悪魔の孫は時の王者となって世界最強   作:MTHR

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 今年度最後の投稿にして、第六章クライマックスです。
 前回のダークディケイドの話から数日後の設定です。前回のラストに登場したダークディケイドの変身者は、pixivでリクエストを受けて執筆している小説に登場するキャラクターで、2025年にpixivでコラボエピソードを掲載する予定です。

 それでは皆様、良いお年を!!


68話 娘との約束

「パパー!朝なのー!起きるのー!」

 

 海上の町エリセンの一角、とある家の二階で幼子の声が響き渡る。時刻は、そろそろ早朝を過ぎて、日の温かみを感じ始める頃だ。窓から、本日もいい天気になることを予報するように、朝日が燦々と差し込んでいる。

 

ドスンッ!

 

「んぅ~?」

 

 そんな朝日に照らされるベッドで爆睡しているのは入間だ。そして、そんな入間をパパと呼び、元気な声で起こしに来たのはミュウである。

 ミュウは、ベッドの直前で重さを感じさせない見事な跳躍を決めると、そのままパパたる入間の腹の上に十点満点の着地を決めた。もちろん、足からではない。馬乗りになる形でだ。

 

 まだ四歳の幼子とはいえ、その体重は既に十五、六キロくらいはある。そんな重量が勢い付けて腹部に飛び乗れば、普通の人は呻き声の一つでも出そうなものだが、当然、入間は何の痛痒も感じていない。ただ、強制的に起こされたせいで眠たげな呻き声は出たが。

 

「パパ、起きるの。朝なの。おはようなの」

「ふぁ……おはよう、ミュウ。朝から元気だね」

 

 入間が起きたことが嬉しいのか、ニコニコと笑みをこぼしながら、ミュウはその小さなモミジのような手で入間の頬をペチペチと叩く。

 入間は朝の挨拶をしながら上半身を起こしミュウを抱っこすると、優しくそのエメラルドグリーンの髪を梳いてやった。気持ちよさそうに目を細めるミュウに、入間の頬も緩む。何処からどう見ても親子だった。

 

「……ん……あぅ……入間?ミュウ?」

 

 そんなほのぼのした空気の中に、突如、どこか艶めかしさを感じさせる声音が響いた。入間がそちらに目を向けて少しシーツを捲ると、そこには猫のように丸めた手の甲で目元をコシコシと擦る眠たげな美少女…ユエの姿。

 寝起きなのに寝癖など全くないウェーブのかかった長い金髪を、窓から差し込む朝日でキラキラと輝かせて、レッドスピネルの如き紅の瞳をシパシパとさせている。

 美しさと妖艶さを感じさせるユエの姿に、入間はミュウを抱っこした状態のまま、ユエの頭に手をおき、彼女を自信のもとに引き寄せながら…

 

…チュッ

 

「おはよう、ユエ」

「……ふふっ。おはよう、入間♡」

 

 ユエの額に軽く振れる程度のキスを落とす入間に、ユエは入間の腕を抱き締める。本当は胸の中に飛び込みたいが、今入間の胸の中には小さな先客がいるので我慢する。

 

「あ~!ユエお姉ちゃんズルいの!ミュウもパパとちゅうするの~!」

「わっ!?ミュウ、そういうのはまだちょっと……」

 

 熱々な2人の様子を目の前で見て羨ましくなったのか、タコさんのようになった唇を入間の顔に近付けてくるミュウを、入間は必死になって止めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 入間達が、トータスとも違う異世界【ミッドチルダ】で、平行世界線上のもう一組のイルマ軍と、彼らと共にミッドチルダを含めたあらゆる世界を守る組織に所属する魔導師達と共に“絶望を好む悪魔”の恐ろしい陰謀を阻止し、すったもんだの末にトータスへと戻ってきたイルマ達は、ずっとレミアとミュウの家に世話になっている。

 優花の情報で、愛子が教会に潜むエヒトとバダンの刺客に連れ去られたという事で、一刻も早く旅立たねばならないのだが、そうなるとミュウを悲しませる結果になると、入間はなかなか出発を言い出せなかった。

 

「それでも、いい加減出発しないとな……はぁ、ミュウに何て言うべきか……泣かれるかな。泣くよね……はぁ、憂鬱だなぁ」

 

