【グリューエン大火山】たぶん、きっと五十層くらい。
それが、現在、入間達のいる階層だ。なぜ『たぶん』なのか。それは、入間達の置かれた状況が少々特異なので、はっきりと現在の階層がわからないからである。
具体的には、入間達は宙を流れる大河の如きマグマの上を赤銅色の岩石で出来た小舟のようなものに乗ってどんぶらこと流されているのだ。
なぜ、こんな状況になっているかというと……端的に言えば入間のミスである。というのも、少し前の階層で攻略しながらも静因石を探していた入間達は、相変わらず自分達を炙り続けるマグマが時々不自然な動きを見せていることに気がついた。
具体的には、岩などで流れを邪魔されているわけでもないのに大きく流れが変わっていたり、何もないのに流れが急激に遅くなっていたり、宙を流れるマグマでは一部だけ大量にマグマが滴り落ちていたり、というものである。
大抵、それは通路から離れたマグマの対岸だったり、攻略の障害にはならなかったので気にも止めていなかったのだが、たまたまその不自然な動きが“静因石”を原因としていることが判明したのである。マグマそのものに宿っているらしい魔力が静因石により鎮静されて、流れが阻害された結果だったのだ。
入間達は、ならば、マグマの動きが強く阻害されている場所に静因石は大量にあるはずと推測し探した結果、確かに大量の静因石が埋まっている場所を多数発見したのである。マグマの動きに注意しながら、相当な量の静因石を集めた入間達は、予備用にもう少しだけ集めておこうと、とある場所に向かった。
そこは、宙に流れるマグマが大きく壁を迂回するように流れている場所だった。入間が“変化”を使って即席の階段を作成して近寄り、充分な量の静因石が埋まっていることがわかった。
早速、静因石だけを回収する入間だったが、暑さによる集中力の低下と何度も繰り返した静因石の回収に油断があったのか、壁の向こう側の様子というものに注意が向いていなかった。
入間が自分のミスに気が付いたのは、静因石を宝物庫に収納し、その効力が失われた瞬間、静因石が取り除かれた壁の奥からマグマが勢いよく噴き出した後である。
咄嗟に飛び退いた入間だったが、噴き出すマグマの勢いは激しく、まるで亀裂の入ったダムから水が噴出し決壊するように、穴を押し広げて一気になだれ込んできた。
あまりの勢いに一瞬で周囲をマグマで取り囲まれた入間達は、ユエが、障壁を張って凌いでいる間に、入間が錬成で小舟を作り出しそれに乗って事なきを得たのである。小舟は、直ぐに灼熱のマグマに熱せられたが、入間が錬金術により小舟をコーティングしたので問題はなかった。
そして、流されるままにマグマの上を漂っていると、いつの間にか宙を流れるマグマに乗って、階段とは異なるルートで【グリューエン大火山】の深部へと、時に灼熱の急流滑りを味わいながら流されていき、現在に至るというわけだ。
ちなみに、マグマの空中ロードに乗ったとき、普通に川底を抜けそうになったのだが、シアが咄嗟に重力魔法“付与効果”で小舟の重さを軽減したのでマグマに乗ることができた。“付与効果”は、シアが触れているものの重量を、自身の体重と同じように調整出来るというものだ。
「あっ、皆さん。またトンネルですよ」
「そろそろ、標高的には麓辺りじゃ。何かあるかもしれんぞ?」
シアが指差した方向を見れば、確かに入間達が流されているマグマが壁に空いた大穴の中に続いていた。マグマ自体に照らされて下方へと続いていることが分かる。今までも、洞窟に入る度に階層を下げてきたので、普通に階段を使って降りるよりショートカットになっているはずだ。
ティオの忠告に頷きながら、いざ、洞窟内に突入するバビル一行。マグマの空中ロードは、広々とした洞窟の中央を蛇のようにくねりながら続いている。と、しばらく順調に高度を下げていたマグマの空中ロードだが、カーブを曲がった先でいきなり途切れていた。いや、正確には滝といっても過言ではないくらい急激に下っていたのだ。
