今回、少し原作の時系列を弄っていますが、ご了承下さい。
赤銅色の砂が吹きすさぶ【グリューエン大砂漠】の上空を飛ぶ影があった。
言わずもがな、“竜化”状態のティオである。
キリヲ達との戦いでかなりの体力を消耗していたティオが猛スピードで飛び続けられるのは、入間がティオに飲ませた神水と、“竜化”の派生“痛覚変換”の効果だ。この技能は痛みが酷ければ酷いほど、テンションと共に任意の能力が一時的に強化されるという酷い派生能力だ。ちなみに、入間と出会ってから数百年ぶりに手に入れたものである。“壁を越えた”というより、“扉を開いた”という表現の方が正しいだろう。入間はティオの親族に謝るべきだろう。
それから飛ぶこと数時間、ようやく前方にアンカジの姿が見えてきた。これ以上、飛行を続ければ、アンカジの監視塔からもティオの姿が見えるだろう。
「ティオ、この辺で下ろして。後はデンライナーで行くよ」
この間にネクストグランドジオウにより消耗していた体力が回復してきた入間は、
『いや、このままアンカジまで行くのじゃ』
「え?いや、竜人族の里の掟があるんじゃ……」
『構わん。今回の戦いで痛感した。この先現れる敵は、“竜化”だの掟だのを考えられる相手ではない。隠れ里は簡単には見つからんし、いざとなれば、ご主人様達が守ってくれるじゃろ?』
何でもないようにそう言うティオ。きっと、今後、入間の旅について行くなら竜化が必要な場面はいくらでもあるだろうと考えて、すっぱり割り切ることにしたのだ。
そんなティオに、入間は目元を和らげながら、ティオの首筋を優しく撫でた。
「勿論、その時になったら、君も君の家族達も守るよ。君は僕達の大事な仲間なんだから」
『フフフッ、やっぱりご主人様は優しいのじゃ。……それにしても、ご主人様に大事な人と言ってもらえるとは……ぬはぁー、たまらん!ご主人様よぉ、愛しておるのじゃー!』
「……はぁ」
そんな茶番劇をしているうちに、遂にアンカジまで数キロの位置までやって来た。見れば、監視塔の上が何やら非常に慌ただしい。勘違いで攻撃を受けても面倒なので、ティオは入場門の方へ迂回し、少し離れた場所に着地した。
と、半ば墜落する形で砂塵を巻き上げながら着地したティオのもとへ、アンカジの兵士達が隊列を組んでやってきた。見れば、壁の上にも大勢の兵士が弓や魔法陣の刻まれた杖などをもって待機している。
もうもうと巻き上がる砂埃が風にさらわれて晴れていく。兵士達が、緊張にゴクリと喉を鳴らす音が響く。しかし、砂埃が晴れた先にいるのが黒髪金眼の美女をお姫様だっこしている青髪の少年に、美青年や4人の美少女、1人の海人族の幼女だと分かると、一様に困惑したような表情となって仲間同士顔を見合わせた。
そんな、混乱する兵士達の隙間を通り抜けて、一人の青年が現れた。マゼンタのトイカメラを首に下げた茶髪に背の高い青年、門矢士だ。
後ろから危険だと兵士達や領主の息子ビィズが制止の声をかけるが、士はまるっと無視して悠然とした足取りでバビル一行のもとに歩み寄る。
「なんだ、思ったよりも遅かったな」
「……士さん、何で貴方がここにいるんですか?」
「……門矢士。貴方が……」
「何だ、俺の事を聞いていたのか。アレーティア・ガルディエ・ウェスペリティリオ・アヴァタール」
「ッ!?どうして、貴方がその名前を……!?」
士がユエを見ながら呟いた名前に、人前では無表情が多いユエは驚愕に目を見開いた。
その様子から、疲労したティオをお姫様だっこする入間が、士が告げたその名前がユエが捨てた本名だと察したところで、入間の腕の中で幸せそうな表情をしていたティオが口を開いた。
「ユエよ。お主が驚くのも分かるが、今はそれでどころではなかろう。門矢殿で宜しいか?まずは、後ろの兵達を落ち着かせて、話せる場所に案内しておくれ」
「あぁ、構わない。だが入間、お前は後で来い。話しておかなくちゃならないことがある」
