最近この小説から魔入間要素なくなってきているので、モチベーションが中々上がらなくて書くのが遅れてしまいましたが、続きを待ってくれている方もいらしたので、これからも頑張りたいと思います。
タイトルの元ネタは、仮面ライダービルド29話『開幕のベルが鳴る』です。
アークゼロ達バダンに惨敗し、死んだと思っていた入間と衝撃的な再開と別れをした光輝達が、【宿場町ホルアド】から怒り狂う民衆から王都に逃げ帰ってから二週間程経った。
現在、光輝達は致命的な欠点──“人を殺す”事について浅慮が過ぎるという点を克服する為に訓練を行っていた。魔人族との戦争に参加するなら、“人殺し”の経験は必ず必要となる。克服できなければ、戦争に参加しても返り討ちに遭うだけなのだから。
尤も、考える時間はもうあまり残されていないと考えるのが妥当だ。【ウルの町】での出来事は既に光輝達の耳にも入っており、自分達が襲撃を受けた事からも、魔人族の動きが活発になっている事は明らかだ。それはつまり、開戦が近いという事。故に光輝達は出来るだけ早く、この問題を何かしらの形で乗り越えねばならなかった。
時間は無いものの、無理に人殺しをさせて壊れてしまっては元も子も無いので、騎士団員達も頭を悩ませている。
そんなある意味鬱屈した彼等に、その日ちょっとした朗報が飛び込んできた。
愛子達の帰還だ。普段なら光輝のカリスマにぐいぐい引っ張られていくクラスメイト達だったが、今回はそうなるはずがなかった。
召喚された当初、あれだけ皆を救ってやると息巻いていた光輝が惨敗した上に、スクールカーストである龍太郎や永山達が死んだと言う事実は、クラスメイト達に衝撃を与えた。雫のフォローと鈴のムードメイクもまったく意味を成さず、彼等の心に巣食った深い靄を解決するのに信頼出来る身近な大人の存在は有難かった。誰もが、いつだって自分達の事に一生懸命になってくれる先生にとても会いたかったのだ。
愛子の帰還を聞いて、真っ先に行動したのは雫だ。雫は、色々相談したい事があると先に訓練を切り上げた。入間に対して何かと思うところのありそうなクラスメイト達より先に会って、愛子が予断と偏見を持たない様に客観的な情報の交換をしたかったのだ。
王宮の廊下を颯爽と歩く雫の姿に何故か男よりも令嬢やメイドが頬を赤らめている。世界を超えても雫が抱える頭の痛い問題だが、今の彼女はそれを気にする余裕はない。
雫は【ウルの町】で、入間が色々暴れた事を聞いていたので、愛子から入間についてどう思ったかも直接聞いてみたかった。愛子の印象次第では、今も考え込んでいる光輝の心の天秤が、あまり望ましくない方向に傾くかもしれないと思ったからだ。オルクスで入間から光輝達に見切りを付けた方がいいと言われたというのに、どこまでも甘い女である。
目的地である愛子の部屋に到着してノックをするが、反応はない。国王達への報告をしに行っていると聞いていたのでまだ戻ってきていないのだろうと、雫は壁に凭れて愛子の帰りを待つ事にした。
愛子が帰ってきたのは、それから30分程してからだ。廊下の奥からトボトボと、何だかしょげかえった様子で、それでも必死に頭を巡らせているとわかる深刻な表情をしながら前も見ずに歩いてくる。
そして、そのまま自分の部屋の扉とその横に立っている雫にも気づかず通り過ぎようとした。雫は、一体何があったのだと訝しそうにしながら、愛子を呼び止めた。
「先生……先生!」
「ほえっ!?」
奇怪な声を上げてビクリと体を震わせた愛子は、キョロキョロと辺りを見回し漸く雫の存在に気がつく。そして雫の元気そうな姿にホッと安堵の吐息を漏らすと共に、嬉しそうに表情を綻ばせた。
「八重樫さん!お久しぶりですね。元気でしたか?怪我はしていませんか?他の皆も無事ですか?」
今の今まで沈んでいたというのに、口から飛び出るのは生徒への心配事ばかり。相変わらずの『愛ちゃん先生』の姿に、自然と雫の頬も綻び、同時に安心感が胸中を満たす。暫し二人は再会と互いの無事を喜び、その後情報交換と相談事の為愛子の部屋へと入っていった。
