悪魔の孫は時の王者となって世界最強   作:MTHR

75 / 131
 最近ハマっているの特撮ヒーローはウルトラマンゼロ。コスモライズ、カッコいいんですよね~。

 今回投稿するのは幻の冒険と奇蹟の邂逅編です。サブタイトルの元ネタは海賊戦隊ゴーカイジャー35話の「次元ノムコウ」からです。
 本編とランダムに投稿していきます。
 時系列はpixivに投稿しているコラボ回の後です。

https://www.pixiv.net/novel/series/16243222


ANOTHER TIME 海の伝説と豪快な出会い
EP01 大海ノムコウ


 ゆるりと肌を撫でる潮風と、優しいさざ波の音。

 時間すら遠慮して、そろりそろりと歩みを遅くしているような平穏の中、辛気臭いため息を溢すものが一人。入間だ。

 【メルジーネ海底遺跡】を攻略し、とある世界で不可思議な騒動に巻き込まれてから今日で四日目。世話になっているミュウ&レミア邸の海に面したウッドデッキで、悩ましげに唸っている。

 その手に持っているのは、海東から取り返したガッチャードライドウォッチ。床には同じく取り返したディケイドコンプリート21ライドウォッチの他に多種多様なライドウォッチが置かれており、片手に持ったタオルで丁寧にそれを拭いている。

 大切なライドウォッチが返ってきたことに、入間が不機嫌になるはずはない。しかし、入間の周りを取り巻く状況はあまりよくない。なにせ、今ハイリヒ王国では、この世界で数少ない入間が評価している人間である愛子が神山に囚われているのだ。敵の狙いは恐らく自分。殺されている可能性は低いだろうが、あまりのんびりしていられないのだが……

 

「パパぁ~、お昼ごはんなの~!!」

 

 ざばぁっと海中からトビウオのように飛び上がってきたのは、等の悩みの種たる海人族の幼女。入間と父娘の縁を結んだミュウだった。

 波飛沫を侍らせたまま、なんの遠慮もなく入間の胸元へと飛び込んでくる。それをしっかり抱き留めてやれば、そのままぐりぐりと顔まで押し付けてくる。必然、

 

「ミュウ、僕の服濡れちゃうんだけど?」

「ごめんなさいなの~」

 

 叱る方も、叱られてる方も、表情がゆるんゆるん。全くもって甘えん坊な娘と、娘にだだ甘で親バカなパパである。

 

「ユエ達はどうしたの?」

「先に行ってるの。ミュウはパパを呼びに来る任務を受けました!」

 

 キリッとした顔で、ちょっと得意気に鼻をぴすぴすと鳴らすミュウに、基本的に図太い入間が、

 

「そうなんだぁ、ありがとう。ミュウはえらいなぁ」

 

 デレる。これでもかとデレる。侮蔑するような対応をされている光輝達がこの光景を見たのなら、微笑ましいどころか悪夢にうなされそうな慈しみに満ちた表情である。

 そして、大好きなパパに褒められたミュウと「うふふ~」と、レミアママによく似た笑みをほわんほわんっと漂わせた。

 放っておけば、いつまでもほんわりほわほわと和んでいそうな様子。が、ミュウはできる子だった。ともすればまどろんでしまいそうな心地よい空気からハッと我に返ると、キレのある動きで立ち上がりパパの手を引く。

 

「パパ、はやく!ごはんが冷めちゃうの!」

「分かったよ。……抱っこしようか?」

「……に、任務中なので!」

 

 誘惑に駆られ、しかし、振り切るミュウ。なんて立派!入間パパの笑みがふか~くなる。と同時に、先程のため息の理由が、またも胸の中に広がり、小さな紅葉のような手に引かれながら、眉を八の字にせずにはいられないのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 賑やかな昼食の一時。

 料理をやたらと串焼きスタイルにしたがるミュウは、割と口元を汚す。ミュウの特等席はレミアと入間の間なので、必然、レミアが「あらあら」と困った表情で、入間は「しょうがないなぁ~」と苦笑いを浮かべて、交互に拭ってやることに。

 実に微笑ましい三人家族の日常──みたいな光景だ。なので、

 