 入間は桟橋に腰掛けて、ミッドチルダで手元に戻ってきたガッチャードライドウォッチの手入れをし、憂鬱そうに独り言を呟く。奈落から出たばかりの頃は、この世界の全てをどうでもいいと思っていたのに、今や、幼子とのお別れ一つに頭を悩ませている。そんな現状に、内心、複雑な思いを抱く。

 

「恨むぞ、先生……」

 

 この世界の一切合切を切り捨てて、ただ目的のためあらゆる犠牲を厭わないという考えが出来なくなったことに、そんな考えを持つに至ったきっかけたる恩師を思い出して悪態をつく入間。しかし、視線の先に、ユエとシア、アメリ、ティオ、ミレディ、アスモデウス、クララ、そして彼女達と水中鬼ごっこをして戯れるミュウの溢れる笑顔を見て、言葉とは裏腹に顔には笑みが浮かんでいた。

 

 自分には関係ないと、あの時、ミュウを見捨てていれば、あるいはアンカジを放置していれば、そしてレミアを放って置けば、さっさとミュウと別れていれば……きっと、彼女達にあの極上の笑顔はなかっただろう。

 

 例え切り捨てていても、ユエ達は不幸だと感じるわけでも笑顔が無くなるわけでもないだろうが、今浮かべるそれとは比べるべくもないのではないだろうか。それはきっと、ここまでの入間のあり方が“寂しい生き方”ではなかったからに違いない。

 

「鈴木……ごめんね。私達の問題なのに、そのせいでアンタを悩ませて……」

 

 海人族の特性を十全に発揮して、チートの権化達から華麗に逃げ回る変則的な鬼ごっこ(ミュウ以外全員鬼役)を全力で楽しんでいるミュウを見ながら、再び、溜息を吐く入間に、黒のビキニを着た優花が隣に座り込んだ。

 

「……別に、君が気にすることじゃないよ。寧ろ、こうしてダラダラしてる方が不味いんだし」

「そうかもしれないけど……元はと言えば、私が愛ちゃんの護衛の仕事、何もしてないのが原因だし」

 

 優花はそう言いながら肩を落とす。ウルの町で、入間に助けられた恩に報いると宣言したのに、結局は入間に頼るしかない自分達の情けなさや、そのせいでこうしてミュウの笑顔が曇る原因になってしまった事に、申し訳なさで一杯だった。

 だが、入間も近い内に旅立たねばならないと考えていたし、愛子が誘拐された根本的な原因は入間自身にあるのだから、護衛の仕事を全うしようとした優花にそう言う表情をされるのは気が引けた。

 話を切り替える意味を込めて、入間は“宝物庫”から大きめのアタッシュケースを取り出し、優花に手渡した。

 

「取り敢えず、今の内にこれを渡しとくよ」

「何よ、これ?」

 

 優花は受け取ったアタッシュケースを膝に乗せ、指紋認証型のそのアタッシュケースのロックを外し、蓋を開けて中にはいっている物を目にした。

 

 それは、クッションの上に乗せられた、右手側に赤いスロットが取り付けられたバックルと、『E』というイニシャルが刻まれた白いUSBメモリ。蓋裏には、綺麗に整頓された25本の色とりどりのUSBメモリが納められていた。

 

「これって……!?」

「“ロストドライバー”に、“T2ガイアメモリ”26本だよ。君の体に合うように調整したから、多少なりとも君も戦えるようになるはずだよ」

 

 目を見開く優花に、入間は簡単に説明をする。

 優花から愛子が拐われた件を聞いてから、入間は愛子を取り戻したあと、彼女の今後の扱いを何となく考えていたが、その一つが『護衛の強化』である。

 神がわざわざ愛子を狙ったのなら、これからもエヒトは入間の関係者を狙う可能性がある。一時的に愛子を取り返しても、また拐われるのがオチだ。だからこそ、愛子の身の回りを固めておく必要があったのだが、そこで入間はこのベルトとメモリを生成し、優花に手渡す手段を選んだのだ。

 優花は、未だに嫌悪感しか抱いていない入間が異世界召喚組の中でも数少ない、入間が信頼を置いている人物であり、エヒト神の刺客と思われる銀髪の女にも立ち向かえる勇敢な心の持ち主だ。故に入間は、貴重なライダーの力を手渡せるくらいには彼女を信頼していた。

 勿論、愛子に限らず、エヒトに狙われる可能性がある“入間の関係者”はミュウとレミアも含まれるので、彼女達も外道達の魔の手から守る手段も考えている。

 

「ありがと……」

「……言っておくけど、それを手にしたから強くなれるなんて勘違いはしない方がいいよ」

 