「またか……全員振り落とされるなよ!」
アメリの言葉に入間達も頷き、小舟の縁や入間の腰にしがみつく。ジェットコースターが最初の落下ポイントに登るまでの、あのジワジワとした緊張感が漂う中、遂に、小舟が落下を開始した。
耳元で『ゴウォゴウォ』と風の吹き荒れる音がする。途轍もない速度で激流と化したマグマを、シアの重力魔法を使った体重移動とティオの風によって制御しながら下っていく。マグマの粘性など存在しないとばかりに速度は刻一刻と増していった。
入間は、靴裏にスパイクに変化させて体を固定しながら、油断なく周囲を警戒する。なぜなら、こういう時に限って……
「…やっぱり出たかぁ」
入間は舌打ちすると同時に“ソニックアロー”を召喚し、躊躇いなくエネルギー矢を撃ち放った。周囲に轟く炸裂音。それが三度響くと共に三条の閃光の矢が空を切り裂いて目標を違わず撃破する。入間達に襲いかかってきたのは、翼からマグマを撒き散らすコウモリだった。
このマグマコウモリは、一体一体の脅威度はそれほど高くない。かなりの速度で飛べることとマグマ混じりの炎弾を飛ばすくらいしか出来ない。入間達にとっては雑魚同然の敵である。
だが、マグマコウモリの厄介なところは、群れで襲って来るところだ。1匹見つけたら30匹はいると思え、という黒いGのような魔物で、岩壁の隙間などからわらわらと現れるのである。
今も、三羽のマグマコウモリを瞬殺した入間だったが、案の定、激流を下る際の猛スピードがもたらす風音に紛れて、おびただしい数の翼がはためく音が聞こえ始めた。
「ユエ、アメリさん、アズくん!行くよ!」
「……んっ、任せて!」
「わかった!」
「お任せください!」
「うん、任せるよ。シア、ティオ、船の制御は頼んだよ」
「はいです!」
「うむ、任された。ご褒美は尻叩きでよいぞ?」
ティオの冗談とも本気ともつかない変態発言はスルーして、入間、アメリ、ユエの4人が小舟の上で背中合わせになった直後、マグマコウモリの群れがその姿を見せた。
それはもう、一つの生き物といっても過言ではない。おびただしい数のマグマコウモリは、まるで鳥類の一糸乱れぬ集団行動のように一塊となって波打つように動き回る。その姿は傍から見れば一匹の龍のようだ。翼がマグマを纏い赤く赤熱化しているので、さながら炎龍といったところだろう。
一塊となってバビルに迫ってきたマグマコウモリは、途中で二手に分かれると、前方と後方から挟撃を仕掛けてきた。いくら一体一体が弱くとも、一つの巨大な生き物を形取れる程の数では、普通は物量で押し切られるだろう。
だが、ここにいるのはチート集団。単純な物量で押し切れるほど甘い相手でないことはウルの町で大地の肥やしとなった魔物達が証明済みだ。
入間は手にした武器をソニックアローから“ホークガトリンガー”に変えると、ホークガトリンガーのリボルマガジンを回転させる。
電子音と共に引き金を引くと、恐るべき威力と連射で光の鳥が空を駆け、遥か後方まで有無を言わせず貫き通す。洞窟の壁を破砕するまでの道程で射線上にいたマグマコウモリは、一切の抵抗も許されず粉砕され地へと落ちていった。
続いて、アメリが滅多に使わない銃型の武器、“ディエンドライバー”を召喚すると、一枚のカードを取り出して挿入し、銃身をスライドさせると、銃口をマグマコウモリに向けて引き金を引いた。
音声と共にディエンドライバーの銃身が分身し、一発につき一匹では生温いと言わんばかりに光弾はマグマコウモリ達を次々と撃ち抜いていき、木っ端微塵に砕かれたマグマコウモリの群れは、その体の破片を以て一時のスコールとなった。
後方から迫っていたマグマコウモリも同じようなものだ。
