五十層にてサイクロプスを倒した先で入間とアリクレッド見つけたものは、小さな女の子だった
上半身から下と両手を立方体の中に埋めたまま顔だけが出ており、長い金髪が某ホラー映画の女幽霊の様に垂れ下がっており、その隙間から紅の瞳が覗いている。年は12、3歳位だろう。随分窶れて垂れ下がった髪で分かりづらいが、それでも美しい容姿をしている事が分かる。
その少女は頭を巡らして入間を見ると、掠れた声で必死に助けを乞う。
「…お願…い……助けて…」
その言葉を聞き、彼女の視覚に入らない角度に移動していたアリクレッドは“
「怪しすぎるぜ、ここは誰も到達した事がない階層だし、封印されてんなら相当な危険物って事もありえる。放置してさっさと行こうぜイルぼ…」
「大丈夫ですか~」
明らかに危険だから放置しようと言うアリクレッドの言葉を聞かず、入間は既に少女を封印している立方体に歩み寄っていた。
思わず、アリクレッドは入間の頭をベチンッと叩く。
「危険だって言ってんでしょ。罠だとしたらどーすんのよ」
「でっ、でもねっ。“危険”って感じはしなくて…それに、助けてって言ってたから…」
入間も同様に“盗聴防止”を使って話す。
「あと、一人より二人の方が…」
「は~もう!分かった!分かった!ほんっとお人好しだね~」
いつかの収穫祭の時と同じ様に、呆れたような声を出しながら指輪の中に戻っていくアリクレッドに苦笑いしつつも、入間はジカンギレードに“ファイズライドウォッチ”を装填し、“フォトンブラッド”を纏わせたジカンギレードで立方体を一閃した。
直後、少女の周りの立方体が青い炎に包まれたかと思うと、直ぐに灰となって崩れていき、彼女の枷を一瞬で解いていく。
それなりに膨らんだ胸部が露わになり、次いで腰、両腕、太腿が露出する。一糸纏わぬ彼女の裸体は痩せ衰えていたが、それでもどこか神秘性を感じさせる程美しかった。そのまま体の全てが解き放たれ、少女は立ち上がる力がないのか地面にペタリと女の子座りで座り込んだ。
入間は少女を立ち上がらせようと手を伸ばす。その手を女の子がギュッと握った。弱々しい、力の無い手だ。小さくて、ふるふると震えている。
入間が視線を向けると少女は無表情だが、その紅の瞳に溢れんばかりの感謝の気持ちを宿して入間を真っ直ぐに見つめていた。
そして、震える声で小さく、しかしはっきりと女の子は告げる。
「……ありがとう」
繋がった手はギュッと握られたままだ。いったいどれだけの間、ここにいたのだろうか。話している間も彼女の表情は動かなかった。それはつまり、声の出し方、表情の出し方を忘れる程長い間、たった一人この暗闇で孤独な時間を過ごしたという事だ。
しかも、話しぶりからして信頼していた相手に裏切られて。よく発狂しなかったものである。
取り敢えず、助ける事は出来たのだから、入間は彼女に質問をすることにする。
「…解放された直ぐで悪いけど、ちょっと質問に答えて貰うよ。君は何者?それに、なんでここに封印されてたの?」
「私、先祖返りの吸血鬼……凄い力持ってる、……だから国の皆の為に頑張った。でも……ある日……家臣の皆……お前はもう必要ないって。……叔父様、……これからは自分が王だって……。私……それでもよかった……でも、私、凄い力あるから危険だって……殺せないから……封印するって……それで、ここに……」
吸血鬼という言葉を聞いて、入間はこの世界で読んだ文献にあった種族を思い出す。だが入間の記憶が確かなら、吸血鬼族は300年近く前に滅んだとされている。
「殺せないっていうのは?」
「……勝手に治る。怪我しても直ぐ治る。首落とされてもその内に治る」
「“凄い力”って、それ?」
「これもだけど……魔力、直接操れる……陣もいらない」