「?分かりました」
士はそう言いながら背後で困惑にざわつくビィズや兵士達や駆けつけたランズィ達のもとへ戻り、事情説明をしながらバビル一行を落ち着いて話のできる場所に案内した。
「……そんなことが……」
「事実だ。その時、お前はどうするつもりだ?」
「……何も、変わりませんよ」
「ほぅ、相変わらずだな」
ランズィ達に案内された客室で、入間は紅茶で喉を潤しながら、士から教えられた情報に重々しい雰囲気を纏いながらも、士の言葉に決然とした表情で答えた。
そこで、入間は話題を変えるために、ミレディ経由で彼から渡されていたコンプリートフォーム21ライドウォッチを取り出した。
「それで、このライドウォッチ……」
「あぁ、俺のコンプリート21の力の半分はお前に託す。セイバーからガッチャードのウォッチも、お前にグランドジオウの力を昇華させる為にレジェンドに渡しておいたんだからな」
「レジェンド……?」
「何だ、覚えてないのか。まぁ、今は良い」
どうやら、このウォッチは自分に渡してくれるらしい。ありがたいと思う反面、士程の男が自分の切り札の半分を渡さなければならない程、状況は悪くなっていると言うことだろう。キリヲがバダンに与していたと知った時から何となく感じていた不安が、入間の胸に渦巻く。
そこで、入間は先にランズィ達に渡しておいた大量の静因石が粉末状にされ患者達に配られている頃だと判断し、胸の中に渦巻く不安を誤魔化すように、衰弱した人々を癒す為に立ち上がった。
その後、宮殿で領主の娘であるアイリー(十四歳)に構われているミュウとも合流した。
ミュウは海人族ではあるが、町の救世主と言っても過言ではない入間の娘(自称)である事と少し関われば分かってしまうその愛らしさに、アンカジの宮殿にいる者達はこぞってノックアウトされていたらしく、特にアイリーに至っては病み上がりで外出禁止となっている事もあり、ミュウを構い倒している様だ。
ティオが竜人族であるという事についても、ランズィ達は思うところがある様だったが、命懸けで静因石を取ってきてくれた事から公国の恩人である事に変わりはなく、そう大きな騒ぎにはならなかった。
そして入間達バビルと士は魔法やライダーの力を使って患者達を次々と癒して必要な処置を施した後、【海上の町エリセン】へと向かう事にした。
が、入間はその前に一つやり残したことがある、と言うようにランズィに話し掛けた。
「領主さん。オアシスの浄化の方は」
「入間殿、オアシスは相変わらずだ。新鮮な地下水のおかげで、少しずつ自然浄化は出来ている様だが……中々進まん。このペースだと完全に浄化されるまで少なくとも半年、土壌に染み込んだ分の浄化も考えると一年は掛かると計算されておる」
少し憂鬱そうにそう語るランズィに、入間は何でもないように口を開いた。
「それなら、僕がオアシスを浄化しましょう」
「何ッ!?マジでッ!?」
「ちょっ、落ち着いてくださいよ……」
掴みかからんばかりの勢いで口調すら崩して唾を飛ばして確認するランズィに、入間は苦笑しながら無理矢理ランズィを引き離す。取り乱したと咳払いしつつ居住まいを正したランズィは、早速浄化を頼んできた。
入間は躊躇なく頷き、バビル一行と士はランズィに先導されオアシスへと向かった。
オアシスに向かう途中、ユエがクイクイと入間の服の裾を引っ張りながら質問する。
「……入間、どうしてこの国にそこまでしてあげるの?」
「ん?う~ん……理由は特にないかな。ただ、あの傀儡王国ならともかく、死にかけてる国の人達を見捨てられないから、かもね。嫌だった?」
「……そんなことない。そんな入間だから、私達は貴方に着いていく」
ユエが愛おしそうに入間を見つめ、バビルの面々もユエの言葉に同意するように頷いた。
入間は仲間達からの視線に居心地の悪さを感じて恥ずかしそうに頬をポリポリとかきながら、入間達はオアシスに辿り着いた。
