悪魔の孫は時の王者となって世界最強   作:MTHR

48 / 128
9月から新しく始めたアニポケ×魔入間のクロスオーバー小説の執筆をしており、此方の執筆のペースが落ちてきています。ご了承下さい。

今回はかなり原作を改編しております。香織や雫だけでなく、地球組のファンの方々には気に入らない展開となると思いますので、そういった方にはブラウザバックを推奨します。


45話 悪の戦士達の蹂躙劇

「うっ……」

「鈴ちゃん!」

「鈴!」

 

 呻き声を上げて身じろぎしながらゆっくり目を開けた鈴に、ずっと傍に付いていた香織と恵里が声に嬉しさを滲ませながら鈴の名を呼んだ。鈴は暫くボーっとした様子で目だけをキョロキョロと動かしていたが、やがてゆっくりと口を開いた。

 

「し、知らない天井だぁ~」

「鈴、あなたの芸人根性は分かったから、こんな時までネタに走って盛り上げなくていいのよ?」

 

 喉が乾いているのだろう。しわがれ声でそれでも必死にネタに走る鈴に、彼女の声を聞いて駆け付けてきた雫が、呆れと称賛を半分ずつ含ませた表情でツッコミを入れた。そして傍らの革製の水筒を口元に持っていき水分を取らせる。

 ごきゅごきゅと可愛らしく喉を鳴らして水分を補給した鈴は、「生き返ったぜ!文字通り!」とあまり洒落にならない事を言いながら頑張って身を起こす。香織と恵里がそれを支える。

 

 瀕死から意識を取り戻して、即座に明るい雰囲気を撒き散らすクラス一のムードメーカーに、今の今まで沈んだ表情だったクラスメイト達も口元に笑みを浮かべた。

 

「鈴、目を覚ましてよかった。心配したんだぞ?」

「よぉ、大丈夫かよ。顔真っ青だぜ?」

 

 起きていきなり騒がしい鈴に、小さく笑いながら光輝と龍太郎が近寄ってくる。

 “限界突破”の影響で弱体化し、且つアークゼロとの戦闘で手も足も出なかった事に落ち込んでいた光輝だったが、この即席の隠れ家に逃げ込んでからそれなりの時間が経っている為、どうにか持ち直した様だ。

 

「おはよー、光輝君、龍太郎君!何とか逃げ切ったみたいだね? えっと、皆無事……あれ?何人か足りないような…」

「ああ、遠藤だけ先に逃がしたんだ。あいつの隠形なら一人でも階層を突破出来ると思って……斎藤と近藤は…その……」 

 

 光輝と龍太郎に笑顔で挨拶すると、鈴は周囲のクラスメイトを見渡し人数が足りない事に気がついた。鈴は戦闘中に意識を喪失していたので、光輝達は彼女の疑問に答えると共に現状の説明も行った。普段の鈴ならば空気を読まない行動をしてその場の空気を和ませようとするのだが、流石に二人も死人が出ている状況では、彼女もムードメイクなど出来る筈もなく、思い悩んだような表情で俯いた。

 もう二度と生きて地上に戻れないんじゃないかと、そんな事まで考え出したクラスメイト達は、体力が徐々に回復してきても、精神は真逆にどんどんと沈んでいく。

 

「……畜生、何で、何でこんな事になるんだよ…。このままじゃあ…俺達全員殺されちまうんじゃねえのか…!?」

 

 頭を抱えた中野が、絶望に満ちた声でそう呟いた。その呟きを聞き、永山パーティーや檜山も顔を更に暗くし、ただでさえ重苦しかった空気が更に悪くなる。

 

「おい中野、やめないか。そんなことを言っても、状況は何も変わらない……」

「うっせぇよ!そもそも、お前が負けるから礼一と良樹が死んだんだぞ!何が勇者だよ!何が皆を救うだよ!」

 

 光輝が口を出すが、火に油を注いだ様に中野は突然激高し、光輝を責め立て始めた。その発言に切れたのは、脳筋腰巾着の龍太郎だ。

 

「てめぇ……誰のお陰で逃げられたと思ってんだ?光輝が道を切り開いたからだろうが!」

「道を切り開いた?馬鹿なこと言ってんじゃねぇよ!見逃して貰っただけじゃねぇか!あの時、魔人族の提案呑むフリして後で倒せば良かったんだ!勝手に戦い始めやがって!全部天ノ川のせいだろうが!!」

「……言い方は悪いけど、俺も中野と同じだよ。天ノ川が軽率に動いた結果、二人も犠牲者がでたんだぞ?もう少し考えていれば、こんなことにはならなかったのかもしれないのに……」

 

 中野の反論に、永山パーティーの野村も追従する。リーダーの永山や、辻や吉野も光輝と龍太郎非難の眼差しを向けた。

 小悪党組は兎も角、普段の永山パーティーの面々はその場の空気を悪くするような連中ではないのだが、光輝が後先考えずに戦い始めた結果、仲間が二人も戦死して野村も左腕を失ったという現実に、精神的に追い詰められていた彼等は、無意味だと分かっていても光輝を責めずにはいられなかった。

 

「龍太郎、俺はいいから……中野、野村、責任は取る。今度こそ負けはしない!もう、敵の能力は把握しているし、銃は通用しない。今度は絶対に勝てる!」

 

 拳を握って根拠のない自信を元に力説する光輝だったが、辻が暗い眼差しでポツリとこぼした。

 

「……でも、“限界突破”を使った攻撃でも、あの黒い奴に指だけで受け止められていたよね?」

「そ、それは……こ、今度は大丈夫だ!」

「何でそう言えんの?」

「今度は最初から“神威”を女魔人族と黒い奴に撃ち込む。皆は、それを援護してくれれば……」

「八重樫の“無拍子”すら見切って対応できる相手だぞ?長い詠唱の隙を狙って銃で攻撃してくるに決まってる。それに、敵があの黒い奴と魔人族の女だけとは限らないだろう…」

 

