悪魔の孫は時の王者となって世界最強   作:MTHR

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今回もまた原作通りです。


53話 グリューエン大火山

 【グリューエン大火山】

 それは、アンカジ公国より北方に進んだ先、約100kmの位置に存在している。見た目は、直径約5km、標高3000m程の巨石だ。普通の成層火山のような円錐状の山ではなく、いわゆる溶岩円頂丘のように平べったい形をしており、山というより巨大な丘と表現するほうが相応しい。ただ、その標高と規模が並外れているだけで。

 この【グリューエン大火山】は、七大迷宮の一つとして周知されているが、【オルクス大迷宮】のように、冒険者が頻繁に訪れるということはない。それは、内部の危険性と厄介さ、そして【オルクス大迷宮】の魔物のように魔石回収のうまみが少ないから……というのもあるが、一番の理由は、まず入口にたどり着ける者が少ないからである。

 その原因が、

 

「……まるでラピュ○だねぇ」

「……ラ○ュタ?」

 

 思わず、日本を代表する名作アニメのワンシーンを思い出し呟いた入間に、ユエ達の疑問顔が向けられる。それに肩を竦める入間は、デンライナーの操縦室に取り付けられたモニターから前方の巨大な渦巻く砂嵐を見つめた。

 

 そう、【グリューエン大火山】は、かの天空の城を包み込む巨大積乱雲のように、巨大な渦巻く砂嵐に包まれているのだ。その規模は、【グリューエン大火山】をすっぽりと覆って完全に姿を隠すほどで、砂嵐の竜巻というより流動する壁と行ったほうがしっくりくる。

 しかも、この砂嵐の中にはサンドワームや他の魔物も多数潜んでおり、視界すら確保が難しい中で容赦なく奇襲を仕掛けてくるというのだ。並みの実力では、【グリューエン大火山】を包む砂嵐すら突破できないというのも頷ける話である。

 

「つくづく、徒歩でなくて良かったですぅ」

「流石の妾も、生身でここは入りたくないのぉ」

 

 入間と同じく操縦室から巨大砂嵐を眺めるシアとティオも、デンライナーに感謝感謝と拝んでいる。入間は苦笑いしながら、それじゃあ行くかとデンライナーを一気に加速させた。今回は悠長な攻略をしていられない。表層部分では、静因石はそれ程とれないため、手付かずの深部まで行き大量に手に入れなければならない。深部まで行ってしまえば、おそらく今までと同じように外へのショートカットがあるはずだ。それで一気に脱出してアンカジに戻るのだ。

 入間としては、アンカジの住民の安否にそれほど関心があるわけではないのだが、助けられるならその方がいい。

 入間はそんな事を考えながら気合を入れ直し、巨大砂嵐に突撃した。

 

 砂嵐の内部は、まさしく赤銅一色に塗りつぶされた閉じた世界だった。【ハルツィナ樹海】の霧のように、ほとんど先が見えない。物理的影響力がある分、霧より厄介かもしれない。ここを魔法なり、体を覆う布なりで魔物を警戒しながら突破するのは、確かに至難の業だろう。

 

 太陽の光もほとんど届かない薄暗い中を、デンライナーのヘッドライトが切り裂いていく。時速は300kmくらいだ。事前の情報からすれば五分もあれば突破できるはずである。

 

 と、その時、シアのウサミミがピンッ!と立ち、一拍遅れて入間も反応した。入間は、「掴まって!」と声を張り上げながら、ハンドルを勢いよく切る。

 直後、三体のサンドワームが直下より大口を開けて飛び出してきた。入間はデンライナーを蛇行させながらその奇襲を回避し、構っていられるかとそのまま遁走に入る。デンライナーの速度なら、いちいち砂嵐の中で戦うよりも、さっさと範囲を抜けてしまった方がよい。

 

 サンドワーム達を無視して爆走するデンライナーを、更に左右から二体のサンドワームが襲いかかった。タイミング的に真横からの体当たりを受けそうだ。たかだか体当たりで車体が傷つくことはないが、横転の可能性はある。なので、入間はデンライナーの操縦室のデンバードを操作する。直後、大質量のミミズが、赤銅色の世界から飛び出してくる。

 しかし、左右からの挟撃を狙ったサンドワームの襲撃は、デンライナーに触れることすら叶わなかった。

 

 デンライナーが変形して姿を表した“バーディーミサイル”から追尾機能を付与されたミサイルが射出され、宙を舞う砂がその軌跡を描く。そして、眼前まで飛びかかっていたサンドワームを横一文字に切断した。上下に分かれて血肉を撒き散らすサンドワーム。