「そ、そんな坂上くん達まで……!!」
雫と愛子、二人っきりの部屋で、可愛らしい猫脚テーブルを挟んで紅茶を飲みながら互いに何があったのか情報を交換する。そして、愛子は【オルクス大迷宮】であった悲劇を聞き、ティーカップを落として頭を抱えた。
無理もない。数日前に清水が死んでしまっていた事を気にやんでいたのに、檜山が殺人未遂が明らかになった上に檜山を含め10人も生徒が死んだと言われたのだ。それも全て入間と愛子の制止を聞かずに戦争に参加する道を選んだ彼らの自業自得でしかないのだが、生徒を何よりも大切にしている愛子がショックを受けない筈がなかった。
その姿を見て、雫も遂に我慢の限界を向かえ、ポロポロと涙を溢しながら椅子から立ち上がり、愛子に土下座をした。
「本当に申し訳ございませんでした先生。全部私達の責任です…!!」
「八重樫さん…!」
「鈴木君からハッキリ言われました。私達の浅慮さが、今回の惨劇を招いたんだと……召喚されたあの日、鈴木君と先生は私達の身を案じて必死に止めようとしてくれていたのに、赤の他人に煽てられて調子に乗った私達は耳を貸さず、軽率に戦うことを選んで皆を巻き込んだ結果、龍太郎や永山くん達を死なせてしまって……」
愛子に土下座をしたまま、雫は謝罪の言葉を並べる。
戦争が殺し合いである事を知っていた筈なのに、イシュタルに煽てられて調子に乗り、入間の愛子の制止にも耳を貸さず、ろくな覚悟も無いのに光輝に追従して戦争に参加した結果、遠藤を始めとした大勢のクラスメイトが戦死し、幼馴染みである龍太郎まで殺されたという現実が、雫の心に大きな罪悪感をもたらした。
「八重樫さん…顔を上げてください。元はと言えば、私があの時、鈴木くんと一緒に、もっと真剣に皆さんを止めることができていれば、こんなことにはならなかったのかもしれません。……それに、このままでは、貴方達まで犠牲になってしまうかもしれないんです…」
そう言った愛子は、苦虫を噛み潰した様な表情で憤りと不信感を露わにした。
雫は愛子の言葉に、どういうことかと顔を上げる。
「……正式に、鈴木君達バビルが異端者認定を受けました」
「!?それは!……どういう事ですか?いえ、何となく予想は出来ますが……それは余りに浅慮な決定では?」
入間の力は強大だ。入間の仲間であるバビルの面々も、通常では有り得ない程の力を有している。にも関わらず、聖教教会に非協力的で場合によっては敵対する事も厭わないというスタンス。王国や聖教教会が危険視するのも頷ける。
しかしだからといって、直ちに異端者認定するなど浅慮が過ぎるというものだ。
異端者認定とは、聖教教会の教えに背く異端者を神敵と定めるもので、この認定を受けるという事は何時でも誰にでも入間達の討伐が法の下に許されるという事だ。場合によっては、神殿騎士や王国軍が動く事もある。
そして、異端者認定を理由に入間に襲いかかれば、それは同時に入間からも敵対者認定を受けるという事であり、あの容赦無く苛烈で理解不能な攻撃の矛先がハイリヒ王国に向けられるという事だ。その危険性が上層部に理解出来ない筈がない。にも関わらず、愛子の報告を聞いて、その場で認定を下したというのだ。雫が驚くのも無理はない。
雫がそこまで察している事に、相変わらず頭の回転が早い子だと感心しながら愛子は頷く。
「全くその通りです。いくら教会に従わない大きな力とはいえ、結果的にウルの町を救っている上、私がいくら抗議をしてもまるで取り合ってもらえませんでした。鈴木君は、こういう事態も予想してウルの町で唯でさえ高い“豊穣の女神”の名声を更に格上げしたのに、です」
愛子は一度言葉を切ると、悩まし気に頭を振った。
「デビッドさん達の後釜として派遣された護衛隊の人に聞きましたが、“豊穣の女神”の名は、既に相当な広がりを見せているそうです。今彼を異端者認定する事は、自分達を救った“豊穣の女神”そのものを否定するに等しい行為です。私の抗議をそう簡単に無視する事など出来ない筈なのです。でも彼等は、強硬に決定を下しました。明らかにおかしいです。……今思えば、イシュタルさん達はともかく、陛下達王国側の人達の様子が少しおかしかった様な……」
