うものなのかを理解しようともせず、クラスの全員がサバゲーの延長線としか見ていなかった。しかも、あの白崎香織(ストーカー)のせいで光輝を始めとした生徒達から『入間は香織に迷惑を掛ける駄目な奴』という意味不明な因縁をつけられ、最終的には命を狙われた。

 更には教会や王国の連中も、赤の他人でしかない自分達を勝手に戦争に巻き込んでおきながら「力があるんだから自分達を助けろ」と言わんばかりに上から目線な教会の連中も、まるで自分達は被害者ですという態度のハイヒリ王国の連中も不愉快で仕方なかった。奈落に落ちなければ、間違いなく光輝達も教会も王国も入間が滅ぼしていただろう。

 

「それに、僕は奈落に落ちてよかったと思っているよ。ユエ達に出会って、アメリとアズ君と再会できて…こんなに仲間が増えたんだからさ」

 

 この旅の果てには、きっと想像を絶する戦いが待ち受けている。しかし、信頼できる者が一人もいない場所から抜け出したことで、こんなにも頼もしい仲間達に巡り会えた。だからこそ、入間はあの時わざと奈落に落ちたことを後悔していなかったし、王宮での生活に戻りたいとも思わなかった。

 すると、入間の言葉に笑顔を浮かべたミレディが、突然入間の首に抱き付いた。入間とミュウとアスモデウスが目を丸くし、その他の女性陣の目が冷たくなる。

 

「……ミレディ、何してるの?」

「え~?なんかハグした方がいいかなと思ってさ。ユエちゃん達もすれば?」

「……そういうことなら私も」

「む~!ミレディお姉ちゃんもユエお姉ちゃんもズルいの!ミュウもパパにギュ~する~!」

「でしたら、ここは私達も」

「よしきた」

「ふむ、なら妾も遠慮なく」

「えっ、いや、流石に全員は……ちょっ」

 

「皆さ~ん!一大事で……って、何をしてるんですか?」

 

 そんな時、デンライナーの車両のドアを蹴破らんばかりの勢いで、外でレーザーに乗って爆走していたシアが入ってきた。車両に足を踏み入れた瞬間におしくらまんじゅうの様にぎゅうぎゅうの状態のメンバーにジト目を向けるシアだったが、直ぐに我に返ったように真面目な表情になると、大慌てで口を開いた。

 

「って、そんな事より!ホルアドで異変が起きてるんですよ!遠目でしたけど、町に爆煙が上っていました!!」

「何っ!?」

 

 シアの言葉に、入間達は慌てて“マシンデンバード”が収納されている先頭車両に向かう。

 車両に取り付けられたモニターには、ここから数キロ程離れている町に、爆炎と煙が立ち上ぼり、更には生き物らしき大きな影が、現在進行形で町を破壊している光景が映っていた。

 

 明らかに異常が起きている事は、この場にいる誰もが理解している。入間は振り返って仲間達に視線を向けると、ミュウ以外の全員が引き締まった表情で頷いた。入間はマシンデンバードに跨がってエンジンを付けると、デンライナーを急加速させ、ホルアドに向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グォオオオオオッ!!!」

 

 宿場町ホルアドは、何時もの商人や冒険者が賑わうお祭り騒ぎから一転して、阿鼻叫喚の地獄のような光景が広がっていた。

 

 町を破壊している下手人は、まさに化け物と呼ぶに相応しい姿をしていた。

 全長は約40m。顔の造形は牛に近いが、目が本来あるべき場所の他に額とこめかみに二つずつの計6つあり、口には鋭い牙が並んでいる。青色の身体は筋肉ムキムキの人間の造形であり、まるでギリシア神話に登場する怪物ミノタウロスの様だが、下半身の形は完全に蛇だ。

 その化け物の名は青牛(マウンテン・ブル)

 トータスとは違う異世界で、現れた際に必ず破壊の限りを尽くしてきた事から、“災獣”の異名を持つ魔獣だ。

 