オアシスには、全くと言っていい程人気が無い。普段は憩いの場所として大勢の人々で賑わっているのだが……その事を思い出し、ランズィが無表情ながらも何処か寂しそうな雰囲気を漂わせている。
オアシスの畔に立った入間は、グランドジオウウォッチからある武器を召喚し、それを手に取った。
それは、龍の顎を模した銃剣“ドラグバイザーツバイ”。そして取り出したアドベントカードは、時計が描かれた“タイムベント”のカードだった。
これは【仮面ライダーオーディン】が所有するアドベントカードであり、オーディンのライドウォッチを持たない入間はこのカードを使うことは出来ないのだが、グランドジオウの力が進化した事で、呼び出せる武器の幅も増えている。このカードは、かつてディケイドが立ち寄った『龍騎の世界』に存在する【黒羽レン】がオーディンから奪い、その後に【辰巳シンジ】が使ったタイムベントのカードだ。
辰巳シンジと士はこのカードを使いある事件の真相を知るために過去へ飛んだが、このカードの効果は『時間を思いのままに操る』能力だ。このカードなら、オアシスの時間だけを戻すなど、容易い。
ドラグバイザーツバイに挿入されたカードの効果が発動されると、オアシスの水面に無数の時計の幻影が映し出され、その時計達の針が反時計回りに回転して行くと、淡い黄金の光がオアシスを包み込んでいく。
誰もがその光景に息をするのも忘れて見蕩れる。オアシスを覆った神秘の輝きや水面の時計の幻影が消えた後も、ランズィ達は、しばらく余韻に浸るように言葉もなく佇んでいた。
ドラグバイザーツバイをしまった入間がランズィを促す。ハッと我を取り戻したランズィは、部下に命じて水質の調査をさせた。部下の男性が慌てて検知の魔法を使いオアシスを調べる。固唾を呑んで見守るランズィ達に、検知を終えた男は信じられないといった表情でゆっくりと振り返り、ポロリとこぼすように結果を報告した。
「……戻っています」
「……もう一度言ってくれ」
ランズィの再確認の言葉に部下の男は、息を吸って、今度ははっきりと告げた。
「オアシスに異常なし!元のオアシスです!完全に浄化されています!」
その瞬間、ランズィの部下達が一斉に歓声を上げた。手に持った書類やら荷物やらを宙に放り出して互いに抱き合ったり肩を叩きあって喜びをあらわにしている。ランズィも深く息を吐きながら感じ入ったように目を瞑り天を仰いでいた。
「あとは、土壌の再生だね……領主さん、作物は全て廃棄したんですか?」
「……いや、一箇所にまとめてあるだけだ。廃棄処理にまわす人手も時間も惜しかったのでな……まさか……それも?」
「まぁ、そのくらいなら問題ありませんよ。使いなれてないタイムベントの練習に丁度良いので」
入間の言葉に、本当に土壌も作物も復活するのだと実感し、ランズィは、胸に手を当てると、人目もはばからず深々と頭を下げた。領主がすることではないが、そうせずにはいられないほどランズィの感謝の念は深かったのだ。公国への深い愛情が、そのまま感謝の念に転化したようなものだ。
ランズィからの礼を受けながら、早速、入間達は農地地帯の方へ移動しようとした。
だが、不意に感じた不穏な気配にその歩を止められる。視線を巡らせば、遠目に何やら殺気立った集団が肩で風を切りながら迫ってくる様子が見えた。アンカジ公国の兵士とは異なる装いの兵士が隊列を組んで一直線に向かってくる。入間が確認してみれば、どうやらこの町の聖教教会関係者と神殿騎士の集団のようだった。
バビル一行の傍までやって来た彼等は、すぐさま、バビルを半円状に包囲した。そして、神殿騎士達の合間から白い豪奢な法衣を来た初老の男が進み出てきた。
物騒な雰囲気に、ランズィが咄嗟に男とバビルの間に割って入る。
「ゼンゲン公……こちらへ。彼等は危険だ」