「“嵐龍”」
ジカンデスピアを装備したアスモデウスが「?」マークを飛ばしてマグマコウモリを蹴散らす中、ユエが右手を真っ直ぐ伸ばし、そう呟いた瞬間、緑色の豪風が集まり球体を作った。そして瞬く間に、まるで羽化でもするかのように球形を解いて一匹の龍へと変貌する。緑色の風で編まれた〝嵐龍〟と呼ばれた風の龍は、マグマコウモリの群れを一睨みすると、その顎門を開いて哀れな獲物を喰らい尽くさんと飛びかかった。
当然、マグマコウモリ達は、炎弾を放ちつつも、“嵐龍”を避けるように更に二手に分かれて迂回しようとした。しかし、ユエの“龍”は、その全てが重力魔法との複合魔法だ。当然、“嵐龍”も唯の風で編まれただけの龍ではなく、風刃で構成され、自らに引き寄せる重力を纏った龍であり、一度発動すれば逃れることは至難だ。
マグマコウモリ達は、いつか見た“雷龍”や“蒼龍”の餌食となった魔物達のように、抗うことも許されず“嵐龍”へと引き寄せられ、風刃の嵐に肉体を切り刻まれて血肉を撒き散らし四散した。なお、ユエが“雷龍”や“蒼龍”を使わなかったのは、マグマコウモリが熱に強そうだった事と、翼を切り裂けば事足りると判断したためである。
最後に、“嵐龍”は群れのど真ん中で弾け飛ぶと、その体を構成していた幾百幾千の風刃を全方向に撒き散らし、マグマコウモリの殲滅を完了した。
「う~む、ご主人様達の殲滅力は、いつ見ても恐ろしいものがあるのぉ」
「流石ですぅ」
小舟を制御して激流に上手く乗りながら、ティオとシアが苦笑い気味に称賛を送る。それに肩を竦めつつホークガトリンガーをしまった入間がジカンデスピアを片付けたアスモデウスと笑いあってグータッチすると、ユエ達が構って欲しいというような視線を向けてくるので、アメリとユエ、シアとティオの順番で彼女達の頭を撫でてやる。それだけで、4人共やたら嬉しそうな表情をするのだから、入間としても何とも困ったものである。
マグマの激流空中ロードを、魔物に襲われながら下っているというのに結構余裕のあるバビル一行。だが、その余裕に釘を刺したかったのか、今まで下り続けていたマグマが突然上方へと向かい始めた。
「皆、掴まって!」
入間の号令に、再び小舟にしがみつくユエ達。小舟は、激流を下ってきた勢いそのままに猛烈な勢いで洞窟の外へと放り出された。
襲い来る浮遊感に、入間は股間をフワッとさせながら素早く周囲の状況を把握する。入間達が飛び出した空間は、かつて見た【ライセン大迷宮】の最終試練の部屋よりも尚、広大な空間だった。
【ライセン大迷宮】の部屋と異なり球体ではなく、自然そのままに歪な形をしているため正確な広さは把握しきれないが、少なくとも直径3km以上はある。地面はほとんどマグマで満たされており、所々に岩石が飛び出していて僅かな足場を提供していた。周囲の壁も大きくせり出している場所もあれば、逆に削れているところもある。空中には、やはり無数のマグマの川が交差していて、そのほとんどは下方のマグマの海へと消えていっている。
ぐつぐつと煮え立つ灼熱の海とフレアのごとく噴き上がる火柱。地獄の釜というものがあるのなら、きっとこんな光景に違いない。バビル一行は、ごく自然にそんな感想を抱いた。
だが、なにより目に付いたのは、マグマの海の中央にある小さな島だ。海面から10m程の高さにせり出ている岩石の島。それだけなら、ほかの足場より大きいというだけなのだが、その上をマグマのドームが覆っているのである。まるで小型の太陽のような球体のマグマが、島の中央に存在している異様はバビルの視線を奪うには十分だった。
「“風よ”」
飛び出した勢いでひっくり返った小舟を、ティオが空中で立て直し、それぞれ己の姿勢を制御して再び乗り込んだ。ユエが、小舟の落下速度を“来翔”で調整する。柔らかくマグマの海に着地した小舟の上で、明らかに今までと雰囲気の異なる場所に、警戒を最大にするバビル一行。