 青牛(マウンテン・ブル)はその豪腕を震い、力任せに近くの建物を破壊し、蛇の尾を振るって辺りにいる人間を凪払っていく。町の人々は我先にと逃げ惑い、中には武器や魔法を使って青牛(マウンテン・ブル)に挑む冒険者もいるが、当然、敵う筈もなく、逆に振り下ろされた拳や蛇の尾によって一瞬で地面の染みにされていく。

 

 そんな中、妙齢の女性が倒れ込み、娘と思われる小さな女の子が母親らしき女性に寄り添っていた。母親は青牛(マウンテン・ブル)が暴れた際に飛び散った瓦礫にぶつけたのか、脚から大量の血を流しており、動くことが出来ないようだ。故に母親ひ娘に一人で逃げるように呼び掛けるが、少女は目の前の化け物の恐怖と母親から離れたくないという思いから、その場から動くことが出来ない。

 しかし無情にも、その姿を捉えた青牛(マウンテン・ブル)はその丸太のように太い腕を振りかぶり、母娘に狙いを定めた。その光景に、親子は身を固くして目を瞑った。

 

 すると、何者かが二人を掴み上げ、すぐさまその場から飛び退いた事で、振り下ろされた拳は狙いを外し、地面を陥没させた。

 

 親子は突然の事に目を丸くしていると、自分達を助けた青い服と髪の人物──入間が、脇に抱えていた二人を下ろすと、後ろを振り向いて仲間達に声を掛けた。

 

「ミレディ!」

「任せて!“禍天”!」

 

 その呼び掛けに、入間の隣に立った少女──ミレディが、呪文を唱えると、突然青牛(マウンテン・ブル)の頭上に直径四メートル程の黒く渦巻く球体が現れ、落下した途端押し潰す様に青牛を地面に押さえつけた。

 

「グァアアアアッ!!?」

 

 青牛(マウンテン・ブル)は突然の出来事と上から掛かる圧力に悲鳴を上げるが、何とか立ち上がろうとしている。並みの魔物ならばこれだけで潰れたトマトのようになっている所だが、やはり災獣と呼ばれるだけあって、パワーも耐久力も並みの魔物を遥かに越えているようだ。

 しかし、足止めが出来れば十分だ。入間に視線を向けられたミレディは頷くと、直ぐに重力魔法を行使して未だに混乱している様子の親子を宙に浮かせると、突然虚空から現れた“キャプテンゴースト”に乗せる。親子を乗せたキャプテンゴーストは、そのまま安全な場所まで浮遊していった。

 

 キャプテンゴーストが見えなくなると同時に、ミレディの重力魔法が解けた。重力の拘束から解放された青牛は、額に青筋を浮かせ、蛇の尾を振り下ろした。

 しかし、三人は魔法や魔術で自身の重力を軽くして高く跳び、その攻撃を難なくかわす。その隙を付いて入間は弓矢を生成して漆黒の矢を、ミレディは“緋槍”を放ち、青牛(マウンテン・ブル)の体を貫いた。

 

「グギャァアアアアアアッ!!!」

 

 致命傷には至らなかったが、流石にこの攻撃の連続には青牛(マウンテン・ブル)も無傷ではいられず、体を襲う激痛にのたうち回る。その際に、周りの建物も幾つか倒壊した。

 

 一方で、入間は痛みに狂い悶える青い牛の怪物を、観察するように眺めていた。

 というのも、入間は目の前の化け物を知っているからだ。この怪獣は、仮面ライダーの世界の存在ではなく、かつて遊園地(ウォルターパーク)を襲撃した三体の災獣の内の一体だ。確かこの牛は、カルエゴ先生とリード、ジャズ、カムイ、ガープのチームが倒した魔獣だった筈。ここに来る前に確認した怪獣は三体、この牛を見れば、他の二体がどんな怪獣なのか、なんとなくだが想像できる。しかし、どうして魔界産の災獣がここに…?