 光輝が大丈夫だと言っても、中野と永山パーティーには光輝の実力に対する不信感が芽生えているらしく、疑わしい眼差しを向けたまま口々に文句を言う。

 ここで光輝に責任やら絶対に勝てる保証等を求めても何にもならないのだが、光輝の軽率さが原因で仲間が二人も殺された事実と相手の有り得ない強さに平静さを失っている様だ。物事を深く考えずに光輝に従うだけの龍太郎が喧嘩腰で反論するのも、彼等をヒートアップさせている要因だろう。

 

「皆落ち着きなさい!何を言ったところで、生き残るには光輝に賭けるしかないのよ!光輝の“限界突破”の制限時間内に何としてでもあの黒い奴を倒す。アイツ等に私達を見逃すつもりが無いなら、それしかない。分かっているでしょ?」

 

 雫が両者の間に入って必死に落ち着く様に説得するが、やはり効果が薄い。香織がいい加減、一度全員を拘束する必要があるかもしれないと、密かに“縛煌鎖”の準備をし始めた時……

 

「ブォオオオオオオッ!!!」

 

ドガァアアアアアンッ!!!

 

 凄まじい咆哮と共に、隠し部屋と外を隔てる壁が粉微塵に粉砕された。

 

「きゃぁああ!!」

 

 衝撃によって吹き飛んできた壁の残骸が弾丸となって隠し部屋へと飛来し、直線上にいた吉野に直撃し、悲鳴を上げて思わず尻餅をつく。

 光輝達は突然の事態に驚愕しながら、部屋に乱入してきた者の全体像を捉えた。

 

 そこにいたのは、2mはある銀灰色の鋼鉄の身体に、金色の角と鋭い爪を携えた二足歩行の犀だった。

 それは、仮面ライダーガイが契約した犀型のミラーモンスター──【メタルゲラス】であった。

 

 野村が作り出したカムフラージュ様の壁を自慢の突進力を生かして破壊したメタルゲラスは、唸り声を上げながら、近くにいた吉野をその豪腕で捕まえた。

 

「真央!!」

「ッ!!嫌!助け…あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!!」

 

グシャッ!バキッ!グチャッ!ボリボリ!

 

 辻が吉野の名を叫び、吉野は必死に光輝達の方へ手を伸ばし、助けを求める。しかし無情にも、メタルゲラスは光輝達が吉野を助けに動くよりも速く、吉野の喉元に食らい付いた。

 肉が喰われ、骨が砕ける音が響き渡り、吉野の身体がメタルゲラスの巨体によって覆い隠される。光輝達はその光景を、呆然と目を見開いて眺めている事しか出来ない。

 

 やがて音が聞こえなくなり、メタルゲラスが光輝達の方に顔を向けると、そこに吉野の姿は何処にもなく、彼女の血で手と口元が赤黒く染まったメタルゲラスが、唸り声を上げながらゆっくりと歩みを進めた。

 

「ヒ、ヒイィィィィ!!」

「うわぁああああっ!!」

 

 そこで動いたのは、小悪党組の生き残りである檜山と中野だ。といっても、吉野の仇を射つためにメタルゲラスに突撃する訳ではなく、寧ろその逆、再び仲間が無惨に殺される光景を目の当たりにした事と、メタルゲラスが次は自分達を狙っていると本能的に理解した事で、一刻も早く目の前の驚異から逃げ延びようとするための逃走だ。先程から黙り込んで何かを考え込んでいる様子だった檜山も、この時はただ生き延びたいという感情から、雫が「落ち着いて!」と二人に制止しようとするも聞こえていない。涙や鼻水で顔を醜く歪めた二人は、メタルゲラスの横を走り抜け、隠し部屋の入口まで辿り着いた。

 しかし……

 

「「「グギャギャギャギャ!!」」」

 

「え?うぎゃああああぁあッ!!?!?」

 

 突如、何もない空間にジッパーのようなものが三つ出現し、それが音を立てて開くと、空中に出来たジッパーの向こうの空間から何かが現れた。

 白いずんぐりむっくりした体型をした怪物──【初級インベス】三体はクラックから飛び出し、知性の欠片も感じられない唸り声を上げながら、隠し部屋から飛び出した中野に襲い掛かった。

 不意打ちを喰らった中野は成す術もなく初級インベス達に蹂躙され、吉野が喰われた音と全く同じ音が響き渡り、インベス達の隙間から腕や足といった中野の一部が飛び散る。

 

「あっ、あぁああ……」

 

 再び仲間が目の前で喰われた光景を目の当たりにした檜山は、恐怖で失禁しながら腰を抜かしながらも、必死に逃げようとする。しかし非情にも、他の二体に中野の大部分を喰われ、望んでいた程腹を満たせなかった初級インベスの一体が檜山を視界に捉え、唸り声を上げながら檜山の右腕に食らい付いた。

 

「ぎゃああああっ!!!」

 

 そのまま初級インベスに右腕を引きちぎられ、檜山は腕を抑えながら悲鳴を上げた。

 檜山の右腕をおやつのようにバリボリと噛み砕いた初級インベスは、再び唸り声を上げて、激痛にのたうち回る檜山に歩み寄っていく。しかし、背後から光輝の聖剣による一撃を不意打ち気味に喰らってしまい、初級インベスは吹き飛ばされた。

 

「戦闘態勢!!」

「畜生! なんで見つかったんだ!」

 

 光輝は負傷した檜山や未だに満身創痍の鈴を後ろにし、仲間達に指示を出し、龍太郎が悪態を吐く。

 すると光輝達の眼に、その奥で白鴉を肩に止め、周囲を未知の魔物で固めて冷めた眼で佇んでいるカトレアと、興味なさ気に腕を組んでいるアークゼロ姿が映った。

 更に、その直ぐ傍にはアークゼロとはまた違う鎧と仮面を装備した戦士が3人立っている。そう、ガイ、カイザ、シグルドだ。シグルドの手には、三つの“ヒマワリロックシード”が握られている。初級インベスを召喚して中野と檜山を襲わせたのは、他ならぬシグルドなのだ。