「フォルビン司教、これは一体何事か。彼等が危険?二度に渡り、我が公国を救った英雄ですぞ?彼等への無礼は、アンカジの領主として見逃せませんな」
フォルビン司教と呼ばれた初老の男は、馬鹿にするようにランズィの言葉を鼻で笑った。
「ふん、英雄?言葉を慎みたまえ。彼等は既に異端者認定を受けている。不用意な言葉は貴公自身の首を絞めることになりますぞ」
「異端者認定……だと?馬鹿な、私は何も聞いていない」
入間に対する異端者認定という言葉に、ランズィが息を呑んだ。ランズィとて、聖教教会の信者だ。その意味の重さは重々承知している。それ故に、何かの間違いでは?と信じられない思いでフォルビン司教に返した。
「当然でしょうな。今朝方、届いたばかりの知らせだ。このタイミングで異端者の方からやって来るとは……クク、何とも絶妙なタイミングだと思わんかね?きっと、神が私に告げておられるのだ。神敵を滅ぼせとな……これで私も中央に……」
最後のセリフは声が小さく聞こえなかったが、どうやら入間が異端者認定を受けたことは本当らしいと理解し、思わず、背後の入間を振り返るランズィ。
当の入間はフォルビンの最後の言葉が聞こえていたのか目を細めて彼を見ていたが、特に焦りも驚愕もなく、来るべき時が来たかと予想でもしていたように肩を竦めるのみだった。そして、次いで視線で「どうするんだ?」とランズィに問いかけた。
入間の視線を受けて眉間に皺を寄せるランズィに、如何にも調子に乗った様子のフォルビン司教がニヤニヤと嗤いながら口を開いた。
「さぁ、私は、これから神敵を討伐せねばならん。相当凶悪な男だという話だが、果たして神殿騎士百人を相手に、どこまで抗えるものか見ものですな。……さぁさぁ、ゼンゲン公よ、そこを退くのだ。よもや我ら教会と事を構える気ではないだろう?」
ランズィは瞑目する。そして、入間の力や性格、その他あらゆる情報を考察して何となく異端者認定を受けた理由を察した。自らが管理できない巨大な力を教会は許さなかったのだろうと。
しかし、バビルの力の大きさを思えば、自殺行為に等しいその決定に、魔人族と相対する前に、バビルと戦争でもする気なのかと中央上層部の者達の正気を疑った。そして、どうにもキナ臭いと思いつつ、一番重要なことに思いを巡らせた。
それは、入間達がアンカジを救ってくれたということ。毒に侵され倒れた民を癒し、生命線というべき水を用意し、オアシスに潜む怪物を討伐し、今再び戻って公国の象徴たるオアシスすら浄化してくれた。
この莫大な恩義に、どう報いるべきか頭を悩ましていたのはついさっきのことだ。ランズィは目を見開くと、ちょうどいい機会ではないかと口元に笑みを浮かべた。そして、黙り込んだランズィにイライラした様子のフォルビン司祭に領主たる威厳をもって、その鋭い眼光を真っ向からぶつけ、アンカジ公国領主の答えを叩きつけた。
「断る」
「……今、何といった?」
全く予想外の言葉に、フォルビン司教の表情が面白いほど間抜け顔になる。そんなフォルビン司教の様子に、内心、聖教教会の決定に逆らうなど有り得ないことなのだから当然だろうなと苦笑いしながら、ランズィは、揺るがぬ決意で言葉を繰り返した。
「断ると言った。彼等は救国の英雄。例え、聖教教会であろうと彼等に仇なすことは私が許さん」
「なっ、なっ、き、貴様!正気か!教会に逆らう事がどういうことかわからんわけではないだろう!異端者の烙印を押されたいのか!」
ランズィの言葉に、驚愕の余り言葉を詰まらせながら怒声をあげるフォルビン司教。周囲の神殿騎士達も困惑したように顔を見合わせている。
「フォルビン司教。中央は、彼等の偉業を知らないのではないか?彼は、この猛毒に襲われ滅亡の危機に瀕した公国を救ったのだぞ?報告によれば、勇者一行も、ウルの町も彼に救われているというではないか……そんな相手に異端者認定?その決定の方が正気とは思えんよ。故に、ランズィ・フォウワード・ゼンゲンは、この異端者認定に異議とアンカジを救ったという新たな事実を加味しての再考を申し立てる」