 

 その疑問と同時に、本来自分達が立っている場所にいるべきの勇者一行は何をしているんだと思った。オルクスの百階層までの階層には空間転移の魔法陣があるのだから、地上に辿り着くのにはそこまで時間が掛からない筈だ。勿論、来たところで勝てるかどうかは分からないが。

 だとすると、もしや連絡手段がなくて地上の状況を知らないのか?という考えに至ると、人間族の浅慮さに溜息を吐いた。ウルの町での話は既に大きな広がりを見せているのだから、今回のような突然の襲撃は予測するべきだ。ギルドにも長距離連絡用のアーティファクトがあるのだから、王宮や協会にもあると考えるのが妥当だ。第一、戦争の真っ只中で、勇者一行が十分な実力を付けるまで敵勢力である魔人族が何も仕掛けてこないと考えるのは楽観的としか言いようがない。

 

 正直、入間達バビル一行にはこの町を救う義理などないが、流石に目の前で滅ぼされようとしている町を見捨てる程薄情ではないし、何故この町が襲われているのかの心当たりがないわけではないので、この戦闘が全くの無駄とは言わないだろう。

 

「…それに、あれからどれだけ成長出来たのか、試してみるのもいいよね」

 

 そう言って、入間は羽に魔力を込めて漆黒の矢を生成する。同時に、ミレディもガンガンセイバーを召喚して手に持つと、彼等は戦闘態勢を取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 青牛(マウンテン・ブル)が暴れている場所とは別の地区では、また別の怪物が、現在進行形で町を破壊していた。

 その姿は一言で言えば鼠だが、全長は40mに近い。丸い体は黄色い体毛に覆われ、巨大な牙と鋭い爪を持ち、更には槍のような尾が8本生えている。

 黄鼠(パンサー・ラッド)と呼ばれるこの魔獣も、青牛(マウンテン・ブル)と同じ様に“災獣”の異名を持つ魔界産の魔獣だ。

 

 黄鼠(パンサー・ラッド)はその鋭い爪を勢いよく振り下ろし、目の前に建つ建築物を切り裂き、建物は次々と爪痕を残して破壊されていく。人々は阿鼻叫喚となって我先にと逃げ出し、冒険者ギルドの職員達が市民の避難誘導を行い、傭兵や冒険者達が必死に黄鼠(パンサー・ラッド)を討ち取ろうと遠距離から魔法を放つが、その攻撃は目の前の怪獣には一切として通用せず、逆に相手に自分達の居場所を教えただけであった。

 鼠の怪物は、鬱陶しい攻撃を続ける獲物(エサ)の位置を把握して狙いを定めると、悪魔のような8本の尾が、冒険者や傭兵目掛けて突撃した。成人男性程はある尾がまるで光線のように迫ってくるその光景に、彼等は顔を青くして死を覚悟する。

 

 

フィニッシュタイム!

 

マッハ!ギワギワシュート!

 

 

「グァアアアアアアアッ!!?!?」

 

 その時、不思議な音声と共に、何処からか光の矢が飛来する。その矢は空中で無数に分裂し、拡散した矢が、一つ残さず八本の尾に直撃する。

 黄鼠(パンサー・ラッド)は突然の事にその矢を避けることが出来ず、矢が貫通した尾の痛みに思わず悲鳴を上げた。

 

「お前達!すぐに安全な場所に避難しろ!」

 

 突然の出来事に呆気にとられていた冒険者やギルド職員達に、突如凛とした声が掛けられた。その場にいた全員が声がした方に目を向けると、そこにはゆみモードのジカンザックスを手にしたアメリが立っていた。

 

「グァアアアアアッ!!」

 

 自身に手傷を負わせたのがアメリだと判断した黄鼠(パンサー・ラッド)は、怒りを露にしてその鋭い爪を備えた腕を、アメリ目掛けて振り下ろす。

 