 その姿と纏う雰囲気から、直ぐに彼等がアークゼロの仲間だと気付いた光輝達の顔が青褪める。

 

「ブォオオオッ!!」

「ッ!?うぁああああっ!!!」

 

 すると、隠し部屋にいたメタルゲラスが爆走し、硬直していた彼等に突撃し、自慢のパワーを活かした突進を永山に御見舞いする。いかに巨漢の永山でもこれには耐えきれず、永山は血反吐を吐き散らしながらぶっ飛ばされた。

 永山の悲鳴を合図に、初級インベス三体やカトレアが呼び出した魔物達、メタルゲラスも雄叫びを上げ、光輝達に突撃した。

 

 光輝達は各々の武器を手にして応戦するが、まだアークゼロとの戦いの傷が完全に癒えていない上に、魔物達のパワーも能力も今まで光輝達が戦ってきた魔物とは桁外れであり、光輝達はどんどん追い詰められていく。

 

「っ、光輝!“限界突破”を使って!魔物達(コイツら)は私達で何とかするわ!」

「だが、鈴達が動けないんじゃ……」

「このままじゃ押し切られるわ!お願い!一点突破で奴等を討って!」

「光輝!こっちは任せろ!」

「……分かった!こっちは任せる!“限界突破”!」

 

 雫と龍太郎の言葉に一瞬考えるものの、状況を打開するにはそれしかないと光輝は決然とした表情をして、今日二度目の“限界突破”を発動する。

 “限界突破”の一日も置かない上での連続使用はかなり体に負担がかかる行為だ。なので通常、“限界突破”の効力は八分程度であるが、もしかするともっと短くなっているかもしれない。そう予想して、光輝は他の一切を気にせずカトレアとアークゼロを倒す事だけに集中して飛び出していった。

 

『無策に突っ込むだけとは……知能指数の低い男だと思っていたが、どうやら死にたがりと勇者の違いも分からないようだな』

「黙れ!お前達は俺が必ず倒す!覚悟しろ!」

 

 光輝がそう宣言し、短い詠唱と共に聖剣に魔力を一気に送り込む。先程永山達に対して言った通り、最初から“神威”を撃ち込んで倒すつもりのようだ。

 しかし、

 

 

CONFINE VENT

 

 

 無機質な電子音声が響き、光輝の“神威”がパリンッと音を立てて、ガラスが割れるように砕け散った。

 

「ッ!!?!?」

「こういう能力(カード)があるって、知らなかった?」

 

 予想外の出来事に硬直する光輝を、メタルバイザーを親指で指しながら嘲笑うガイ。

 その直後、

 

 

EXCEED CHARGE

 

 

「ハァッ!!」

「ぐっ、うぁあああああああッ!!!」

 

 “カイザショット”を手に装着してエクシードチャージを発動したカイザが、光輝の鳩尾に“グランインパクト”を叩き込む。

 呆然としていた光輝には当然これを避ける術はなく、カイザの一撃をモロに喰らった光輝は聖鎧の破片と鮮血を撒き散らし、血反吐を吐きながら吹き飛ばされ、光輝は壁に激突すると、力無く床に崩れ落ちた。“限界突破”の光も完全に消えてしまった。

 

 メタルゲラスや初級インベス、そしてカトレアの魔物達に応戦しながらもその光景を見ていた生徒達は、倒れ伏す光輝の姿を見て、表情を絶望に染めた。

 

「うそ……だろ?光輝が……負けた?」

「そ、そんな……」

 

 意味の無い言葉が零れ落ちる。

 流石の雫や香織、鈴も言葉が出ない様で、戦闘を放棄してその場に立ち尽くしている。そんな戦意を喪失している彼等に、シグルドが嘲笑う様な態度で話しかけた。

 

「安心しな。直ぐにお前らも()()()のいる所に送ってやるよ…!」

 

 その言葉に引っ掛かった雫が、頭に思い浮かんだ最悪の可能性に顔を青褪めさせ、それでも気丈に声に力を乗せながらシグルドに問いかける。

 

「お友達って…どういうこと?」

「ん?別に教えてやる義理なんかないんだが……冥土の土産だ。オイ」

 

 そう呟いたシグルドは、魔物達に目を向ける。すると、魔物の群れの中から牙の生えた馬のような頭部にゴリラの下半身に上半身は四本腕の筋肉マッチョな姿をした魔物が前に出てきた。

 【アハトド】と呼ばれるこの魔物は、カトレアが連れている魔物の中でも最強の存在だ。本来は魔人族の家畜であるが、シグルド達バダンは魔人族の同盟軍である上に、彼等の前ではアハトドなど子猫に等しいく、動物の本能で彼等に屈服しているので、シグルドの命令に背く筈がなかった。

 

 シグルドの隣に立ったアハトドは、四本腕の内の二本の掌の中にあった物を地面に落とす。ゴトリと音を立てて雫達の目の前まで転がってきた()()を見て、雫達だけでなく、壁際で倒れ伏す光輝ですら凍り付いた。

 

「メ、メルドさん!!!」

「浩介!!!」

 

 そう、光輝達の恩師であり七十階層の魔法陣を護衛していたメルドと、アークゼロの情報を伝えるために光輝達が地上に送り出した遠藤の生首だった。

 青褪めた顔で驚愕する彼等に、カトレアが髪をかきあげながら、白い宝石のような身体をした小さな鳥──“ホワイトガルーダ”を白鴉の反対の肩に留め、嘲笑うような声色で口を開く。

 

「アンタ達がソイツに地上に情報と救助を伝えるつもりなのは分かってたからね。コイツにアンタらを追わせて、アタシ達はその坊やを追っていたのさ。そこで道中の騎士達やコイツ自身を始末させて貰ったのさ」

「いや、何でお前が得意気なんだよ…まぁいいけどさ」

 

 光輝達の隠し部屋の位置を特定したのは確かにカトレアのホワイトガルーダだが、騎士達や遠藤を始末したのはアークゼロとダークライダー達なので、まるで自分の手柄のように得意気なカトレアにガイが思わず突っ込むが、直ぐにどうでも良いと雫達に向き直った。どのみち、彼等を皆殺しにする事に変わりはないのだから。