「だ、黙れ!決定事項だ!これは神のご意志だ!逆らうことは許されん!公よ、これ以上、その異端者を庇うのであれば、貴様も、いやアンカジそのものを異端認定することになるぞ!それでもよいのかっ!」
どこか狂的な光を瞳に宿しながら、フォルビン司教は、とても聖職者とは思えない雰囲気で喚きたてた。それを冷めた目で見つめるランズィに、いつの間にか傍らまでやって来ていた入間が、意外そうな表情で問いかける。
「……いいんですか?王国と教会の両方と事を構えることになりますよ。領主として、その判断はどうなんですかね?」
ランズィは、入間の言葉には答えず事の成り行きを見守っていた部下達に視線を向けた。入間も、誘われるように視線を向けると、二人の視線に気がついた部下達は一瞬瞑目した後、覚悟を決めたように決然とした表情を見せた。瞳はギラリと輝いている。明らかに、「殺るなら殺ったるでぇ!」という表情だ。
その意志をフォルビン司教も読み取ったようで、更に激高し顔を真っ赤にして最後の警告を突きつけた。
「いいのだな?公よ、貴様はここで終わることになるぞ。いや、貴様だけではない。貴様の部下も、それに与する者も全員終わる。神罰を受け尽く滅びるのだ」
「このアンカジに、自らを救ってくれた英雄を売るような恥知らずはいない。神罰?私が信仰する神は、そんな恥知らずをこそ裁くお方だと思っていたのだが?司教殿の信仰する神とは異なるのかね?」
ランズィの言葉に、怒りを通り越してしまったのか無表情になったフォルビン司教は、片手を上げて神殿騎士達に攻撃の合図を送ろうとした。
と、その時、ヒュ!と音を立てて何かが飛来し、一人の神殿騎士のヘルメットにカン!と音を立ててぶつかった。足元を見れば、そこにあるのは小石だった。神殿騎士には何のダメージもないが、なぜこんなものが?と首を捻る。しかし、そんな疑問も束の間、石は次々と飛来し、神殿騎士達の甲冑に音を立ててぶつかっていった。
何事かと石が飛来して来る方を見てみれば、いつの間にかアンカジの住民達が大勢集まり、神殿騎士達を包囲していた。
彼等は、オアシスから発生した神秘的な光と、慌ただしく駆けていく神殿騎士達を見て、何事かと野次馬根性で追いかけて来た人々だ。
彼等は、神殿騎士が、自分達を献身的に治療してくれた上に特効薬である“静因石”を大迷宮に挑んでまで採ってきてくれたバビルを取り囲み、それを敬愛する領主が庇っている姿を見て、「教会のやつら乱心でもしたのか!」と憤慨し、敵意もあらわに少しでも力になろうと投石を始めたのである。
「やめよ!アンカジの民よ!奴らは異端者認定を受けた神敵である!やつらの討伐は神の意志である!」
フォルビンが、殺気立つ住民達の誤解を解こうと大声で叫ぶ。彼等はまだ、バビルが異端者認定を受けていることを知らないだけで、司教たる自分が教えてやれば直ぐに静まるだろうと、フォルビンは思っていた。
実際、聖教教会司教の言葉に、住民達は困惑をあらわにして顔を見合わせ、投石の手を止めた。
そこへ、今度はランズィの言葉が、威厳と共に放たれる。
「我が愛すべき公国民達よ。聞け!彼等は、たった今、我らのオアシスを浄化してくれた!我らのオアシスが彼等の尽力で戻ってきたのだ!そして、汚染された土地も!作物も!全て浄化してくれるという!彼等は、我らのアンカジを取り戻してくれたのだ!この場で多くは語れん。故に、己の心で判断せよ!救国の英雄を、このまま殺させるか、守るか。……私は、守ることにした!」
フォルビン司教は、「そんな言葉で、教会の威光に逆らうわけがない」と嘲笑混じりの笑みをランズィに向けようとして、次の瞬間、その表情を凍てつかせた。
カンッ! カンッ! カンッ! カンッ! カンッ! カンッ! カンッ! カンッ!