「ぐぐぐぐ……あんの……浮気者めぇ……っ!!」

「むぅ。旅の間は、ほとんど私がレミアさんのポジションでしたのに」

「ミレディさんはどうしたらいいのかなぁ~。レミアに少し立場を分からせた方が良いのかなぁ~」

「……ばぁ~か、鈴木のばぁ~か」

「むむぅ~!ミュウずる~い!私もイルマちと一緒が良い!!」

「止めんかアホクララ!」

 

 アメリはワナワナと拳を震わせ、シアとミレディはむむむっと唸り、優花はツンと唇を尖らせている。アスモデウスは自身も参加しようとしたクララの首根っこをつかんで抑え、ティオはそんな四人の様子に楽しげにカラカラと笑い、

 

「子供欲しい子供欲しい子供欲しいイルマの赤ちゃん欲しい子供欲しい子供欲しい子供欲しい子供欲しい子供欲しい子供欲しい子供欲しい子供欲しい子供欲しい子供欲しい子供欲しい子供欲しい子供欲しい子供欲しい子供欲しい子供欲しい子供欲しい子供欲しい子供欲しい子供欲しい子供欲しい子供欲しい子供欲しい子供欲しい子供欲しい子供欲しい子供欲しい子供欲しい子供欲しい子供欲しい子供欲しい子供欲しい子供欲しい子供欲しい──」

「い、入間さん!?ユエさんが虚ろな眼で子供欲しいと呟きまくってますよぉっ!?」

 

 ユエの願望が、決壊したダムの如く溢れ出る。

 シアが思わず席から立ち上がり、入間の背筋に冷たいものが走る。

 

「あらあら……そう言えば皆さん。今日の冒険はどうでした?」

 

 流石は一児の母というべきか。あらあらうふふっと、おっとりとした笑顔でレミアママさんが話題をそらした。

 

「みゅう~、なんにもなかったの」

 

 ワイルドに串の魚肉を食い千切ったミュウは、いかにもがっかりした様子を見せる。

 連日、ミュウ率いるユエ達冒険者パーティーは、エリセン近郊で冒険者ゴッコをしているのだが、今日も今日とて成果はなかったらしい。

 

「……ん。“エリセン建設時の隠し資金”は見つからなかった」

「小さな洞窟は、いくつも見つけたんじゃがなぁ」

「海底洞窟や、鍾乳洞は幻想的で良かったのだがな」

「これで“エリセン七大伝説”ら六つ目まで空振りですね~」

 

 “エリセン七大伝説”とは、所謂、地方の都市伝説だ。今回の隠し資金の他、海の亡霊や濃霧の中のゴーストシップ、海賊王の遺産や海底都市、幸福をもたらす人面魚等々。

 あくまでも伝説。本職でも何も見つけていないのだから、空振りは当然。なのだが、冒険者ミュウは、いたくご不満の様子だ。

 

「そう気を落とさないで。まだ一つ残ってるでしょ?」

「みゅ。“輝く海の意思”が残ってるの」

 

 いつ、誰が言い始めたのか。どこから伝わったのか不明の、最も古く、最も内容が判然としない海の伝説──“輝く海の意思”。

 光の海が、現れるのだという。時間も場所も決まっていない。水平線の彼方まで光に溢れ、そこには“何か”がいて、そして、それに遭遇した者の願いは叶うのだという。

 

「午前中は一緒に行けなかったけど、午後は大丈夫だよ。改造した“鬼の戦艦”も試してみたいし、()()の冒険は思いきって、夜の海に泊まりがけで行ってみるのはどう?」

「……みゅ!お泊まりで冒険!行きたいの!」

 

 一瞬、何かを我慢するみたいに眉をきゅっと寄せつつも、すぐに満面の笑みを浮かべて賛同するミュウ。レミアが、愛しそうに目を細めて娘の頭を撫でる。

 

「良ければ、レミアもどう?」

「是非お願いします。うふふ、家族旅行ですね、あ・な・た?」

 

 本気か否か分からないうふふスマイルなレミアに、ユエとアメリの目が細まる。

 入間は呆れつつも、なんだかんだ楽しそうなユエ達の様子に口元を綻ばせて、午後からの冒険の腹ごしらえに精を出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その夜。