 

「……るな」

「は?何だって?死に損ない」

 

 そのとき、未だカイザの攻撃によって地面に倒れ伏している光輝が、小さな声で何かを呟いた。

 カトレアが光輝の呟きに気がついた様で、どうせまた喚くだけだろうと鼻で笑いながら問い返した。光輝は俯かせていた顔を上げ、真っ直ぐにカトレア達を白銀色の眼で射抜く。

 

『──フン、やはりその程度か…』

 

 その光景を見たアークゼロが、顔を光輝に向けて呟いた。

 しかし光輝はその呟きが耳に入っていないのか、ゆらりと体を揺らして取り落としていた聖剣を拾い上げると、射殺さんばかりの眼光でカトレア達を睨みつけた。同時に、竜巻の如く巻き上がっていた光の奔流が光輝の体へと収束し始める。

 

 ──“限界突破”終の派生技能『覇潰』。

 通常の“限界突破”が基本ステータスの三倍の力を制限時間内だけ発揮するのに対して、“覇潰”は基本ステータスの五倍の力を得る事が出来る。

 但し、唯でさえ限界突破しているところで、更に無理やり力を引き摺り出すのだ。今の光輝では発動は三十秒が限界、効果が切れた後の副作用も甚大だ。

 だがそんな事を意識する事も無く、光輝は怒りのままにカトレアに向かって突進した。今光輝の頭にあるのは、メルドと遠藤の仇を討つ復讐の念だけだ。

 

 カトレアが焦った表情を浮かべ、周囲の魔物を光輝に嗾ける。キメラが奇襲をかけ、黒猫が触手を射出し、ブルタール擬きがメイスを振るう。しかし光輝は、そんな魔物達には目もくれずに聖剣の一振りで薙ぎ払い、怒声を上げながら一瞬も立ち止まらずカトレアの下へ踏み込んだ。

 

「お前等ぁ!よくもメルドさんと遠藤をぉっ!!」

「チィ!」

 

 大上段に振りかぶった聖剣を光輝は躊躇い無く振り下ろす。カトレアは舌打ちしながら、咄嗟にウィザードリングを付け替えて防御魔法を発動しようとするが……光の奔流を纏った聖剣がそれよりも速く、その奥にいる彼女を袈裟斬りにした。

 リングを付け替えながらも後ろに下がっていたのが幸いして、両断される事こそ無かったが、カトレアの体は深々と斜めに切り裂かれて、血飛沫を撒き散らしながら後方へと吹き飛んだ。

 

 背後の壁に背中から激突し、ズルズルと崩れ落ちたカトレアの下へ、光輝が聖剣を振り払いながら歩み寄る。

 

「まいったね……あの状況で逆転なんて……。まるで三文芝居でも見てる気分だ」

 

 ピンチになれば隠された力が覚醒して逆転するというテンプレな展開に、カトレアが諦観を漂わせた瞳で迫り来る光輝を見つめながら、皮肉気に口元を歪めた。

 傍にいる白鴉が固有魔法を発動するが、傷は深く直ぐには治らないし、光輝もそんな暇は与えないだろう。自分はここまでだとカトレアは激痛を堪えながら、右手を伸ばし懐からロケットペンダントを取り出した。

 

 それを見た光輝が、表情を険しくして一気に踏み込み、止めの一撃を振りかぶった。だが……

 

「ごめん……先に逝く……愛してるよ、ミハイル……」

 

 愛しそうな表情で手に持つロケットペンダントを見つめながら、そんな呟きを漏らすカトレアに、光輝は思わず聖剣を止めてしまった。カトレアは覚悟した衝撃が訪れない事に訝しそうに顔を上げて、自分の頭上数ミリの場所で停止している聖剣に気がつく。

 光輝の表情は愕然としており、目をこれでもかと見開いてカトレアを見下ろしている。その瞳には何かに気がつき、それに対する恐怖と躊躇いが生まれていた。

 

 しかし、それはこの状況に置いては決して見せてはいけない隙だった。即座に光輝との距離を積めたアークゼロのローキックが、隙だらけの光輝に炸裂した。

 

「ぐぁあッ!?!!?」

 

 たとえ“覇潰”でスペックが五倍に強化されたとしても、アークゼロにとっては蟻がカナブンに変わった程度の認識でしかない。圧倒的な脚力に無防備な光輝は再び聖剣を手放して吹き飛ばされ、地面に崩れ落ちた。

 大きすぎるダメージに、強化されているにも関わらず立ち上がれない光輝。そんな光輝にゆっくりと歩み寄るアークゼロとカトレア、そして一部始終を見ていたダークライダー達は、なにが光輝の剣を止めたのかを明確に理解しており、アークゼロは代表して無機質ながらも、何処か侮蔑した様な声色で口を開いた。

 

『ここまで低能な男だったとはな…。貴様は魔人族を獣か原始人程度にしか見ていなかったのか?戦争が“殺し合い”であると理解していなかったのか?お前達がする事は“殺人”であると理解していなかったのか?』

「ッ!!」

 

 そう。光輝にとって魔人族とは、イシュタルに教えられた通り、残忍で卑劣な知恵の回る魔物の上位版、或いは魔物が進化した存在くらいの認識だったのだ。実際、魔物と共にあり魔物を使役している事がその認識に拍車をかけた。

 召喚された日に入間と愛子が何度も指摘し続けていたというのに、自分の活躍しか頭になかった光輝は、魔人族が自分達(人間)と同じ様に誰かを愛し、誰かに愛され、何かの為に必死に生きている。そんな戦っている“人”だとは思っていなかったのである。

 その認識が、カトレアの愛しそうな表情で愛する人の名を呼ぶ声により覆された。否応なく、自分が今手にかけようとした相手が魔物などでなく、紛れもなく自分達と同じ“人”だと気がついてしまった。そしてアークゼロの言う通り、自分のしようとしている事が“人殺し”であると認識してしまったのだ。