「……あそこが住処?」
ユエが、チラリとマグマドームのある中央の島に視線をやりながら呟く。
「階層の深さ的にも、そう考えるのが妥当だろうな……だが、そうなると……」
「最後のガーディアンがいるはず……じゃな?」
「ショートカットして来たっぽいですし、とっくに通り過ぎたと考えてはダメですか?」
アメリの考えをティオが確認し、僅かな異変も見逃さないとドMの変態とは思えない鋭い視線を周囲に配る。そんなアメリ達の様子に気を引き締めながらも、シアがとある方向を見ながら楽観論を呟いてみた。
入間がシアの視線をたどると、大きな足場とその先に階段があるのが見えた。壁の奥から続いている階段で、おそらく、正規のルートをたどれば、その階段から出てくることになるのだろう。
しかし、いくらマグマの空中ロードに乗って流れてくることが普通は有り得ないことだとしても、大迷宮の最終試練までショートカット出来たと考えるのは楽観が過ぎるというものだ。シアも、そうだったらいいなぁ~と口にしつつも、その鋭い表情はまるで信じていない事を示している。
その入間達の警戒が正しかった事は、直後、宙を流れるマグマから、マグマそのものが弾丸のごとく飛び出してくるという形で証明された。
「むっ、任せよ!」
ティオの掛け声と共に魔法が発動し、マグマの海から炎塊が飛び出して頭上より迫るマグマの塊が相殺された。
しかし、その攻撃は唯の始まりの合図に過ぎなかったようだ。ティオの放った炎塊がマグマと相殺され飛び散った直後、マグマの海や頭上のマグマの川からマシンガンのごとく炎塊が撃ち放たれたのだ。
「散開!」
このままでは、小舟ごと今いる場所に釘付けにされると判断した入間は、小舟を放棄して近くの足場に散開するように指示を出した。凄まじい物量の炎塊が一瞬前まで入間達がいた小舟を粉砕し、マグマの海へと沈めていく。
入間達はそれぞれ別の足場に着地し、なお追ってくるマグマの塊を迎撃していった。迎撃そのものは切羽詰るというほどのものではなかったのだが、いつ終わるともしれない波状攻撃に苛立たしげな表情を見せる入間達。それは、マグマの海により、景色が歪むほど熱せられた空気も原因だろう。
そんな状況を打開すべく、入間は“デンガッシャー”を召喚して素早くガンモードに組み立てると同時に、振り返らず肩越しにデンガッシャーの銃口を真後ろに向けた。そして、前方に向けた義手の肘から散弾を発射してマグマの塊を迎撃しつつ、背後でユエに迫っていたマグマの塊を、デンガッシャーの連射で撃ち落とした。
その意図を、言葉はなくとも正確に読み取ったユエ。一瞬出来た隙をついて重力魔法を発動させる。
「“絶禍”」
響き渡る魔法名と共に入間達6人の中間地点に黒く渦巻く球体が出現し、飛び交うマグマの塊を次々と引き寄せていった。黒き小さな星は、呑み込んだ全てを超重力のもと押し潰し圧縮していく。
ユエの魔法により炎塊の弾幕に隙ができ、入間は、“重量調整”で宙を跳ぶと一気にマグマドームのある中央の島へと接近した。
バビル一行を襲う弾幕で一番厄介なのは、止める手段が目に見えないことだ。場所的に、明らかに【グリューエン大火山】の最終試練なのだが、今までの大迷宮と異なり目に見える敵が存在しないので、何をすればクリアと判断されるのかが分からない。そのため、もっとも怪しい中央の島に乗り込んでやろうと、入間は考えたのである。
入間は中央の島へと宙を駆けながら“念話”を使う。
『中央の島を調べる。援護お願い』
『『『『『了解!』』』』』