 どよりと黒い雲が、無数に千切られた綿菓子のように浮かぶ夜空の下、緩やかに海を進む影があった。

 入間の持つ巨大な戦艦、“鬼の戦艦”だ。タイムマシンとしての機能だけでなく、戦艦としても非常に高性能のため波の影響を全く受けず、甲板の上でBBQする入間達は実に快適な航海を続けていた。

 

「雨は大丈夫そうだけど、満天の星とはいかなかったね……」

 

 入間が空を見上げながら少し残念そうに言う。

 

「……ん~、吹き飛ばす?」

「物騒な提案ありがとね」

 

 雲が邪魔なら纏めて吹き飛ばせば良いじゃない。というなんとも恐ろしいユエの提案に全員苦笑い。

 

「それに、天気は気紛れだから風情があるしね。まぁ、これで空を飛ぶって言う方法もあるけど」

「町の人達みたいにお空を飛ぶの!?」

 

 注:エリセンの住民はお空を飛びません。

 

「イルマ様に無礼を働いたあの愚か者共のことか」

「綺麗な彷彿線を描いておったのぅ」

「イルくん、以外と運動神経いいよね~」

 

 アスモデウスが吐き捨て、ティオがしみじみと思い出すと、ミレディがクックッと笑う。

 出発の際、家族旅行だとはしゃぐミュウに、微笑ましそうに次々と声をかける町の人達を。ミュウのお友達や、レミアのママ友達を。

 そして、嫉妬に狂って出発を阻止しようと襲い掛かってきた男共を。全員、密かにレミアの再婚相手を狙っていたハイエナ達である。

 結果は当然。入間のジャコーダにより纏めて縛られ、ハンマー投げ方式で海の彼方へ。

 

「町の人達ね、レミーさんとミュウが大好きなんだ~」

「入間さんへの嫉妬の念が渦巻いてますもんねぇ。レミアさん、私と同じ亜人族ですのに、人間族の殿方からモテモテですし」

「……ん。レミアは魔性の女」

「あ、あの、ユエさん? その言葉は少し語弊が……お仕事柄、いろいろな人と接する機会が多いだけで……」

 

 珍しく、ユエのジト目に物凄く困った表情になるレミア。

 ちなみに、レミアのお仕事は王国から派遣された町長達人間族側の役人達と、海人族側との調整等を行うことだったりする。そういう部署のメンバーの一人で、言わば平社員、否、もっと言えばパートくらいの立場なのだが……。

 レミア必殺(?)の、おっとりふわふわな雰囲気と、どんなささくれだった状況でも毒気を霧散霧消させてしまう穏やかな言動は、つい差別的になりやすい人間族側と、不満を溜め込みやすい海人族側において、ある種、最高の緩衝材かつ癒やしとなっている。

 仕事に関係なく、家族内紛争(夫婦喧嘩)の仲裁にまで呼ばれてしまうくらい、レミアはエリセン住民から信頼と親愛を向けられているのだ。

 

「確か、“一家に一人レミアちゃん”、だったね」

 

 エリセンの方々、欲しいらしい。そんな標語が生まれるほど。レミアがいれば一生穏やかに生きていけそう……と。

 

「い、入間さん。それは、その、恥ずかしいので言わないでください……」

 

 頬を染めつつも心底困った表情になるレミア。

 

「パパ、パパ。あと、“鉄壁のレミアちゃん”もあるの!」

「そういう貴様こそ“鉄壁のミュウちゃん”で、二人合わせて“鉄壁母娘”ではないか」

 

 別に、某服屋の怪物のように鋼鉄の肉体を誇っているわけではない。

 レミアは、誰にどんなアプローチをされようときっぱり解釈の余地のないお断りをするが故に。ミュウは、外堀を埋めようと「さぁ! パパと呼んでごらん!」と迫る者達に笑顔で「絶対にイヤ!」と完璧速攻の拒絶をするが故に。

 だからこそ、そのミュウが「パパ」と呼び、冗談(おそらく)でも「あなた」などと言っちゃうレミアを見て、嫉妬に駆られたエリセン男子達が暴走したわけであるが……。

 