 

「がッ!?」

 

 すると、倒れ伏す光輝の元に辿り着いたアークゼロが、光輝の背中を踏みつけた。“覇潰”によって強化された状態でもがいてもアークゼロの脚を振り払う事が出来ず、背中から掛かる圧力に呻き声を漏らす光輝は、朦朧とする視線の先で肩に乗っている白鴉の固有魔法で回復しきっているカトレアが、侮蔑の眼差しを向けていることに気付いた。

 

「まさか、あたし達を“人”とすら認めていなかったとは……随分と傲慢な事だね」

「ち、ちが……俺は、知らなくて……」

「ハッ、“知ろうともしなかった”の間違いだろ?」

「お、俺は……」

「ほら?どうしたのさ?所詮は戦いですらなく唯の“狩り”なんだろう?さっさと狩ったらどうだい?お前が今までそうしてきた様に……」

「……は、話し、合おう……は、話せばきっと……」

 

 アークゼロに踏みつけられた無様な姿でカトレアに向けてそんな事を言う光輝。

 しかし、現実は非情だった。アークゼロは光輝の背中から足を離すと、そのまま光輝の横腹を蹴飛ばした。

 

「ぐはっ!!?」

 

 蹴り飛ばされ、地面をゴロゴロと転がる光輝。聖鎧は既に八割が破壊され、残っている部分も皹だらけで、最早鎧としての機能など残っていない。光輝は身体を蝕む激痛に耐えながらも立ち上がろうと脚に力を入れるが、その瞬間ガクンと力が抜けそのまま前のめりに倒れ込んでしまった。

 “覇潰”のタイムリミットが来たのだ。しかも二度の“限界突破”にアークゼロの攻撃を無防備に喰らったという無理に無理を重ねた代償は弱体化などという生温いものではなく、体が麻痺した様に一切動かないというものだった。

 

「こ、こんな時に!!」

「ハッ、切り札は考えて使うもんだぜ。現実を甘く見てるからこう言う事になるんだよ」

 

 シグルドが動けなくなった光輝を嘲笑うと、ベルトから取り外した“チェリーエナジーロックシード”をソニックアローに装填する。

 

 

ロック・オン!

 

チェリーエナジー!

 

 

 シグルドはソニックアローを構え、サクランボ状のエネルギー体が挟むようにしてぶら下がっているエネルギー矢を、正確無比に光輝の脳天目掛けて放った。

 自分の命を刈り取ろうとする光の矢に、光輝は顔を青褪めさせる。逃げようにも身体が動かないし、雫達はメタルゲラス達と交戦していて光輝の救出に向かうことが出来ない。

 やがてエネルギー矢が目前まで迫り、光輝が死を直感した、その時だった。

 

「光輝!!」

「!?」

 

 突然、先程まで魔物達と交戦をしていた龍太郎が戦闘を放棄して走り出し、エネルギー矢と光輝の間に割り込むと、光輝の盾になるように立ちはだかった。その光景に目を見開く光輝達。

 だが当然、矢の勢いが止まるわけもなく、本来光輝に当たる筈だったシグルドの矢は、盾となった龍太郎に命中した。

 そして……

 

「ぎゃあああああああああああ!!!!!」

 

 サクランボ型の巨大なエネルギーが龍太郎を挟むように押し潰し、大爆発を起こした。爆音と爆風が龍太郎の断末魔を掻き消し、薄暗い迷宮は爆炎で赤く照らされる。

 やがて火の気が収まると、そこには龍太郎の姿は何処にもなく、焼け爛れた地面と僅かに残った炎、そして赤黒い液体が飛び散った様な跡だけが残っていた。

 

「り…龍太朗ーーーーーーッ!!!」

「う、嘘でしょ……?」

「龍太郎君…!!」

 

 光輝が叫び、雫と香織が信じられないと言った風に呆然と呟く。幼い頃から共に育ってきた親友が死んだ。その事実が、光輝達の士気を大きく下げる。見れば、スクールカーストの一人であった龍太郎の死に、永山達も呆然と目を見開いて固まっている。

 しかし、カトレアの魔物達やダークライダー達がそんな光輝達に気を遣ってくれる筈などなく、ガイはメタルホーンを、カイザはカイザブレイガンを手にして、雫達に向けて走り出す。雫達も慌てて応戦するが、精神状態が不安定な状態の彼等がまともに相手出来る筈もなく、雫達はどんどん追い詰められていく。

 

「やってるねぇ…。それじゃあ、俺も今度こそ仕留めるとするかなァ」

 

 その光景を見たシグルドは、龍太郎の犠牲によって生き延びた光輝を今度こそ始末するために、未だ倒れている光輝に歩み寄り、その首根っこを掴み上げた。「ぐっ…」と呻き声を漏らす光輝の喉元に、シグルドはソニックアローの刃“アームクリム”を突き付ける。

 

「光輝!!!」

「ッ!おっと!」

 

 その時、“無拍子”による高速移動で魔物達の包囲網を突破した雫が、剣を振りかぶってシグルドに斬りかかった。それを直前で察知したシグルドは光輝から手を離し、腕の毛皮でその斬撃を防いだ。

 やはりと言うべきかパワーで雫がシグルドに敵う筈もなく、シグルドは腕を振って雫を弾き飛ばす。しかし雫は咄嗟に後ろに跳んだことで勢いを出来る限り殺し、ついでに地面に転がっていた光輝の足を掴み、彼を救出する。地面に着地してから光輝を仲間達の元へ投げ飛ばすと、雫は剣を構えた。その瞳には間違い無く殺意が宿っていたが、シグルドには蚊に刺された程度にも感じなかった。

 

「…へぇ。お前は光輝(ソイツ)よりは自分のしている事に自覚があるらしいな……だが、お前も結局は甘ちゃんらしいな。手が震えてるぜ?」

「……そんな事どうでもいいわ。光輝に自覚が無かったのも、龍太郎が犠牲になったのも私達の落ち度でもある、そのツケは私が払わせてもらうわ!」

「まるで話が見えねぇなァ!!」

 