そこまで聞いて、入間は成る程と頷いた。彼女の話が事実なら、彼女は不死身な上に、詠唱も魔法陣も使わずに魔法が使えるという、“
「……名前、なに?」
今度は少女が入間に質問する。そういえばお互い名乗っていなかった事を思いだした入間は名乗りつつ、少女にも訊き返した。
「鈴木入間。君は?」
少女は「入間、入間」と、さも大事なものを内に刻み込む様に繰り返し呟いた。そして問われた名前を答えようとして、思い直した様に入間にお願いをした。
「……名前、付けて」
「…名前が思い出せないの?」
こんな暗闇に永い間封印されていたのだ。記憶障害を起こしても不思議ではないと思う入間だったが、少女はふるふると首を振る。
「もう、前の名前はいらない。……入間の付けた名前がいい」
それを聞いた入間は、この少女は新しい自分へと変わるための一歩として新しい名前が欲しいのだと悟った。
「……先に断っておくけど、君が名前を変えたところで、過去は変わらない。君は君だ。それでもいいの?」
「……うん」
その言葉を聞いた上で、少女は期待する様な目で入間を見ている。入間は仕方ないというようにカリカリと頬を掻くと少し考える素振りを見せて、彼女の新しい名前を告げた。
「【ユエ】っていうのはどう?ネーミングセンスなんて無いから気に入らないならまた考えるけど……」
「ユエ?……ユエ、ユエ」
「あぁ。ユエっていうのは、僕の生まれ地域で“月”の事をそう呼ぶらしいんだよ。最初、この部屋に入った時に君の金髪や紅い眼が月のみたいに見えたから、……どう?」
思いの外きちんとした理由がある事に驚いたのか、少女がパチパチと瞬きする。そして、相変わらず無表情ではあるが、どことなく嬉しそうに瞳を輝かせた。
「……んっ。今日からユエ。ありがとう」
「どういたしま……ッ!?」
「?」
礼を言う少女改めユエだったが、入間は突然、何かに気付いたように握っていた手を解き、茹でダコのように顔を真っ赤にして自分の上着を脱ぐと、顔を全力でそらしながらユエに上着を被せた。
「と、ととと取り敢えずこれを着て。……その…なんというか…」
「……」
そう言われて差し出された服を反射的に受け取りながら自分を見下ろすユエ。確かに、大事な所とか丸見えである。ユエは一瞬で真っ赤になると入間の上着をギュッと抱き寄せ上目遣いでポツリと呟いた。
「入間のエッチ」
「見てない!見てないから!」
その瞬間、爆発したように更に赤くなりながら必死に否定するが、大抵それは見てしまった奴の常套句だとユエが言おうとした瞬間──入間に抱き抱えられた。
「…っ!入間…!?」
驚愕するユエを抱えたまま、入間はその場から飛び退いた。
続いて、直前までいた場所にズドンッと地響きを立てながら一体の魔物が姿を現した。
その魔物は体長5m程、四本の長い腕に巨大な鋏を持った蠍だ。そして二本の尻尾の先端には鋭い針がついており、毒持ちと考えた方が賢明だ。
目の前の蠍はつい数瞬前まで、入間の“勘”に引っ掛からなかった。という事は少なくとも、この蠍擬きはユエの封印を解いた後に出てきたという事だ。つまり、ユエを逃がさない為の最後の仕掛けなのだろう。
入間は腕の中のユエをチラリと見る。彼女は、蠍擬きになど目もくれず一心に入間を見ていた。凪いだ水面の様に静かな、覚悟を決めた瞳。その瞳が何よりも雄弁に彼女の意思を伝えていた。ユエは自分の運命を入間に委ねたのだ。
その瞳を見た瞬間、入間の腹は決まった。
酷い裏切りを受けたこの少女が、今一度、その身を託すというのだ。これに答えられなければ男が廃る。
「ユエ、すこし待ってて。直ぐに終わらせる」
