悪魔の孫は時の王者となって世界最強   作:MTHR

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 この作品では明けましておめでとうございます。
 今回から新章が開始されます。この章では、クラスメイトアンチやキャラ崩壊などが激しく起こるので、受け入れられないと言う方はブラウザバッグをしてください。何でも大丈夫と言う方々は、どうぞ広い心でお楽しみください!


第七章 キングダム・ロスト
69話 意外な再開、そして破滅の始まり


 最初に、その騒動に気がついたのはシアだった。

 

「あれ?入間さん、あれって……何か襲われてません?」

 

 デンライナーの車両でユエ達と暇潰しにトランプをしていた入間が目を向ければ、その言葉通りどこかの隊商が襲われている様で、相対する二組の集団が激しい攻防を繰り返していた。近づくにつれ、シアのウサミミには人々の怒号と悲鳴が聞こえ、入間の目にもはっきりと事態の詳細が見て取れた。

 

「相手は賊だね。……小汚ない格好をした男が約40人……対して隊商の護衛は15人程度。あの戦力差で拮抗しているのは凄いね」

「……ん、あの結界は中々」

「ふむ、宛ら城壁の役割じゃな。あれを崩さんと本丸の隊商に接近出来ん。結界越しに魔法を撃たれては、賊もたまらんじゃろう」

「でも、一向に逃げないね?」

「それはそうだろう。この世界のレベルを鑑みれば、あの程度の結界すら碌に維持出来んだろうからな。多少時間は掛かるが、持久戦に持ち込めば状況は一転する」

「あっ、そう言ってる間に結界が消えた」

 

 最初に奇襲でもされたのだろう。重傷を負って蹲る者が数人、既に賊に殺された様で血の海に沈んでいる者も数人いる。ユエ達の言う強固な結界により何とか持ち堪えている様だが、ただでさえ人数差があるのに護衛側は更に数を減らしているのだ。結界が解ければ嬲り殺しにされるだろう。冒険者らしき女性などは、既に裸に剥かれて結界内にいる仲間の冒険者に見せつける様にして晒し者にされていた。

 

 そして入間の推測通り、入間達の会話が途切れた直後に結界は効力を失い溶ける様に虚空へと消えていった。

 待ってましたと言わんばかりに、雄叫びを上げた賊達が隊商へとなだれ込んだ。賊達の頭の中は既に戦利品で一杯なのか、一様に下卑た笑みを浮かべている。護衛隊が必死に応戦するが、多勢に無勢だ。一人また一人と傷つき倒れていく。

 

 と、その時。何か酷く驚いた様な表情で固まっていた優花が、焦燥を滲ませた声音で入間に救援を求めた。

 

「す、鈴木!お願い!あの人達を助けて!!」

「え?なんで?僕らこれから王都に……」

「分かってるけど、もしかしたら、あの中に……」

「……まぁ、いいか」

 

 優花の懇願に、入間は渋々了承した。入間としても、あの光景を見てなんとも思わないわけではないため、愛子の事も気掛かりだが、どうせ時間はかからないだろうと判断したのだ。

 入間は先頭車両に向かいマシンデンバードに股がると、デンライナーの操縦を自動操縦から切り替える。車輪がギャリギャリギャリと地面を噛み、ロケット噴射でもしたかのように凄まじい勢いで加速する。

 

「鈴木……ありがとう」

 

 先頭車両の扉から顔を覗かせた優花は、頼みを聞いてくれた入間に、嬉しそうに微笑んでお礼を述べた。入間はただ肩を竦めるのみ。爆走するデンライナーに入間が何をするのか察したようで、ユエ達は急いで車内の何処かに捕まった。

 

「あ、あの、鈴木?なんでこのまま爆走してるの?まさかと思うけど……」

 

 優花が、刻一刻と速度を上げるデンライナーに頬を引き攣らせる。入間は一言も答えず、黙ってマシンデンバードのボタンを押す。

 

 砂埃を巻き上げて急速に接近して来る謎の超巨大物体に、ようやく気がついた賊のリーダーらしき人物が、慌てて仲間に指示を出しつつ、自らも魔法の詠唱を始めた。彼等からは、きっと新手の魔物か何かに見えていることだろう。まさか、人が操作する鋼鉄の塊とは夢にも思うまい。

 賊達が炎弾をぶっ放してくるが、どうせなんの意味もないので、入間はまるっと無視して問答無用にデンライナーを突撃させた。炎弾が何発直撃しても、何の痛痒も感じさせずに突進してくる黒の塊に、賊達の表情が盛大に歪んだ。

 

ドゴォ! バキッ! グシャ!