 雫は、光輝の直情的で思い込みの激しい性格は知っていた筈なのに、本物の対人戦が無かったとはいえ認識の統一、即ち、自分達は人殺しをするのだと自覚する事を今まで放置してきた結果、魔人族を討つ唯一のチャンスを手放し、龍太郎が犠牲になってしまった事に責任を感じ歯噛みし、“殺し合い”というものを肌で体感し、人を殺す恐怖と殺される恐怖を必死に抑え付けようとするが、完全には抑えられず、剣を持つ手が僅かに震える。

 

 しかし、そんな雫の心情など関係ない上に至極どうでもいいシグルドは、雫の台詞を鼻で笑いながらソニックアローを構えて突撃し、雫もまた剣を構えてシグルドと衝突した。

 

 そんな光景を眺めていたアークゼロは、隣にいるカトレアに視線を向け、口を開いた。

 

『後は私達が引き受けよう。無駄に魔物を消費するより、此方で始末した方が効率が良い』

「好きにすると良いよ。私としても、こんなガキ共のために労力を使うこと事態バカバカしく思えるからねぇ」

 

 カトレアの魔物達が戦うとなれば、それなりに手傷を負ってしまうと考えて自分達(バダン)の手で光輝達を始末する事を決めると、アークゼロは先程初級インベスに右腕を喰い千切られ、武器を捨てて逃げ出そうとしている檜山に目を向けた。右腕の激痛や光輝の敗北のショックによるものか腰が抜けているようであり、芋虫のように地べたに這いつくばりながらも少しずつ階層の出口に向かっている。

 しかし、アークゼロ……というより普通の人間の目から見ても速度はかなり遅く、アークゼロは早歩きで直ぐに檜山の前に立ち塞がった。

 

「ま、待て!待ってください!」

『……』

「お、俺達の敗けです!降参します!貴方達に従います!だから命だけは助けてください!!お願いします!!」

 

 アークゼロが自分を標的にしている事を察した檜山は、仲間達が直ぐ傍で必死に戦っている仲間達がいる場で、あろうことかアークゼロに土下座して命乞いをした。

 檜山は、兎に角確実に生き残りたいのだ。最悪、他の全員が死んでも香織と自分だけは生き残りたかった。兎に角、生き残って香織を自分の所有物に出来れば満足だった。

 しかし、今この状況でそんな高望みが出来る筈もないし、アークゼロ達が自分達を勧誘するのではなく皆殺しにするのだと分かっている檜山に出来るのは、相手の機嫌を損なわないように敬語で命乞いをするだけだった。

 

 遠くでダークライダー達と戦い続けている仲間達から驚愕と非難の視線を向けらながらも必死に土下座し続ける檜山に、アークゼロは無機質に口を開いた。

 

『……貴様など、劣兵としても利用する価値は無さそうだが…()()()のデータ回収のために、廃棄利用するのもいいだろう』

 

 そう言ったアークゼロは、何処からか黒と紫のストップウォッチのようなものを取り出すと、上部のボタンを押し、檜山の頭に押し付けた。すると、そのストップウォッチは、未だ土下座をしている檜山の頭に吸い込まれるように消えていった。

 

「…ッ!?ウギャアアアアアアアアアッ!!?!?」

 

 その瞬間、断末魔にも聞こえる悲鳴と共に、檜山の身体は、一瞬にして化け物の姿に変貌した。

 

 

ガイムゥッ!

 

 

 【仮面ライダー鎧武】を歪めた姿に、腐り落ちた鎧は木の皮まるで枯れ木の様だ。アンダースーツは脚絆や着物としてデザインされて、和風っぽさが出ている。

 刀が頭に突き刺さったかのような形状の鍬形に、そこから血が流れているかのようなモールドが刻まれ、月代のような頭頂部や後頭部から生えた長髪も相まって落ち武者を意識したと思わしきデザインになっている。

 右肩の鎧には『GAIM』のライダー名が、左肩の鎧には『2013』の年号が刻まれている。

 

『ウォアァアアアアアッ!!!!』

「ッ!?檜山、一体どうしグェアッ!!?」

 

 アナザー鎧武へと変貌した檜山は、“大橙丸”を連想させる大剣を取り出すと、雄叫びを上げながら魔物達と交戦する永山達に突撃して行き、檜山が怪物に変貌したことに驚愕して硬直している永山に、その大剣を軽々と振り下ろした。

 巨大な刀身による一撃は、永山の体をスイカのように真っ二つに切断させ、永山は切断面から内蔵や血液を撒き散らしながら絶命した。

 

「重吾!?ぐぁっ!!?」

 

 親友であり、パーティーのリーダーであった永山の無惨な末路に目を向けた野村。だがその隙を付かれ、カイザのカイザブレイガンの一撃が鳩尾に直撃し、野村は勢いよく吹っ飛ばされた。

 

「…悪いが容赦はしないよ」

 

 

READY

 

 

 そう言いながらカイザブレイガンを収めたカイザは、ベルトに装備された双眼鏡型のツール“カイザポインター”を取り外し、ベルトからミッションメモリーを引き抜いてカイザポインターに装填。変形したポインターを右脚のホルスターに装置すると、カイザは痛みに悶える野村にゆっくりと歩み寄り、土手っ腹に蹴りを入れた。

 

「うぐっ!?」

「死んで貰おうかな…!」

 

 そう言い放つと同時に、カイザは野村の腹を思いきり殴り、更にその状態から腹部に蹴りを叩き込み、ベルトに装置されたカイザフォンを開いてエンターキーを押し、ポインターをゼロ距離発射する。

 

 

EXCEED CHARGE

 

 

 ポインターから二本の光線が捻れながら放出され、ギザギザの円錐上に展開された光に動きを封じられる野村。そして、カイザは高く飛び上がり、動かぬ的となった野村に、黄色く光る“フォトンブラッド”を纏った両脚蹴りを御見舞いした。