ユエの絶禍の効果範囲からマグマの塊が入間を襲うが、そうはさせじとアスモデウスとティオがマグマの海より無数に炎弾を飛ばして迎撃し、シアもガンモードにしたガシャコンキースラッシャーで迎撃していく。ユエは、絶禍を展開維持しながら、更にアスモデウスとティオと同じく炎弾をマグマの海より作り出して迎撃に当たった。
ユエ達の援護をもらって、一直線に中央の島へと飛び移ろうとした。
だが、その瞬間、
「ゴォアアアアア!!!」
「ッ!?」
そんな腹の底まで響くような重厚な咆哮が響いたかと思うと、宙を飛ぶ入間の直下から大口を開けた巨大な蛇が襲いかかってきた。
全身にマグマを纏わせているせいか、周囲をマグマで満たされたこの場所では熱源感知にも気配感知にも引っかからない。また、マグマの海全体に魔力が満ちているようなので魔力感知にも引っかからなかったことから、完全な不意打ちとなった巨大なマグマ蛇の攻撃。
しかし、入間は超人的な反応速度で体を捻ると、辛うじてその顎門による攻撃を回避した。
一瞬前まで入間がいた場所を、マグマ蛇がバクンッ!と口を閉じながら通り過ぎる。入間は空中で猫のように体を反転させながら、デンガッシャーの銃口を通り過ぎるマグマ蛇の頭に照準し発砲した。必殺の破壊力を秘めた弾丸が狙い違わずマグマ蛇の頭を捉え、弾き飛ばす。
「なにっ!?」
しかし、上がった声はマグマ蛇の断末魔ではなく、入間の驚愕の声だった。
当然、その原因は、マグマ蛇にある。なんと、マグマ蛇の頭部は確かに弾け飛んだのだが、それはマグマの飛沫が飛び散っただけであり、中身が全くなかったのだ。今までの【グリューエン大火山】の魔物達は、基本的にマグマを身に纏ってはいたが、それはあくまで纏っているのであって肉体がきちんとあった。断じて、マグマだけで構成されていたわけではない。
入間は直ぐに立ち直ると、“トリガーマグナム”を召喚し、デンガッシャーと共に物は試しにと頭部以外の部分を滅多撃ちにした。幾条もの閃光が情け容赦なくマグマ蛇の体を貫いていくが、やはり、どこにも肉体はなかった。どうやら、このマグマ蛇は、完全にマグマだけで構成されているらしい。
入間は驚きつつも、取り敢えず、体のあちこちを四散させたことでマグマ蛇を行動不能に出来たので、その脇を通り抜け重量調整で中央の島へ再度跳ぼうとした。
だが、マグマ蛇の攻撃はまだ終わっていなかったらしい。入間が、脇を抜けようとした瞬間、頭部を失い体中を四散させておきながらも突如身をくねらせ入間に体当たりを行ったのだ。
入間はトリガーマグナムに“トリガーメモリ”を装填してバレルユニットを上げてマキシマムモードに切り替え、引き金を引いた。銃口から飛び出した光弾が四散し、意思を持つようにマグマ蛇を迎撃して爆発を起こす。入間はその爆風を利用して後退すると近くの足場に着地する。その傍にユエ達もやって来た。入間が襲われている間に、炎塊の掃射は一時止んだようだ。
「……入間、無事?」
「ああ、問題ないよ。それより、ようやく本命が現れたみたいだね」
入間の腕にそっと触れながら安否を気遣うユエに、入間は前方から目を逸らさず、そっと触れ返すことで応える。その入間の目には、ザバァ!と音を立てながら次々と出現するマグマ蛇の姿が映っていた。
「やはり、中央の島が終着点のようじゃの。通りたければ我らを倒していけと言わんばかりじゃ」
「でも、さっき入間さんが撃った相手、普通に再生してますよ?倒せるんでしょうか?」
遂に二十体以上のマグマ蛇がその鎌首をもたげ、バビルを睥睨するに至った。最初に、入間から銃撃を受けたマグマ蛇も、既に再生を終え何事もなかったかのように元通りの姿を晒している。
シアが眉をしかめてその点を指摘した。ライセン大迷宮のときは、再生する騎士に動揺していたというのに、今は、冷静に攻略方法を考えているようだ。それを示すようにウサミミがピコピコと忙しなく動き回っている。入間は随分と逞しくなったものだと苦笑いしつつ、自分の推測を伝えた。