 

 戦慄、絶望、困惑――そんな表情を浮かべた賊達が、生々しい音を響かせながら冗談のように跳ね飛ばされていく。

 たった一瞬、それだけの交差で賊の後方集団は全員が絶命するに至った。

 

 入間は賊の後方集団を轢き殺すと、その先でデンライナーを停車させる。いきなりの殺戮劇に、賊も隊商のメンバーも唖然呆然として入間達の乗るデンライナーを凝視していた。中には、鍔迫り合いをしたまま、顔を見合わせている賊と護衛もいる。

 そんな中、デンライナーの先頭車両が開き、デンバードにのった入間が飛び出すと、入間は爆走させたバイクに両足立ちするという危険運転をしながらその手に弓矢を生成すると、それを一斉にうちはなった。

 

「ばちっ、こん!」

 

 その瞬間、弓から飛び出した四本の矢が、漆黒の閃光となって賊の頭を貫き、水風船のように脳髄を撒き散らさせながら絶命させていく。そして入間はそれを何度も行い、一人また一人と、賊の頭部が粉砕され血飛沫が舞っていく光景に、救われているはずの護衛者達の背筋が粟立った。余りに圧倒的、余りに無慈悲。40人以上いた賊達は、たった数秒で半数まで数を減らしてしまった。

 更に、シアとアメリが突撃して賊達をその超人的な身体能力で、クララは自販機をボールのように投げて、ユエとティオとアスモデウスとミレディは魔術を放ちながら賊を蹂躙する。残り十人程になってようやく逃げに入る賊達だったが、そんなことが叶うはずもなく、あっさり撃ち抜かれて絶命していき、一分もかからない内に賊達は全滅した。命乞いをする暇もない。本当に容赦の欠片もない蹂躙劇だった。

 

 優花はそのおぞましい光景に吐き気を催しつつも、冒険者達や隊商の人々の安否を確認し、入間から貰った回復薬を投薬していく。しかし残念ながら、入間達が来る前に倒れていた護衛の冒険者達は、既に事切れていたらしく、いくら入間達でもそう易々と死者蘇生なんて出来ないので、残念ながら助けられなかった。

 

 その時、突如、人影が猛然と優花に駆け寄った。小柄で目深にフードを被っており、一見すると物凄く怪しい。だが、実は先程の結界を張って必死に隊商を守っていたのがその人物であると、魔力の流れと色で既に確認していたので、入間は特に止める事もなく素通りさせた。

 

「優花!無事だったのですね!」

 

 フードの人物は、そのままの勢いで優花に飛び付き、可憐な声で優花の名を呼びながらギュッと抱きついた。優花は、まさかの推測が当たっていたと知り驚愕を隠せない様子で、その人物の名を呟く。

 

「リリィ!やっぱり、リリィだったのね?あの結界、見覚えが有ると思ったの。まさか、こんなところにいるとは思わなかったから、半信半疑だったんだけど……」

 

 優花がリリィと呼んだフードの相手、それはハイリヒ王国王女【リリアーナ・S・B・ハイリヒ】その人だった。

 リリアーナは、心底ホッとした様子で、ずれたフードの奥から煌く金髪碧眼とその美貌を覗かせた。そして、感じ入るように細めた目で優花を見つめながら呟く。

 

「私も、姿を消した優花に会えるとは思いませんでした。それにまさか、バビルの皆様と一緒だったとは……僥倖です。私の運もまだまだ尽きてはいないようですね」

「リリィ?それどういう……」

 