 その時、桟橋から投げ出した両足の間から、突然、人影がザバッと音を立てて現れた。海中から水を滴らせて現れたのは、ミュウの母親であるレミアだ。

 

 レミアは、エメラルドグリーンの長い髪を背中で一本の緩い三つ編みにしており、ライトグリーンの結構際どいビキニを身に付けている。ミュウと再会した当初は、相当やつれていたのだが、現在は、再生魔法という反則級の回復効果により以前の健康体を完全に取り戻しており、一児の母とは思えない、いや、そうであるが故の色気を纏っている。

 町の男連中がこぞって彼女の再婚相手を狙っていたり、母子セットで妙なファンクラブがあるのも頷けるくらいのおっとり系美人だ。ティオとタメを張るほど見事なスタイルを誇っており、体の表面を流れる水滴が実に艶かしい。

 

「れ、レミアさん!?」

「フフフッ、お邪魔でしたか?」

「いえ、別に……」

 

 そんなタダでさえ魅力的なレミアが、いきなり自分の股の間に出てきたのだ。ミュウと愛子のことで頭を悩ます入間と優花は目を丸くした。レミアは、入間の膝に手を掛けて体を支えると、かなり位置的に危ない場所から入間を見上げている。

 しかし、顔のある位置や肉体の放つ色気とは裏腹に、レミアの表情は優しげで、むしろ入間を気遣うような色を宿していた。

 

「有難うございます。入間さん」

「いきなり何ですか?礼を言われるようなことは……」

 

 いきなりお礼を述べたレミアに入間が訝しそうな表情をする。

 

「うふふ、娘のためにこんなにも悩んで下さるのですもの……母親としてはお礼の一つも言いたくなります」

「それは……バレてましたか。一応、隠していたつもりなんてますが」

「あらあら、知らない人はいませんよ?ユエさん達もそれぞれ考えて下さっているようですし……ミュウは本当に素敵な人達と出会えましたね」

 

 レミアは肩越しに振り返って、ミュウのいたずらで水着を剥ぎ取られたシアが手ブラをしながら必死にミュウを追いかけている姿をみつつ、笑みをこぼす。そして、再度、入間に視線を転じると、今度は少し真面目な表情で口を開いた。

 

「入間さん。もう十分です。皆さんは、十分過ぎるほどして下さいました。ですから、どうか悩まずに、貴方の助けを待つ人のためにお進み下さい」

「レミアさん……」

「皆さんと出会って、あの子は大きく成長しました。甘えてばかりだったのに、自分より他の誰かを気遣えるようになった……あの子も分かっています。入間さん達が行かなければならないことを……まだまだ幼いですからついつい甘えてしまいますけれど……それでも、一度も『行かないで』とは口にしていないでしょう?あの子も、これ以上、入間さん達を引き止めていてはいけないと分かっているのです。だから……」

「……そうか。……幼子に気遣われるなんて、世話ないですね……わかった。今晩、はっきり告げることにします。明日、出発するって」

 

 ミュウの無言の訴えが、行って欲しくないけれど、それを言って入間達を困らせたくないという気遣いの表れだったと気付かされ、片手で目元を覆って天を仰いだ入間は、お別れを告げる決意をする。そんな入間に、レミアは再び優しげな眼差しを向けた。

 

「では、今晩はご馳走にしましょう。入間さん達のお別れ会ですからね」

「そうですね……期待してるよ」

「うふふ、はい、期待していて下さいね、あ・な・た♡」

「ちょっ、レミアさん!その呼び方は止めてください!鈴木は未成年なんですよ!!」

「何で君が過剰に反応してるの?」

 

 どこかイタズラっぽい笑みを浮かべるレミアに優花が焦燥感を浮かべた表情で声を荒くげると、ブリザードのような冷たさを含んだ声音により、入間のツッコミが遮られた。

 

「……レミア……いい度胸」

「レミア、貴様いつの間に……油断も隙もない…!」

「ほへぇ~、レミアさん大胆だね~。イルくんじゃなきゃ鼻血噴射してるよ」

「ふむ、見る角度によっては、ご主人様にご奉仕しているようにも……露出プレイ……イィ!」

「あの、ミュウちゃん?お姉ちゃんの水着、そろそろ返してくれませんか?さっきから人目が……」

「はぁ、アホクララ。替えの水着を出してやらんか」

「ほいきた!」

 