住民達の意思が投石という形をもって示されたからだ。
「なっ、なっ……」
再び言葉を詰まらせたフォルビン司教に住民達の言葉が叩きつけられた。
「ふざけるな!俺達の恩人を殺らせるかよ!」
「教会は何もしてくれなかったじゃない!なのに、助けてくれたバビルの皆様を害そうなんて正気じゃないわ!」
「何が異端者だ!お前らの方がよほど異端者だろうが!」
「きっと、異端者認定なんて何かの間違いよ!」
「ミレディ様と士様を守れ!」
「領主様に続け!」
どうやら、住民達はランズィとミレディと士に深い敬愛の念を持っているらしい。信仰心を押しのけて、目の前のランズィとバビル一行を守ろうと気勢をあげた。いや、きっと信仰心自体は変わらないのだろう。ただ、自分達の信仰する神が、自分達を救ってくれたバビルを害すはずがないと信じているようだ。要するに、信仰心がフォルビン司教への信頼を上回ったということだろう。元々、信頼があったのかはわからないが……
事態を知った住民達が、続々と集まってくる。彼等一人一人の力は当然のごとく神殿騎士には全く及ばないが、際限なく湧き上がる怒りと敵意にフォルビン司教や助祭、神殿騎士達はたじろいだ様に後退った。
「司教殿、これがアンカジの意思だ。先程の申し立て……聞いてはもらえませんかな?」
「ぬっ、ぐぅ……ただで済むとは思わないことだっ」
歯軋りしながら最後にバビルを煮え滾った眼で睨みつけると、フォルビン司教は踵を返し、その後を神殿騎士達が慌てて付いていく。
しかし、このまま教会へ逃げ帰って終わりとはいかなかった。
「当事者を蚊帳の外に置くなんて、随分失礼じゃないですか?」
「!?ギャアァアアアアアアアアアッ!!!?」
その瞬間、魔術で速度を上げることで一瞬でフォルビンの目前に回り込んだ入間が、まだ消していなかったドラグブレードに変形させたドラグバイザーツバイを振り下ろした。
振り下ろされた刃は、フォルビンの右腕をまるで豆腐のように切り落とし、フォルビンは切断面から噴水のように血を噴き出しながら悲鳴を上げ、神殿騎士達が慌ててフォルビンを守るように入間の前に立つ。
「な、な、な、何をするのだ異端者よ!!貴様、自分が何をしたのか分かっているのか!!?」
「何って……貴方達、僕達を殺しに来たんでしょう?さっきも言いましたけど、当事者を放って話を終わる訳ないじゃないですか」
ヒステリック気味に喚き散らすフォルビンの声に煩わしそうに顔をしかめながら、入間は何でもないように返す。口調こそ穏やかだが、彼を見る目は路傍の排泄物を見るものと大差がない。
「そもそも、貴方がここに来たのは、神の意思じゃなくて自分の出世の為でしょう?『これで私も中央に』って、さっき言ってたじゃないですか。善良な民衆の危機を我が身可愛さで放置しておきながら、自分の出世が絡めば目敏く飛び付いて民衆を脅すような僧侶なんて、存在してるだけでも害悪でしかない。それに、僕達が原因でこの国が迷惑を被るのも気が引けますし、貴方達にはここで死んでもらいましょう」
「ふ、ふざけるなぁ!!やれえっ!!!」
入間の目に明確な殺意が宿り、その殺意に気づいたフォルビンが、錯乱気味に叫び、彼の周りを囲んでいた百人の神殿騎士達が武器に手を掛けた、その瞬間。
“ホークガトリンガー”を手にした入間が、素早くリボルマガジンを回転させて引き金を引き、鷹の形をしたオレンジの光弾が、一発も漏れることなく、神殿騎士達の頭を撃ち抜いた。
「───は?」
頭の喪った神殿騎士達がドサドサと倒れたことで、フォルビンは間抜けな声を出す。100人の神殿騎士が、一瞬で脳髄や目玉を撒き散らしながら全滅したという事実に、脳が理解を拒んでいる。
しかし、イルマがゆっくりとフォルビンに向かって歩き出したことで、彼の意識は強制的に現実に引き戻される。
首から上がなくなった神殿騎士達が撒き散らした目玉や脳髄を踏み、血で出来た池をビチャビチャと生々しい音を響かせながら、歩み寄るその姿は、まさしく『悪魔』と呼ぶに相応しい威圧感を持っいた。