 優花がリリアーナの言葉の意味を計りかねていると、リリアーナは、今更ながらにハッと何かに気がついた様子でフードを目深に被り直した。そして、優花の口元に人差し指を当てて、自分の名前を呼ばせないようにした。

 どうやら、本当にお供も付けず、隊商に紛れ込んでここまでやって来たようだ。一国の王女がそうしなければならない何かがあったのだと察した優花の表情も険しくなった。

 

「園部さん、その人誰ですか?」

 

 優花とリリアーナが真剣な表情で見つめ合っていると、いつの間にか傍までやって来ていた入間がそう声をかけた。

 全く気配がなかったので「ひゃ!」と可愛らしい声を上げて驚くリリアーナ。そして、フードの中から入間を見上げて、しばらく考える素振りを見せると、ピコン!と頭に電球が灯ったような表情をして入間に挨拶を始めた。

 

「……鈴木さん……ですね?お久しぶりです。雫達から貴方の生存は聞いていました。貴方の生き抜く強さに心から敬意を。本当によかった……」

 

 国民から絶大な人気を誇る王女の笑顔。一度それを向けられたなら、老若男女の区別なく陶然とすること間違いないと思わせる可憐なものだ。しかし、それを見た入間は、特に何かを感じた様子もなく、むしろ胡乱な眼差しをリリアーナに向けて空気を読まない言葉を放った。

 

「……っていうか、どちら様ですか?」

「へっ?」

 

 入間がまだ王国にいた頃からリリアーナと優花達は積極的にコミュニケーションをとっていたし、他の生徒に対してもリリアーナは必ず数回は自ら話に行っている。確かに、入間は立場的に微妙だった事と、入間自身が王国と仲良くする気がなかったので、リリアーナと直接話した回数はそれほど多くはないが、それでも、香織に無理矢理付き合わされて談笑したことはあるのだ。

 そして、リリアーナは、王女である事と、その気さくで人当たりのいい性格もあって、一度交流を持った相手から忘れられるという経験は皆無。なので、全く知らない人間を見るような目で見られた事にショックを受けて、思わず王女にあるまじき間抜けな声が出てしまった。

 

 呆然としているリリアーナに代わって、慌てたように優花がフォローを入れる。周囲にリリアーナが王女であるとばれるのは厄介なので、耳に口元を寄せて小声で話す。

 

「す、鈴木!王女!王女様よ!ハイリヒ王国の王女リリアーナよ!アンタも話したことあるでしょ!」

「……………………………………………………………………………………いたっけ?そんな人?」

「何で思い出せないのよ!?」

「ぐすっ、忘れられるって結構心に来るものなのですね、ぐすっ」

「リリィー!泣かないで!コイツはちょっと“アレ”なの!コイツが“特殊”なだけで、リリィを忘れる人なんて“普通”はいないから!だから、ね?泣かないで?」

「いいえ、いいのです、優花。私が少し自惚れていたのです」

 

 涙目になってしまったリリアーナに必死のフォローを入れる優花が地味に酷いことを言う。それにも文句を言いたくなったが、入間はしばらく記憶の海を探るなかでようやくリリアーナのことを思い出し、「あぁ……」と呟きながら、絶対零度の視線を向けた。

 

 そんな微妙な雰囲気の入間達のもとへ、ユエ達と、見覚えのある人物が寄ってくる。

 

「お久しぶりですな、息災……どころか随分とご活躍のようで」

「栄養ドリンクの人……」

「は?何です?栄養ドリンク?確かに、我が商会でも扱っていますが……代名詞になるほど有名では……」

「あ~、いや、何でもありまけせん。確か、モットーさんでしたね?」

「ええ、覚えていて下さって嬉しい限りです。ユンケル商会のモットーです。危ないところを助けて頂くのは、これで二度目ですな。貴方とは何かと縁がある」

 