「……それは、気になりますね。彼等が何を考えているのか……でも取り敢えず考えないといけないのは、唯でさえ強い鈴木君に“誰を”差し向けるつもりなのか?という点ではないでしょうか」
「……そうですね。恐らくは……」
「ええ。私達でしょう……そして、そうなってしまえば……」
「──確実に、八重樫さん達は殺されてしまいます」
愛子はそう断言する。
これが光輝だったら、過剰な自己過大評価で自分達が負ける筈ないと声を大にして出来もしない事を宣うだろうが、雫と愛子はそう思える筈がない。召喚された者達の中で、彼等の力の強大さを誰よりも理解しているのは、彼女達なのだから。
そして、愛子の言葉を聞いた雫は顔を青褪めさせて身震いした。目には涙を溜めており、彼女が怯えているのは誰の目から見ても明らかだった。
無理もない。元々クラスメイト達に良い感情を抱いていなかった入間だが、ホルアドの一件で、入間は完全に雫達クラスメイトを見限ったのだ。しかも、光輝と香織の愚行のせいで、入間の勇者パーティに対する心象は既に最悪と言っても過言ではない。そんな自分達が、入間の前に“敵”として立てば、もう入間は遠慮も容赦もしてくれないだろう。命乞いをする暇もなく、無惨に殺されてしまうのは明白だった。
そんな雫の姿を見て、愛子は国と教会側からいい様に言いくるめられてバビルと敵対する前に、光輝達に入間から聞いた狂った神の話を話す決意をした。証拠は何もないので、光輝達が信じるかは分からない。なにせ今まで、魔人族との戦争に勝利すれば神が元の世界に戻してくれると信じて頑張ってきたのだ。
実はその神は愉快犯で、帰してくれる可能性は極めて低く、だから昔神に反逆した者達の住処を探して自力で帰る方法を探そう!等といきなり言われても信じられるものではないだろう。
光輝達が話を聞いた後、戯言だと切って捨てて今まで通り戦うか、それとも信じて別の方針をとるか……それは愛子にも分からないが、とにかく教会を信じすぎない様に釘を刺す必要はある。愛子は今回の事で、それを確信した。
「八重樫さん。鈴木君は、自分が話しても信じないどころか、天之河君辺りから反感を買うだろうと予想して、私にだけ話してくれた事があります」
「話……ですか?」
「はい。教会が祀る神様の事と、鈴木君の旅の目的です。証拠は何も無い話ですが……とても大事な話なので今晩……いえ夕方、全員が揃ったら先生からお話したいと思います」
「それは……いえ、分かりました。なんなら今から全員招集しますか?」
「いえ、あまり教会側には知られたくない話なので自然に皆が集まる時、夕食の席で話したいと思います。久しぶりに生徒達と水入らずで、といえば私達だけで話せるでしょう」
「成程……分かりました。では、夕食の時に」
その後、雫と愛子は雑談を交わし、程よい時間で分かれた。夕食の約束は守られないと知る由も無く……
夕方。
鮮やかな橙色をその日一日の置き土産に太陽が地平の彼方へと沈む頃、愛子は一人誰もいない廊下を歩いていた。廊下に面した窓から差し込む夕日が、反対側の壁と床に見事なコントラストを描いている。
夕日の美しさに目を奪われながら夕食に向かう愛子だったが、ふと何者かの気配を感じて足を止めた。
前方を見れば、丁度影になっている部分に女性らしき姿が見える。廊下のど真ん中で、背筋をスっと伸ばし足を揃えて優雅に佇んでいる。服装は聖教教会の修道服の様だ。
その女性が美しく、しかしどこか機械的な冷たさのある声音で愛子に話しかけた。
「はじめまして、畑山愛子。あなたを迎えに来ました」
愛子はその声に何故か背筋に氷塊でも放り込まれた様な気持ちを味わいながらも、初対面の相手に失礼は出来ないと平静を装う。
「えっと、はじめまして。迎えに来たというのは……これから生徒達と夕食なのですが」
「いいえ、あなたの行き先は本山です」
「えっ?」