「遅い!」

 

 対するアメリは冷静に、ジカンザックスを投げ捨てると、ジャンプしてその爪を回避すると、腕を足場にして黄鼠(パンサー・ラッド)の眼前まで駆け上がる。そして空を跳び、右足を旋回すると、顔に強烈な蹴りを御見舞いした。

 

 その蹴りを無防備に受けた黄鼠(パンサー・ラッド)は、その巨大を半回転させて地面に倒れ込むが、直ぐに立ち上がる。アメリは生身の状態での本気で蹴りをいれたのだが、柔らかい外皮と厚い脂肪によって、ダメージが殆んど軽減されるのだ。

 

「少し甘かったか…やはり、あの額を狙うべきか」

 

 黄鼠(パンサー・ラッド)の弱点は、額にある硬く守られた部分だ。かつてこの魔獣と交戦し勝利したアメリは、出来ることなら弱点を狙わずに倒したいと思っていた。あれから自分は成長しているのだから、前と同じではあまり面白くない。しかし、それでも優先するべきなのは住民の安全だ。幸いにも、先程自分が魔獣を蹴り飛ばした光景に我を取り戻し、ギルド職員や冒険者の指示にしたがって避難し始めている。

 

 すると、黄鼠(パンサー・ラッド)が8本の尾を動かし、アメリを取り囲むように伸び、アメリを串刺しにしようとする。しかしアメリは慌てることもなく、自身のスピードを上げる魔術“加速(スピレッド)”を行使し、駆け出す。

 マスクドライダーのクロックアップには遠く及ばないものの、本人のスペックと合間って驚異的な速度を得たアメリは、地面をバク転して矢のように迫る尾を避け、尾は狙いを外して地面に突き刺さる。

 しかし、黄鼠(パンサー・ラッド)は地面に刺さった尾に力を込め、腕立て伏せの要領で地面に浮き上がった。巨大なゴム毬のような体躯が、アメリに襲い掛かる。

 

 予想外の事にアメリは目を見開くが、それも一瞬。直ぐにその攻撃に対処する為、“幻想王(ロマンチスタ)”を発動。アメリの赤い髪が光輝き、自身の力を最大限まで引き出す。

 衝撃に備え、その超重量の一撃を受け止めようとした、その時だった。

 

 

ガシャットッ!キメワザ!

 

GEKITOTSU CRITICAL FINISH!

 

 

「りゃああああああっ!!」

 

 機械的な大槌を手にしたウサミミ少女──シアが、原型を留めていない程破壊された建物を足場にして高く跳躍し、赤いロボットアームのような形状のオーラを纏ったガシャコンブレイカーⅡを、黄鼠(パンサー・ラッド)の顔面に向けてフルスイングした。

 当然、空中にいる黄鼠(パンサー・ラッド)はこれを避けることが出来ず、巨大な体を揺らしながら攻撃が不発に終わり、地面を崩れ落ちる。しかし、いくらガシャコンブレイカーⅡの必殺技でもその柔らかい外皮によって衝撃が吸収されてしまい、大したダメージにはならなかった。

 黄鼠(パンサー・ラッド)は地面に背中から落下するも、直ぐに周りの建物を巻き込みながら起き上がった。

 

「シア!」

「お待たせしましたアメリさん!さあ、協力してこの鼠を肉塊にしてやりましょう!」

 

 アメリの隣に着地したシアは、ガシャコンブレイカーⅡを構えて、アメリに頷きかけた。

 彼女も逞しくなったものだ。ユエと共に修行をつけた身としては、何だか彼女の成長が嬉しく感じてしまい、アメリは笑って構えを取り、シアに背中を預けた。

 

「額の固く守られている箇所が弱点だ。そこを潰すぞ!」

「はいですぅ!」

 