「おそらく、バチュラム系の魔物と同じで、マグマを形成するための核、魔石がある筈だよ」
「マグマが邪魔で位置を特定出来ないが……それを壊すしかありませんね」
入間とアスモデウスの言葉に全員が頷くのと、総数二十体のマグマ蛇が一斉に襲いかかるのは同時だった。
マグマ蛇達は、まるで、太陽フレアのように噴き上がると頭上より口から炎塊を飛ばしながら急迫する。二十体による全方位攻撃だ。普通なら逃げ場もなく大質量のマグマに呑み込まれて終わりだろう。
「久しぶりの一撃じゃ!存分に味わうが良い!」
そう言って揃えて前に突き出されたティオの両手の先には、膨大な量の黒色魔力。それが瞬く間に集束・圧縮されていき、次の瞬間には、一気に解き放たれた。竜人族のブレスだ。
恐るべき威力を誇る黒色の閃光は、ティオの正面から迫っていたマグマ蛇を跡形もなく消滅させ、更に横薙ぎに振るわれたことにより、あたかも巨大な黒色閃光のブレードのようにマグマ蛇達を消滅させていった。
一気に八体ものマグマ蛇が消滅し、それにより出来た包囲の穴から、入間達は一気に飛び出した。
流石に跡形もなく消し飛ばされれば、魔石がどこにあろうとも一緒に消滅しただろうと思われたが、そう簡単には行かないのが大迷宮クオリティーだ。
バビル一行が数瞬前までいた場所に着弾した十二体のマグマ蛇は、足場を粉砕しながらマグマの海へと消えていったものの、再び出現する時には、きっちり二十体に戻っていた。
「魔石が吹き飛んだ瞬間は確認したぞ?倒すことがクリア条件じゃないのか?」
アメリ訝しげに表情を歪める。アメリはティオのブレスがマグマ蛇に到達した瞬間から“幻想王”を発動し、跳ね上がった動体視力で確かにマグマ蛇の中に魔石がありブレスによって消滅した瞬間を確認したのである。
入間が迷宮攻略の方法に疑問を抱いていると、シアが中央の島の方を指差し声を張り上げた。
「皆さん!見て下さい!岩壁が光ってますぅ!」
「なに?」
言われた通り中央の島に視線をやると、確かに、岩壁の一部が拳大の光を放っていた。オレンジ色の光は、先程までは気がつかなかったが、岩壁に埋め込まれている何らかの鉱石から放たれているようだ。
入間が確認すると、保護色になっていてわかりづらいが、どうやら、かなりの数の鉱石が規則正しく中央の島の岩壁に埋め込まれているようだとわかった。中央の島は円柱形なので、鉱石が並ぶ間隔と島の外周から考えると、ざっと百個の鉱石が埋め込まれている事になる。そして、現在、光を放っている鉱石は八個……先程、ティオが消滅させたマグマ蛇と同数だ。
「なるほど……このマグマ蛇を百体倒すってのがクリア条件ってところか」
「……この暑さで、あれを百体相手にする……迷宮のコンセプトにも合ってる」
ただでさえ暑さと奇襲により疲弊しているであろう挑戦者を、最後の最後で一番長く深く集中しなければならない状況に追い込む。大迷宮に相応しい嫌らしさと言えるだろう。
確かに、入間達も相当精神を疲労させている。しかし、その表情には疲労の色はなく、攻略方法を見つけさえすればどうとでもしてやるという不敵な笑みしか浮かんでいなかった。
そうして全員が、やるべき事を理解して気合を入れ直した直後、再び、マグマ蛇達が襲いかかった。マグマの塊が豪雨のごとく降り注ぎ、大質量のマグマ蛇が不規則な動きを以て獲物を捉え焼き尽くさんと迫る。
入間達は再び散開し、それぞれ反撃に出た。
ティオが竜の翼を背から生やし、そこから発生させた風でその身を浮かせながら、真空刃を伴った竜巻を砲撃の如くぶっ放す。風系統の中級攻撃魔法“砲皇”だ。
「これで九体目じゃ!今のところ妾が一歩リードじゃな。ご主人様よ!妾が一番多く倒したら
九体目のマグマ蛇を吹き飛ばし切り刻みながら、そんな事をのたまうティオ。呆れた表情で拒否しようとした入間だったが、シアがそれを遮る。