 握手を求めながらにこやかに笑う男は、かつて、ブルックの町からフューレンまでの護衛を務めた隊商のリーダー、ユンケル商会のモットー・ユンケルだった。

 彼の商魂が暴走した事件は入間もよく覚えている。この世界の商人の性というものをモットーで学んだようなものだ。実際、彼の商魂はいささかの衰えもないようで、握手しながらさりげなく、入間の指にはまった“宝物庫”の指輪を触っている。その全く笑っていない眼が「そろそろ売りませんか?」と言っていると感じるのは、きっと気のせいではないだろう。

 

 背後で、シアがモットーとの関係を説明し、「たった一回会っただけの人は覚えているのに……私は……王女なのに……」とリリアーナが更に落ち込んでいたりする。そんな彼女を優花が必死に慰めているのを尻目に、入間はモットーの話を聞いた。

 それによると、彼等は、ホルアド経由でアンカジ公国に向かうつもりだったようだ。アンカジの窮状は既に商人間にも知れ渡っており、今が稼ぎ時だと、こぞって商人が集まっているらしい。モットーも既に一度商売を終えており、王都で仕入れをして今回が二度目らしい。ホクホク顔を見れば、かなりの儲けを出せたようだ。そして彼は、入間達にホルアドまでの護衛を頼み込んできた。

 しかし、それに待ったを掛けた者がいた。リリアーナだ。

 

「申し訳ありません。商人様。彼等の時間は、私が頂きたいのです。ホルアドまでの同乗を許して頂いたにもかかわらず身勝手とは分かっているのですが……」

「おや、もうホルアドまで行かなくても宜しいので?」

「はい、ここまでで結構です。もちろん、ホルアドまでの料金を支払わせて頂きます」

 

 どうやらリリアーナは、モットーの隊商に便乗してホルアドまで行く予定だったらしい。しかし、途中で入間達に会えたことでその必要がなくなったようだ。

 ハイリヒ王国に向かう予定だったので護衛は断るつもりだったが、何故自分達がリリアーナの為に時間を割かねばならないのだと文句を言おうとした入間だったが、文句を言おうにも優花が「これ以上リリィをいじめないで!」と無言の訴えをしているので、取り敢えず黙っていることにした。

 

「そうですか……いえ、お役に立てたなら何より。お金は結構ですよ」

「えっ?いえ、そういうわけには……」

 

 お金を受け取ることを固辞するモットーに、リリアーナは困惑する。隊商では、寝床や料理まで全面的に世話になっていたのだ。後払いでいくら請求されるのだろうと、少し不安に思っていたくらいなので、モットーの言葉は完全に予想外だった。

 そんなリリアーナに対し、モットーは困ったような笑みを向けた。

 

「二度と、こういう事をなさるとは思いませんが……一応、忠告を。普通、乗合馬車にしろ、同乗にしろ料金は先払いです。それを出発前に請求されないというのは、相手は何か良からぬ事を企んでいるか、または、お金を受け取れない相手という事です。今回は、後者ですな」

「それは、まさか……」

「どのような事情かは存じませんが、貴女様ともあろうお方が、お一人で忍ばなければならない程の重大事なのでしょう。そんな危急の時に、役の一つにも立てないなら、今後は商人どころか、胸を張ってこの国の人間を名乗れますまい」

 

 モットーの口振りから、リリアーナは、彼が最初から自分の正体に気がついていたと悟る。そして、気が付いていながら、敢えて知らないふりをしてリリアーナの力になろうとしてくれていたのだ。

 

「ならば尚更、感謝の印にお受け取り下さい。貴方方のおかげで、私は、王都を出ることが出来たのです」

「ふむ。……突然ですが、商人にとって、もっとも仕入れ難く、同時に喉から手が出るほど欲しいものが何かご存知ですか?」

「え?……いいえ、わかりません」

「それはですな、“信頼”です」

「信頼?」

「ええ、商売は信頼が無くては始まりませんし、続きません。そして、儲かりません。逆にそれさえあれば、大抵の状況は何とかなるものです。さてさて、果たして貴女様にとって、我がユンケル商会は信頼に値するものでしたかな? もしそうだというのなら、既に、これ以上ない報酬を受け取っていることになりますが……」