そう言うと、入間は魔力を込めた右手でユエの頭に触れた。すると、ユエは衰え切った体に活力が戻ってくる感覚を覚え、驚いた様に目を見開いた。魔法陣や詠唱を使用ない、未知の魔法だ。つまり入間が自分と同じく、魔力を直接操作する術を持っているという事にユエは気がついたのである。
自分と同じ、そして何故かこの奈落にいる。ユエはそんな場合ではないと分かっていながら、蠍擬きよりも入間を意識せずにはいられなかった。
一方、蠍擬きに立ちはだかった入間はジオウウォッチと、今までのウォッチとは形状が異なるマゼンタのウォッチ──“ディケイドライドウォッチ”を取り出し、ライドオンスターターを押した。
ライドウォッチをジクウドライバーに装填し、ベルトを回転させる。
「変身!!」
ジオウに変身した入間の周りに、ジオウのライダーズクレストが描かれたカードが周囲に現れ、それぞれがアーマーの一部を装備したジオウの幻影に変化し、それらが重なって装着される。
までのライダーアーマーと違い、全身がそのままディケイドを模したマゼンタと銀のアーマーに覆われている。
顔面はモニターのように平たくなっており、複眼が『ディケイド』の文字になったディケイドの顔が表示され、右肩にもバーコード状の『ディケイド』の文字があり、胸部から左肩にかけてバーコードが刻まれている。
世界の破壊者、ディケイドの力を受け継いだ姿、【仮面ライダージオウ・ディケイドアーマー】だ!
「姿が…!!」
驚愕するユエを尻目に、ジオウは専用武器“ライドヘイセイバー”を装備し、ジカンギレードの二刀流で蠍擬きの体を切り着けるが、外骨格を傷付けただけで切断には至らず、ジオウは仮面の下で片眉を上げた。
しかし、問題はない。固いならドーピングすればいいだけだ。ジオウはライドヘイセイバーの針を動かす。
ジオウの背後に、目玉を模したオレンジの紋章が現れ、それがヘイセイバーに吸い込まれると、ジオウはオレンジの光を纏ったヘイセイバーを一閃させる。強化された斬撃は、強靭な蠍擬きの外骨格でも防ぎきれず、蠍擬きの腕が一本切断された。
「キシャァアアアアアッ!」
腕を切断された蠍擬きは痛みにのたうち回るが、やがてジオウに激しい怒りを抱き、片方の鋏と尾を振り上げてジオウに突撃する。
しかし、そんなお粗末な攻撃を難なくかわしたジオウはヘイセイバーの針を動かし、ジカンギレードに“プトティラコンボライドウォッチ”を装填する。
「セイヤァアアアアアッ!!」
「ギィヤァアアアアアアアアアアアアア!!!」
空間を切り裂く白銀の一閃が腕を切り裂き、圧倒的な破壊力を誇る紫の斬撃が二本の尾を粉々に破壊する。自慢の武器を全て破壊された蠍擬きは、血液を撒き散らしながら地面を転がり回る。
頃合いを見計らったジオウは、ヘイセイバーにディケイドライドウォッチを装填し、針を3周回転させる。
「ハァアァアアアアアアッ!!!」
音声と共に、ジオウは『ヘイセイ』の文字とライダーズクレストが描かれた20枚のカード型エネルギーを纏ったヘイセイバーで蠍擬きを切り裂く。
流石の蠍擬きもこれには敵わず、自慢の鎧を粉々に破壊され、断末魔の悲鳴を上げながら爆発した。
そして、それを見ていたユエは、ジオウの必殺技に率直な感想を述べた。
「……うるさい」
それが聞こえていたジオウは苦笑いしつつも変身を解除して振り返る。ついでに軽く手を振ると、無表情ながらどことなく嬉しそうな眼差しで女の子座りしながら入間を見つめているユエがいた。
迷宮攻略がいつ終わるのか分からないが、どうやら可愛らしい同行者ができたらしい。
パンドラの箱には厄災と一握りの希望が入っていたという。この部屋に入る前に出したその例えは、中々どうして的を射ていたらしい。そんな事を思いながら、入間はゆっくりとユエのもとへ歩き出した。
その後、入間はユエと共に次の階層を歩いていた。別に背負っていってもよかったのだが、長い封印で体力が衰えているユエのリハビリに丁度いいかと思い歩かせる事にしたのだ。