「僕達がウルの町で五万の魔物を全滅させたって事、知らなかったんですか?100人なんて、準備運動にもならない。これの一億倍は集めないと、トータス人が僕達を討ち取るなんて夢のまた夢ですよ?」
「あ……あ……」
優しげな、しかし絶対零度よりも冷えきった目をした入間に、右腕がなくなっていたフォルビンはその場で尻餅をつき、失禁すると言う無様を晒す。
そんなフォルビンに心底汚いものを見るような目を向けながら、入間はドラグバイザーツバイの剣の先を突き付けた。
「それじゃあ、もう貴方に用はないので。さようなら」
「まっ、待って──」
命乞いにも耳を貸さず、入間はフォルビンの首を撥ね飛ばす。同時に、ドラグバイザーツバイに連続でカードを挿入すると、【ドラグランザー】【ダークウイング】【マグナギガ】【ボルキャンサー】【ベノスネーカー】【メタルゲラス】【エビルダイバー】が現れ、フォルビンや神殿騎士達の亡骸を補食する。
ゴミを始末した事を確認した入間は、ドラグバイザーツバイを手にしたままランズィに顔を向けた。
「すみませんね。何だか妙な事になっちゃって」
「なに、これは“アンカジの意思”だ。この公国に住む者で貴殿等に感謝していない者などおらん。そんな相手を、一方的な理由で殺させたとあっては……それこそ、私の方が“アンカジの意思”に殺されてしまうだろう。愛すべき国でクーデターなど考えたくもないぞ」
「まぁ、仮に教会が僕達と全面戦争をするとしても、僕達なら一時間も掛けずに壊滅させられますがね」
ランズィの言葉に、頬を掻きながら入間がそう言うと、ランズィは我が意を得たりと笑った。
「そうだろうな。つまり君達は、教会よりも怖い存在ということだ。救国の英雄だからというのもあるがね、半分は、君達を敵に回さないためだ。信じられないような魔法をいくつも使い、未知の化け物をいとも簡単に屠り、大迷宮すらたった数日で攻略して戻ってくる。教会の威光をそよ風のように受け流し、百人の神殿騎士を歯牙にもかけない。万群を正面から叩き潰し、勇者すら追い詰めた魔物を瞬殺したという報告も入っている……いや、実に恐ろしい。父から領主を継いで結構な年月が経つが、その中でも一、二を争う英断だったと自負しているよ」
入間としてはランズィが自分達を教会に引き渡したとしても敵対認定するつもりはなかったのだが、ランズィは万一の可能性も考えて、教会とバビルを天秤にかけ後者をとったのだろう。確かに、国のためとは言え、教会の威光に逆らう行為なのだ。英断と言っても過言ではないだろう。
入間は、覚悟していた教会の異端認定とその結果の衝突が予想以上に穏やかに終わったことに、何とも言えない曖昧な笑みを浮かべた。そして、入間の惨殺に引きつつもわらわらと自分達の安否を気遣って集まってくるアンカジの人々と、それにオロオロしつつも嬉しそうに笑うユエ達を見て、これも愛子が言っていた“寂しい生き方”をしなかった結果なのかと、そんなことを思い、士はそんな光景を首に下げたカメラで撮影するのだった。
教会との騒動から三日。
用件を終えた士がオーロラカーテンを用いてこの世界を後にし、農作地帯と作物の汚染を浄化したバビル一行は、輝きを取り戻したオアシスを少し高台にある場所から眺めていた。
視線の先、キラキラと輝く湖面の周りには、笑顔と活気を取り戻した多くの人々が集っている。湖畔の草地に寝そべり、水際ではしゃぐ子供を見守る夫婦、桟橋から釣り糸を垂らす少年達、湖面に浮かべたボートで愛を語らい合う恋人達。訪れている人達は様々だが、皆一様に、笑顔で満ち満ちていた。
バビルは今日、アンカジを発つ。当初は汚染場所の再生さえすれば、特産のフルーツでも買ってミュウを母親のもとに送り返すためにエリセンと出発するつもりだったのだが、領主一家や領主館の人々、そしてアンカジの住民達に何かと引き止められて、結局、余分に二日も過ごしてしまった。