 そして、自動で敵を追跡するミサイルは、そのまま右側のサンドワームも両断した。

 

 背後から、先程の三体が追随してくる。地中を進む速度は中々のものだ。鬱陶しくなった入間は、デンバードを操作してデンライナーの装備を起動させる。その瞬間、“モンキーボマー”が姿を表し、“モンキーボ”が複数発射された。

 

 それらは、真後ろからデンライナーを追跡していたサンドワーム達と交差した瞬間、大爆発を起こした。衝撃で地面が吹き飛び、地中をモコモコと進んでいたサンドワーム達が肉片を撒き散らしながら飛び出す。そこへ追撃の“ゴウカノン”が発射され、再び大爆発を起こして、サンドワーム達を半ばから吹き飛ばした。上半身がちぎれ飛び、宙をくるくると舞ったあと、砂嵐の中へと消えていく。

 

 

「うひゃあー、すごいですぅ。入間さん、このデンライナーって一体いくつの機能が搭載されているんですか?」

 

 派手に飛び散ったサンドワームを後部の窓から眺めながら、シアが入間に尋ねた。入間は「えーっと…」と呟きながら、淡々と答えた。

 

「過去や未来とか、色んな時代に飛べる機能があるね。元々、これはタイムマシンだからね」

「「「……」」」

 

 そんな馬鹿なと言いたいところだが、入間ならやりかねないと、尋ねたシアだけでなくユエとティオも無言になってキョロキョロと車内を見回し始めた。入間の言葉が真実だと知っているアメリとアスモデウスは苦笑いだ。

 

 そんな余裕の入間達の前には、その後も、赤銅色の巨大蜘蛛やアリのような魔物が襲いかかってきた。しかし、デンライナーの武装の前に為すすべなく粉砕され、その進撃を止めることは叶わなかった。

 そうして、入間達は数多の冒険者達を阻んできた巨大砂嵐を易々と突破したのだった。

 

 ボバッ!と、そんな音を立てて砂嵐を抜け出た入間達の目に、まるでエアーズロックを何倍にも巨大化させたような岩山が飛び込んできた。砂嵐を抜けた先は静かなもので、周囲は砂嵐の壁で囲まれており、直上には青空が見える。竜巻の目にいるようだ。

 

 【グリューエン大火山】の入口は、頂上にあるとの事だったので、進める所まで四輪で坂道を上がっていく。露出した岩肌は赤黒い色をしており、あちこちから蒸気が噴出していた。活火山であるにも関わらず、一度も噴火したことがないという点も、大迷宮らしい不思議さだ。

 

 やがて傾斜角的にデンライナーでは厳しくなってきたところで、入間達はデンライナーを降りて徒歩で山頂を目指すことになった。

 

「うわぅ……あ、あついですぅ」

「ん~……」

「確かに。砂漠の日照りによる暑さとはまた違う暑さだな」

「……これは、タイムリミットに関係なく、さっさと攻略するに限るな」

「ふむ、妾は、むしろ適温なのじゃが……熱さに身悶えることが出来んとは……もったいないのじゃ」

「……ティオ、そう言う発言は本当に止めよう。この状況だとイラッと来るから」

 

 外に出た途端、襲い来る熱気に、ティオ以外の全員がうんざりした表情になる。冷房の効いた快適空間にいた弊害で、より暑く感じてしまうというのもあるだろう。異世界の冒険者、あるいは旅人だというのに、現代日本の引きこもりのような苦悩を味わっているのは……自業自得だ。

 時間がないので、暑い暑いと文句を言いながらも素早く山頂を目指し、岩場をひょいひょいと重さを感じさせず、どんどん登っていく。結局、バビルは、一時間もかからずに山頂にたどり着いた。

 

 たどり着いた頂上は、無造作に乱立した大小様々な岩石で埋め尽くされた煩雑な場所だった。尖った岩肌や逆につるりとした光沢のある表面の岩もあり、奇怪なオブジェの展示場のような有様だ。砂嵐の頂上がとても近くに感じる。

 そんな奇怪な形の岩石群の中でも群を抜いて大きな岩石があった。歪にアーチを形作る全長10mほどの岩石である。

 

 バビルは、その場所にたどり着くと、アーチ状の岩石の下に【グリューエン大火山】内部へと続く大きな階段を発見した。入間は、階段の手前で立ち止まると肩越しに背後に控える仲間の顔を順番に見やり、自信に満ちた表情で一言、大迷宮挑戦の号令をかけた。

 