「レミア。お前、本当にイルマのこと狙ってるのではないのだろう?」

 

 アメリが恐る恐る尋ねる。ユエ達が注目する。レミアはちらりとミュウを見て、

 

「うふふ」

 

 と、おっとり笑顔。

 

「その“うふふ”はどういう意味だ!!?」

「……レミア、良い度胸。海の藻屑(もくず)にしてあげる」

 

 ジト目のアメリとユエに両サイドから迫られるレミアが、やっぱりあらあらうふふと二人の追及を受け止める。

 そんなこんなで、食事兼探索はなんとも和やかに進んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから数時間。

 そろそろ深夜に差しかかる頃合い。途中で幾度か転移もしたことから、場所は既に一応の目標地点たる【メルジーネ海底遺跡】を通り過ぎて、更に北西へ百キロは進んだ大海原のど真ん中だ。甲板で適当にくつろぎながら周囲を探索するが……。

 不可思議な現象は、特になし。

 そうすれば、満腹感とゆりかごのような心地よい揺れ、ゆるりと吹く涼風、そして穏やかな時間に、ミュウの目蓋が自然と重くなる。

 

「ミュウ。そろそろ──」

「やっ、なの」

 

 最後の伝説を見つけるのだと意気込み、必死に眠気を払ってきたが、幼い体は「はよベッドに行け」と強く催促を繰り返す。どう見ても限界の模様。入間が困った表情でレミアを見た。レミアもまた、困った表情で娘の頭を撫でる。

 

「ミュウ?」

「やっ」

 

 どうしても嫌なようだ。意地でも眠らん!という気迫を感じる。

 

「……ん~、ミュウ。ユエお姉ちゃんは眠い。一緒に寝よ?」

 

 ユエ様のナイスフォロー。ただでさえ普段から眠たげな目をしているものだから、眠そうな演技もプロの女優並みだ。しかし、

 

「ここはミュウに任せて、先にベッドへ行け!なの」

「……入間」

「ごめん」

 

 パパに教えてもらった言葉を、寝ぼけた頭でも速攻で有効活用する点は凄まじい。が、ユエのジト目が突き刺さってくる以上、入間的に称賛するわけにもいかない。

 

「ミュウ。代わりに起きてるから寝よう。何かあったら直ぐに起こすから」

「それじゃあダメなの」

 

 妥協案もあえなく撃墜。伝説発見への意気込みにしては、少々頑なに過ぎる気がしないでもないミュウの様子に、入間達は困惑する。

 

「何がダメなの?」

「……眠ったら、朝が来ちゃうの」

「……」

「最後の冒険、直ぐに終っちゃうの」

 

 甲板の上で膝を抱えて、月明かりだけの暗い海をじっと見つめ続けるミュウの横顔は、気が付けば、冒険のわくわくではなく、何かを繋ぎ止めようとする必死さが浮かんでいるようだった。

 最後の冒険──それは、単に“最後の伝説”という意味だけでなく、ミュウにとってはもっと別の意味を含んでいるようだ。

 それを察せない程、入間は鈍感ではない。なぜならそれは、入間が連日頭を悩ませていることと同じなのだから。

 

 甲板でくつろいでいるように見えて、実のところ、ミュウは常に入間の傍らに張り付いている。入間がどこに座ろうと、ちょっと船内に物を取りに行く時でも、ぴったりと。まるでカルガモの雛のように。それが何より雄弁に、ミュウの心情をあらわしていた。

 

「ミュウ……」

 

 入間はミュウの柔らかなエメラルドグリーンの髪を優しく撫でた。そして、いっそここでその言葉を──“お別れの言葉”を言うべきか、と逡巡する。

 少しでも想い出を、あるいは入間達自身の別れを惜しむ気持ちから出発を先延ばしにしてきたが、それが逆にミュウを追い詰めることになるのではと、そう思って。

 何より、最後の想い出を憂いたまま終わらせるなどあんまりだ。ちらりとレミアを見れば、視線に気が付いた彼女は微笑を返してきた。「お任せします」ということか。

 ユエ達もミュウを見つめて思い悩んでいる様子。彼女達もまた入間と同じく、どのタイミングで、どんな言葉でお別れを告げるべきか、連日悩んでいたのだろう。

 