 いつの間にか入間のもとに戻ってきていたユエ達が、半眼でレミアを睨んでいた。まさか本当に入間を再婚相手として狙っているんじゃあるまいな?と警戒しているようだ。ここ数日、よく見られる光景である。変態はスルーだ。四歳の女の子に水着を取られて半泣きで、目を閉じた従者の指示でクララに替えの水着を渡してもらったウサミミもスルーだ。

 一方、睨まれている方のレミアはというと、「あらあら、うふふ」と微笑むばかりで特に引いた様子は見られない。そのゆるふわな笑みが、レミアの本心を隠してしまうので、入間に対する時折見せるアプローチが本気なのか冗談なのか区別が付きにくい。これが、未亡人の貫禄だとでもいうのか……

 

 当の入間はというと、桟橋に上がって四つん這い状態でレミアを睨んでいるユエの水着姿に目を奪われていた。連日見ているのだが、もはや無意識レベルで視線が吸い寄せられている。

 黒のビキニタイプだ。紐で結ぶタイプなので結構際どい。ユエの肌の白さと相まってコントラストがとても美しい。珍しく髪をツインテールにしており、それが普段より幼さを感じさせるのに、水着は大人っぽさを感じさせるというギャップが、入間としては堪らなかった。

 

 レミアとバチバチ火花を飛ばしていたユエは、入間の視線に気が付くと、どうやら自分に心奪われているということを察したようで「……ふふ」と機嫌良さそうに笑みをこぼし、そのまま四つん這いで入間に迫る。

 しかし、何時までも独走を許してなるものかと、反対側からアメリが入間の腕を取った。恥ずかしいのか耳まで赤く染めながらも赤のビキニから覗く豊満な胸の谷間に入間の腕をムニュ♡と押し付けた。

 更に、背後からはシアとミレディが、大小それぞれの双丘をの背中に押し付けながらもたれかかった。

 ちなみに、ティオも中々魅力的な水着姿を披露していたのだが、自分の妄想でハァハァし始めて大変気持ちが悪かったので、入間は、持っていたガッチャードウォッチを指弾して強制的に頭を冷やさせたので、現在は土左衛門になっている。

 

 そんな、美女・美少女に囲まれた入間のもとへ、ミュウが海中から浮かび上がってきた。レミアと入間の間に割り込むように現れたミュウは、そのまま正面から入間に飛びつく。咄嗟に抱きとめた入間に、ミュウは「戦利品とったどー!」とばかりにシアの水着を掲げ、それをパサッと入間の頭に乗せた。どうやら、娘からの贈り物らしい。

 

「ミ、ミュウちゃん!?なぜ、こんな事を……はっ!?まさか……入間さんに頼まれて?も、もうっ!入間さんたら、私の水着が気になるなら、そう言ってくれれば……クララさんがくれた分も……」

「……入間、私のもあげる」

「なっ!?そ、そそそそそれなら、わ、私だって!!」

「ふっふーん♪イルくんはそんな性癖があったんだね~。それなら、ミレディたんのもあげるよ」

「あらあら、じゃあ、私も……上と下どちらがいいですか?それとも両方?」

 

 頭に女物の水着を乗せ、五方面から女に水着を献上される男、鈴木入間。

 

 ポタポタとシアの水着から滴る水が、頬を引きつらせる入間の表情と相まって何ともシュールだった。その光景を目撃した男連中は血の涙を滴らせる。

 そして、その日を境に何処からともなく噂が広まった。

 曰く「青い髪と瞳の少年に気をつけろ。やつの好物は脱ぎたての水着。頭から被る事に至上の喜びを見出す変態だ」と。

 そして、噂をした海人族は、そろって謎の大爆発を起こし、全治一年の重傷を負ったとか……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の晩、夕食前に入間達はミュウにお別れを告げた。それを聞いたミュウは、着ているワンピースの裾を両手でギュッと握り締め、懸命に泣くのを堪えていた。しばらく沈黙が続く中、それを破ったのはミュウだった。

 

「……もうパパにもお姉ちゃんにも、会えないの?」

「……」

 

 答えに窮する質問だ。入間の目的は、この世界に蔓延る諸悪の根元を倒してもの世界に帰ること。しかし、その具体的な方法はまだ分かっておらず、どのような形でどのタイミングで帰ることになるのか分からない。