「行くよ!」

「んっ!」

「あぁっ!」

「はいです!」

「はいっ!」

「うむっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 【グリューエン大火山】の内部は、【オルクス大迷宮】や【ライセン大迷宮】以上に、とんでもない場所だった。

 難易度の話ではなく、内部の構造が、だ。

 まず、マグマが宙を流れている。亜人族の国フェアベルゲンのように空中に水路を作って水を流しているのではなく、マグマが宙に浮いて、そのまま川のような流れを作っているのだ。空中をうねりながら真っ赤に赤熱化したマグマが流れていく様は、まるで巨大な龍が飛び交っているようだ。

 また、当然、通路や広間のいたるところにマグマが流れており、迷宮に挑む者は地面のマグマと、頭上のマグマの両方に注意する必要があった。

 しかも、

 

「うきゃ!」

「おっと、大丈夫?」

「はう、有難うございます、入間さん。いきなりマグマが噴き出してくるなんて……察知できませんでした」

 

 と、シアが言うように、壁のいたるところから唐突にマグマが噴き出してくるのである。本当に突然な上に、事前の兆候もないので察知が難しい。まさに天然のブービートラップだった。入間が人知を越えた第六感を持っていたのは幸いだ。それが無ければ、警戒のため慎重に進まざるを得ず攻略スピードが相当落ちているところだった。

 

 そして、なにより厳しいのが、茹だるような暑さ──もとい熱さだ。通路や広間のいたるところにマグマが流れているのだから当たり前ではあるのだが、まるでサウナの中にでもいるような、あるいは熱したフライパンの上にでもいるような気分である。【グリューエン大火山】の最大限に厄介な要素だった。

 

 入間達がダラダラと汗をかきながら天井付近を流れるマグマから滴り落ちてくる雫や噴き出すマグマをかわしつつ進んでいると、とある広間で、あちこち人為的に削られている場所を発見した。ツルハシか何かで砕きでもしたのかボロボロと削れているのだが、その壁の一部から薄い桃色の小さな鉱石が覗いている。

 

「ん?静因石……だよね?あれ」

「うむ、間違いないぞ、ご主人様よ」

 

 入間の確認するような言葉に、知識深いティオが同意する。どうやら、砂嵐を突破して【グリューエン大火山】に入れる冒険者の発掘場所のようだ。

 

「……小さいな」

「ほかの場所も小石サイズばっかりですね……」

 

 アスモデウスの言うと通り、残されている静因石は、ほとんどが小指の先以下のものばかりだった。ほとんど採られ尽くしたというのもあるのだろうが、サイズそのものも小さい。やはり表層部分では、静因石回収の効率が悪すぎるようで、一気に、大量に手に入れるには深部に行く必要があるようだ。

 

 入間は一応、静因石の有無を調べ、簡単に採取できるものだけ“宝物庫”に収納すると、ユエ達を促して先を急いだ。

 

 暑さに辟易しながら、七階層ほど下に降りる。記録に残っている冒険者達が降りた最高階層だ。そこから先に進んだ者で生きて戻った者はいない。気を引き締めつつ、八階層へ続く階段を降りきった。

 その瞬間、

 

ゴォオオオオ!!!

 

 強烈な熱風に煽られたかと思うと、突如、入間達の眼前に巨大な火炎が襲いかかった。オレンジ色の壁が螺旋を描きながら突き進んでくる。

 

「“絶禍”」

 

 そんな火炎に対し、発動されたのはユエの魔法。入間達の眼前に黒く渦巻く球体が出現する。重力魔法だ。ただし、それは対象を地面に押しつぶす為のものではなかった。

 人など簡単に消し炭に出来そうな死の炎は、直径60cmほどの黒く渦巻く球体に引き寄せられて余すことなく消えていく。余波すら呑み込むそれは、正確には消滅しているのではない。黒く渦巻く球体──重力魔法“絶禍”は、それ自体が重力を発生させるもので、あらゆるものを引き寄せ、内部に呑み込む盾なのだ。

 

 火炎の砲撃が全てユエの超重力の渦に呑み込まれると、その射線上に襲撃者の正体が見えた。

 それは、雄牛だ。全身にマグマを纏わせ、立っている場所もマグマの中。鋭い二本の曲線を描く角を生やしており、口から呼吸の度に炎を吐き出している。耐熱性があるにも程があると、思わずツッコミを入れたくなる魔物だった。

 マグマ牛は、自身の固有魔法であろう火炎砲撃をあっさり無効化されたことに腹を立てたのか、足元のマグマをドバッ!ドバッ!と足踏みで飛び散らせながら、突進の構えを取っている。

 

 

ヘイ!ブレイド!