 

 リリアーナは上手い言い方だと内心で苦笑いした。これでは無理に金銭を渡せば、貴方を信頼していないというのと同義だ。お礼をしたい気持ちと反してしまう。リリアーナは、諦めたように、その場でフードを取ると、真っ直ぐモットーに向き合った。

 

「貴方方は真に信頼に値する商会です。ハイリヒ王国王女リリアーナは、貴方方の厚意と献身を決して忘れません。ありがとう……」

「勿体無いお言葉です」

 

 リリアーナに王女としての言葉を賜ったモットーは、部下共々、その場に傅き深々と頭を垂れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、リリアーナと入間達をその場に残し、モットー達は予定通りホルアドへと続く街道を進んでいった。去り際に、入間達バビルが異端者認定を受けている事を知っている口振りで、何やら王都の雰囲気が悪いと忠告までしてくれたモットーに、入間もアンカジ公国が完全に回復したという情報を提供しておいた。それだけで、入間が異端者認定を受けた理由やら何やらを色々推測したようで、その上で「今後も縁があれば是非ご贔屓に」と言ってのけるモットーは本当に生粋の商人である。

 

 モットー達が去ったあと、バビル一行は、一度はリリアーナを置いてデンライナーで再出発しようとしたが、優花が懇願するものだったので、渋々リリアーナを乗せて話を聞くことになった。尤も、バビルの面々はリリアーナに敬意を払うつもりなど欠片もなく、リリアーナはデンライナーの床で鎖で縛られながら跪かされていた。

 

「で?僕達と明確に敵対する意思を示したハイリヒ王国のお姫様が、何で僕達の前に来たの?」

 

 入間が侮蔑した表情で話し掛ける。

 そもそもとして、リリアーナはハイリヒ王国の王族であり、入間達を異端者認定した正教教会の側の人間だ。つまり、立場は入間達の敵なのだ。それに、これまでハイリヒ王国が自分に何をしてきたのかも理解せず、勝手に自分達の時間を取ることを決めたこともイライラすることこの上ない。 

 しかし様子を見た限り、お供も付けず、隊商に紛れ込んでここまでやって来たようだ。一国の王女がそうしなければならない何かがあったのは、容易に察しがつく。

 

 そして、リリアーナが語った話は、エリセンで優花から聞いたものと似たようなものだった。

 

 最近、王宮内の空気が何処かおかしく、リリアーナはずっと違和感を覚えていたらしい。

 父親であるエリヒド国王は今まで以上に聖教教会に傾倒し、時折、熱に浮かされたように“エヒト様”を崇め、それに感化されたのか宰相や他の重鎮達も巻き込まれるように信仰心を強めていった。

 それだけなら、各地で暗躍している魔人族のことが相次いで報告されている事から、聖教教会との連携を強化する上での副作用のようなものだと、リリアーナは、半ば自分に言い聞かせていたのだが……

 

 違和感はそれだけにとどまらなかった。妙に覇気がない、もっと言えば生気のない騎士や兵士達が増えていったのだ。顔なじみの騎士に具合でも悪いのかと尋ねても、受け答えはきちんとするものの、どこか機械的というか、以前のような快活さが感じられず、まるで病気でも患っているかのようだった。

 普段のリリアーナなら、そのことを騎士の中でもっとも信頼を寄せるメルドに相談しようにも、そもそもメルドはオルスク大迷宮で死亡しているため、相談する以前の問題だった。

 

 そうこうしている内に愛子が王都に帰還し、ウルの町での詳細が報告され、その席にはリリアーナも同席したらしい。そして、バビルの異端者認定が強行採決がなされた。

 有り得ない決議に、当然、リリアーナは父であるエリヒドに猛抗議をしたが、何を言っても入間を神敵とする考えを変える気はないようだった。まるで、強迫観念に囚われているかのように頑なだった。むしろ、抗議するリリアーナに対して、信仰心が足りない等と言い始め、次第に、娘ではなく敵を見るような目で見始めたのだ。

 