 ミレディ・ライセンは望みを叶えたければ全ての神代魔法を集めろといった。もしかしたら、そのタイミングで直ぐに帰ることになってしまうかもしれないのだ。旅の終わりまでエリセンに来ることはないだろうから、あるいは、これが今生の別れとなる可能性は否定しきれない。安易なことは言えなかった。

 

「……パパは、ずっとミュウのパパでいてくれる?」

 

 どう答えるべきかと悩む入間に、ミュウは、その答えを聞く前に言葉を重ねた。入間は、ミュウの両肩をしっかり掴むと真っ直ぐ視線を合わせた。

 

「……ミュウがそれを望むなら、ずっと君の家族でいるよ」

 

 そう答えると、ミュウは、涙を堪えて食いしばっていた口元を緩めてニッと笑みを作る。

 その表情にハッとしたのはユエ達だ。それは、どこか困難に戦いを挑む時の入間の表情に似ていて、一瞬、本当の親子のように見えたのだ。

 

「なら、いってらっしゃいするの。それで、今度は、ミュウがパパを迎えに行くの」

「迎えに……ミュウ。僕達は凄く遠いところに行くつもりなんだ。だから……」

「でも、パパが行けるなら、ミュウも行けるの。だって……ミュウはパパの娘だから」

 

 入間の娘たる自分が、出来ないことなどない。自信有りげに胸を張り、入間が会いに来られないなら、自分から会いに行くと宣言するミュウ。

 もちろん、ミュウは、入間が世界を越えて自分の故郷に帰ろうとしていることを正確に理解しているわけではない。まして、ミュウが迷宮を攻略して全ての神代魔法を手に入れ、世界を超えてくるなど有り得ない。

 それ故に、それは幼子の拙い発想から出た実現不可能な目標だ。

 だが、一体誰が、その力強い宣言を笑えるというのだろう。一体誰が、彼女の意志を馬鹿馬鹿しいと切り捨てられるのだろう。出来はしない。してはならない。レミアの言ったミュウが成長したという言葉の意味がよくわかった。ミュウは、短い時間ではあったが、それでもしっかりと、入間達の背を見て成長してきたのだ。そんな愛しい娘を今更手放せるのか。手放していいのか。いや、そんな事できるわけがない。していいわけがないのだ。

 だからこそ、入間は決断した。今、ここでもう一つ誓いを立てようと。

 

「ミュウ、待っててくれないかな?」

「パパ?」

 

 入間の雰囲気が変化したのを感じ取ったのかミュウが不思議そうな顔をして首を傾げる。先程までの、どこか悩んだ表情は一切なく、いつもの力強い真っ直ぐな眼差しがミュウの瞳を射貫いた。ミュウがずっと見てきた瞳だ。

 

「全部終わらせたら。必ず、ミュウのところに戻ってくる。みんな連れて、ミュウに会いに来る」

「……ホント?」

「うん、本当だよ。約束の証として……これ」

 

 そう言いながら、入間は片耳に着けていた羽の耳飾りを取り外すと、ミュウの紅葉のような小さな手にしっかりと握らせる。これは、入間が敬愛する師からの贈り物であり、初めてミュウとであった時、保安局に預けられそうになるのを拒んだミュウが、肩車をしていた入間から奪い取り、フリートホーフに連れ去られた時に、ミュウが小さな心の拠り所としていたものだ。

 

「これ、パパの……」

「これは、僕にとってすごく大切なものなんだ。これがある限り、僕は絶対にミュウのもとに帰ってくる」

「……!」

 

 入間は、耳飾りをまじまじと見つめているミュウの髪を優しく撫でる。

 その光景を見ていたユエ達は、誰一人として入間の言葉に反論などしなかった。実はクラス一涙脆いと評判の優花は既に涙ぐんで二人の様子を見つめている。

 

「戻ってきたら、今度は、ミュウも連れて行くよ。それで、僕の故郷、僕の住んでるところを見せてあげるよ。きっと、びっくりするよ。僕の故郷はびっくり箱みたいな場所だから」

「!パパの住んでるところ? みたいの!」

「楽しみかい?」

「すっごく!」

 

 ピョンピョンと飛び跳ねながら喜びを表現するミュウ。そんなミュウに、入間は優しげに目を細める。入間とまた会えるという事に不安を吹き飛ばされ満面の笑みを浮かべるミュウは、飛び跳ねる勢いそのままに、入間に飛びついた。しっかり抱きとめた入間は、そのままミュウを抱っこする。

 