「なっ!ティオさんだけずるいです!私も参戦しますよ!入間さん、私も勝ったら一晩ですぅ!」
そんな事を叫びながら、シアは跳躍した先にいるマグマ蛇の頭部に“マイティアクションX”を装填したガシャコンブレイカーⅡを上段から振り下ろした。インパクトの瞬間、ピンク色の波紋が広がり、次いで凄絶な衝撃が発生。頭部から下にあるマグマの海まで一気に爆砕した。弾けとんだマグマ蛇の跡にキラキラした鉱物が舞っている。
一体のマグマ蛇を屠った空中のシアに、背後からマグマの塊が迫る。シアはを激発させ、その反動で回避した。しかし、それを狙っていたかのように、シアが落ちる場所にマグマ蛇が顎門を開いて襲いかかる。
しかし、シアは特に焦ることもなく、あるガシャットを起動させた。その瞬間、背後に現れたエフェクトから、後部が赤い飛行機のようになっているバイクが飛び出した。シアは、その上を足場にして重さを感じさせずに再度宙を舞った。
シアが起動したガシャットは“名探偵ダブルガシャット”。ダブルの力を宿したガシャットを応用して、シアは“ハードタビュラー”を召喚した。これを使えば、まさに“宙を舞う”という戦闘が可能になる
目測を外されシアの下方を虚しく通り過ぎるマグマ蛇に、シアはガンモードのガシャコンキースラッシャーにマイティブラザーズガシャットを装填して銃口を向け、トリガーを引いた。
ガシャコンキースラッシャーの咆哮と共に飛び出したエネルギー波は、狙い違わず背後からマグマ蛇に直撃し、頭部から胴体まで全てを巻き込んで大爆発を起こした。その衝撃で、再び、砕け散った魔石がキラキラと宙を舞う。
「いや、二人とも。何を勝手に…」
「なっ、ならば!私も参戦するぞ!イルマ!私が勝ったらデートしてもらうぞ!!」
「……なら、私も二人っきりで一日デート」
「イルマ様!私も参加させてもらいます!」
「って、僕の意思関係なし!?」
入間はティオとシアの勝手な競争にツッコミを入れようと口を開いたが、それを遮ってアメリとユエ、更にはアスモデウスまでもが討伐競争に参戦の意を示した。元々、イルマ大好きな連中だ。仲間達とワイワイやる時間も良いが、2人で過ごす時間も欲しいらしい。
アメリは不機嫌そうな表情を浮かべながら、“ゼロガッシャー”と“ビートクローザー”を振るい飛ぶ斬撃を放ってマグマ蛇達を魔石ごと次々と切り捨てていくと、胸部に召喚した“ブレストキャノン”から赤い極太の破壊光線を放ち、マグマ蛇達を一掃する。
ユエは楽しみという雰囲気を醸し出しながら、しかし、魔法についてはどこまでも凶悪なものを繰り出した。最近十八番の“雷龍”である。熟練度がどんどん上がっているのか、出現した“雷龍”の数は七体。それをほぼ同時に、それぞれ別の標的に向けて解き放った。雷鳴の咆哮が響き渡る。ユエに喰らいつこうとしていたマグマ蛇達は、逆にマグマの塊などものともしない雷龍の群れに次々と呑み込まれ、体内の魔石ごと砕かれていった。
アスモデウスはカマモードのジカンデスピアのタッチパネルを操作すると、『一撃カマーン!』という音声と共に空中で鎌が無数に複製され、一斉に射出される。自由自在に飛び交う鎌の大群は、一つにつき何体ものマグマ蛇の魔石を切り裂き、無駄な破壊をもたらすこと無く消滅させた。
その光景を見て、シアとティオがそれぞれ焦りの表情を浮かべて悪態をつきつつ、より一層苛烈な攻撃を繰り出し、討伐数を伸ばしていった。
「……別に、いいけどさ。楽しそうだし」
入間は、そんな自分が景品になっている競争に闘志を燃やす仲間達に肩を竦めると、若干、諦めた感を醸し出しながら、背後から襲いかかってきたマグマ蛇に、振り向くことなく肩越しにトリガーマグナムから光の弾丸を連射する。