 

「でぃぃぃやぁぁぁぁ!!」

「ぐっ……がぁあああああああっっっ!!!」

 

 カイザの必殺キック“ゴルドスマッシュ”が炸裂し、野村の背後にカイザは着地する。その直後、野村の身体は黄色い『Χ』という光の文字が浮かび上がり、青白い炎に包まれる。そして、野村の身体はボロボロと崩れていき、やがて灰となって崩れ落ちた。

 

「け、健太郎!!!」

 

 その光景をみた辻は、悲鳴を上げながら野村だった物に駆け寄ろうとする。辻と野村は付き合ってこそいなかったが、実は両想いであった。いわゆる両片思いという奴である。二人はこの戦いで、もしどちらかが命の危機に晒されたら、自分が体を張ってでも守ろうと心に誓っていた。だが現実は残酷で、守ると決めていた野村は、カイザの手によって物言わぬ灰の山へと変えられてしまった。

 

「余所見するんな…よっと!」

「きゃあぁああああッ!?」

 

 だが、敵はそれすら許さなかった。

 100m5秒の走力で追い付いたガイが、メタルホーンの盾の部分を使ったタックルを辻の背中に御見舞いした。周りが見えていなかった辻はこれをモロに喰らい、辻はアーティファクトの杖を手離し、血反吐を吐きながら吹っ飛ばされた。

 

「これで本当の、ゲームオーバーだ」

 

 足元に転がった辻の杖をグシャッ踏み壊したガイは、ベルトに装置されているカードデッキから同じマークが描かれたカードを引き抜くと、左肩のメタルバイザーに投げ入れ、カバーを閉じる。

 

 

FINAL VENT

 

 

 音声が鳴り響くと、香織と恵理の魔法を弾きながら鈴を含めた三人に突進を御見舞いしようとしていたメタルゲラスがいきなり踵を返し、ガイの背中に向かって猛スピードで走り出す。

 ガイは右腕にメタルホーンを装置したまま飛び上がり、こちらに向かってくるメタルゲラスの肩に足を乗せる。まるで一本の巨大な角と化したガイは、猛スピードでヨロヨロと立ち上がる辻との距離を急速に積めて行き、必殺の“ヘビープレッシャー”が炸裂した。

 

「あぁあああああああああああああッ!?!??」

 

 ガイのメタルホーンが辻の胸を貫通する。しかしそれでもメタルゲラスの足は止まらず、メタルゲラスは辻を貫いたままのガイを肩に乗せたまま真っ直ぐに爆走し、やがて階層の壁に激突した。

 その瞬間、まるで爆弾が爆発したかのような強烈な衝撃波が発生し、ガイ達の姿を砂塵が隠し、辺り一面に瓦礫が錯乱する。

 砂塵が晴れると、そこには返り血で身体を赤黒く染めたガイとメタルゲラスの姿が見え、辻の姿は何処にもなかった。いや、正確に言えば、()()はあった。ガイとメタルゲラスの足元に、辻の物らしき手や足といった人体の一部が転がっている。メタルゲラスが突撃して大きく没落した壁には、彼女の血が染みとなっていた。

 

「永山君!野村君!辻さん!」

「余所見してる場合かぁ!?」

「うぁっ!?」

 

 その光景をみた雫が血相を変えて永山達の名を呼び、その隙をみてシグルドがソニックアローの刃を振り下ろす。しかし、雫はとっさに剣を前に出し、その攻撃を受け流した。

 

 幼い頃から剣の才能を持ち、実家の道場で剣術を習い続けていた雫にとって、シグルドの攻撃を受け流す事自体は簡単である。シグルドの変身者である【シド】は元々ゴロツキで、武道に通じている訳でも、特殊な訓練を受けている訳でもない。仮面ライダーになってからも、己の慢心からくる迂闊さが仇となり、詰めの甘さを見せることが多かった。

 だが、シグルドは次世代アーマードライダーの一人。前世代のアーマードライダーを凌ぐスペックを誇る、接近戦を得意とするパワーファイター。スピード特化の剣士である雫とのパワーは雲泥の差だ。

 いかに上手く受け流そうと、衝撃はゼロに出来ない。雫の剣とシグルドのソニックアローが衝突する度に起こる衝撃だけで、雫の腕の筋肉は悲鳴を上げる。今だ直撃は受けていなくとも、このままでは自分が消耗して殺られるのは時間の問題だ。

 

 一刻も早くコイツを倒し、皆を連れて逃げなければ本当に全滅すると、雫はシグルドの攻撃をギリギリで捌きながら思考をフル回転させる。

 そして、雫は“無拍子”を発動する。マクスドライダーのクロックアップに比べれば雲泥の差だが、その速度は並の仮面ライダーを凌駕するその速度を全開にし、雫は一瞬でシグルドの背後に回った。突然目の前から雫が消えた事に動揺するシグルドの一瞬の隙を、雫は見逃さない。

 

「はあぁああああああああ!!!」

 

 全身全霊で、雫はシグルドの首の首を狙って剣を振り下ろす。人を殺す事の恐怖がなくなった訳ではないが、ここで殺らなければ此方が殺されてしまうと自分に言い聞かせ、シグルドの首を切り裂く……

 

バキンッ!!