「なら、いい子でママと待ってるんだよ?危ないことはしないように。ママの言うことをよく聞いて、お手伝いを頑張るんだよ?」

「はいなの!」

 

 入間は、そんな二人のやり取りを微笑みながら見つめていたレミアに視線で謝罪する。「勝手に決めてすみません」と。

 それに対し、レミアはゆっくり首を振ると、しっかり入間と視線を合わせて頷いた。「気にしないで下さい」と。その暖かな眼差しには、責めるような色は微塵もなく、むしろ感謝の念が含まれていた。

 そんなパパとママのアイコンタクトに気がついたのか、ミュウが入間とレミアを交互に見つつ、入間の服をクイクイと引っ張る。

 

「パパ、ママも?ママも一緒?」

「え~っと、それは……レミアさん?」

「はい、何ですか、あなた?もちろん、私だけ仲間はずれなんて言いませんよね?」

「いや、それはそうなんですが……冗談抜きでこことは“別世界”ですよ?」

「あらあら。娘と旦那様が行く場所に、付いていかないわけないじゃないですか。うふふ」

 

 娘を抱っこする入間と、それに寄り添うレミアの図。普通に夫婦だった。アメリ達が、「させるかぁー!」と言わんばかりに割り込み喧騒が広がる。最初のしんみりした空気は何処に行ったのか。アメリ達とレミアが笑顔の戦争を繰り広げていると、いつの間にか蚊帳の外に置かれた入間に、ユエがトコトコと歩み寄った。

 

「……連れて行くの?」

「反対か?」

 

 ユエの質問に、入間がそう返すと、ユエは首を振り、どこか優しげな眼差しで入間を見つめ返した。

 

「それに、世界を越える手段なんていくらでもある。この先、何があったとしても、僕達なら大丈夫…でしょ?」

「……ん。なんの問題もない」

 

 『ディメンション』のゼインカードを見せながら言う入間に、ユエは一応聞いてみただけで、答えはわかっているとでも言うように口元が緩んでいた。

 互いに分かりあった笑みを浮かべ、間近で見つめ合う入間とユエ。ユエは、入間が誓いを立てるほど、何かを大切に出来たのだと感じ嬉しく思った。入間もまた、そんな自分を理解して、微笑んでくれるユエに愛しさがこみ上げる。メルジーネ海底遺跡攻略後に入間とユエが習得したコンビネーション能力“何処でも桃色空間”が発動する。

 

 自分達の喧騒を放置して二人っきりの世界を作っている入間とユエに、もはや呆れた表情をするアメリ達。しかし、娘たるミュウに、そんな能力は通用しないらしく、堂々と間に割って入ると、入間パパに再度抱っこを要求した。再会の約束をしたとはいえ、しばらくのお別れであることに変わりはない。最後の夜は精一杯甘えることにしたようだ。

 

 

 

 

 

 

 その翌日、入間達はミュウとレミアに見送られ、海上の町エリセンを旅立った。

 空中に線路を作り海上を突き進むデンライナーを、ミュウとレミアはその後ろ姿が見えなくなるまで眺め、手を振り続ける。

 

 先頭車両で、デンバードに乗ってデンライナーを進める入間は、デンバードの隣に立っているユエに、ハンドルを握る手に手を重ねられると、目に熱いものが込み上げてくる。

 デンバードの車体に、ポタポタと水滴が滴る。

 

「はぁ~~……最後の最後で、みっともないなぁ……」

「……そんな事ない。入間もミュウも」

 

 藍色の瞳から涙を溢す最愛の人を、デンバードに股がったユエは後ろから優しく抱き締めた。

 

 

 

 

 

 

 




・スキ魔『夜の出来事』

入間「ユエ……何してるの?」

ユエ「…フフッ、せっかく二人きりになれたし、“夜の運動”……シよ♡」

入間「いや、やらないから!ここ人の家だよ!?」

ユエ「……愛があれば関係ない」

入間「関係大有りだから!僕は別の部屋で寝r」

ユエ「逃がさない!!」

入間「ッ!“睡眠(スイーピー)”!!」

ユエ「………zzZ」

入間「……はぁ、ユエって少し強引なところあるよね」

 ベッドの上で、魔術によって眠らされたユエに呆れながらも、入間はユエを抱き締めながら就寝に着いたのだった。

-完-



感想、評価お待ちしております。

本作でのリリアーナをどうするべきか、ご意見をお聞かせください。

  • 入間くんのヒロイン入り
  • 生存
  • BADEND(死亡)
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