放たれた弾丸は自由自在の軌道を描き、マグマ蛇の各箇所に均等に着弾し衝撃を以てそのマグマの肉体を吹き飛ばした。同時に、衝撃で魔石が宙を舞う。入間は、すっと半身になって前方から飛んできたマグマの塊をかわしながら、右のデンガッシャーでマグマの海に落ちる寸前の魔石をピンポイントで撃ち抜いた。
更に、二体のマグマ蛇が左右から入間を挟撃するが、背中から出現した翼で高速離脱すると、空中で上下逆さになり、デンガッシャーとトリガーマグナムを投げ捨てて新たに“トレーラー砲”を召喚し、上部スロットにシフトスピード、内部スロットに起動スイッチを押したシフトトライドロンを装填して、巨大な光弾となったトライドロンを発射した。
猛烈な勢いで以て左右から襲いかかったマグマ蛇達は、突如、見失った獲物に混乱する暇もなく直上から襲い来た深紅の車にマグマの体を四散させ、核となっていた魔石が粉砕された。
気が付けば、中央の島の岩壁、その外周に規則正しく埋め込まれた鉱石は、そのほとんどを発光させており、残り12個というところまで来ていた。本格的な戦闘が始まってから、まだ十分も経っていない。
【グリューエン大火山】のコンセプトが、悪環境による集中力低下状態での長時間戦闘だという入間達の推測が当たっていたのだとしたら、入間達に対しては完全に創設者の思惑は外れてしまったと言えるだろう。
アスモデウスのジカンデスピアによる槍の一撃が、マグマ蛇を貫く。
──残り10体
“ミラージュマグナム”を手にしたアメリが撃ち出したビーストキマイラ型の魔弾が、マグマ蛇を食らい尽くす。
──残り8体
ティオのブレスが、マグマ蛇をまとめてなぎ払う。
──残り6体
シアのガシャコンブレイカーⅡによる一撃と、ほぼ同時に放たれたエネルギー弾がマグマ蛇をまとめて爆砕する。
──残り4体
ユエに対し、直下のマグマの海から奇襲をかけて喰らいつこうとしたマグマ蛇と直上から挟撃をしかけたマグマ蛇が、とぐろを巻いてユエを包み込んだ“雷龍”に阻まれ、立ち往生する。そして次の瞬間、その二体のマグマ蛇を四体の“雷龍”が逆に挟撃し、喰らい尽くす。
──残り2体
入間に急速突進してきたマグマ蛇がマグマの塊を散弾のごとく撒き散らす。しかし、入間はゆらりゆらりと木の葉が舞うようにマグマの塊をかわしていき、トレーラー砲から“ブレイラウザー”に武器を切り替えた入間は、ブレイラウザーからトランプに似たカード“ラウズカード”を三枚引き抜き、ブレイラウザーにラウズする。
“スラッシュリザード”の力で剣の攻撃力を上昇させ、“サンダーディアー”の力で刀身に蒼電が纏わせる。マグマ蛇が食らいつこうと飛び出した瞬間、“マッハジャガー”の高速移動能力で飛び出した入間は、蒼電を纏うブレイラウザーで魔石ごとマグマ蛇を一瞬で切り裂いた。
遂に最後の一体となったマグマ蛇が、直下のマグマの海から奇襲をかけた。入間はブレイラウザーを投げ捨て、一枚の羽に魔力を込めて漆黒の弓矢に変形させると、そのまま翼を羽ばたかせて直上に飛び上がると、真下からガバッと顎門を開いて迫るマグマ蛇の口内に向けて弦を引き絞る。入間の目には、マグマ蛇の体内の魔石の位置がしっかりと捉えられていた。
ユエ達が満足気な眼差しで入間が最後の一撃を放つところを見つめている。
「これで、終わりだよ」
それを視界の端に捉えながら、入間は【グリューエン大火山】攻略のための最後の一発を放った。
──その瞬間
頭上より、極光が降り注いだ。
まるで天より放たれた神罰の如きそれは、光輝の“神威”がまるで児戯に錯覚してしまう程の威力を持っていた。大気すら悲鳴を上げるその一撃は、攻撃の瞬間という戦闘においてもっとも無防備な一瞬を狙って放たれ──入間を最後のマグマ蛇もろとも呑み込んだ。
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