そんな訳で現在入間達は攻略を進めながら、偶に出会う魔物を片手間で倒しつつお互いの事を話し合っていた。
「そうすると、ユエは少なくとも300歳以上って事?」
「……マナー違反」
ユエが非難を込めたジト目で入間を見る。女性に年齢の話はどの世界でもタブーらしい。
入間の記憶では、300年前の大規模な戦争の折に吸血鬼族は滅んだとされていた筈だ。実際、ユエも長年物音一つしない暗闇に居た為時間の感覚は殆ど無いそうだが、それ位経っていてもおかしくないと思える程には長い間封印されていたという。20歳の時に封印されたというから300歳ちょいという事だ。
「吸血鬼は、皆そのくらいの寿命なの?」
「……私が特別。“再生”で歳もとらない……」
聞けば12歳の時、魔力の直接操作や“自動再生”の固有魔法に目覚めてから歳をとっていないらしい。普通の吸血鬼族も血を吸う事で他の種族より長く生きるらしいが、それでも200年位が限度なのだそうだ
ユエは先祖返りで力に目覚めてから僅か数年で当時最強の一角に数えられていたそうで、17歳の時に吸血鬼族の王位に就いたという。しかも、ほぼ不死身の肉体。行き着く先は“神”か“化物”のどちらかがセオリーだ。ユエは後者だったという事だ。
欲に目が眩んだ叔父がユエを化け物として周囲に浸透させ、大義名分の下殺そうとしたが“自動再生”により殺しきれず、止むを得ずあの地下に封印したのだという。
ユエ自身、当時は突然の裏切りにショックを受けて碌に反撃もせず混乱したままなんらかの封印術を掛けられ、気がつけばあの封印部屋にいたらく、あの蠍擬きや封印の方法、どうやって奈落に連れられたのか分からないそうだ。
ユエの力についても話を聞いた。それによると、ユエは全属性に適性があるらしい。多分そうだろうと思っていた入間は特に驚きもせず返す。また、本人曰く接近戦は苦手らしく、一人だと身体強化で逃げ回りながら魔法を連射する位が関の山なのだそうだ。尤も、その魔法が強力無比なのだから大したハンデになっていないのだが。
因みに無詠唱で魔法を発動できるそうだが、癖で術名だけは呟いてしまうらしい。イメージを明確にする為になんらかの言動を加える者は少なくないので、この辺はユエも例に漏れない様だ。そこは魔界とは違うらしい。
“自動再生”については、一種の固有魔法に分類出来るらしく、魔力が残存している間は一瞬で塵にでもされない限り死なないそうだ。逆に言えば、魔力が枯渇した状態で受けた傷は治らないという事。つまりあの時、長年の封印で魔力が枯渇していたユエは、蠍擬きの攻撃を受けていればあっさり死んでいたという事だ。
「そういえば、ユエはここがどの辺りか分かる?」
「……わからない。でも……」
ユエにもここが迷宮のどの辺なのかはわからないらしい。申し訳なさそうにしながら、何か知っている事があるのか話を続ける。
「……この迷宮は反逆者の一人が作ったと言われてる」
「反逆者?」
この世界に来てから初めて耳にする言葉な上に、そこはかとなく不穏な響きにユエに視線を転じる入間。ユエも合わせて視線を上げると、コクリと頷き続きを話し出した。
「反逆者……神代に神に挑んだ神の眷属の事。……世界を滅ぼそうとしたと伝わってる」
ユエ曰く、神代に神に反逆し世界を滅ぼそうと画策した七人の眷属がいたそうだ。しかしその目論見は破られ、彼等は世界の果てに逃走した。
その果てというのが、現在の七大迷宮といわれているらしい。この【オルクス大迷宮】もその一つで、奈落の底の最深部には反逆者の住まう場所があると言われているのだとか。
「……そこなら、地上への道があるかも……」