有無を言わせぬ物言いに、思わず愛子が問い返す。そこで、女性が影から夕日の当たる場所へ進み出てきた。その人物を見て、愛子は息を呑む。同性の愛子から見ても、思わず見蕩れてしまうくらい美しい女性だったからだ。
夕日に反射してキラキラと輝く銀髪に、大きく切れ長の碧眼、少女にも大人の女にも見える不思議で神秘的な顔立ち、全てのパーツが完璧な位置で整っている。身長は女性にしては高い方で170cmくらいあり、愛子では軽く見上げなければならい。白磁の様に滑らかで白い肌に、スラリと伸びた手足。胸は大きすぎず小さすぎず、全体のバランスを考えれば正に絶妙な大きさ。
ただ残念なのは、表情が全くない事だ。無表情というより、能面という表現がしっくりくる。著名な美術作家による最高傑作の彫像だと言われても、疑う者はいないだろう。それくらい、人間味のない美術品めいた美しさをもった女だった。
その女は、息を呑む愛子ににこりともせず淡々と言葉を続けた。
「貴女が今からしようとしていることを、主は不都合だと感じております。主の同盟者と貴女の生徒がしようとしていることの方が“面白そうだ”と。なので、時が来るまで、貴女には一時的に退場していただきます」
「な、なにを言って……ッ!貴方、もしかして……!?」
ゆっくり足音も立てずに近寄ってくる美貌の修道女に、愛子は頭にある可能性に後退る。
その時、修道女の碧眼が一瞬、輝いたように見えた。途端に愛子は頭に霞がかかったように感じ、思わず魔法を使うときのように集中すると、弾かれた様にモヤが霧散した。
「……なるほど。流石は主を差し置いて“神”を名乗るだけはあります。私の“魅了”を弾くとは。仕方ありません。物理的に連れて行くことにしましょう」
「こ、来ないで!も、求めるはっ……うっ!?」
間違いなく、この女は清水や自分を利用したバダンという組織の仲間だと確信した愛子は咄嗟に魔法を使おうとする。しかし、詠唱を唱え終わるより早く、一瞬で距離を詰めてきた修道女によって鳩尾に強烈な拳を叩き込まれてしまった。崩れ落ちる愛子は、意識が闇に飲まれていくのを感じながら、修道女のつぶやきを聞いた。
「ご安心を。殺しはしません。あなたは優秀な駒です。あのイレギュラーを排除するのにも役立つかもしれません」
愛子の脳裏に、青い髪の少年が思い浮かぶ。そして、届かないと知りながら、完全に意識が落ちる一瞬前に心の中で彼の名を叫んだ。
───鈴木君!
意識を失った愛子を、まるで重さを感じさせないように担ぐ修道女。その時、銀色に光るナイフが、彼女を狙って投擲された。
だが、修道女はまるでハエでも払うかのようにそのナイフを弾いた。
修道女がナイフが飛んできた方向に顔を向けると、そこにはアーティファクトのナイフを構えた優花が、怯えを含んだ目を向けながらも修道女を睨んでいた。
「愛ちゃんを、どうするつもり…?」
震えた声になりながらも修道女にそう声をかける優花。偶然この廊下を通りかかった優花は、彼女が愛子を気絶させる光景を目撃しており、修道女に恐怖を抱きながらも、彼女を取り返すためにナイフを投擲したのだ。
「…見られてしまっては仕方がありませんね。貴方も連れていくとしましょう」
「ッ!!」
そう言った修道女は、愛子を抱えたまま優花との距離を縮め、愛子と同じ様に優花の鳩尾に拳を叩き込もうとする。突然の事に驚いた優花は、反応が一瞬遅れてしまう。
修道女の拳が優花の鳩尾に直撃する、その時だった。
「「ッ!?」」
突如、優花と修道女の間にシアン色の光で出来た障壁が現れ、修道女を優花から強制的に引き離した。
何事かと目を見開く二人。その時、コツコツと廊下を踏み鳴らす音が聞こえ、優花と修道女はその靴音に視線を向けた。
「あ、貴方は…?」
「…何者ですか?」
「通りすがりの仮面ライダー、彼を追いかける者…とだけ言っておこうかな」
そこにいたのは、シアンを基調とし、頭部やボディアーマーがバーコードが強調された、もしくは立てて並べたカードを横から覗いたようなデザインで、右手に大きめの50口径のシアンの配色の銃を持った、鎧の戦士だった。
見たことのない姿だが、優花は自然と、その名を口にした。