 アメリの指示にシアが頷いた瞬間、体勢を立て直した黄鼠(パンサー・ラッド)が再び爪を振り下ろす。

 それを見て、アメリとシアは同時に駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

『ヴロロロロロロロッ!!!』

 

 また違う場所では、恐ろしく巨大な赤い竜が、天を突くように咆哮しながら町を破壊して行く。

 竜の名前は赤龍(カーマイン・ドラゴン) 。仮面ライダーガイが解き放った災獣だ。

 赤龍(カーマイン・ドラゴン)は天に首を向けて咆哮しながらも赤い鱗に覆われた尾を鞭の様に振るって建物を破壊し、地面を割り、その度に聞こえる人々の悲鳴に、歓喜するように再び咆哮する。

 

「…相変わらず、よく吠えるトカゲだ……」

「……怖い?」

「馬鹿を言え」

 

 そんな災獣を、原型を留めていない程破壊された建築物の上に立って眺める背の高い美男子と小柄な美少女がいた。そう、アスモデウスとユエだ。

 

「…っまさかイルマ様と別行動になるとは……無念!」

「……それは、私の台詞」

 

 今も町を破壊し続けてある赤龍(カーマイン・ドラゴン)を前にしても普段と何ら変わらない様子で、二人は愚痴るように呟いた。

 というのも、ホルアドに辿り着き、町を襲撃している魔獣が三体だと知ったバビル一行は、デンライナーにミュウとその護衛としてティオを残し、その他のメンバーが三組に分かれて魔獣を撃退するという方針は満場一致であった。しかし、誰が入間とペアになるかで、入間大好きなメンバーが火花を散らし、結果としてじゃんけんで入間&ミレディ、アメリ&シア、アスモデウス&ユエのチームで魔獣の討伐に向かったのだ。

 町が壊滅しそうな時に「お前ら状況分かってんのか」といわれてもおかしくはないが、実際バビルの面々は目の前の魔獣が油断ならない相手であるとは理解しているが、驚異とは感じていなかった。かつて戦ったビッグマシンや骸骨恐竜に比べれば、目の前の(トカゲ)は驚異であるとは思えないのだ。

 

「こうなれば、一刻も早くこのトカゲを討伐してイルマ様に誉めていただく。これ以外あり得ん!」

「……ん、同感。ミレディやアメリとシアよりも早く倒す…!」

 

 そう言って、アスモデウスはその手に炎を発生させ、ユエは右手のウィザードリングを付け替える。二人の殺気に気付いたのか、赤龍(カーマイン・ドラゴン)は二人に顔を向けると、ガパッと開けた口から、灼熱の炎を吐いた。

 

「「足引っ張るなよ…!」」

 

 同時に、アスモデウスとユエはその場を飛び退いて炎を避け、お返しといわんばかりに赤龍(カーマイン・ドラゴン)の顔面に向けて魔術と魔法を放った。

 

 

 

 

 

 




・魔獣紹介

赤龍(カーマイン・ドラゴン)
『魔入りました!入間くん』74話『六指衆の計画』に登場した災獣。原作では遊園地(ウォルターパーク)を破壊する為に生み出されたが、たまたま入間達問題児(アブノーマル)クラスと引率のバラムによって敗北した。
口から炎を吐き、高密度の魔力を放出する竜人族のブレスに似た技を使うことが出来る。

青牛(マウンテン・ブル)
『魔入りました!入間くん』75話『魔獣襲撃』に登場した災獣。原作では問題児(アブノーマル)クラスの四名と引率のナベリウス・カルエゴの活躍により敗北した。
蛇のような尾と豪快なパワーを武器にする。

黄鼠(パンサー・ラッド)
『魔入りました!入間くん』75話『魔獣襲撃』に登場した災獣。遊園地を襲撃した際にアザゼル・アメリの活躍により敗北した。
柔らかい身体で衝撃を吸収し、8本の悪魔のような尾から毒ガスを発射する事も出来る。




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