「ミュウ」

 

 ミュウは、ビクッと震えた。声音から何か察したのか。恐る恐るといった様子で入間を見上げる。同時に、拒否するみたいに瞳を潤ませ始めた。本当に聡い子だと思う。

 入間はミュウを抱っこして膝の上に乗せ、遥か海へ視線を向けた。

 

「綺麗だよね」

「みゅ?」

「ほら、月明かりが反射して、雲も海もキラキラだ」

「……綺麗なの」

 

 中天に昇った月が、少しまばらになった雲を幻想的に照らし、あるいは雲の隙間から月光の梯子を降ろして大海原を彩っている。

 

「こんな綺麗な海、見たことがない」

「そうなの?」

 

 意外そうな表情で入間を見上げるミュウ。

 海で産まれ、海で育ったミュウからすれば見慣れた光景なのかもしれないが、地球でも魔界でも、それこそ海に関する仕事に従事している人でもない限り、ただの高校生では滅多にお目にかかれないのは確かだ。

 

「ミュウのおかげだよ」

「ミュウの?」

「うん。ミュウが冒険に誘ってくれたから、こんな綺麗な光景を見ることができたんだ」

「……えへへ」

 

 もじもじと、ミュウが照れている。だが、

 

「約束するよ。僕は一生、今日の冒険を忘れない」

「……」

 

 再び、ミュウの表情は硬くなった。嬉しい言葉のはずなのに、ミュウの聡明さが、言葉に含まれた意味を察してしまうが故に。

 ミュウの言葉を、入間は少し待った。「行かないで」あるいは「連れていって」というミュウの気持ちを、しっかり受け止めてやりたくて。受け止めた上で、言葉を返してやりたくて。

 しかし、ミュウは何も言わなかった。ただ、ぎゅっと口元を引き結んで、目元に溜まった涙すら流さずに堪えている。

 静かな、胸が締め付けられるような切ない時間が流れた。

 入間は大きく息を吐いた。己の気持ちを整えるように。

 そして、その言葉を口に──しようとした、その瞬間。

 

「──ッ!?なんだ!?」

 

 ぞくりっと総毛立つような強大な気配に、全員が一瞬硬直する。

 

「入間さん!空が!」

 

 シアの声に視線を上げれば、空が急速に閉じていく光景が。否、そう錯覚するほどに、急速に雲が溢れ出したのだ。月が呑み込まれるようにして消えていく。

 

「ミュウ、レミア。僕達の傍から離れるないで」

 

 ミュウとレミアが不安に瞳を揺らしつつも、しっかり頷く。

 

「イルマ、霧が凄い勢いで濃くなっていく……これは自然のものじゃないぞ」

「この世界特有の、未だに解明されてないの自然現象、という可能性は捨てきれないけど」

「……入間の勘は?」

「意図的なものだ」

 

 鬼の戦艦が濃霧に囲まれた。甲板上ですら、端と端では互いの姿が確認できないだろう深い霧。まるで【ハルツィィナ樹海】の如く。全員でミュウとレミアを守るように円陣を組む。

 

「伝説のお出ましです?」

「なら嬉しいが、どう見ても輝いているようには見えんな」

「ご主人様よ。見よ。来るぞ」

 

 ティオの硬い声音。真実を見抜かんとするように、瞳孔が縦に割れた黄金の竜眼が右舷側の濃霧を真っ直ぐに見つめている。

 全員がそちらに注目した直後、“それ”は姿を見せた。

 

「なに、あれ?」

 

 濃霧の向こう側を横切っていく巨大な影。シルエットから判断するに体長は30mを超えているだろう。なのに、波音一つ立たない。風もない。濃霧さえ乱れず。

 まるで、そこには何もいないみたいに。

 閉ざされた世界はただ静謐で、入間達自身の息づかいだけがいやに響いている。

 

「……クジラ?」

 