「か、仮面ライダー……」
「イレギュラーの仲間ですか……」
「答える義理はないね。…それと、仲間って言うのは、僕の一番嫌いな言葉だ」
修道女の言葉に軽く返し、シアンの仮面ライダーは優花の隣に立つと、ベルト側面に取り付けられたホルダーから、自分とは違う仮面の戦士の顔が描かれた2枚のカードを取り出した。そして、銃身の側面中央部にカードを装填し、銃身をポンプアクションの様に前にスライドさせる。
「君には、これなんか丁度良いんじゃない?」
音声と共に、シアンの仮面ライダーは銃の引き金を引く。
その瞬間、銃口から放たれた光が、シアンの仮面ライダーと修道女の間で収束し、別の仮面ライダーの姿となった。
「…どんな卑怯な手を使ったって、勝たなくっちゃいけないんだ!」
一人は、黒いスーツに白鳥を模した純白の鎧を纏い、レイピアを装備した女騎士──【仮面ライダーファム】。
「その命…神に返しなさい」
もう一人は、純白の鎧に十字架を模した仮面に赤い複眼を持つ聖職者──【仮面ライダーイクサ・バーストモード】。
「「…ッ!!?」」
「行け」
突如現れた二人の白いライダー驚愕する優花と修道女を他所に、シアンの仮面ライダーの命令を聞き、ファムは“ブランバイザー”、イクサは“イクサカリバー”を手にし、愛子を抱える修道女に斬りかかった。
「ッ!!」
修道女は肩に担いだ愛子を投げ捨てるように下ろすと、バックステップでファムとイクサの斬撃を避けた。しかし、二人の攻撃はそれで終わらない。ファムはレイピアで的確に急所を突こうとブランバイザーを突きだし、なんとかそれをかわした修道女に、イクサカリバーが振り下ろされる。
修道は横向きに転がってそれを避けた瞬間、ファムはベルトに装着されたカードデッキからカードを引き抜き、ブランバイザーに装填する。
音声と共に、ファムの手に翼を模した盾“ウイングシールド”が飛来し、それを手にしたファムの背中のから羽のようなマントが羽ばたき、無数の羽が飛び交い、修道女の周囲に漂った。
「ッ!?これは……」
修道女の周りに漂う羽が視界を覆い隠し、ファムとイクサの姿を消し、修道女は辺りを見渡す。
「跪きなさい」
「ッ!!」
その時、電子音と共に膨大な熱と光が修道女の背中を襲い、彼女は反射的に振り向くと、そこには太陽を背にしたイクサが、イクサカリバーを構えている姿だった。
「クェエエエエエエエッ!!」
「なっ、くぅっ!!」
その瞬間、再び無機質な電子音声が響くと同時に、窓ガラスから、仮面ライダーファムの契約モンスターである巨大な白鳥【ブランウイング】が飛び出し、翼を羽ばたかせて猛烈な風を起こす。
不意打ちにそれを浴びた修道女は、周りに漂う羽と共にイクサが立っている方に吹き飛ばされ、イクサの背後にある太陽が、一際強い輝きを放ち、修道女羽目が眩む。
その一瞬の隙に、イクサはイクサカリバーを振るい、修道女を一刀両断にしようとする、その時だった。
「ッ!?ウァアアアアッ!!?」
コブラのように曲がりくねるエネルギー弾がイクサを襲い、吹き飛ばされたイクサは光になって消失した。必殺技が不発に終わり、ブランウイングに吹き飛ばされた修道女は倒れた。
更に紫色の手裏剣の形をした無数のエネルギー弾がファムとブランウイングを襲い、ファムとブランウイングは光となって消えた。
召喚したライダーがアッサリやられた光景を見たシアンの仮面ライダーは、ある方向に顔を向けて呑気な口調で口を開いた。
「…まさか、君がいるなんて予想外だったねぇ」
『俺もお前が出で来るとは思わなかったよ』
そこへ、知らない男の声が聞こえてきて、修道女と優花はその声がした方向に視線を向ける。そこには、修道女に無げ出された愛子の直ぐ側だった。
まるで血のように赤いワインレッドのボディに、仮面と胸にゴフラの意匠をもった容姿をした怪人だった。
「こ、今度は何なのよ……」
「貴方は……」
怒涛の展開に軽く混乱している優花と、コブラの怪人を見て目を見開く修道女。そんな彼女達に一度だけ視線を向けた怪人は、再びシアンの仮面ライダーに顔を向けると、“トランスチームガン”と呼ばれる銃を取り出した。