アンカジにおけるバビルへの歓迎ぶりは凄まじく、放っておけば出発時に見送りパレードまでしそうな勢いだったので、ランズィに頼んで何とか抑えてもらったほどだ。見送りは領主館で終わらせてもらい、バビルは自分達だけで門近くまで来て、最後にオアシスを眺めているのである。
「なぁ、そろそろ目立つから、着替えるか、せめて上から何か羽織ってくれないかな?ミュウの教育に悪いから」
「パパ、何でミュウはユエお姉ちゃん達を見ちゃダメなの?」
「ミュウ、お前走る必要はないぞ」
入間はそろそろ門に向かおうと踵を返しつつ傍にいるユエ達にそんなことを言い、アスモデウスに目を隠されているミュウが首をかしげた。
「……ん?飽きた?」
「え~?結局一回も襲ってきてくれなかったじゃん。イルくんの意気地無し~」
「ば、バカな事を言うお前達!!」
「そうじゃぞ、ユエ、ミレディよ。単に目立たぬようにという事じゃろう」
「まぁ、門を通るのにこの格好はないですからね~」
シアがその場でくるりと華麗にターンを決めながら『この格好』と言ったのは、いわゆるベリーダンスで着るような衣装だった。チョリ・トップスを着てへそ出し、下はハーレムパンツやヤードスカートだ。非常に扇情的で、ちっちゃなおへそが眩しい。この衣装を着て踊られたりしたら目が釘付けになること請け合いだ。
アンカジにおけるドレス衣装らしい。領主の奥方からプレゼントされたユエ達がこれを着て入間とアスモデウスに披露したとき、二人は顔を真っ赤にしてサッと目を反らした。色々な戦いを積んでいるとは言え、年齢的にはまだ思春期の男子くらいなので、仕方ないだろう。
今まで、碌な反応をしてこなかった入間である。味をしめたユエ達は、基本的に一日中その格好で入間に侍り、入間の理性を崩壊させるような衣装で魅惑的に迫った。当然、ミュウの教育に悪すぎるためミュウの相手は終始アスモデウスが勤めていた。
「……胃が痛い」
「……イルマ様、お気を確かに」
「んみゅ?パパ、大丈夫なの?」
結局、出発間際の今になっても、全員、エロティックな衣装のままなのである。どこか疲れた表情をして痛くなる腹を抑えた入間は、アスモデウスとミュウに慰められながら、どうやって彼女達に普通の服を着させようか悩みながら門に向かうのだった。
海上に浮かぶ大きな町【エリセン】。
ミュウの仲間である海人族がハイリヒ王国の兵士達に管理されている町並を、暢気に歌を歌いながら闊歩する、黄緑色の髪にヤギのような角を持つ少女がいた。
「びゅんびゅんびゅーん♪ぎゃおーぎゃおー♪今日は何して遊ぼっかな?」
少女は陽気な歌を歌いながら、海人族の人混みのなかに消えていく。そんなエリセンの外れに、銀色のオーロラが出現し、そこから三人の人間が姿を表した。
黒で統一された衣服に、顔にタトゥーのような奇妙な模様を持った三人組は、エリセンの町を見渡した。
「……どうやら、ここがレジェンドと共にバダンの刺客を倒したもう一人の仮面ライダージオウがいる世界のようですね。トータス…と呼ばれているらしいです」
黒いコートを羽織り、銀縁のメガネをかけた青年が最初に口を開く。
「調べた限りだと、この世界には人間以外にも見たことのない人種がいるらしいわ……フフフッ、この世界の人間達の悲鳴を聞くのが、今から楽しみね♡」
妖艶な雰囲気を纏う黒髪の美女が、遠くに位置するエリセンを見え、艶やかな仕草で髪をいじりながら不気味に笑う。
「お前の趣味はどうでも良い。我等の手によって、この世界は終焉を向かえるのだからな……」
黒髪黒目の無表情の少年が呟くと同時に、三人はエリセンの町を目指して歩きだした。
次回から新章突入となります。いつ投稿になるかは作者自信にも分かりませんが、どうか気長にお待ちください。
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