 

 ……事は出来なかった。

 雫の剣がシグルドと衝突した瞬間、雫の剣の刀身は半ばから真っ二つに折れ、吹き飛んだ刃が地面に突き刺さった。

 

「お、折れたぁ!?」

 

 半分から先がなくなってしまった剣を見て、雫は思わず叫んだ。

 シグルドの攻撃を捌き続けた事で剣にダメージが蓄積し、シグルドの強固な装甲とぶつかった事で、遂に限界を迎えてしまったのだ。

 

「驚かせてんじゃ…ねぇ!!」

「ごふっ!?」

 

 その瞬間、シグルドが直ぐに振り返り、シグルドの拳が雫の腹に容赦なく直撃する。

 剣の柄を手離した雫は頬を膨らませながら口元を手で抑え、胃の内容物をぶちまけそうになるのをなんとか堪える。

 

「オラァ!」

「…!あぁっ!!」

「ハァッ!」

「うっ…あぁあああああああッ!!!」

「雫ちゃん!!」

 

 だがその隙に、シグルドの拳が振り下ろされ、雫は地面にうつ伏せになって倒される。更にシグルドは雫の首根っこを突かんで無理矢理立ち上がらせると、無防備な雫の土手っ腹にヤクザキックを直撃させた。

 度重なる暴力に、雫は成す術もなくサンドバッグとなり、最後の蹴りを受けて、仲間達が集まっている所までぶっ飛ばされ、香織が悲鳴に似た声を上げた。

 

「…ふん、チェックメイトって所だねェ…」

『……』

「何だ、人間族の救世主って言われてる割には全然相手になんないじゃん。その程度で俺達を倒す気だったのかよ?」

「子供が調子に乗って大人に逆らうからこうなるんだよ。精々あの世で後悔しな」

「一度戦場に立ったんだ。なら此処で死んでも…文句はないだろう?」

『ウァアア……』

 

 自分達の勝利を確信して髪をかき上げるカトレア、沈黙するアークゼロ、嘲笑するガイとシグルド、冷酷に吐き捨てるカイザ、唸り声を上げてゆっくりと歩み寄るアナザー鎧武(檜山)

 生き残っているのは光輝、香織、雫、鈴、恵里の五人だけ。しかも光輝と雫と鈴の三人既に戦闘が出来る状態ではなく、3人と比べれば体力も魔力も比較的に残っているのは香織と恵里くらいだが、この二人だけでこの状況を覆せる筈もない。

 

 

チェリーエナジー!

 

 

READY

 

 

 ガイがメタルホーンを構え、シグルドがソニックアローにロックシードを装填して刃を赤く染め、カイザはカイザブレイガンにミッションメモリーを装填してブレードモードにして構え、アナザー鎧武が大剣に濁った果汁の様なエネルギーを纏わせる。

 ガイがメタホーンを使った突進を、シグルドが赤い果汁を纏わせた飛ぶ斬撃を、カイザが黄色い斬撃を、アナザー鎧武が腐ったオレンジの斬撃を、顔を真っ青にする光輝達勇者パーティーに直撃させようとする。

 

 ……その瞬間だった。

 

()()()()()()……』

 

 アークゼロの呟きが、階層に響く。

 

 同時に、光輝達の前に、水色に渦巻く水色の光の穴が出現した。

 その異様な光景に、ガイも、シグルドと、カイザも、アナザー鎧武も動きを止める。

 

 

タイムブレーク!!

 

 

『……』

「うぉっ!?」

「おっと!」

「くっ!」

「うぁっ!?」

 

『グガァッ!?』

「「「「ギャアアアアアアッ!!?!?」」」」

 

 次の瞬間、光の穴から何かが回転しながら、物凄いスピードで飛び出した。

 ガイ、シグルド、カイザ、カトレアは咄嗟に、アークゼロは無言でその場を飛び退くことでそれを避けるが、それが出来なかったアナザー鎧武は胸から火花を散らしてぶっ飛ばされる。その物体はそれでも止まらず、背後にいたカトレアが連れていた何体かの魔物に直撃する。魔物達は、まるでミキサーに入れれられたかのように体をバラバラにされ、見るも無惨な姿となって絶命した。

 更に、水色の光の穴から、紅、ピンク、オレンジの光、そして炎を纏った斬撃が飛び出し、その近くにいたアハトドを含めた残りの魔物達を残らず切り捨てていく。

 一瞬で、カトレアが引き連れていた魔物は全滅した。

 

 一人を除いて、誰もが何が起こったのか分からずに硬直していると、光の穴から飛び出した物が動きを止めた。

 

 光の穴から飛び出したのは、トータスのものではなく、光輝達の故郷である地球で見られた二輪の乗り物──バイクだった。10時10分を指した腕時計のような装飾を持つ、銀色のバイクだ。

 そのバイクに乗っていたのは、アークゼロやガイ達とはまた違った仮面の戦士だった。黒いスーツに銀色の装甲を纏い、金属製の腕時計を模した仮面の額には『カメン』、眼にあたる部分はマゼンタの『ライダー』の文字が刻まれている戦士だった。

 

 その戦士がバイクから降りるのと同時に、水色の光の穴から、赤い宝石を模した黒いローブの戦士、紅い体に顔に黄色で『らいだー』という文字が書かれた戦士、ピンク色のゲームキャラクターのような戦士、黒い体にパーカーを羽織ったオレンジの顔の戦士が飛び出してきた。全員が飛び出したと同時に、光の穴は一瞬で収縮していき、跡形もなく消え去った。

 

 顔に『ライダー』と書かれた戦士──仮面ライダージオウの元に、四人のライダーが集まる。同時に、警戒を露にしたガイ達やアナザー鎧武が各々の武器を構え、メタルゲラスや初級インベス達は臨戦態勢をとった。

 

「どうやら神代魔法を手にする前に辿り着けたみたいだね……悪いけど、全員倒させてもらいますよ!」

 

 ジオウの言葉と共に、五人のライダー達は走り出す。

 世界を守るために戦うライダー達と、悪のライダー達の戦いが始まった。

 

 




・怪人紹介

【アナザー鎧武】
檜山大介が“アナザー鎧武ウォッチ”を埋め込まれて変貌した姿。大剣を用いた剣術を使って戦う。異空間に干渉する力でヘルヘイムと呼ばれる空間へ繋がるクラックを開き、インベスに似た怪人を使役することが出きるが、今回は未使用。
本来のアナザー鎧武にはない能力が追加されているらしいが、その能力の詳細はまた次回。


中野、永山パーティー、龍太郎、そして檜山は(事実上)退場となります。
感想で全滅確定と言われていましたが、個人的にはオルクスで全滅は早いと思うので、光輝、香織、雫、恵里、鈴は生存させます。救済するとは言いませんが。

感想、評価お待ちしております。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。