「僕と戦う気かな?」
『……
「ッ!」
その瞬間、怪人の手にあるトランスチームガンが火を吹き、シアンの仮面ライダーは手にもった銃で怪人の銃弾を撃ち落とす。
その瞬間、怪人はトランスチームガンの引き金を引き、銃口から吹き出した煙が怪人と修道女、そして愛子を包み込み、姿を隠す。
煙が晴れてくると、そこには怪人と修道女の姿も、愛子の姿も何処にもなかった。
「そんなッ、愛ちゃん!!」
「やられたね。少し甘く見ていたか…」
悲痛な声で愛子の名を呼ぶ優花に、若干悔しそうな声を出すシアンの仮面ライダー。ハァ、とため息を吐くと、シアンの仮面ライダーは優花の肩にポン、と手を置いた。
「こうなった以上、君がこの城に留まっているのは危険だ。ついてきたまえ。
「えっ、彼等って…そもそも貴方は……」
戸惑う優花の返事も聞かず、シアンの仮面ライダーは手を軽く上げる。
その瞬間、二人の後ろに銀色に揺らめくオーロラが出現し、そのオーロラがシアンの仮面ライダーと驚愕している優花の二人を呑み込んだ。
オーロラが消えると、二人の姿はどこにも見当たらなかった。
先ほどまでの乱戦が嘘のように消え、静寂が戻った廊下の先にある客室の中で、震える声がポツリと呟く。
「……知らせないと……誰かに」
部屋の中には誰もいない。しかし、何処かに遠ざかる足音がほんの僅かに響き、やがて、完全に静寂を取り戻した。
『やれやれ、あの程度で追い詰められるっていうのに、お前が本気で鈴木入間をやれるのかぁ?』
「ッ、想定外の事態に油断しただけです…!」
『油断ねぇ……まっ、あの泥棒が出てくるってのは確かに予想外だったがな』
人気のない王都の路地裏で、トランスチームガンの瞬間移動能力で現れた修道女とワインレッドの怪人が会話していた。二人の足元には、未だに気絶して倒れている愛子がいる。
自分の介入がなければ死んでいたであろう修津道女を嘲笑うような怪人の言葉に、無表情だった顔を屈辱に歪ませて返す修道女。彼女の言葉を聞き、怪人は変わらない態度でそう呟いた。
その怪人の名は【ブラッドスターク】。またの名を【エボルト】。幾つもの星を滅ぼしてきたブラッド族と呼ばれる地球外生命体だ。
しかし、【キルバス】との闘いで怪人態の力を取り戻し地球を離れた筈の彼が、何故ブラッドスタークの姿で地球に…?
スタークは、足元に倒れている愛子を抱えて持ち上げる。
『悪いが、この女は少しの間だけウチで預からせてもらうぞ。安心しろ、2~3日したらそっちに送り届ける』
「……何をするつもりですか?」
『目的はお前のところの
肩に担いだ愛子を見ながらそう言うブラッドスターク。
その言葉だけで、修道女はブラッドスタークの考えを察したのか、無表情で頷いた。
「…いいでしょう。主は貴方達の行動に興味を持たれています。畑山愛子は一時貴方に預けましょう」
『それはどうも。俺もこれからグリューエン大火山に向かわなきゃなんねぇからな。
そう言い残してから、愛子を担いだブラッドスタークはトランスチームガンから吹き出した煙に包まれ、愛子と共に姿を消した。それを見届けた修道女は、しばらくの間ブラッドスタークが立っていた場所を眺めた後、踵を返して歩き出した。
この日、ハイリヒ王国と聖教教会の滅亡のカウントダウンが始まってしまった。
はたして、人々の不幸を愉悦とする神の傀儡と成り果てたこの国に、未来はあるのだろうか……
・ライダー紹介
【
『仮面ライダービルド』のラスボスである地球外生命体エボルトがトランスチームガンとコブラロストボトルで変身した姿。仮面ライダービルドに破れた後、万丈龍我に遺伝子の一部を潜り込ませて復活。仮面ライダーキルバスを倒した後、怪人態となって力を蓄えるために地球を離れた。何故トータスにいて、スタークの姿でいるのかは不明。
ブラッドスタークは仮面ライダーではないが、仮面ライダー図鑑では仮面ライダーにカテゴライズされている。
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