 

ブレイド!デュアルタイムブレーク!

 

 

 そんなマグマ牛に向かって、ライドヘイセイバーを召喚した入間が剣に膨大な量の稲妻を纏わせると、稲妻によって巨大化した剣でマグマ牛を一刀両断した。身体を縦に真っ二つにされたマグマ牛は、切断面から内蔵と血液を撒き散らしながら、ドタンと左右に倒れた。

 ライドヘイセイバーをしまいながら汗を拭く入間は、仲間達を促して、先を急いだ。

 

 その後、階層を下げる毎に魔物のバリエーションは増えていった。マグマを翼から撒き散らすコウモリ型の魔物や壁を溶かして飛び出てくる赤熱化したウツボモドキ、炎の針を無数に飛ばしてくるハリネズミ型の魔物、マグマの中から顔だけ出し、マグマを纏った舌をムチのように振るうカメレオン型の魔物、頭上の重力を無視したマグマの川を泳ぐ、やはり赤熱化した蛇など……

 生半可な魔法では纏うマグマか赤熱化した肉体で無効化してしまう上に、そこかしこに流れるマグマを隠れ蓑に奇襲を仕掛けてくる魔物は厄介なこと極まりなかった。なにせ、魔物の方は、体当りするだけでも人相手なら致命傷を負わせることが出来る上に、周囲のマグマを利用した攻撃も多く、武器は無限大と言っていい状況。更に、いざとなればマグマに逃げ込んでしまえば、それだけで安全を確保出来てしまうのだ。

 例え砂嵐を突破できるだけの力をもった冒険者でも、魔物が出る八階層以降に降りて戻れなかったというのも頷ける。しかも、それらの魔物は倒しても魔石の大きさや質自体は【オルクス大迷宮】の四十層レベルの魔物のそれと対して変わりがなく、貴重な鉱物である静因石も表層のものとほとんど変わらないとあっては、挑戦しようという者がいないのも頷ける話だ。

 そして、なにより厄介なのは、刻一刻と増していく暑さだ。

 

「はぁはぁ……暑いですぅ」

「……シア、暑いと思うから暑い。流れているのは唯の水……ほら、涼しい、ふふ」

「むっ、ご主人様よ!ユエが壊れかけておるのじゃ!目が虚ろになっておる!」

 

 暑さに強いティオ以外、入間達ですらダウン状態だ。一応、魔術で冷気を生み出しているのだが……焼け石に水状態。止めどなく滝のように汗が流れ、意識も朦朧とし始めている仲間達を見て、入間もあご先に滴る汗を拭うと、少し休憩が必要だと考えた。

 入間は広間に出ると、マグマから比較的に離れている壁に“変化”を使って横穴を空けた。そこへユエ達を招き入れると、マグマの熱気が直接届かないよう入口を最小限まで閉じた。更に、部屋の壁を硬い金属でコーティングし、ウツボモドキやマグマの噴射に襲われないよう安全を確保する。

 

「ユエ、悪いが氷塊を出してくれ。しばらく休憩しよう。でないと、その内致命的なミスを犯しそうだ」

「ん……了解」

 

 アメリの言葉にうなずいたユエは虚ろな目をしながらも、しっかり氷系の魔法を発動させ部屋の中央に巨大な氷塊を出現させた。気をきかせたティオが、氷塊を中心にして放射するように風を吹かせる。氷塊が発する冷気がティオの風に乗って部屋の空気を一気に冷やしていった。

 

「はぅあ~~、涼しいですぅ~、生き返りますぅ~」

「……ふみゅ~」

 

 女の子座りで崩れ落ちたユエとシアが目を細めてふにゃりとする。タレユエとタレシアの誕生だ。

 入間はそんな二人を微笑ましく思いながら“宝物庫”からタオルを取り出すと全員に配った。

 

「ユエ、シア、だれるのはいいけど、汗くらいは拭いておいて。冷えすぎると動きが鈍るよ」

「……ん~」

「了解ですぅ~」

 

 間延びした声で、のろのろとタオルを広げるユエとシアを横目に、ティオがアスモデウスとアメリにもタオルを渡した入間に話かける。

 

「ご主人様とアメリとアスモデウス殿はまだ余裕そうじゃの?」

「私達もお前ほど余裕じゃない。流石に、この暑さはキツイぞ。水分補給もしとかねば脱水状態になりかねん」

「ふむ、ご主人様達でも参る程ということは……おそらく、それがこの大迷宮のコンセプトなのじゃろうな」

「ライセンが言っていたコンセプトか……」

 