 恐ろしくなったリリアーナは、咄嗟に理解した振りをして逃げ出した。そして、王宮の異変について相談するべく、悄然と出て行った愛子を追いかけ自らの懸念を伝えた。すると愛子から、入間が奈落の底で知った神の事や旅の目的を夕食時に生徒達に話すので、リリアーナも同席して欲しいと頼まれたのだそうだ。

 愛子の部屋を辞したリリアーナは、夕刻になり愛子達が食事をとる部屋に向かい、その途中、廊下の曲がり角の向こうから愛子と何者かが言い争うのを耳にした。何事かと壁から覗き見れば、気絶した愛子と銀髪の教会修道服を着た女がコブラの鎧を着た男と共に姿を消し、水色の鎧を纏った戦士が優花を連れて銀色のオーロラの向こうに消えていく光景だった。

 

 リリアーナは、その光景に底知れぬ恐怖を感じ、咄嗟にすぐ近くの客室に入り込むと、王族のみが知る隠し通路に入り込み息を潜めた。

 そしてリリアーナは、銀髪の女か、コブラの鎧の男か、水色の鎧の男が異変の黒幕か、少なくとも黒幕と繋がっていると考え、そのことを誰かに伝えなければと立ち上がった。

 

 ただ、愛子を待ち伏せていた事からすれば、生徒達は見張られていると考えるのが妥当である。悩んだ末、リリアーナは、今、唯一王都にいない人物を思い出した。そう、異端者認定を受けた鈴木入間だ。もはや、頼るべきは彼しかいないと、リリアーナは隠し通路から王都に出て、一路、アンカジ公国を目指したのである。

 アンカジであれば、王都の異変が届かないゼンゲン公の助力を得られるかもしれないし、タイミング的に、入間達と会うことが出来る可能性が高いと踏んだからだ。

 

「あとは知っての通り、ユンケル商会の隊商にお願いして便乗させてもらいました。まさか、最初から気づかれているとは思いもしませんでしたし、その途中で賊の襲撃に遭い、それを鈴木さん達と再会していた優花に助けられるとは夢にも思いませんでしたが……少し前までなら“神のご加護だ”と思うところです。……しかし……私は……今は……教会が怖い……一体、何が起きているのでしょう。……あの銀髪の修道女は……お父様達は……」

 

 自分の体を抱きしめて恐怖に震えるリリアーナは、才媛と言われる王女というより、ただの女の子にしか見えなかった。だが、無理もないことだ。自分の親しい人達が、知らぬうちに変貌し、奪われていくのだから。

 優花は、リリアーナの心に巣食った恐怖を少しでも和らげようと彼女をギュッと抱きしめた。

 

 その様子を見ながら、入間は自分の見積もりが甘かったかとを悟り内心舌打ちする。どうやら、エヒト神は入間の想像よりも下衆で、ハイリヒ王国と正教教会の連中は腐敗した者に溢れていることが分かったからだ。

 そして、リリアーナの言った銀髪の女……入間の脳裏に、【メルジーネ海底遺跡】の豪華客船でチラリと見えたアレイスト王の傍に控えていたフードの人物が浮かび上がった。船内に消える際、僅かに見えたその人物の髪は、確か“銀”だった。時代が違いすぎる為に同一人物かは分からないが、恐らく神の手の者と見て間違いない。

 

「……入間、どうする?」

「勿論、やることは変わらないさ」

 

 ユエの質問に、入間は何でもないように答える。その答えは皆分かりきっていたようで、入間の言葉に、全員が闘志を剥き出しにしていた。

 すると、何故か鎖に縛られたままのリリアーナがパアッと顔を輝かせた。その表情には、共に王都へ来てくれるという事への安堵と、意外だという気持ちがあらわれていた。それは、雫達から、入間は、この世界の事にも無関心で雫達クラスメイトと大きな溝があると聞いていたからだ。説得は難儀しそうだと考えていたのに、あっさり手を貸してくれるとは予想外だった。

 

「王都に来てくれるのですか?」

 