 入間が掠れる声で呟いた。静謐であっても、放たれる気配の強大さは確かであり、慄然とせずにはいられないのだ。

 

「……ティオ」

「すまぬな、ご主人様よ。妾の知識にも、これはない」

 

 博識かつ考察力に優れるティオも、僅かに冷や汗を掻きつつ首を振る。

 すると、入間はティオの隣にいたミレディの様子がおかしいことに気付いた。

 

「……」

「ミレディ?どうしたの?」

「ふぇっ?あっ!ゴメン!なんか見覚えがあるようないような……」

「だとすると、神の手の者?いや、それとも数千年前の産物?どちらにしても、情報が無さすぎるね」

「そうだね……うっ!?」

「ミレディ!?」

 

 その時、ミレディが胸を抑えながら膝をついた。入間達が駆けよった時、ミレディの身体からノイズのようなものが走り始めた。

 

「力が……安定しない……!」

「これって……!?」

 

 と、その瞬間、鬼の戦艦が激しく揺れた。

 

「っ、入間さん!?流されてますよ!」

「えっ?これは波に流されるような代物じゃないのに!」

 

 轟ッ!と、遂に静寂が破られた。穏やかだった海が突如牙を剥く。おそろしいほど急速かつ強力な海流が発生。更に、正体不明の“影”に合わせて霧が竜巻の如く渦を巻き始める。

 

「チッ」

「パ、パパ! ダメなの!」

 

 弓矢を生成した入間を、なぜかミュウが抱き付くようにして制止した。

 

「ミュウ!?」

「ごめんなさい! でも、えっと、上手く言えないけど……悪い子じゃないの!」

「悪い子じゃないって……」

 

 正体を知っている様子では、もちろんない。けれど、ミュウはあの“影”から何かを感しじ取っているらしい。傷つけてはダメだと、ミュウの中の何かが強く訴えているようで、その瞳には切実さと、上手く言葉にできないもどかしさがあった。

 そうしている間にも、事態は加速度的に変化していく。

 気が付いた時には濃霧が巨大な渦巻く壁を形成していて、まるで台風の目の中にいるような状況になっていた。ただし直上に空は見えず濃霧の天蓋で覆われていて、海水は巻き上げられるどころか逆に巨大クレーターを彷彿とさせる大渦を発生させている。

 

「海底に引き込む気かのう」

「中心に魔物がいて、これを発生させてる訳ではなさそうだな」

「……変な感覚だけど、海と濃霧全体から魔力を感じる」

「入間さん。一応、死ぬような未来は視えませんでしたよ!」

「ならば問題なし!!」

「あるよ!!」

 

 入間はユエに視線を向けた。言葉などなくとも最愛の意を読み取るなど造作もなく、それが空間転移での脱出を促すものだと理解して、ユエは即座にゲートを創り出す。が、その直後、

 

「パパ!あの子、呼んでるの!パパに助けてって言ってるの!」

「な、なに?」

 

 流石に困惑するも、ミュウが何を感じ取ったのか詳細を聞く暇はなかった。

 

──オオオオオオオオオンッ

 

 “影”が咆哮えた。獣が威嚇するような唸り声ではない。もっと澄んだ、管楽器の奏でる音色のような鳴き声。同時に、入間達の体に光がまとわりつき、意識が一瞬で霞む。

 

「ッ、しまっ──」

 

 焦った声はユエから。創り出したゲートが揺らぎで霧散する。

 

「離れないで!」

 

 脱出の猶予なし。入間の号令に、ミュウとレミアを中心にして全員が抱き合うように固まった直後、鬼の戦艦は一気に海底へと落ちていった。入間達の意識と一緒に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 星々が煌めき、白銀の月が輝きを放つ空に、一つの赤い影が佇んでいた。

 

「……」

 

 腕を組み、静かに夜空に浮かぶ赤い戦士の胸に刻まれた50というエンブレムが、キラリと星の光を反射して煌めいた。




 最後に出てきたのは誰なのか、皆さん分かりますかね?

 感想、評価お待ちしております。

本作でのリリアーナをどうするべきか、ご意見をお聞かせください。

  • 入間くんのヒロイン入り
  • 生存
  • BADEND(死亡)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。