 参るほどではないとは言え、暑いものは暑いので同じく汗をかいているティオがタオルで汗を拭いながら言った言葉に、アスモデウスが呟いた。

 以前、入間達はミレディに大迷宮の事を訪ねる際にあることを聞いた。大迷宮は神に挑むため試練であり、それぞれに何らかのコンセプトでもあるらしい。【オルクス大迷宮】は、数多の魔物とのバリエーション豊かな戦闘を経て経験を積むこと。【ライセン大迷宮】は、魔法という強力な力を抜きに、あらゆる攻撃への対応力を磨くこと。

 

「そして恐らくこの【グリューエン大火山】は、暑さによる集中力の阻害と、その状況下での奇襲への対応といったところではないかのぉ?」

 

 ティオの考察に、「なるほど」と頷く入間達。ドMの変態の癖に知識深く、思慮深くもあるティオに、普段からそうしていれば肉感的で匂い立つような色気がある上に理知的でもある黒髪美女なのに……と物凄く残念なものを見る眼差しを向ける入間とアスモデウス。

 しかし、ティオの首筋から流れた汗がツツーと滴り落ちて、その豊満な胸の谷間に消えていくのを目にすると、入間とアスモデウスは顔を赤くして別々の方向に顔を逸らした。色々な経験をしているとは言え、まだ学生だ。こういった場面には些か弱い。

 すると、入間の視線の先に、同じように汗で服が張り付いて、濡れた素肌が見え隠れしているユエとシア、そして彼女達に冷やした水を手渡しているアメリがいることに気がついた。

 素肌は暑さのため上気しておりほんのり赤みを帯びている。汗で光る素肌はなんとも艶かしく、普段より熱く荒い吐息と相まって物凄い色気を放っていた。

 その時、入間とユエの目がバッチリと合った。偶々視線が合わさった入間は、再び顔を赤くしてバツ悪そうに目を逸らそうとした。

 

 しかし、目を逸らす一瞬前に、ユエが妖艶な微笑みを浮かべ入間の視線を捉える。そして、服を着崩したまま、まるで、猫のように背をしならせて、ゆっくり四つん這いで入間に近付いて行った。嫌な予感がして、暑さとは違う理由で汗が吹き出す入間。その直後、シアとアメリから抗議の声が上がった。

 

「ユ・エ・さ・ん!少しはTPOを弁えて下さい!先を急いでいる上に、ここは大迷宮なんですよ!もうっ!ほんとにもうっ!」

「……動揺する入間が可愛くて」

「お前反省してないだろう?アプローチは結構だがな、所構わずイルマにすり寄るな!」

「……恋愛はスピード勝負」

「むぅ~!そう言うことなら、こっちだってTPOを無視してやるですぅ!え~いですぅ!」

「なっ!?」

「そ、そう言うことなら妾もやるのじゃ!ご主人様は妾の胸に少し反応しておったしのぉ。ご主人様~、妾の身体わ好きにして良いんじゃよ~♡」

「……シアとティオも良い度胸」

「ちょっ、皆…息苦しい…」

「なっ!?ユエもシアもティオも恥じらいをもて!アスモデウスもいるのだぞ!?」

 

 反省している様子もなく胸を張るユエに堪忍袋の尾が切れたのか、入間とアスモデウスの前で脱ぎ出して入間に抱き付いた。それを見たティオも負けじと脱ぎ出して入間に鼻息荒く抱き付き、ユエも負けるものかと脱いで抱き付きはじめる。入間は真っ赤になった顔をユエ達の身体に埋められて息がしずらくなってもがくが、それがくすぐったいのかユエ達は入間が動く度に妖艶な声を上げる。それを見たアメリは顔を真っ赤にしてユエ達を入間から引き離そうとする。流石に自分も参加する勇気はないらしい。

 その時、アスモデウスから「ブチッ」と何かが切れた音がした瞬間、ガンッ、ゴンッ、バシッ、という鈍い音が室内に響き渡った。

 

「喧しい」

「「「すみませんでした……」」」

 

 服を着せられて頭に立派なたん瘤を作りながら正座させられたユエ達は、ビキビキと額に青筋を浮かばせて仁王立ちするアスモデウスに謝罪をする。

 

「全くコイツ等は……」

「まぁまぁ……アズくんもこれから迷宮は続くんだから程々にね」

 

 その光景を見て呆れたように頭に手をやるアメリと、大迷宮とは別物の理由で物凄く疲れて額に冷やした濡れタオルを当てる入間。

 汗だくで正座をしてアスモデウスの説教を聞くユエ達を見て、二重の意味でミュウを連れてこなくて良かったと内心ホッとするのだった。

 

 

 




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