 恐らく、リリアーナは入間が王国のために手を貸してくれると勘違いしているようだ。

 今まで自分達ハイリヒ王国と正教教会が自分達バビルに何をしていたのかを知っているくせに、今更入間達が王国の為に手を貸してくれると勘違いするリリアーナに、バビルの面々は冷めきった目を向け、代表して、入間が冷厳な言葉を口にした。

 

「当然だよ。僕達はそもそも──王国と教会を滅ぼしに行くんだからね」

「ッ!?」

「ちょっ、鈴木!!」

 

 とんでもない言葉に、リリアーナは凍りつき、その目的を知っていた優花は慌て始めるが、入間は意にも介さない。

 

「悪いけど、もうこれは決定事項だよ。今回の異端者認定で、君達ハイリヒ王国と聖教教会は明確に僕達バビルと敵対する姿勢を見せたからね。そっちが世界に僕達を殺してもいいと言ったのなら、逆に僕達が君達を殺してもいいって事だからね」

「それは……!」

 

 リリアーナや愛子、雫が危惧していた事態──入間が、ハイリヒ王国を『敵』と認識してしまっている事に、リリアーナは顔を蒼白にする。これでは、事態の解決どころではない。下手をすれば…いや、確実に王国が滅びる。

 

「お、王国が教会と共に貴方を異端者認定したことはお詫びします!この件が終われば、必ず異端者認定を取り消して、謝礼も必ず渡します!だから……」

「君達ハイリヒ王国がしてきた事って、異端者認定だけじゃないよね?そもそも、君達は教会の人達と一緒に異世界人の僕達を勝手に呼び出して僕達とは無関係の戦争の手駒として巻き込んだ挙げ句、勇者の面子を守るために僕が奈落に落ちたことを僕の自業自得にして国を挙げて嘲笑。異端者認定だって、ウルの町やオルクスの件で君達にとって重要な人物である畑山先生と天之川光輝(アホ)を助けた借りがあるって言うのに、冤罪を掛けられる始末だよ。これだけの事しておいて、僕が今更、王国を守るために手を貸すとでも?自惚れるのもいい加減してよ!」

 

 必死に弁明しようとするリリアーナだったが、入間が王国も教会に受けた被害を指摘され、最早言葉を返すことすら出来ない。バビルのメンバーは、誰もがリリアーナに冷たい目を向けていた。

 優花は、入間が愛子を救うために王都に向かってくれている事や、自分を含めたクラスメイトが入間にしてきた事の後ろめたさ等の理由から、これ以上、入間に何かを言える筈もなく、入間から手渡されたロストドライバーとガイアメモリが納められたアタッシュケースを抱き締めた。

 

 デンライナーは進む。

 王国を守ろうとする王女と、王国を滅ぼそうとする魔王を乗せて。

 

 リリアーナは知らない。

 ハイリヒ王国の滅亡のカウントダウンは既に始まっていたと言うことに。

 

 今、ハイリヒ王国に、“魔人族”、“BADAN”、“バビル”。3つの勢力が、明確な敵意を持って、ハイリヒ王国に集まろうとしていた……。




・オ魔ケ『入間の地球組に対する心象』

愛子……優しさと芯の強さは認めている。好感度は高い。

優花……最初は低評価だったが、ノイントの件で大きく見直した。

愛ちゃん護衛隊……もう別に嫌悪感は抱いていないが誰一人として名前を覚えていない(と言うかろくに会話もしてないのでそもそも知らない)。

雫……幼馴染みに嫌われたくなくて光輝と香織に胡麻をすってるように見えている。殺意までは抱いていない。

鈴、恵里……印象が薄すぎて顔も覚えていない。

光輝……嫌悪の対象でしかない。オルクスでユエ達を戦利品扱いしたことにはまだ若干怒っている。

香織……疫病神。

檜山……クズ。

死亡したクラスメイト……自業自得。

その他クラスメイト……忘却の彼方。

感想、評価お待ちしております。

本作でのリリアーナをどうするべきか、ご意見をお聞かせください。

  • 入間くんのヒロイン入り
  • 生存
  • BADEND(死亡)
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