「成程。奈落の底から一々迷宮を上がってくるとは思えない。神代の魔法使いなら転移系の魔法で地上とのルートを作っていてもおかしくはない、か…」
ユエの言葉に納得した様に返事しつつ、飛び掛かって来た魔物を見向きもせず“風刃”で真っ二つにする入間。ユエはそれをジーっと見ている。
「……そんなに驚く?」
口には出さずコクコクと頷くと、今度はユエが入間に質問し出した。
「……入間、どうしてここにいる?」
当然の疑問だろう。ここは奈落の底、正真正銘の魔境だ。魔物以外の生き物がいていい場所ではない。
ユエには他にも沢山聞きたい事があった。何故魔力を直接操れるのか、何故固有魔法らしき魔法を複数扱えるのか、あの鎧は何なのか。
入間はポツリポツリと、しかし途切れる事無く続く質問に律儀に答えていく。面倒そうな素振りも見せず話に付き合っている。
自身の来歴や仮面ライダーの歴史、この世界が何かの干渉を受けて時空が歪み、その歪みが原因で他の世界に影響が出始めた事、何故か入間がこの世界に召喚され、同時に召喚された学生達のクラスメイトという“役割”が与えられて、クラスメイトから無能と呼ばれていた事、ベヒモスとの戦いでストーカー女のせいで余計な恨みを抱かれた生徒の一人に狙われ奈落に落ちた事等、今に至るまでの事をツラツラと話す。
「……入間、帰るの?」
「ん?まあね。黒幕を倒したらこの世界に用はないからね」
入間がそう言った途端、ユエは沈んだ表情で顔を俯かせる。そして、ポツリと呟いた。
「……私にはもう、帰る場所……ない……」
その言葉に、入間は足を止めた。
ユエが自分に新たな居場所を見ているという事は察していた。新しい名前を求めたのもそういう事だろう。だからこそ、入間が元の世界に戻るという事は、再び居場所を失うという事だとユエは悲しんでいるのだろう。
「…それで、ユエはこれからどうするの?」
「え?」
「僕はこの奈落から出たら、黒幕を倒すために旅をする。多分、それは過酷な道だ。それに君を巻き込みたくはないからね……ここから出たらどうするのか、君自身が選ぶべきじゃないかってね」
入間の言葉に、ユエは目を見開いた。
入間は、ユエに選択をさせているのだ。この場で『一緒に行こう』と言うのは容易い。だがそうしてしまえば、これから待ち受ける
だからこそ、ユエ自身の意思を尊重するために、入間は問い掛けるのだ。地獄を選んででも自分についてくるのか、平穏を求めて旅をするのか。
「わ、私…は……」
言葉を出そうとするも、上手く声が出せずに言い淀むが、やがてユエは胸の前で腕を組み、口を開いた。
「……私は、入間と一緒に行きたい……!!」
目に涙を溜めながら声を絞り出すユエを、入間はしばらく見つめた後、ユエと目線を合わせて問い掛ける。
「…しつこいようだけど、僕も君を守りきれる余裕なんて無いかもしれないし、後悔するかもしれないよ?」
「……関係ない。私は不死身、後悔なんてしない…!」
無表情ながらも、揺るがぬ強い意思を宿した瞳で入間を見返すユエに、入間は呆れたように、しかしどこか観念したような溜め息を吐いた。
「……なら、ついてきてもいいよ。けど、相応の苦難は覚悟して貰うからね」
「……ん!」
その言葉に、ユエは今までの無表情が嘘のように、ふわりと花が咲いたように微笑んだ。
(……あれ?)
…そのユエの笑顔に、入間の胸が一瞬だけ高鳴った事など、入間もユエも知らぬことだった。
因みにその後、寛げるスペースを見つけた入間がトレント擬きから剥ぎ取った果実で食事にしようとした時、吸血鬼であるユエに扇情的に迫られながら血を吸われたのは余談である。
ユエとの邂逅終了です。
次回は迷宮攻略の再開です。
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